侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
──感覚だけが、無傷だった。
吊られた身体は、動かない。
けれど、それは枷のせいだった。
両手首は頭上で拘束され、脚も踝ごと開かれて、動かす余地がない。
そのなかで、神経だけが異常に生きていた。
首の裏──うなじの根元に埋められた魔核が、すべてを操作していた。
神経の伝達が増幅されている。
特に、皮膚感覚と性感受野が制御対象になっているのは、明らかだった。
──肌が風に反応する。
石壁に跳ね返った音が、耳ではなく背中に刺さる。
汗が一筋、脇を伝っただけで、脳が震える。
乳房の先端が、わずかに揺れた。
擦れる布がない。隠す布もない。
勃ち上がった乳首が、呼吸のたびに疼く。
視線が、そこにあった。
机越しに座るヴェルナー。
彼は目を伏せず、淡々と正面を見据えていた。
だが、目の位置は、言葉より先に答えていた。
さらに、ジャンヌの周りに半円を描くように控える四人の騎士たち。
いずれも上級の貴族軍人。
金銀の徽章に、緋と紺の装甲が光っていた。
彼らの視線は、定められている。
命令ではなく、手順として“観察する”ことが義務づけられている。
胸に触れる空気。
下腹に落ちる汗の線。
布の内側で熱を帯びる粘膜。
──そのすべてを、明確に“見られ、そして、ヴェルナーの前にある《幻写晶》により克明に記録されている。
どこで震えたか。
どこが濡れたか。
どれほど突起が露出し、どれほど染みが広がったか。
──その一つひとつが、無感情な魔道装置によって記録され、評価され、保管されていく。
意志では抗えなかった。
羞恥は、仕組まれていた。
「──とりあえず、名だ。名を言え」
低い声だった。
乾いていた。
それでも、部屋全体に届く声だった。
視線は逸らさず、表情はなかった。
その静けさは、命令よりも冷たかった。
「……ジャンヌ=ド・ヴァランティーヌ……。いや、勘当されたから、ただのジャンヌかな」
その名が落ちた刹那、
ヴェルナーの指が、音もなく、上がった。
右の男が手にしている《スピナ》──白い警棒が腹に押し当てられた。
《スピナ》が作動した。
──痛み、ではなかった。そんなものではない。苦悶そのものだ。
「はがあああああ──」
瞬間、脳が破裂した。
目の奥で光が炸裂し、視界が反転する。
そのまま、頭蓋の内側を何本もの針が突き抜けていく。
首から肩へ、背骨から腰へ、すべての神経が逆流した。
「あがっ──あ、ああっ、ああああああっ──」
喉が裂ける音がした。
肺が悲鳴に置き換わり、腹の奥から喉を通って吹き上がった。
声ではなかった。
ただの、制御不能な咆哮だった。
吊られた身体がのたうつ。
腕は拘束されている。脚も開かれている。
けれど、全身の筋が逃げ場を探して軋みを上げた。
踵が床を蹴った。背筋が跳ねた。
だが、拘束は動かない。
動かないなかで、身体だけが勝手に暴れた。
「あ、ががががが……っ、あああっ、や、やめ……っ、やめてぇ──」
言葉にならない。意味を失った音が、悲鳴のかたちで漏れ続けた。
舌が喉の奥で痙攣し、唇の端が濡れた。
鼻腔が詰まり、視界が明滅する。
世界が狭くなる。
なのに、脳は鮮明だった。
痛覚だけが、くっきりと目を開いている。
──これは、外からの苦痛ではない。
──内側から発火させられている。
外傷はひとつもない。
それでも、脳の芯で“破壊”される感覚が続いていた。
苦しみは、終わらなかった。
時間がわからなくなるほど、連続していた。
切れても、また再び。止まっても、またすぐに。
反復される発火。
声がかすれ、涙が噴き、涎が唇を濡らした。
ジャンヌはのたうった。
吊られたまま、何度も反射的に身体をひねり、引き、震わせた。
だが、逃げ場はなかった。
ヴェルナーの一本の指だけが、始まりと終わりを決めていた。
指が降ろされ、《スピナ》がやっと離れる。
