侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
扉が、静かに閉じられた。
わずかな音だったのに、ひどく重く響いて、胸の奥に沈んだ。
──クロエは、もういない。
セリーヌは、ルシアンの前に、ひとり立っていた。
ここは、ドミエンヌの館の主の私室。
中二階の奥に位置し、魔道処理で外界と完全に隔絶された空間──装飾も音も抑えられ、ただ沈黙だけが、品格のように漂っている。
壁には天井まで届く書棚が並び、その合間を縫うように、蝋燭の光が揺れていた。
机の上には、頁を伏せたままの書籍と、インクの滲んだまま止まった書類が置かれている。
どちらも途中だ。
だが、彼は続きを求めなかった。ただ、セリーヌの存在だけを静かに計測している。
深く椅子に身を沈めたまま、ルシアンは脚を組み、頬杖をついて、言葉ひとつなく──セリーヌを見ていた。
今日から学園は週末で休みに入り、とりあえず、この二日間は、館での生活となる。週明けからどうするかは未定だ。
だが、日課が変わった──。
これまで、すべての調教はクロエを介して行われてきた。
けれど、今日からは違う。
ルシアンの予定に合わせて、呼び出しを受ける。
そして、ふたりきりで直接の調教を受けることになったのだ。
今日の連絡が届いたのは、昼過ぎ。
クロエから手渡された封筒には、ただ「日没前、私室に。服装は自由。下着も許可する」とだけ書かれていた。
それだけ。
どんな装いで来いとも、準備をどうしろとも、なにも書かれていなかった。クロエを通じての指示もなかった。
下着も自由……。
──好きにすればいい。
ただし、あとでその選択は、すべて見られる。
それは、命令よりも残酷な指示だった。
セリーヌは悩んだ。
いくつかの衣装を前にして、指が震えた。
飾り立てるのは怖かった。オプセリカのくせに媚びるように見えるのが怖い。
けれど、あまりに質素なものも違うと思った。──できれば少しは可愛いと思われたい。
最終的に選んだのは、淡い葡萄色のワンピースだった。
白い刺繍の襟飾り。薄絹のショール。クロエに髪を結ってもらい、膝丈の柔らかな館内靴を合わせた。
令嬢としては、控えめだが丁寧な装い──けれど。
下には、なにもはいていない。
下着をつけるなとは命じられてない。自由……。
けれど、クロエは言った。
「──どうなさいますか? お嬢様のお好きなように」
その問いは、選択ではなく、試験だった。
セリーヌは──結局、下着をはかなかった。
多分、これは試されてる……。
それに、彼に見られることを、想像したから。
見られて、なにかを言われることまで、すでに想像していたから。
だからこそ、いま、こうして立っているだけのこの瞬間が──ひどく苦しかった。
服の布越しに、肌が冷たい空気を感じている。
羞恥が、脚の内側からじんわりと広がっていく。
けれど、逃げ場はない。
ルシアンの視線は、まだ外れない。
書籍も書類も途中のまま、彼の関心はすべて、いま、セリーヌに向いている。
やがて──その静寂を割って、声が落ちた。
「朝からのことを、報告しろ」
低く、抑えた声音だった。
けれど、それだけで、胸の奥にずしりと圧が落ちた。
命令だった。問いではない。
「……はい。朝は、クロエに起こされました。目覚めは……比較的、ふつうだったと思います」
「昨日より?」
静かな一言が、確認のように落ちてくる。
「……はい。昨日は、寸止め調教の二日目で……。夜中も、痙攣が残っていて……」
言葉を切って、セリーヌは浅く息を吐いた。
「──染みたんだな。眠っていても、残るくらいに」
その一言が、胸の奥に沈んだ。
誇らしげではない。優しくもない。
ただ、事実の確認として──見抜かれていた。
「でも、今日は──そこまでではありませんでした」
かろうじて、そう答えることができた。
けれど、その言葉さえ、自分の中にある深さを打ち消すものではなかった。
「……洗身は、いつもどおり、クロエが。膝下から順に香油を塗られて……でも、太腿の内側は、いつもより長く……」
「何度、果てた?」
静かすぎる問いだった。
