※この作品はR-18です。

侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従   作:ドン・ドナシアン

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16  剃毛と導かれる身体

 階段をのぼりきると、廊下の空気ががらりと変わった。

 先ほどまでのセントラル・ホールの熱と喧騒が嘘のように、そこは静(ひつ)に包まれている。

 館の二階、奥まった廊下の先に着く──。

 クロエが立ち止まり、その扉の前で軽く振り返って、セリーヌの首の白銀のチョーカーに繋がっていた鎖を外した。

 

「こちらになります、お嬢様」

 

 重厚な金細工の扉が静かに開かれた。クロエに促されて室内に入る。

 そこには思わず息を呑むほどの空間が広がっていた。

 

「ここが、滞在されるあいだのお嬢様用の部屋になります」

 

「……ここが、わたしの……?」

 

 セリーヌは戸口で立ち尽くしたまま動けなかった。

 部屋は広く、天井も高い。

 壁は白を基調に、繊細な金の唐草模様が施され、天蓋付きの寝台は赤紫の絹でゆるやかに包まれている。

 緩やかに波打つカーテンの隙間からは柔らかな陽光が差し込み、銀細工の装飾がその光を受けて静かにきらめいていた。

 揃えられている調度品も、ひと目で超一級のものだとわかる。

 侯爵家の客室にもこれ程の部屋はない。

 

「……オプセリカには、一般に豪華で広い部屋が与えられますが、お嬢様に与えられたこの部屋は、その中でも特別なものです」

 

 背後から聞こえてきたクロエの声にセリーヌは振り返る。

 

「そう……なのね」

 

「わたし専用にあてがわれている部屋もありますが、お嬢様のお世話がありますので、こちらに滞在させていただきます。侍女用の個室も備えられておりますので」

 

「ここの侍女用の個室……って、狭くないの?」

 

 侍女のクロエがセリーヌと同じ部屋に寝泊まりするのは、本来は当然なのだが、この館においては、クロエの立場が上である。それで訊ねたのだ。

 すると、クロエは微笑んで首を横に振った。

 

「いえ。むしろ、こちらの方が快適なのです。ドミナに与えられる部屋は、どれも最小限度の調度しかない、質素で狭いものばかりですから」

 

「……ドミナの部屋が?」

 

 セリーヌは思わず聞き返した。

 命じる者が、命じられる者より劣る部屋に住む──その倒錯に、戸惑いを隠せなかった。

 だが、クロエは淡々と答える。

 

「それが、ルシアン様の面白いところです。従属し、支配される側である“オプセリカ”たちには、徹底的に美と快楽にふさわしい空間を。一方、命じる側である“ドミナ”には、自らの役割に専心させるための質素な空間を。それが、あの方の美学なのです」

 

 セリーヌは再び室内を見渡す。

 確かに、これは「住まうための部屋」ではない。

 まるで、誰かに見せるために用意された舞台のような、そんな空間だった。

 けれど、美しい。

 

 だが、いま気がついたのだが、よく見れば天井には滑車のようなものもあるし、壁際には四肢を磔にできそうな台のようなものも数個ある。

 壁の一面の大きな鏡もあり、その正面の端には、数種類の鞭まで壁に掛けられている。

 ここは、居室でありがながら、調教部屋でもあるのだ。

 それがわかった。

 

「さて──お嬢様。浴室へ参りましょう」

 

 クロエが静かに背中を押した。

 セリーヌは、まだ後手に縄を掛けられたままの身体をわずかによろめかせがら一歩を踏み出した。

 そして、本当に部屋が広い。

 ベランダとは反対側の奥に向かうと、廊下があり、浴室らしき場所に辿り着くまでに、左右に三室ほどの別の部屋の扉があった。

 そして、廊下の突き当たりが浴室になっているらしく、引き戸になっているが出入口がクロエによって開かれた瞬間、セリーヌは思わず足を止めた。

 

 ──素晴らしい。

 

