月の光に淡く光る温泉につかり、ホッと息を吐く。
――ああ~っ…最っ高~♡ 日本人はやっぱ温泉だよね~
岩に背中を預けてお湯に身を任せると、疲れも悩みも全て溶け出ていくようで芯からとろけてしまう。
思わず変な声が出ると、「大丈夫か、ナツ子! こっちから魔物の声がしたが…!」と、最近の一番の悩みの元凶が、剣を握って岩の向こう側から飛び出してきた。
「……………」
決まり悪くて黙って胸元を隠すと、異変はないと同時に私も自分も裸である事に気付いて、ルークは慌てて股間を隠しながら岩の陰に消える。
ルークに誘われて訪れた温泉はお湯も景色も最高で、ここのところ少しギクシャクしていた事も忘れて、いつしか会話も弾んでしまう。
「――俺もいつか行ってみたいな。ゲンジツの国に」
温泉の縁まで立っていったルークは、夜を見透かすように景色を眺めながらそんな事を言った。
タオルを腰に巻いたその背中には大きな傷があり、これまでの戦いの激しさと厳しさを物語っている。映画の中のルークのこれまで、そしてこれからの過酷な戦いと結末を思い、胸が痛んだ。
――だけど本当に、ここからあんな鬱展開になるの?
転生したこの世界のルークは割と子供っぽくて、すぐに怒るし、結構口うるさいし、純粋で、仲間思いで、涙もろいところもあって、感情が分かりやすくて、勇者として戦っていない時は普通の人間だ。
映画では描かれていなかった部分――料理が上手なところとか、綺麗な金髪を普段は無造作に後ろでまとめている事とか、菜園で野菜やハーブの世話をするまめな姿なんかを目の当たりにして、ルークはただの映画の登場人物なんかじゃなく、この世界で生きているひとりの人間なのだと思い知る。
――そんなルークが、私を真っ直ぐに見て「好きだ」と伝えてきて――…
トクン、と胸が音を立てた。
さっきとは違う、胸の痛み。
――なんだろ、これ……
不意に振り返ったルークが、真剣な表情になるとこちらへ歩いてきた。
「え? 何?」
ルークが焦る私を真っ直ぐに見つめる。
「ナツ子――好きだ」
何十回目かも分からないその言葉が、なぜだか妙に心地よく響き、ドキドキしてしまう。
ルークが私の肩を掴んで、顔を寄せた。
思わずギュッと目を閉じてしまうと、唇に温かくて柔らかいものがふわっと触れて、すぐに離れる。
目を開くと、恥ずかしそうに、けれども幸せそうに微笑むルークがいた。
「……え?」
たぶんルークにとっては初めてのキスで――っていうか私も初めてだけど――勝手とか加減とか駆け引きとか分からないのも分かる。
それでもあまりに拍子抜けな軽いキスに、つい思ったままを口に出してしまった。
「今のがキス?」
いくらなんでもフレンチキス過ぎないか?
「え? 唇に唇で触れるのがキスだろ? 違うのか?」
「ルーク……もしかして、性欲とかないの?」
アニメの世界の住人だ。監督がそう設定すれば――もしくは設定しなければ、性に関する要素を持たない可能性は高い。
ルークが「はっ!?」と赤くなって、ちょっと慌てる。
「俺だって男なんだぞ。ない訳ないだろ!」
「ええ? 本当に? じゃあ子供はどうやってできるか、言ってみて」
「それは、その――男と女が……床を共にして――」
言いながら更に真っ赤になって、ごにょごにょと言葉を濁す。
「あ、よかった。コウノトリが、とか言い出さなくて」
「俺はそこまで子供じゃないぞ!」
「あんなキスをしておいて?」
それを聞いて、ルークが今度は青ざめる。
「え……俺のキスはそんなにダメなのか……?」
「ダメっていうか――」
唇がちょこっと触れただけなのにキスだなんて、ウブ過ぎやしないか?
