※この作品はR-18です。

侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従   作:ドン・ドナシアン

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39  調教─従順と悦び

 ──歩けなかった。けれど、倒れたくもなかった。だから、ただ足だけが先に進んだ。膝は熱に蕩け、踵は力を失っているのに、どうにか歩いていた。

 

 ここは、ルシアンの私室──ドミエンヌ館の中二階、魔道処理によって外界から完全に隔絶された空間。

 そして、ルシアンの寝室……。

 

 天井には、ゆっくりと夜空が流れている。星々がひそやかにまたたき、雲がわずかに形を変えながら横切っていく。

 そういう魔道具。

 不思議な静けさが頭上を満たしている。

 壁には天井まで届く書棚。銀装飾の燭台が二本。絨毯のない石の床には、色のない影だけが落ちている。静かだった。ひどく、静かだった。

 

 そして、奥に寝台。

 以前にも見たはずなのに、そこが今日は、別のもののように見えた。

 装飾のない黒木の枠。銀の彫金が、淡い魔道灯の光を吸い、冷たく沈んでいる。リネンは純白で統一され、無垢すぎるその色彩が、かえって穢されるために用意されたもののように思えた。

 

 その縁まで辿り着いた瞬間、セリーヌはわずかに膝を折った。

 でも、跪きはしなかった。

 

「はあ、はあ……」

 

 必死に呼吸を整える。

 ──もう限界だった。

 縄はまだ、股間に残っていた。後ろ手に縛られたままの腕が、肩をひきつらせる。額には汗が滲み、呼吸のたびに胸が細かく上下する。

 

 背後から、そっと指がのびた。

 

 股間を食い込む縄が、ひと撚りずつ緩められていく。擦れる。引かれる。抜かれる。そのたびに、膣の奥から、熱いものが滲み出た。

 そして、最後の一撚りが、ゆっくりと引き抜かれた、その瞬間だった。

 

「はうっ……」

 

 こぼれた声は、小さな嬌声だった。

 同時に、膝が、ぱきりと割れそうになった。下腹の奥で、何かが決壊しかけていた。崩れ落ちる。そう思った。

 

 けれど──崩れなかった。

 

 セリーヌは、震える脚をなんとか踏みとどめた。内股に寄せるようにして、膝を少しだけ折る。自分でも驚くほど自然に、その姿勢をとっていた。

 

 堪える。見られているから、落ちたくない。たとえ、こんな格好でも──。

 耳まで熱くなった。

 

「……随分と素直になったな……。いや、セリーヌは最初から素直だったか」

 

 彼の声は低く、淡々としていた。それだけで、セリーヌの背中が跳ねる。羞恥が、喉の奥から波紋のように広がる。愛液が、とろりと腿の裏を這っていった。足が勝手に震えていた。

 

「寝台に上がれ」

 

 命令は静かだった。けれど、その重さは、膝の奥を押し抜けた。

 

 ──無理だった。

 

 両手は、まだ後ろ手に縛られたまま。腰には力が入らず、脚も言うことをきかない。どうにか、身体を支えようとしたが、肩が揺れるだけだった。わずかに体勢を崩した拍子に、膝が滑り、ぺたりと床に落ちた。

 

 ルシアンは、何も言わなかった。ただ、近づいてきた。

 そして──ふいに、両脇を抱き上げられる。

 

「……あ」

 

 宙に浮いた。腕が背を反り、胸が彼の胸元に押しつけられた。頬が首筋に触れた。

 

 怖かった。けれど、それ以上に──。

 ……嬉しかった。

 

 ただ、目を閉じた。鼓動の熱が、どちらのものか分からないまま、セリーヌはその腕の中で小さく息を吐いた。

 

 寝台の中心に、そっとお尻を置かれる。

 沈みは浅い。けれど、すぐに腰が吸い込まれるように、やわらかなリネンの上へ沈みこんでいく。

 

 ──どうすればいいのだろう。

 

 横になるべきか、それとも、このまま脚を開いて、待つべきなのか。

 

 抱かれるのは、もう初めてではなかった。けれど、こんなふうに、何もされずに寝台の上に置かれることは、これまでほとんどなかった。だからこそ、なにをどうすればいいのか、自分でもよくわからなかった。

 迷っている自分が、ひどく、恥ずかしかった。

 

