※この作品はR-18です。

侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従   作:ドン・ドナシアン

37 / 67
37  調教─知と縄

 扉が、静かに閉じられた。

 わずかな音だったのに、ひどく重く響いて、胸の奥に沈んだ。

 

 ──クロエは、もういない。

 

 セリーヌは、ルシアンの前に、ひとり立っていた。

 

 ここは、ドミエンヌの館の主の私室。

 中二階の奥に位置し、魔道処理で外界と完全に隔絶された空間──装飾も音も抑えられ、ただ沈黙だけが、品格のように漂っている。

 

 壁には天井まで届く書棚が並び、その合間を縫うように、蝋燭の光が揺れていた。

 机の上には、頁を伏せたままの書籍と、インクの滲んだまま止まった書類が置かれている。

 どちらも途中だ。

 だが、彼は続きを求めなかった。ただ、セリーヌの存在だけを静かに計測している。

 

 深く椅子に身を沈めたまま、ルシアンは脚を組み、頬杖をついて、言葉ひとつなく──セリーヌを見ていた。

 

 今日から学園は週末で休みに入り、とりあえず、この二日間は、館での生活となる。週明けからどうするかは未定だ。

 だが、日課が変わった──。

 これまで、すべての調教はクロエを介して行われてきた。

 けれど、今日からは違う。

 ルシアンの予定に合わせて、呼び出しを受ける。

 そして、ふたりきりで直接の調教を受けることになったのだ。

 

 今日の連絡が届いたのは、昼過ぎ。

 クロエから手渡された封筒には、ただ「日没前、私室に。服装は自由。下着も許可する」とだけ書かれていた。

 それだけ。

 どんな装いで来いとも、準備をどうしろとも、なにも書かれていなかった。クロエを通じての指示もなかった。

 下着も自由……。

 

 ──好きにすればいい。

 ただし、あとでその選択は、すべて見られる。

 

 それは、命令よりも残酷な指示だった。

 

 セリーヌは悩んだ。

 いくつかの衣装を前にして、指が震えた。

 飾り立てるのは怖かった。オプセリカのくせに媚びるように見えるのが怖い。

 けれど、あまりに質素なものも違うと思った。──できれば少しは可愛いと思われたい。

 

 最終的に選んだのは、淡い葡萄色のワンピースだった。

 白い刺繍の襟飾り。薄絹のショール。クロエに髪を結ってもらい、膝丈の柔らかな館内靴を合わせた。

 令嬢としては、控えめだが丁寧な装い──けれど。

 

 下には、なにもはいていない。

 下着をつけるなとは命じられてない。自由……。

 けれど、クロエは言った。

 

「──どうなさいますか? お嬢様のお好きなように」

 

 その問いは、選択ではなく、試験だった。

 セリーヌは──結局、下着をはかなかった。

 多分、これは試されてる……。

 それに、彼に見られることを、想像したから。

 見られて、なにかを言われることまで、すでに想像していたから。

 

 だからこそ、いま、こうして立っているだけのこの瞬間が──ひどく苦しかった。

 

 服の布越しに、肌が冷たい空気を感じている。

 羞恥が、脚の内側からじんわりと広がっていく。

 けれど、逃げ場はない。

 ルシアンの視線は、まだ外れない。

 書籍も書類も途中のまま、彼の関心はすべて、いま、セリーヌに向いている。

 

 やがて──その静寂を割って、声が落ちた。

 

「朝からのことを、報告しろ」

 

 低く、抑えた声音だった。

 けれど、それだけで、胸の奥にずしりと圧が落ちた。

 命令だった。問いではない。

 

「……はい。朝は、クロエに起こされました。目覚めは……比較的、ふつうだったと思います」

 

「昨日より?」

 

 静かな一言が、確認のように落ちてくる。

 

「……はい。昨日は、寸止め調教の二日目で……。夜中も、痙攣が残っていて……」

 

 言葉を切って、セリーヌは浅く息を吐いた。

 

