※この作品はR-18です。

侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従   作:ドン・ドナシアン

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12  オプセリカの証

 セリーヌは、まだ息が整わなかった。

 クロエの手が身体から離れたあとも、身体の奥に残る余韻がじんじんと火照っている。

 頬を伝う汗、こめかみに張りつく髪、ひとつひとつが、さっきまでの陶酔の証だった。

 

 ──でも、崩れては、いけない。

 この場で、命じられていないことをしてはならない。

 そう理解していても、揺れる膝は言うことをきかず、いまにもその場に崩れ落ちそうだった。

 

 ふと、ちんという音が空気を震わせた。

 ルシアンが、紅茶のカップをソーサーに戻した音だ。

 容器が当たったというよりは、わざと音を奏でたという感じだった。

 

「セリーヌ嬢。こちらへ」

 

 ただ、それだけの言葉だった。

 けれど──セリーヌの胸がどんと跳ねた。いままで以上に心臓が激しく鼓動を開始する。

 命令だ。

 それは、快感でも痛みでもなく、絶対の響き──。

 その言葉ひとつで、身体の芯がきゅうと縮こまる。

 どうして、こんな気持ちになるのか……。

 セリーヌは、自分の感情に戸惑った。

 

「……は、い……」

 

 小さく返事をし、ふらつく足取りで一歩、また一歩とルシアンの方へ進む。

 膝はまだ力が入らず、腿の奥はくちゅくりと音を立てそうなほど濡れていた。

 乳首もまだ硬く、微風のような空気の揺れにも震えそうになる。

 

 なにより裸だ。一糸もまとってない。足も素足だ。

 ただの全裸ではない。

 レコルの淫具の苛みにより、乳首は勃起し、クリトリスも膨らんでいる。なによりも、たったいまクロエとの恥ずかしい醜態を晒したばかりの状態だ。

 羞恥のあまり、まともに視線を上げることもできない。

 けれど、それでも前に進む。

 命じられているのだ。

 

 やがて、ルシアンの座わる椅子の前でセリーヌは立ち止まった。

 セリーヌの裸身を見つめるルシアンの視線が、彼女の肌の隅々までを舐めるように滑っていくのがわかる。

 息が詰まり、喉が渇いた。

 汗ばんだ肌が火照りと羞恥で染まり、汗が鎖骨をつたって落ちていく。

 ルシアンはしばらく、無言のまま彼女を見つめていた。

 つっと、膣からこぼれた愛液が内腿を伝っていく。

 

「羞恥に耐えるいまの貴女の姿は、実に美しいね」

 

 ルシアンが言った。

 低く、穏やかな声だった。

 けれどその言葉に、セリーヌはびくりと震えた。

 

「……羞恥と快楽の余韻に濡れたその肌……。自らの意志ではなく、命令によってここに立っているという事実……。恥じらいはあるが身体を隠すことはできない……。その矛盾が実に美しいよ。……恥ずかしいか?」

 

「……はい……」

 

「ならば、なぜ立っている? 身体を隠さない?」

 

「……命じられたから……です」

 

「そうだ。羞恥に震える貴女が命令に従って立っている……。それが、僕にとってなによりの贅沢だよ。感謝する、セリーヌ嬢」

 

 ルシアンは微笑んだ。

 その笑みには、残酷さもあったが、どこか満足げな静けさも宿っていた。

 その言葉に、セリーヌの胸が締めつけられるように苦しくなった。

 侮辱なのに──優しくて、甘い……。

 

「セリーヌ嬢、あなたに“環”を与えよう。この館に滞在することになるあいだは、外でも外さないように。もっとも外れないけどね……。僕の前に跪け」

 

 セリーヌは言葉が終わるや否や、その場に跪いた。

 

「あんっ」

 

 しゃがめば、股間のレコルがたちまちに淫らな刺激を発生させる。緊張でレコルの存在を束の間忘れていたのでセリーヌはまたもや恥ずかしい声を発してしまった。

 

「くくっ、セリーヌ嬢、貴方の身体は実に正直で反応が素直だ。僕を愉しませる。貴方を苛めるのがやみつきになりそうだ」

 

 ルシアンは喉の奥で笑うような声を出した。

 ……悦ばれた……の?

