侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
「お嬢様。もっとお尻をお上げください。それと、脚をもう少しだけ──。はい、肩幅より一手ぶん広げてくださいませんと……また、クリトリスに電流が流れてしまいますよ」
冷たく、丁寧に。けれど一分の緩みもない口調で、クロエの声が前から響いた。
ドミアンヌの館である。
この館にやってきて二度目の週末となり、今日も朝からクロエの調教を受けている。もっとも、週末とは言っても、姉のジャンヌが行方不明になったことがわかってから、ルシアンの指示があり、ずっと学園には通ってない。
また、今日もルシアンはいない。
セリーヌの姉のジャンヌの救援のことで出ていき、この数日戻ってないのだ。
どうなっているのか気は急くが、セリーヌにできることはなく、ただ待つだけである。
それはともかく、今日はクロエにより、ずっとこうやって館中を四つん這いで股間を晒しながら這い回ることを強要されていた。午前中もずっとであり、昼食を挟んで。午後もだ。
腰の括れから上の上半身には毛皮を模した胴帯が密着しているが、下半身は淫具以外には一糸まとわぬ裸である。
そして、クロエが、四つん這いのセリーヌに繋がっている鎖を引いているのだが、それには意地悪な仕掛けがあった。
その鎖が、四つん這いのセリーヌの白銀のチョーカー ──を通して、さらに胴体に沿って、セリーヌのクリトリスのレコルに繋がっているのである。
つまりは、実際には“首輪”ではなく。その鎖が繋がれているのは、レコルを装着されている“クリトリス”ということだ。
しかも、クロエの歩みに遅れれば、鎖に張力がかかり、自動的にクリトリスに電流が流れる仕掛けだ。
また、張力がかからなくても、クロエが握っている鎖をぎゅっと握れば、やはり電流が流れる。
そうやって、今日の午後、セリーヌは、逆らえば流れる股間の電流に怯えながら、ずっと館中を四つん這いで歩かされていた。
それだけではなく、廊下の石床に這いつくばって進む今日の調教にあたり、セリーヌには、実に様々な淫具や器具が装着されていた。
まずは、両手両脚を白い毛皮に覆われた猫脚型のグローブ型の魔道具で末端を包まれている。
精緻な白い毛並みの猫を思われるに仕立てられたそれは、構造上、二足で立つことを許さない。二本脚で立とうとすると、バランスが崩れるように床に面している部位が変形し、転んでしまう仕掛けなのだ。
四肢すべてを使って、前へ前へと歩く。──そうしなければ、転ぶ。崩れる。そして、恥を晒す。
もちろん、転べば、鎖が引っ張られるので、股間に襲う電流に泣き叫ぶことになる。
また、左右の膝にはやはり、魔道具の帯だ。左右の膝を一定距離開いてないと股間に電流。膝を床につけても電流。だから、セリーヌは四つん這いで、膝を床につけることができないし、脚も開いたままでいなければならない。
「うう……あ、はあ、クロエ……もう、少しだけ……。ゆ、ゆっくり……。ね、お願い……よ」
甘えるような声が、喉の奥から漏れた。
こうやって、館中を歩き続けてどのくらい経つのだろう。汗と涙で視界は揺れ、流れる脂汗、と股間から滴る愛液がぼたぼたと水滴を床に落とし続ける。
でも、クロエは許してくれない。繰り返すセリーヌの哀願に返るのは、変わらぬ調教師としての言葉だ。
「お嬢様、腰が沈んでおりますよ。……鎖が、引かれてしまいます。ほら……」
腰が沈みかけた瞬間──ぴん、と鎖が張った。
「ひんっ」
電流がびりりとクリトリスに走る。
腰が沈めば鎖が引かれ、レコルが震えながら電流をびりりと流す。
セリーヌは慌てて、腰をあげるとともに、四つん這いの手脚を踏ん張り少し前に進む。
そのとき、セリーヌの「尻尾」がぶるんと揺れた。
尻尾──そう呼ばれているが、実際には魔道具《アルフェ・デュ・セレノア》だった。
根元側は男根形の淫具になっていて、アナルの奥深くまで差し込まれているが、ただ差し入れられているだけではない。
外側の揺れがそのまま内側へと、螺旋状の神経刺を通じて伝導される構造なのだ。
