侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
──歩けなかった。けれど、倒れたくもなかった。だから、ただ足だけが先に進んだ。膝は熱に蕩け、踵は力を失っているのに、どうにか歩いていた。
ここは、ルシアンの私室──ドミエンヌ館の中二階、魔道処理によって外界から完全に隔絶された空間。
そして、ルシアンの寝室……。
天井には、ゆっくりと夜空が流れている。星々がひそやかにまたたき、雲がわずかに形を変えながら横切っていく。
そういう魔道具。
不思議な静けさが頭上を満たしている。
壁には天井まで届く書棚。銀装飾の燭台が二本。絨毯のない石の床には、色のない影だけが落ちている。静かだった。ひどく、静かだった。
そして、奥に寝台。
以前にも見たはずなのに、そこが今日は、別のもののように見えた。
装飾のない黒木の枠。銀の彫金が、淡い魔道灯の光を吸い、冷たく沈んでいる。リネンは純白で統一され、無垢すぎるその色彩が、かえって穢されるために用意されたもののように思えた。
その縁まで辿り着いた瞬間、セリーヌはわずかに膝を折った。
でも、跪きはしなかった。
「はあ、はあ……」
必死に呼吸を整える。
──もう限界だった。
縄はまだ、股間に残っていた。後ろ手に縛られたままの腕が、肩をひきつらせる。額には汗が滲み、呼吸のたびに胸が細かく上下する。
背後から、そっと指がのびた。
股間を食い込む縄が、ひと撚りずつ緩められていく。擦れる。引かれる。抜かれる。そのたびに、膣の奥から、熱いものが滲み出た。
そして、最後の一撚りが、ゆっくりと引き抜かれた、その瞬間だった。
「はうっ……」
こぼれた声は、小さな嬌声だった。
同時に、膝が、ぱきりと割れそうになった。下腹の奥で、何かが決壊しかけていた。崩れ落ちる。そう思った。
けれど──崩れなかった。
セリーヌは、震える脚をなんとか踏みとどめた。内股に寄せるようにして、膝を少しだけ折る。自分でも驚くほど自然に、その姿勢をとっていた。
堪える。見られているから、落ちたくない。たとえ、こんな格好でも──。
耳まで熱くなった。
「……随分と素直になったな……。いや、セリーヌは最初から素直だったか」
彼の声は低く、淡々としていた。それだけで、セリーヌの背中が跳ねる。羞恥が、喉の奥から波紋のように広がる。愛液が、とろりと腿の裏を這っていった。足が勝手に震えていた。
「寝台に上がれ」
命令は静かだった。けれど、その重さは、膝の奥を押し抜けた。
──無理だった。
両手は、まだ後ろ手に縛られたまま。腰には力が入らず、脚も言うことをきかない。どうにか、身体を支えようとしたが、肩が揺れるだけだった。わずかに体勢を崩した拍子に、膝が滑り、ぺたりと床に落ちた。
ルシアンは、何も言わなかった。ただ、近づいてきた。
そして──ふいに、両脇を抱き上げられる。
「……あ」
宙に浮いた。腕が背を反り、胸が彼の胸元に押しつけられた。頬が首筋に触れた。
怖かった。けれど、それ以上に──。
……嬉しかった。
ただ、目を閉じた。鼓動の熱が、どちらのものか分からないまま、セリーヌはその腕の中で小さく息を吐いた。
寝台の中心に、そっとお尻を置かれる。
沈みは浅い。けれど、すぐに腰が吸い込まれるように、やわらかなリネンの上へ沈みこんでいく。
──どうすればいいのだろう。
横になるべきか、それとも、このまま脚を開いて、待つべきなのか。
抱かれるのは、もう初めてではなかった。けれど、こんなふうに、何もされずに寝台の上に置かれることは、これまでほとんどなかった。だからこそ、なにをどうすればいいのか、自分でもよくわからなかった。
