侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
清めの儀──。
二十人を超えるオプセリカたち……。新人を意味する白いチョーカーのノヴァはいずれも若く、十六歳の成人前後の少女を思わせる。多分、貴族も平民も混ざっている……。赤いチョーカーの調教の進んでいる証を持つオディエンスはノヴァよりも多く、しかも、おそらく上級貴族夫人ではないかと思う女性が少なくない。
もちろん、若い女性も多く、中には童女にしか見えない胸の膨らみがほとんどない者もいた。あの童女はおそらく貴族子女ではない……。平民……。クロエの言う通り、見るものを見れば、《認識阻害具》があっても、見えるものがある……。
そして、それよりもやや少ないくらいのドミナたち……。
オプセリカたちは、大きく脚を拡げて、大皿の上にしゃがんでいる。両手は頭の上か、背中…。
ドミナたちは、正面側に立つ。
いま、そこにセリーヌも加わった。
ホールの片隅に設置された白磁の魔道皿の上に跨いで立つ。
そして、しゃがみ込み、大きく股を開いていった。
スカートは自然とめくれ上がる。両手は背中で指錠で拘束されているので頭の上には持っていけないが、それ以外は周りと同じ姿勢だ。
しゃがみこんだセリーヌの太腿は、小刻みに震えていた。
喉が渇き、唾を呑むことすらためらわれる。
やはり、多くの視線が、彼女の身体に突き刺さっているのがわかる。
「あっ」
レコルが微かに震え、アルフェが肛門奥でじわりと膨らみ、オルフェが膣内でひくつく──。
快楽には届かない、けれど、痒みに近い刺激がせめぎ合う。
呼吸が浅くなり、頬が紅潮し、膀胱の痛みが限界を迎える。
そのとき──。
ちょろ……。
とぷとぷ……
しゃあ……。
耳を澄まさずとも、ホールのあちこちから放尿の音が立ちはじめた。
高い水音、滴る音、波紋を描くような響き。
誰かの尿が、白皿の磁器を打ち、ぬるく跳ね返る。
恥じらいの吐息と、陶酔の震えが微かに重なる声……。
音だけで、誰かが快楽のなかで排泄しているのがわかる。
セリーヌは目を伏せることしかできなかった。
羞恥の熱が、肌の表面を焼く。
自分以外の者たちが、命令に応じて、あるいは悦びに身を任せて、排泄している──。
それを聞かされる……。
けれど、セリーヌはまだ命じられていない。
まだ、出すことも、許されていない。
痛みと欲求と羞恥が、体の奥で折り重なっていく。
まるで、見えない鎖が膀胱を締めつけているかのように。
呼吸が浅くなり、頬が紅潮し、膀胱の痛みが限界を迎える。
セリーヌは唇を噛み、視線を逸らす。羞恥に震えながら。しかし、命令には抗えない。
「出しなさい」
クロエ──。
セリーヌにとって、絶対服従の命令……。
ただ一言、「お願い、見ないで……」と心の中で呟きながら──放尿を始めた。
ぬるりと開かれた秘所から、温かな流れがほとばしる。
しゃああああ──。
放尿が皿を叩く音が鳴り響く。
その瞬間、セリーヌの全身が震えた。
羞恥の極みに達していたはずなのに──。
身体のどこかが、別の感覚に目覚めていく。
視線を感じるたび、レコルがぴくりと反応し、快感とは異質の“疼き”が芯から広がる。
放尿という行為に、心のどこかが壊れていく感覚。
だが、その“壊れ”のなかで、不思議な快さがじわりと芽生えていた。
──いや、こんな……こんなこと……。
否定する思考の背後で、淫具が優しく脈打ち、羞恥と興奮の境界を溶かしていく。
快感ではないと思いたいが、間違いない悦びのようなもの……。
視線の熱と羞恥が、その芯を溶かし、内側に甘い疼きを生み出していた。
恥じて、晒して、見られている──。
その事実に、セリーヌの身体の奥が、ひそかに打ち震えていた。
誰も声をかけない。
だが、誰もが見ている。
その重圧が、脚をすくませ、尿意と共に身体を震わせた。
「……これが……“清めの儀”……っ」
その時だった。
クロエが、ほんのり微笑みながら口を開く。
「お嬢様──見られて、感じましたか? 随分と愛液が淫具の隙間から垂れてますね」
クロエの声があまりに無邪気で、大きな声だったので、セリーヌの背筋がびくりと震えた。
恥辱に身を焦がしていたその瞬間、周囲のドミナたちがざわりと反応する気配が広がった。
小さな笑い声、ひそひそ声、熱を帯びた呼吸。
セリーヌは凍りついたように顔を上げた。
クロエが、わざと周囲に聞こえるように口にした……。
それに気づいた途端、彼女の羞恥は新たな波を迎える。
脚が震え、唇がわなないた。
──どうして、あんなことを……みんなの前で……。
しかし、クロエは涼しい顔のまま、なにも気にしていない様子で一礼すると、セリーヌを連れてホールを後にした。
だが、背後の空間には、なおも異様な熱気と気配が残されていた。