「脚を前に出して。真っ直ぐにしろ」

 

 ルシアンの声が、すぐに落ちてきた。

 その瞬間、胸の奥で、なにかが緩んだ。

 

 ──ああ、命令だ。

 

 命令は嬉しい。安心する。迷わなくてすむ。できれば、いつも命じられていたい。自分で考えなくていいなら、それだけで救われるような気がした。

 

 セリーヌは、素直に脚を前へ伸ばした。

 すると、ルシアンは寝台の下に手を差し入れて、麻縄を取り出した。

 まだ新しい──編み目がくっきりと浮かび、芯まで乾いた、それはこれから使われるための縄だった。

 

 まず、右脚。

 

 膝を軽く曲げさせられ、太腿の付け根近くに縄が二巻される。肌のやわらかい部分に、ぎゅう、と食い込む。次いで、縄の端が胸の右側を通る縄に添わせて引き絞られた。

 脚が、固定される。膝が外へ傾いたまま戻らない。

 

 同じように、左脚。

 同じ手順、同じ力加減で縛られる。

 

 そして──その瞬間、セリーヌの両脚は、左右に開かれたまま、元に戻せなくなった。

 膝を立てて、太腿を外側に落とすような格好。

 女として、最も無防備な開き方をしていると、身体が知っていた。

 

「……は、恥ずかしい……です……」

 

 思わず、声がこぼれた。

 脚のあいだから、露わになった自分の股間。

 すでに何度も達し、股縄に擦られて弄ばれた粘膜は、すっかり赤く腫れていた。淫らな熱に浮かされ、陰唇ははち切れそうに膨らんで、そこから、とろりとした液が止めどなく溢れていた。

 

 ──全部、見られている。

 

 こんな姿を、他人に、見られている。

 それが、どうしようもなく、恥ずかしかった。

 

「恥ずかしい、っていうのは──こういうことだぞ」

 

 ルシアンが、楽しそうに笑った。

 そして、セリーヌの胸縄を少しだけ引き、くい、と身体を仰向けに倒した。

 寝台の上に、ぽすん、と音がして背中が落ちる。

 

「あっ」

 

 ひっくり返されたセリーヌの身体は、脚を曲げて開いたまま、寝台の上で晒された。

 自分でも、どうなっているのかわかる。

 脚は折りたたまれたまま、両膝が大きく左右に倒れている。股間は、空気に向けて突き出され、そこから膣の奥まで、丸見えになっていた。

 

「おまんこだけじゃない。お尻の穴まで、丸見えだぞ」

 

 ルシアンの声が、ひどく穏やかに、けれど決して優しくはなく、落ちてきた。

 セリーヌは、胸の奥で何かが裂けるような感覚を覚えた。

 けれど、反論も、拒絶も、もうなかった。ただ、羞恥と、興奮と、微かな期待が、すべてを沈めていた。

 

 ルシアンは、ゆっくりと寝台に膝をかけた。無言のまま、シャツの襟に指をかけ、ひとつずつ、丁寧に外していく。ボタンの音すらしない。外した布は滑るように肩を抜け、やがて、足元に落ちた。

 

 その肌を、セリーヌは何度も見ていた。けれど、それでも──思わず息を呑んだ。

 筋肉は、無駄がない。しなやかに締まり、過剰な膨らみではなく、機能のための形だった。貴族の男たちが飾るように鍛える虚飾の身体ではない。剣と逃走と、襲撃と報復をくぐった身体……。

 

 そして──肌。

 

 肩の裏に、刃物で切られたような細い線。腰の脇には、火傷のように黒く沈んだ焼け痕。腹には、縫い合わせの歪な跡が残っていた。何度も何度も、命を奪われかけた証がそこにあった。

 

 ──ずっと、気になっていた。

 

 初めて見たときから、訊きたかった。でも、怖かった。自分の立場でそんなことを訊いていいのかもわからなかったし、答えられないと言われるのが怖かった。

 けれど、いまなら──ほんの少しだけ、訊けるかもしれないと思った。

 言葉が、自然に口をついて出た。

 

「……その、傷……どうしたの、ですか……?」

 

 ルシアンはすぐには答えなかった。少し間を置いて、静かに笑った。

 

