侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
「……んっ、く……っ、ああ……っ」
甘い吐息が、喉の奥からこぼれ落ちる。
誰もいない。セリーヌとクロエ、ふたりきり──。
ルシアンに「犯された」寝室を出て、いまはクロエに連れられて、館の一般的な居住空間に向けて移動しているところである。
その静まり返った長い廊下を、セリーヌは首輪に繋がれた細い鎖を引かれながら歩かされていた。後手縛りの緊縛は、ルシアンとの性交が終わっても解いてもらえず、そのままだ。
磨き抜かれた黒大理石の床に、サンダルの音が小さく湿ったように反響する。
天井は高く、宙に浮くように吊るされた燭台が、ゆらめく明かりを壁面に落としていた。
また、その壁際には、重厚で華麗な金飾りの調度が、等間隔に並べられている。
漆黒の台座には、花の意匠が刻まれた香炉、銀細工の燭台、見たこともない古式の魔具が並んでいて、絨毯ひとつ敷かれていない床は、むしろ空間の荘厳さを際立たせ、整然とした緊張感に満ちていた。
けれど──。
そんな美しさを、セリーヌは正面から見ることができなかった。
前屈みの姿勢。膝を内側に曲げ、震える脚を必死に支えながら、ひと足ごとに喘ぐように進むしかなかった。
その理由は、股間に喰い込む一本の縄──。
前後に瘤が仕込まれた黒革の「股縄」だった。
前の瘤は、クリトリスに装着されたレコルの奥にぴたりと嵌まり、歩みを進めるたびに押し上げ、擦れ合いながら敏感な芯を刺激する。
後ろの瘤は、アナルの入り口に密着し、くすぐるような感触で意識の底を撫でてくる。
「また、遅れてますよ。もっと早く」
クロエが鎖を思い切り引っ張った。
「あんっ」
首を圧迫され、早足になったことで縄瘤の圧迫感が増大し、腰から力が抜けそうになったセリーヌの脚がもつれてしまった。
「あっ、いやっ」
身体が傾き、ぐらりとよろめく。
後手に縛られた腕では支えられず、反射的に引かれた鎖によって首が持ち上げられる。
必死に踏ん張って、なんとか倒れることだけは防いだ。
それでも、歩くのはやめられない。首輪の鎖は引かれ続けている。
セリーヌは懸命に足を進めた。
まるで、躾けられる犬のようだと思った──。
「くっ、ああっ、あっ……」
でも、どうしても甘い声が洩れてしまう。
股間に喰い込んでいる縄瘤でも堰きとめられない愛液が内腿から膝に伝っているのがわかる。
たまらなく恥ずかしい……。
しかし、その恥ずかしさが、どこか悦びにも似た甘さを身体の奥に芽吹かせてもいた。
羞恥と快感がせめぎ合い、理性の輪郭がじりじりと崩れていく。
まるで、腰の奥に熱を孕んだまま、何かが解けていくような──。
心が、どろりと溶け出していくのを、自分でも止められなかった。
……いや……こんなの、おかしいのに……。
なのに、股間に食い込む縄の瘤が、レコルをくちゅりと擦った瞬間──。
セリーヌは、反射的に脚をぎゅっとすぼめてしまった。
「やっ……あっ……だ、め……っ」
腰が震え、内腿が濡れている感覚が、鮮明に伝わってくる。
愛液は止まらず、脚の付け根を伝って滴っていた。
いま、この姿を、誰かに見られたら──
そんな想像をした瞬間、背中にぞくりとした甘い悪寒が走る。
──どうして……こんなに……。
おかしいのに、気持ちよくて、怖くて、たまらない──。
「もっと、早くです、お嬢様」
またもや、首元の銀鎖がわずかに引かれ、喉に食い込む。
「あんっ……」
自然と甘く震えた声が洩れた。
けれど、脚を速めれば、股縄の瘤がいっそう強くめり込み、耐えがたいまでの甘い疼きが腹の奥を突き上げてくる。
そのたびに腰が崩れそうになり、サンダル越しの足取りさえ覚束ない。
セリーヌは腰を震わせながら、一歩、また一歩と、よろめくように歩き続けるしかなかった。
あの寝室において、ルシアンの腕の中で果てたあと、ルシアンが執務室に戻っても、すぐには寝台から立ち上がれなかったセリーヌだったが、クロエによって、すぐに隣室──「支度の間」へと連れて行かれた。
そこは、白石の床と鏡張りの壁に囲まれた、無機質な静謐をたたえた部屋だった。