迷っている自分が、ひどく、恥ずかしかった。
「脚を前に出して。真っ直ぐにしろ」
ルシアンの声が、すぐに落ちてきた。
その瞬間、胸の奥で、なにかが緩んだ。
──ああ、命令だ。
命令は嬉しい。安心する。迷わなくてすむ。できれば、いつも命じられていたい。自分で考えなくていいなら、それだけで救われるような気がした。
セリーヌは、素直に脚を前へ伸ばした。
すると、ルシアンは寝台の下に手を差し入れて、麻縄を取り出した。
まだ新しい──編み目がくっきりと浮かび、芯まで乾いた、それはこれから使われるための縄だった。
まず、右脚。
膝を軽く曲げさせられ、太腿の付け根近くに縄が二巻される。肌のやわらかい部分に、ぎゅう、と食い込む。次いで、縄の端が胸の右側を通る縄に添わせて引き絞られた。
脚が、固定される。膝が外へ傾いたまま戻らない。
同じように、左脚。
同じ手順、同じ力加減で縛られる。
そして──その瞬間、セリーヌの両脚は、左右に開かれたまま、元に戻せなくなった。
膝を立てて、太腿を外側に落とすような格好。
女として、最も無防備な開き方をしていると、身体が知っていた。
「……は、恥ずかしい……です……」
思わず、声がこぼれた。
脚のあいだから、露わになった自分の股間。
すでに何度も達し、股縄に擦られて弄ばれた粘膜は、すっかり赤く腫れていた。淫らな熱に浮かされ、陰唇ははち切れそうに膨らんで、そこから、とろりとした液が止めどなく溢れていた。
──全部、見られている。
こんな姿を、他人に、見られている。
それが、どうしようもなく、恥ずかしかった。
「恥ずかしい、っていうのは──こういうことだぞ」
ルシアンが、楽しそうに笑った。
そして、セリーヌの胸縄を少しだけ引き、くい、と身体を仰向けに倒した。
寝台の上に、ぽすん、と音がして背中が落ちる。
「あっ」
ひっくり返されたセリーヌの身体は、脚を曲げて開いたまま、寝台の上で晒された。
自分でも、どうなっているのかわかる。
脚は折りたたまれたまま、両膝が大きく左右に倒れている。股間は、空気に向けて突き出され、そこから膣の奥まで、丸見えになっていた。
「おまんこだけじゃない。お尻の穴まで、丸見えだぞ」
ルシアンの声が、ひどく穏やかに、けれど決して優しくはなく、落ちてきた。
セリーヌは、胸の奥で何かが裂けるような感覚を覚えた。
けれど、反論も、拒絶も、もうなかった。ただ、羞恥と、興奮と、微かな期待が、すべてを沈めていた。
ルシアンは、ゆっくりと寝台に膝をかけた。無言のまま、シャツの襟に指をかけ、ひとつずつ、丁寧に外していく。ボタンの音すらしない。外した布は滑るように肩を抜け、やがて、足元に落ちた。
その肌を、セリーヌは何度も見ていた。けれど、それでも──思わず息を呑んだ。
筋肉は、無駄がない。しなやかに締まり、過剰な膨らみではなく、機能のための形だった。貴族の男たちが飾るように鍛える虚飾の身体ではない。剣と逃走と、襲撃と報復をくぐった身体……。
そして──肌。
肩の裏に、刃物で切られたような細い線。腰の脇には、火傷のように黒く沈んだ焼け痕。腹には、縫い合わせの歪な跡が残っていた。何度も何度も、命を奪われかけた証がそこにあった。
──ずっと、気になっていた。
初めて見たときから、訊きたかった。でも、怖かった。自分の立場でそんなことを訊いていいのかもわからなかったし、答えられないと言われるのが怖かった。
けれど、いまなら──ほんの少しだけ、訊けるかもしれないと思った。
言葉が、自然に口をついて出た。
「……その、傷……どうしたの、ですか……?」
ルシアンはすぐには答えなかった。少し間を置いて、静かに笑った。
「何度も、命を狙われた。……まあ、僕の愚かさの証さ」