そしてさらに──前にも、魔道鍵で封じられた《オルフェ》が挿入されていて、《アルフェ》の刺激は、その《オルフェ》にも連動しており、肛門と膣の両方が、ひとつの揺れで同時に疼き、震えるというわけだ。
しかも、その尻尾の外側──白猫の尾を模した毛皮の装飾部分は、ぴんと立ったまま、わずかな動きでもぶるん、ぶるんと大きく揺れるよう、外端が重たく設計されていた。
それが、さっき電流の刺激に耐えかねて腰を跳ね上げた拍子に、大きく振れたのだ。
勢いよく上下に、左右に、肉の奥へとぶるんぶるんと震えが入り込み、刺激の尾を引き続ける。
「ああっ、うあっ……ふぁ……あ、だ、め……っ」
アナルの奥と、膣の奥、その両方に止まない波が押し寄せていた。
セリーヌは四つん這いのまま身を震わせ、震えを逃がそうと足を突っ張る。
けれど、それもまた尻尾を揺らす動きになり、刺激は止むどころか増幅されていく──。
「お嬢様、そのまま止まってください。前から人が参りました」
クロエの声が静かに響いた。
その響きには、いつものように冷徹な調教師の節度があった。
セリーヌは反射的に、踏み出しかけていた右前脚──猫の手を模した魔道具の前脚を止める。
その体勢のまま、脚は大きく開かれ、尻を高く突き出す格好のままで固まってしまった。少しでも動けば鎖が張り、また電流が走る。だから、動けない。いや、動いてはならなかった。
やがて、石廊下の奥から、ゆっくりとした足音が響いた。
廊下の奥、曲がり角を曲がって現れたのは、ひと組のドミナとオプセリカだった。
若い男──恐らくスーツ姿からして、ドミナであることは明白だった。その手には一本の赤い紐が握られている。
その先に繋がれているのは、女性。三十代から四十代と思われる白い肌の、きめ細かな身体。肩から胸、そして腰をかすめるように、淡い金糸の縁取りがなされたスカーフを巻いているだけで、布地はひどく薄く、風が吹けばめくれそうなほどだった。
脚は素足のまま、手首には手錠。その手錠からの紐が、青年の手へと続いている。
耳には、認識阻害具の魔道具《ヴィサリエ》──他者が装着者を正確に識別できなくなる宝具がある。顔も声も、認識は阻害されている。
けれど、セリーヌの目は確かに、見えるものを見た。髪の艶、姿勢の品、肌に浮かぶ血管の細さ。──この人も、本来は上級貴族夫人だろう。
首輪の色は、「赤色」で上級オプセリカのオディエンヌだ。特定の調教師ペドがいる「スエラ」の証である宝石がチョーカーの前面についていた。
「ごきげんよう」
クロエが、穏やかな微笑を浮かべた声で挨拶した。
応じたのは──意外にも、青年ではなく、その傍らのオプセリカだった。
首輪と手錠を嵌められ、紐を繋がれたままのその女は、どこか上機嫌に笑みを浮かべながら、艶やかな声で返してきた。
「ごきげんよう。……まあ、可愛いワンちゃんね。それとも、子猫ちゃんかしら? お噂の妖精ちゃんね」
──妖精ちゃん?
セリーヌの胸がぴくりと跳ねた。
どうやら、自分のことを指しているみたいだ。
「妖精とは、この子のことですか?」
クロエが静かに訊ねた。問いながらも、声の端には意図的なものが含まれている。
「そうよ。滅多に儀式にも出てこないから、なかなか見られないの。……でも、こうして改めて見ると、やっぱり可愛いわねえ。素性を隠すイヤリングの器具のせいで、よく見えないのが、ちょっと残念だけど」
「──ああ、なら。構いませんわ。どうぞ、ご覧になってくださいませ。今日は、そういう調教の日ですので」
クロエが、あっさりと応じた。
そのまま指を伸ばすと、セリーヌの耳元に取りつけられていた認識阻害具《ヴィサリエ》を、左右ともに外してしまう。
「あっ」
セリーヌは思わず、小さな声を出してしまった。
もっとも、クロエには、今日からは名前を晒しましょうとは宣言されていた。ルシアンとの契約で、名前も顔も晒して、この館や、セレノア・シリーズといわれる魔道淫具の広告塔となる約束をしたのだ。
まずは、この館の中から素性を晒していこうと相談していたのである。
「……っ、えっ」
だが、ふたりはびっくりしたようだ。
なにしろ、この館で疑似的な支配と調教の世界を愉しむドミナとオプセリカは、必ず素性を隠す《認識阻害具》を装着している。それが約束事だからだ。
