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「プロデューサー、入ると特定の行動・行為をするまで出られない部屋を作った、よ」

「プロデューサー。入ると特定の行動・行為をするまで出られない部屋を作った、よ」

彼女は後ろ手で鍵を締めながら言った。かちゃん、と無機質な金属音が響くと同時に、プロデューサーの背中には冷たい汗が伝う。

プロデューサーは下手に言葉を返さず、この空間が何なのかを把握するため即座に辺りを見回し、状況を確認するのに脳を稼働させた。

ベッドと小さい冷蔵庫があるだけの9帖程度の部屋だ。ヘッドボードの棚にはティッシュの箱と潤滑材らしきボトル、避妊具らしき箱が置かれている。らしき、というのは途中で視認するのをやめたため曖昧なのだ。

元凶の彼女……篠澤広はいつも通りの眠たげな顔をしながらぽてぽて歩いてベッドに腰かける。彼女の体重分だけささやかにたわんでギシリと音を立てるそれは、安いラブホテルのベッド程度のスプリングしか入っていなさそうだ。

ドアを確認すれば鍵は単純なサムターン錠であり、普通に回して開ければここから出ることはできるだろう。しかし広の真意がいまいち読めていない今、簡単に出て行ってしまっていいものかとも思った。思ってしまったのだ。

後に考えれば、ここでスっと出て行くのが正解だった。彼女と言葉を交わすべきではなかった。広の言葉に含まれる毒は、プロデューサー自身がよく分かっていたはずなのに。

広はヘッドボードに置かれていた避妊具の箱を手に取り興味深そうに後ろ側の表示を眺めながら目線だけをプロデューサーに送る。

「どうする?プロデューサー」

「どうって、」

「もちろん……わかったと思うけど、プロデューサーは、ここから出ることは可能。便宜的に『出られない部屋』と名付けているだけで、普通に出ようと思えば出られるから」

ペリペリ、と、避妊具の外装を剥がして箱を開ける。連なったままの包みを取り出して中身を指先でぐにぐに潰しながら言葉を続けていった。

「でも、プロデューサーがここから出て行ったところで、わたしはここを動かない。目的が達成されていないから」

じ、とこちらを見上げる瞳は甘く蕩けて蜂蜜のようだった。プロデューサーは「ああ、」と思う。この瞳に籠る熱に浮かされて、自分は彼女のプロデュースを続けてきたのだと。いつもならば彼女の無茶振りに応えるべく尽力するところであるが、しかし。これは。

「そもそもの話です、篠澤さん。まず、この部屋は何ですか?」

「最初に言った通り。特定の行動・行為をしなければ出られない部屋」

「こんな部屋、初星学園内には無かったはずです」

「作ったんだよ、わたしと、千奈と、佑芽と、あとファンの人たちと」

「…………どうやって?」

「まずわたしが千奈と佑芽に、プロデューサーに対して恋をしている旨を話す。そしたら、2人がなんとかしようと色々なアイデアを出してくれる。そのアイデアの中から最も既成事実を作るのに効率的だったのが、この部屋を作ること。」

にわかには信じ難いような内容であるが、事実なのだろう。彼女がプロデューサーへ嘘をついたことは、これまでに一度たりとてないのだから。

「そうしたら、わたしが部屋の設計をする。千奈がおじいちゃんにおねだりして資金を出す。佑芽とファンの人たちとその他諸々で家具等の搬入などをする」

「馬鹿げている」

馬鹿げていると思ったし、言った。広は褒められていると思ったのか何なのか、ふふん、と得意げに笑って太ももの上に避妊具を置く。

「ファンの人達が協力するわけがないでしょう、こんな計画」

「わたしが幸せになるためって言って協力者を募ったら、沢山来てくれた」

「勝手なことをしないでください」

怒られた、と彼女は嬉しそうに笑った。反省の色が全く見えない彼女にプロデューサーは深い深いため息をつく。

「……では次に、特定の行動・行為とは具体的にどのようなものを指しますか?」

「分かってるのに、言わせるんだ。プロデューサー、ひどい。純情な乙女の口から、卑猥な言葉を聞きたいんだ。鬼畜。好き。」

「ああもう結構です。では最後に、なぜこんなことを?」

「……わたしは、プロデューサーのことが好き。プロデューサーはわたしのこと、別に好きじゃない。わたしは女で、プロデューサーは男。だったらわたしはわたしがやれることをする。わたしができるのは、女の部分を使うこと」

