侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
「──これも運命だ。だったら選ぶさ。あくまでも、自分の意思でね」
あっさりとしたものだった。だが、なんの屈託もなさそうに、ジャンヌはこれまでの人生を手放してみせた。
ルシアンは、そのあまりの潔さに、かえって言葉を失った。
ソニアを見ると、彼女も唖然としている。
しかし、ジャンヌの顔に、感情の昂ぶりは感じない。
ただ、役目を終えた衣を脱ぐように、過去を静かに置いていった。
惜しむでもなく、振り返るでもなく。
自らの意志で、確かに終わらせた。
そんな感じだ。
選ばされることを、最大の屈辱と感じる者がいる。
ジャンヌという女は、きっとそういう種類の人間なのだろう。
そして、それを貫けるだけの芯があったからこそ──あのヴェルナーの拷問にも墜ちなかったのだと、ようやく腑に落ちた。
自らドミエンヌ行きを選んだ。
その一点だけで、すでに意味が変わっていた。
おそらく、ジャンヌはドミエンヌがどういう場所かを、まだ完全には知らない。
そこに何があり、自分がどう扱われ、どう変えられていくのかも。
だが、それでも──自分で選んだのだから、という理由だけで、きっと逃げないだろう。
ルシアンはようやく、ジャンヌという女の輪郭を掴みかけていた。
ジャンヌは、ほんのわずかに目を伏せた。そのまま一息、ためるように呼吸を置いてから、再びルシアンを見た。
「……ところで、あなたに頼みがあるんだが、ルシアン殿」
声音は静かだったが、軽口ではなかった。
「なんだ?」
ルシアンは、短く応じた。
「私を、犯して欲しい。いまここで」
空気が、ひとつ、形を変えたようだった。声は平静で、どこにも歪みがなかった。懇願でも、挑発でも、ましてや羞恥でもない──ただ、自分の望みを述べた者の声音だった。
「……さすがね、ジャンヌ。随分と大胆なお願いだけど、あんた、処女って言ってなかった?」
ソニアが、片眉を上げるようにして言った。
「言ったとも。それが何か?」
「あっ、もしかして、いまはもう違う?」
「いや、いまでも処女だ。連中は私の貞操には手を出さなかった。不思議には思ったが、さっきの話で納得ができるものはある。多分、私が生娘であることが、競りのために必要だったのだろうな。おかげで、貞操だけは失わなかったよ」
「それなのに、いま、ここでルシアンに犯されたいの?」
「そうだ。言っておくけど、自棄になっているわけじゃない。これはお願いなんだ」
ルシアンは、すぐには言葉を返さなかった。ジャンヌの瞳に宿る意思を見ていた。気高さではなく、決意。望むものを、きちんと望む強さが、そこにあった。
しかし、首は横に振る。
「……心配しなくていい。貴方の望みは、いずれ叶える。必ず、犯す。というよりは、僕の望みであるしね……。だが、いまは、まず身体を整えろ。養生に専念するんだ。焦るな。……急ぐことでもないだろう」
「……まあ、そう言われると思っていた。あなたは、そういう男だからな」
ジャンヌが言った。天井に視線を向けるようにして、肩を竦める。
「僕のことを知っているような口ぶりだな」
ルシアンは笑った。だが、ジャンヌは静かな笑みを口元に浮かべたままだ。
「……知っているさ。面識はないけど、調査を通じて、あなたのことは少しずつ知っていった」
ジャンヌはそう言って、視線をルシアンから少し外した。まっすぐな語調に、芝居がかった色はなかった。
「へえ……。それで? なにがわかったの?」
ソニアが軽く目を細めて割り込んだ。どこか愉快そうな声音だった。
「名を明かさず、多くの者を敵に回し、裏切られて傷ついても、信念をもって平民に魔道具を提供し、娼婦たちに高級薬を配っていた。誰にも誇らず、静かに与えていた。それが、あなたという人間だ、ルシアン殿」