それにも関わらず、急にセリーヌの姿がはっきりと認識でてきてしまいびっくりしたようだ。
一方で、このふたりは、いまもちゃんと耳に《ヴィサリエ》をしているので、セリーヌの目には顔も声も認識できない。そして、クロエもまだ装着している。セリーヌはクロエだとわかっているので、認識阻害の効果は消滅しているが、このふたりには、クロエの正体もわからないと思う。
いま、この四人の中で顔と名を認識されてしまっているのは、セリーヌのみだ。
「えっ、ヴァランティーヌ侯爵令嬢……。あっ、すまない……っ」
その言葉が漏れた瞬間、空気が一瞬、ぴんと張りつめた。
青年の顔が見る見るうちに蒼ざめ、次の瞬間、口元を慌てて押さえる。
四つん這いのまま、その声を耳にしたセリーヌの身体が、びくんと跳ねた──。
冷たいものが首筋を這い、次にぐらぐらと熱が腹の奥からせり上がってくる。
──晒された。名も、顔も、過去も。
──それは、自分が選んだことだ。
でも……やっぱり……恥ずかしい……。
「……あ……やだ……。そんな……。でも、あんまり……見ないで……下さい……。お願い……」
呟いた声は、小さくて、自分でも情けないと思うほどだった。
ふたりは、いまでもしげしげとお尻を高くあげて四つん這いでいるセリーヌを見ている。もともと恥ずかしかったが、名前を知られて、恥辱的な格好を晒すのは、次元の違う羞恥だった。
けれど、同時に胸の奥で、じんと火がともるような──酔うような熱さも高まってくる。
「ふふふ、外では侯爵令嬢ですが、いまは──ただのセリーヌです。そのご認識で」
クロエが、淡く笑った。
「さあ、挨拶なさい、セリーヌ。顔を上げて。命令です」
クロエが叱るような口調で言う。
セリーヌは、言われるままに、首をそろりと持ち上げた。
突き出したままの尻はそのまま、猫脚の四つん這い。脚はがに股に開かれ、尻尾は高くあげたお尻から伸びぴんと立って、わずかに震えていた。
「……ご、きげんよう……」
震えるように告げたその声は、セリーヌの喉の奥から、すくい上げるように滲み出た。
けれど、廊下に響いたのは──その一言だけだった。
次の瞬間、クロエの手が、鎖をぴんと引き、張力をかけた。
「ひいいっ……」
クリトリスに流れた反射的に腰が跳ねあがる。すると、またも尻尾が大きく揺れ、アナルと膣奥に痛みをなぞるような甘い震えを届けてくる。
その刺激が消えぬうちに、クロエの声が重なった。
「セリーヌ、挨拶の基本を、お忘れですか?」
声はいつもと変わらず、柔らかで礼儀正しい。
けれど、そこに込められた冷ややかな圧と、苛烈な躾の意志は隠されてなどいなかった。
「名乗りなさい──名前も、姓も、すべてです。……いまの貴女は、それを掲げて奉仕する者なのですから」
セリーヌの肩が、わずかに震えた。
顔を上げたまま、もう一度、視線を前に向ける。
そこには、自分をじっと見つめるオプセリカとドミナの視線。
認識阻害具で顔を隠したままのふたりは、黙って彼女の言葉を待っていた。
──これが、わたしの役目……これが、契約。
そう、ルシアンに、わたしは、そう誓ったのだ──。
喉が乾いていた。けれど、声は震えながらも、確かに言葉を紡いだ。
「……セリーヌ=ド・ヴァランティーヌです……。ご、ごきげんよう……」
その名が、廊下に流れた。
誇りでも、嘲りでもなく。
ただ──奉仕と、服従の証として……。
「でも、いいの?」
夫人が、ふと心配そうに問いかけた。
その声は、意外にも優しげだった。
だが、セリーヌが返答するよりも早く、クロエの声が被さった。
「セリーヌ、答えなさい」
「……ルシアン様に、そうするよう命じられております」
かろうじて声にしたその言葉は、決して拒絶の響きではなかった。
セリーヌ自身、まだ完全には理解していない。
広告塔として名を晒すと宣言したのは確かだ。
けれど、ルシアンの指示は、もっと別の意味を含んでいた。
──『命令されたから、名前を隠さない……。命令されたから、淫具を付けていることを告白する。』
──そのほうが、羞恥として深く刻まれる。
そう言われた。
だから、従う。ただ、それだけだった。
「ルシアン様?」
青年が首を傾げる