「──染みたんだな。眠っていても、残るくらいに」

 

 その一言が、胸の奥に沈んだ。

 誇らしげではない。優しくもない。

 ただ、事実の確認として──見抜かれていた。

 

「でも、今日は──そこまでではありませんでした」

 

 かろうじて、そう答えることができた。

 けれど、その言葉さえ、自分の中にある深さを打ち消すものではなかった。

 

「……洗身は、いつもどおり、クロエが。膝下から順に香油を塗られて……でも、太腿の内側は、いつもより長く……」

 

「何度、果てた?」

 

 静かすぎる問いだった。

 感情も、興味も、責めもなかった。

 ただ、事実を訊いている──その声音だった。

 

「……二度です。ひとつ目は、ク、クリトリスを洗われたとき……すでに反応していて……。ふたつ目は、腿の付け根を指でなぞられたとき……」

 

「自分で止めようとしたか?」

 

「……はい。太腿に力を入れたんですが……クロエに、いまは素直でいなさいと……囁かれて……」

 

「つまり、声に身体が従った」

 

「……はい」

 

「それから?」

 

「……そのあとは、皆様と一緒に朝食を」

 

 言葉を選ぶように、セリーヌは少しだけ視線を落とした。

 

「席に着いたときには、レコルがすでに作動していて……噛むたびに、乳首と股の奥が……脈打つように」

 

「連動させていたのは、咀嚼か? 飲み込みか?」

 

「……たぶん、両方です。咀嚼と、喉を動かすたびに、細かく締めつけられて……」

 

「貴方の舌は、震えていたか?」

 

「……はい。熱くて、混乱して……。味が、わからなくなる瞬間もありました」

 

「声は出た?」

 

「……かすかに。……一度、喉の奥で、息が震えて……」

 

「それで、どうなった?」

 

「……クロエが……。右隣に座っていた彼女が、スカートの中に手を入れて……クリトリスのレコルを……ひと撫で、だけ」

 

「達したか?」

 

「……いえ。すぐに止められました。寸前で、指を離されて……レコルも同時に止まって……」

 

「では、どうした?」

 

「……膝が震えて……クロエに、そっと脚を押さえられて……」

 

「見られているわけでもないのに、恥ずかしかったか?」

 

「……ええ。喘いでいる方は多くおられました。でも、それが余計に……。咀嚼と快楽の融合訓練はわたしだけじゃないのに、わたしの息の音だけが、すごく響いて……」

 

「それでも、続いて欲しいと思った?」

 

「……はい……。あのまま、もっと……」

 

 その一言を、自分の口から出したことに、また羞恥が重なってきた。

 けれど、否定するほうが、もっと空虚だった。

 

 そして、午前中の調教……。絶頂抑制訓練……。快感をぎりぎりまで耐える練習……。反応抑制訓練……。逆に絶頂をしても、それを身体に表さない練習……。

 正直に説明する。なにをして……。どうだったか……。どう思ったか……。

 

「……そして、午後は、蔵書室にて。クロエに案内され、管理印付きの閲覧資料をいくつか──自分で選ばせていただきました」

 

 セリーヌは、言葉を慎重に選びながら、淡々と話を継いだ。

 

「興味を引くものは、あったか?」

 

「……なかに、教団承認済魔道具に関する通達整理という資料がありました。通達文の写しに、改訂履歴と追記が多く記されていて──あきらかに内部文書の体裁でした」

 

 ルシアンは反応を見せない。

 それでも、セリーヌは続けた。

 

「そこに、例外規定適用対象事業者という欄がありました。フェネア製魔堂も、その中に……。教団の聖印を盾に、王宮の認可を経ずに流通させていたと──婉曲な表現でしたが、事実は明らかでした」

 

「事実とは?」

 

「……不正です。認可魔道具の不正運用です。当時、教団認可の範囲外の魔道具も、教団認可で流通させてました」

 

「それで、不正はいまもか?」

 

