侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
調教五日目。そして、寸止め集中調教の二日目──。
ルシアンには、この二日会ってない。忙しいらしく、館にもいないみたいだ。
セリーヌは、学園の教室にいた。
何事もないふりで、席に座り、ノートを開き、ペンを持つ。いつもと同じ姿勢。けれど──いまの彼女は、まるで別の生き物だった。
この二日間、絶頂は一度も許されていない。
与えられるのは、快楽の直前まで。そして、刈り取られる。
その繰り返し。きょうの授業中だけでも、もう十一回目が終わっていた。朝から数えれば、もう正確な回数なんて思い出せない。昨日一日だけで──もしかしたら、三桁に届いていたかもしれない。
貞操帯《ヴァルム=ギア》の内側には、膣奥を刺激する魔道ディルド《ソリス》と、肛門奥に埋め込まれた同じくディルド型の《ネクス》──どちらも、魔道演算機構を持つ調教具が嵌め込まれている。
表面には粘性のある媚薬が薄く分泌されており、微細な突起が粘膜にぬるりと絡む。
しかも、その突起の密度も硬さも、魔道波で調整されていた。セリーヌの呼吸、心拍、膣圧、神経のゆらぎ──そのすべてを読み取り、最適な部位への最適の強度の刺激へと即座に切り替える。
それはまるで、生きている器具だった。
また、アナルに嵌っている《ネクス》だが、その太さは五号といわれるものらしい。毎日少しずつ太いものに変わっていき、今朝から五号になった。かなりの適正があるらしく、ここまで短期間で五号が挿入可能になる者はほとんどないと、マダム・ルーゼニアを感嘆させたらしい。
セリーヌとしては複雑だ。
そして、《ソリス》《ネクス》の核に取り付けられているのが──《セグナ》。
寸止め制御用の魔道アタッチメント。
《セグナ》は、《ソリス》《ネクス》の演算結果を継承しながら、快感の臨界値を探知する。
そこに達した瞬間、すべての刺激を断つ。
ただの遮断ではない。最も苦しいタイミングで、ぴたりと終わらせる。
次にいつ再開されるかは、予測できない。五秒かもしれないし、三十分かもしれない。再開の予測をさせないのも《セグナ》の特徴。そうやって、待つ時間も最大限の焦燥感を作るのだ。
でも、共通しているのは──“絶対に果てさせない”ということ。
それが、《セグナ》の設計思想らしい。
この二日間、排泄も許可制。時間と場所を指定され、クロエの手によって拘束され、陶器皿の上に座らされる。終われば全身を洗われ、けれど、もっとも敏感な場所には、決して指が触れない。
膣の縁に沿って、ぬめるように洗いながら、寸前で止められる。
肛門も、同じだった。
一日の朝と夜の私室での入浴でも同じ。クロエはセリーヌを縄で縛り、自由を奪った上で全身を洗い、貞操帯で封印してから縄を解く。そのあいだの延々と繰り返す優しくて、残酷な愛撫。
哀願しても、果てることはない。快感は与えられないことで完成する。
それが、この二日間、セリーヌに課された“しつけ”だった。
──そして、いま。
セリーヌの椅子の座面には、皮膚が直接触れている。
制服のスカートは、「クロエの躾」の通り、尻の下には敷かれていない。太腿の柔肌が革の椅子に直に押し当てられ、ぬめるように張りついていた。
そして、貞操帯の縁から滲み出た愛液が、腿の内側を伝って、椅子の端から、ぽとりと床へ滴り落ちようとしている。
……ああ、また、こぼれる──。
次の瞬間、クロエが、隣から静かに動いた。
クロエは立ち上がらない。隣席に座ったまま、教科書を読むふりをして、左手の内側から、白い布をそっと差し出してきた。
指先に巻かれたそれは、セリーヌ専用の小さなハンカチだった。
床へ落ちる寸前の滴りを、クロエは無言で吸い取る。
