※この作品はR-18です。

侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従   作:ドン・ドナシアン

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40  君の名は。

 ──感覚だけが、無傷だった。

 

 吊られた身体は、動かない。

 けれど、それは枷のせいだった。

 両手首は頭上で拘束され、脚も踝ごと開かれて、動かす余地がない。

 

 そのなかで、神経だけが異常に生きていた。

 

 首の裏──うなじの根元に埋められた魔核が、すべてを操作していた。

 

 神経の伝達が増幅されている。

 特に、皮膚感覚と性感受野が制御対象になっているのは、明らかだった。

 

 ──肌が風に反応する。

 石壁に跳ね返った音が、耳ではなく背中に刺さる。

 汗が一筋、脇を伝っただけで、脳が震える。

 

 乳房の先端が、わずかに揺れた。

 擦れる布がない。隠す布もない。

 勃ち上がった乳首が、呼吸のたびに疼く。

 

 視線が、そこにあった。

 

 机越しに座るヴェルナー。

 彼は目を伏せず、淡々と正面を見据えていた。

 だが、目の位置は、言葉より先に答えていた。

 

 さらに、ジャンヌの周りに半円を描くように控える四人の騎士たち。

 いずれも上級の貴族軍人。

 金銀の徽章に、緋と紺の装甲が光っていた。

 彼らの視線は、定められている。

 命令ではなく、手順として“観察する”ことが義務づけられている。

 

 胸に触れる空気。

 下腹に落ちる汗の線。

 布の内側で熱を帯びる粘膜。

 ──そのすべてを、明確に“見られ、そして、ヴェルナーの前にある《幻写晶》により克明に記録されている。

 

 どこで震えたか。

 どこが濡れたか。

 どれほど突起が露出し、どれほど染みが広がったか。

 ──その一つひとつが、無感情な魔道装置によって記録され、評価され、保管されていく。

 

 意志では抗えなかった。

 羞恥は、仕組まれていた。

 

「──とりあえず、名だ。名を言え」

 

 低い声だった。

 乾いていた。

 それでも、部屋全体に届く声だった。

 視線は逸らさず、表情はなかった。

 その静けさは、命令よりも冷たかった。

 

「……ジャンヌ=ド・ヴァランティーヌ……。いや、勘当されたから、ただのジャンヌかな」

 

 その名が落ちた刹那、

 ヴェルナーの指が、音もなく、上がった。

 

 右の男が手にしている《スピナ》──白い警棒が腹に押し当てられた。

 《スピナ》が作動した。

 ──痛み、ではなかった。そんなものではない。苦悶そのものだ。

 

「はがあああああ──」

 

 瞬間、脳が破裂した。

 目の奥で光が炸裂し、視界が反転する。

 そのまま、頭蓋の内側を何本もの針が突き抜けていく。

 首から肩へ、背骨から腰へ、すべての神経が逆流した。

 

「あがっ──あ、ああっ、ああああああっ──」

 

 喉が裂ける音がした。

 肺が悲鳴に置き換わり、腹の奥から喉を通って吹き上がった。

 声ではなかった。

 ただの、制御不能な咆哮だった。

 

 吊られた身体がのたうつ。

 腕は拘束されている。脚も開かれている。

 けれど、全身の筋が逃げ場を探して軋みを上げた。

 

 踵が床を蹴った。背筋が跳ねた。

 だが、拘束は動かない。

 動かないなかで、身体だけが勝手に暴れた。

 

「あ、ががががが……っ、あああっ、や、やめ……っ、やめてぇ──」

 

 言葉にならない。意味を失った音が、悲鳴のかたちで漏れ続けた。

 舌が喉の奥で痙攣し、唇の端が濡れた。

 鼻腔が詰まり、視界が明滅する。

 世界が狭くなる。

 

 なのに、脳は鮮明だった。

 痛覚だけが、くっきりと目を開いている。

 