「いえ、過去です。かつてはという注釈が添えられていました。……現在は、教団による独自認可の制度が公式に認められ、例外ではなくなっていると」

 

「それは、いつからだ?」

 

「……制度緩和が明文化されたのは、皇太子殿下が実務に入られた時期──ほぼ重なっています。現場運用との整合性をとるため、聖印院に一定の判断権を移譲するという改訂条が、決定的でした」

 

 セリーヌの声に迷いはなかった。

 さらに、続ける。

 

「……つまり、現在のフェネアの流通は、表向きは合法です。ですが、制度が追いついたのは後。最初の段階では、明らかに王宮審査を迂回した違法すれすれの構造でした。……そこに、教団と財閥、双方の黙認があったと……」

 

「黙認、か。理由は?」

 

「……平民です。制度の正当性より、教団が現実の恩恵を優先した結果だと記されていました。魔道具の恩恵が、庶民の生活水準を底上げしたことで、王国の民心安定に貢献した──そう結ばれていました」

 

 セリーヌは、ひとつ深く息をついた。

 

「……フェネアが、どこの傘下にあるかは、誰もが知っています。そして……わたしは、ルシアン様が、どなたであるかも」

 

 その言葉を聞いても、ルシアンは頷かない。

 ただ、机の端に置かれた書簡の角を、指先でなぞる。

 

「当時は、平民向け魔道具を拡めるにはそれしかなかったからな……」

 

 ルシアンは、笑っている。

 だがセリーヌには、それで十分だった。

 

「──新聞は、読んだか?」

 

「はい。今朝、私室に届けられて……。昨日、命じられていた通り、目を通しました」

 

「四紙すべて?」

 

「……はい」

 

「いままで新聞は読んだことがなかったと言っていたな?」

 

「はい、父に禁止されてました。女に必要ないと……」

 

「感想は?」

 

「貴族向けと、平民向け、それぞれの論調が全然違っていて……戸惑いました」

 

「そうだな……。でも、数年前までは、そもそも平民向けの新聞はなかった。発刊に一箇月以上かかる月刊誌があっただけだ」

 

「…… 一箇月、ですか?」

 

「検閲があったんだ。いまは緩和された。制度の外に出たわけではないが、皇太子が実務に入ってから、名目的な形式審査に切り替えられた。いまは一日で終わる」

 

「……そんなに早く……?」

 

「ああ。今後、平民の識字率が上がり、人数の多い平民の読者が増えれば──毎日発行されるようになるだろう」

 

「……新聞が毎日……。それって、なんだか……世界が速くなるみたいですね」

 

「さて──記事について、気がついたことはあるか?」

 

「……いえ。どれも、興味深くはありましたが……特に、なにかが、とは……」

 

「ないのは当然だ。貴方のことが、どこにも載っていなかったからな」

 

「……え?」

 

「昨日、話したはずだ。貴方をドミエンヌの館に監禁された哀れな犠牲者として噂を流し、純血派が利用しようとしている動きがあると」

 

「……はい、それは……聞いています」

 

「貴方の身柄を確保することには失敗したが、記事にすることならできたはずだ。記者は動かせるし、証言者も偽造できる。記事は、書かれるべきだった」

 

「……でも、どこにも、ありませんでした」

 

「どうしてだと思う?」

 

「……情報が、洩れていないから……? それとも……まだ、記事にするには時間が足りなかった……?」

 

「そうかもしれない。だが──多分、これからも載ることはない」

 

「……どうしてですか?」

 

「僕が、圧力をかけているからだ」

 

「……っ」

 

 セリーヌは、息を呑んだ。

 その言葉はあまりにも平然と、何気ない雑談のように放たれた。

 

「純血派の資本も、教団の印刷所も、一部の編集長も──圧力には弱い。金か、恐怖か、信義か、理由は様々だが……止めることは難しくない」

 

「……そんな……」

 

「驚くことではない。報道は自由でも、編集は構造だ。構造に介入する者が、情報を決める」

 

