※この作品はR-18です。

神様の箱庭   作:ボルメテウスさん

14 / 14
3人と三日

夜の神社は、あまりに静かだった。

 

 新年を迎えたばかりのツツジ台。喧騒が去った参道の奥にある裏手の縁側に、俺はアカネと二人で座っていた。吐く息が白く、肌に触れる風は冷たいのに、アカネの手だけはやけに温かかった。

 

「静かでしょ? 人が来ないようにしてあるから」

 

 当然だ。この世界の支配者は、彼女。神様のくせに、浴衣の帯をちょっとゆるめて、俺の肩にもたれかかってきている。肩が触れるたび、薄布越しの体温がじわりと染みてくる。

 

「ねえ……。こっち、向いて?」

 

 強制はしないが、断れない。目を逸らす理由が、俺にはなかった。アカネは俺の顎に指を添えて、静かに視線を交わせてきた。

 

「キスって、どこからが一線だと思う?」

 

 冗談めいて問いかける声。そのくせ目は真剣だ。答えようとしても、言葉が出ない。いや、出す必要すらないのかもしれない。

 

 アカネの手が、そっと俺の胸元に触れた。浴衣の合わせをわずかに開く。ごく自然に、無言のまま、俺の唇に何かが近づいた気がした——

 

 ……次の瞬間、静寂。鐘の音だけが響いていた。

 

 俺が再び意識をはっきりと取り戻したとき、アカネは隣に座り直していた。頬は赤く、浴衣の襟元が少し乱れている。

 

「ふふ……やっぱり、こっちの世界のほうが居心地いいよね」

 

 まるで、何かが確かに“終わった”ことを告げるような声だった。

 

 その日、俺は奇妙な引力に導かれるように神社を歩いていた。

 

 正月三日目のツツジ台。人混みの中、馴染みのある顔は見えなかったはずなのに——

 

 視線を感じて、振り返ると、彼女はそこにいた。

 

「やっと見つけた。あんた、ほんと“無個性”って感じで、逆に見つけやすいんだよね」

 

 彼女は笑っていた。

 挑発的に、そして無邪気に。目元には獣のような光が宿っている。

 

 ムジナ。

 

 赤い浴衣を着崩し、髪をラフにまとめたその姿は、まるで“正月”という言葉の対極にあった。

 

「つきあってよ、ちょっと。……面白いもん、用意してるんだ」

 

 断る暇もなく、俺は腕を引かれた。

 細い手首に意外な力がある。人の目がない裏道へと、彼女はためらいもなく足を踏み入れていく。

 

 気づけば俺は、神社裏の人気のない細い石畳の路地にいた。

 両脇を木の塀に囲まれ、空は狭く、空気は少し湿っていた。

 

「はい。これ、おみくじ。普通のじゃないよ。“恋愛運限定”ってやつ」

 

 ムジナが差し出した紙は、手作り感満載だった。

 表には赤い文字で「大胆みくじ」と書かれている。

 

「ほら、引いてみなよ。どうせ“凶”とか出たって、私は気にしないし」

 

 半ば無理やり渡されたそれを開くと——

 

 『恋愛運:体の相性……最高♡』

 

「ぷっ……やば、引き強すぎでしょ、あんた」

 

 ムジナは笑いながら、俺の胸元にぐっと顔を寄せた。

 瞬間、視界いっぱいに、彼女の目と唇が広がる。

 

「……で? どう思った?」

 

 口元が、まるで触れるような距離にある。

 彼女の浴衣はすでに帯が崩れかけていて、胸元がゆるく開いている。

 

 視線を動かせば、鎖骨、白い肌、そしてその下。

 見てはいけないのに、見えてしまう。

 

 ——いや、見せているのだ。

 

「ふふ……アカネや六花はさ、“ちゃんとした恋愛”をしたがるでしょ。でも私、そういうの……あんまり向いてないんだよね」

 

 彼女の指が、俺の胸に触れた。

 肌の上から撫でるように滑る指先は、やけに熱を帯びている。

 

「私ね、思うんだ。“好き”って、やるかやらないか、じゃないよ。どこまで近づけるか、だと思う」

 