「愚かさ……?」
セリーヌは、聞き返さずにはいられなかった。
だが、ルシアンは肩をすくめるだけだった。
「隙を見せたからだよ。隙がなければ、裏切られなかった。……ある程度まで来ると、人は敵じゃなく、味方に殺される。……それでも、きっと僕がもっと賢ければ、彼らは死なずに済んだんだろう……。でも、裏切られた以上、仲間だった相手を殺さないとならなかった。許される可能性があると思わせると、次の裏切りを呼んでしまう」
言葉の調子は、どこまでも淡々としていた。けれど、それが逆に、胸を刺した。
「いまなら、わかることがある。……だから僕は、裏切られない人間を、最初から育ててみたいと思った。それが、このドミエンヌという場所の……構想の出発点だったのかもしれないな」
セリーヌは、何も言えなかった。言葉が、喉の手前で消えていく。ただ、ルシアンの声だけが、染み込んできた。
そして──目の前。
ルシアンの腰の下、怒張がすでに猛々しく立ち上がっていた。見慣れたとまでは言えないが、今夜は特に異様に大きく見えた。寝台の灯りが、その張った表皮の上で淡く揺れている。
目を逸らそうとしたが、逸らせなかった。呼吸が浅くなる。
身体が、静かに強ばる。
セリーヌは、黙って顔を伏せた。
すると、セリーヌの両脚のあいだへと、ルシアンの呼吸が近づいていく。
次の瞬間、ルシアンの唇が粘膜の腫れに触れた。
──あ。
身体が、びくんと跳ねる。けれど逃げられない。脚は縄で固定されたまま、微動だにできない。
そして──舌が、這う。
もっとも敏感な場所。レコルに締めつけられ、ずっと疼いていた一点。快感が積もりに積もった、赤く腫れたその突起を、ルシアンの舌が、静かに、じわりと、押し上げる。
「っ……あっ……く……あぁ……っ……」
息が漏れた。震える声が喉の奥から突き上がる。けれど、腕も脚も、なにひとつ動かせない。縛られたまま、寝台の上に晒され、ただ舐められる。
その無力感が、逆にセリーヌの快感を助長していた。
──抵抗できない。
──命じられただけ。
──それが、嬉しい。
「……快感に、甘えてはいけない」
ルシアンの声が、舐める合間に、低く響いた。
「刺激に抵抗しろ。限界まで、声も我慢しなさい。……命令だ」
セリーヌは、目を開けた。星が、天井の向こうで流れていた。まるで、見て見ぬふりをされているように、遠くで光っていた。
「……はい」
その一言を、喉の奥で震わせた。
ルシアンは、再び顔を戻した。唇が、舌が、粘膜の奥へと沈んでいく。外側をなぞっていた舌が、ぬるりと中に入った。熱い。そこまで入ってくるとは思っていなかった。
舌が、膣内を弾いた。
「──んあっ……あ……っ」
どうしても、声が漏れた。
がくがくと、腹が痙攣した。脚は開かれたまま、指一本動かせない。けれど、身体の奥だけが、強烈に跳ねた。
「……声を我慢しろと、命令したはずだが」
ルシアンが、唇を離さずに、低く囁いた。
「……はい……っ」
セリーヌは、歯を食いしばった。今度こそ、声を出してはならないと、そう思った。命令を守れない自分が恥ずかしかった。感じすぎる自分が、情けなかった。
舌が、また、動いた。
出入りする。濡れて、滑って、弾かれて、中が掻き混ぜられる。
腰が反りそうになるのを、腹筋に力を入れて堪えた。肩が浮きそうになるのを、縄が押しとどめた。唇を噛みしめ、眉を寄せて、ただ、命令だけを思った。
──耐えなければ。命令を、破ってはならない。
けれど──。
次の瞬間、舌が膣の奥壁をぐいと押し広げ、ねじるように掻いた、その刹那だった。
なにかが、破れた。
──決壊だ。
堰き止めていた快感の層が、一気に崩れた。硬く閉じていたものが、内側から爆ぜた。