「……ルシアン様が……わたしのことを、記事にさせないように……」

 

「当然だ。貴方には何度も教えているつもりだが、情報はただではない。そして、情報を制する者が世界を制する。いまこの瞬間も、だ」

 

「はい……」

 

 セリーヌは頷く。

 

「ところで、貴方は──これから、ここで何をすると、聞いているか?」

 

 ルシアンの声は、先ほどまでの情報の話題から一転し、やけに静かだった。

 問いかけ、というより、確認するような低さ。

 

「……はい。調教を……受けると」

 

「では、貴方は──その格好が、それに相応しいと考えた?」

 

 問いは、鋭くも、咎めでもない。

 ただ、真正面から事実を突きつけるようなものだった。

 

 セリーヌは、一瞬だけ視線を伏せた。

 葡萄色のワンピース。肩を覆う柔らかなケープ。細くまとめられた髪。

 クロエに整えてもらった、自然な令嬢の服装。

 

 けれど、下着はない。

 なにも命じられず、ただ訊かれ──自らはかないと決めた。

 

 ──それでも、いまの問いには、答えられなかった。

 

 セリーヌは、無言のまま、小さく頭を下げた。

 

「スカートをめくれ。中が見えるようにだ。命令だ」

 

 命令──。

 なぜか、ほっとする。

 セリーヌはスカートを両手で持ちたくし上げる。

 お臍の位置まで。

 ルシアンによく見えるように。

 命令に、躊躇は生まれない。

 

「下着がないな」

 

「は、はい」

 

「なぜ、下着をはかなかった? 許可したはずだが? もっとも、はけとも命じなかった。なぜだ?」

 

「それは……」

 

 セリーヌは言い淀んだ。

 掟だから……。

 許可されても、勝手なことをすると罰せられると思ったから……。

 どれも違う。

 そして、口を開く。

 

「そうしたかったからです……」

 

「下着なしで? 令嬢が恥ずかしくないのか?」

 

「恥ずかしいです……。でも、そうしたいと思いました」

 

 ルシアンが相好を崩す。

 

「いいだろう。なら、いま、相応しい格好になれ」

 

 ルシアンが言った。

 セリーヌは、ゆっくりと背中のボタンに手をかける。

 ひとつずつ、指の腹で外していくたびに、室内の空気が、静かに肌へ降りてきた。

 

 布が肩を滑り落ち、やがて膝を抜けて、床に沈んだ。

 ケープも、靴も、そっと外す。

 

 いま、身に着けているものは、なにもない。

 

 セリーヌは、まっすぐにルシアンの前に立った。

 手で胸も股間も隠さずに。

 姿勢を崩さずに。

 ただ、背筋を伸ばしたまま、視線だけを静かに落とした。

 

「──なぜ、その姿を選んだ?」

 

 その問いは、あまりにも静かだった。

 叱責でも、驚きでも、慈しみでもない。ただ、知ろうとする者の声だった。

 

 セリーヌは、裸のまま立ち尽くしていた。

 肩も、胸も、下腹部も──一切隠さずに。

 その姿が正しいのか、それとも愚かしいのか、自分でもまだわからなかった。

 

 けれど──理由はあった。

 

「……ドミエンヌ式、隷属誓約二十三箇条の──第十八条に、従いました」

 

 ルシアンのまなざしが、わずかに細まる。

 

「隷属者は、主の望むときに望まれた姿であれ。

恥じる姿、悦ぶ姿すらも、意志ではなく命令によって選ばれる──だな」

 

「……はい」

 

 答える声は震えていなかった。

 ただ、喉の奥が焼けつくように熱かった。

 

「命令を、求めているのか?」

 

「……はい。いまのわたしが、これでいいのか、それとも──まだ、なにかを装うべきのか……。命令していただきたいと思いました」

 

「つまり、貴方は、すでに隷属者であると、自己を認めた上で、そこに立っている」

 