呆れかけ、でもそれも仕方がないのかも、と思い直す。
――ずっと勇者としてヴォイドと戦ってきて、そういう事を知る機会も余裕もなかったんだ……
静かな夜。揺らめく水面が月明りを反射してキラキラと輝く、ロマンチックな雰囲気。
たぶん私は、気持ちを真っ直ぐにぶつけてくる馬鹿真面目で純粋なところにほだされてしまったのだろう。
それと、しゅん、と落ち込んでいるルークを元気づけたい気持ちと、ほんの少し、悪戯心。
「……しょうがないなあ」
「ナツ子?」
小さく息を吐いて、顔を上げた。
「私が、教えてあげる」
「な、何を?」
ルークの胸に手を置いて、耳元に囁く。
「いいから、これから私がする事、真似してみて」
私もこれが初めてだが、知識だけはある。
知人の手伝いでエッチなアニメを描かなきゃいけなくなった時にはソレ系の動画を山ほど見たから、動きのイメージも完璧にできている。
「真似って……」
ドギマギするルークがなんだか可愛い。
――これが母性ってやつなのかな?
ずっとアニメの事しか考えてこなかった自分に、こんな気持ちが芽生えた事が意外だった。
恥ずかしいような、むずがゆいような、もどかしいような、初めての気持ち。
けれどとても心地いい。
――本当のキスって、こんななのか……
ナツ子の柔らかな唇が押しつけられて優しく吸われ、チュ、チュ、と音を立てて、食むように合わせた唇を時折組み替える。
柔らかくて温かい感触が離れずにずっと触れているのが気持ちよくて、それもナツ子の方からしてくれているのだと思うと幸せ過ぎて、クラクラする。
「こら……ルーク、ちゃんと真似して」
鳴り響くような鼓動がうるさくて周囲の音が全く聞こえないのに、囁くナツ子の声が耳に甘く絡みつき、ドクリと身体中の血が沸き立った。
「ナツ子――好きだ、ナツ子――…」
上手くできているかを気にする余裕もないほど、夢中で彼女の唇を貪る。
さすがに長過ぎただろうかと顔を離すと、ナツ子は見た事のないトロリとした表情で目を開いてから、「……少し、口を開けて」と言った。
「うん……」
何をするつもりだろうと思いながら言われた通りに口を開くと、再び重ねられた唇から何かが入り込んだ。
――え? ……舌!?
口の中でナツ子の舌が動き、唾液が唇を濡らす。
戸惑っているのが伝わってしまったのか、ナツ子が唇を離して囁いた。
「大人のキス、だよ。ルークも舌、絡めて……」
「あ、ああ……」
まるで身体の奥を求めるように絡め合う舌の感触に、これまで感じた事のない強い欲望が湧き上がってくる。
――キスってこんなに、すればするほどもっと密着したい、もっと深く繋がりたいと思うものだったのか!?
さっきの自分のキスがまるで児戯だったと感じるほどの衝撃と幸福感と気持ちよさで、気付けばナツ子の腰と頭の後ろに手を回して、舌を貪っていた。
唾なんて汚いものだと思っていたのに不思議とナツ子の唾液は甘くて、もっと欲しくて舌を絡めて強く吸う。
「んー…♡ んっ………んむっ……♡」
ナツ子から漏れる息まで甘い。
愛おしさを伝える言葉が見つからなくて、ただ彼女の名前を繰り返した。
「ナツ子――ナツ子――…」
最近のルークの「好きだ」攻撃のせいで、名前を呼ばれると反射的に身構えてしまっていたが、今は呼ばれる事が心地いい。
いつの間にかタオルは外れ落ちていて、ぴったりと密着した肌から直に彼の熱が伝わり、しっかりと腰に回された腕が“逃がさない”とでも言っているかのようでドキドキする。
初めはぎこちなかったキスも、今はもうこちらの動きと息に合わせてくるようになっていた。
――キスってこんなに、気持ちいいんだ……
“もっとしたい”と伝わってくるのが嬉しくて、こちらも舌で応えてしまう。
不意に、クン、と硬い感触が、お腹に当たった。
「あ……」
――もしかして……勃っちゃってる?
興奮し過ぎて気付いていないのか、勃起した男性器がおへその辺りにグイグイ押し付けられる。
どんどん熱を帯びて硬くなっていく感触が気になりキスに集中できずにいると、ルークが熱っぽい瞳で「ナツ子……?」と見つめた。
――ルークって、こんな色っぽい目つきもできるんだ……
こんな表情、映画の中でも設定資料集でも見た事がない。
――きっと、私しか見た事がない顔――…
そう思った瞬間、ゾクッと背筋が震えて、もっともっと色んな表情が見たいと思った。
「ね、ルーク」
甘く息を乱すルークが、愛おしくてたまらない。
「どうした?」
切なげに見つめるその目が、もっとしたい、もっと欲しいと言っている。
「次はこっちに、キスしてあげる……♡」
ようやく自分の状態に気が付いて前を隠そうとするルークを強引に温泉の縁に座らせて、前に屈む。
「あ、あの、ナツ子、そんなに見ないで――」
勃つ前ならまだしも、ここまで昂ってしまったらもう隠せるはずないのに、それでもルークが必死に隠そうとするソレをまじまじと眺める。
「……ねえ。ルークって童貞だよね?」
質問というより確認だ。
「は!? ななな何言ってるんだ!? そんな訳ないだろ!?」
慌てまくるその様子はどう見ても童貞の強がりなのに、目の前の陰茎は被っていなかった。
「なんで剥けてるの?」
あんなお子様なキスをしておいて、こっちは大人ってどういう事?