「好きじゃない訳では……」

「好きじゃないよ。プロデューサーが愛しているのは、アイドルとしての篠澤広。でしょ?」

その言葉にプロデューサーはぐっと喉が詰まった気になった。実際そうではあるからだ。自分はアイドルの篠澤広に惚れ込んではいるものの、女性としては見たことがない。けれども、彼女に女性的な魅力があることはわかる。だからなんと言ったものかと一瞬迷ってしまったのだ。

「だから、わたしは、強行手段に出ることにした」

広は避妊具の包みを破いて中身を取り出し、中に潤滑剤を注いで口を縛る。

「それに、ここで何もせず出て行くプロデューサーなら、わたしを担いでここを出るようなこともしない、と思う。何故ならプロデューサーは、わたしに触れることを意識的に避けているから」

たぷん、と緩く弧を描いて垂れる避妊具。色のついているものだから、透明な潤滑剤を入れているだけでも結構それっぽく見えてしまう。

「他の女性を連れてくることをしてもいいけれど、わたしはその間にこれを作り続けて、服を脱いで、プロデューサーにひどいことをされたと吹聴する」

「ぐう……」

「あ。ふふ……ぐうの音が、出たね」

多分、彼女は……プロデューサーが最初から話も聞かずに出て行けば、大人しく引き下がったのだろう。しかしプロデューサーはそうしなかった。話し合いの余地を与えてしまった。そこからは広の独壇場だった。つまり、プロデューサーの勝ち目はとっくに消えていたのだ。

「ここまでのことをされても、プロデューサーはわたしのことを嫌いにならない。なれない。きっと。それとも、もう、見限る?」

広はするりと上着を脱いで、トップスの襟元をくっと引っ張る。下着は付けておらず、皮の表面に浮き上がる骨のシルエットと色素の薄い薄桃色の突起が見えた。

「ね、どうする?プロデューサー……」

どろり。甘やかな声が、鼓膜を通って脳味噌に絡みつく。視界が一瞬滲んで狭くなり、脳みその裏側がトクトクと脈打ち始めて酔ったような感覚に陥った。

つまるところ、結局。

「俺はあなたに逆らえない」

 

────

 

ベッドに倒れた広の、色素の薄い髪の毛が放射状に広がる。その中心で淫靡に微笑む彼女は後光に照らされる女神のようだった。これから淫蕩な行いをするとは思えぬ神々しさで、しかし今から始まる淫らな行いにひどく期待している、飢えた女の顔でもあって、ゾッとするほど情欲を掻き立てた。

「プロデューサー。わたし、性行為は未経験だけど、知識はちゃんとある、よ。だから、遠慮しなくていい」

とはいえである。とはいえ、彼女の体力のなさは折り紙付きだ。性行為は有酸素運動であるから、無理はさせられない。これでレッスンやライブができなくなっては事だ。

覆い被さってそっと服の裾を捲り上げれば、横になっているせいでいつもよりも強調されている浮いた肋骨と、内臓が存在しているかも危うい凹んだ腹部、そして申し訳程度の乳房が現れる。

「……篠澤さん。どうして下着をつけていないのですか」

「不要だから。普段から要らないとは思ってるけど、いつもは一応ちゃんと着けてる。今日は……ないほうが、いいと思った」

的を射ているようで全く的外れな回答にこめかみ付近がつきりと痛んだ。しかし言及するつもりもなく、ただ薄桃色の突起に目を奪われていれば、彼女の細っこい指先がネクタイの結び目に引っ掛けられる。