「……はい」

 

 その一言が、いまこの空間のすべてを締める音になった。

 

「……服を脱げと、僕は命じてない」

 

 その言葉は、鋭さも責めもなく、ただ事実を突きつけていた。

 

「……はい……」

 

「それでも全部脱いだ。命じられてもないのに。自分から」

 

「……はい……」

 

「じゃあ、もう一度、訊く。恥ずかしくないのか」

 

「……恥ずかしい……です……」

 

「なのに、なぜ隠さない?」

 

 セリーヌの手が、反射的に腹部へ動こうとする。

 でも、それすら読み切ったように、言葉が重なる。

 

「隠さないのが相応しいと、思ってるのか?」

 

「……っ……」

 

 咎められているわけじゃない。

 でも、すべてが見透かされている──そんな圧力。

 

 セリーヌは、ゆっくりと手を下ろした。

 何も隠さず、視線だけを下げていた。

 

「脚が震えてる。息も乱れてきたな」

 

「……ちが……」

 

「濡れてるぞ。無毛だからよく見える。太もも、雫が伝ってる……」

 

「っ……」

 

「言葉にならないほどの恥があるなら、なんで逃げない? なんでそこに、立ち続けてる?」

 

 その問いに、セリーヌは何も答えられなかった。

 逃げたくて、でも逃げたくなかった。

 

 それが──怖かった。

 

「命じてない。求めてもいない。自分から脱いで、濡れて、見られて、それでもそこに立ってる」

 

「……違う……そんな……そんなつもりじゃ……」

 

「じゃあ、自分で言ってみろ。なぜ、裸になった?」

 

「……わからない……わたし、なにも考えてなくて……」

 

「考えてなかったなら、身体はなぜ反応してる?」

 

「……こわかった……でも、逃げたくなかった……」

 

「なぜ?」

 

 沈黙。

 でも──この沈黙は、もう逃げ場ではなかった。

 

「……わたし……ずっと、否定してた……」

 

「なにを?」

 

「……自分が……そんなこと、思うはずないって……」

 

 ルシアンは何も言わない。

 ただ見ている。動かず、問わず、促しもせず──ただ、そこにいる。

 

「……でも……気づいてしまった……」

 

「……気づいたなら、言葉にしろ」

 

 セリーヌの喉が震え、唇が強く噛まれる。

 

「……犯して欲しいと……思ってました……」

 

 その瞬間、声も、理性も、羞恥も、すべてが一度に崩れた。

 けれど、その崩壊は、どこか清らかだった。

 

 言ってしまった。

 言って、戻れなくなった。

 ──でも、それが正しかったことも、もうわかっていた。

 

「──犯して欲しいと、口にしろ」

 

 その一言が、静かに突き立った。

 命じるでもなく、問いでもない。

 ただ当然のことのように、ルシアンは言った。

 

 セリーヌは、裸のまま、立っていた。

 肌に張りつく冷たい空気が、緊張で滲んだ汗を際立たせる。

 

「……ルシアン様に……」

 

 言葉にした瞬間、腹の奥がびく、と痙攣した。

 言葉が熱を持って、喉を抜けたその感覚すら、甘い。

 

「……犯して……欲しい、です……」

 

 言い終えたその瞬間だった。

 

 びゅっと、なにかが身体の奥で弾けた。

 膣が自分の意志とは無関係にひくひくと脈を打ち、股のあいだから熱い感触が溢れ出す。

 

「……あ……っ……」

 

 両脚が反射的にすくみ、太ももの内側に、生々しい濡れが伝った。

 粘膜がきゅう、と締まり、垂れたしずくが内腿を這っていく。

 

 羞恥のはずだったのに、

 ただ命じられ、答えただけなのに、

 身体はまるで──絶頂の直前のように、反応していた。

 

 自分が、こんなにも言葉ひとつで快感を覚えてしまうなんて──。

 とても、知らなかった。

 