「これは――ジャスティスが“被ったままだと女の子にモテないぞ”とか言って、一緒に水浴びとかするたびに無理矢理剥かれて――」
俺は別にモテたいなんて思った事ないのに、と口を尖らせるルークが、ふと、真剣な顔で私を見る。
「お前はどうなんだ」
「私?」
「あんなにキスが上手いのは、ゲンジツの国に恋人がいたからじゃないのか……?」
とんちんかんな嫉妬を滲ませてスネるように言うルークが可愛くて、再び悪戯心が湧いた。
「んー…、秘密?」
曖昧に誤魔化すと、ショックを受けたようにルークとあそこの元気がなくなる。
「すぐに分かるよ」
「それはどういう―――ぅあっ!?」
ルークの陰茎を優しく握って、にゅこにゅこと扱きだす。
「ま、待て、ナツ子――そんなところ握ったら――」
「気持ちいいでしょ?」
顔を近づけて亀頭に息を吹きかけると、ルークがブルルッと震えた。
フーッフーッと乱れる息を抑えようとするように口を押えたルークは、気持ちがいいともよくないとも言ってくれない。
「あれ? 気持ちよくない?」
まあ、私も初めてだからな。動画じゃ力加減までは分からないし。
――でも、これならルークも悦んでくれるよね?
亀頭に舌を伸ばし、チロチロと舐めながら上目遣いでルークを見上げる。
「あ……ぁ」
目が合った途端にビクッと震えて、先走りが溢れ出した。
――ルークのって、こんななんだ……
先っぽからどんどん出てくる透明な液体を舐め取り、亀頭を舐め回し、竿を舐め上げながら、血管の浮き出る生々しい肉棒をつぶさに観察する。
――後でちゃんと描いておかなきゃ……
ルークのオスみに当てられて、こっちまでお腹の奥がキュンキュンと疼き始めてきた。
亀頭裏の根元、いわゆる裏筋をグニグニと舌先で刺激すると、さすがにルークも耐え切れずに声を上げる。
「んぁっ!? はあぁぁっ♡」
――変な声、出た……
初めての感覚に思わず情けない声が出てしまい、慌てて口を押える。
けれどナツ子はホッとしたように笑った。
「よかった。さっきから何も言ってくれないから」
「それは――」
太ももの間から上目遣いで見上げるのは反則じゃないか? こんなの、素直に答えるしかないじゃないか。
「……だって恥ずかしいだろ、好きな女の前で情けなく喘いだら。それにお前、髪で多少隠れているけど胸とか見えてるし、いやらしい顔して舐めてくるし、滅茶苦茶気持ちいいし――“男は簡単に達したら馬鹿にされる”ってジャスティスが言ってたから、必死に我慢してたのに――…」
ナツ子が吹き出した。
「お、おい! 笑うな!」
こちらの気も知らずにナツ子はひとしきり笑って、目の端の涙を拭う。
「ごめんごめん。でも――」
ナツ子は笑いをおさめると、長い髪をくるくると巻き上げてユニオの角で留めた。すんなりとした綺麗な身体が露わになり、思わず見惚れる。
「恥ずかしくないよ――いや、違うかな。恥ずかしいからイイんだよ。ルークの恥ずかしい声、もっと聞きたい」
そう言ってナツ子は、クププ、と陰茎を口に含んで俺の目を見た。
「ぅあっ……温かっ……」
恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにナツ子の綺麗な目が笑う形になる。
好きな女が自分のものを咥えていて、冷静でいられる男がいるはずがない。
他人に見せてはいけない部分を、温かくてぬるぬるとした口内に包まれる鮮烈な感触に理性が飛び、思わずナツ子の頭部を掴んで引き寄せる。
「んぶっ!?」
「好きだっ、ナツ子! ――もっとお前の熱――感じさせてくれ」
「んんーっ! んんんっ♡」
喉の奥まで入り込んだ陰茎が熱い唾液をまとって包まれ、舌で擦られる。声が漏れるたびに震える振動と、ごくん、と飲み込む喉の動きが信じられないくらい気持ちいい。
――あ、まずい――…
「俺――もうっ――ッ」
込み上げてきた熱いものを抑えられず、歯を食いしばる。
ナツ子の口から抜こうとしたが間に合わず、口の中に射精してしまった。
下半身が溶けてしまったかと錯覚するくらい強烈な快感と同時に襲われる、相手を汚してしまったという罪悪感。
「す、すまない――こっちに吐き出して――」
慌てる俺に、ナツ子は嫌な顔も怒りもせずに微笑んだ。
「ん……へーひ。見へ、るーふ」
あーん、と開いて見せてくる口内に、白濁液が満たされている。
そしてそのまま口を閉じると、ごくん、と喉を鳴らした。
「え……?」
「……飲んじゃった♡」
――飲んだ? 俺の精液を?