感情も、興味も、責めもなかった。
ただ、事実を訊いている──その声音だった。
「……二度です。ひとつ目は、ク、クリトリスを洗われたとき……すでに反応していて……。ふたつ目は、腿の付け根を指でなぞられたとき……」
「自分で止めようとしたか?」
「……はい。太腿に力を入れたんですが……クロエに、いまは素直でいなさいと……囁かれて……」
「つまり、声に身体が従った」
「……はい」
「それから?」
「……そのあとは、皆様と一緒に朝食を」
言葉を選ぶように、セリーヌは少しだけ視線を落とした。
「席に着いたときには、レコルがすでに作動していて……噛むたびに、乳首と股の奥が……脈打つように」
「連動させていたのは、咀嚼か? 飲み込みか?」
「……たぶん、両方です。咀嚼と、喉を動かすたびに、細かく締めつけられて……」
「貴方の舌は、震えていたか?」
「……はい。熱くて、混乱して……。味が、わからなくなる瞬間もありました」
「声は出た?」
「……かすかに。……一度、喉の奥で、息が震えて……」
「それで、どうなった?」
「……クロエが……。右隣に座っていた彼女が、スカートの中に手を入れて……クリトリスのレコルを……ひと撫で、だけ」
「達したか?」
「……いえ。すぐに止められました。寸前で、指を離されて……レコルも同時に止まって……」
「では、どうした?」
「……膝が震えて……クロエに、そっと脚を押さえられて……」
「見られているわけでもないのに、恥ずかしかったか?」
「……ええ。喘いでいる方は多くおられました。でも、それが余計に……。咀嚼と快楽の融合訓練はわたしだけじゃないのに、わたしの息の音だけが、すごく響いて……」
「それでも、続いて欲しいと思った?」
「……はい……。あのまま、もっと……」
その一言を、自分の口から出したことに、また羞恥が重なってきた。
けれど、否定するほうが、もっと空虚だった。
そして、午前中の調教……。絶頂抑制訓練……。快感をぎりぎりまで耐える練習……。反応抑制訓練……。逆に絶頂をしても、それを身体に表さない練習……。
正直に説明する。なにをして……。どうだったか……。どう思ったか……。
「……そして、午後は、蔵書室にて。クロエに案内され、管理印付きの閲覧資料をいくつか──自分で選ばせていただきました」
セリーヌは、言葉を慎重に選びながら、淡々と話を継いだ。
「興味を引くものは、あったか?」
「……なかに、教団承認済魔道具に関する通達整理という資料がありました。通達文の写しに、改訂履歴と追記が多く記されていて──あきらかに内部文書の体裁でした」
ルシアンは反応を見せない。
それでも、セリーヌは続けた。
「そこに、例外規定適用対象事業者という欄がありました。フェネア製魔堂も、その中に……。教団の聖印を盾に、王宮の認可を経ずに流通させていたと──婉曲な表現でしたが、事実は明らかでした」
「事実とは?」
「……不正です。認可魔道具の不正運用です。当時、教団認可の範囲外の魔道具も、教団認可で流通させてました」
「それで、不正はいまもか?」
「いえ、過去です。かつてはという注釈が添えられていました。……現在は、教団による独自認可の制度が公式に認められ、例外ではなくなっていると」
「それは、いつからだ?」
「……制度緩和が明文化されたのは、皇太子殿下が実務に入られた時期──ほぼ重なっています。現場運用との整合性をとるため、聖印院に一定の判断権を移譲するという改訂条が、決定的でした」
セリーヌの声に迷いはなかった。
さらに、続ける。
「……つまり、現在のフェネアの流通は、表向きは合法です。ですが、制度が追いついたのは後。最初の段階では、明らかに王宮審査を迂回した違法すれすれの構造でした。……そこに、教団と財閥、双方の黙認があったと……」
「黙認、か。理由は?」
「……平民です。制度の正当性より、教団が現実の恩恵を優先した結果だと記されていました。魔道具の恩恵が、庶民の生活水準を底上げしたことで、王国の民心安定に貢献した──そう結ばれていました」
セリーヌは、ひとつ深く息をついた。