「何度も、命を狙われた。……まあ、僕の愚かさの証さ」

 

「愚かさ……?」

 

 セリーヌは、聞き返さずにはいられなかった。

 だが、ルシアンは肩をすくめるだけだった。

 

「隙を見せたからだよ。隙がなければ、裏切られなかった。……ある程度まで来ると、人は敵じゃなく、味方に殺される。……それでも、きっと僕がもっと賢ければ、彼らは死なずに済んだんだろう……。でも、裏切られた以上、仲間だった相手を殺さないとならなかった。許される可能性があると思わせると、次の裏切りを呼んでしまう」

 

 言葉の調子は、どこまでも淡々としていた。けれど、それが逆に、胸を刺した。

 

「いまなら、わかることがある。……だから僕は、裏切られない人間を、最初から育ててみたいと思った。それが、このドミエンヌという場所の……構想の出発点だったのかもしれないな」

 

 セリーヌは、何も言えなかった。言葉が、喉の手前で消えていく。ただ、ルシアンの声だけが、染み込んできた。

 

 そして──目の前。

 

 ルシアンの腰の下、怒張がすでに猛々しく立ち上がっていた。見慣れたとまでは言えないが、今夜は特に異様に大きく見えた。寝台の灯りが、その張った表皮の上で淡く揺れている。

 

 目を逸らそうとしたが、逸らせなかった。呼吸が浅くなる。

 身体が、静かに強ばる。

 セリーヌは、黙って顔を伏せた。

 

 すると、セリーヌの両脚のあいだへと、ルシアンの呼吸が近づいていく。

 次の瞬間、ルシアンの唇が粘膜の腫れに触れた。

 

 ──あ。

 

 身体が、びくんと跳ねる。けれど逃げられない。脚は縄で固定されたまま、微動だにできない。

 

 そして──舌が、這う。

 

 もっとも敏感な場所。レコルに締めつけられ、ずっと疼いていた一点。快感が積もりに積もった、赤く腫れたその突起を、ルシアンの舌が、静かに、じわりと、押し上げる。

 

「っ……あっ……く……あぁ……っ……」

 

 息が漏れた。震える声が喉の奥から突き上がる。けれど、腕も脚も、なにひとつ動かせない。縛られたまま、寝台の上に晒され、ただ舐められる。

 

 その無力感が、逆にセリーヌの快感を助長していた。

 

 ──抵抗できない。

 

 ──命じられただけ。

 

 ──それが、嬉しい。

 

「……快感に、甘えてはいけない」

 

 ルシアンの声が、舐める合間に、低く響いた。

 

「刺激に抵抗しろ。限界まで、声も我慢しなさい。……命令だ」

 

 セリーヌは、目を開けた。星が、天井の向こうで流れていた。まるで、見て見ぬふりをされているように、遠くで光っていた。

 

「……はい」

 

 その一言を、喉の奥で震わせた。

 

 ルシアンは、再び顔を戻した。唇が、舌が、粘膜の奥へと沈んでいく。外側をなぞっていた舌が、ぬるりと中に入った。熱い。そこまで入ってくるとは思っていなかった。

 

 舌が、膣内を弾いた。

 

「──んあっ……あ……っ」

 

 どうしても、声が漏れた。

 

 がくがくと、腹が痙攣した。脚は開かれたまま、指一本動かせない。けれど、身体の奥だけが、強烈に跳ねた。

 

「……声を我慢しろと、命令したはずだが」

 

 ルシアンが、唇を離さずに、低く囁いた。

 

「……はい……っ」

 

 セリーヌは、歯を食いしばった。今度こそ、声を出してはならないと、そう思った。命令を守れない自分が恥ずかしかった。感じすぎる自分が、情けなかった。

 

 舌が、また、動いた。

 

 出入りする。濡れて、滑って、弾かれて、中が掻き混ぜられる。

 

 腰が反りそうになるのを、腹筋に力を入れて堪えた。肩が浮きそうになるのを、縄が押しとどめた。唇を噛みしめ、眉を寄せて、ただ、命令だけを思った。

 

 ──耐えなければ。命令を、破ってはならない。

 

 けれど──。

 

 次の瞬間、舌が膣の奥壁をぐいと押し広げ、ねじるように掻いた、その刹那だった。

 