「この館の所有者です」
クロエが代わりに応じた。
その言葉に、ふたりの反応は薄い。
どうやら、ルシアンという名は、まだ彼らの間では周知されていないらしい。
「へえ、それが、あの……あの方の名前なのね」
夫人がつぶやく。
館の主は、その存在すら曖昧で、姿を見た者も少ない。
ルシアン=モートレット子爵という名も、商会としての活動も、ましてやレヴァニア財閥の名も、この館とは結びつけられていないのだ。
ふたりは、それでも納得したように頷いた。
「そうなのね。だったら……御法度でないなら、教えてもらってもいい? その白銀のチョーカーって、特別なものよね。あなたと、館の主とは、どういう関係なの?」
女の質問は、興味半分、羨望半分といった色を含んでいた。
「……愛人と、名乗ることを許されています」
「えっ……? 仮にも、侯爵令嬢のあなたが?」
夫人の声が、明らかに驚きに揺れた。
けれど、それも当然だった。
ルシアンがレヴァニア財閥の総帥であることなど、彼女の耳には届いていない。
ただ、名もなき男に貴族令嬢が身を預けたと映ったのだろう。
「ところで──、セリーヌ……嬢が身につけているのは、妙な仕掛けだけど、この一連の魔道具はどういうもの?」
今度は青年が、純粋な興味を浮かべて尋ねた。
「よろしければ、これから“ご褒美”を差し上げますので……ご覧になってくださいませ」
クロエは、微笑を浮かべたまま、セリーヌの尻尾を思い切り曲げてから離す。
次の瞬間──。
「ひゃあああっ……あ、あああっ……!」
尻尾が、ぶるんぶるん、と跳ね上がる。
根元に埋め込まれたアルフェが、内側から敏感な部分を撫であげるように震えた。
同時に、膣奥に装着されたオルフェが、共振するようにぴくぴくと震える。
「……はあ……っ……な、中……震えて……ああっ……」
思わず口を押さえたくなるような声が、漏れる。
「この尻尾は、振動、さらに表面の刺激が、アナルと膣──両方の魔道具に伝わる仕組みなのです。揺らすだけで、こうして悦楽を与えることができます」
クロエが静かに語る。
「しかも、尻尾は真っ直ぐに立つ構造なのですが、先端がやや重く作られていて、いったん揺れ始めると、なかなか止まらない。つまり……小さな刺激で、長く、深く、感じさせることができるのです」
恥ずかしい。
でも、身体は逆らえない。
四つん這いのまま、腰を振るでもなく、ただ揺れの余波に翻弄されるだけの姿──。
「セリーヌ、いま、どんな気持ち?」
クロエの問いが、背後から優しく飛んできた。
「……っ、う……ううんっ……な、なにも……なにも……思って……ません……っ」
「本当に?」
「は、はい……っ、ただ、ちょっと……気持ちいいだけ……で……あ、あっ……やっ……だめ……っ」
口を閉ざしたいのに、喉の奥から言葉が洩れる。
羞恥が、疼きに火を注ぎ、熱が、さらなる羞恥を呼ぶ。
甘い、果てなき循環の中で──セリーヌはただ、見られ、問われ、答えさせられていく。
「ほかのものも、少し説明が要りますわね」
クロエがゆるやかに微笑むと、セリーヌの傍らにしゃがみ込み、ひとつずつ、指先で器具に触れながら、説明を始めた。
「まずは、手足のこの毛皮のような魔道具ですが──猫脚型の四肢固定具。正式名称は《パニエ・ミニョン》といいます。可愛らしい外見ですが、構造的に二本脚での直立を不可能にしています」
「もしかして、無理に立とうとすると、倒れてしまうのか?」
「はい。バランスを崩すように設計されております。四肢での這行こそが、使用者の“正しい姿勢”とされる仕様です」
青年がうなずく横で、夫人は軽く頬を染めながら笑った。
「なるほど……だから、ずっと、この姿勢のままなのね」
クロエが今度はセリーヌの膝に触れた。
「そして、この部分。膝帯には《ヴェリヌ》という感応板が埋め込まれています。床との距離、そして両膝の開き角──いずれかが制限値を超えると、感応先に微細な魔力信号が送られます」
「感応先って、つまり……?」
クロエは、ゆっくりと立ち上がると、セリーヌの首元の鎖に指を添えた。
「こちらです。チョーカーの内部を通り、この鎖の終点は──レコルと呼ばれる、特別な感応具に繋がっております」