「……フェネアが、どこの傘下にあるかは、誰もが知っています。そして……わたしは、ルシアン様が、どなたであるかも」
その言葉を聞いても、ルシアンは頷かない。
ただ、机の端に置かれた書簡の角を、指先でなぞる。
「当時は、平民向け魔道具を拡めるにはそれしかなかったからな……」
ルシアンは、笑っている。
だがセリーヌには、それで十分だった。
「──新聞は、読んだか?」
「はい。今朝、私室に届けられて……。昨日、命じられていた通り、目を通しました」
「四紙すべて?」
「……はい」
「いままで新聞は読んだことがなかったと言っていたな?」
「はい、父に禁止されてました。女に必要ないと……」
「感想は?」
「貴族向けと、平民向け、それぞれの論調が全然違っていて……戸惑いました」
「そうだな……。でも、数年前までは、そもそも平民向けの新聞はなかった。発刊に一箇月以上かかる月刊誌があっただけだ」
「…… 一箇月、ですか?」
「検閲があったんだ。いまは緩和された。制度の外に出たわけではないが、皇太子が実務に入ってから、名目的な形式審査に切り替えられた。いまは一日で終わる」
「……そんなに早く……?」
「ああ。今後、平民の識字率が上がり、人数の多い平民の読者が増えれば──毎日発行されるようになるだろう」
「……新聞が毎日……。それって、なんだか……世界が速くなるみたいですね」
「さて──記事について、気がついたことはあるか?」
「……いえ。どれも、興味深くはありましたが……特に、なにかが、とは……」
「ないのは当然だ。貴方のことが、どこにも載っていなかったからな」
「……え?」
「昨日、話したはずだ。貴方をドミエンヌの館に監禁された哀れな犠牲者として噂を流し、純血派が利用しようとしている動きがあると」
「……はい、それは……聞いています」
「貴方の身柄を確保することには失敗したが、記事にすることならできたはずだ。記者は動かせるし、証言者も偽造できる。記事は、書かれるべきだった」
「……でも、どこにも、ありませんでした」
「どうしてだと思う?」
「……情報が、洩れていないから……? それとも……まだ、記事にするには時間が足りなかった……?」
「そうかもしれない。だが──多分、これからも載ることはない」
「……どうしてですか?」
「僕が、圧力をかけているからだ」
「……っ」
セリーヌは、息を呑んだ。
その言葉はあまりにも平然と、何気ない雑談のように放たれた。
「純血派の資本も、教団の印刷所も、一部の編集長も──圧力には弱い。金か、恐怖か、信義か、理由は様々だが……止めることは難しくない」
「……そんな……」
「驚くことではない。報道は自由でも、編集は構造だ。構造に介入する者が、情報を決める」
「……ルシアン様が……わたしのことを、記事にさせないように……」
「当然だ。貴方には何度も教えているつもりだが、情報はただではない。そして、情報を制する者が世界を制する。いまこの瞬間も、だ」
「はい……」
セリーヌは頷く。
「ところで、貴方は──これから、ここで何をすると、聞いているか?」
ルシアンの声は、先ほどまでの情報の話題から一転し、やけに静かだった。
問いかけ、というより、確認するような低さ。
「……はい。調教を……受けると」
「では、貴方は──その格好が、それに相応しいと考えた?」
問いは、鋭くも、咎めでもない。
ただ、真正面から事実を突きつけるようなものだった。
セリーヌは、一瞬だけ視線を伏せた。
葡萄色のワンピース。肩を覆う柔らかなケープ。細くまとめられた髪。
クロエに整えてもらった、自然な令嬢の服装。
けれど、下着はない。
なにも命じられず、ただ訊かれ──自らはかないと決めた。
──それでも、いまの問いには、答えられなかった。
セリーヌは、無言のまま、小さく頭を下げた。
「スカートをめくれ。中が見えるようにだ。命令だ」
命令──。
なぜか、ほっとする。
セリーヌはスカートを両手で持ちたくし上げる。
お臍の位置まで。
ルシアンによく見えるように。
命令に、躊躇は生まれない。
「下着がないな」
「は、はい」
「なぜ、下着をはかなかった? 許可したはずだが? もっとも、はけとも命じなかった。なぜだ?」
