閉じられた瞼越しに柔らかな光を感じ、俺の意識はゆっくりと浮上してきた。あれ、いつの間に寝たんだっけ?と首を傾げつつ時間を確認しようとズボンのポケットにしまったはずのスマホに手を伸ばす。が、ポケットをまさぐる筈だった五指は空を切り、腿を浅く掻いた。
「……ん?俺いつズボンなんて脱いで……」
違和感に続く違和感に寝惚けた頭が少しづつ引き締まっていく。目を擦り、半身を起こして自身の状態を確認して、俺は凍った様に固まってしまった。
腹の上──正確には朝勃ちに穿かれる位置だ──にガビガビになった真っ白い毛玉がちょこんと乗っかっている。俺の腹にも一物を中心に液体が乾いた様な痕が広がっていて、座っているのか寝ているのかよく分からない姿勢のミケウパシに挿入っている部分は未だぬらぬらと滑りが残っている状態だ。
「えっ……?あっ……あー、思い出した」
俺、こいつを襲ったんだった……。昨夜の蛮行に頭を抱え溜息を吐いていると、股間の辺りにもぞ、と動きを感じた。視線を向けて見れば、大欠伸をしながら翼と足を伸ばしているミケウパシが目に入る。体格差のある相手に好き放題されてイき疲れていた事を勘定に入れても、腹を肉棒に穿かれたままで朝までぐっすりとは……。
そんなミケウパシの図太さに呆れながらも、俺は下半身を綺麗にすることにした。深々と突き刺さった男根をミケウパシを痛がらせずに抜刀する作業は、朝勃ち状態である事が邪魔をしてスムーズに進みそうには思えなかった。
が、ミケウパシが寝起き故、意識が明瞭としきる前に手際良く取り出せさえすれば、小柄な小鳥を苦しめずに済むのではないか。腸内を暴力的な圧力と熱で蹂躙した身として、せめてもの詫びの気持ちと、無事に事が済む様にとの祈りとを込め、俺はミケウパシを肉棒から一思いに引き抜いたのであった。
「ね゛ぇ!!!!なにしてくれたのにんげんさん!!」
「……はい……ごめんなさい……本当すいません……」
──祈りは空しくも功を奏さず終いだった。俺はベッドの直ぐ側の床に正座し、乱雑に丸められた布団の上に陣取ったミケウパシから、烈火の如き怒りを浴びせかけられていた。
「すいませんじゃすまないんだってば!!ぼくの!!おしり!!!!どうなってるのこれ!!!!」
「……一気に引き抜いたら痛くないかなぁ、って思って……」
「そんなわけないでしょ!!おきてすぐであたまぼーっとしてるでしょ!?じゃなきゃこんなひどいことになるはずないよ!?」
悲壮感も漂う怒鳴り声をあげたミケウパシは、俺に背中を向けると尾羽根を持ち上げて、肛門の様子を見せつけてきた。確かに、勢いに任せて男根と共に身体を半ば程まで引き摺り出された腸壁が寄生虫のごとく、赤く腫れたその身を布団に力無く投げ出している。
自分が同じ目に遭った場合の痛みと恐怖を想像した俺は、身震いし肛門が引き締まる様な感覚に襲われた。ミケウパシの慟哭めいた非難に俺は、
「……その、面目次第も御座いません……」
平身低頭、心の底からの謝罪をするより他に無いのであった。
「あー……まったく、ひどいめにあったよ!」
雪山に1羽、ぷんぷん、という擬音が如何にも似合う様子で愚痴をこぼす真っ白な鳥の姿があった。真ん丸い体型にふわふわふかふかの羽毛を蓄え、小さな黒真珠の瞳と黒曜石の嘴とが輝き、小枝の様に小ぶりな足で雪を踏み、兎耳に似通った飾り羽を揺らす。
そう、自称・雪の精のミケウパシである。昨晩自分を貪り、挙句最悪の寝覚めをプレゼントした人間を一頻り詰ったミケウパシは、軟膏を腫れた肛門に塗ったり、はみ出した腸内を優しく押し戻したり等の治療を人間から施された後、住処である雪山まで飛んで帰って来た。