 ムジナの体が、俺の上に重なるように寄ってくる。

 背後には塀、前には彼女。逃げ場はない。

 

「ん……ちょっとだけ、目、閉じて」

 

 その言葉が命令なのか、お願いなのかも分からない。

 目を閉じると、耳元で吐息がかかる。

 指が首筋に回る。唇の気配が、頬に、顎に、そして——

 

 ——気が遠のく。

 

 ***

 

 気がつくと、俺はその場に立ち尽くしていた。

 

 ムジナは少し離れた場所で髪を束ね直していた。

 その浴衣は肩が大きくはだけ、帯も結び目が緩くなっていた。

 

 彼女の頬には、紅潮の色がほんのり残っている。

 指先で首元を撫でながら、笑みを浮かべる。

 

「……うん、やっぱ悪くないわ。反応、ね」

 

 彼女はそれ以上、何も言わなかった。

 俺も問いかけることができなかった。

 

 ただ、ムジナの残り香だけが、確かに俺の中に滲み込んでいた。

 

年が明けて三日目の夜、アカネから突然届いた招待状のようなメッセージは、俺のスマホの画面に淡い光をともしていた。

 

「今夜、あなたの部屋で、新年会をやるから準備しといてね♡

主催:アカネ・六花・ムジナより」

 

 ……俺の部屋、ってなんだ?

 

 困惑する間もなく、気づけば部屋は別物になっていた。

 

 畳の香り。障子。暖色の照明。床には大きなこたつ、隅には酒瓶と重箱。

 まるで、和風旅館の一室のように完璧に整っている。

 

 そう、アカネが創ったのだ。

 

 そして時間ぴったり、三人のヒロインが一斉に現れた。

 

「おじゃましまーす」

 

 浴衣姿の六花は、湯上がりのように髪を軽く結い、落ち着いた紺地に赤い小花模様。

 ムジナは例のごとく着崩した鮮やかな紅の浴衣。帯は崩れ、肩口が大胆に開いている。

 アカネは——清楚な白地に、あえて“透け感”のある薄布を重ねていた。

 

 思わず視線が吸い寄せられた。

 三人とも、明らかに俺の反応を確認していた。

 

 始まった新年会は、異常なまでに和やかで、それゆえに緊張感を孕んでいた。

 

 料理を食べさせ合い、言葉の端々に探り合い、笑いの裏には微かな牽制が混ざる。

 

 そして——酒が入るにつれて、空気は“色”を帯びていった。

 

「ねえ、“お年玉”って……」

 

 アカネが箸を置きながら、俺の横へとぴたりと寄る。

 柔らかな香りが鼻先をかすめ、浴衣の袖が俺の腕に触れる。温かい。

 

「もらうだけじゃ、だめなんだよ? ……あげる側にも、“気持ち”が必要でしょ」

 

 すぐに六花が反対側へ回ってくる。

 無言で俺の手を取って、膝の上に乗せた。

 その手は、少しだけ震えていた。だが、離そうとしなかった。

 

「……私も。ちゃんと受け取りたいから」

 

 そして——ムジナが俺の膝の上に座った。

 

 俺の太ももに、柔らかな体重がかかる。

 彼女の浴衣の裾は大胆にめくれ、太ももから膝までがほとんど露出していた。

 

「ふふっ、こうやってるとさ、わかんなくなるね。

 誰と付き合ってるか、っていうか——もう“全員”でいいんじゃない?」

 

 膝の上にムジナ、左右には六花とアカネ。

 視界いっぱいに、浴衣の隙間、白い肌、揺れる胸元、髪の匂い、熱を帯びた呼吸。

 

 俺の身体は、どこに力を入れていいかわからないまま、熱に包まれていく。

 

「ねぇ……どこに触られたら、一番反応するの?」

 

 アカネの囁きは、耳に触れる寸前で止まる。

 首筋に感じる吐息だけで、身体がこわばる。

 

 六花は手を俺の背中に回し、指先でシャツの裾を探るように触れてくる。

 何かを確かめるように、だがとても優しく、柔らかい動きだった。

 

 ムジナは、座ったまま身体をくねらせ、下腹部に触れそうな距離まで腰をずらしてきた。

 唇の端に笑みを浮かべながら、俺の胸元に頬を押し当てる。

 