『お嬢様の“準備”を整えます』
そう告げたクロエの手によって、肌は丁寧に拭われた。だが、股間とその奥──快楽と支配の痕跡は、わざと残されたままだった。
与えられた装いは、羞恥そのものだった。
薄桃色の布地で仕立てられた胸当ては、前で紐を結ぶだけの簡素なエプロン型。柔らかな布が乳房の上部だけを覆い、下乳は露出したまま。しかも、紐をほどけば左右に即座にはだける仕組みで、「隠す」ことより「見せる」ための衣だった。
しかも、後手縛りの縄も解いてもらえなかったので、上衣は左右を切断して、ただ首から布をかけただけの状態だ。真横からは、縄掛けをされている乳房はほとんど隠されてない。
腰に巻かれた布もまた、辛うじて腰を隠すだけの丈しかない布を前と後ろに垂らし、申し訳程度に覆うだけ。横腹から鼠蹊部にかけては完全に晒されている。しかも、動くたびに布が揺れ、下肢の肌が覗いてしまう。
その下に結わえられた股縄──それが、セリーヌをいまなお快楽の渦に追い込み続けている。
──そして、衣装の最後に、クロエが差し出したもの。
『お嬢様。こちらがわたしの“スレア”としての証です』
そう言って、クロエが丁寧にセリーヌのオプセリカとしての白銀の首輪の前部分に装着したのは、白銀の地に繊細な金細工が施され、小さな宝石が埋め込まれた首輪飾りだった。
一見して美しい装飾具に見えるが、その根元には目立たぬよう巧妙に仕込まれた細い鎖を繋ぐための金具が存在する。
そして、その証こそが、セリーヌが“スレア”として認定されたことの象徴だった。
首にそれが嵌まる瞬間、セリーヌの背筋にぞわりとした感覚が走った。
なにかが終わり、何かが始まる──。そんな直感のような、静かな震えだった。
──そして、寝室へと続く扉ではなく、“別の扉”から外へと出された。
『お嬢様。あの部屋は“盟主の間”──。ルシアン様が扉の封を解除しない限り、誰も辿り着くことはできない特別な空間です』
クロエはそう説明した。
そして、「聖域」と呼ぶにふさわしいその場所から一歩出た瞬間だった。
──違う。何かがおかしい。
真っ直ぐのはずの廊下は、どこかで微妙に曲がり、壁の装飾も同じように見えて少しずつ違う。
明かりの色も場所によって異なり、空気の流れすら変化していた。
階段はないが、くだっているようにであり、逆にのぼっているようでもある。
ほんの数歩で、セリーヌの方向感覚は失われていた。
──えっ、いま真っ直ぐ歩いているだけだったはず。なのに……同じ場所を逆に進んでいる?
そんな場所が幾つもあり、あっという間にセリーヌは進む方向がわからなくなった。
一方で、クロエはなんの迷いもなく、進み続けている。おそらく、なにか仕掛けがあるのだと思うが……。
とにかく、まるで館が意思を持って彼女を惑わせているかのようだった。
そしてなおも、股縄の瘤はレコルとアナルを、わざとらしいほど繰り返し刺激する。
「……ク、クロエ……。お願い……。少しだけ、ゆっくりと……」
セリーヌはかすれた声で懇願するように言った。羞恥の火照りと心地よい衝動に追い詰められ、涙すら滲む。
「……どうしてですか? いつも活発にお歩きになる、お嬢様でしょう?」
クロエは、振り向きもせず歩き続ける。
「わ、わたしが早く歩けないのは……っ、知ってる、くせに……」
腰をくねらせ、足をもつれさせながらも、それでも歩かされる。
「それが“調教”というものです」
クロエの声音はあくまで丁寧で、柔らかく……だが、その言葉の芯には、セリーヌの哀願などなんの意味もないということを明確に告げていた。
「ああ、そんな……」
「それよりも、お嬢様、そろそろ“盟主の間”を抜けます。まもなく、ドミナとオプセリカたちの生活区画へ。……ほかの方々も、いらっしゃいますよ」
前から静かに告げられたクロエの言葉に、セリーヌの心臓がどくりと跳ねた。
やがて、唐突に、重く濁った空気が変わった。
まるで霧が晴れるように、セリーヌの中の方向感覚が――不意に、はっきりと戻ってきたのだ。
……と同時に、微かなざわめきと、多くの人間の気配が押し寄せてくる。
そこは、ひときわ天井の高い広間だった。
重々しい扉が開かれた瞬間、視界が広がる。