 ──これは、外からの苦痛ではない。

 ──内側から発火させられている。

 

 外傷はひとつもない。

 それでも、脳の芯で“破壊”される感覚が続いていた。

 

 苦しみは、終わらなかった。

 時間がわからなくなるほど、連続していた。

 切れても、また再び。止まっても、またすぐに。

 反復される発火。

 

 声がかすれ、涙が噴き、涎が唇を濡らした。

 

 ジャンヌはのたうった。

 吊られたまま、何度も反射的に身体をひねり、引き、震わせた。

 だが、逃げ場はなかった。

 ヴェルナーの一本の指だけが、始まりと終わりを決めていた。

 

 指が降ろされ、《スピナ》がやっと離れる。

 ジャンヌは完全に脱力した。

 でも、《スピナ》の苦痛の余韻はまだ続いている。裸身は大量の脂汗にまみれている。

 涙も、涎も、鼻水も拭うことはできない。

 すると、声が落ちた。

 

「お前は、リディアだ」

 

 淡々とした響きだった。

 記録を読み上げるような抑揚。

 

「階級は兵三級。戦災孤児で、王軍補助部隊所属。……もう一度訊く。名は?」

 

 ジャンヌは、無言のままその言葉を整理した。

 事実ではない。だが、彼にとっては“これからの事実”にするつもりなのだと、すぐにわかった。

 記録を書き換え、映像を捏造し、名を奪う。

 なにかは、わからないが、おそらく、ジャンヌが貴族出身だと都合の悪いなにかがあるのだろう。

 それが、ここで行われていることの本質だった。

 

「……考えることが、下品だねえ」

 

 ヴェルナーは答えなかった。

 ただ、右手の指を静かに持ち上げた。

 

 右の男が、《スピナ》を押し当てる。

 白い警棒のような先端が、腹部の柔らかな皮膚に触れ

 

「があああああっ──」

 

 頭の奥が爆ぜた。

 神経が逆流し、視界が裏返る。

 喉がひきつれ、咆哮がこぼれる。

 

「や……がっ、があっ、あああああ──」

 

 全身が吊られたまま跳ね、脚が痙攣する。

 拘束はびくともせず、皮膚の下だけが暴れた。

 

 またもや、舌が痺れ、唇が濡れ、涎が垂れる。

 鼻が詰まり、呼吸が断続的に止まる。

 だが、叫びだけは止まらなかった。

 そして、ヴェルナーの指が下ろされるまで──。

 

 指が下りて、沈黙が落ちた。

 

「お前の名は、リディアだ」

 

 ヴェルナーは、書類を一枚、机上に伏せたまま指先で軽く叩いた。

 その上には、魔道演算の変更符号が浮かんでいた。

 小さな呪刻。魔核への遠隔命令。

 

 右の騎士が応じて、再設定を行う。

 ジャンヌの身体に埋められた魔核が、ごくわずかに、波打った。

 

「いまから、条件を変える」

 

 ヴェルナーの声は、変わらない。

 淡々と、温度もなかった。

 

「正しく答えれば、“褒美”がある。答えなければ、罰が続く。快か、苦か。どちらを受けるかは、君の言葉次第だ」

 

 その言葉は、訊問ではなかった。

 ただの通告だった。

 

「名を言え」

 

 再び、落ちる声。

 ジャンヌは応じなかった。

 口を結び、視線を逸らさないまま、沈黙した。

 ヴェルナーが、指を動かした。

 

 《スピナ》が作動した。

 

「……っ、あ、ああ……っ……」

 

 喉の奥から、また悲鳴が這い上がった。

 だが、今度は──違った。

 

 痛みの直後、脳の別の場所に、熱が走った。

 

 瞬間、乳房の先端が、跳ねるように硬直した。

 腰の奥に、まったく別の感覚が湧き上がった。

 

