侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
──喉が、破れそうだった。
舌の奥がびりびりと痺れて、唇の裏が熱を持って、ただ、吐息ひとつにすら、声が混じりそうになる。
《レコル》が、うごめいていた。
乳首と陰核の両方が、しんしんと焼けるように疼いている。とくに乳首は、もう皮膚の感覚を超えて、神経そのものがねじれているみたいだった。
──お願い、動かないで、もう……。
セリーヌは、ただ、立っていた。何気ない素振りでクロエと談笑しているふたりの令嬢の前に剥き出しの下半身を晒して──。立っているだけで、世界が崩れていきそうだった。
「わたくしも、婚約は進められたのですけどね。相手が肥満の子爵令息の三男で、顔もろくに知らないままで──さすがに断りましたわ」
「でも、クロエのところは、あれでしょう? ……もう契約も済んでるんじゃなかったかしら」
下級貴族のふたりの令嬢が、真剣な表情で言葉を交わしていた。まるで何でもない日常のように。
セリーヌの脚が、小さく震えていた。
すると、レコルだけでなく、前側の《ソリス》もまた、奥を掬い上げるように動き始めたのだ。
粘膜の襞が、微細な突起に絡まれ、そこへじわりと媚薬が流し込まれる。
熱くて、むず痒くて、甘くて、怖い。
さらに、《ネクス》も、わずかに圧を強めてきた。肛門の奥で、ぐい、と。
いままでなら──もう限界だった。
でも──。
セリーヌは、目の奥がかっと熱くなるのを感じた。視界が滲んで、涙と涎がこぼれそうになる。
……でも、声は、出せない。
声を出した瞬間、すべてが終わってしまう。
《シルヴァ=ノーテス》の効果が消え、周囲のすべてに自分の姿が焼きついてしまう。
だから、唇を、噛む。
指は使えない。後ろ手を銀の指錠で拘束されたままの身体には、なにもできない。ただ、震えて、濡れて、ひたすら耐えるだけ──
「クロエも、大変ね。でも、あなたって昔からそう。どんなことでも平気な顔して、受け流す」
「ふふ。わたしは、器用なだけですわ」
クロエが微笑む声が、少しだけ遠くに聞こえた。
頭が、ぼうっとしてきた。熱が、脳まで届いていた。
──だめ、だめだめだめ、もう、もうっ──。
膣奥で《ソリス》が、ひときわ強く震えた。
その瞬間、意識が真っ白になった。
果てる──そう思った。
いや、もう果てていた。感覚だけが、確かに、頂点を貫いて──
でも……。
──止まった。
《セグナ》が、寸前で、すべての快感を切り落とした。
熱は残っていた。悦びの形は、完全に出来上がっていた。
それでも、“許されなかった”。
声が、出そうになる。喉の奥が、きゅっと鳴る。
でも、かろうじて、唇を噛んでいた。息が、鼻から漏れた。
クロエが、ふたりの令嬢と別れの挨拶を交わしていた。
「また週末後にでも、ご一緒できるかしら? クロエとはもっと話したいことがあるもの」
「さあ、お嬢様のお世話もありますし……」
「そうよねえ」
令嬢たちが、ひらりとスカートを揺らして去っていく。それでやっと、セリーヌは彼女たちのスカートが従来のものではなく、セリーヌのように丈が短いものであることに気がついた。それまで、そんなことすら、気がつく余裕がなかった。
ともかく、セリーヌは、その背中が見えなくなるまで、動けなかった。
足元が、じんわりと湿っているのを感じた。
太腿を伝った愛液が、床にまで滴っていた。
そのとき、隣でクロエが、ふっと息を吐いた。
「……声を出さずに、耐えられるようになりましたね」
その言い方は、まるで、試験の結果を評価する教師のようだった。
「うう……意地悪……」
「お嬢様に調教の効果が現れたようで──なによりです」
「……ひどい……わよ……」
涙が、堪えきれずに、こぼれ落ちた。
セリーヌの喉から漏れた抗議は、かすれて、掠れた。
クロエは、さりげなく俯き、セリーヌの足元に視線を落とした。