 目の前には浴室側から流れる湯気がたちこめていたが、出入口にある魔道具により湯気は室外には出ない仕様だ。そして、その湯気の中に浴室が拡がるのだが、脱衣所と浴槽側には壁はなく、浴槽側がすっかりと見通せる構造になっていた。

 いま立っている脱衣場を含めた床は温かく、赤茶色の磨かれた板床だ。一段下がった浴槽のある側は金細工と白い大理石の空間になっており、浴槽側の床は足裏が濡れる程度の湯が一面に流れている。

 湯気は天井の彫刻にうっすらと滲み、幻想的な陰影を映していた。脱衣所側の広さだけででさえ、広さは侯爵家のセリーヌの私室すら凌ぎそうで、壁には銀細工の水栓と香油棚が整然と並んでいる。

 進み入る方向の中央にはゆったりとした湯船が湯をたたえていた。

 

「この浴室は、特別な魔道具で常に湯温が保たれております。公共の大浴場も一階にありますが、お嬢様には、今日はこのひとり用のをお使い頂きます」

 

 クロエの声はとても静かだった。

 

「ひとり用? こここそ、大浴場ではなくて?」

 

 あの浴槽だけでも、十人は一緒に浴槽に浸かれるだろう。

 セリーヌは唖然とするばかりだ。

 

「準備いたしましょう」

 

 クロエがセリーヌの背後に回る。

 裸身を申し訳程度に隠すだけだった布をあっという間に取り去ると、まずは後手に掛けられていた縄の結び目に触れてきた。

 

 ──くつり。

 

 結び目のひとつが解かれた。緊縛していた麻縄が緩められていく。

 縄が滑る音とともに、緊縛されていた腕がようやく自由を取り戻そうとしている。

 

「あっ……、ああ……」

 

 だが、次の瞬間、セリーヌの身体ががくりと傾いた。

 手首に戻ってきた血流のざわめきは、なぜか熱を帯びていた。肩から指先まで、微かな痺れとともに甘い力の奔流が逆流していく。

 まるで、抑え込まれていた快感が一気に溢れ出すような感覚だった。

 それで、思わず反応をしてしまったのだ。

 

 続けてクロエは、股間を貫いていた縄に手をかけた。

 それがするすると引き抜かれたとき、セリーヌの腰は反射的に跳ね上がり、両膝を崩れるように折ってしまった。

 

「あんっ……、だ……め……っ」

 

 脚の付け根から腹の奥まで、痺れるような衝撃が駆け抜ける。

 股間に長く絡んでいた圧迫と擦過が取り除かれたことで、その部位に蓄積していた刺激が一気に放たれ、強制的な余韻を呼び覚ましたのかもしれない。

 セリーヌはその場に倒れ込みそうになり、クロエがすかさず支えた。

 くす、とクロエが笑う。

 

「やっぱり……お嬢様は、とっても感じやすいんですね。こんなに素直に反応してくださると、いじり甲斐がありますわ」

 

 クロエの手はなおもセリーヌの腰を支えたまま、さりげなく太腿の内側へと滑っていた。

 肌と肌のあいだにあるのは、薄い湯気の膜だけ──。それすらも、クロエの手がゆっくりと溶かしてゆく。

 

「クロ、エ……」

 

「はいはい、大丈夫ですよ。ちゃんと導いてさしあげますから」

 

 くすぐるような耳へのクロエの囁きに、セリーヌは声もなく頷いた。

 クロエの手が離れる。

 セリーヌは、それを少し寂しいと感じてしまった。

 

 一方で、いまだに縄を解かれたときの酔いのような感覚が続いているセリーヌの横で、クロエも全裸になっていく。

 クロエの衣が、蒸気に包まれた空間の中で静かに落とし箱の中に滑り落ちていった。

 

 ──何度も見てきたはずの身体なのに……。

 なぜか胸の奥が妙にざわめいた。

 華奢な肩。整っているとは言いがたい、けれど凛とした背筋。胸元は控えめで、肌にはところどころ、日焼けの名残と薄いそばかすが残っていた。

 肌の艶も、白磁のような自分のものには遠い。

 けれど……。

 