ゾクゾクッと頭の芯まで痺れるような衝撃が身体を駆け抜け、衝動に任せてナツ子を抱き締める。
「ナツ子――結婚しよう」
「へ!?」
突然の求婚に間抜けな声を出してしまうと、ルークは赤くなりながらも真剣な表情で私を真っ直ぐに見た。
「俺はお前が好きだ。誰にも渡したくない。俺だけのものにしたい――ダメか?」
たぶんルークは今ここで私を抱きたいけれど、エッチは結婚してからじゃなきゃダメだと思っているからプロポーズしてるって事なのだろう。馬鹿真面目だなあ、ホント。
「お前も、俺だけにしろ。あ、いや――俺で最後にしろ」
「ルーク……」
“最後”という言葉がチクリと胸を刺す。
あの鳥――鶴山監督の言う通り、この世界は本当に、このまま滅んていくのかもしれない。
この先ルークは、絶望に打ちひしがれる事になるのかもしれない。
だけど、愛する事を知らないまま、ただ大切な人を失っていくなんて悲し過ぎる。
世界の全てを憎む事になるなんて、ツラ過ぎる。
少しでも幸せだと感じる時間を私が過ごさせてあげられるなら、いいじゃないか。
「……しょうがないなぁ。いいよ、ルーク♡」
ひとつ深呼吸したルークに後ろから抱き締められながら、縁の岩に手をついて、私は腰を上げた。
――この格好、無防備で恥ずかしいな……
ルークはゴクリと唾を飲んで、陰茎をあてがった――が、なかなか来ない。
「あ……あれ……?」
焦る気配。
「ルーク?」
あ、そうか。あんなキスしか知らないルークが、どこに挿入すればいいのかなんて知っている訳ない。
「……ここ、だよ」
そっと手を添えて導いてあげると、ツプ、と亀頭が穴の入り口に引っかかった。
「……いくぞ」
「ん♡」
ゆっくりと入ってくる硬くて熱い感触に、ゾクゾクする。
「――ッ………は♡」
さすがに痛いかと思ったのに、意外にそれほど痛みはない。それよりも初めての異物感と圧迫感、そして幸福感の方が強かった。
ルークが何かに気付いて、ハッと息を飲む。
「ナツ子! 血が――」
「大丈夫。続けて、ルーク」
「だけど――…」
振り返ると、心配そうにルークが見つめていた。
「嬉しいでしょ? 私が初めてだって分かって」
冗談めかして言うと、その意味が染み込んでいくように、ルークの顔がゆっくりと笑顔に変わっていく。
「ああ………嬉しいよ。俺、お前にとって初めての男なんだな」
「今夜はいっぱい、気持ちいい事、シよ♡」
幸せそうに、私の勇者様が笑った。
8話の真っ直ぐだけど子供過ぎるルークが可愛くて、勢いで書き上げてしまいました(≧▽≦)
ジャスティスの頼れる兄貴っぷりがいいですよね~。悪い事も教えてそう…って事でジャスちゃんには色々と戦犯になってもらいました(笑)
正直それまでルークはもう少し大人だと思っていましたが、「嫌わないでくれって頼まないと!」で思ったより子供なのだと初めて分かり、ナツ子リードで妄想が広がって一気に書き上げました~
タイトルは本当は漢字2文字にしたかったのですが、候補がどれもしっくりこず……((+_+))ムズカシイ