「……けれど、お足元には──随分と、正直な痕跡がございますね」
そこには、確かにあった。
数筋の愛液が、廊下の石の床にまで滴っていた。
その痕跡を、クロエは、小さくたたんだ白布でそっと拭った。
その動作が、ひどく丁寧だった。
クロエに導かれ、セリーヌは学園の廊下を歩き続ける。
太腿から膝、脛、そして足首へ──むき出しの下半身に、石畳の冷気がじかに伝わってくる。
上半身だけを覆うブレザーは、貞操帯に食い込む股間を隠すにはあまりにも短く、両手は背中で銀の指錠に拘束されたまま。
首には、白銀のチョーカーの上から、《シルヴァ=ノーテス》と呼ばれる魔道首輪が重ねられ、存在感を周囲から遮断していた。
それでも、セリーヌの羞恥は覆いようもなく、ただ露出された肌に風が這うたび、身を焼かれるような感覚に苛まれていた。
「……どこへ行くの、クロエ……」
セリーヌはクロエに導かれながら、怯えてささやいた。
どうやら、校舎の外に出ようとしている気配であることに気がついたからだ、
「ご一緒に。命令です」
命令……。それは一切の抵抗を禁止する絶対の言葉……。
もう、逆らえない……。
ついに、中庭へ出た。
午後前の陽射しが空気の色を変えていた。
石畳には柔らかな光が降り注ぎ、花壇の縁には赤と紫の小花が並んでいた。
貴族生徒たちのための野外談話区域──そこは、昼休憩のあいだ限定で平民学生にも開放される特別な空間だった。
庭園の中央を囲むようにたくさんのベンチが設置され、風よけの茂みと陽よけの高木が、過ごしやすい静けさを保っている。
クロエは、その中でも特に人目が届きにくい樹木沿いを選んだ。
近くにベンチが三つ並び、片端はすでに別の生徒に使われていたが、中央と手前の席は空いていた。
彼女は一瞥をくれただけでさらに進み、セリーヌを連れて樹木が重なっているの場所の一本の幹の近くまで歩く。
さっきのベンチからは、小声なら聞こえないであろう距離である。
「お嬢様、こちらにお立ちください」
クロエの声はやわらかだった。けれど、その調子には命令と同じ力が宿っていた。
セリーヌは、黙って従った。
ブレザーだけを身にまとい、下半身にはなにも着けていない格好のまま……。
クロエは、肩から提げた小さな道具袋を開いた
そこから取り出したのは、銀糸のような光沢をもつ細紐──。
しかし、それはただの紐ではなかった。紐の表面には淡い魔道光が網目状に走り、術式が浮かび上がっていた。
「これは、警鐘式制紐《リラティア》と申します。淫具ではありませんが、こういうものも工夫すれば、“儀式”を彩る道具として有効です」
クロエは、淡々とした口調で言いながら、セリーヌの首の《シルヴァ=ノーテス》の下に、もう一本の首リングを取り付けた。そのリングに、この《リラティア》を繋げる。
「一定以上の張力が加わると、周囲十メートルに響く高音警告を発します。鳥の鳴き声にも似ており、魔道具に反応して即座に別の場所にある記録具に記録が残ります。いまは、音の出る機能だけを使用します」
「……や、やだ……そんなの……」
「静かに、です。お嬢様」
クロエは優しく、けれど確実に、首に繋げた《リラティア》の紐の反対の端末を木の枝に結びつけた。
高さは絶妙だった。しゃがんでも、後ろへもたれても、前に倒れても──張力がかかってしまう。
紐はゆるやかに見えて、余裕がなかった。
セリーヌは、それを直感した。
──もう、わたし……動けない……。
緑の木陰に光が揺れ、セリーヌの裸の太腿を照らしていた。
誰も気づかない。だが、それは《シルヴァ=ノーテス》の力であって、いつまでも絶対ではない。
風が肌を撫でる。愛液で濡れた太腿の内側がぬるりと揺れた。
クロエは最後に、黒い絹布を手に取った。
「でも、しばらく、このままでお待ちください。探求学習のあいだだけです。そのあいだに、新しいスカートをご用意して戻って参ります」
はっとした。
もしかして、このまま放置しようとしてる?
