「それ次やったらコレだから」ってヤツ。
「コレだから」なので「コレ」のシーンはありません。
※小説家になろうで硬梨菜氏が連載中の小説「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」のR-18な二次創作作品です。
「はっ……ハッ……」
静まり返った自室に、断続的な擦過音と俺の声だけが溶けていく。照明を落とした部屋は真っ暗で、自分の手元すらぼやけていた。
無視して寝ても良かったが、不愉快にも下腹部に溜まってしまった熱はさっさと吐き出すべきなのだ。
数年前まではロクにしてこなかった行為――どこぞの下ネタ大魔神のせいでこういった真似をうっすら忌避していたし――にこうして耽っている理由は一つ。
「玲、さん……ッ」
目をつむり、真っ暗から黒一色に落ち込んだ世界で、背を向けた壁の向こう側で寝ているであろう恋人の姿を瞼の裏に描く。
彼女の柔らかな肢体を、自分のものではない熱を想起するだけで否応なしに興奮が高まる。右手が滑り、ツンと鼻につく臭いが立ち上って、擦過音は粘性を帯びていく。
「はぁッ、く……ッ!」
ひとつ屋根の下で共同生活を始め、お互いの距離は物理的にも精神的にも縮まったと思う。
だからだろうか。ここしばらく玲さんとの間に
一糸まとわぬ裸体を脳に焼き付けているのに、うっかり脱衣所で見てしまったバスタオルを胸に巻いただけの湯上がり姿に煩悩を刺激されて。マグカップを傾けている最中、唇の端から顎に伝う一筋ぽっちの雫に顔が熱を帯びる。
寝る直前の髪を纏め上げた玲さんも可愛いし、ついついうなじに視線が吸い寄せられるし、眠気でぽわぽわしているところとか抱きしめたいほど愛おしい。
エロスとキュートでデンプシーロールを食らった脳と下半身がバグってこの始末。吐き出さないと落ち着かないんだよ全く!
発射の兆候を感じ、手の動きが早まり脳がスパークを散らす。勢い余って部屋に飛び散らさないよう、手元に寄せておいたティッシュ箱から数枚抜き取って手のひらごと先端に被せその瞬間に備える。
程なくして。
「うぅ゛っ……!」
右手の中で逸物が震え、左手に湿った熱がじわあ、とあまり好ましくない感触で広がる。思考が快感に痺れ、知能指数が落ちていることがなんとなく理解できた。俺は背中を丸め、波が引くまで全身を震わせ続けた。
「は、あぁ……っ」
ようやく熱が引いていき、頭の中に泥みたいな倦怠感が滲む。回転効率ガタ落ちの脳みそを無理やり働かせ、吐き出した欲望を無心で拭き取る。ゴミ箱に放り込んでから縁を引っ掴んで、立ち上がり部屋の外に出る。
向かう先はまず洗面所。手を洗うついでに玄関に行って発生したゴミを処分しておくのだ。玲さんに見られたら普通にバツが悪いからな。
幸い明日は燃えるゴミの日。ゴミ捨て場に出す予定の燃えるゴミ袋の奥底にねじ込んでおけば完全犯罪は容易に「楽郎くん?」ひょおーーーう!!
背中越しに声をかけられてちょっと口から心臓出かけた。
「れ、玲サン……?」
氷のような怜悧な声色に、振り向くのが躊躇われる。
馬鹿な、今は深夜の二時。良い子はとっくに寝てる時間だし玲さんも普段ならとっくに寝ているはず……!