「……なるほど、あんたは、そういう男にほだされるということね」
ソニアがちょっと茶化した感じで言った。
「ああ、そうかもしれないな……。ルシアン殿の行動には品があった。力を持った者が、どう振る舞うか。その行動で人の格は決まると私は思ってる……。私はルシアン殿を尊敬できる人間だと感じた」
ルシアンは肩を竦めた。
「過大評価は嬉しいけど、僕は、貴方の妹を誘拐して性奴に堕とし、いまは姉の貴方を同じ境遇に堕とした。冷徹で好色なだけの卑劣漢だよ」
「私は、私の意思でルシアン殿とドミエンヌの館を受け入れた。勘違いしないでくれ」
「そうだったな」
「……でも、ちょっと傷つくかなあ。これでも勇気を振り絞ったんだけどね……。それとも、私は復讐の対象ではあるけど、抱くに値しないかい?」
ジャンヌは静かに笑った。だが、瞳の奥には冗談では済まないものが宿っていた。
「そんなことはないな。セリーヌは純真で可愛いが、あなたには凛とした強い美しさがある。非常に魅力的だ。もちろん、外見もね」
「だったら、男というものは、もっと好色に反応するものじゃないのかい?」
ジャンヌが目を細めるように言った。
「好色であることと、朝まで拷問を受けていた女をすぐに抱くことは違うよ。ましてや、まだ生娘だというなら、体力の回復を優先すべきだな」
「やっぱり、身持ちが堅いな」
ジャンヌがそう言って、軽く鼻を鳴らした。
「身持ちが固い男がドミエンヌの館などというものを作らないだろう」
「いや、もっと女を物のように扱う男かと思っていた。英雄は色を好むとも言うしね」
「この人は、あんたが思うよりも、ずっと女に優しいわよ。愛し方が特殊なだけで」
ソニアが揶揄うように口を挟む。
ルシアンは苦笑した、
「……そういえば、私はあなたの何番目くらいの愛人になるんだい? それとも、性奴は愛人枠以下かい?」
その質問に、ルシアンが返答しかけたとき、ソニアが指を立てた。
「……数えるのは簡単よ。あたしが一番。次がセリーヌ。で、あんたが三番……。それだけだし」
「なんだ。十分に身持ちが堅いじゃないかい」
ジャンヌは呆れたように、けれどどこか安堵を滲ませたように笑った。
「まあ、誰でもいいという男ではないことは認めるよ。とにかく、しばらくは休養しろ。調教は様子を見てからだ」
「……でも、いまの私は、そう悠長なことも言っていられないんだ……。もっと、切実な事情があってね」
声は静かだった。冗談めいた調子も、皮肉もなかった。ただ、必要なことを伝えるような、冷静さと少しの疲労。
「事情?」
ソニアが応じる。
「私がどんな拷問を受けたのか……知ってるかい?」
ジャンヌの目に宿っていたのは、羞恥でも悲しみでもなかった。ルシアンには、それがかえって痛ましかった。
「多少は。だから、救出を急いだ」
ルシアンはそれだけを言った。
ジャンヌが受けた苛酷な拷問をここで繰り返すつもりはない。
だが、あれは女という存在の尊厳を根底から破壊するものだろう。
快楽と苦痛の神経を操作しての心の破壊──。
もしかしたら、あと半日遅ければ、ジャンヌは毀れ、元にも戻れなかったかもしれない。
よく耐えたと思う。
「……拷問は、肉体を痛めつけるだけじゃない。いや、私は、肉体は痛めつけられなかった。競りを予定していたからだろうね……。でも、身体を変えられてしまった……」
ルシアンは思わず口を開きかけたが、その前にジャンヌが手のひらを上げて制した。その仕草すら、どこか毅然としていた。
──まるで、自分の感情にすら他人の介入を許さぬような、強さ。
「泣き言を言いたいわけじゃない。これは、ただの報告だよ。……身体が疼くんだ」