 ──きれい……。

 

 気づけば、そう思っていた。

 整っていなくても、輝くような美しさがなくても、どこか引き寄せられる。温かくて、優しくて、何より「わたしだけのクロエ」なのだという実感が、全身を満たしていく。

 クロエがこちらを振り向き、無言で微笑んだとき、その心地よい鼓動はますます速くなった。

 

「どうぞ、こちらへ、お嬢様──」

 

 クロエがセリーヌに手を添え、セリーヌを浴槽へと導く。

 大理石の湯船の脇に、小ぶりな椅子──湯座(とうざ)がひとつ置かれていた。

 白木の柔らかい質感が、湿気の中でも温もりを保ち、座面はわずかに湾曲している。ただ、脚側の前側に突起があり、座ると自然と脚を開く体勢にさせられる。

 しかも、お尻を乗せる部分が水抜きのために割れており、下から手を伸ばせる形状でもある。

 膝を割って腰掛け、真下から愛撫も可能なように作られた──そんな、従順のためのかたちだった。

 お湯が肩から掛けられる。

 二度、三度……。

 そして、最後に屈んだクロエが最後に下から指を入れて、セリーヌの局部をくすぐる。

 

「きゃん」

 

 セリーヌは、思わず小さな声をあげ、身体をぴんと硬直させてしまった。

 

「ふふふ、可愛いですね……。さあ、お湯に入りましょう」

 

 クロエはなんでもなかったかのように、セリーヌの腰を支えて、湯に向かわせる。

 

「もう、クロエ」

 

 セリーヌはわざと頬を膨らませてみせ、クロエに抗議するような表情をした。

 クロエとともにセリーヌもゆっくりと湯の中へ滑り込む。湯面が揺れる。

 頬を撫でる蒸気とともに、緊張がほぐれてゆくのがわかる。だが、それは単なる安らぎではなかった。

 クロエの手が背中へと伸び、ゆっくりと撫でるように、肩から背、腰、そして太腿へ。──湯とともに流されていくのは、汗と汚れだけではない。羞恥、緊張、不安──そうした名もなき感情たちも、指先の感触とともにゆるゆると剥がされていく。

 

「ああ……」

 

 クロエの指先が脚のあいだから、股間の亀裂を陰毛を梳くようにすっとなぞった瞬間、セリーヌの身体がふるりと波打った。

 

「お嬢様……湯が熱すぎましたか?」

 

 問いかけには、揶揄(からか)いの色が混じっている。だが、その声音は優しくて、それでいて、どこか試すようでもあった。

 

「……う、ううん……」

 

 セリーヌは掠れた声でかすかに首を振る。

 すると、湯の中で、クロエの手がゆっくりと動きを変える。円を描くように、しかしあくまでも洗う所作として──。

 けれど、無意識に、あるいは意図的に、触れられた場所がわずかに熱を持ち、波打つ心の深奥へ火を灯す。

 

「あっ」

 

 指がレコルの嵌まっているクリトリスに触れ、セリーヌは反射的に身体を反応させてしまった。

 

「動いてはいけませんよ……。命令です……」

 

 その言葉に、セリーヌの呼吸が止まりかけた。

 命令だ──。

 口調は優しい。けれど、絶対に逆らってはならない──。

 

 熱と羞恥が入り混じるなか、セリーヌはじっと身体を止める。自分の身体ではあるが、命令を与えられた瞬間、それは自分のものではなくなる。

 そんな気持ちになる。

 セリーヌは、ただ湯に揺られながら、クロエの淫らな手にすべてを預ける。

 

「お嬢様は……律せられることで、美しくなる方なのですね」

 

 そっと囁かれた言葉に、セリーヌの頬がさらに紅潮する。

 クロエの手がセリーヌの全身のすべてを撫でて揉み動く。

 セリーヌは必死に声を出さないように口をつぐんだが、少しでも反応を示してしまうと、そこを繰り返し執拗に愛撫され、声を出さされる。また、自分でとこんなところが、と驚くような場所の性感帯を見つけられて、そこも刺激される。