「レコル……?」
セリーヌは、小さく身を縮めた。クロエが少しだけ鎖を引くと、反射的に肩が震えた。
「セリーヌ、感想を」
「……は、はい……。その……お尻を少しでも落としたり、脚を閉じすぎたりすると……あの……びりって、来るんです……。クリ……じゃなくて、そ、そちらの感応具に」
声が尻すぼみになると、青年と夫人の視線が自然とセリーヌの股間に向いた。
「ふふ……続けて」
「……それが、すごく……恥ずかしいです……。歩いてる間中、ずっと気にしないといけなくて……」
クロエが今度は、セリーヌの胴体──毛皮のような衣装に指を走らせた。
その指の動きが胴帯全体に伝わる。
まるで、数十本の指に当時に全身を撫でられたみたいだ。
「ひんっ」
「こちらは《ミューゼット》。表面を撫でると、内部の感覚を増幅させる加工が施されております。ご覧の通り、触れた部分から微細な刺激が増幅され、肌に伝わります……。セリーヌ、感想を」
「……実は、さっきから……こすれるたびに、びくびくって……なってて……。た、たくさんの指に触られたみたいになって……」
セリーヌの声は、ますます細くなる。
「そりゃあ……なるほどね。でも、凄いねえ……。聞いたことのない責め具ばかり」
青年が感嘆する。
「す、すべて、フォルニア……セレノア・シリーズの試作品で……」
セリーヌはやっと収まってきた尻尾の振動に、息を整えながら説明した。
これらがすべて、まだ上級貴族層にも販売してないセレノア商会……ルシアンが作っている魔道淫具販売のダミー商会の試作品というのはクロエを通じて知ったことだ。
セリーヌは広告塔……。
一生懸命に宣伝をしなければ、と思った。
しかし、まだ収まらない淫具の揺れがセリーヌの舌がうまく動くことを阻む。
でも、多少は効果があったのかもしれない。
物珍しそうに、セリーヌが帯びる淫具を見ていた夫人がごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
「最後に、もう一度、尻尾の仕掛けをご披露したします」
そう言うと、クロエが尻尾を手で擦って刺激を送る。
「……っく、あ、ああ……っ」
尻尾に連動しているアルフェとオルフェが、お尻の中と膣の中にクロエが手で擦る感触をそのままにセリーヌに伝える。
セリーヌは、小さく喉を震わせ、身体をぴくりと仰け反らせた。
「先程のご説明の通り。尾の部分は《アルフェ・デュ・セレノア》と《オルフェ》が対になっており……ひとたび刺激を加えると、アナルと膣の両に同調した感応が……」
「いえ、今度は説明は、セリーヌ本人にさせましょうか」クロエが静かに言うと、セリーヌは目を伏せながらも、命令に従う。
「……は、はい……。う、後ろに挿れてある尻尾が……動くたびに、奥まで響いて……あ、あと……膣の奥にも……その……同じ振動が……いっしょに、届いて……しまって……」
言葉が途中でかすれる。顔はすでに真っ赤だった。
夫人が思わず微笑んだ。
「まあ……可愛らしいわ。ここまでされても、命令には従うのね……、セリーヌ嬢」
「では、最後に、もう一度、実演をお目にかけましょうか。今度は最後までですわ」
クロエがそう言った瞬間、セリーヌの全身に、びりりと予感が走った。
──来る。
呼吸が浅くなる。
耳の奥で、自分の鼓動が、くぐもった太鼓のように響いている。
「ご褒美よ、セリーヌ。……いつも通りに、ちゃんと、可愛く、受け止めなさい」
クロエの声は冷たい。でも、どこか慈しむような調子が混じっていた。セリーヌには、それがたまらなく嬉しくて、そして、恥ずかしかった。
次の瞬間──。
「っ──あああっ……っ、ん、んんんっ」
ぴしゃりと鞭のように揺れた尻尾が、ぶん、と振れた。小さな動きだったはずなのに、先端の重みが加速度を増して、大きく円を描くように揺れ回る。
そのたび、アナルの奥が熱を帯び、ぶるぶると震えた。
そこから連動して、膣奥に埋め込まれたオルフェが共鳴し、奥の奥から疼きが突きあがってくる。
「やっ、や、だめえっ……、ああああっ」
尻尾の刺激は止まらない。
床に突いた両腕が震え、膝ががくがくと力を失いかける。
けれど崩れてはならない。許されるまでは──。
