「や、やだ、やだー!!おろしてー!!」
リフトの手すりに縛られて宙吊りになりながら、情けない声をあげてジタバタ藻掻く雪の精を見下ろして、俺は達成感に浸っていた。
「おいおい、あれだけ煽ってたのに翼を縛られたくらいでこんなに怖がるなんてな。お前、そんなにビビりだったのかよ。なあ、精霊サマ」
「……はっ!?こ、こわくなんてないもん!!あれは、きっとにんげんさん、りあくしょんほしいんだろうなーっておもったからさーびすってやつでやってあげただけ──」
「へぇ、そうだったのか。ご親切にどーも」
「やああああ!!ゆ、ゆらさないで!!……はっ!!べ、べべべべつにゆらされてもぜんぜんへいきだし!?こわくなんてないもんねー!」
ちっとも取り繕えていない台詞を遮って縄を手で揺らしてやると、存分に悲鳴をあげるミケウパシ。涙を目に一杯溜めて強がっている表情が、俺の嗜虐心をくすぐっていく。とは言え暴力を振るう訳では無い。これはあくまでわからせなのだから。
「そうか、平気って言うならたっぷり揺すらせて貰おうかな」
そう言うと俺は、垂れている縄を前後左右に不規則に揺らし始めた。彼はうつ伏せの向きで吊られており、自分がどちらに揺すられるかは分からないため、揺れる度にビクッ、ビクッと体を震わせている。
「きゃあああ!!かぜつよい!!やめて!ぼくのこととばしちゃだめー!」
「うおっ、吹雪か。着込んでるとはいえ冷えるなぁ……ん?なんだこの水滴……」
吹雪の中、俺の頬に一滴の水がかかった。吹雪の中で一粒だけ雨が降ってきたのだろうか、とも思ったが、雨混じりの雪が降るほど生易しい寒さでもないな、と考え直す。
「一滴だけなら尚更雨って線も消えるな。……まあいいか、そんなことより今はこいつをわからせてやるのに集中しよう」
考えても分からないし気にするほどのことでも無い。気にしないでおこうと水滴を拭った俺は再び宙吊りのミケウパシを見る。強風に吹かれた余韻で未だぶらぶらと揺られている彼だが、先程まで叫んでいたのにパッタリと静かになっている。まさか怖がりすぎて気絶してしまったか?流石に怖がりすぎだろ、等と半ば呆れながら彼を引き上げてみる。
「おーい、起きてるかー?」
「お、おきてるよ……。そんなことよりはやくこれほどいてよ!」
「うーん……まあ良いか。それじゃあリフトがてっぺんに到着したら解いてやろう」
「ほんとに!?やくそくだからね!!」
「ああ、勿論嘘じゃないさ。ただ……」
まだまだゴールは先だけどな。そう言いながら俺は正面に見えるリフトの終点を指さした。
「う、うそ……こんなにたくさんのぼらないといけないの……!?」
羽毛の下に隠れた彼の肌が見えたなら、きっと血の気が引いて青白くなっていた事だろう。絶望感の滲む声でがくり、と脱力したミケウパシの脚の間から何かがぽとぽと、と俺の膝に零れ落ちた。それを手袋の指先にとって見てみる。無色透明の水滴で、ウェアと手袋の隙間から肌に触れさせてみるとほんのり暖かかった。落とし主の様子を確認してみると、またも同じ位置から水滴を零している。
「なあ、ミケウパシくん。ちょっと聞きたい事があるんだが」
「な、なに……?ぼくいまそれどころじゃないんだけど……。まさかこんなにながいなんて……ううー……」
「怖くておもらししたよね?」
俺がそう言ったきり、ミケウパシはこっちを向いて固まってしまった。おーい、と呼びかけても反応が無く、脚を内側に寄せて股を隠そうとしている以外になんの動きも見られない。もっとも、細い鳥の脚では透明な雫をぽたぽたと降らす雄の象徴を少したりとも隠せてはいないが。
「あれ?そういえば鳥の体してるのにソレついてるのか。……ああ、ウサギの要素がちょっと混じってる感じなんだな。この飾り羽とか」
よく観察してみれば、先端だけ黒いウサギの耳の形をした飾り羽が梟のように生えている。鳥の体で雄が生えている種は少ないらしいがこれなら納得……と頷いていると、凍りついたかのように静かだったミケウパシの騒がしさが戻ってきた。