セリーヌは恐怖に包まれた。
「……待って、いかないで、お願い……」
大きな声は出せない。
ほんの聞こえるかどうかの声だが、いまのセリーヌにとっては限界だと思う声だ。なにしろ、もしも、セリーヌの哀願が誰かの耳に届けば、その瞬間に、セリーヌのいまの格好を認識されてしまうのだ。
「では、目隠しもいたしますね」
クロエは、セリーヌの必死の哀願を無視した。
取り出された黒い布が目の上に落ちた。
世界が閉じる。光が消える。
「──お約束通りに、寸止めは解除しておきます。あとはお嬢様の自由に」
「…………」
そう言い残し、足音が遠ざかっていった。
本当にいなくなった……。
セリーヌは愕然となる。
首に張られた紐の感触。
見えない空間。
冷えた石畳。
そして──。
すると、《レコル》の微かな震えが、乳首とクリトリスを揺ら始めた。
「つっ」
セリーヌは迸りそうになった声を懸命に耐えた。
真っ直ぐに身体を硬直させたまま……。
近くには誰もいない──はず……。
でも、音がする。風の音。枝葉の揺れるざわめき。遠くで誰かが笑う声。
目隠しの奥で、セリーヌは音に耳を澄ませながら、ただ硬直していた。
首に結びつけられた《リラティア》の紐が、細く、張っている。
足元には、石畳の冷たさが残り、太腿の内側には、愛液の筋が滲んでいた。
ブレザーだけを羽織った身体。
貞操帯《ヴァルム=ギア》の革が食い込む股間。
誰の目にも留まらない──はず。
でも、声を出せば……姿勢を崩して《リラティア》の紐に力をかけてしまえは……すべてが終わる。魔道具の効果が消えて、視線が集まり、存在が刻まれてしまう。
その恐怖が、ぴたりと背骨を凍らせていた。
そして──その緊張の最中。
《レコル》が乳首とクリトリスに小さく震えを送り続ける。
微細な魔道波が肌の奥へと届き、粘膜が微かに跳ねる。
同時に、《ソリス》が膣奥でうごめいた。突起がぬるりと動き、媚薬がぬめりながら広がっていく。
《ネクス》は、わずかに圧を加えて、直腸奥に螺旋のような感触を這わせた。
セリーヌは、息を呑んだ。
逃げられない。動けない。誰もいない──でも、声を上げれば、誰かが振り向く。
自由に、快楽が訪れている。寸止めは解除された。
けれど、それは祝福ではなかった。
むしろ──その“自由”が、いま、もっとも過酷な枷だった。
自分の身体が、崩れていくのがわかった。
硬直していた筋肉が、膝の裏から溶け出していく。
耐えるしかない。でも、膣奥の疼きが、乳首のしびれが、背筋に沿って何度も波を打っていた。
──わたし、いま……“自由”なんだ……よね……。
だれにも止められない。
クロエもいない。寸止めもない。
果てることは──許されている。
なのに。
──だめ。そんなこと……できない……。
自分で、できない。
“許されているのに、怖くて動けない”。
それは、禁じられること以上に、惨めで、つらかった。
そして、はっとした。
空間に、人の気配が増えた気がしてきた。
騒がしい足音。話し声。笑い声──。
いや、明らかにこの庭園に人が増えている……。
平民たちの昼休みが始まったのだと、セリーヌは気づいた。
そうだ──平民クラスの昼は、貴族たちとは別の時間に設けられている。貴族の従者をしている者も多いので、貴族クラスの昼食が始まる前に、平民クラスの昼休みがあるのだった。
弁当を持ち込む者が多く、この庭の一角に集まって食事をする。
それを、以前なら、わたしはただ見下ろすように眺めていた──
でも、いまは違う。
彼ら、彼女たちの目の前で、わたしはこうして……晒されている。
見られていない。でも、居る。
存在しないけれど、消えてもいない。
この感覚は──いったい、なんなのだろう。
羞恥か、恐怖か、それとも……悦びなのか。
セリーヌは、わからなかった。
ただ、脚の奥が熱をもって、膣奥が、直腸が、貞操帯の内側で震えていた。
《ソリス》と《ネクス》が、互いに歩調を合わせて、疼きを重ねていく。
《レコル》が、乳首と陰核を甘く振るわせた。
──ああ……だめ……また、くる……。
快感が、身体を突き上げてくる。
頭の奥まで、ぐらぐらと波が届いた。
けれど、声は出せない。出した瞬間、すべてが露わになる。
口をつぐんだまま、セリーヌは、またひとつ──波にのまれていった。
足音が土を踏んだ。
その気配は、すぐ真横──手を伸ばせば触れてしまいそうなほど近くに、止まった。
セリーヌの背筋が、音もなく硬直した。
目隠しの向こうに広がる世界が、にわかにざわめきを帯びる。
布のこすれる音。笑い声。昼食の包みが開かれる微かな気配。
「ここ、ちょうど木陰でいいね」