 脚が震え、膝が抜けそうになる。

 けれど、それでも立ち尽くす。

 言ってしまった。

 戻れない。

 でも、それでいい──そう思ってしまった。

 

 そして、視線の先で、ルシアンが微かに笑った。

 

「よく言った。偉いぞ」

 

 その声が、今度はご褒美のように甘く冷たく響いた。

 でも、ほっとする。

 褒められた。

 

「──なら、まずは縛ってやろう」

 

 ルシアンの声は淡々としていた。

 だが、セリーヌの耳には、それがまるで赦しのように聞こえた。

 

「縛る……のですか」

 

「ああ、貴方が、ずっと──そうされることを望んでいたからな」

 

「……望んでなど……いません……」

 

 そう答えた声は、小さく震えていた。

 否定したいのに、言葉に熱が混じる。

 愛液の余熱が、脚の内側でじっとりと残っているのが自分でもわかってしまう。

 

「縛られれば、わかる」

 

 ルシアンは机の横に置かれていた縄束を取り上げ、手早く指先で解いた。

 一本の麻縄。

 淡く艶のある褐色の線が、空気のなかでしなやかに泳ぐ。

 

「腕を後ろに。手のひらは外。親指を重ねて」

 

 セリーヌは、ゆっくりと従った。

 両腕を背中に回し、指を揃える。

 緊張のせいで肩が少しだけ跳ね上がったが、すぐに静かに呼吸を整える。

 縄が手首に触れた瞬間、ぴり、と皮膚が反応した。

 柔らかいのに、確かな重さがある。

 

 一周。

 もう一周。

 間隔を揃えて、滑るように巻かれる。

 そのあと、中心で交差し、きゅ、と引かれた。

 

「……っ……」

 

 皮膚が締まる。

 その圧力が、脈と重なって内側に響く。

 

 縄はそのまま、螺旋を描いて肘へと伸びていく。

 腕と腕のあいだをきれいに沿いながら、少しずつ縛りを深めていく。

 胸の上下が強く締め付けられる。

 まるで、縄の感触そのものが快感の導線のようだった。

 

 交差する結び目が背骨の近くでぎゅっと引かれ、セリーヌの上体がほんのわずかに反る。

 

 肩甲骨が押し寄せられ、胸が自然と前に突き出る格好になる。

 

「上半身は、これでいいな」

 

 そして、次の縄が解かれる。

 ルシアンの手が、今度はセリーヌの太腿に触れた。

 指の背で、肌をなぞるようにしながら、縄を鼠蹊部のラインに沿わせていく。

 

 くい、と縦に引かれた一本の線が、割れ目のすぐ上をなぞった。

 

「……ん……」

 

 思わず、声が漏れる。

 刺激ではなく、感覚の予感だけで身体が跳ねた。

 

 前から後ろへ、股のあいだを縄が通る。

 背中で縛られた腕のあいだを通り、腰へ。

 また前へと引き戻されると、ちょうど中心の頂点にあたる部分に、結び目が自然と止まる。

 

 そして、そこを──ゆっくりと引き締められた。

 

「……あっ……」

 

 粘膜が、きゅう、と押し上げられる。

 擦れる。

 絡まる。

 ひと息の間に、痺れが広がる。

 

 縄の刺激に、セリーヌの喉から自然と息が漏れた。

 

「……ふっ……く……あ、ぁ……っ……」

 

 縄は何もしていない。

 ただ巻かれているだけ。

 それだけなのに──

 熱が内側からあふれていく。

 

 縄の一筋が、こんなにも深く身体を支配してくるなんて。

 胸の奥で、なにかが壊れそうだった。

 

 麻縄は、もう動いていなかった。

 けれど、縄のなかのセリーヌの身体は──止まってはいなかった。

 

 締められた手首と肘のあいだが、脈を打つようにじわじわと疼く。

 股間をまたぐ縄は、脚のわずかな震えに応じて、粘膜に微細な摩擦を繰り返していた。

 

「っ……ん……ぅ……っ……」

 

