その繋がりは、もう体にさえ

※ハジメ×檜山
※pixivにも投稿しています

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第1話

 

 

 薄暗くぼやけた視界。暗く染められて、外の月光もカーテンによって遮られたこの部屋で二人の声しか響かない。

 たん、たん、たん。

 柔らかく、弾力のあるモノが、お互いに付かず離れず上下に跳ねる。その作業、いや、その行為はまさに音楽を奏でるかのよう。奏者は、一定のリズムを刻みながら淫靡に彩り、打ち立てた『音』の数だけの快楽を身に感じていた。

 逆に下の方はどうだろうか。『上』が奏者ならば、下は楽器と例えるべきだろうか? 少なくとも何をされてもされるがままを選び、抵抗をすることもなく身をゆだねているならば、これはお互いに合意の上での音楽会だ。

 暗い部屋で行われるのは、一人の奏者と一人の楽器の音楽会。淡い光すらもこの世界は、外界を拒絶し、ただただ二人の世界を作り上げる。この世界に有るのは、淫夢に魅せられた二人の弾け合う肉の音と切なく漏れると息で満たされている。

「へえ、檜山くんってほっぺが弱いんだね」

 上からふらりと垂れ下がる二本指が、羽のようにふわりと頬を撫でる。口元の頬袋から耳もとのほうにまでつ、つ、つ……と、滑るようにしてなぞる。

 瞬間、下にいる者……檜山の背筋から冷たい氷を押し当てる様な感覚が襲う。一瞬にして自身の弱点をさらけ出されるようで、一抹の恐怖を覚えるが、上にいる者の目が檜山の心を捕らえた。

 アレを見れば、ある程度の恐怖なんて子供だましでしかない――それだけに、檜山と言う男は自分の上にのしかかっている南雲ハジメと言う男に恐怖と戦慄と友情と……それ以外に何を感じているのだろうか。それは、彼自身も分かっていないのだ。

 だが、分かっていることがある。それは、自分が南雲と『繋がっている』……ということくらいだ。下腹部から伝わる快感が頭にも、心にも染み込ませるように教えてくれる。教え込まれる。

 本来、この手の行為はどんな生き物だってする事だし、むしろ生理現象であるならば男と女。この一組があるだけで、親交を深めるとなればその極地である性行為にたどり着くのはもっぱら自然な事である。

 そして、それは檜山大介……自分自身にも当てはまる事だ。

 

 

 数日前、恋人の白崎香織と始めて同じ夜をベッドの上で過ごした。お互いに初めて同士だった故に肌を触れ合うのも直接的な好意をするにしてもぎこちないところはあったが、お互いに絶頂に至るまでのテクニックを披露するよりもその過程における行為が、愛を確かめている気がして、果てたその時はベッドに寝そべりながらお互いの顔を見て笑いあって――仲睦まじい。そう言えるだろう。どんな恋人も一度は辿る道筋である。檜山は、そんな大勢いる恋の通過点を通った男の一人なのだ。

 次の日は、夜になっても帰ってこなかった事と白崎の所で泊まることを連絡していなかったことにハジメは立腹だったが、事情を察してくれたのかそれ以上は何も詮索される事なく、むしろやたら豪勢でなおかつスタミナのつきそうな料理を振るまれた時は、苦笑いで返した。

 そう、少なくともその時はまだ笑い話にできる範囲だったのだ。たった一つの幸せの階段を昇り、友人もそれとなく祝福してくれる青春の一ページのはずだったのだ。

 にもかかわらず、この光景はどういうことなのだろうか。

 自分とハジメが繋がっている。

 これがまさに異常なる事態なのだ。本来男女で行われるべき行為は、男同士で行われ、排泄物を出すための排泄器が本来の役割を放棄し、白崎を貫いた檜山のソレを受け止めている。そして、『これ』を行っている等の張本人は檜山に跨りながら、なおも腰を上下に落とし、光が射さない暗闇の部屋の中で爛々と輝く瞳を檜山に落としていた。

「んっ、んっ……」

 にちゅ、にちゅ、にちゅ。単調だった腰の動きが上下の運動をやめてピッタリと肉と肉を合わせて、こすり合わせるように……

「んんん……」

 ぐりゅ、ぐりゅ、ぐりゅ。ピタリと密着させ、一部の隙間もなくこすり、こすりと合わせていく。

 それと共に檜山の心身、神経共に快楽の渦に堕としこんでいく。上下に動かないことでみっちりと肉厚のある穴が、ぎちぎちと生き物のように檜山の逸物を締め付ける。まさに、股に駆ける快感を例えるなら稲妻だろうか。

 ふと、快楽の波にも頻繁と言う訳ではなく、刺激も受け続ければ余裕が生まれてくる。桃色の思考に染め上げられたかと思われた檜山の頭脳派、一、二割の常識を取り戻し、ハジメを押しのけようとして手を伸ばした……