その仕草に、気づいた者はひとりもいない。
でも、セリーヌは、それに耐えられなかった。
机に伏せた額が、微かに震える。
頬に伝った涙を、誰にも見られないように、ペンの影で隠した。
──わたしは、いま、壊れている。
講義は、流通経済だった──。
教壇では、中年の男性教師が、黒板に貴族領の境界線と物資の輸送路を記した図を描きながら、ゆっくりとした口調で話し続けている。
「……たとえば、南方沿岸部の香料取引に関しては、従来どおりサルディーニュ侯領とカレ=モンフォール伯領による管理が中心であり、価格帯の調整も、王家による仲裁および貴族院の通達を前提としています……」
内容に、曖昧さはなかった。まるで、それが当然であるかのように、説明されていた。
セリーヌは、震える指でノートにペン先を添えたまま、ふと、思った。
──本当に、そうだろうか。
彼の語る経済構造は、あくまで門閥貴族を中心に据えた旧体制のものだった。
だが、いま──この王国で、魔道具の流通を担っているのは、本当に“彼ら”なのか。
彼は、〈フェネア製魔堂〉の名を、一度も口にしなかった。
レヴィニア財団の傘下にある、王都で最大規模の実働商会。平民層に向けた魔道具の供給は、いまや彼らが中心を担っている。
それでも、その存在は、教科書にも載っていない。
講義のなかでも、まるで存在しないもののように扱われている。
少し前のセリーヌなら──そんなこと、疑問に思いもしなかっただろう。
教えられた通りに受け取って、信じて、疑うことすらしなかった。
けれど……。
ドミエンヌで過ごした数日間は、セリーヌの中の“常識”を、少しずつ崩していった。
何が正しいのか。何が本当なのか。誰が、なにを隠しているのか。
快楽で脳を焼かれながら、それでも──セリーヌは、貴族の覆いの隙間から、ちらちらと現実を見ていた。
そして、気づいてしまった。
この講義が語っているのは、もう“いま”ではない、ということ。
──そのときだった。
子宮の入口が、ぬるりと撫でられた。
いきなり来た。
十一回目が終わってから、まだ何分も経っていない。
「くっ……」
《ソリス》が、奥の奥でひくついた。
魔道演算が突起の配置を変えたのがわかった。さっきとは違う──もっと深い場所、もっと敏感な場所を、狙いすましたように擦り上げてくる。
《ネクス》も、連動する。肛門奥の壁を、ぐいと広げるように、わずかに膨らんだ。熱い。苦しい。けれど、それでも、身体は応えてしまう。
《レコル》が、乳首とクリトリスに同期して震える。波打つように。
意識が、ゆがむ。
思考が、溶ける。
──やめて、いまは、考えていたのに──。
自分でも、なにを言いたいのかわからなかった。
でも、寸止めは、そんな内面の言葉すら、残させてはくれない。
腰が跳ねる。手が震える。瞳孔がひらく。
ぐらりと視界が揺れて──
──そこで、すべてが止まった。
いつものように。
《セグナ》が、快感の臨界を正確に察知し、刺激のすべてを断ち切った。
刹那、全身から力が抜けた。
なにも、果てていない。なにも、終わっていない。
それなのに、セリーヌは──燃え尽きたみたいに、膝の裏まで熱く、皮膚がひくひくと脈打っていた。
下腹から、重たい液体がまた滲み出す。
……もう、何度目なのか、わからない。
朝から何枚も──クロエは、白い布を準備していた。鞄の中には、同じ形の布が束にされて収められていて、それを淡々と取り出しては、セリーヌのこぼれた痕跡を拭っていく。
それはもう、何度も繰り返された動作だった。
いまもまた、クロエは、何気ない所作で、椅子の縁に指先を差し入れる。
こぼれ落ちそうになった滴りを、音もなく、吸い取っていく。
脚の間に這わせた布が、腿の内側をかすめ、貞操帯の縁を拭う──