「楽郎くんに、呼ばれた気がしまして」
……そういや名前呼んでたわ。十割自業自得じゃねーか。
「……楽郎くん」
「ハイッ」
トーンが一段階下りた声に背筋が思わず伸びる。ヘビのように静かな摺り足で近づいてくる気配に俺の心境はカエルの如し。心臓が軋み冷や汗が垂れるのがわかる。
「どうして――」
するり、と。玲さんの両手が俺の右手を優しく捕まえる。掌にこびりついた熱を指先でなぞられ、恐怖ではない感情が首の後ろをチリチリとざわつかせた。
「――
首筋に刃先が触れている感触を錯覚するほどに冷たい声が、俺の耳を震わせる。初夏に入りつつあるにもかかわらず、背中に氷を流し込まれたような悪寒に全身が震える。
これは質問ではない。尋問、あるいは拷問。ここからの俺の処遇は俺の返答如何にかかっているとしか思えない。
「……こんな時間だし、玲さんを起こしたら悪いな、と思って」
「そんなこと、気にしなくて良いんですよ?」
「っ」
玲さんの片方の手が俺の右手を離れ、腰の左側から回り込んで寝間着越しに俺の足の付け根を撫でる。全身を恐怖で縛られながら股間だけが再び熱くなっていく。
「私の身も、心も。楽郎くんのものです。いつ何時、どんな理由だろうと構いません。『ちょっとムラついたから使わせろ』なんて言われても、私は喜んで身体を差し出します……」
「ぅ、くっ」
耳にかかる玲さんの吐息が、危険な艶を帯びていて。もどかしい刺激もそうだが、今までになかった『玲さんに手玉に取られている』状況で脳が混乱に陥っていた。
多分、俺が一人でシていると気づいた時点で、玲さんの中で何かが切れたのだろう。切れたのは堪忍袋の緒かもしれないし、もっと深いところにある得体の知れないものかもしれない。
その結果がこれだ。今の姿は玲さんの知られざる一面か、あるいはいつかの京ティメットエミュのように身近な誰かを纏っているのか。
「なのに楽郎くんは。そんな私を放っておいて一人でちり紙に吐き出してしまうなんて。楽郎くんの欲望を受け止めることが、私の役目なのに。酷いです……」
「そ、んな。ことはっ」
知らずのうちに背中が丸まって、まだ一度も触れられていないのに逸物はパジャマの中でそそり立っていた。なんなら今強めに握られただけで出してしまいそうだ。
それに気付いているのかいないのか。玲さんは。
「でも、今回は咎めません。誰しも、一度は間違いを犯すものですから」
またもするりと、俺の右手と鼠径部から手を引いた。
「あ、っ。………?」
急に開放されると同時に、冷たさが鳴りを潜めた穏やかな声音に全身の硬直が解ける。手近にあった椅子の背もたれを掴んで身体を支える俺の背後から、再び玲さんの声がかかった。
「ですが」
僅かな安堵の隙を突くように、再び捕食者の声が響く。
「もしも、また。これに懲りず楽郎くんが一人でシてしまうのなら。それに私が気付いてしまったのなら。そのときは……罰が、必要ですよね?」
「な、何をする気で……?」
不意に、背中に押し付けられる2つの柔らかい塊。それが、ほんの僅か上下に動く。
「楽郎くんの身体に、覚えてもらうしかありませんよね」
「……それは、一体」
「私の身体を使うのが、一番気持ちいいということに、です」
普段とは真逆の立場に立たされて、本来なら悔しがっても良いはずなのだが、今の俺は鳥肌を立てるだけでそんな考えが湧いてこない。
「楽郎くんの大好きな、私の
玲さんらしい柔らかさと、真反対の鋭さ、そして。
「―――たくさん、搾り取ってあげます……♡」
とびきりの甘さを宿した声で、囁く。
「………っ!」
スタミナ枯渇するまで走った後みたいに膝が震えている。あ、危なかった。声だけで達するところをギリギリで耐えきれた。
玲さんの身体が離れ、柔らかい感触も遠ざかっていく。何らかの終わりを予感して、股間に集まっていた熱が薄情にも引いていくのを感じた。
「それでは楽郎くん。おやすみなさい♡」
「お、おやすみ。玲さん……」
後ろでばたん、と扉の閉じられる音が鳴る。それと同時に俺は背もたれを掴んだまま力なくへたり込んだ。
翌朝、正気に戻ったらしい玲さんに昨晩の態度を死ぬほど必死に謝られた。
別に気にしていないことを伝えるとホッとしていたが、「じゃああの罰ゲームも冗談?」と聞いたら露骨に目を逸らしてはぐらかされた。
まあ、別に構わない。俺が気をつければいいだけの話なのだから。
だけどね、玲さん。昨晩のアレを俺にそうさせたくないつもりでやったのなら、それは逆効果って奴だよ。
レアなイベントには目がないのがゲーマーの性だし。
彼女の珍しい一面をもっと見たいのは、男の性なんだから。
この後、理解した上でヒロインちゃんの地雷を踏み抜きに行くサンラクサンがいたとかいないとか。