 脳内に、“快”の信号が注ぎ込まれる。

 快楽の“錯覚”──。

 苦痛が強いが、わずかに快感が混ぜられ、脳の一部が、あえて“悦び”だと誤認するよう設定されている。

 こんなこともできるのか。

 

 狂う──。

 狂ってしまう。

 ジャンヌはただ喚き散らしながら暴れ続けた。

 

 そして──止む。

 

 また、問われる。

 

「お前の名は、リディアだ……。名は?」

 

 ジャンヌは息を吐いた。

 汗が額から垂れ、視界の端で揺れる。

 いまの感覚は、何だったのか。

 問いが脳裏に浮かびきる前に、再び、指が動いた。

 

 《スピナ》の“罰”が走る。

 

「が、があああっ……」

 

 跳ねる。

 ぶれる。

 意識が、途切れる寸前まで持っていかれる。

 

 そして──止む。

 

 また、問われる。

 

「お前の名は? リディアだろう? よく考えて答えろ。いままでの苦痛は“第三段階”だ。強度は五段階まである。次は最大強度だ」

 

 沈黙が落ちた。

 ヴェルナーはもう指を上げていなかった。

 だが、声だけが、そこに残っていた。

 

 ──最大強度。

 

 その言葉が、喉に張りついたまま、落ちてこなかった。

 脳裏には、いままでの苦痛が残っていた。

 視界が反転し、神経が裂け、息が止まった。

 あれが“第三段階”だったというのなら──。

 

 心が凍った。

 ほんの一瞬、逃げたいと思った。

 名を口にするのが、怖かった。

 

 でも、それは命を惜しんだ恐怖ではなかった。

 自分の名が、声として砕かれるかもしれないことが、怖かった。

 自分自身が、自分を否定するような声の出し方をするかもしれない。

 そのほうが、ずっと恐ろしかった。

 けれど、沈黙は、もっと恐ろしかった。

 

 沈黙していれば、幻写晶が代わりに答える。

 沈黙していれば、ヴェルナーの記録が“ジャンヌ”を削っていく。

 沈黙していれば、リディアという名が、“私の正体”になる。

 

 胸がひとつ、震えた。

 喉の奥にある声を、押し出した。

 

「ジャンヌ……だ──。私は、ジャンヌ=ド・ヴァランティーヌ……それが、私だあっ──」

 

 肩が揺れ、吊られた腕が軋んだ。

 声は、乾いていた。

 けれど、届いていた。

 

 ヴェルナーの指が、再び、静かに上がった。

 右の男が《スピナ》を押し当てる。

 その先端が、腹部の柔らかな皮膚の上で、わずかに角度を変えた。

 

 次の瞬間──。

 

「ほがあああああ──」

 

 脳が、爆ぜた。

 過去のどの痛みとも、似ていなかった。

 似ているとすれば、それは“死”だった。

 いや、死の記憶はない。

 ただ、それ以外に近づける言葉がなかった。

 

 視界が白くなる。

 すぐに黒くなる。

 そしてまた白く、赤く、黒く。

 

 頭蓋の内側で、すべての神経が同時に引きちぎられるような衝撃。

 意識が残っていたことが、間違いに思えた。

 

 喉から、声にならない音が漏れた。

 

 肺が動いた。けれど、息にはならなかった。

 舌が震え、瞳孔が開き、腹筋が勝手に収縮する。

 

 身体が、一気に崩れた。

 腹が軋み、嘔吐がこみ上げる。

 四肢を繋がれたまま、大量の液体を吐き出した。

 

 下腹が緩む。

 意志では止められなかった。

 脚の間からも、尿が垂れていく。

 

 それでも拘束は緩まず、《スピナ》は“死”に近いものを送り続ける。ジャンヌの身体は吊られたまま、暴れていた。

 

 目が開いていた。けれど、見ていなかった。

 耳があった。けれど、音はなかった。

 

 ──名前も、記憶も、誇りも、すべてが霧の中に落ちていった。

 