その言葉に、ルシアンの眉がわずかに動いた。
「おそらく、もとに戻ることはない。一過性のものじゃない。私にはわかる。痛みすらも快感に変わるような因子が、あの男によって埋め込まれてしまったんだろうね」
ルシアンは、ジャンヌの表情をじっと見た。わずかにこわばった口元、微かに震える指先、そして──ひどく乾いた声。
すべてが、事実の伝達に徹していた。感情を混ぜることを自らに禁じているような、その話しぶりは、逆に彼女の切実さを物語っていた。
「……じゃあ、あんたは、いま……」
ソニアが、静かに口を開く。
「欲望に抗うのが難しくなっている。理性では平気でも、身体が勝手に欲してしまう。そういう状態らしい。──いやになるね。気高く生きてきたつもりだったのに、いまでは疼く身体に言い訳を探す始末だ」
ジャンヌは笑った。その笑みは、どこか乾いていて、苦味があった。けれど、崩れてはいなかった。
ルシアンはその笑みを見ていた。
──傷ついた者の笑い方だ、と感じた。誰にも寄りかかれない者が、唯一残った自分自身の誇りに縋って立ち続けている、そんな顔だった。
「……だから、あなたに望んだ。誰でもいいわけじゃない。初めてを捧げるなら、自分で選んだ相手がいい。それが、私なりの矜持なんだ」
それは、自分で自分を守る最後の一線。
自分の手で選び、自分の足で歩いていくための、最小限の自由──ジャンヌという女の矜持そのものだった。
「頼む……。お願いだよ、もっと大胆に言えば、身体が疼いて狂いそうなんだ」
「確かに大胆ね……。でも、あんたらしいかも……」
ソニアがくすりと笑ったのが聞こえた。
そして、しばらくの沈黙が降りる。
薪が崩れる音が、静けさに微かに割り込む。
ソニアが、ひとつ息を吐いた。
「……あたし、外に出てようか?」
その声音には、軽さと配慮が混じっていた。
「僕は、まだ返事をしていないけど」
ルシアンは苦笑した。
「いや、恥ずかしいけど……どちらでもいい」
ジャンヌの返事は、妙に淡々としていた。
それが余計に、冗談なのか本気なのか、測りかねた。
「そうなの?」
「うん、一番目と三番目なら、一緒に抱かれることもあるかもしれないし……。なんてね」
肩をすくめて、唇の端を上げる。
けれど、その微笑には、どこか力がこもっていた。
「……ふふ、やっぱり、あたしは外に出てるわ」
ソニアが静かに言った。
それ以上の冗談には乗らず、だが拒絶するようでもなかった。
「なにかあったら、声をかけてね、ルシアン」
振り返りもせず、軽く手を上げる。
そして、扉を開けて出ていった。
──ふたりきりになる。
ルシアンは無言で立ちあがり、自分の服を脱いでいく。
腰の下着だけを残し、そのまま寝台へと上がった。
毛布をそっと払いのけ、ジャンヌの姿を見下ろす。
治療用の寝衣──粗い亜麻布の合わせ布。脇を紐で結び、胸元には余裕があり、動かぬ身体に触れぬよう、ゆったりとした作りになっている。
褪せた藍の布地は、寝台の白布との対比で、その素肌の白さを際立たせていた。
「──脱がすぞ」
声をかけると、ジャンヌの肩がわずかに揺れた。
その反応は、ジャンヌが持つ覚悟の強さとは裏腹に、どこか初々しいものだった。
ルシアンは膝をつき、脇の紐に指をかける。
ふと、ジャンヌの顔を見る。目を逸らし、睫毛が微かに震えている。
その横顔には、誇りと羞恥とが同居していた。
指先が結び目に触れたそのとき、ジャンヌが唐突に口を開いた。
「……ちょっと、待ってくれないか。やっぱり──ソニアを呼んでもいいか?」
「……どうして?」
ルシアンは少しだけ動きを止めた。
ジャンヌは、薄く唇を噛んだまま、答える。
「……勢いでお願いしたけど、よく考えたら……その、身体も洗ってないし……髪も……。準備くらいは、と思って」