ジャンヌは完全に脱力した。
でも、《スピナ》の苦痛の余韻はまだ続いている。裸身は大量の脂汗にまみれている。
涙も、涎も、鼻水も拭うことはできない。
すると、声が落ちた。
「お前は、リディアだ」
淡々とした響きだった。
記録を読み上げるような抑揚。
「階級は兵三級。戦災孤児で、王軍補助部隊所属。……もう一度訊く。名は?」
ジャンヌは、無言のままその言葉を整理した。
事実ではない。だが、彼にとっては“これからの事実”にするつもりなのだと、すぐにわかった。
記録を書き換え、映像を捏造し、名を奪う。
なにかは、わからないが、おそらく、ジャンヌが貴族出身だと都合の悪いなにかがあるのだろう。
それが、ここで行われていることの本質だった。
「……考えることが、下品だねえ」
ヴェルナーは答えなかった。
ただ、右手の指を静かに持ち上げた。
右の男が、《スピナ》を押し当てる。
白い警棒のような先端が、腹部の柔らかな皮膚に触れ
「があああああっ──」
頭の奥が爆ぜた。
神経が逆流し、視界が裏返る。
喉がひきつれ、咆哮がこぼれる。
「や……がっ、があっ、あああああ──」
全身が吊られたまま跳ね、脚が痙攣する。
拘束はびくともせず、皮膚の下だけが暴れた。
またもや、舌が痺れ、唇が濡れ、涎が垂れる。
鼻が詰まり、呼吸が断続的に止まる。
だが、叫びだけは止まらなかった。
そして、ヴェルナーの指が下ろされるまで──。
指が下りて、沈黙が落ちた。
「お前の名は、リディアだ」
ヴェルナーは、書類を一枚、机上に伏せたまま指先で軽く叩いた。
その上には、魔道演算の変更符号が浮かんでいた。
小さな呪刻。魔核への遠隔命令。
右の騎士が応じて、再設定を行う。
ジャンヌの身体に埋められた魔核が、ごくわずかに、波打った。
「いまから、条件を変える」
ヴェルナーの声は、変わらない。
淡々と、温度もなかった。
「正しく答えれば、“褒美”がある。答えなければ、罰が続く。快か、苦か。どちらを受けるかは、君の言葉次第だ」
その言葉は、訊問ではなかった。
ただの通告だった。
「名を言え」
再び、落ちる声。
ジャンヌは応じなかった。
口を結び、視線を逸らさないまま、沈黙した。
ヴェルナーが、指を動かした。
《スピナ》が作動した。
「……っ、あ、ああ……っ……」
喉の奥から、また悲鳴が這い上がった。
だが、今度は──違った。
痛みの直後、脳の別の場所に、熱が走った。
瞬間、乳房の先端が、跳ねるように硬直した。
腰の奥に、まったく別の感覚が湧き上がった。
脳内に、“快”の信号が注ぎ込まれる。
快楽の“錯覚”──。
苦痛が強いが、わずかに快感が混ぜられ、脳の一部が、あえて“悦び”だと誤認するよう設定されている。
こんなこともできるのか。
狂う──。
狂ってしまう。
ジャンヌはただ喚き散らしながら暴れ続けた。
そして──止む。
また、問われる。
「お前の名は、リディアだ……。名は?」
ジャンヌは息を吐いた。
汗が額から垂れ、視界の端で揺れる。
いまの感覚は、何だったのか。
問いが脳裏に浮かびきる前に、再び、指が動いた。
《スピナ》の“罰”が走る。
「が、があああっ……」
跳ねる。
ぶれる。
意識が、途切れる寸前まで持っていかれる。
そして──止む。
また、問われる。
「お前の名は? リディアだろう? よく考えて答えろ。いままでの苦痛は“第三段階”だ。強度は五段階まである。次は最大強度だ」
沈黙が落ちた。
ヴェルナーはもう指を上げていなかった。
だが、声だけが、そこに残っていた。
──最大強度。
その言葉が、喉に張りついたまま、落ちてこなかった。
脳裏には、いままでの苦痛が残っていた。
視界が反転し、神経が裂け、息が止まった。
あれが“第三段階”だったというのなら──。
心が凍った。
ほんの一瞬、逃げたいと思った。
名を口にするのが、怖かった。
でも、それは命を惜しんだ恐怖ではなかった。
自分の名が、声として砕かれるかもしれないことが、怖かった。