「プロデューサーの考えていることが、今日はすごくよくわかる。今、触れてもいいのか躊躇ってる、よね。まだ、理性がある」

「それは、まあ」

いつも平行を描いている眉が僅かに寄り、ムッとした顔をした。

「こんなに胸を凝視しているのに、理性がある?どうしたら、プロデューサーの理性を焼き切ることができるんだろう」

ブツブツと思考しながらプロデューサーを眺めて、やがて思い至ったのか、耳を貸してほしい、と言われる。今度は何をと思いながらも腕立て伏せの要領で耳を近付ければ、彼女のぽそぽそとした吐息が耳に掛かった。

「プロデューサー。わたしの“おんなのこ”の部分、プロデューサーのつよつよおちんちんで潰して。捏ねくり回して。わたしがどうしようもなくただの雌であると、わからせて……♡」

理知的な彼女から出たとは思えない、媚びた台詞。こんなもの、普段であれば解釈違いだと簡単に一蹴することもできるはずなのに。

この状況でそんな台詞を直接脳に流し込まれてしまっては、為す術なく性的興奮の波に呑まれる他なかった。

プロデューサーは腰がズシ……と重くなる感覚の中、一番近くにあった彼女の首筋に唇を這わせた。

ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てながら口付け、人差し指の先端でカリカリ♡カリカリ♡と突起を引っ掻く。

茹だった頭の片隅で(ああ、常に爪を短くしていてよかった)などと冷静に考えながら広の首筋を舌先で舐った。筋張ったそこは乙女の汗でしっとりとしていて、どうにもたまらなかった。

「ん、ン……♡ア♡ぷ、ぷろでゅーさ…っ♡」

体勢を改め身を起こし、広の顔をちらりと見れば、彼女は眉を下げて顔を真っ赤にし、手の甲で口元を抑えて瞳を潤ませている。ひとまずはきちんと気持ちよくなってくれているようだ、と安心して乳首いじめを再開した。

乳首はいじめればいじめただけ硬くなり、充血してぷるりと揺れる。その魅力的なことといったら、筆舌には尽くしがたい。プロデューサーはすっかり熱に浮かされながら、彼女を眺めつつ責め続けた。

「あ、あ……っ、ぷろでゅーさー……っ、♡その、顔、すき……♡わたしの、ことを、……♡ちゃんと、雌だって、わかってくれてる……♡」

広は震える手を伸ばし、プロデューサーの頬に触れようとして……届かないことが分かって、ぱたりと下ろした。ゆるくシーツを掴んで、ふにゃふにゃと笑う。

「あー…………………………あまり煽らないように」

八つ当たりみたいな気持ちで、キュッと少しだけ強く乳首を摘めば、細い腰がビクンと跳ねて「きゃんっ♡」とかわゆい声が漏れた。

「んっ♡あ♡ぷろでゅーさ♡おこってる♡すき♡すき♡」

親指と人差し指の腹を使ってごく弱い力で乳首を転がせば、先程よりも上擦った声があがる。広の気持ちいいところを探りながら、空いた手で脇腹を撫でたり太ももの内側を撫でたりとフェザータッチを繰り返していけば、徐々に脚がだらしなく広がり、腰は突き出すようにヘコヘコ♡とみっともなく動き出した。

「プロデューサーに触られるの……くすぐったいのに、きもちいい……♡これが、前戯、なんだね……♡」

広は緩慢な動作で自身のベルトに手を伸ばし、もた……もた……とそれを外す。そしてまたモタ……モタ……とショートパンツのボタンに手を伸ばして外した。

「脱がせて、プロデューサー……♡」

可愛らしくもえげつないお願いごとにプロデューサーは顔を顰めながら従う。ショートパンツを脱がせれば、飾り気のない白のショーツが現れほっと安堵の息を吐いた。

「安心、した?わたしがちゃんと、パンツはいてるの……」

「まさかとは思っていましたが、よかったです」

「流石に、衛生面が気になるから……でも、プロデューサーがそういうのが好きなら、今度は穿かないでおく」

「いえ、穿いておいてください」

そう言いつつ濡れて張り付き柔らかな双丘の形を浮かび上がらせている其処をゆるりと撫でた。しゅり……♡しゅり……♡と上下に優しく撫でられる度に広の薄い下腹がビクビク跳ねる。物足りない刺激に腰をくねらせ、無意識のうちにもっともっとと強請っては甘だるい吐息が漏れた。