 なにかが、破れた。

 

 ──決壊だ。

 

 堰き止めていた快感の層が、一気に崩れた。硬く閉じていたものが、内側から爆ぜた。

 

「っ──あっ、あああああああっ……」

 

 声が、喉を焼いた。肺を突き上げ、舌をねじって、口を割って、噴き上がった。

 

 そこから噴き出したのは、もう快楽の波ではなかった。

 ──熱だった。奔流だった。爆竜のような、荒々しい咆哮のかたまりだった。

 両脚が、縄に引かれて跳ねた。腰がびくびくと痙攣し、膣の奥がきゅうっと締まるのが自分でもわかった。汗が一斉に滲み、指先から爪の先まで、火が走るように震えた。

 津波のような快感が、腹の内から何度も噴き出した。

 

 視界が揺れる。

 ただ、達した──。

 ただ、派手に崩れた──。

 ただ、全身が叫び、快楽に呑まれた──。

 

 静けさが戻ってきたのは、全身が果ててから、少し時間が経ってからだった。

 ルシアンは顔を上げた。唇の端にわずかな水気を残しながら、目元だけを伏せたまま、何も言わなかった。

 セリーヌは、自分の呼吸が異常に荒れているのを知っていた。肩が大きく上下し、胸が波打っている。脚は縄で引かれたまま、微かに震えていた。

 

 ──いま、わたし……。

 

 はっきりと、自覚した。

 命令を、守れなかった。

 声を出すなと言われた。絶頂の許可もなかった。それなのに──果ててしまった。あんなにも、激しく。下品に。愚かに。

 

 ──なんて、ことを。

 

 羞恥が、背中から襲ってきた。

 逃げ場のない羞恥だった。手は縛られ、顔を隠すこともできない。脚は晒されたまま、まだ、熱の名残を滴らせている。

 涙が、堰を切ったように、頬を伝った。

 

「……ごめんなさい……っ」

 

 声は、押し殺そうとしても、震えていた。

 

「ルシアン様……命令を……守れませんでした……」

 

 喉の奥で、何度も謝った。けれど、言えば言うほど、罪の重さが増していくようだった。声だけでは足りず、身体全体で詫びたいのに、それすら許されない不自由な姿が、余計に惨めだった。

 

「許可も……なく……っ。……達して……しまって……」

 

 言葉にしたとたん、余計に現実が重くのしかかる。

 

 ──命令を破った。

 

 ──許しを乞わずに、快楽に堕ちた。

 

 ──貴族の令嬢としてではなく、オプセリカとしての躾すら、守れなかった。

 

 セリーヌは、縛られた両腕を、背中の方でぎゅっと握った。

 ルシアンの姿は、視界の隅にあった。けれど、目を合わせられなかった。

 

「……申し訳、ありません……」

 

 その一言は、ほとんど消え入りそうだった。

 ルシアンは、何も言わずにしばらくセリーヌを見ていた。

 そして、ほんの少しだけ目元を細めた。

 

「……よく、謝れたな」

 

 それは、責めではなかった。むしろ、ひどく穏やかだった。

 

「でも、命令は命令だ。破ったことは、ちゃんと身体に覚えさせないといけない」

 

 セリーヌは、ぎくりと肩を震わせた。

 

「……だから、もう一度だ」

 

 声に、温度があった。冷たくもない。熱くもない。ただ、静かに腹の底に落ちてくるような重さだった。

 ルシアンは、片手を伸ばした。指先が、すでに濡れきっている粘膜の縁に触れる。一本の指が、ためらいなく中へと沈んでいった。

 ゆっくりと、けれど躊躇なく、膣内を擦る。粘膜が熱を持って指を迎え、かすかに吸い込むように脈打っていた。

 セリーヌは、唇を噛みしめた。

 

 ──今度こそ。

 

 声は出さない。絶頂もしない。許可を得るまでは、達してはならない。命令は、絶対。

 指が、奥まで届く。かすかに、壁を擦る。

 それだけで、下腹にざわりと熱が走る。けれど、まだ耐えられる。膣は緊張していた。許可のない快楽を、受け入れないように、懸命に硬くしていた。

 

 そして、不意に。

 もう一本の指が、別の場所へと伸びた。

 

 肛門──。

 

 その入り口に、ぬるりと濡れた指が当たる。

 