自分自身が、自分を否定するような声の出し方をするかもしれない。
そのほうが、ずっと恐ろしかった。
けれど、沈黙は、もっと恐ろしかった。
沈黙していれば、幻写晶が代わりに答える。
沈黙していれば、ヴェルナーの記録が“ジャンヌ”を削っていく。
沈黙していれば、リディアという名が、“私の正体”になる。
胸がひとつ、震えた。
喉の奥にある声を、押し出した。
「ジャンヌ……だ──。私は、ジャンヌ=ド・ヴァランティーヌ……それが、私だあっ──」
肩が揺れ、吊られた腕が軋んだ。
声は、乾いていた。
けれど、届いていた。
ヴェルナーの指が、再び、静かに上がった。
右の男が《スピナ》を押し当てる。
その先端が、腹部の柔らかな皮膚の上で、わずかに角度を変えた。
次の瞬間──。
「ほがあああああ──」
脳が、爆ぜた。
過去のどの痛みとも、似ていなかった。
似ているとすれば、それは“死”だった。
いや、死の記憶はない。
ただ、それ以外に近づける言葉がなかった。
視界が白くなる。
すぐに黒くなる。
そしてまた白く、赤く、黒く。
頭蓋の内側で、すべての神経が同時に引きちぎられるような衝撃。
意識が残っていたことが、間違いに思えた。
喉から、声にならない音が漏れた。
肺が動いた。けれど、息にはならなかった。
舌が震え、瞳孔が開き、腹筋が勝手に収縮する。
身体が、一気に崩れた。
腹が軋み、嘔吐がこみ上げる。
四肢を繋がれたまま、大量の液体を吐き出した。
下腹が緩む。
意志では止められなかった。
脚の間からも、尿が垂れていく。
それでも拘束は緩まず、《スピナ》は“死”に近いものを送り続ける。ジャンヌの身体は吊られたまま、暴れていた。
目が開いていた。けれど、見ていなかった。
耳があった。けれど、音はなかった。
──名前も、記憶も、誇りも、すべてが霧の中に落ちていった。
そして、完全に、落ちた。
脚の力が抜け、手が感覚を失い、頭ががくりと下がった。
全身の緊張が消えていった。
──冷たいものが、顔に叩きつけられた。
その衝撃で、世界がいきなり戻ってきた。
喉が痙攣し、肺に水が入ったのかと思った。
思わず息を吐き、それが咳となって胸を揺らした。
咳き込んだとき、頬が濡れていたことに気づいた。
それが冷水のせいなのか、涙の名残なのか、判断できなかった。
目を開けると、天井はなかった。
その代わりに、薄暗い石の床があった。
吊られている自分の両手と、硬い枷の感触があった。
喉が焼けていた。
鼻が詰まり、顎の下に重い感覚が残っていた。
身体はずっしりと重く、筋肉のどこかが引きつっている。
口の端から、苦い味がした。
粘液と胃液と、なにか不明なものが混ざった残滓だった。
足元が冷たかった。
床の温度ではない。
自分の体からこぼれたものが──嘔吐と失禁とかけられた水が混ざったものが、そこに触れているのだとわかった。
吊られたまま、息だけが、確かに残っていた。
それ以外の感覚は、曖昧だった。
痛みも、羞恥も、まだはっきりと戻ってきてはいなかった。
けれど、ただひとつ──
視線だけは、感じていた。
目の前に、ヴェルナーがいた。
あの机の向こう、あの幻写晶の横に、変わらず座っていた。
表情はなかった。
ただ、そこにいた。
はじめから、すべてを記録することだけが、彼の目的であったかのように。
自分がなにを見られていたのか、思い出した。
見せたくなかったものを、記録されていた。
反応したことを、覚えている。
身体が震えた。
けれど、それは寒さではなかった。
なにか、もっと深く、皮膚の下から這い上がってくるものだった。
吊られた身体の重みを、ようやく思い出しかけたときだった。
──笑い声が、落ちた。
最初、それが誰のものなのか、判断がつかなかった。
けれど、机の向こうから、それは確かに響いてきた。
静かな男だったはずだ。
罵倒もしなければ、嘲笑もなかった。
それがいま、喉を震わせて笑っている。