「はー……ッ♡はあ…っ……♡プロデューサー……っ♡プロデューサー♡♡いゃ、だ、♡直接、さわって、ほしい、♡」

腰を浮かせる彼女からは、簡単にショーツを剥ぎ取る事ができた。むわ、と雌の濃い匂いと広のにおいが混じってプロデューサーの興奮を殊更煽る。広が両脚を大きく開けばホカホカとろとろ♡雌まんこがよく見えた。

「ふふ……♡じっくり見られるの、恥ずかしい……♡」

狭そうな膣口からとろりと愛液が溢れる。それを指先で掬って、塗りつけるようにクリトリスの先端に触れた。最初は転がすように優しく、一番神経が集まっている先端だけを撫でる。広の其処は熱くて、柔らかくて、濡れていた。肉がついていないからどこも硬くて、常に血行が悪いから末端が冷えていて、簡素なデジタル時計のようだと言われた篠澤広に、こんな人間のような部分があったとは、という驚きも無いではなかったが、しかし彼女が誰よりも人間らしいことをプロデューサーは知っている。

「あ……!♡あ、あ……♡♡ぁん、っ♡ああ♡きもち、い、♡クリトリス♡プロデューサーに触られるの、きもち、いい……♡」

ぬりゅ♡ぬりゅ♡と濡れた指先で円を描くようにクリトリスをヨシヨシ♡されるたび、広の脳みそはバチバチ音を立てた。まるでショートしているみたいだなんて、陳腐な感想しか出てこないくらいに――この快楽に浸っていたいと思ってしまうくらいに気持ちよすぎる。今まで自分で慰めていたことは数あれど、こんなに気持ちよかったことはない。

甘ったるい媚びた雌声を上げて、ヘコヘコ♡と腰を動かして、好きな男に触れられる快楽を享受して。ただの女でいられることが嬉しくて口角が上がる。

「あ゙ッア、♡♡あ、いく、いく、ぷろでゅーさ、イッグ…………っ♡♡」

脚がぴん、と勝手に伸びて、つま先がぎゅっと丸まって。大きな快感が背中をゾゾゾと駆け上がって脳みそを弾けさせた。

「(知らない、こんなのは、しらない)」

声になっていたかはわからない。息を呑んだから、たぶん言葉としては成り立たなかったと思うけど。

仰け反ってから力なくぱたりとベッドにうずまる広を見て、プロデューサーはふたつの意味でドキドキしていた。ひとつは性欲で。もうひとつは、死んではいないかと心配で。

注視してみれば薄い腹がかすかに上下しているので、生きていることはわかる。近くにあったティッシュで雑に手を拭いて冷蔵庫を開けてみればご丁寧に初星水のボトルが入っていたのでパキリと蓋を開けて「篠澤さん」と声をかけた。

「水です。飲めますか?」

受け取るつもりはあるのかぷるぷる震える腕を伸ばして……ボトルに手が届く前に、ぱたりと倒れる。

「無理。飲ませて」

プロデューサーはハァとため息をついて彼女の頭の下に腕を入れて上体を起こし、口元までボトルを持っていった。液体を受け止めるために彼女の上唇がひよこのように僅かに尖る。そこに少しずつ水を流し込んでやれば細い喉が上下しながら嚥下していく。飲み込みきれなかった水が口の端を伝って首から鎖骨に流れていき、ぱた、とシーツに滴った。彼女はぷあ、と息をついて紅潮したままの頬でこちらを見上げてへらりと笑う。プロデューサーはそんな彼女を見下ろしながらまた溜息をついてぼす、と広の頭をベッドに落とした。