 その事実が、胸の奥でじわりと熱を灯す。

 嘲りの言葉のはずなのに──どうして、こんなにも心がざわめくのか。

 辱められ、見下されているのに……。

 

「さて、これが貴方に与える首輪だ。この館に滞在するオプセリカ……つまり、支配を受ける側の者も、地位に違いがあり、階級に応じた色の首輪をさせている。貴方に与えるのは、この首輪だ」

 

 ルシアンが手にしていたものは、白銀に輝くチョーカーだった。

 光を柔らかく反射するそれは、どの徽章も刻まれていない無垢の金属環……。いや……。凝視をすれば、薄らと複雑な魔道紋が表面に刻んである。あまりにも繊細で細かいので、一瞬だけではなにも模様がないように見えただけか……。

 

「えっ、白銀?」

 

 すると、横についてきていたクロエがその色を見て、驚きの声をあげた。

 セリーヌは内心で首を傾げた。

 クロエの驚きはなんだろう? そういえば、ルシアンはオプセリカにも階級があると口にしたから、もしかしたら、それほどに地位の低いオプセリカにされたということなのだろうか……。

 それはともかく、ルシアンは、クロエの反応を無視して、その白銀の環をセリーヌの細い首へとそっと嵌める。やはり、魔道具なのだろう。環がセリーヌの首に触れると、一瞬視界から消滅し、その直後、吸いつくように環がセリーヌの首に密着していた。

 ひんやりと冷たい金属が、喉元に絡みつく──。

 

「これは、逃れられない悦びと服従の証だ。さっきも言ったが、この館に存在する者は、命令を与えて支配する“ドミナ”と、従属して命令を与えられる“オプセリカ”に分かれる。ドミナは全員、身体の一部に徽章をつけている。クロエのようにね……。ドミナを見たら、頭をさげて命令に従わなければならない」

 

 ルシアンがクロエの制服の胸元に飾られている漆黒の徽章を視線で示した。

 セリーヌは頷いた。

 

「……ただし、特定の調教師である“ペド”を持つオプセリカは“スレア”と呼ばれる。スレアに対して命令を下せるのは、ペドただひとり。その者のみだ。他のドミナであっても干渉は原則として禁じられている。命令の重複は秩序の崩壊を招き、それはドミエンヌの館における最も重い違反とされている」

 

「……はい」

 

「そして、セリーヌ嬢。貴女のペドは、すぐ隣にいるクロエだ。スレアとしての徽章もあるが、それは後でクロエからもらえ。貴女が“スレア”として、これから従うべき命令も、装着を命じられる淫具も、すべてクロエから与えられる。その命令は……絶対だ」

 

「はい」

 

 跪いたまま、横目でクロエの姿を確認しながら頷く。

 セリーヌの胸の奥に、不安と入り混じるように、確かな安堵の波が静かに広がった。

 

「裸になれと言われたら、裸になる。股を開けと言われれば、開く。複数のドミナに犯されろと命じられれば、悦びながらその器となる。床を舐めろと命じられたなら、“終われ”と許されるまで、舐め続けるのだ。それが“スレア”にとっての“ペド”──命令に悦ぶ者と、命令する者の関係……。もう、理解できるだろう?」

 

 セリーヌは息を呑んだ。

 それがどんなに異常な言葉であっても、ルシアンの声には一切の狂気がなかった。

 ──すべては、すでに決められている“秩序”のように、ただ静かに語られていく。

 

「……“印”をつけていない者もいる。館長のマダム・ルーゼリア──彼女はこの館の支配構造の頂点に立つ、唯一無二の存在だ。それから、ソニア……そして、僕にも徽章はない。だが、それは当然のことだ。僕は、このドミエンヌの館そのものだからだ。この屋敷を築き、維持し、この館の理を動かしているのは、僕だからだ」

 

「は、はい……」

 

 ──これだけの施設……。

 これは、ただの“組織”ではない。

 ふんだんに用いられた高度な魔道具群──。

 明らかに贅を尽くして調えられた調度品や空間演出……。

 隅々に至るまで、常識を超えた財が注がれていることは、素人目にもわかった。

 いったい……このルシアン=モントレフォール子爵という人物は、何者なのだろう……?