 湯の中で達することはなかったが、そのぎりぎりまでは、幾度も官能を昂らされた。

 

「ふふ、お嬢様の身体は本当に敏感です。わたしは存じ上げておりましたが、お嬢様は知らなかったのではないですか? こんなに淫乱の毒が身体に満ち溢れていることを?」

 

「か、揶揄わないで、クロエ」

 

 しばらく、お湯の中で翻弄され、セリーヌは再び湯の外に出された。

 湯から上がったばかりの身体は、すでに熱にくゆらされている。

 クロエの指先が、躊躇(ためら)いなく背中をなぞる。

 その軌跡はただの誘導の動作にすぎないはずなのに、肌は、まるで言葉を持ったかのように震えた。

 

「お嬢様、こちらへ」

 

 クロエに手を取られながら、セリーヌは浴槽の外、今度は座椅子のようなものに導かれた。

 浴槽の端に据えられたその椅子は、最初に見たときは、ただの寝台のようにさえ見えた。だが、近づいてみると──その構造は、ちょっと変わった形状をしているとわかった。

 滑らかな白大理石で形づくられた椅子は、背もたれが後方にゆるやかに倒れており、上体を仰向けに預ける形になる。

 座面の中央には大胆に空洞が設けられ、そこには肌がそのまま晒されるような空間が空いている。

 そして両脇には、湾曲した台座のような構造が伸びていた。

 

「“清め椅子(きよめいす)”です。清拭と奉仕、剃毛を行う際の、お嬢様専用のもの。まずは、腕をこの手首台に載せて頂きます」

 

 クロエが、背もたれの上端を指差した。そこには金属製の輪が二つ、左右に並んで取り付けられていた。

 しっとりと濡れた金属が、湯気の中できらりと鈍く光っている。

 

「こちらに、両手首を乗せていただきます」

 

「両手を……そこに?」

 

 クロエは頷き、セリーヌを座椅子に座らせると、セリーヌの手首を導いていく。

 促されるまま、セリーヌは椅子の背もたれに背中を預け、そして、腕を頭の上側の金属の輪の中に、手首をそっと通した。

 その瞬間──。

 ──カチャ。

 乾いた音とともに、金具が締まった。

 輪が、セリーヌの手首を逃さぬよう、しっかりと閉じられていた。

 

「つっ……」

 

 驚きと羞恥に、セリーヌの胸が跳ねる。

 クロエは微笑み、やさしく告げる。

 

「安心してください、きつくはありません。でも、外れません。……逃げようとしなければ、痛みもない構造です」

 

 言葉は穏やかだった。けれど、その中にある“支配”の意志は明瞭だった。

 まるで、命じることが当然のように。逆らうことなど想定されていないように……。

 

「次に、両脚は脚台にお載せください」

 

「脚台?」

 

「そこです」

 

 クロエが手摺りだと思っていた箇所を示す。

 手摺りのように見えるそれは、脚を大きく広げて乗せるための「脚台」なのだとわかった。

 セリーヌは息を呑んだ。

 

「……ここで脚を開いて?」

 

 自分の目が信じられなかった。

 まるで、見せ物のように、大股に身体を開かせるための器具。羞恥と驚愕がないまぜになって喉が詰まる。

 しかし、反論などできない。

 羞恥はある──。だが、それが無意味だということも、もう知っていた。

 

「そうです。お早く」

 

 クロエは平然と応じる。

 そのひと言で、セリーヌは抵抗の感情を完全に消失してしまう

 セリーヌは脚をおずおずと開き、湾曲した脚台に預ける。すぐにクロエが革帯で確実に固定する。

 脚は、自然と“開かされる”形になっていた。

 幼い子どもが母親の腕に抱えられ、おしっこをさせられるときのような姿──。

 だが、それを見られているという事実が、全身を赤く染め上げていた。

 

「では、剃毛を始めましょう。“秘所は常に無毛に整えよ”……。ドミエンヌの掟の第五条です」

 