 そして、完全に、落ちた。

 脚の力が抜け、手が感覚を失い、頭ががくりと下がった。

 全身の緊張が消えていった。

 

 

 

 

 ──冷たいものが、顔に叩きつけられた。

 

 その衝撃で、世界がいきなり戻ってきた。

 喉が痙攣し、肺に水が入ったのかと思った。

 思わず息を吐き、それが咳となって胸を揺らした。

 

 咳き込んだとき、頬が濡れていたことに気づいた。

 それが冷水のせいなのか、涙の名残なのか、判断できなかった。

 

 目を開けると、天井はなかった。

 その代わりに、薄暗い石の床があった。

 吊られている自分の両手と、硬い枷の感触があった。

 

 喉が焼けていた。

 鼻が詰まり、顎の下に重い感覚が残っていた。

 身体はずっしりと重く、筋肉のどこかが引きつっている。

 

 口の端から、苦い味がした。

 粘液と胃液と、なにか不明なものが混ざった残滓だった。

 

 足元が冷たかった。

 床の温度ではない。

 自分の体からこぼれたものが──嘔吐と失禁とかけられた水が混ざったものが、そこに触れているのだとわかった。

 

 吊られたまま、息だけが、確かに残っていた。

 それ以外の感覚は、曖昧だった。

 痛みも、羞恥も、まだはっきりと戻ってきてはいなかった。

 

 けれど、ただひとつ──

 視線だけは、感じていた。

 

 目の前に、ヴェルナーがいた。

 あの机の向こう、あの幻写晶の横に、変わらず座っていた。

 

 表情はなかった。

 ただ、そこにいた。

 はじめから、すべてを記録することだけが、彼の目的であったかのように。

 

 自分がなにを見られていたのか、思い出した。

 見せたくなかったものを、記録されていた。

 反応したことを、覚えている。

 

 身体が震えた。

 けれど、それは寒さではなかった。

 なにか、もっと深く、皮膚の下から這い上がってくるものだった。

 

 吊られた身体の重みを、ようやく思い出しかけたときだった。

 

 ──笑い声が、落ちた。

 

 最初、それが誰のものなのか、判断がつかなかった。

 けれど、机の向こうから、それは確かに響いてきた。

 

 静かな男だったはずだ。

 罵倒もしなければ、嘲笑もなかった。

 それがいま、喉を震わせて笑っている。

 

 声は乾いていた。

 けれど、どこか湿っていた。

 節度も冷たさもなく、ただ、熱だけがこもっていた。

 

「素晴らしい。実に、素晴らしい素材だ。これまで、どんな屈強な者でも……二度。二度が限界だった。だが君は、五度だ。五度、耐えた。それも、最大強度だ」

 

 ヴェルナーの目は、笑っていなかった。

 だが、口元には確かに笑みがあった。

 

「……たしかに“使える”と思った。だが、ここまでとはな」

 

 机の上に置かれた《幻写晶》が、点灯したまま淡く光っていた。

 記録は、まだ止まっていなかった。

 吊られたまま、ジャンヌは声を出さなかった。

 出せなかったのか、出さなかったのか、自分でもわからなかった。

 

 ただ、耳が覚えていた。

 あの男が、自分を“素材”と呼んだことを──。

 

 その言葉は、喉の奥で冷たく残っていた。

 身体よりも、思考のほうが先に拒んだ。

 けれど、拒むということは、それを正面から認めることでもあった。

 

「次は、快楽の併用で試してみよう。……快楽を二度。だが達したら──最大強度を与える。達した者ほど壊れやすい。だから“悦びの後”がいちばん効く。……快感は、《スピナ》は使うな。それと、もう、その下着は取れ」

 

 命令は静かだった。

 だが、すでに選択はなかった。

 

 腰に残されていた布が剥がされる。

 空気が触れた。

 脚の奥まで、ひやりとした感触が走った。

 羞恥ではない。

 それは、ただ、反射だった。

 

