これはこの世の全てを手に入れた男の物語。
なお始祖ユミルの手に入れ方は思いつかなかった模様。
「ヒストリア女王陛下、例のご友人がお越しです」
「この部屋まで連れてきなさい」
一礼して去っていく側仕え。女王になって数年も経てば、この偉そうな口調をするのにも慣れてきた。別に慣れたくなんてなかったけど。
「訓練兵の時以来、かな……」
喉が渇いたから紅茶を飲もうとした時、カップを掴む手がカタカタと震えていることに気がついた。
「緊張、しているの?」
自分に問いかけたところで、答えは出ない。
ただ訓練兵時代に
――――子宮はぞくりと疼く。
これは、緊張?それとも、期待?
よく分からない。でも、彼との日々は今でも鮮明に思い出せる――――
******
彼は訓練兵団に入団した当初から女の子に人気があった。
彼は顔が良くて、立体機動が上手で、成績は優秀で、背が高くて、逞しい体格で、自分に自信があって。
まるで物語から出てきたかのような完璧な男の子。
当然、彼のことが気にならない女の子なんていない。女子グループで集まれば彼に関する話になったし、私も遠くから見てかっこいいなとは思ってた。でも話しかけるのは恥ずかしくてできなかった。
そんな中で転機になったのは、ある日に行われた過酷な訓練の後のこと。
「早く立て、ひよっこ共!」
シャーディス教官に怒鳴られて、私も周りのみんなも最後の力を振り絞って立ち上がった。
今日の訓練の目的は、死の直前というものをその身で味わうというもの。
具体的には丸一日飲まず食わずで長時間の行軍をさせられて、何人も倒れて脱落した。多分、明日にはまた同期から開拓地送りになる人が出てくる。
「これで今日、貴様らは自らの命の限界を知った。兵士たるもの、もし死の淵に立たされようと、それに慣れて冷静な判断を下せるようにならなければならない。では、これにて今日の訓練は終了とする!」
その言葉と同時に、私たちは競うようにテーブルに用意されていた水筒に手を伸ばして喉の渇きを潤した。
「クソッ!あの教官、前々から思ってたがイカれてやがる。今日こそホントに死ぬかと思ったぞ」
「お腹が空きました……パンを、今すぐパンを食べないと私は、私は……っ!」
その後、女子更衣室でぶつぶつと何かを言い続けるユミルとサシャの横で私も着替える。汗まみれの兵団服は気持ち悪くて仕方なかったけど、疲れて身体が思うように動かない。
ユミルとサシャの二人はさっさと着替えて更衣室を出て行ってしまった。多分、食堂に直行したのかもしれない。サシャはともかく、ユミルにも置いて行かれてしまった。そんなこと、今までほとんどなかったはず。
でも、それも仕方ないことだった。
「……今日は、大変だった」
「戦士になんて、ならなきゃよかった……」
側で着替えていたミカサもアニも力無く独り言を呟く。
今日の訓練も最後まで動いていられた女子の訓練兵は、この二人だけ。でもこの二人ですら心根尽き果てるほど過酷だったということ。
みんな疲れ果てていて、命の危険を感じるほどの訓練だった。ユミルが私に構う余裕がなくなるのもしょうがない。私はミカサとアニと無言のまま更衣室を出た。
「えっ……?」
その直後のことだった。
それに最初に気がついたのはミカサ。ミカサは惚けた声を出して、ある方向を呆然と見つめていて、何事かと思ってアニと私もそちらを見る。
視線の先にいたのは彼だった。まだ着替えは済んでいないらしく、兵団服のジャケットを手に持ち、シャツとズボンだけのままでベンチに座っていた。
私は彼を見て、すぐにミカサの反応の意味が理解できた。
首元に薄く煌めく良い香りのしそうな汗。膝の上で組まれた無骨で長い指。気怠そうに映る端正な顔立ち。