「っ──あっ、あああああああっ……」
声が、喉を焼いた。肺を突き上げ、舌をねじって、口を割って、噴き上がった。
そこから噴き出したのは、もう快楽の波ではなかった。
──熱だった。奔流だった。爆竜のような、荒々しい咆哮のかたまりだった。
両脚が、縄に引かれて跳ねた。腰がびくびくと痙攣し、膣の奥がきゅうっと締まるのが自分でもわかった。汗が一斉に滲み、指先から爪の先まで、火が走るように震えた。
津波のような快感が、腹の内から何度も噴き出した。
視界が揺れる。
ただ、達した──。
ただ、派手に崩れた──。
ただ、全身が叫び、快楽に呑まれた──。
静けさが戻ってきたのは、全身が果ててから、少し時間が経ってからだった。
ルシアンは顔を上げた。唇の端にわずかな水気を残しながら、目元だけを伏せたまま、何も言わなかった。
セリーヌは、自分の呼吸が異常に荒れているのを知っていた。肩が大きく上下し、胸が波打っている。脚は縄で引かれたまま、微かに震えていた。
──いま、わたし……。
はっきりと、自覚した。
命令を、守れなかった。
声を出すなと言われた。絶頂の許可もなかった。それなのに──果ててしまった。あんなにも、激しく。下品に。愚かに。
──なんて、ことを。
羞恥が、背中から襲ってきた。
逃げ場のない羞恥だった。手は縛られ、顔を隠すこともできない。脚は晒されたまま、まだ、熱の名残を滴らせている。
涙が、堰を切ったように、頬を伝った。
「……ごめんなさい……っ」
声は、押し殺そうとしても、震えていた。
「ルシアン様……命令を……守れませんでした……」
喉の奥で、何度も謝った。けれど、言えば言うほど、罪の重さが増していくようだった。声だけでは足りず、身体全体で詫びたいのに、それすら許されない不自由な姿が、余計に惨めだった。
「許可も……なく……っ。……達して……しまって……」
言葉にしたとたん、余計に現実が重くのしかかる。
──命令を破った。
──許しを乞わずに、快楽に堕ちた。
──貴族の令嬢としてではなく、オプセリカとしての躾すら、守れなかった。
セリーヌは、縛られた両腕を、背中の方でぎゅっと握った。
ルシアンの姿は、視界の隅にあった。けれど、目を合わせられなかった。
「……申し訳、ありません……」
その一言は、ほとんど消え入りそうだった。
ルシアンは、何も言わずにしばらくセリーヌを見ていた。
そして、ほんの少しだけ目元を細めた。
「……よく、謝れたな」
それは、責めではなかった。むしろ、ひどく穏やかだった。
「でも、命令は命令だ。破ったことは、ちゃんと身体に覚えさせないといけない」
セリーヌは、ぎくりと肩を震わせた。
「……だから、もう一度だ」
声に、温度があった。冷たくもない。熱くもない。ただ、静かに腹の底に落ちてくるような重さだった。
ルシアンは、片手を伸ばした。指先が、すでに濡れきっている粘膜の縁に触れる。一本の指が、ためらいなく中へと沈んでいった。
ゆっくりと、けれど躊躇なく、膣内を擦る。粘膜が熱を持って指を迎え、かすかに吸い込むように脈打っていた。
セリーヌは、唇を噛みしめた。
──今度こそ。
声は出さない。絶頂もしない。許可を得るまでは、達してはならない。命令は、絶対。
指が、奥まで届く。かすかに、壁を擦る。
それだけで、下腹にざわりと熱が走る。けれど、まだ耐えられる。膣は緊張していた。許可のない快楽を、受け入れないように、懸命に硬くしていた。
そして、不意に。
もう一本の指が、別の場所へと伸びた。
肛門──。
その入り口に、ぬるりと濡れた指が当たる。
「っ……」
セリーヌは、背筋を強ばらせた。