「それは……」
セリーヌは言い淀んだ。
掟だから……。
許可されても、勝手なことをすると罰せられると思ったから……。
どれも違う。
そして、口を開く。
「そうしたかったからです……」
「下着なしで? 令嬢が恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいです……。でも、そうしたいと思いました」
ルシアンが相好を崩す。
「いいだろう。なら、いま、相応しい格好になれ」
ルシアンが言った。
セリーヌは、ゆっくりと背中のボタンに手をかける。
ひとつずつ、指の腹で外していくたびに、室内の空気が、静かに肌へ降りてきた。
布が肩を滑り落ち、やがて膝を抜けて、床に沈んだ。
ケープも、靴も、そっと外す。
いま、身に着けているものは、なにもない。
セリーヌは、まっすぐにルシアンの前に立った。
手で胸も股間も隠さずに。
姿勢を崩さずに。
ただ、背筋を伸ばしたまま、視線だけを静かに落とした。
「──なぜ、その姿を選んだ?」
その問いは、あまりにも静かだった。
叱責でも、驚きでも、慈しみでもない。ただ、知ろうとする者の声だった。
セリーヌは、裸のまま立ち尽くしていた。
肩も、胸も、下腹部も──一切隠さずに。
その姿が正しいのか、それとも愚かしいのか、自分でもまだわからなかった。
けれど──理由はあった。
「……ドミエンヌ式、隷属誓約二十三箇条の──第十八条に、従いました」
ルシアンのまなざしが、わずかに細まる。
「隷属者は、主の望むときに望まれた姿であれ。
恥じる姿、悦ぶ姿すらも、意志ではなく命令によって選ばれる──だな」
「……はい」
答える声は震えていなかった。
ただ、喉の奥が焼けつくように熱かった。
「命令を、求めているのか?」
「……はい。いまのわたしが、これでいいのか、それとも──まだ、なにかを装うべきのか……。命令していただきたいと思いました」
「つまり、貴方は、すでに隷属者であると、自己を認めた上で、そこに立っている」
「……はい」
その一言が、いまこの空間のすべてを締める音になった。
「……服を脱げと、僕は命じてない」
その言葉は、鋭さも責めもなく、ただ事実を突きつけていた。
「……はい……」
「それでも全部脱いだ。命じられてもないのに。自分から」
「……はい……」
「じゃあ、もう一度、訊く。恥ずかしくないのか」
「……恥ずかしい……です……」
「なのに、なぜ隠さない?」
セリーヌの手が、反射的に腹部へ動こうとする。
でも、それすら読み切ったように、言葉が重なる。
「隠さないのが相応しいと、思ってるのか?」
「……っ……」
咎められているわけじゃない。
でも、すべてが見透かされている──そんな圧力。
セリーヌは、ゆっくりと手を下ろした。
何も隠さず、視線だけを下げていた。
「脚が震えてる。息も乱れてきたな」
「……ちが……」
「濡れてるぞ。無毛だからよく見える。太もも、雫が伝ってる……」
「っ……」
「言葉にならないほどの恥があるなら、なんで逃げない? なんでそこに、立ち続けてる?」
その問いに、セリーヌは何も答えられなかった。
逃げたくて、でも逃げたくなかった。
それが──怖かった。
「命じてない。求めてもいない。自分から脱いで、濡れて、見られて、それでもそこに立ってる」
「……違う……そんな……そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、自分で言ってみろ。なぜ、裸になった?」
「……わからない……わたし、なにも考えてなくて……」
「考えてなかったなら、身体はなぜ反応してる?」
「……こわかった……でも、逃げたくなかった……」
「なぜ?」
沈黙。
でも──この沈黙は、もう逃げ場ではなかった。
「……わたし……ずっと、否定してた……」
「なにを?」
「……自分が……そんなこと、思うはずないって……」
ルシアンは何も言わない。
ただ見ている。動かず、問わず、促しもせず──ただ、そこにいる。
「……でも……気づいてしまった……」