──去り際、セリーヌの視界の端に、ちらりと映るものがあった。
白い皿の上で、なおも身をくねらせるオプセリカたち。
音を殺してはいても、そこには押し殺した喘ぎ声と、腹を絞るような排泄音が交じっている。
排尿を終えた者の一部に対しては、次なる段階──排便が、自然な流れとして命じられていたのだ。
別の一角では、あの痩せた少年のスレアが、複数の男に取り囲まれている。
両手を頭の上に拘束されたまま、生殖器を揺さぶられ、無遠慮にしごかれている様子が、断片的な声で伝わってくる。
階段を上がりながら横目で覗くと、泣き声とともに、白い液体が陶器に飛沫を描くのが見えた。
誰も彼を憐れまない。
ここでは、それが“施し”であり、“役目”なのだ。
また、さらに別の区域では、ドミナたちが合図もなく身を屈め……。自らのオプセリカに、あるいはノヴァと、または、互いに男同士で交わりを始めていた。
静寂は、やがて狂騒に変わっていく──。
ホールには、衣擦れ、口づけ、液体の跳ねる音、笑い、呻き、命令が交錯する。
セリーヌは、彼らを覗き見るのをやめ、ただ、靴音の響きの奥に、なおも続いていく儀式の残響を、心の奥で聞きながら歩き続けた。
しかし、階段をのぼり終わり、二階に着いたところで、ついにセリーヌは抗議の声を上げた。
「……クロエ、あれは、ひどい……。どうして、あんなことを……」
クロエは立ち止まりもせず、肩越しに軽く答えた。
「でも、お嬢様は……その方が興奮するでしょう?」
セリーヌは、はっと言葉を失った。否定の声が喉まで上った。
けれど──それが“真実”の一端であることに、彼女自身が気づいてしまった。羞恥に震えながら、それでも、どこか甘い悦びを感じてしまっていた自分。
その事実が、なによりも抗議の言葉を奪っていった。
セリーヌはうつむき、唇を噛みしめながら、クロエの背に従って廊下を進んでいく。
クロエに導かれて部屋に戻るまで、セリーヌは一度も顔を上げなかった。
だが、そのあいだも、痒みはじわじわと広がっている。
最初は膣内のわずかな疼きだけだったはずなのに、歩みを進めるごとに、イルヴィナ液がじんわりと粘膜の奥へと浸透していく感覚が強まり、肛門奥からも灼けるような熱が湧き出してくる。
内腿を擦るたび、布地の感触すら拷問のように感じる。
セリーヌは脚を閉じようにも閉じられず、かといって大股で歩くこともできず、絶妙にどこにも逃げられない刺激の渦中に置かれていた。
手は後ろ手に繋がれ、クロエの背中を見つめることしかできない。
──なんで、こんなに……。
少しでいいから、和らいで……。
その願いは、声に出すこともできず、胸の奥に押し込められたまま、セリーヌの呼吸だけがかすかに乱れていた。
そしてその間ずっと、身体の奥で、痒みはじわじわと増していた。
だが歩くたび、膣内のオルフェが擦れ、肛門奥のアルフェが脈を刻むたびに、熱が拡がる。
最初はくすぐったさのようだったそれは、階段を昇る頃には確かな“疼き”となり、寝室の扉を前にしたときには、もうまともに意識を保てないほどに広がっていた。
──なんで……こんな……我慢できない……。
セリーヌは困惑していた。
淫らな刺激ではない。
むしろ、快楽とは似ても似つかない、身悶えるような痒み。
けれど、声を出して訴えることもできず、クロエに問いただす勇気も出なかった。
ただ、心の中で訴えかけるしかなかった。
──これ……いつまで……耐えれば……。
ただ、痒み──それだけが全身を侵食していた。
部屋に入った瞬間、熱がこもったような痒みがセリーヌの身体全体を駆け巡った。
とうとう耐えきれず、セリーヌは足を止めて小さく呻いた。
「……クロエ、お願い……痒いの……拭って……っ、もう無理……」
クロエはその言葉に足を止めたが、表情は変えずに静かに答えた。
「だめです、お嬢様。それは今夜の試練の一部。……掟を破ってはなりません」
「そんな……、こんなの、おかしい……お願い、せめて、少しだけでも……っ」
声は震え、ほとんど泣き声に近かった。
しかしクロエは、微かに眉を寄せながらも、凛とした口調で告げた。
「お嬢様。泣いても、命令は変わりません。この館は奉仕の場。自分の意思を通すことは──許されません」
セリーヌの膝が震える。懇願の言葉をさらに紡ごうとしたが、その直前、クロエが一歩前へ進み、そっと手を添えてドレスの帯に手をかけた。
同時に指錠が外れる。
「ああっ」
思わず痒みに苛まれる股間に手を伸ばそうとして、ぱちんとその手を叩かれて叱咤される。
それだけで、もうセリーヌは逆らう気力を失った。
──そして、叱られたことが、ただ苦しかった。
抗う術もなく、無言のままドレスを脱がされ、全裸のまま寝台に押し倒された。