逃げられないことはわかっていた。抵抗はできない。それでも、奥歯を食いしばって、身体を固めた。
──耐える。耐える。いまはまだ、頂いてはいけない。
指が、肛門を押し開けていく。異物がゆっくりと侵入してくる感覚。粘膜の奥に押し込まれていく感覚。それが、同時に──中と後ろで、押して、擦って、また押して──重なっていく。
それでも、セリーヌは耐えた。
両目を閉じ、鼻で息を押し込み、全身を引き締めて、ただ命令に従おうとした。
膣の奥が掻き回されるたび、肛門の中が弾かれるたび、内側のどこかで波が膨らんでいくのがわかった。
それでも、腰を浮かせるまいと力を入れた。喉の奥からこぼれそうになる声も、喉仏に押し戻した。
──まだ、だ。
──もう少し。もう少しだけ、耐えられる。
けれど、指が、ふたつ同時に奥の一点を突いたその瞬間──
腹の底に隠していた震えが、破れた。
波が決壊した。
「──ル……シアンさ、ま……わ、た……し、い、ま──」
言い終わる前に、全身が果てた。
呻きにも似た声が、勝手に口からこぼれ落ちる。
「っ……あ、あああっ……」
耐えきれなかった。
がくがくと、腹が痙攣する。腰が大きく跳ねた。膣も肛門も、同時に、ぎゅっと収縮する。縄に引かれた脚が、跳ねる。
絶頂──。
今度こそ、命令を守れると思っていたのに。
ほんのあと数秒、指が止まるのを待てばよかったのに。
セリーヌは、縄に縛られたまま、涙をこぼした。
達してしまった──その確信が、全身の力を奪っていった。
縄はきつく縛られたまま。脚は大きく開かれ、膝の奥が微かに震えていた。腰の奥では、まだ痙攣の名残がかすかに疼いていた。
セリーヌは、目を開けた。
天井には、夜空が流れていた。いまにも泣き出しそうなほど穏やかな星の海が、音もなく流れていた。
呼吸を整えようとするたびに、胸の内側がきゅうっと締めつけられた。
──また、してしまった。
ひどく、やさしい沈黙だった。それが、いちばん痛かった。
ルシアンは、なにも言わなかった。ただ、視線を外さずに、そこにいた。
「……ちがうんです、ほんとは……っ」
言葉にならない声が、唇から漏れた。
自分の意思ではない。けれど、快感に流されたのではなかった。命令を守ろうと、確かに、していたのだ。
だからこそ──悔しかった。
「……耐えたかった……んです、ルシアン様……」
涙が、また一筋こぼれた。
瞳の端から、つうっと流れたそれは、頬を焼くように熱く感じた。
「許して欲しいなんて……言えません。……でも、叱ってください……」
その声には、すがるような響きもなければ、甘える気配もなかった。
ただ、罪を受け取りたいという意志だけがあった。
「ちゃんと、罰を受けたいです……。でないと……わたし……」
最後の言葉は、途中で喉に詰まった。
縄に縛られたまま、恥を晒しきったその姿で、セリーヌは、じっとルシアンを見上げていた。
ルシアンは、静かに微笑んだ。
「いや、セリーヌは覚えがいい。必死に我慢しようとしたのは、ちゃんと伝わってきたよ」
その声は、どこまでも穏やかだった。だが、空気には支配の重さがあった。
「……けれど、これが──ヴェールスだ」
その一言に、セリーヌの背筋がひたりと冷えた。
「快感は、もう自分のものじゃない。貴方の身体は、僕に支配される。……いや、正確には、僕と──クロエ、だね」
セリーヌは、うなずくこともできなかった。ただ、その言葉を胸の内に受け止めた。
ルシアンの手が、そっと頭に触れた。撫でられた瞬間、首筋から腰にかけて、全身の力がふわりと抜けていった。
手のひらが、やさしく髪をなぞり、耳の後ろを撫で、顎を上げさせた。
そのまま、唇が重なった。
「……ぁ……っ」