 すぐに、複数の手が動きはじめた。

 触れられるのは、一度に八か所。

 右の胸、左の胸、背、右脚の内側、腹部、左腿の付け根、陰部、お尻。

 どれも訓練された手の動きで、力はなかった。

 だが、その精度が、皮膚の神経を正確に突いてくる。

 

「くうっ、ああっ、くあっ」

 

 我慢はしていた。

 しているつもりだった。

 だが──感度は、十倍だ──。

 

「……くう、うああっ……、あああ……ああああっ……」

 

 喉の奥から、漏れた。

 呻きとは違った。

 言葉にもならなかった。

 声だけが、勝手に漏れていた。

 

 乳首の先端に指が触れた瞬間、腰が跳ねる。

 太腿の付け根に爪がかすめるだけで、背筋が震える。

 粘膜の奥に、波が一度、打ち寄せる。

 

「く、くそっ……や、やめ、て……っ、あああ……うあああっ、ああああ……っ」

 

 息を止めようとしても、止まらない。

 肩が吊られたまま揺れ、脚が引かれる。

 息が浅く、熱く、そして高くなっていく。

 胸が波打ち、声が強くなった。

 それでも言葉を探す余裕はなかった。

 

「……っ、あああっ……くっ、ぅあ、くそ、……もう、くるっ……っ」

 

 言葉の最後は、息に混じって崩れた。

 波がひとつ、大きく、身体の中心を割って突き上げた。

 

「っああ、あああああ……、う……ぅああ……っ」

 

 全身が強く跳ね、拘束の鎖が軋む。

 胸が突き上げられ、脚が突っ張る。

 汗が噴き、口の端から音が漏れ続けた。

 

 幻写晶が静かに点灯していた。

 そこには、反応のすべてが記録されていた。

 嬌声も、痙攣も、熱も、振動も──。

 

 吊られたまま、ジャンヌは喉を震わせていた。

 息は荒く、目の奥がまだ光に慣れていなかった。

 

 だが、わかっていた。

 自分が達してしまったことを。

 快楽に、負けたわけじゃない。

 でも、達してしまった。

 それだけだった。

 

「一度目です」

 

 愛撫をしている騎士のひとりがヴェルナーに告げる。

 

「わかってる。終わるな。連続の絶頂は快楽であり、苦痛だ。それと本物の苦痛を混ぜる。脳は正確な判断をできなくなる。計算によれば簡単に毀れるはずだ」

 

 そのまま、愛撫が再開する。

 一度目で開かれた神経は、そのまま焼け残っていた。

 皮膚の上に置かれた指先が、今では触れられていない部分にまで熱を伝えてくる。

 反応が早い。

 それは知っていた。

 なのに、身体のほうが先に動く。

 四人がかりの愛撫──。八本の手──。

 

「……っく、あ……やめ……、まだ、くるなああ……っ」

 

 言葉が追いつかない。

 反応のほうが、言葉より速い。

 腰が揺れる。

 脚がぴくりと反応する。

 肩が吊られたまま引かれ、胸が自然と持ち上がった。

 

「ああああ、いやああっ──」

 

 耐えようとしたときには、もう遅かった。

 身体が勝手に震え。乳房が揺れ、首がのけぞり、口が大きく開いていた。

 逃れられないほどの快感が、全身を貫き、通り抜けていった。

 ジャンヌは絶頂を隠すこともできずに、咆哮した。

 

 けれど──それは、終わりではなかった。

 絶頂の波が、まだ腰の奥に残っているその最中──。

 すぐに、ヴェルナーの指が動いた。

 合図だった。

 それだけで、空気の密度が変わった。

 腹に押し当てられた《スピナ》が、無言のまま作動した。

 

「あがああ、ぐああああ、──がああああっ……」

 