 

「では、改めて、ようこそ、セリーヌ嬢……いや、セリーヌ。恥辱の悦びに飾られた甘やかな檻へ。……そして、いまから貴女は、僕との“契り”を受ける。この館で調教を受けるスレアとして、正式にね」

 

 静かに、淡々と告げられたその言葉に、セリーヌの喉がひくりと震える。

 契り──それが何を意味するのかは、もう察することができた。

 だがそのときだった。

 隣に控えていたクロエの呼吸の調子が一瞬だけ乱れたように見えた。そして、驚いたように眼を見開いている。

 

 ……クロエ?

 

 なにかを言うわけでもなく、顔を背けたわけでもない。

 それでも、セリーヌはその一瞬の微かな変化を見逃さなかった。

 なにに反応したのかはわからない。

 ただ、その小さな仕草だけが、心のどこかに妙に静かに引っかかった。

 

「さて……今日は、君に“縄の味”を知ってもらう」

 

 ルシアンは静かに言い、足元に置かれていた箱の蓋を開けた。中から取り出されたのは、数束の麻縄だ。

 粗くよられた繊維の香りが、熱のこもった空気の中にふっと立ち上る。それを手の中で軽く弾いたルシアンは、笑みさえ浮かべずに続けた。

 

「自由を奪われ、思うままに抱かれる。それがオプセリカに課される悦びのひとつだ。今日の君には、この縄で自由を失って抱かれる悦びを身体そのものに教えてやろう」

 

 その言葉に、セリーヌの身体がぞくりと震える。

 

「……縛られて、契りを交わす……のですか?」

 

 言った瞬間、横からすっと冷たい声が入った。

 

「お嬢様」

 

 クロエだった。

 

「あっ、はい……」

 

「ルシアン様やドミナ側は様々な表現をしますが、オプセリカについては、男性と交わることを“契る”などとは言いません。“犯される”と表現します。言い換えてください」

 

 その語の持つ重みと冷たさに、セリーヌは背筋を強張らせた。

 そして、小さく震えながら言い直した。

 

「……縛られて……わたしは……犯される、のですか……?」

 

 ルシアンは何も言わなかった。

 ただ、その問いを受け入れるように微かに頷いた。

 

「両手を背中に回すんだ」

 

 その命令に、セリーヌは躊躇いながら両手を後ろに回した。

 

「クロエ、縄は任せよう。以前に教えたとおりに」

 

 ルシアンが庭束をクロエに手渡す。

 

「わかりました……。では、お嬢様……」

 

 縄束を受け取ったクロエが、セリーヌの背中側でセリーヌの両腕を水平に重ねさせると、まずは手首をきゅっと重ねて合わせると静かに縛り始めた。

 縄は滑らかな動きで手首に巻き付けられ、絞められ、そして、返される。

 交差するように引かれた縄の筋は、手首と手首の間を無駄なく通り、まるで意志を持っているかのように締まっていく。

 続けて、縄の端が背中から肩甲骨を斜めに横切り、胸の脇を通って肋骨をなぞるように巻き下ろされていく。

 

「うっ」

 

 ところどころで、クロエが縄をきつく締め、思わず声が出てしまう。

 肌に食い込む感触は鋭く、けれど不思議なほど規則的で、秩序があった。

 縄が──セリーヌの鼓動を、内側から支配していく。

 縄が、もう一巡り──。

 そして、肌に食い込む麻の線が、セリーヌの意識を静かに奪っていく。

 

 ……痛くは、ない……。けれど……。

 

 引かれるたびに、皮膚の奥で熱が芽生える。

 食い込む縄の感触が、いつしか痛みから快感へ、そして快感から甘い麻痺へと変わっていく。

 

 あ……ああ……なに、これ……。

 