でも、そのときだけは、なにも感じなかった。
《ヴァルム=ギア》の外装には、感覚遮断処理が施されている。
刺激を外に漏らさず、内側へも伝えない。
まるで、そこだけが存在しないような、虚無の手触り。
腿の汗は、かすかにひりついた。でも、貞操帯の部分だけは、冷たく、沈黙していた。
──拭われているのに、拭かれている気がしない。
それが、いちばん残酷だった。
羞恥よりも、切実な喪失感。
──十二回目の寸止めが終わってから、何分が経ったのか、よくわからなかった。
教師の声が、遠くで響いている。
「……したがって、領内通貨の調整は、王都発行の第二次通貨規則に基づいて……」
セリーヌは、もう、文字が読めなかった。
ノートの上には、震えた手で書いた線が幾重にも重なり、どこが文字でどこが罫線なのか、自分でもわからない。
──それでも、まだ、終わらない。
十三回目は、いきなり来た。
予兆もなく、《ソリス》が突如としてうごめき出した。
膣壁を螺旋状に擦り上げるような突起の動き。媚薬が内膜に深く染み込み、粘膜の奥で、焼けつくような疼きが広がる。
《ネクス》も反応する。今度は、肛門奥を膣方向に揉み押すように動いた。全身が脱力するような圧倒的な快感が襲う。ほんのわずかの圧がもう限界だった。
視界が白く滲む。口の奥が乾く。
まただ。また──来て、また、止まる。
《セグナ》は、容赦なく、すべてを断ち切った。
快楽のその手前で、刈り取られる。
まるで、世界から置き去りにされるみたいだった。
……お願い、もう……終わらせて……。
十四回目は、もっと早かった。
教師が「この章は、試験にもよく出ます」と言った直後だった。
セリーヌは、自分の呼吸の音で、その言葉をよく聞き取ることができなかった。
《レコル》が、乳首をきゅっと吸うように締めつけ、《ソリス》が、突起の硬度を増して膣奥を抉った。
《ネクス》が肛門括約筋の感度を逆撫でるように刺激する。
もう、なにがどこにあるのか、わからなかった。
自分がいま、教室のなかにいるという認識すら、かすれていく。
──……止まった。
十四回目の寸止め。
ああ、これが最後であって欲しい──そう思ったのに。
世界は、まだ動いていた。
気づけば、周囲がざわめいていた。
椅子を引く音。教科書を閉じる音。誰かが立ち上がる気配。
──鐘が、鳴った?
いや、たぶん──もう、とっくに鳴っていたのだろう。
けれど、セリーヌには、それすら聞こえていなかった。
頭の奥が、熱でぼやけていた。
いつ鐘が鳴ったのか。なぜ、誰もまだ席にいないのか──。
ようやく、それが授業の終わりであると気づいたとき、セリーヌは机の影で震えていた。
いま終わったのは、一時限目。
次の授業──午前二時限目は、「探求学習」と呼ばれる時間だった。
形式上は“学び”の時間。だが、実際には多くの生徒が図書室に行ったり、講師室を訪れたり、あるいは学園の中庭で過ごしたりと、ほとんど自由時間のように使っていた。
セリーヌには、その自由が──意味を持たなかった。
隣の席に、まだクロエがいた。
彼女は教科書を閉じ、音もなく、セリーヌを見ていた。
セリーヌは言った。いや、漏らしてしまった。
「……クロエ……お願い……もう……果てさせて……」
それは、きょうに限ったことじゃない。
セリーヌは、昨日から、ずっと──その哀願を繰り返していた。
寸止めを繰り返されるたびに、膝を震わせ、涙をこぼして。
求めることだけが、与えられた“自由”。
だが、それに応じることのないのが、クロエだった。
ヴェールスの哀願に、フェルネスは応えない。
与えられないことこそが、“儀式”だった。
クロエは、静かに微笑んだ。
「お嬢様──探求学習の時間です。ご一緒に行きましょう」
その声が、やさしすぎて、残酷だった。