 クロエの声が、静かに耳を打う。

 セリーヌは、何も言い返せなかった。

 そして、改めて考えてみると、セントラル・ホールで垣間見たオプセリカたちは、どの女性も陰毛はなかった気がした。

 

「では、剃毛を始めましょう」

 

 クロエが座椅子の陰から、台車に載せてある剃毛の道具を寄せる。

 

「うん……」

 

 頷いたセリーヌは、羞恥とともに、なぜかほんの少しの──甘やかな安心を感じた。

 

「それでは、始めましょうね」

 

 クロエの声が耳に降りてきて、鹸の泡がたっぷと入っている容器から刷毛を手に取る。湯が浴槽に注ぎ落ちる音の中、刷毛の毛先が石鹸の泡をすくい取る微かな音だけが響く。

 セリーヌの目に映るのは、天井の装飾と湯気のかすかな揺らぎだけ。音もなく空気が張り詰めていく。

 そして、泡が、ふわりと局部に触れる。

 

「あっ」

 

 その瞬間、セリーヌの全身が震えた。

 温かく、やわらかく、けれど逃れられない拘束の中で、敏感になりすぎた皮膚が微かな刺激を過剰に受け取ってしまう。

 

「ふふ、くすぐったいかもしれません。でも……力を抜いてくださいね」

 

 クロエはやさしく告げるが、その手の動きは迷いがない。泡を広げる手つきには、一分の隙もなかった。

 内腿、鼠蹊部、腹の下──。

 そのすべてに、泡と刷毛が忍び寄っていく。

 

「……あっ、あ……っ……」

 

 声が漏れる。理性の隙間から、どうしようもない身体の反応が顔を出す。

 とても恥ずかしい。

 しかし、それは快楽でもあった。

 ただどうしようもなく「見られている」「委ねられている」という感覚──。

 目を逸らしても、逃げても、もうすべては曝け出されてしまっている。

 

「クリトリスの周囲も丁寧に……失礼しますね」

 

 刷毛が、そっと泡の容器の中に沈み、すぐにセリーヌの股間に戻ってくる。

 繊細な毛先が肌の上を這い、粘膜をくすぐった。

 

「ああっ」

 

 セリーヌは目を閉じ、顎を大きく上げる。もう、無反応を装うことは意味を持たなかった。羞恥に対しての感情が、「拒絶」から「受容」へと、いつの間にか変わっていた。

 クロエの操る毛先が執拗にクリトリスの上をなぞっては、泡を足していく。

 抗えないものが込みあがる。

 クロエはしばらくのあいだ、執拗に刷毛で繰り返し、クリトリスを刷毛でくすぐり続けた。

 逃れられない快感の波が一気に大きくなる。

 

「……んっ……くっ……。あああ、いやああっ、いくうっ、いっちゃうのっ──。許可を──。ああ、クロエ、いっちゃう──」

 

 セリーヌは拘束された身体を跳ねあげた。

 それでも、クロエはクリトリスへの責めをやめてくれない。

 

「ふふふ、わたしにはおいきになるときの許可は不要です。いくらでも、おいきください」

 

 クロエかくすくすと笑った。

 刷毛の悪戯を続けながら……。

 

「ああっ、いくううっ──」

 

 ついに、セリーヌはびくびくと身体を震わせて達してしまった。

 迸った嬌声が湯気の中でかき消える。

 すると、やっと、クロエが石鹸を足すのをやめてくれた。

 

「お可愛いですね。これから剃刀を使いますので、あまりお動きにならないでくださいね……」

 

 クロエの声は、甘く柔らかい。

 だが、その口調にこそ支配がある。

 否応なく従わせながら、同時に包み込むような温もりを与えてくる。

 

「は、はい……」

 

 セリーヌは、快感を極めてしまったことで、荒くなった息を懸命に整えながら頷く。

 剃刀が取り出された。

 刃先が肌に触れる感覚は限りなく軽い。けれどその一瞬一瞬に、セリーヌの意識は研ぎ澄まされていく。

 