ちなみに「腸内の精液も掻き出そうか?」という提案は、どさくさ紛れに何をされるか分からない恐怖に駆られた為に却下してさっさと飛び去ったのだった。
「ほんとに……ぼくのこと、すこしくらいはきづかってほしいものだよね!」
件の人間を気遣う所か挑発に夢中だった鳥が言っているので説得力の無い文句を垂れ、ミケウパシは右翼で雪を一撫でし、そのまま右の羽を数枚、そっと侵入させた。
「う゛っ……いりぐちがやっぱりしみる……」
顔を顰めながらも、雪を纏った羽を匙の様に扱い不浄の白を掻き出すミケウパシ。ゆきのせいののーりょくは、こんなときにつかうものじゃないのに……等と作業と並行して恨みがましい呟きを零す雪の精だったが、ほぼ全ての精液をこそぎ出した達成感で頬が僅かに緩む。
「ふー、やっとおわった!つかれちゃったしはやくいつものえさばにもどってごはんでもたべよーかな。やたらからだをうごかさせられたしいっぱいたべ──」
「あれぇ?みー君、こんな所で何してるんですか〜?」
「うっわ!?」
突然背後から掛けられた声に、跳ねる身体と心臓を抑えられないミケウパシであった。飛び上がろうと駆け出した足が縺れてすっ転び、前転の如く一回転して地面に大の字に投げ出されたミケウパシの間抜け面は、ニコニコとした笑顔を湛えた同種の鳥に覗き込まれていた。
「……ルプノチウ、じゃん、なにしにきたのさ」
「いえいえ、特に何をしようというつもりも無かったんですが〜……。その辺りを飛び回っていたらみー君を見つけたものですからぁ、降りてきちゃいました」
「あっそ……いつもどーりのむけーかくかぁ。……てゆーかこのまえ、そのみーくんってゆーのこどもっぽいからやめてっていったじゃん!なんでまだつづけてるのさ!」
「あれぇ、そうでしたっけ〜?可愛くて良いと思ったんですけどね〜……」
騒ぎ立てて抗議するミケウパシに対し、小首を傾げ、更に「少なくとも私よりはコドモなので別にいいんじゃないでしょうかね〜」と宣うルプノチウ。これを耳にしたミケウパシの眉間の皺はまた少し深く刻まれた事だろう。
「それで、みー君の方は何をしていたので〜?」
ミケウパシが昨晩からえらく凝り固まりっ放しの眉間を解してやっていると、そんな質問が飛んで来る。普段なら他愛無い質問だが、今のミケウパシにしてみれば不意に尻尾を握られた様なものであり、非常に動転していた。ここが雪山でなければ大汗をかいていた事だろう。
「なっ、なな、なにをしてた?なにをしてたかってゆーと……いや、とくになにもしてないけどっ?」
言い訳の体裁すら保てていないミケウパシの言葉に「みー君、慌てすぎですよ〜」と眉を八の字にし苦笑するルプノチウ。目を泳がせるミケウパシの面を暫し観察した後、耳許へと嘴を寄せ囁いた。
「……実はぁ、私、みー君の恥ずかし〜い所、見ちゃってたんです。……群れの皆にバラされたく無ければ私に犯されて下さぁい」
「……えっ?えっ、うそでしょ!?どこから?いつ?なんで!?」
プライドが高いミケウパシには断る事が出来ないと確信するルプノチウの下腹部では、期待感の表れが如く、桃色の肉の突起が存在感を放ち始めている。
「……っひっ、ルプノチウ、それ……って」
「あぁ、やっぱり狼狽えるみー君は唆りますね〜……。」
何度も君で抜いて来ましたけど、早く本物を啼かせたいです、と。白い淫魔は、顔色一つ変えずされど情欲を湛えた顔で舌舐りをして見せたのだった。