その言葉には、羞恥もあるが、それ以上に“女”としての最低限の誇りがあった。
気高く生きてきた女が、自ら選んで初めてを捧げようとしているのだ。
だからこそ──整えたかったのだろう。
「必要ない。治療のついでに、洗浄薬で隅々まで拭いてある。専用の魔道薬のものだから、下手に洗うよりも清潔だ。僕とソニアで拭いた」
「……全部、見たのか?」
「見た。綺麗な身体だった」
ジャンヌは、少しだけ目を見開き、それからため息のように息を吐いた。
「……そうか。ああ、だけど、こんな気持ちになるんだな。私は、化粧のひとつもしないし……ソニアにでも教わればよかった。あの人、綺麗だから。まあ、若いんだろうけど」
「ソニアは三十二だぞ」
ジャンヌが眼を丸くした。
「もっと若いと思ってた……。同じ歳くらいかと……。やっぱり、綺麗に見せる術ってあるんだな。聞いておくべきだった」
ルシアンは笑った。
その手は、最後の紐にかかっていた。
「それも、あとで教えてもらえばいいさ」
寝衣を脱がして取り去る。
その下にはなにもなく、裸身だ。
現れたジャンヌの身体は、驚くほど女性らしかった。だが同時に、研ぎ澄まされていた。
柔らかな起伏を保ちながらも、無駄のない筋肉が腹部や太腿に浮かんでいる。装飾ではない実戦の証が、随所に刻まれていた。剣傷の痕、火傷の跡──いずれも癒えてはいたが、薄く肌に残っている。けれど、それは決してジャンヌの美を損なってはいなかった。
むしろ、見る者を圧倒するような、凛とした気高さすら纏わせていた。
──この身体で、どれほどの戦を越えてきたのだろう。
ルシアンはそう思った。そしてその身体が、拷問の中でも屈せず、いま、己の意思で晒されていることを、深く理解していた。
なにもかもを与えようとしている女の、その覚悟が、ルシアンの胸を強く打った。
そして、ルシアンの視線が、自然と下腹部へと吸い寄せられた。
陰影に隠れたその場所は、薄い陰毛にやさしく包まれていた。けれど、その奥に覗いた柔らかな裂け目は、すでに赤みを帯び、光を含んでぐっしょりと濡れていた。
まだ、なにもしていない。
触れても、囁いてもいない。なのに──。
ルシアンは、無言のまま、ほんのわずかに眉を寄せた。
ジャンヌが、かすかに身を捩るようにして、ルシアンの表情を読み取った。
「……おかしいだろう」
その声には、羞恥でも悔しさでもなく、乾いた自嘲があった。
「それが、いまの私だ。なにをされたか、どれほどの影響が残ったか──自分がいちばん、わかってるつもりさ」
ルシアンは、黙ってジャンヌを見つめた。
その秘所が、ルシアンの目に焼きついて離れなかった。赤く、潤んだ花弁。自ら開いて、欲しているかのような、切実な熱。
「敏感な女は、好きだよ。いじめがいがある」
「だったら──この身体にも、少しは価値があるかな」
ジャンヌが、視線を逸らさずに微笑んだ。
「十二分に、ね」
ルシアンは言った。そして、手を伸ばした。ジャンヌの頬に指先を添え、そのまま唇を重ねた。
「んくっ」
唇を重ねた瞬間、ジャンヌの身体が跳ねた。
わずかに触れただけだった。だが、その反応は常軌を逸していた。
背筋が波打ち、喉から息とも声ともつかない音が漏れる。まるで舌先が神経に直接触れたような──いや、実際にそうなっているのだろう。
「……っ、あ……っ……」
ルシアンは唇を離さなかった。
少しだけ角度を変え、今度は上下の唇をゆっくりと食むように動かす。それだけで、ジャンヌの肩がぶるりと震えた。
「ん、んぅっ……っ……」
吐息が熱い。額に浮かぶ汗、首筋に走る震え。
ジャンヌは、口づけにすら抗えない。いや、抗おうとしても、それを越えて反応が噴き上がってしまう。
舌を割り入れる。浅く、深く、口内を舐め上げるように撫で回す。
