「瑞希ちゃん、こっちにも来てよ!」
入社五年目の安藤が、酔った勢いで声をかける。
瑞希はチラリと眼をやるが、応えない。
「ちぇっ、さっきからずっと職長にべったりなんだよな……」
あんなオッサンどこがいいんだよ、と安藤が声を落として呟く。
「安藤、オッサンとは、なんだ。聞こえてるぞ!」
裕也が
瑞希の歓迎会は、工場近くの居酒屋で行われた。
若手の工員は、職場関係の飲み会の出席率が低い。
だが今回は瑞希の歓迎会ということで、ほとんどの工員が集まっていた。
「長坂。あいつらの所にも少しは行ってやれ」
「ヤです」
瑞希は裕也に微笑みながら言う。
ほんのり桜色に染まった頬が艶めかしい。
「業務命令だ」
こうでも言わないと、さっきから自分の所を離れない瑞希が動かない。
「パワハラですよ、それ。昭和ですか?」
潤んだ瞳の瑞希が口を尖らせる。
「職長のこと、パパって呼んでもいいですか?」
突然の申し出に、裕也の胸が微かにざわめいた。
「パパって呼ばせてくれたら、言うこと聞きます……」
パパ、と呼ぶ希美の顔が浮かんで、裕也は戸惑った。
「パパでも何でも、呼んでいいから、あいつらの所に、行ってやれ!」
希美の影を振り払うように、裕也はぞんざいな口調で言った。
「は〜い、パパ」
瑞希が席を立った。
タイトスカートをぷりっと揺らす瑞希の尻を眼でなぞる。
若手工員の歓迎の声が瑞希を包んだ。
安藤に二次会に誘われたが、断ること前提の形式的な誘いだと裕也は分かっていた。
安藤に万札を一枚渡した。
「あざ〜す!」
若手中心の二次会行きのメンバーが、裕也に頭を下げる。
「あれ、瑞希ちゃん、行かないの?」
「お子ちゃまなんで、門限がありま〜す!」
安藤が、がっかりした表情を見せる。
居酒屋の前で皆と別れ、裕也は家に向かった。
「パ〜パっ!」
瑞希が裕也の腕に抱きついてきた。
「長坂?」
突然のことに裕也は驚く。
「長坂、門限は?」
「そんなの、ありませんよ。安藤さんたち、しつこいんで、嘘ついちゃいましたっ!」
にひっ、と歯を見せる。
「長坂、家はどっちだ?」
「平原町、ですっ!」
「反対方向じゃないか……」
瑞希が身体を寄せてくる。
柔らかい胸の肉が押し付けられた。
「パパともっと一緒にいたいんで、後を付けちゃいましたっ!」
夜も更けてきたので、瑞希の家まで送ることにした。
身体を寄せて歩く二人を、すれ違う通行人が、ちらりと見る。
幼く見える瑞希と、中年男の裕也。
傍から見れば、援交かパパ活に見えるのだろう。
「長坂、腕を離してくれないか?」
「ヤです」
「誤解されたくないんだ……」
「何をですか?」
「それは……」
裕也が言い淀む。
「パパと娘で、いいじゃないですか……」
瑞希が凭れかかってきた。
ふんわりと甘い女性の香りが鼻をくすぐる。
「私、中学の時ママを亡くして、パパと二人で暮らしていたんです……」
瑞希が前を見ながら話し始めた。
「とっても優しくて、私のこと大事にしてくれて……大好きなパパだったんです……」
瑞希が父親のことを過去形で語るのを訊いて、裕也は察した。
「でも、高校の時に、パパも亡くなっちゃったんです……」
瑞希が顔を伏せた。瑞希が微かに震えているのを裕也は感じた。
「駅で、木崎職長のこと見た時、わあ、パパにそっくりだって思ったんです……」
瑞希が顔を上げた。少し潤んだ瞳で裕也を見上げている。
「顔が似ているんじゃなくて、雰囲気がそっくりで……わあ、パパみたいっ、て……」
裕也は瑞希と眼を合わせた。
「だから、一緒にいるときは、私のパパでいてくれますか?」
首を傾げる瑞希。その可愛い仕草にどきりとしてしまう裕也。
「まさか、駅で会ったパパに似た素敵な人に会社でまた出会えるなんて……運命、だと思いません?」
中心街をはずれ、人通りも少なくなり、すれ違うのは車のみとなった。
突然、瑞希が正面から抱きついてきた。
裕也の胸に顔を埋める。
「……おいっ! 長坂っ!」
裕也は瑞希の肩を持って引き剝がそうとするが、瑞希は背中に回した腕に力を込めた。
「パパ、いい匂い……」
くぐもった声が震えているのに気づき、裕也は、そっと瑞希の背中に手を添えた。
しばらくの間、ふたりは抱き合っていた。
年甲斐もなく、胸にときめきのような疼きが湧いてくるのを感じる。