人、人、人──。
館の内部とは思えぬほどの広さを持つ空間に、二十人規模の人影が
床には赤絨毯、天井からは魔灯が吊るされ、壁には戒律を象徴するような異形の紋章が輝いている。
だが、壁際の一角には、大小様々な調教のための道具と思われるものが置かれてもいた。
「……先程まで歩いていたのは、ルシアン様の私室を含めて、この館では特別な場所になります。わたしたちは、ルシアン様に呼ばれたので辿り着けましたが、通常では近づくこともできません。ここから先が、一般的な館の調教場所であり、居住場所になります」
クロエが静かに耳打ちしてきた。
「……館は、地上三階建てで、この一階には公共的な施設が集められております。二階は館で生活をする者にあてがわれる居室。個々の調教室も二階です。もちろん、お嬢様の部屋も……。三階は館を管理するための機能が集められているそうです。地下も地下二階まであります」
クロエの説明は淡々を進む。
だが、セリーヌは目の前に拡がる「光景」に、衝撃を受けて、まったく反応ができないでいた。頭にも入ってこない。
目の前の広間のような場所にいたのは、十人ほどの女と、同じくらいの人数の男の姿だ。
女については年齢も様々で、セリーヌと同じような格好の者もいれば、まったく裸の者もいる。全員が白か、赤の首輪をしていた。
また、男については、ほとんどが貴族風の軽装をしていて、服のどこかに、クロエがしているのを同じ徽章を身についている。
女は調教を受ける「オプセリカ」──。男は全員が調教をする側の「ドミナ」──。
すぐにわかった。
だが、視線の先では、セリーヌが想像もしていなかった倒錯的な光景が繰り広げられていた。
たとえば、奥にいる白い首輪をつけた少女は、壁に四肢を広げられ貼り付けられ、無毛の股間に、魔道の刃で模様を刻まれていた。だがその肌は、すでに癒される途中らしく、傷は残っていない。
少女は泣き叫んでいる。
別の場所では、首輪の色が赤い年配の貴婦人のような女性が、四つん這いで尻に何かを挿し込まれ、乗馬鞭で尻を叩かれながら、ゆっくりと広間を這い回っていた。
その顔は伏せられ、涙か汗か、頬を伝うものが光っていた。
「あの赤い首輪は“オディエンヌ”──上級のオプセリカです。そして、白いチョーカーは、”ノヴァ”──。新人のオプセリカになります」
クロエがささやいてきた。
「新人と……上級……」
ルシアンも、この館で調教を受けるオプセリカにも、階級があると説明していた。
白が新人で、”ノヴァ”。赤が”オディエンス”で新人が終わった者ということになるのだろうか。
だが、セリーヌは?
セリーヌが与えられたのは、白銀だ。白には似ているけど、比べれば全く違う。
「基本的には、オプセリカは、新人のノヴァか、調教の進んでいるオディエンヌかの二階級です……。それと、ほら、赤いチョーカーの中に宝石付きの首輪が見えるでしょう?」
クロエが小さく指さしたその先には、揺れる宝石を下げた赤い首輪の女が、ひとりのドミナの股間に顔を埋め、うっとりと目を閉じていた。
その姿は、ただ奉仕しているのではない。奉仕することを悦んでいる。
いや、もっと正確に言うなら──“奉仕を命じられている自分”を悦んでいるのだ。
そんな感じだ。セリーヌは、その女性の心情がなんとなく理解できてしまった。
そして、その瞬間、セリーヌの下腹に、ひゅうっと冷たい空気が落ちるような感覚が走った。
まるで、自分の中のどこかが反応してしまったような──そんな、説明のつかない熱のこもった疼き。
あの女性と、セリーヌの“首輪”は、同じ……。
クロエが支度の間でつけてくれた白銀の首輪。その前部に取りつけられた、“スレア”の証である細工飾り……。
ルシアンの手により、あのとき首にそれが嵌められたときに感じた、正体のわからない震え……。
それが、いままた身体の奥から蘇ってくる。
頭に、視線の先にある女性のように、ルシアンに奉仕する自分を想像した。あんなこと想像もしていなかったが、もしかしたら、自分にもできるのだろうか……。
だが、はっとして、慌てて頭の中に浮かんだ想像を打ち消す。
なんというはしたない想像を……。