「お嬢様、これから十日間、わたしはお嬢様を徹底的に調教いたします──。おそらく、十日後には、わたしのことが大嫌いになっていると思います。どうか、そうなりますように……」
クロエの声とともに、四肢は寝台に磔のように縛られる。拘束具が寝台の四隅にあったのだ。
さらに、口枷……。
それは、ただの口枷ではなかった。おそらく、魔道具……。
クロエは、セリーヌの唇に嵌めたそれを見下ろしながら囁いた。
「これは“封音具”──魔道具です。お嬢様の声は、これでもう誰にも届きません」
小さな呻きすら外に漏れないという事実が、彼女の胸にひやりとした絶望を刻みつけた。
さらに、クロエはセリーヌの四肢の拘束を確認しながら、さらに口を開く。
「この枷も魔道具です。筋肉を弛緩させて、暴れることも、無理な姿勢を取ることもできなくなります。……動きたくても、もう動けません」
確かに、痒みに身をよじろうとしても、力が入らず、暴れることすら叶わない。
ただ拘束された状態のまま、感覚だけが浮き彫りにされる
──それが、セリーヌに与えられた“眠りの姿”なのか……。
脈打つ淫具。掻痒剤の効果が最高潮に達し、膣も肛門も、痒みで火照っている。
動こうにも、拘束具が皮膚を傷めぬようにか、完璧に固定されていて、身じろぎすらできない。当然に痒みの源に指一本届かないばかりか、開脚させられているので、内腿を擦り合わせることさえ不可能だ。
痒みを癒やす一切の手段が奪われたのだ。
声すら出せないまま、セリーヌは無言で、寝台の上で許された僅かなもがきを続ける。
涙が熱を孕み、頬を伝っては髪に絡んでいく。
痒みの中心がどこにあるのかさえわからない。ただ、膣の奥、肛門の奥、それぞれから絶え間なく這い上がってくる火照りと疼きが、意識の大半を塗り潰していく。
「おやすみなさいませ、お嬢様。もっとも、お休みになれればのことですが……」
最後に目隠しをされた。完全に訪れる闇……。
そして、扉が閉まる音……。
やってきた静寂……。
セリーヌはひとり……。
痒い──。
擦りたい──。
けれど、動けない。
誰かに訴えたい。けれど、声も届かない……。
もどかしさが身体を震わせ、拘束された手足はひくつくばかり。
羞恥と混乱の狭間で、セリーヌは自問していた。
──わたしはなぜ、ここにいるの……。
命じられて、従って、見られて、辱められて……。
そのすべてが、どこか現実感を持たず、ただこの“痒み”だけが、今の自分を強く確かにこの寝台に縛りつけていた。
涙が目隠しの内側を濡らし、鼻をすすろうとしてもそれさえ叶わなかった。
──自分の身体は、自分のものではない。
そう思い知らされながら、セリーヌはこの“最初の夜”を迎えた。
見られ、触れられ、命じられることを待つ──そのための器として、何もできぬままに。
だが、それだけでは終わらなかった。
沈黙の中、淫具が──突然に動き始めたのだ。
膣奥に沈められたオルフェが、ごく短く、低く震える。
痒みで火照った粘膜を、まるで慰めるかのように優しく撫でるその刺激。
それがほんの数秒で止まったかと思えば、間をおいて、今度は肛門奥のアルフェが微細に脈打ち、内側から震えを送り込んでくる。
しかし、すぐに静止し、また時間を置いて……もう一度、アルフェ……。
どちらかひとつ──静かに、だが確実に……。
快楽と痒みの境界を滲ませながら、短すぎて絶頂には届かぬその振動が、容赦なく繰り返される。
順番に法則性はないみたいだ。時間もまちまち……。共通するのは、鋭敏になっているセリーヌの身体さえも達しさせないくらいに長い時間ではないこと。
それでも、繰り返されればどんどんと快感の疼きは蓄積される。
でも、いけない。
それに、刺激が与えられるとわかると、とまっているあいだの痒みの苦悶が爆発するほどに辛くなる。
「やめて」と叫びたいのに、口枷に塞がれた喉は熱い吐息しかこぼせない。
目隠しの下、視界もなく、感覚ばかりが鋭敏になっていく。
身体が火照り、汗が寝台を濡らし、指一本動かせぬまま痒みと半端な快感に翻弄される。
達することのない悦びは、癒しではなく、むしろ拷問だった。
セリーヌの胸が上下し、涙が頬を伝う。
肉体の芯がじわじわと溶かされていくような錯覚。
ただ一つの救いすら与えられぬまま──セリーヌは、その夜を“感じ続けるためだけに”過すのだろう。
なのに──その苦痛のただなかで、心の底から滲み出してくる感情が、どうしても消えなかった。
こんな仕打ちを受けたはずなのに、クロエの手の温かさが忘れられない。
あの声が、表情が、優しさが、責める言葉のなかにすら滲んでいたことに──セリーヌの心は気づいてしまっていた。
──どうして……こんなときに、こんなにも……クロエのことを……。
痒みに身悶えながら、セリーヌは自分のなかに生まれつつある“想い”に気づき始めていた。