声は乾いていた。
けれど、どこか湿っていた。
節度も冷たさもなく、ただ、熱だけがこもっていた。
「素晴らしい。実に、素晴らしい素材だ。これまで、どんな屈強な者でも……二度。二度が限界だった。だが君は、五度だ。五度、耐えた。それも、最大強度だ」
ヴェルナーの目は、笑っていなかった。
だが、口元には確かに笑みがあった。
「……たしかに“使える”と思った。だが、ここまでとはな」
机の上に置かれた《幻写晶》が、点灯したまま淡く光っていた。
記録は、まだ止まっていなかった。
吊られたまま、ジャンヌは声を出さなかった。
出せなかったのか、出さなかったのか、自分でもわからなかった。
ただ、耳が覚えていた。
あの男が、自分を“素材”と呼んだことを──。
その言葉は、喉の奥で冷たく残っていた。
身体よりも、思考のほうが先に拒んだ。
けれど、拒むということは、それを正面から認めることでもあった。
「次は、快楽の併用で試してみよう。……快楽を二度。だが達したら──最大強度を与える。達した者ほど壊れやすい。だから“悦びの後”がいちばん効く。……快感は、《スピナ》は使うな。それと、もう、その下着は取れ」
命令は静かだった。
だが、すでに選択はなかった。
腰に残されていた布が剥がされる。
空気が触れた。
脚の奥まで、ひやりとした感触が走った。
羞恥ではない。
それは、ただ、反射だった。
すぐに、複数の手が動きはじめた。
触れられるのは、一度に八か所。
右の胸、左の胸、背、右脚の内側、腹部、左腿の付け根、陰部、お尻。
どれも訓練された手の動きで、力はなかった。
だが、その精度が、皮膚の神経を正確に突いてくる。
「くうっ、ああっ、くあっ」
我慢はしていた。
しているつもりだった。
だが──感度は、十倍だ──。
「……くう、うああっ……、あああ……ああああっ……」
喉の奥から、漏れた。
呻きとは違った。
言葉にもならなかった。
声だけが、勝手に漏れていた。
乳首の先端に指が触れた瞬間、腰が跳ねる。
太腿の付け根に爪がかすめるだけで、背筋が震える。
粘膜の奥に、波が一度、打ち寄せる。
「く、くそっ……や、やめ、て……っ、あああ……うあああっ、ああああ……っ」
息を止めようとしても、止まらない。
肩が吊られたまま揺れ、脚が引かれる。
息が浅く、熱く、そして高くなっていく。
胸が波打ち、声が強くなった。
それでも言葉を探す余裕はなかった。
「……っ、あああっ……くっ、ぅあ、くそ、……もう、くるっ……っ」
言葉の最後は、息に混じって崩れた。
波がひとつ、大きく、身体の中心を割って突き上げた。
「っああ、あああああ……、う……ぅああ……っ」
全身が強く跳ね、拘束の鎖が軋む。
胸が突き上げられ、脚が突っ張る。
汗が噴き、口の端から音が漏れ続けた。
幻写晶が静かに点灯していた。
そこには、反応のすべてが記録されていた。
嬌声も、痙攣も、熱も、振動も──。
吊られたまま、ジャンヌは喉を震わせていた。
息は荒く、目の奥がまだ光に慣れていなかった。
だが、わかっていた。
自分が達してしまったことを。
快楽に、負けたわけじゃない。
でも、達してしまった。
それだけだった。
「一度目です」
愛撫をしている騎士のひとりがヴェルナーに告げる。
「わかってる。終わるな。連続の絶頂は快楽であり、苦痛だ。それと本物の苦痛を混ぜる。脳は正確な判断をできなくなる。計算によれば簡単に毀れるはずだ」
そのまま、愛撫が再開する。
一度目で開かれた神経は、そのまま焼け残っていた。
皮膚の上に置かれた指先が、今では触れられていない部分にまで熱を伝えてくる。
反応が早い。
それは知っていた。
なのに、身体のほうが先に動く。
四人がかりの愛撫──。八本の手──。
「……っく、あ……やめ……、まだ、くるなああ……っ」
言葉が追いつかない。
反応のほうが、言葉より速い。
腰が揺れる。
脚がぴくりと反応する。