「さあ、進みましょう」
クロエが首輪の鎖を引いた。
「あっ」
セリーヌは、またもや縄瘤に官能の芯を抉られて、ふらついてしまった。
膝に力を入れて、首輪に引っ張られて足を必死に前に進める。
歩くたび、太腿のあいだで瘤縄がくちゅりくちゅちと濡れた音を立てる。
「はあっ……」
小さな息が漏れた。
誰にも聞こえなかったはず。けれど、クロエがちらりとこちらを見た気配がする。
セリーヌは思わず顔を背けた。
だが、クロエはなにも言わなかった。
ただ、いつもの優しげな笑みを湛えたまま、また前を歩き出す。
「お嬢様が気にしておられた彼女が、“証”のあるオディエンヌですね。特定のドミナに“所有”されている”スレア”です。おそらく、奉仕を受けているのが、彼女の“ペド”なのだと思います」
淡々とした説明が続く。
けれど、セリーヌの耳には、そのすべてが妙に湿った響きを帯びて届いていた。
自分の中のどこかが、すでに染まりはじめている。
それを、否応なく思い知らされた瞬間だった──。
「それと、首輪が“白”の子の“ノヴァ”のことですが……。彼女たちは全てのドミナとオディエンヌから調教される下層の者の立場となります。……ええ、苛められるのが前提、という子たちですわ。ノヴァは、ドミナだけでなく、赤チョーカーのオディエンヌにも服従しなければなりません」
再び立ち止まったクロエが指を差した方向に視線を向ける。
遠く複数人の赤チョーカーのオディエンヌが笑いながら、両手を天井から吊り上げて立たされているふたりの白首輪の少女の裸身の全身をよってたかって筆や刷毛でくすぐっていた。少女は両足首も床の金具に開脚して固定されていて、狂ったように笑い続けている。ただ、あの香茶サロンでセリーヌがしていた穴あきの「ボールギャグ」というものを口に嵌められていて、笑い声はくぐもった悲鳴のような音でしかなかった。
涎どころか、涙も、鼻水も垂れ流しであり、凄まじい顔だ。
また、どのくらいの時間をくすぐられ続けているかわからないが、全身は真っ赤で脚の下にはおびただしい程の失禁の痕がある。
よく見れば、その近くに酒を飲みながらテーブルを囲んでいる三人の男ドミナがいた。
どうやら、彼らがけしかけている気配だ。
「……ふふふ、でも、あの赤チョーカーのオディエンヌたちは、あそこにいるドミナの命令で白のノヴァを苛めているのだと思いますが、しばらくすると、あのドミナたちは、立場を逆転させて、オディエンヌたちを拘束し、いま苛められているノヴァたちに仕返しをさせます。そうやって、彼らは愉しむのが常習なのです。わたしも、やられました」
クロエが苦笑のような表情を浮かべて、セリーヌを見た。
この館でクロエが一定時間を過ごしたことがあるというは事実なのだろう。
しかし、セリーヌには、それがいつの時期なのかわからないでいた。
長く侍女を休んだという記憶はないので、もしかしたら、夜のあいだだけ通っていたとかだろうか。
いずれにしても、セリーヌは、令嬢と専属侍女という立場の違いはあれ、もっとも関係が深いと思い込んでいたクロエのことをなにも知らないでいたということに対して、自己嫌悪に陥りそうだった。
また、さらに別の場所では、胸の膨らみもほとんどなく、小柄で童女にしか見えない幼そうな身体の少女が四つん這いの体勢で、股間と口の両方にドミナの男根を受け入れる光景もあった。両手はセリーヌと同様に後手で縄で縛られている。
しかも、苦しそうではなく、普通に大人の男性を受け入れていて、気持ちよさそうに淫らに悶えている。
ともかく、あちこちで展開しているには、本当に異常な光景だ。
セリーヌは呆然となっていしまっている。
「でも、皆さん、悦んでおられるでしょう? ほら、あの滴──股間から滲む欲情の証が、それを物語っています」
改めて、セリーヌはこのホールで苛酷そうな「調教」を受けている女性たちを見回す。
そして、言葉を失った。
確かに、この場所にいる誰もが、命じられ、辱められ、それでも悦びに染まっている。
どの女性も、苛められながら、あるいは、苛酷な仕打ちを強要されながら、垣間見える股間からは、欲情の証が滴り落ちていた。
──異常だ。