「そのあいだだけ、寸止めの《セグナ》を外してさしあげます。……ほんの、ひとときだけ」
セリーヌの胸に、ひとしずくの光が差した。
裏切られるとわかっていても──期待してしまう。
期待してしまう自分を、愚かだと思ってしまう。
それでも、期待するのをやめられない。
クロエは、変わらない表情のまま、セリーヌの手を取った。
「はい──腕を、こちらに」
セリーヌは、言われたとおり、背中に手を回した。まだ、残ってるクラスメートもいるので、彼らにわからないように……。
銀の指錠が、音もなく冷たく締まる。
教室のざわめきのなかで、それだけが、はっきりと聞こえた。
次いでクロエは、銀の首輪を取り出した。
太い金属製の輪。白銀のチョーカーの上から重ねるには、やや重すぎる印象だった。けれど、その表面に刻まれた魔道紋──なめらかな曲線と幾何の重なり、それを見た瞬間に、セリーヌは一歩、心を引かれてしまっていた。
「《シルヴァ=ノーテス》です。認識阻害具の、上位型魔道具──もともとは軍用の諜報装備です」
クロエの声は、やわらかかった。でも、その言葉には、ひとつひとつ、よく研がれた刃のような冷たさがあった。
「軍事品……?」
「これを身に着けていただくことで、お嬢様は、周囲の意識から外れます」
「……外れるって?」
「視線が向けられても、意識に残らなくなります。そこにいても、存在が気に留められない──そう設計されています」
セリーヌは、無意識に喉を鳴らしていた。
「……じゃあ……見られない、の?」
「いいえ。視認はされます。ただし──注目されなければ、記憶にも残りません」
クロエは、首輪の内側をゆっくりと撫でた。
「もし、お嬢様が声をあげれば、存在は認識されます。そうなれば、この道具の効果は失われます」
「……一度、認識されたら?」
「その相手に対しては、以降、無効となります。ですから──静かに過ごしてくださいね」
クロエは、微笑んだ。
「そんな……」
「見られていないように見えて、実際には“見えている”。でも、気づかれない。無視ではなく、無関心」
「……怖い……」
セリーヌの声は、かすれていた。
クロエは、首輪をそっと持ち上げた。
魔道紋が、微かに光を帯びた。
「大丈夫です。わたしは、お嬢様を忘れたりしませんから」
その言葉のあと、セリーヌの首元に、冷たい輪が触れた。
白銀のチョーカーの上から、静かに重ねられる。
──かちり。
小さな錠前が閉じられた音がして、それだけで、世界が少し遠ざかったように感じられた。
「立ち上がってくださいませ、お嬢様」
クロエの声は、静かだった。けれど、そこに逆らう余地はなかった。
セリーヌは、指錠で後ろ手に拘束されたまま、ふらつきながら立ちあがる。
クロエは、セリーヌの机の上で荷物をまとめていた。ノートや教科書を整え、筆記具を革の鞄に収める。その動作は、やはり侍女らしく丁寧で無駄がなかった。
すべてを整え終えたクロエが、ふとセリーヌを見て、やさしく微笑んだ。
「随分と濡れてしまいましたね」
その言葉に、セリーヌは、はっと息を呑んだ。
クロエの視線が向いているのが、自分のスカートであることに気づき、おそるおそる視線を落とす。
……見た瞬間、凍りついた。
セリーヌの制服のスカートは、前側が広く濡れそぼっていた。まるで、小尿でも漏らしたかのように、布地の色が変わり、股間から太腿にかけてぐっしょりと染みが広がっている。
また、短いスカートの裾からは、いまも愛液が滴り続けていた。
その粘性のある雫は、細く連なって、太腿を伝い、膝を越えて、足首にまで届いた。ぽたり、と音を立てて床に落ちる。
恥ずかしさに、セリーヌはとっさに両脚をぴたりと閉じた。
脚の内側が濡れていて、太腿の柔らかな肉がねっとりと張りつく。