肩が吊られたまま引かれ、胸が自然と持ち上がった。
「ああああ、いやああっ──」
耐えようとしたときには、もう遅かった。
身体が勝手に震え。乳房が揺れ、首がのけぞり、口が大きく開いていた。
逃れられないほどの快感が、全身を貫き、通り抜けていった。
ジャンヌは絶頂を隠すこともできずに、咆哮した。
けれど──それは、終わりではなかった。
絶頂の波が、まだ腰の奥に残っているその最中──。
すぐに、ヴェルナーの指が動いた。
合図だった。
それだけで、空気の密度が変わった。
腹に押し当てられた《スピナ》が、無言のまま作動した。
「あがああ、ぐああああ、──がああああっ……」
悲鳴と嬌声が、咆哮になった。
呼吸の途中で喉が引き裂かれ、快楽の名残を抱えたまま、脳が燃える。
痛みだった。
だが、なにかが違った。
焼かれる。けれど、身体は跳ねた。
苦しみなのか、快楽の残滓なのか──自分でもわからなかった。
乳首が脈打ち、腰が痙攣し、声が喉を裂いた。
ただの苦痛ではなかった。
快感が、まだ身体の奥に残っていた。
その最中に──焼かれた。
「はがああああ、あ……、や、め……っ、ぐ、ぁ、ぁああ……っ」
獣のような声を叫びながら、どちらの刺激に反応しているのかわからなかった。
喉が震える。
腹の内側が脈を打ち、背骨に沿って熱と電流が走る。
乳首が跳ねた。腰がのけぞった。……いや、もう、どちらの刺激に反応しているのか、わからない。
粘膜が痺れている。
乳房の先端が、まだ脈打っている。
快感だったはずだ。
だが、痛みだった。
けれど、身体は──それに跳ねた。
「……うがあああ、あ……だめえええ……」
震えが止まらなかった。
声が滲む。
苦痛の反応か、快感の残響か、自分でもわからない。
吊られたまま、身体が跳ねていた。
目の奥が明滅し、喉の奥から漏れる音に意味がなかった。
──どこかで、水の音がした。
冷たかった。
痛みにも、熱にも、感度にも似ていない。
それだけが、たしかに皮膚に触れていた。
頬に落ち、顎を伝い、鎖骨を越えて胸のあたりまで流れていく。
目を開けようとした。
けれど、すぐには開かなかった。
まぶたが重く、焦点が結ばれるまでに時間がかかった。
また──失神していた?
喉が、ひどく乾いていた。
声を出そうとしたが、息しか出なかった。
粘膜が、まだ痙攣していた。
乳首が脈打ち、下腹がわずかに反応している。
感度が戻ってきていた。
それは、目覚めよりも早く動き始めていた。
指先が冷えていた。
だが、額からはまだ汗が落ちていた。
胸も、腰も、膝の裏も、びっしょりだった。
汗と冷水が混ざって、どこが冷たく、どこが熱いのか、区別がつかなかった。
また意識を落としたことに、腹が立った。
自分の身体が、自分のままでいられない。
誇りは残っているのに、肉体が置いていく。
「……まだ……、これか……」
かすれた声が、唇の奥で震えた。
幻写晶がまだ灯っていた。
記録は、続いていた。
そして、机の向こうには──。
ヴェルナーが、変わらぬ姿でそこにいる。
「リディア、お前の名は?」
ヴェルナーが静かに訊ねた。
リディア……。
そう応じたくなるのを必死に耐える。
「ジャ、ジャンヌだ……。第二騎士隊……大隊付……上級将校……。それが、私だあっ──」
必死に言った。
だが、頭は朦朧となっている。
もうすでに、自分がリディアなのか、ジャンヌなのか、よくわからない。
「やはり、いい素材だ……。じゃあ、手順はわかったな。いまのを繰り返せ。このリディアを休ませるな……。もう一度、手による愛撫を与えろ。達したら最大強度で苦痛だ」
拘束されている裸に、またもや八本の手が襲う。
ジャンヌは、またもや喘ぎ声をあげた。
《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》
また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。