 声を抑えようとしても、喉が裏切る。

 逃げ場のない快感が、胸の内側から逆流してくる。

 

 ルシアンは、何もしていない。

 言葉も、手も、一切加えていない。

 ただそこに立ち、見ているだけ。

 

 それが、いちばん苦しかった。

 恥ずかしくて、苦しくて、でも──快い。

 

 自分の息づかいの音だけが、室内に満ちる。

 張られた縄の摩擦音が、それを時折かき消す。

 

「……っは……っ、ふ……く……んんっ……」

 

 股間が、脈を打っていた。

 膣の奥が、ひくひくと収縮する。

 締めつけられた粘膜の上に、滲んだ汁がじわじわと染み出し、細い縄の線を濡らしていく。

 

「……ぅ、や……ぁっ……」

 

 腰が、かすかに逃げようと動く。

 けれど、そのたびに縄がさらに深く粘膜を締めつけてくる。

 まるで、自分の奥が縄に躾けられているような感覚だった。

 

「……感じてるんだな」

 

 ルシアンの声が、ぽつりと落ちた。

 

 その一言だけで、セリーヌの膝ががくりと抜けそうになる。

 

 縄が、また一段と深く圧してきた。

 声を上げたら、何かが壊れてしまう。

 でも──もう、壊れてしまいたかった。

 

「っ……ああ……くぅ……っ……」

 

 股間の奥が、じん、と熱を放つ。

 縄が揺れたわけでもないのに、擦られたような痺れが広がる。

 

 吊られていない。

 触られていない。

 でも、自分の身体は、もう──限界だった。

 

 縄は、まだ足りないとでも言うように、背中から延びて天井へと導かれていく。

 

 ルシアンは淡々と、吊り縄を天井の滑車へ通し、固定具を確認した。

 その動きには一切の焦りも迷いもない。

 ただ行うべき処理として、縛りを完成させていた。

 

「──吊るすぞ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、セリーヌの呼吸が震えた。

 返事はなかった。できなかった。

 でも、逃げようとはしなかった。

 

 縄が引かれる。

 後手に縛られた腕を吊り点にして、セリーヌの身体がゆっくりと引き上げられていく。

 

 かかとが、床から離れる。

 つま先が、最後まで残り、やがて──宙に浮いた。

 

「く……あっ……」

 

 吊られるという感覚。

 自分の重さが、腕と股間の縄へと集中する。

 脇が引き締まり、肩が軋む。

 股間を縛る縄が、自重で深く、濃密に粘膜へと食い込んだ。

 

 それだけで、膣の奥がびくびくと痙攣する。

 

 縛りの構造が、セリーヌの身体を完全に支配していた。

 

 息が乱れはじめる。

 吊られた腕がしびれ、胸が突き出され、脚は宙に泳ぐ。

 

「んっ、んぅ……っ……」

 

 何もされていない。

 ただ吊られているだけ。

 なのに、全身が火照り、熱が腹の奥から押し上げてくる。

 

 額から汗が伝う。

 喉も背筋も、胸元も、汗で濡れはじめていた。

 

 そして、股間。

 縄に締めつけられた粘膜から、ぬるりと愛液があふれ出す。

 

 太ももを這い、脚の裏を伝い、雫が空中から床へ──ひとしずく、ふたしずくと落ちていく。

 

「っ……く、んん……っ……」

 

 喘ぎが止まらない。

 なにも触れられていない。

 それなのに、声が漏れる。震える。

 頭が熱い。胸が苦しい。

 でも、それを止めようとは思わなかった。

 

 吊られている──それだけで、心も身体も、すべてが開かれていた。

 

 ルシアンは、机に戻っていた。

 一瞥しただけで、背を向け、文書に目を落とす。

 

 セリーヌを見ない。

 触れない。

 命じない。

 ただ、吊って放っておく。

 

 ──それが、いちばん深く、いちばん酷い、快感だった。




《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》

 また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。