「では……この辺りも、少しだけ……」

 

 剃刀が局部で滑っていく。

 もう一度……。

 そして、もう一度……。

 セリーヌは緊張感とともに、自分の陰毛が剃られていく感覚を、肌の奥で受け止めていた。

 刃が触れるたびに、ごく浅いところで熱が通り過ぎ、かすかな冷気が後に残る。

 その刹那、柔らかな泡の下にあった産毛が剥がれ落ちていく音は、耳には届かずとも、確かに皮膚が記憶していた。

 

「また、泡を足します」

 

 クロエが一度剃刀を置き、また、泡を載せた刷毛を手にとる。

 すると、刷毛ではなくクロエの指がセリーヌの股間のクリトリスを摘まむ。

 

「ひゃんっ、クロエ──」

 

「ふふふ、じっとして、お嬢様」

 

 痺れるような敏感さが一気に押し寄せる。

 次いで、クロエの指がセリーヌの襞をそっと開く。

 その動作ひとつひとつが、命令でもあり、慈しみでもある。

 すると、クロエの刷毛が、泡をふわりと纏ってセリーヌの秘所をなぞった。

 

「はああっ」

 

 セリーヌは身体を弓なりにして甲高い声をあげてしまった。

 甘い痺れが脳髄にひたひたと満ちていく。

 刷毛が動き、指がセリーヌの股間を撫ぜる。これを繰り返される。すでに剃毛ではなく、セリーヌを感じさせるための意図であることは限らかだ。

 くすぐったいはずの感触は、いつしか鋭い甘さに変わり、肌の奥底からとろけるような熱を芽吹かせていた。

 

「ん、んあああっ──」

 

 ぶるぶると痙攣させながら、声を噛み殺すようにセリーヌは口を結んだ。

 だが、その身体は正直だ。

 また、セリーヌは絶頂してしまった。

 快感の衝撃がしばらく続き、セリーヌはがくりと脱力する。

 

「……力を抜いてください。何度でも達していいですけど、剃刀が動くときだけは、じっとしてくださいね。大丈夫です……。いまは感じる時間です……」

 

 愉しそうにささやくクロエの声は、まるで子守唄のように優しい。

 それなのに──その筆先は、鋭いほどに正確で、遠慮なく快楽の芯を捉えてくる。

 セリーヌは絶頂の余韻に浸る余裕もなく、またもや快感を引きあげられてしまった。

 

「また、剃刀を動かします……」

 

 クロエが刷毛を置き、剃刀に持ち替えた。指で泡を撫で這わせ、肌を伸ばして、刃先をあてがい──動く。

 

「くっ」

 

 セリーヌの呼吸は熱を帯び、頬は朱を濃くしていく。

 緊張で身体が反応しそうになるのを必死にセリーヌは我慢する。

 

 それからも、クロエは刷毛で泡を足しては、剃刀を当てるという行為を交互に繰り返した。

 三度目の昂ぶりは、ためらいと羞恥の中で、こぼれ落ちるように訪れた。

 刷毛のときではなく、クロエが剃刀をあてがう素振りのなか、クリトリスのレコルを摘まんでお腹の方向に引きあげて揺らしたのだ。

 

「あああっ、……ああっ、やああっ……ん、くううぅ……」

 

 肌の奥を小さな火が舐めて、全身が一瞬、浮いたような感覚に包まれていった。

 セリーヌは胸を張り出すようにして、ただただ波に呑まれるように身を委ねた。

 

「ふふ、三度目ですね」

 

 クロエは笑いながら、静かに泡を拭い、また新たな箇所に石鹸を塗り広げる。

 柔らかな刷毛がふたたび肌を這う。

 今度は、先ほどよりも、少し深く──。

 

「ふ、くうう……っ、クロ……エ……」

 

 セリーヌの声が震える。

 自分の中にあるはずのものが、外から少しずつ取り払われていく。

 どれも、泡と一緒に溶けて、流れていく。

 ──そして、大きくて深い波が訪れた。

 

「あああっ、またいくううっ」

 