それでも、閉じずにはいられなかった。
クロエは、なにも言わずに、セリーヌが座っていた革張りの椅子の座面を丁寧に拭いた。
折りたたんだ白布を滑らせながら、何気ない口調で言った。
「二時限目の間に、清潔なものをご準備しておきますので、そのあいだは──脱いでしまいましょうか」
言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
セリーヌは、ぽかんとした顔でクロエを見つめる。
クロエが片手を伸ばして、セリーヌの腰のスカートのフォックを、音もなく外していた。
レヴィニア財団から寄贈された新制服は、これまでの貴族女学生用と異なり、上衣と下衣が完全に分かれているセパレーツ仕様だった。
伝統的な一体型のワンピース様式とは違い、活動性と実用性を重視した作り──。
「えっ?」
セリーヌは、なにもできなかった。
後ろ手に拘束されたまま、身をよじることすら叶わない。
するりと、スカートが腰から滑り落ちる。
足元に落ちたそれは、水を吸った布の重さで、ぺたりと床に貼りついた。
股間が、露わになった。
下着は、もともとはかされていなかった。
貞操帯の革帯が、無毛の性器を容赦なく締めつけている。
縁の部分は赤く熟れ、表面には滲むように愛液が染みていた。革が肉に食い込み、粘膜の奥から漏れ出るものが、どんどんと垂れている。
あまりの羞恥に、セリーヌは思わず叫び声を上げた。
「や、やああっ──」
しゃがみ込もうとした。
でも、その動作は、すぐに《ソリス》と《ネクス》によって阻まれた。
膝を曲げかけた途端、奥に埋め込まれた魔道ディルドがわずかに動き、敏感な内壁を刺激したのだ。
足が震え、その場に凍りつくように動けなくなった。
「大声を出すと、効果が消滅しますよ。いまのは危なかったですね。教室にもう誰もいなくてよかったです」
クロエが、静かに、やさしく言った。
顔をあげる。確かに、いつの間にか教室には、もうセリーヌとクロエしかいない。
そして、その言葉の意味を、セリーヌは、すぐに理解した。
──《シルヴァ=ノーテス》。
さっき装着されたばかりの、認識阻害の上位具。
声を上げれば、存在を知られてしまう。
知られた瞬間、この魔道具は、無力になる。
セリーヌは、あわてて口をつぐんだ。
唇を噛み、声を喉に押し戻した。
でも──羞恥は、もう、消えなかった。
教室の扉が静かに開かれた。
クロエが先に出る。制服の袖口から覗く手には、セリーヌの鞄と、さっき脱がせたスカートが丸めて入れられた袋が提げられていた。
セリーヌの両手は、後ろで銀の指錠に留められたままだ。
下半身は、むき出しだった。
制服のブレザーだけが、セリーヌの身体の上半分を覆っているだけだ。
とにかく、クロエに置いていかれまいと、セリーヌは数歩遅れて扉をくぐった。
股間には、貞操帯《ヴァルム=ギア》が喰い込み、革帯の縁が赤く染まった皮膚に押し当てられている。太腿にはまだ愛液の筋が残っていた。歩くたびに粘り気をもったそれが揺れ、風が吹きつけるたびに神経の奥を撫でるような疼きが走った。
どこに連れていかれるのかは、知らされていなかった。
だが、荷物も、鍵も、全てをクロエが持っている。
置いていかれるわけにはいかない。
セリーヌは、クロエの背に隠れるようにしてついていった。
廊下には、生徒の姿がちらほらとあった。男子生徒、女子生徒、そして教員。教師らしい中年の男が、廊下の隅で別の生徒と話していた。
けれど、誰も──誰ひとりとして、セリーヌに目を向けることはなかった。
《シルヴァ=ノーテス》が機能しているのだと、頭ではわかっていた。
姿は見える。音も聞こえる。けれど、存在は意識されない。
魔道具の効果だと、理解していた。