「……セリーヌ。しっかり腰を上げて。脚も広げて。……そのまま、ご奉仕の姿で、達しなさい」
「ひああっ……も、もうっ……っ、だめ、あっ、お願いっ……い、いっても……いい、ですか……っ」
涙声だった。
快楽の嵐に翻弄されながら、懸命に口許を動かした。
クロエは、時折、尻尾を弾き、振動が止まらないようにしたり、更に擦る刺激を尻尾を通じて足したりする。
「──どうぞ、セリーヌ」
その一言を聞いた瞬間、堤防が決壊した。
「……っ、あああああっ」
背中が弓なりに反り返り、尻尾が空を切るように跳ねた。
快楽の奔流が、両の穴の奥から同時に溢れ出す。
四つん這いのまま、セリーヌの身体は激しく震え、猫脚グローブの指先が床を引っ掻いた。
そして──床にぽたり、と熱い雫が落ちた。
オルフェに堰き止められていたものが、それでも抑えきれずに溢れたのだ。
「まあ……敏感なのねえ」
夫人の声が、少し呆れたような、でも慈愛を含んだ響きで届く。
「全くだ」
「でも……可愛らしいこと」
青年と夫人のふたりがセリーヌの恥態をいつの間にか、後ろ側から見ながら言う。
セリーヌの瞳が、羞恥で潤んだまま、また伏せられた。
四つん這いのまま、肩で荒く息をつく。喉はひゅうひゅうと音を立て、腰の奥は今なお火照っている。脚の間には、とろりと甘い雫が残り、そこから伝う感触に、まだ身体が余韻を引きずっているのがわかった。
──これが、「ご褒美」なんだ……。
「ふふ……セリーヌ、可愛らしい反応でしたわね。……さて、おふたりは、これから私的な儀式に向かわれるところですか?」
クロエが、どこまでも落ち着いた口調で問いかけた。
「ええ、そうなの。もっとも──ほかのパートナーと一緒に、共同調教なのよ」
そう言ったのは夫人。明るい声音だった。どこか浮き立ったような笑みを浮かべている。
「それは……素敵ですね。もしご迷惑でなければ、私たちもご一緒させていただけませんか?」
「えっ?」
当惑の声はセリーヌではなく、夫人だ。セリーヌはびっくりして、舌ごと身体を硬直させた。
「ルシアン様以外の殿方が触れることは厳禁とされておりますが、女性への奉仕は、いま訓練中なのです。よろしければ、セリーヌの奉仕の相手になっていただけませんか」
クロエの言葉をセリーヌはじっと聞いている。
戸惑いはあるが、驚きはない。今日はこの格好で館を歩き回り、名前を晒して、求められれば、ほかのオプセリカと交流をする。それはクロエに事前に言い諭されていた。
午後は、いまが最初になるが、午前中も同じように、認識阻害具で正体のわからないオプセリカの奉仕を何人もやらされている。もっとも、名前を晒してから奉仕をするのは、今回が最初になる。
「面白そうね。いいじゃない」
夫人が笑った。
「ならいいよ。俺はセリーヌ嬢には指一本触れない。もうひとり、男が参加するが、そいつにも徹底しておく。
続けて、青年も頷く。
こうして──セリーヌとクロエは、ふたりの後を追って廊下を進むことになった。
セリーヌだけは、もちろん四つん這いのまま……。
猫脚の毛皮の手袋と足袋が、石畳の床を静かに踏み鳴らす。
「……このままの姿で?」
羞恥に喉が震えたが、クロエは一言だけ「当然です」と返す。
夫人と青年が優雅に並んで歩く背中を追いながら、ふいにクロエが横に膝をつき、そっとセリーヌの髪に触れた。
「少々、お顔を上げてください……」
触れたのは髪飾りだった。
銀の糸細工に淡い紫の宝玉がついた、まるで装飾用のアクセサリのように見える。
でも、それは違った。
装着が終わると同時に、クロエが耳元で囁いた。
「──この館の、もうひとつの神髄を、お教えいたします」
その瞬間だった。
かちっと、耳鳴りのような音がして。
次の瞬間、世界の靄が晴れたように──前を歩いていたふたりの姿が、くっきりと見えた。
「……えっ?」
セリーヌの声が、喉の奥で震えた。
見えてしまった。
この館ではあり得ないはずの、はっきりとした「顔」が。
──あの夫人と、あの青年の、素顔と声と──そして、正体が。
部屋に入るとき、後ろ姿だったふたりが横を向く。
その横顔に、セリーヌの瞳が見開かれた。
──そして、声を、上げそうになった。