 吐息が喉を震わせ、指先がきゅっと丸まる。

 肌の奥で、熱がはじける音が聞こえた。

 

「四回目ですか?」

 

 クロエは、顔を伏せたまま微笑んでいた。

 セリーヌが少し落ちつくのを待ち、また剃毛が再開する。

 クロエの刃先の動きは淡々としていたが、その動作ひとつひとつが、セリーヌを慈しみ、それでいて、同時に容赦なく責め立てていた。

 

 剃る、撫でる、拭う、息を吹きかける。

 それぞれの行為が、まるでひとつの様式美のように厳粛に繰り返され──

 そして、五度目の高まりを、耐えようとした意志の壁をやすやすと越えて、セリーヌを攫っていった。

 

「あ、だ、めっ……もう……っ、あぁぁ……」

 

 身体が硬直し、指先から肩先までが跳ねるように震える。

 声を押し殺すことも、できなかった。

 それでも、クロエは手を止めない。

 

「……綺麗になっていきますね、お嬢様。……もっと、きれいにしてさしあげます」

 

 やさしく、でも確かに。

 セリーヌのまなざしはもう、羞恥を通り越してどこか陶然としていた。涙すら滲んでいたが、それはもはや苦しみの色ではなかった。

 

 その後も、クロエは幾度となく刷毛と剃刀を使い分けながら、セリーヌの肌を整えていった。

 股間だけでなく、お尻の穴の周りまで、刷毛と剃刀は動いた。そのときには、前側以上の気力を振り絞って、身悶えを我慢しなければならなかった。

 

 肌を撫でる布の柔らかさ。吐息の温かさ──。

 沈黙の中で──セリーヌは、すべてを受け入れる。

 羞恥すら、いまはもう、“与えられたもの”として……。

 やがて、クロエが、満ち足りたように微笑んで顔を上げた。

 

「はい、もう大丈夫です。とても……きれいになりました」

 

 セリーヌは、荒い呼吸のまま、ただ静かに──その言葉に頷いた。

 

 そして──。

 温かい布で仕上げの拭き取りが行われる。

 ゆっくり、何度も撫でるように。

 その指先には、もう明確な「愛撫」の気配すら感じられた。

 

 最後に、クロエは吐息をひとつ、セリーヌの股間にふきかけた。

 その熱が、粘膜を震わせた。

 

「──あああ……っ」

 

 ほんの一瞬、視界が真白に染まった。

 セリーヌは、自らの身体が小さく跳ねるのを止められなかった。

 官能の頂点を、静かに、ゆっくりと越えていた。

 

「何回目ですか、お嬢様?」

 

 クロエが揶揄うように微笑む。

 

「ああ、もうわからない……」

 

 セリーヌは涙目でクロエに拗ねた表情を向けた。

 クロエはその様子を見届けると、何も言わずにそっと拭き布を置き、顔をあげた。

 

「とても、綺麗になりました。……お嬢様は……いえ、セリーヌは、本当に素直なお身体をしておられますね」

 

 その声は、どこまでも静かだった。

 でも、クロエがセリーヌを呼び捨てにしたとき、それだけでまた頂点を極めそうな快感を覚えてしまう。

 

 侯爵令嬢でも、女主人でもない。ただ、いまここにいる純粋なただのセリーヌを見てくれていることを、確信させるような、そんな感動だった。

 セリーヌはただ、息をつくことしかできなかった。

 そして──拘束されたままの姿で、「何も抵抗できない自分」という状態に、恐れではなく、静かな安堵を心から感じていた。

 

「さあ、改めてお身体をお洗いいたしましょう、お嬢様。たくさんお汗をおかきになりましたし、お股も随分とお濡れになってます。クロエが全部、お綺麗にして差しあげますね。それと、この館の二十三箇条の掟をお教えします。暗唱してください。命令です」

 

 “命令”というクロエの言葉に、セリーヌの心臓は大きく跳ねてしまった。




《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》

 また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミでコミカライズ中です。合わせて応援お願いします。
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