「っ……」

 

 セリーヌは、背筋を強ばらせた。

 

 逃げられないことはわかっていた。抵抗はできない。それでも、奥歯を食いしばって、身体を固めた。

 

 ──耐える。耐える。いまはまだ、頂いてはいけない。

 

 指が、肛門を押し開けていく。異物がゆっくりと侵入してくる感覚。粘膜の奥に押し込まれていく感覚。それが、同時に──中と後ろで、押して、擦って、また押して──重なっていく。

 

 それでも、セリーヌは耐えた。

 両目を閉じ、鼻で息を押し込み、全身を引き締めて、ただ命令に従おうとした。

 膣の奥が掻き回されるたび、肛門の中が弾かれるたび、内側のどこかで波が膨らんでいくのがわかった。

 それでも、腰を浮かせるまいと力を入れた。喉の奥からこぼれそうになる声も、喉仏に押し戻した。

 

 ──まだ、だ。

 

 ──もう少し。もう少しだけ、耐えられる。

 

 けれど、指が、ふたつ同時に奥の一点を突いたその瞬間──

 

 腹の底に隠していた震えが、破れた。

 波が決壊した。

 

「──ル……シアンさ、ま……わ、た……し、い、ま──」

 

 言い終わる前に、全身が果てた。

 

 呻きにも似た声が、勝手に口からこぼれ落ちる。

 

「っ……あ、あああっ……」

 

 耐えきれなかった。

 がくがくと、腹が痙攣する。腰が大きく跳ねた。膣も肛門も、同時に、ぎゅっと収縮する。縄に引かれた脚が、跳ねる。

 

 絶頂──。

 

 今度こそ、命令を守れると思っていたのに。

 ほんのあと数秒、指が止まるのを待てばよかったのに。

 セリーヌは、縄に縛られたまま、涙をこぼした。

 達してしまった──その確信が、全身の力を奪っていった。

 縄はきつく縛られたまま。脚は大きく開かれ、膝の奥が微かに震えていた。腰の奥では、まだ痙攣の名残がかすかに疼いていた。

 

 セリーヌは、目を開けた。

 天井には、夜空が流れていた。いまにも泣き出しそうなほど穏やかな星の海が、音もなく流れていた。

 呼吸を整えようとするたびに、胸の内側がきゅうっと締めつけられた。

 

 ──また、してしまった。

 

 ひどく、やさしい沈黙だった。それが、いちばん痛かった。

 ルシアンは、なにも言わなかった。ただ、視線を外さずに、そこにいた。

 

「……ちがうんです、ほんとは……っ」

 

 言葉にならない声が、唇から漏れた。

 自分の意思ではない。けれど、快感に流されたのではなかった。命令を守ろうと、確かに、していたのだ。

 だからこそ──悔しかった。

 

「……耐えたかった……んです、ルシアン様……」

 

 涙が、また一筋こぼれた。

 瞳の端から、つうっと流れたそれは、頬を焼くように熱く感じた。

 

「許して欲しいなんて……言えません。……でも、叱ってください……」

 

 その声には、すがるような響きもなければ、甘える気配もなかった。

 ただ、罪を受け取りたいという意志だけがあった。

 

「ちゃんと、罰を受けたいです……。でないと……わたし……」

 

 最後の言葉は、途中で喉に詰まった。

 縄に縛られたまま、恥を晒しきったその姿で、セリーヌは、じっとルシアンを見上げていた。

 ルシアンは、静かに微笑んだ。

 

「いや、セリーヌは覚えがいい。必死に我慢しようとしたのは、ちゃんと伝わってきたよ」

 

 その声は、どこまでも穏やかだった。だが、空気には支配の重さがあった。

 

「……けれど、これが──ヴェールスだ」

 

 その一言に、セリーヌの背筋がひたりと冷えた。

 

「快感は、もう自分のものじゃない。貴方の身体は、僕に支配される。……いや、正確には、僕と──クロエ、だね」

 

 セリーヌは、うなずくこともできなかった。ただ、その言葉を胸の内に受け止めた。

 ルシアンの手が、そっと頭に触れた。撫でられた瞬間、首筋から腰にかけて、全身の力がふわりと抜けていった。

 手のひらが、やさしく髪をなぞり、耳の後ろを撫で、顎を上げさせた。

 そのまま、唇が重なった。

 