 悲鳴と嬌声が、咆哮になった。

 呼吸の途中で喉が引き裂かれ、快楽の名残を抱えたまま、脳が燃える。

 痛みだった。

 だが、なにかが違った。

 

 焼かれる。けれど、身体は跳ねた。

 苦しみなのか、快楽の残滓なのか──自分でもわからなかった。

 乳首が脈打ち、腰が痙攣し、声が喉を裂いた。

 

 ただの苦痛ではなかった。

 快感が、まだ身体の奥に残っていた。

 その最中に──焼かれた。

 

「はがああああ、あ……、や、め……っ、ぐ、ぁ、ぁああ……っ」

 

 獣のような声を叫びながら、どちらの刺激に反応しているのかわからなかった。

 喉が震える。

 腹の内側が脈を打ち、背骨に沿って熱と電流が走る。

 乳首が跳ねた。腰がのけぞった。……いや、もう、どちらの刺激に反応しているのか、わからない。

 

 粘膜が痺れている。

 乳房の先端が、まだ脈打っている。

 快感だったはずだ。

 だが、痛みだった。

 けれど、身体は──それに跳ねた。

 

「……うがあああ、あ……だめえええ……」

 

 震えが止まらなかった。

 声が滲む。

 苦痛の反応か、快感の残響か、自分でもわからない。

 吊られたまま、身体が跳ねていた。

 目の奥が明滅し、喉の奥から漏れる音に意味がなかった。

 

 

 

 

 ──どこかで、水の音がした。

 

 冷たかった。

 痛みにも、熱にも、感度にも似ていない。

 それだけが、たしかに皮膚に触れていた。

 

 頬に落ち、顎を伝い、鎖骨を越えて胸のあたりまで流れていく。

 

 目を開けようとした。

 けれど、すぐには開かなかった。

 まぶたが重く、焦点が結ばれるまでに時間がかかった。

 

 また──失神していた? 

 

 喉が、ひどく乾いていた。

 声を出そうとしたが、息しか出なかった。

 

 粘膜が、まだ痙攣していた。

 乳首が脈打ち、下腹がわずかに反応している。

 感度が戻ってきていた。

 それは、目覚めよりも早く動き始めていた。

 

 指先が冷えていた。

 だが、額からはまだ汗が落ちていた。

 胸も、腰も、膝の裏も、びっしょりだった。

 汗と冷水が混ざって、どこが冷たく、どこが熱いのか、区別がつかなかった。

 

 また意識を落としたことに、腹が立った。

 自分の身体が、自分のままでいられない。

 誇りは残っているのに、肉体が置いていく。

 

「……まだ……、これか……」

 

 かすれた声が、唇の奥で震えた。

 幻写晶がまだ灯っていた。

 記録は、続いていた。

 

 そして、机の向こうには──。

 ヴェルナーが、変わらぬ姿でそこにいる。

 

「リディア、お前の名は?」

 

 ヴェルナーが静かに訊ねた。

 

 リディア……。

 

 そう応じたくなるのを必死に耐える。

 

「ジャ、ジャンヌだ……。第二騎士隊……大隊付……上級将校……。それが、私だあっ──」

 

 必死に言った。

 だが、頭は朦朧となっている。

 もうすでに、自分がリディアなのか、ジャンヌなのか、よくわからない。

 

「やはり、いい素材だ……。じゃあ、手順はわかったな。いまのを繰り返せ。このリディアを休ませるな……。もう一度、手による愛撫を与えろ。達したら最大強度で苦痛だ」

 

 拘束されている裸に、またもや八本の手が襲う。

 ジャンヌは、またもや喘ぎ声をあげた。




《ご感想・高い評価をいただけますと、次の執筆の力になります。どうか応援よろしくお願いいたします。》

 また、拙作『異世界で淫魔師ハレム』がカドコミ・ニコニコ漫画でコミカライズ中です。エロチックで迫力のあるイラストで製作して頂いています。合わせて応援お願いします。
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