「っ……ふ、ぁ……ん、あっ……ん……」
腰が引けた。指先が布を掴み、力が入らないように握りしめている。目は見開かれ、焦点を結ばない。
その反応すべてが──異常だった。
快感閾値が異様に低い。わずかな愛撫でも、快感が臨界を超えて全身に波及していく。
「……だめ、や……あっ……」
拒絶ではない。制御の喪失。抑制の崩壊。
ただの接吻。それだけで、絶頂に似た震えを見せる。
ルシアンは、唇を離した。
唾液の糸が弾けて消える。
ジャンヌの唇が、まだ名残を追うように小さく開いたままだった。荒い息をしながら、涎が流れたまま。
眼差しは、どこか虚ろだった。呼吸の音だけが、喉奥からかすかに漏れている。
ルシアンは、やっとジャンヌ自身が口にした言葉の意味を理解した。
──拷問で壊された……。
そう、これは意図的な破壊だった。
痛覚と快感の閾値を塗り潰し、区別を曖昧にした神経系の再編。
過敏に作り変えられた身体が、いま、わずかな刺激にすら過剰に応じている。
ジャンヌは、俯いたまま、唇を震わせた。
「……そういうふうに、されてしまったんだよ。わたしの身体は……もう、まともじゃないだろう?」
声は低く、かすれていた。
けれど、そこに弱さはなかった。
壊されたと知ってなお、自尊心を棄てていない声音だった。
「唇、ひとつ。舌先ひとつで……こんなふうになるなんてね……」
かすかに笑ったように聞こえたが、それはきっと錯覚だった。
「たったそれだけで……熱が、奥まで上がってきて、……ああ、恥ずかしいなあ……」
言いながら、ジャンヌはゆっくりと視線を上げた。
頬には朱が差し、瞳の奥は微かに揺れていた。
屈したのではない。受け入れてはいない。
けれど、変わってしまった自分の身体を──否定できずにいた。
「……いまのわたしが、どんなふうに見えてる?」
ルシアンを、真っ直ぐに見た。
試すように。
あるいは、認めさせようとするように。
「……見えているままを言えば、良く仕上がっている。僕の性奴に相応しいかな。これから愉しみだ」
静かに告げた言葉に、情はなかった。
ただ事実として。評価として。
ジャンヌの唇が、わずかに動いた。返す言葉を探しているように見えたが、なにも言わなかった。
言葉を失ったわけではない。身体が反応していた。
足の内側が、また震えている。
壊された神経が、ルシアンの言葉にさえ反応しているのだ──。
ルシアンは、動きを変えた。
唇を離し、言葉も切ったまま、無言でジャンヌの下腹へ手を伸ばす。視線の先には、すでに露わとなった肉の起伏があった。
中指と親指で、肉芽を挟む。
ためらいなく、力を込めた。
「ひぎいいっ……」
ジャンヌの声が跳ねた。喉が裂けるような悲鳴。寝台に両手をつき、背中を弓のように反らせる。脚が震え、膝が沈む。
その瞬間、股間から──。
びちゃっ、と音を立てて、まとまった液体が噴き出した。愛液だった。
痛みに、身体が応じている。
快感と苦痛の区別が、もうない。
ルシアンは、確信した。
──完全に、壊れている。
痛覚にすら、悦びの回路がつながっている。
あの首筋の魔核は取り除いた。だが、外から制御されることがなくなったということだけで、壊された感覚は元には戻らない……。そういうことらしい。
左手で、ジャンヌの胸に触れた。もはや遮るもののない柔らかな乳房を、下から持ち上げるように撫で、指先で先端を強く弾く。震えが胸郭全体に伝わる。
「くっ」
ジャンヌの裸身が大きく揺れる。
右手は、まだクリトリスを離していなかった。さらに強く、鋭く、挟む。
「っ、あああああっ……あ、あぁぁっ……っ……」
ジャンヌの背筋が、ひときわ強く跳ねた。
悲鳴──。
絶頂──。
痛みのなかで果てるという、異常──。
その全身の震えを、ルシアンは静かに見下ろしていた。