「……ぁ……っ」

 

 唇と唇が触れた一瞬だけで、全身が甘くとろけるような熱に包まれた。脳がぼうっと霞む。指の先から足の爪先まで、余すことなく蕩けていった。

 

「じゃあ、ご褒美だ」

 

 その一言とともに、ルシアンの指先が腰を抱えた。

 

 そして──怒張が、ゆっくりとセリーヌの奥へ挿入されていった。

 唇から熱い吐息が漏れる。

 深く、でも焦らすように、抜き差しを繰り返す。粘膜が擦れる音が、身体の内から響いてくる。

 セリーヌは、あっという間に追い詰められた。

 奥を突かれるたび、そこにある場所が、強く、ゴツゴツとした圧で抉られる。骨のすぐ裏──敏感な壁に、繰り返し、繰り返し押し当てられる。

 

「……っ、ぁ……ん、っ……」

 

 声が漏れる。

 けれど、すぐに叱責が落ちた。

 

「声を我慢しろと言ったぞ」

 

 ルシアンの声は冷たくはない。だが、容赦がなかった。

 次の瞬間、抽送の速度が上がった。

 奥の一点を、より深く、より鋭く、より繰り返し──抉るように打ちつけてくる。

 セリーヌは、後ろ手に縛られたまま、シーツを指で握りしめた。喉を震わせながら、歯を食いしばった。

 

 でも──耐えきれなかった。

 波が来た。重くて、速くて、深かった。

 ごうっとせり上がる快感に、脚が跳ね、腰が震えた。

 

「い、いぐうっ」

 

 声を出せたのはそれだけ。ただ爆ぜた。

 全身が、果てた。

 けれど、ルシアンは止めなかった。

 

「……ちゃんと命令に従えるまで、続けよう」

 

 その一言で、第二の抽送が始まった。

 セリーヌは、また追い詰められる。

 身体の奥が熱を持ち、膣壁の内側が擦れ、肛門の奥まで刺激が伝播していく。

 

 でも三度目の絶頂──。

 

 四度目──。

 

 五度目──。

 

 絶頂は、止まらなかった。

 

 どこが境目か、わからなかった。果てているのか、まだ昇っているのか、それすら曖昧になった。

 そして──何度目かわからない絶頂の渦の中で、セリーヌは崩れた。

 

「……もう、やだ……いきます、いっちゃう……いっちゃう……っ、やだ……っ……」

 

 涙も鼻もぐちゃぐちゃに濡れ、口が制御できなかった。

 号泣していた。叫んでいた。すがっていた。

 それでも、達してしまった。

 その姿を、ルシアンは黙って見ていた。

 そして、囁くように言った。

 

「いっていい。今度は、僕も、いこう」

 

 次の瞬間、深く──底まで挿し込まれた。

 

「んああああっ」

 

 いっていいというルシアンの言葉が終わると同時に、セリーヌはまたもや達していた。またもや、ルシアンの抽送を受けながら……。

 腰が浮き、跳ね、背骨が軋むほどに反り返る。全身で痙攣した。

 すると、その奥で、温かいものが、どく、どく、と脈打った。

 セリーヌは、それをはっきりと感じた。

 

 そして、その感触とともに、幸福感がふわりと胸に広がった。

 苦しかった。情けなかった。恥ずかしかった。けれど──満たされていた。

 ルシアンが、そっと耳元で言った。

 

「今度こそ、貴方は僕のものだ」

 

 ルシアンの声は、ひどく静かだった。

 穏やかで、迷いがなかった。

 それは宣言でも、命令でもなく──なにか、遠い場所にいる相手に対して呟いたような響きだった。だが、そのルシアンの瞳は真っ直ぐにセリーヌに向けられている。

 

 セリーヌは、その言葉を胸の奥で反芻しながら、ゆっくりと目を閉じた。

 もう、なにも考えられなかった。

 すべてが終わったような安堵と、すべてが始まってしまったような重さの中で、心も身体も、限界の奥に沈んでいった。

 

 呼吸が、ひとつだけ深く落ちた。

 そして、セリーヌは、その呼吸の底で──静かに、眠るように、意識を手放した。




《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》

 また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。
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