 腕を後ろに縛られ、胸を突き出した姿勢は、まるで自分が自分でなくなったようだった。

 羞恥も、戸惑いも、少しずつ麻の線に絡め取られ、代わりにほかのものか心を満たしていく……。

 

 安心と陶酔……。

 動けない……でも……、クロエ……なら……怖くない……。

 

 自由を奪われることが、これほど甘く、これほど心をほどくものだとは知らなかった。

 縄の圧が、セリーヌの輪郭をなぞりながら、自分の存在をなぞり返す。

 

 締めて、縛って、封じられている──。その感覚こそが、今のセリーヌを形づくっていた。

 視界が淡く滲む。

 指先は痺れるように熱く、喉の奥が乾くのに、身体の奥はぬるく濡れていた。

 それは、レコルでクリトリスと乳首の根元を締めつけられるために生まれている疼きだけのせいではなかった。

 

 ……わたし、いま……縛られて……悦んでる……?

 

 自問にも似たその想いは、もはや疑問ではなく、確信に近かった。

 

「最初にして、縄酔いを感じるか。さすがは、セリーヌだ。僕が目をつけた逸材だけのことはある」

 

 見守っているルシアンが小さく笑うのが聞こえた。

 

 これが“縄酔い”……?

 

 ただ拘束されているのではない。

 縄に抱かれている。

 そんな気分だ。

 

 セリーヌの意識は、ゆっくりと深く沈んでいった。

 麻縄の温度、肌に残る圧、動けないまま昂ぶっていく心と身体──。

 全てが、セリーヌという少女の自分を、オプセリカという存在に変えていく儀式のように思えた。

 

「クロエ、奥にセリーヌを連れて行け」

 

 そして、縄掛けの終わったところで、ルシアンがクロエに指示して、ルシアンも立ちあがった。

 

「承知いたしました、ルシアン様。……さあ、お嬢様……」

 

 クロエがセリーヌの上半身を固く縛っている縄尻を軽く引く。

 背中に高く縛られた両腕とは逆に、臀の下から股間をくぐった縄の先が、クロエの手に握られていたのだ。

 

「あっ……」

 

 たったそれだけで、腰の奥が跳ねそうになる。

 レコルは外されない。その刺激と縄の心地よさが重なり、歩みを進めるたびに甘い吐息が洩れる。──それは“導き”というより、“牽引”だった。

 クロエに先導され、ルシアンに追われるようにして、セリーヌはよろよろとした足取りのまま、奥の扉の前に辿り着く。

 ルシアンが無言で扉を押し開ける。

 

 その先に広がっていたのは……重厚な黒檀の柱に囲まれた、静謐の寝室だった。

 床には夜空のように深い紺の絨毯──。

 中央には天蓋つきの寝台がひとつ置かれていた。

 天蓋は薄絹のように柔らかく、透ける布がゆるやかに垂れている。

 壁には燭台と、ほの暗く輝く魔道の光球──。

 その空間には、まるで儀式の場にも似た、沈黙と香が漂っていた。

 

「……乗れ」

 

 ルシアンの言葉は短く、静かだった。

 だが、有無を言わせない響きがあった。

 その声だけで、命令であることをセリーヌの身体は悟ってしまう。

 クロエが、手に持った縄尻を静かに引いた。

 それに導かれるようにして、セリーヌは寝台へと近づいていく。

 天蓋から垂れる薄絹の向こう、黒檀の柱に守られた静寂の聖域──。

 セリーヌは縄に縛られたまま、ぎこちない動作で膝をつき、寝台に身を沈めた。

 股をくぐった縄だけは、ルシアンがセリーヌを犯す邪魔にならないように股間から外される。

 

 その間にも、ルシアンは寝台の脇に立ち、無言のまま服を脱ぎはじめていた。

 上着が脱がれ、シャツが肩から滑り落ちる──。

 無駄のない動作で、次々と布が床に落ちていく。

 やがて、彼の裸体があらわになった。

 

「えっ?」

 

 セリーヌは思わず声をあげてしまった。




 少々長くなったので、一度ここで切り、続きは本日12:00に投稿いたします。

《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》

 また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミでコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。
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