そう思うが目が逸らせない。
心臓が痛いくらいにどきどきしている。
セリーヌが言葉を失ったまま視線を彷徨わせていると、すぐ隣からクロエのやわらかな声が落ちた。
「……言い忘れておりましたが、お嬢様、この広間は“セントラルホール”と申します」
「……セントラル・ホール……?」
「ええ。この館において、もっとも公開性が高く、調教と奉仕、羞恥と献身の“在り方”が示される場所です」
クロエは視線を周囲にやりながら、静かに続けた。
「……ノヴァやオディエンヌの訓練進度を確認する“演示”も、すべてこの空間で執り行われます。……館の中で唯一、“ほかの誰かに見られること”が基本の空間なのです」
「見られる部屋……」
「はい。もちろん、お嬢様のようなご身分の方にとっては、耐え難いことでしょう。……でも、それこそが、“奉仕”の本質でもありますわ」
その口調はあくまでもやさしく、あたたかく──
けれど、伝えられる内容は容赦のない現実だった。
「奉仕の本質って……」
「この広間には、羞恥も、快楽も、屈服も──すべてを晒して生きる“オプセリカ”の姿が在ります。お嬢様も、やがてここで、ご自分の“悦び”を見つけられるはずですわ」
セリーヌは唇を噛んだ。
それは、優しい言葉の形を借りた、逃れられぬ未来の告知のように響いた。
「それと、このセントラル・ホールが、朝と夜の“清めの儀”の際の衛生室にもなります。もっとも、ただ皿が並べてあって、排便をするだけなのですけどね。周りをドミナに囲まれながら……。もちろん衝立などありません。清めの儀の体勢は覚えておられますよね?」
「そ、そんな、き、清めの儀って……。こ、ここで? 無理よ。恥ずかしくて死んでしまうわ」
セリーヌは、ルシアンの部屋で股を水平にまで開脚し、しかも、股間を悪戯されながら排便し、気を失うという醜態を晒した記憶を思い起こした。
しかも、もしかして、ここにいる見知らぬドミナたちの前で明日からやらなければならないのか?
「恥ずかしくても死にません。大丈夫ですよ、お嬢様。それに、非服従は懲罰です。無理矢理に実行させる手段はいくらでもありますし」
クロエが事も無げに言った。
セリーヌはぞっとした。
「……ドミナもオプセリカも、皆さま、《認識阻害》の魔具をしてますから、周囲の顔や名前は識別できないはずです。でも、実際にはここにも、お嬢様が夜宴でお会いになったことがあるような方もいます。わたしは認識してしまったのでわかるのですが、さっきの犬のように四つん這いで歩かされているのは、貞節で有名な上級夫人の方です。あの磔のご令嬢は、お嬢様が開かれたお茶会で幾度も参加されているご令嬢です。結構な方々がこの秘密の館をご利用なさるのです」
そう言って、クロエはくすりと笑った。
「えっ、そ、そうなの……。知ってる方が……」
「もしかしたら──お嬢様のこのお姿も……、知人の方の視覚として記憶に残ってしまうかもしれませんよ?」
セリーヌの胸が、どくんと高鳴った。羞恥が全身に奔る。
そのときだった。
「……おいっ、そこの白首輪」
低く、響くような男の声が、セリーヌの背筋を貫いた。
振り向くと、黒衣に身を包んだ男ドミナが、悠然と歩み寄ってきていた。
その顔は見えない。
認識阻害の魔具が機能している。
だが、胸にある”ドミナ”の徽章ははっきりとわかる。
そして、よく見れば顔が赤く、酒の香りがする。
もしかして、酔っているの?
「貴様、まだ俺の“器”になっていないな?」
そのドミナは、まるで商品でも見るような目線で、セリーヌの身体を舐めるように見下ろしていた。
「よし──。お前に命じる──。俺の“器”となれ。いますぐ、ここでだ」
ざわ……と、周囲の空気が微かに揺れた気がした。
視線が集まっている気配……。
だが、そのドミナは、その場でズボンを脱ぐと、いきなり、股間を露出した。
「ひっ、いやっ」
セリーヌは、立ちすくんで悲鳴をあげた。
そして、この場の“常識”が、これまでの価値観とは異なる軌道で流れているのを、まざまざと実感してしまった。
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