それを見てると、何だか――――
「あいつ、エロ……」
ぽつりとアニが呟いた一言を、私もミカサも否定しない。
同世代の男子からは一度も感じたことのない異性の魅力。
彼は周囲にそれを無造作に振り撒いていて……こんな気分になったのは初めてのこと。
「アニっ!」
私たちに気がついたのか、何故かアニの名前を呼びながら彼はこちらに近づいてくる。アニが彼と親しい関係にあるなんて、私は知らなかった。格闘術の訓練でたまに組んでいたのは知っていたけど、大して仲が良さそうには見えなかったから。
彼は私たちの前まで来た後、何を言うでもなく黙り込む。ただ黙り込んで、私たち三人を順番に睨みつけるかのように視線を向けてくる。頭のてっぺんからつま先に至るまで、まるで品定めでもするかのように。
初めにアニ、次にミカサ、最後に私。
もう訳がわからなかった。訳がわからないまま、私たちは顔を真っ赤にして彼の視線を受け止めるしかなかった。
「もっ、最悪……ッ!」
赤面したアニが叫ぶ。
「こんなことなら一度鏡を見とけばよかった……!」
アニの言う通り、更衣室の鏡で身だしなみを整えておくべきだった。あまりに疲れてたから今の格好はめちゃくちゃ。髪はボサボサだし、服もよれた古着で、下着だって上下が合ってない。
彼に絶対ずぼらな女だって思われた、最悪……!
「あっ……」
恥ずかしさに耐えながら彼の視線に耐えていた時、ミカサが何かに気がついたらしく、またもや惚けた声を上げた。
「うわっ。本当、最悪……」
アニの場合は、気持ちが悪いとでも言いたそうに嫌がってる素振りを見せた。形だけは。
「お、大きい、ね……」
私はそれを見て目が離せなくなった。心臓のドキドキが止まらなくなり、下腹部がぞくりと震え上がる。
彼の左足の太ももには、勃起したおちんちんの輪郭がズボン越しに浮かび上がっていた。おちんちんは今でも十分大きいけど、彼が私たちに目を向けるたびに一回りずつ腫れ上がっていく。
私たちを見て、興奮してるんだ……
(彼に女として見られてる。セックスの相手として見られてる。種付けする繁殖相手として見られてる……♡)
ごくりと唾を飲む音が、私たち三人の誰かから聞こえてきた。一体誰なんだろう?
アニ?ミカサ?それとも、私?
「アニ、来い」
「ちょ、ちょっと!?力、強すぎて痛いっての……」
選ばれたのはアニだった。彼はアニを力づくで引きずっていき、アニはそれに文句を言いながらも大人しく引きずられていく。
彼の手なんて簡単に振り払えるくせに。
彼に選ばれて内心では大喜びのくせに。
彼に求められればどうせなんだってするくせに……っ!
(アニなんかより、私の方が――――!)
「 ――――クリスタ?」
「……えっ!?ど、どうしたの、ミカサ?」
(私は、何を考えてたの?)
ミカサの言葉に、ようやく我に返った。自分の性格の悪さに思わず自己嫌悪する。
「あの二人、これから何をするつもりなの?」
「何を、って……そんなの、決まってるよ……」
「食堂はあっちじゃない。あっちにあるのは兵団の物置場だけ」
「……えっ?」
「教えて、クリスタ。あの二人、これから何をするつもりなの?」
ここでようやく気がついた。ミカサは本当に何も知らないんだということに。
「えっと、それは……」
「気になるから跡をつけてみることにする」
「ええっ!?」
そう言ってミカサは早歩きで立ち去っていく。
「……どうしよう?」
といっても、やることは一つ。
「ミカサが二人の邪魔をする前に、誰かが止めた方がいいよね……?」
私もミカサの後を追おうとした時、あることに気がついた。
(すごい濡れてる……)
3話くらいでの完結を予定。続きは近日中にあげたい。