「さすがに日差しの下じゃ、弁当が溶けそうだし」
「ふふ……ほら、早く座って」
──来た。もう、ほんの数十センチの距離に。
三人? いま、食事ということは、平民クラスの少女たちだろうか。
脚のすぐ横に、彼女たちが腰を下ろした。
靴が草を踏む音が、皮膚のすぐ脇をかすめる。
セリーヌの膝が、微かに震えた。
《レコル》は、すでに振動し続けている。
乳首と陰核を這う薄膜が、神経だけを拾い上げるように震え続ける。《ソリス》と《ネクス》もだ。
しかも、寸止め調教の二日目。
快感の蓄積は臨界点を超えていて、もはや微かな刺激すら絶頂の予兆と化していた。
──くる、まだ、きてる……ずっと、きてる……。
それでも、声を出すわけにはいかなかった。
《シルヴァ=ノーテス》が解除されれば、この姿が誰の目にも焼きついてしまう。
その恐怖だけが、セリーヌの口を閉ざしていた。
けれど、限界は近かった。
熱い。疼く。締めつけるような快感が、腹の底をかき乱してくる。
喉の奥から、かすかな呻きが漏れそうになる。
腰が震える。膝が折れそうになる。
──止まらない。誰も止めてくれない。
目隠しの奥で、世界は暗いまま。
その中で、セリーヌは、肌を晒したまま、ただひとり──。
見られずに、見られるという羞恥と、果てられずに苛まれる快楽に、焼かれていた。
「そういえばさ、最近、見た?」
「誰のこと?」
「セリーヌ=ヴァランティーヌ様よ」
セリーヌの心臓が、一瞬、止まった気がした。
──いま、確かに、自分の名前が、口にされた。
脚のすぐ脇で、誰かが笑う。
誰かが、スプーンで弁当の蓋を外す音がする。
その平和な仕草のすべてが、セリーヌの精神を打ちのめしていた。
「最近、スカート短くなったと思わない?」
「思った──。最初見たとき、誰かわかんなかったもん」
「前までは、いかにも“貴族様”って感じだったのに……いまの方が、正直、ずっと可愛いよね」
耳のすぐそばで、そんな言葉が降ってくる。
見えない──でも、聞こえる。
そして、なにより、いまこの瞬間、自分の脚のすぐそばにその三人が“座っている”という事実。
《レコル》の振動は、止まっていなかった。
乳首が、粘膜が、擦られている。
でも、声は出せない。倒れることもできない。
立ったまま、濡れながら、絶頂を寸前で奪われた熱を抱えて、じっと耐えるしかない。
──嬉しいなんて……言わないで。お願い……そんなふうに、知らないまま、褒めないで……。
膣奥が、じくじくと疼いていた。
下腹がじんじんと熱くて、肛門の内壁も、ゆるく引き攣っている。
全身が反応しているのに、だれも──それに気づいてはいない。
──けれど、声を出した瞬間に、すべてが知られてしまう。
そのことが、セリーヌの羞恥を、いっそう深くした。
そして、そんな緊張の只中でも、足のつけ根から太腿へと、粘液が細く流れていた。
ひと雫が、草の上に、静かに落ちた。
誰にも気づかれない──でも、それは確かに、世界に刻まれた、セリーヌの“痕跡”だった。
「──でもさ、わたし、嬉しかったんだよね。セリーヌ様が、寄贈制服を着てくれるようになって」
「わかる。あれで、一気に空気変わったよね。いくら品質が良くたって、貴族様たちが着てくれなきゃ、あんな短いスカート──“娼婦みたい”って言われて終わってたもん」
「実際に言われたことあるよ。“平民って、羞恥心ないのかしら”とか、“男を誘ってるんじゃないの”とか……」
「そうそう、“妾志願の生徒が増えて困る”とかさ。……ふざけんなっての」
セリーヌは、目隠しの奥で凍りついていた。
それは、決して大きな声ではなかった。けれど、すぐ足元──膝の近くから、確かに聞こえていた。
「古い制服も買い取ってくれたし、神だよ。神。レヴィニア財団様って、神」
「寄贈品って、こっちからすれば、命綱だよ? 制服一着仕立てるお金が、どれだけ家計を圧迫するか……」
「丈が短いとか、そんなの普段着と変わんないよ。動きやすいし、軽くて涼しいし、ありがたすぎるくらい」
「“破廉恥”? “妾志願”? 何それ。笑わせないでよ。わたしたちは──一家や、一族の期待背負って、ここに来てんの。学費だって生活費だって、どれだけ節約して、支援受けて、それでも必死で入ってるんだよ」
「そういう覚悟も努力もなしに、“家柄だから”って理由だけで入ってきたお貴族様たちとは──違うの」
その言葉が、矢のように突き刺さった。
セリーヌは、ただ立っているだけだった。
けれど、その姿勢のまま、全身がぐらぐらと揺れていた。
──わたしは……なにも、知らなかった。
ただ“破廉恥だ”と……思っていた。
でも、この制服で助かるって……。