それでも──羞恥は、まったく消えなかった。
脚の間に風が通るたび、そこに何もはいていないという現実が、突きつけられる。革帯の下からこぼれたものが太腿に触れ、かすかな重みで膝の裏を舐めた。
それを、誰も見ない。
そのことが、いっそう恥ずかしかった。
セリーヌは、ひとり、見られない羞恥と、見せられているような錯覚のなかを歩いていた。
誰も見ていないのに、誰かが見ているようで。
見られていないからこそ、なおさら、恥ずかしかった。
羞恥が、皮膚の下で膨張していく。
そして、それが快感に似ていることに──セリーヌは、気づいてしまっていた。
セリーヌの露出歩きは続く。
頬が熱くなる。胸が苦しくなる。脚の内側が、疼きを増していく。
歩くだけで、なにかが反応する。
貞操帯の奥に埋め込まれた《ソリス》と《ネクス》が、かすかに動き、膣壁と直腸が震えた。
そして──廊下の向こうから、ふたりの少女が歩いてきた。
下級貴族の令嬢。制服の袖に織られた細かな紋章が、出自の違いを静かに語っていた。
ふたりが微笑を浮かべて近づいてきた。
セリーヌの心臓が跳ね上がる。
──やめて。来ないで。お願い、通り過ぎて……。
祈るような気持ちで脚を止めかけた、そのとき。
クロエが、耳元に唇を寄せた。
「……少し、練習しましょう。声を出さず、身じろぎもしないように」
ささやきが終わると同時に──《レコル》が作動した。
乳首と陰核に貼りついた魔道膜が震え出し、快感の芯だけをぐいと押し込むような刺激が襲ってきた。
脚が跳ねる。股間がきゅっと縮む。
寸止めによる疼きが残ったままの身体には、それはもはや苛酷な快感の拷問だった。
なのに、声は出せなかった。
出せば、《シルヴァ=ノーテス》が破れる。
ばれてしまう。見られてしまう──。
セリーヌは、口をきつく噤んだ。
「ごきげんよう、クロエ」
「お久しぶり。セリーヌ様はおられないのね?」
令嬢たちの言葉は、セリーヌの頭の上を素通りしていった。
クロエは、何気ない仕草で一歩身を引き、セリーヌの身体をふたりの視界に直接に晒すように位置を変えた。
移動して、再びクロエの背中に隠れる勇気はない。セリーヌは必死にレコルの刺激に耐えるだけだ。
見えないとはいえ、セリーヌは狂いそうな疼きのために、全身を体液にまみれさせている剥き出しの下半身を晒した姿で彼女たちの正面に立っている。
何も知らない令嬢たちは、続けて問いかけた。
「婚約のことをお聞きしました」
「おめでとう、と言うべきか……でも、本当に大丈夫なの?」
クロエは、わずかに目を伏せた。
そして、表情を整えて、静かに言った。
「人はそれぞれ、望まれる場所で花を咲かせるものですわ。たとえ、それが荒れ地であっても」
その言葉の意味は、曖昧だった。
でも、貴族社会では、曖昧なまま通り抜けていく言葉のほうが、よく使われる。
セリーヌは、それを聞いて──ふと、ひっかかりを覚えた。
……あの婚約の話は、ルシアンがレナン男爵家を救済することで、終わったはず……。
どこかで、もう消えたことになったのだと──思っていた。
けれど、いまはそれ以上考える余裕がなかった。
そのときだった
レコルの振動がさらに強いものなった。
ふと見ると、クロエが何気ない仕草で、自分の左手の小指にある指輪にふれていた。
懸命に歯を喰い縛る。
疼きが、理性をかき消していく。
脚の奥が、熱く濡れて、痙攣しそうだった。
──でも、声は出せない。
声を殺すたびに、快楽だけが膨らんで、どこにも行き場がなかった。
《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》
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