「ぜ、ぜーったいにもらしてなんかないもん!!!にんげんさんのみまちがいなんだからね!!ぼくにつもったゆきのとけたみずがたれてきただけなんだから!!」
今日一番の騒がしさで、少ない語彙と舌足らずな言葉とで何とか俺をだまくらかそうと必死だが、流石にこれで騙されてやるほど俺も馬鹿正直ではない。
「隠さなくてもいいんだぜ、誰でも小さい頃はおもらししちゃうもんだろ?」
「ほんとにしてないもん!!!あとそれ、ちっちゃいころしかしないっていうならなぐさめにすらなってないからね!!」
羽毛の下で赤面しているだろうミケウパシを揶揄っていると、俺はリフト下に狐が居るのを見つけた。
「おい、あそこ見てみろよ、狐だ。こんな近くに来るなんて珍しいなぁ」
物珍しさからスキーウェアの懐にしまっていたデジカメを取り出して撮影しようとした俺とミケウパシのテンションは目に見えて対照的だった。
「きつね……!?ひっ、ほ、ほんとだ!!こんなちかくに……おそわれちゃう?たすけて……こわいよー!!!」
「……凄い怖がり様だな。あ、もしかして……お前ら狐が天敵なのか?」
「べ、べつにきつねなんてこわくないけど!?きつねもせいれいのすごさをわかってるからたべたりとかしないし、ぜんぜんへいきだもんねー!!」
さっきと真逆の事を堂々と叫ぶミケウパシだが、恐怖に耐え切ることはできなかったようで、緩んだ股間からまた小水を一滴づつ落とし始めた。彼がちびった水滴の行方を目で追っていると、丁度リフトが狐の真上を通った辺りで狐の鼻っ面に直撃したではないか。俺は思わず吹き出してしまった。思わぬ所から水滴を食らった狐は心做しか腹立たしそうに吊るされた精霊を睨みつけ、目が合ったミケウパシは縮み上がってぎゅっと目を閉じ、悲痛な声色で絶叫した。
「ぴゃあああああああああ!!あのきつねこっちみてる!!おこってるよおおおおおおお!!!うわああああん!!!」
と、声を張り上げた彼だったが、強い恐怖に加えて全身で力んだためか、今までは少しづつだけ小水を漏らしていた尿道を全開にしてしまい、膀胱の中身を全部撒き散らす羽目になった。
「あっ、あっ、なんでー?お、おしっことまらないよー!!やだ、やだ……」
しょろろろろ……と静かな音色を奏で、ミケウパシは自分の意思とは裏腹にピンク色の小さく可愛らしい一物からとめどなく放水を続けた。しかし、排尿の齎す快楽からは逃れられず、最後の一滴を絞り出すまで恍惚に浸っている彼は、幼さ故の可愛らしさと、快感に喜ぶ者の淫猥さを同時に纏っていて、俺は気づけば勃起していた。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
「……」
羞恥に打ちのめされ、時々ぐすぐすとべそをかく以外は静まり返ってしまったミケウパシ。あんなに切望していたリフトの終わりにも、なんの反応も示さなくなっていた。
「あー、大人しくしてろよ?ぬいぐるみのフリでもしてないと、誰かに見つかったら仲間の元に戻れるか分からないからな」
こく、と微かに頷いたミケウパシの頭を撫でてやる。リフト側の結び目を解いて彼を取り外すと、片腕で抱いて終点にたどり着いたリフトから降りる。
「……にんげんさん……」
「ん?どうかしたか」
掠れた声で俺を呼ぶミケウパシ。小声で応じてやると彼は暫く言い淀み、
「……これ……お、おちんちんのこれ……とって」
「これって……氷柱か?もらしたヤツが冷えて凍ったのか」
「……もらしたっていわないで……はやくとって……」
「……はぁ、分かった。少しかかるから辛抱してるんだぞ」
手袋を外し、素手の温度で氷柱の周りを温めてやると、ミケウパシの陰部の先端に陣取った氷柱は少しづつ溶けてやがてなくなった。溶けたことを教えてやると「……ありがとう」と消え入りそうな声で礼を言うミケウパシを抱えたまま、俺は自宅の方へとスキーを滑らせ向かう。風雪に晒され冷えた身体のうち、股間で存在を主張する雄と、抱える精霊の体温が伝わってくる掌だけが暖かかった。