セリーヌにとって、貴族然としていることだけが、いつの間にか、口に出さずとも、自分の中の“正しさ”になっていた。
でも、そうではないのだと知った
脚の間で、熱い雫がこぼれた。
それは、快楽の果てではなかった。
羞恥と、混乱と、胸のどこかが軋むような痛みによるものだった。
しばらくして、草が鳴った。
敷物が畳まれ、紙包みの音がする。
三人の平民たちが、談笑を続けながら、その場を立ち去っていった。
セリーヌは、目隠しの奥で、ようやく小さく息を吐いた。
解放ではなかった。
けれど──少しだけ、なにかが軽くなったような気がした。
──そのときだった。
背後から、冷たい掌が口を塞いだ。
同時に、身体が強く抱きすくめられる。
背中に押しつけられた体躯──男、ではない。膨らんでいる胸がある。
首に繋がれた《リラティア》の紐が、ぴんと張り、枝先で微かにきしんだ。
だが、音は鳴らない。
視界の闇が、熱を持って揺れる。
心臓が胸の奥で爆発しそうなほど跳ね、喉がひとりでに鳴った。
膝が折れそうになるのを、寸前で耐えた。
──けれど。
次の瞬間、セリーヌの身体からすっと緊張が抜けた。
鼻先に届いたのは、ほんの微かな──見慣れた香りだった。
クロエだった。
すぐに、わかった。
全身の力が抜け、倒れかけたところを、腕が支えてくれた。
「……よく、わかりましたね」
すぐ耳元で囁く声。
次いで、目隠しが外された。
光が差し込み、視界が戻る。
振り向くと、クロエがゆっくりと前へ回り込んでいた。
彼女の首元には、セリーヌと同じ《シルヴァ=ノーテス》──認識遮断の魔道首輪が輝いていた。
──ならば、あの足音のなさは。
セリーヌは、はっと息を呑んだ。
「もしかして……ずっと、後ろに……」
「ええ。その通りです」
クロエは、まるで当然のように頷いた。
「……替えのスカートは、もとよりこちらに準備しておりましたので」
「本当に……?」
「ちなみに──寸止め解除は、そのままです」
そう言いながら、懐から黒革の器具を取り出す。
それは、以前、香茶サロンで使用された──穴あきのボールギャグだった。
「“消音具”です。ある程度の音は、これでごまかせます」
そう言って、丁寧にセリーヌの口元へ押し当てる。
装着が終わると、クロエは片手でセリーヌの顎を撫でた。
そのまま、笑みの余韻を残して、視線を下へと滑らせていく。
「けれど──、もう一度、紐を引けば警鐘が鳴る……かもしれません……。ここにいる全員が、注目するでしょうね」
そして、なんのためらいもないように、セリーヌの前に跪いた。
顔をセリーヌの股間に近づける。
次の瞬間……。
突然に……ずっとセリーヌの股間を覆い続けていた貞操帯《ヴァルム=ギア》が……前側から外れた……。
「んんっ」
秘部に空気が当たる。
それだけで、セリーヌは声をあげて果てそうになった。
「……お嬢様……お慕い……してます……。心から……。ご安心を……。お嬢様は……必ず、わたしがお守りします……」
舌が……セリーヌの……花唇の縁をなぞった。
皮膚の内側──もっとも深い場所に触れるような錯覚。
「……っ」
瞬間、セリーヌの身体は、稲妻に打たれたように跳ね上がった。
喉が詰まった。
声は出せない。それでも、肺が軋み、腹が痙攣する。
全身の筋肉が、ぐらりと波打ち、脳の奥で熱が炸裂した。
──果てる。果てる。もう──だめ。
下腹の奥から、何かが噴きあがる。
痛みをともなうほどの快楽。
寸止めによって肥大化した悦楽が、形を持って解き放たれる。
股間から、どろりとした液が迸る。太腿に、膝に、足首へと滴り、地面を濡らす。
クロエの舌がクリトリスを揺らし、秘部を強く弱く擦る。その最中もレコルは震え続けていて、セリーヌの膝は笑い、身体は崩れ落ちそうだった。
《ソリス》と《ネクス》は、いまも激しくはないが、確実な快感を送り続けている。
「んんんっ」
そして、達した。
けれど、セリーヌは立っていた。
立たされたまま──果てた。
頭上では、梢が揺れていた。
春の陽が、木洩れ日のように降り注いでいた。
──セリーヌは、その光のなかで、静かに、声にならない声を漏らした。
幸福だった。
苦痛でさえも、甘く思えた。
そして、その幸福の裏側に、自分が──完全に堕ちたのだと理解した。
それが、調教五日目──。
二日の寸止めの果てに与えられた、最高の絶頂だった。
《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》
また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。