「長坂、そろそろ、いいか?」
「ヤです」
胸に埋めていた顔をあげ、瑞希は上目遣いで裕也を見た。
瞳が街灯の光を反射している。
「瑞希って、呼んでください……そしたら、離します……」
突然、裕也の胸がざわめき、眼の前の女が愛おしく思えてきた。
「瑞希……」
背中に回した腕に力が入った。
「パパ……」
見つめ合う、裕也と瑞希。
どちらからともなく顔を近づける。
柔らかい唇が当たる感触。
裕也の胸がどきん、と鳴った。何年ぶりの感触だろう。
唇を外し、瑞希と見つめ合う。
今度はお互い激しく唇を奪い合うキスをした。
「んっ、うんっ、はっ……ぶちゅっ、んんっ……」
舌をからめ、荒い息で二人は貪るように求め合う。
「パパ!」
いきなり声をかけられ驚いた二人は、がばっ、と離れた。
通りを挟んだ歩道に、自転車に乗った希美が立っている。
「帰り遅いんで、探しにきちゃった……」
希美が微笑む。だが、眼は笑っていない。
「こちらの方は?」
道路を渡って来た希美が瑞希の方に視線を向ける。
「ああ……こちら、今度会社の事務で入った、長坂さん、だ……」
瑞希がぺこりと頭を下げた。
「ああ……」
希美も軽く会釈する。が眼つきが鋭い。
自分が就きたかった裕也の工場の事務員になった瑞希に対して、思うこともあるのだろう。
「パパ、帰ろ……」
裕也は希美と瑞希の眼を交互に見た。
「木崎職長、今日はありがとうございました。もう家も近いんで、帰れます……」
瑞希が微笑む。
「そうか。じゃ、また明日……」
瑞希と別れて、希美と夜の街を歩く。
「可愛らしいヒトだね……」
希美が呟く。
「ああ……」
希美はそれ以上瑞希のことを訊いては来なかった。
冴子の唇を吸いながら、ベッドに身体を横たえた。
裕也は、冴子の横に広がりながらも前に突き出す豊かな乳房を両手で揉み込んだ。
ぷっくりと勃った乳首を吸う。
冴子が甘い喘ぎ声をあげる。
童貞だった裕也は、初めての時、冴子と交わる前に射精してしまった。
だが、冴子は優しく裕也を導いてくれた。
徐々に自信をつけた裕也は、冴子の肉体に溺れた。
裕也の硬い肉が、冴子の柔らかい肉に包まれている。
腰を振るたび、ぷるん、と巨乳が揺れる。
冴子は手の甲で口を押さえながら、首を反らして快感に耐えている。
もっと、もっと、冴子が欲しい。
切ないくらいの欲情が、次々に湧いてくる。
何度も何度も肉棒を突き上げると、冴子の漏らす息が荒くなってゆく。
「冴子、冴子、冴子おおっ!」
「パパ!」
意識が戻ると、希美の顔が目の前にあった。
「パパ、大丈夫?」
心配そうに裕也を覗き込む希美。
部屋はまだ薄暗い。夜明け前だろうか?
「パパ、
希美が掛け布団を剥いだ。
「あっ……」
裕也のパジャマに張ったテントに、二人同時に気づく。
「パパ……」
冴子とセックスしている夢を見ていた。勃起はその名残だろう。
希美の手が裕也の屹立に伸びた。
「な……」
起き抜けの裕也は、身体が硬直して動かない。
「男のひとは、つらいんでしょ。このままじゃ……」
希美が裕也の肉棒を掴んだ。
(何を……している……)
希美のもう片方の手がパジャマの中に、滑り込んできた。
瞬間、裕也が希美の腕を手でバシっと払った。
「パパ……」
驚いた希美が手を引いた。
裕也を見つめる瞳にじわじわと涙が浮かんできた。
荒い息をする裕也を残して、希美はそっと部屋を出ていった。
裕也は、衝動的だったとはいえ、初めて希美に暴力的に接してしまった。
父娘で性的な行為をしてはいけない、というのは一般常識だ。
理性が一般常識の元で働いて、希美の手を払ってしまったのだろうか?
それとも昨夜、瑞希と抱き合っているところを邪魔された怒りが無意識に手を出させたのだろうか?
いずれにせよ、裕也は希美にした行為を悔いた。
昨夜、歓迎会の帰りが遅いから、探しに来た、と希美は言った。
だが、瑞希と歩いていたのは、駅の反対側だった。
裕也の帰り道をたどるなら、わざわざ反対方向に行くはずがない。
だとすると、希美は歓迎会がお開きになってから裕也を追っていたのだろうか?
希美が瑞希に嫉妬?
まさか、と裕也は首を振る。だが、その可能性は否定できない。
パパのお嫁さんになる、という希美の口癖は冗談ではなかったのかもしれない。