「ダメだよ」

「……っ!?」

 触れようとしたとたんに、檜山の両の手はハジメの手に捕まれる。合わさった二人の手は、指と指を絡め合い、ゆっくりと……檜山の手は布団の上に押し付けられた。

「おしおき」

 ぽそりとハジメが呟いたかと思うと、これまでゆっくり目に押し付けるような腰が、再びピストンを始める。

 平行線だった快感が、急激な動きにより、強い衝撃となって脳を刺激する。先ほどまでの動きに比べてギャップがあるゆえに脳髄にまで響き、檜山に抵抗させることを許さない。

 だが、直感、いや、感覚が檜山を理解させる。これでトドメだ。これでフィニッシュを決めるつもりなんだと。

「檜山くん……ん、さぁっ……」

 激しく腰を上下させて、息が切れている。それゆえにハジメの言葉は喘ぎ声となりながらも吐き出すようにして、檜山に向ける。

「白崎さんと幸せになるのも良い。キミがあの子と一線を越えて繋がれるのも友人として僕はキミを祝福するよ」

 まるで何かを確認するかのような問いかけ。だが、そんなことを言われても檜山は答えられないし、この行為に堪えられていない。

「忘れているみたいだから言っておくけどさ――――」

 ドクドクと自身の肉体に流れる血流、全身に感じていた快楽の渦が下半身へと集まり一点へと集中されていく。

 もう、分かり切っていた。出る。出てしまう。

 香織とさえ、こんなことをしようとは思わなかった。健全な男女の付き合いをするという事を考慮して、ゴムを着用してお互いに愛を確かめ合ったのだ。

 なのに、今、目の前にいるこいつはそれにかまわず、自身の中に情欲の塊を吐き出させようとしているのだ。

 男は妊娠できない。そんなことは当たり前なのに。

「――キミはずっと僕一緒だ。覚えておいてね」

 高鳴る心臓、焦点が合わずグルグルと回りだす目、荒くなってあえぎ後と一緒に漏れる吐息。

 視界が、目の前にあるものすべてが――爆発を起こした。スパークしたのだ……

「あ、あ、あ、あ……」

 吐き出すようにして、潰れた声しか出ない。ドクドクと流れるそれはすべてハジメに流されていく。いや、この場合は搾り上げられると言うのが正しいのだろうか……

「……かわいいね。涙が出るほど気持ちよかったんだ?」

 

 

 その後は、しばらく動けなかった。今さっきまでやっていたことが自分でも信じられなかったし、受け入れたこともさらに信じる事は出来なかった。

 自分には恋人がいるのだ。それもれっきとした女性であり、純情もその人にささげた。

 なのに、今、シャワーを浴びに行っている親友はそんな異常ともいえる行為を行っておきながら鼻歌交じりに体を流しているのだ。この曲は聞いたことがある。最近流行のアニソンだ。

 今、ハジメはどのように体を洗っているのだろうか。とりあえずはシャワーでサッと体を流す程度だろう。風呂は栓を抜いてお湯を出してしまったのだから入れないし、高校時代の昼には手っ取り早く飯をすませるアイツがわざわざお湯を入れなおすとは思えない。

 まずは、シャワーの栓をひねり、水になっているかを確認。それが丁度いい湯加減になったら頭からかぶり、汗だらけになった髪と体を洗い流すのだろう。シャワーのお湯を当てる場所は、上から段々に下へと向かい下半身に到達。まだほのかに残る臀部の感触と落とした影を感じながらドロリ……着床なんてするわけがなく、檜山が吐き出した劣情を全部流しだすのだろう。

 膨らませた想像に檜山は、ハッと我に返って頭を振るとシャワーが止まり、扉が閉まる音。少しばかり時間が空いたのは体を拭いていたのだろう。しばらくしたらハジメが部屋に戻って来た。

 シャワーから上がって来たハジメがスタスタとこちらに歩いて――特に檜山に何もすることなくそのまま布団に戻った。

 再開しないのか……あれだけ好き放題やっておきながら第二ラウンドはないらしい。いやいや。別にやってほしいわけでもない。そもそも自分はノーマルであって……

「キミが」

 びくり。布団にもぐって眠っていたと思ったハジメの声に檜山は、そちらに振り向く。

「キミが自分の立場を忘れるたびにまた相手をしてもらうよ」

 それを聞いて、檜山は納得した。ああ、これもこいつの復讐の内なのだ、と。

 生活も勉強も人生の道も全て決めてもらった。だからこそ、自分に服従するべきだと。自分のひざ元に置いておきたいのだと。檜山は、やっとそう理解できた。

 しかし、分からないことが一つだけある。ならば、なぜわざわざ性行為に及ぶ必要が……?

「ねえ、檜山くん」

「なんだ」

「かわいかったよ」

 ……今ので大体理解できたかもしれない。かわいい、などと言う言葉はある種格下に対する評価だ。自分に被害の及ばない、愛玩用動物への誉め言葉。つまり、先ほどのはペットの頭を撫でるのと同意という事だ。やる事で上下関係を叩き込み、そしてやってもらった方も喜ぶ……

 じゃあ、自分はやってもらって嬉しかったという事になる。なってしまうのだろう。

 だが、もう檜山はどうでもよかった。今の人生がこうなってしまったのは自分のせいだが、同時に自分が選んだ道なのだ。いまさら、何かを言えた立場ではないのは分かり切っている。

 そう考えて、そうやって自分を言い聞かせて。 

 ばさり。

 布団の上に倒れてそのまま檜山は眠った。檜山の目はハジメの方に向けられている。出来るなら、顔を合わせるのは癪だから背中を向けたいと思っていたのだが、背中を向けたら何をされるのか分からない。だから、こちらの方から見張っておく必要があった。それだけのはずである。もう、乗られていないのに見るのは危険視しているからだ――なんどもなんども自分の中で反芻させる。

 すぅすぅと寝息を立てながら眠る親友の顔。先ほどまでに自分を支配していたその顔は、少年のあどけなさと青年としての逞しさの中間にあたる表情を浮かべている。 

 「もう、何もかもがめんどくせぇ……」そう言って、檜山はそのまま眠りに付こうとした。 

 自分の人生に見切りをつけ、他者に背負わせている時点で何かをいう資格などない。思考も未来も投げ捨てて、夢の世界へ旅立った。

 

 

 


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