「……気づいたなら、言葉にしろ」
セリーヌの喉が震え、唇が強く噛まれる。
「……犯して欲しいと……思ってました……」
その瞬間、声も、理性も、羞恥も、すべてが一度に崩れた。
けれど、その崩壊は、どこか清らかだった。
言ってしまった。
言って、戻れなくなった。
──でも、それが正しかったことも、もうわかっていた。
「──犯して欲しいと、口にしろ」
その一言が、静かに突き立った。
命じるでもなく、問いでもない。
ただ当然のことのように、ルシアンは言った。
セリーヌは、裸のまま、立っていた。
肌に張りつく冷たい空気が、緊張で滲んだ汗を際立たせる。
「……ルシアン様に……」
言葉にした瞬間、腹の奥がびく、と痙攣した。
言葉が熱を持って、喉を抜けたその感覚すら、甘い。
「……犯して……欲しい、です……」
言い終えたその瞬間だった。
びゅっと、なにかが身体の奥で弾けた。
膣が自分の意志とは無関係にひくひくと脈を打ち、股のあいだから熱い感触が溢れ出す。
「……あ……っ……」
両脚が反射的にすくみ、太ももの内側に、生々しい濡れが伝った。
粘膜がきゅう、と締まり、垂れたしずくが内腿を這っていく。
羞恥のはずだったのに、
ただ命じられ、答えただけなのに、
身体はまるで──絶頂の直前のように、反応していた。
自分が、こんなにも言葉ひとつで快感を覚えてしまうなんて──。
とても、知らなかった。
脚が震え、膝が抜けそうになる。
けれど、それでも立ち尽くす。
言ってしまった。
戻れない。
でも、それでいい──そう思ってしまった。
そして、視線の先で、ルシアンが微かに笑った。
「よく言った。偉いぞ」
その声が、今度はご褒美のように甘く冷たく響いた。
でも、ほっとする。
褒められた。
「──なら、まずは縛ってやろう」
ルシアンの声は淡々としていた。
だが、セリーヌの耳には、それがまるで赦しのように聞こえた。
「縛る……のですか」
「ああ、貴方が、ずっと──そうされることを望んでいたからな」
「……望んでなど……いません……」
そう答えた声は、小さく震えていた。
否定したいのに、言葉に熱が混じる。
愛液の余熱が、脚の内側でじっとりと残っているのが自分でもわかってしまう。
「縛られれば、わかる」
ルシアンは机の横に置かれていた縄束を取り上げ、手早く指先で解いた。
一本の麻縄。
淡く艶のある褐色の線が、空気のなかでしなやかに泳ぐ。
「腕を後ろに。手のひらは外。親指を重ねて」
セリーヌは、ゆっくりと従った。
両腕を背中に回し、指を揃える。
緊張のせいで肩が少しだけ跳ね上がったが、すぐに静かに呼吸を整える。
縄が手首に触れた瞬間、ぴり、と皮膚が反応した。
柔らかいのに、確かな重さがある。
一周。
もう一周。
間隔を揃えて、滑るように巻かれる。
そのあと、中心で交差し、きゅ、と引かれた。
「……っ……」
皮膚が締まる。
その圧力が、脈と重なって内側に響く。
縄はそのまま、螺旋を描いて肘へと伸びていく。
腕と腕のあいだをきれいに沿いながら、少しずつ縛りを深めていく。
胸の上下が強く締め付けられる。
まるで、縄の感触そのものが快感の導線のようだった。
交差する結び目が背骨の近くでぎゅっと引かれ、セリーヌの上体がほんのわずかに反る。
肩甲骨が押し寄せられ、胸が自然と前に突き出る格好になる。
「上半身は、これでいいな」
そして、次の縄が解かれる。
ルシアンの手が、今度はセリーヌの太腿に触れた。
指の背で、肌をなぞるようにしながら、縄を鼠蹊部のラインに沿わせていく。
くい、と縦に引かれた一本の線が、割れ目のすぐ上をなぞった。
「……ん……」
思わず、声が漏れる。
刺激ではなく、感覚の予感だけで身体が跳ねた。
前から後ろへ、股のあいだを縄が通る。
背中で縛られた腕のあいだを通り、腰へ。
また前へと引き戻されると、ちょうど中心の頂点にあたる部分に、結び目が自然と止まる。
そして、そこを──ゆっくりと引き締められた。
「……あっ……」
粘膜が、きゅう、と押し上げられる。
擦れる。
絡まる。
ひと息の間に、痺れが広がる。
縄の刺激に、セリーヌの喉から自然と息が漏れた。