唇と唇が触れた一瞬だけで、全身が甘くとろけるような熱に包まれた。脳がぼうっと霞む。指の先から足の爪先まで、余すことなく蕩けていった。
「じゃあ、ご褒美だ」
その一言とともに、ルシアンの指先が腰を抱えた。
そして──怒張が、ゆっくりとセリーヌの奥へ挿入されていった。
唇から熱い吐息が漏れる。
深く、でも焦らすように、抜き差しを繰り返す。粘膜が擦れる音が、身体の内から響いてくる。
セリーヌは、あっという間に追い詰められた。
奥を突かれるたび、そこにある場所が、強く、ゴツゴツとした圧で抉られる。骨のすぐ裏──敏感な壁に、繰り返し、繰り返し押し当てられる。
「……っ、ぁ……ん、っ……」
声が漏れる。
けれど、すぐに叱責が落ちた。
「声を我慢しろと言ったぞ」
ルシアンの声は冷たくはない。だが、容赦がなかった。
次の瞬間、抽送の速度が上がった。
奥の一点を、より深く、より鋭く、より繰り返し──抉るように打ちつけてくる。
セリーヌは、後ろ手に縛られたまま、シーツを指で握りしめた。喉を震わせながら、歯を食いしばった。
でも──耐えきれなかった。
波が来た。重くて、速くて、深かった。
ごうっとせり上がる快感に、脚が跳ね、腰が震えた。
「い、いぐうっ」
声を出せたのはそれだけ。ただ爆ぜた。
全身が、果てた。
けれど、ルシアンは止めなかった。
「……ちゃんと命令に従えるまで、続けよう」
その一言で、第二の抽送が始まった。
セリーヌは、また追い詰められる。
身体の奥が熱を持ち、膣壁の内側が擦れ、肛門の奥まで刺激が伝播していく。
でも三度目の絶頂──。
四度目──。
五度目──。
絶頂は、止まらなかった。
どこが境目か、わからなかった。果てているのか、まだ昇っているのか、それすら曖昧になった。
そして──何度目かわからない絶頂の渦の中で、セリーヌは崩れた。
「……もう、やだ……いきます、いっちゃう……いっちゃう……っ、やだ……っ……」
涙も鼻もぐちゃぐちゃに濡れ、口が制御できなかった。
号泣していた。叫んでいた。すがっていた。
それでも、達してしまった。
その姿を、ルシアンは黙って見ていた。
そして、囁くように言った。
「いっていい。今度は、僕も、いこう」
次の瞬間、深く──底まで挿し込まれた。
「んああああっ」
いっていいというルシアンの言葉が終わると同時に、セリーヌはまたもや達していた。またもや、ルシアンの抽送を受けながら……。
腰が浮き、跳ね、背骨が軋むほどに反り返る。全身で痙攣した。
すると、その奥で、温かいものが、どく、どく、と脈打った。
セリーヌは、それをはっきりと感じた。
そして、その感触とともに、幸福感がふわりと胸に広がった。
苦しかった。情けなかった。恥ずかしかった。けれど──満たされていた。
ルシアンが、そっと耳元で言った。
「今度こそ、貴方は僕のものだ」
ルシアンの声は、ひどく静かだった。
穏やかで、迷いがなかった。
それは宣言でも、命令でもなく──なにか、遠い場所にいる相手に対して呟いたような響きだった。だが、そのルシアンの瞳は真っ直ぐにセリーヌに向けられている。
セリーヌは、その言葉を胸の奥で反芻しながら、ゆっくりと目を閉じた。
もう、なにも考えられなかった。
すべてが終わったような安堵と、すべてが始まってしまったような重さの中で、心も身体も、限界の奥に沈んでいった。
呼吸が、ひとつだけ深く落ちた。
そして、セリーヌは、その呼吸の底で──静かに、眠るように、意識を手放した。
《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》
また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。