ルシアンの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
それは冷笑でも、軽蔑でもなかった。
理想的な反応を得た職人のような、静かな満足だ。
面白い……。
実に愉しい身体……。
一方で、ジャンヌは、肩で息をしながら身体を脱力させる。仰向けの全身を寝台に預けて、呼吸の合間にかすかに笑った。
「……まったく、困ったものだよ……。色気のない拷問に付き合わされた挙句に、こんな仕上がりにされた……」
ジャンヌの自嘲は皮肉めいていた。だが、口調は静かで整っていた。
感情を隠しているのではない。そういう言い方しか、ジャンヌは知らないのだ。
誇りを守る術としての、洗練された軽口。
ルシアンもまた、それを理解していた。
「いや、誇りを捨てないまま、壊れていく姿は──美しいぞ。愉しいし」
短く言った。
ジャンヌの睫毛が、わずかに揺れる。
「まあ、その程度の言葉で悦ぶことにするよ」
睨むでもなく、逸らすでもなく。
ただ、笑顔でジャンヌは応じた。
ルシアンは、腰に手をかけ、自分の下着を脱ぎ去る。
熱のこもった空気の中で、怒張がその存在を誇示するように勃ちあがってる。
ジャンヌが、その形を見た。
目が揺れた。
唇が、わずかに開いた。
緊張──けれど、逃げる色はなかった。
誇りと羞恥の狭間で、それでも受け入れる覚悟が、そこにあった。
ルシアンは、ジャンヌの両腿を抱えるようにして持ち上げた。
そのまま、身体を押し込む。
遠慮も、躊躇もない。
あえて、少し乱暴に……。
一気に、貫く。
「あ──っ……ぐ、ぅ……っ……」
ジャンヌの身体が跳ねる。
喉の奥から押し出される悲鳴が、空気を震わせた。
破瓜の痛みが、ジャンヌを襲ったようだ。
だが、それは──遅れて、甘さに変わる。
「ん……あ、あっ……」
震えが、腰の奥から這い上がる。
膣内の奥で、収縮が始まる。
ジャンヌの中で痛みと快感が交差し、境界が崩れていくのがわかる。
律動を始める。
破瓜の血の香りが、ゆっくりと滲み出す。
また、それがルシアンの怒張を濡らしていく。
「あっ、あああっ、かはっ、あああ──」
ジャンヌは律動のたびに、激しく反応している。
深く、激しく。律動するごとに、跳ね返る熱がある。
そして、ジャンヌは、ずっとシーツを掴んでいた。
指を立て、必死に布に縋っていた。
「──寝台より、僕を掴め」
ルシアンが低く告げた。
ジャンヌの裸身が、ぴくりと震える。
次の瞬間、両腕が伸び、強く──全力でルシアンの背に回された。
「ふわあああっ」
背中にしがみついたまま、ジャンヌの身体が反り返る。
ひときわ高く、全身を弓なりにして、達する。
ルシアンの腰が、ゆっくりと、しかし深く打ちつけられる。
熱の芯が、何度も同じところを穿つたびに、ジャンヌの身体は反応を強めていく。
乳房が揺れ、息が乱れ、汗が頬を伝う。
それでも、ジャンヌの両腕は、ルシアンの背から離れなかった。
自ら、望んで、抱いている。
「……ん、ふ……あ……っ、あ……っ……」
甘く、熱のこもった吐息が漏れる。
悲鳴ではない。
快感が、声に形を与えていた。
──自分のものになった。
ルシアンはそう思った。
痛みも、羞恥も、誇りさえも。
すべてを抱えたまま、ジャンヌは悦びに堕ちていく。
やがて、ひときわ深く打ち込んだ瞬間、ジャンヌの身体がまたもや、強く反った。
「……っ、あ……あああ……」
震えが、波のように全身を這い上がる。
爪が背に食い込み、脚が小さく跳ねる。
「んはああああっ」
ジャンヌがまた果てる。
またもや、大きな絶頂が、静かに、深く──ジャンヌを包んだのがわかった。
ルシアンは、抽送を続けながら、ただ黙って、その震えを受け止めていた。