「……ふっ……く……あ、ぁ……っ……」
縄は何もしていない。
ただ巻かれているだけ。
それだけなのに──
熱が内側からあふれていく。
縄の一筋が、こんなにも深く身体を支配してくるなんて。
胸の奥で、なにかが壊れそうだった。
麻縄は、もう動いていなかった。
けれど、縄のなかのセリーヌの身体は──止まってはいなかった。
締められた手首と肘のあいだが、脈を打つようにじわじわと疼く。
股間をまたぐ縄は、脚のわずかな震えに応じて、粘膜に微細な摩擦を繰り返していた。
「っ……ん……ぅ……っ……」
声を抑えようとしても、喉が裏切る。
逃げ場のない快感が、胸の内側から逆流してくる。
ルシアンは、何もしていない。
言葉も、手も、一切加えていない。
ただそこに立ち、見ているだけ。
それが、いちばん苦しかった。
恥ずかしくて、苦しくて、でも──快い。
自分の息づかいの音だけが、室内に満ちる。
張られた縄の摩擦音が、それを時折かき消す。
「……っは……っ、ふ……く……んんっ……」
股間が、脈を打っていた。
膣の奥が、ひくひくと収縮する。
締めつけられた粘膜の上に、滲んだ汁がじわじわと染み出し、細い縄の線を濡らしていく。
「……ぅ、や……ぁっ……」
腰が、かすかに逃げようと動く。
けれど、そのたびに縄がさらに深く粘膜を締めつけてくる。
まるで、自分の奥が縄に躾けられているような感覚だった。
「……感じてるんだな」
ルシアンの声が、ぽつりと落ちた。
その一言だけで、セリーヌの膝ががくりと抜けそうになる。
縄が、また一段と深く圧してきた。
声を上げたら、何かが壊れてしまう。
でも──もう、壊れてしまいたかった。
「っ……ああ……くぅ……っ……」
股間の奥が、じん、と熱を放つ。
縄が揺れたわけでもないのに、擦られたような痺れが広がる。
吊られていない。
触られていない。
でも、自分の身体は、もう──限界だった。
縄は、まだ足りないとでも言うように、背中から延びて天井へと導かれていく。
ルシアンは淡々と、吊り縄を天井の滑車へ通し、固定具を確認した。
その動きには一切の焦りも迷いもない。
ただ行うべき処理として、縛りを完成させていた。
「──吊るすぞ」
その言葉を聞いた瞬間、セリーヌの呼吸が震えた。
返事はなかった。できなかった。
でも、逃げようとはしなかった。
縄が引かれる。
後手に縛られた腕を吊り点にして、セリーヌの身体がゆっくりと引き上げられていく。
かかとが、床から離れる。
つま先が、最後まで残り、やがて──宙に浮いた。
「く……あっ……」
吊られるという感覚。
自分の重さが、腕と股間の縄へと集中する。
脇が引き締まり、肩が軋む。
股間を縛る縄が、自重で深く、濃密に粘膜へと食い込んだ。
それだけで、膣の奥がびくびくと痙攣する。
縛りの構造が、セリーヌの身体を完全に支配していた。
息が乱れはじめる。
吊られた腕がしびれ、胸が突き出され、脚は宙に泳ぐ。
「んっ、んぅ……っ……」
何もされていない。
ただ吊られているだけ。
なのに、全身が火照り、熱が腹の奥から押し上げてくる。
額から汗が伝う。
喉も背筋も、胸元も、汗で濡れはじめていた。
そして、股間。
縄に締めつけられた粘膜から、ぬるりと愛液があふれ出す。
太ももを這い、脚の裏を伝い、雫が空中から床へ──ひとしずく、ふたしずくと落ちていく。
「っ……く、んん……っ……」
喘ぎが止まらない。
なにも触れられていない。
それなのに、声が漏れる。震える。
頭が熱い。胸が苦しい。
でも、それを止めようとは思わなかった。
吊られている──それだけで、心も身体も、すべてが開かれていた。
ルシアンは、机に戻っていた。
一瞥しただけで、背を向け、文書に目を落とす。
セリーヌを見ない。
触れない。
命じない。
ただ、吊って放っておく。
──それが、いちばん深く、いちばん酷い、快感だった。
《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》
また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。