「う」

「たったこれだけでこの有り様ですか。そのザマならば到底挿入する行為なんて無理でしょうね」

……と言って。やや間があって。プロデューサーは自分の言葉にハッとする。これではまるで、自分が彼女との性行為を望んでいるみたいではないかと。

自分はあくまでここから出るためで、望んでいるわけではない……はずだ。

そう取られてしまってはたまらないと訂正をすべく広を再度見てみれば、彼女はにんまりと頬を持ち上げて笑っていた。

「嬉しい。プロデューサーが乗り気になってくれた。それはつまり、わたしの魅力がプロデューサーに通じた、ということ……ふふ」

「違います。ここから出られないのは困るので」

「出ようと思えば出られる、よ?」

「言ったでしょう。俺はあなたに逆らえないんだと」

「ふふ……そういうところ、好き。」

ある程度落ち着いたのか、広は身を起こしてベッドの上にちょこりと座る。乱れた髪の毛をそのままに、膝を抱えた。

「とはいえ、今のわたしの体力では……性行為を最後まで行えないのも、事実。ゆくゆくは子どもだって作りたい。よしんば妊娠までできたとして……子どもを産む段階で死にかねない。それは、嫌」

膝に顔を埋めて丸まった彼女。色素の薄い髪の毛の隙間から覗く、蜂蜜色の瞳と目があった。

「だから、プロデューサー。わたしを……育てて。世界一のアイドルにして」

「もとよりそのつもりです。ですが俺がプロデューサーであなたがアイドルである限り、俺達が結ばれることは絶対にありません」

きっぱりと言い切るプロデューサー。そんな彼を見つめる彼女の瞳は何を写しているのか不明瞭だ。ただ、フクロウのようなまん丸の瞳でキョロリと見ているだけだ。

「だけど。いつか、あなたが世界一のアイドルになって。惜しまれながらも引退したときには……きっと。俺が、あなたを迎えに行きます。俺だけの一番星になってほしいから」

その言葉はどう聞いたってプロポーズだ。その真意に気づかない篠澤広ではない。耳の先まで赤くなったのを隠すように、さらに丸まった。

「だから、もうこういうのは無しにしましょう。あなたのすべてを見届ける前に退学処分などになりかねません」

「わかった。もうしない」

よかった、と安堵して剥ぎ取ったショーツを穿かせて。

「では出ましょうか」

「うん。プロデューサー、おんぶして」

やれやれと彼女を背負って内鍵を開き、ドアを開ければ。

「あ」

「あ……」

「…………」

ドアに耳をそばだてていたのだろう体勢のままこちらを見上げている花海佑芽、倉本千奈と目が合った。

「あ、あれ~~~ッ?!プロデューサーさんと広ちゃん!!どうしてこんなところにいるの?!」

わざとらしく声を上げながらシラを切ろうとする佑芽。

「そそそ、そうですわぁ~~~~~~~!!!!もしかして篠澤さんが体調不良で倒れられたんですの?!」

同じく、千奈。

最初に説明された通りであれば、この二人も一枚噛んでいるはずだ。だがシラを切ろうとするということは、中の会話や声、物音は聞こえてはいなかったということだろう。

いくらか安堵しながら、だが何かを言う気力ももうなく。

「ちょうどいいところに防音室があったのでボーカルレッスンをしていたんですが、篠澤さんが酸欠で倒れてしまったので看病していました」

彼女たちがシラを切るつもりならばそれはそれで好都合。適当に理由をでっち上げればなにか物言いたげな顔をしながら「え、でも」と佑芽が言いかけたところで千奈が佑芽の口を塞いだ。

「篠澤さんを寮まで送って行きます。では」

彼女たちに背を向け寮へと向かえば、広が後ろを振り向いているような気配があった。

「篠澤さん。あの防音室、片付けておいてくださいね」

「……役に立つと、思う」

「何に?」

「莉波とかが有効活用してくれる……はず」

姫崎Pの級友の顔を思い浮かべ、彼も苦労するなとまた溜息をついて……何時間かぶりの外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 

終わり


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