「……あんたさ、本気で誰か選ぶ気ある? それとも、こうされてるの、ただ気持ちいいだけ?」

 

 彼女の言葉は冗談にも思えたが、目は笑っていなかった。

 

 息が詰まる。視界がにじむ。

 誰かの手が、襟元を緩める。

 誰かの髪が、胸に触れる。

 誰かの唇が、頬をすべるようにかすめる——

 

 ——熱の中で、記憶がふっと切れた。

 

 ***

 

 朝。

 

 目を覚ますと、俺は布団の中にいた。

 だが、自分だけではなかった。

 

 右側にアカネ。浴衣は乱れ、帯は緩み、胸元が大きく開いている。

 左に六花。寝息を立てながら、俺の手を優しく握ったまま。

 そして足元にはムジナ。俺の脚を抱きしめるようにして眠っている。

 

 言葉が出なかった。

 何が起きたのか、正確には思い出せない。

 でも、何かが起きたのだという確信だけが、体に残っていた。

 

「……昨日のこと、さ」

 

 先に目を覚ました六花が、小さく囁いた。

 

「……別に、覚えてなくてもいいよ。……でも、忘れたふり、はやめてね」

 

 その一言が、今もまだ続いている夢から、俺を引き戻した。

 

その後、日常はまた始まった。

だが、あの夜の記憶だけは——誰も口に出さない。

誰も否定しない。

ただ静かに、俺たちの関係を濁らせたまま、時間だけが流れていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【R18】やたらとエロいリーデッドとセックスしたら懐かれた(作者:ホワイトアクア)(原作:ゼルダの伝説)

某イラストを見て思わず勃起してしまい、ついでに抜いてしまいました……あんなの見たら書かざるを得なかった……▼そんなに長く続かないので精々5話程度で終わる予定。そこまで書く内容じゃないし、息抜き程度に書いたので深く気にしないで下さい。▼まあ、リーデッドだけじゃ終わらすのもなんなので、せめてギブドやアイアンナック、ロマニーとクリミアは確定。追加は無い。▼


総合評価:63/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2024年07月15日(月) 23:04 小説情報

【R18】愛育(作者:早見 彼方)(原作:SSSS.GRIDMAN)

 同級生の新条アカネに誘われて、種付けセックスの気持ちよさを教え込まれてしまう高校生の少年の話。


総合評価:4580/評価:8.81/短編:10話/更新日時:2024年07月14日(日) 13:42 小説情報

【R18】SSSS級カノジョ宝多六花が、冴えない僕と一緒にエッチをお勉強してくれた夏(作者:前野へーた)(原作:SSSS.GRIDMAN )

16歳の宝多六花は、まだエッチでイッたことがない。▼同じ高校の先輩で恋人のユウと初エッチを済ませたけど、まだまだ乙女、初心者だ。▼そんな六花を、親友のアカネが挑発する。▼「うかうかしてると、先輩のこと盗っちゃうぞ〜?」▼「ま、負けないから!」▼そうして始まるエッチのお勉強会。六花も気持ちいいこと、ユウの好みを覚えて、少しずつ目覚めていく。女として、メスとして…


総合評価:114/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2025年12月13日(土) 21:15 小説情報

【R18】幻想水滸伝 〜淫伝〜(作者:下章)(原作:幻想水滸伝)

これはとある少年が淫帝皇となるまでの物語である。▼処女作です。よろしくお願いします。▼


総合評価:600/評価:7.06/完結:176話/更新日時:2025年08月27日(水) 14:36 小説情報

【R18】SSSS級カノジョ新条アカネは僕だけのメイドさん えっ、他の客には絶対しないご奉仕があるんですか?(作者:前野へーた)(原作:SSSS.GRIDMAN )

▼「他のお客様には絶対しないこと……してあげる♡」▼メイド喫茶で働いているアカネちゃんが他の男に取られないか凄く不安で店に様子を見に行ったら、▼店の空き部屋に連れていかれてご奉仕メイドプレイをしてくれて、▼世界で一番の独占感と安心をゲットしちゃう話


総合評価:30/評価:-.--/短編:1話/更新日時:2025年12月29日(月) 21:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>