侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
前を進んでいた夫人のオプセリカと青年のドミナが入っていった扉の前──。
セリーヌは、四つん這いのまま立ち止まっていた。
クロエに牽かれ、廊下を這わされるようにしてたどり着いた場所。視線は低く、磨き上げられた石畳の床が、灯りをわずかに反射していた。息がかかるほど近くに、他の女の靴の跡が残っていた。
かすかに開かれた扉の隙間から、女性の荒い吐息が漏れている。苦悶とも、快楽ともつかない声音。そして、なにかが肉に強く打ち据えられたような、甲高い音。
すでに室内にいたふたりに、さきほどのオプセリカとドミナが加わったのだろう。音の数、質、間隔が変わっていた。
ドアのすぐ前にはクロエがいるので、その後ろに従っているセリーヌには見えない。けれど、想像できてしまう。
それはともかく……。さっきのふたりは……。
──驚いたことに、アンリエット=ヴァルマン公爵夫人と、彼女の実の息子のセリル=ヴァルマンに見間違いはなかった。
ヴァルマン公爵夫人は、王家の末妹として生まれ、ヴァルマン公爵家に嫁いだ貴婦人。数度の夜会で言葉を交わしたことはあるが、個人的な親交はなかった。だが、上級貴族の誰もが知っていた。気品に満ち、節度と礼節を保ち続ける名夫人。
公爵家の嫡男のセリル=ヴァルマン公爵令息もまた、誰からも尊敬され、剛直で知られた有能な青年と名高い。確か、すでに子爵の地位も得ていたはずだ。
そのふたりが、あの部屋に入っていった。
スエラとペド……多分、性的なパートナーとして……。
でも、実の親子なのに……。いや、もしかして、男女の関係はない?
とにかく、信じがたい関係が、信じがたいかたちでセリーヌの目の前に現れた。
喉の奥が乾く。息を呑もうとしても、咽せそうになる。
──これは、現実なのだろうか。
社交界の奥底に隠されていた、仮面の裏の素顔……。
なお、セリーヌの身体には、なお淫具が多数装着されていた。
膣奥に密着するように固定された《オルフェ》。
肛門をふさぐように挿入された《セレノア・デゥ・アルフェ》は、尾の装飾を持ち、それが僅かに揺れただけで、内部を突くような刺激が発生する。さらに、アルフェの根元部分は《オルフェ》と連携し、互いの動作が共鳴するように設計されていた。
四肢は《パニエ・ミニュン》に包まれている。手足はグローブ状の拘束具に覆われ、関節は固定されていないが、体の重心が強制的に前傾となり、二本脚での直立を不可能にする構造だった。
さらに、胸元から腰の括れにかけての胴体を包む《ミューゼット》。羽毛の生えた薄布のようなチョッキだが、微細な刺激すら快感として認識させる細工が施されている。外から受けた刺激を内部全体に拡散・増幅させる機構があり、たとえば一本の指先で撫でられるだけで、まるで全身を愛撫されたかのような感覚に変換される。衣擦れ、呼吸、脈動。すべてが熱を伴う身体の官能に変わっていた。
膝には《ヴェリル》が巻かれていたが、たったいま、扉の前でクロエの手によって外された。
そして、「奉仕の邪魔になりますから」と、そう言い残して、クロエがセリーヌの後ろへとまわる。
その直後、尾の部分が跳ねた。
セリーヌの全身がびくりと震える。
「ひんっ」
──クロエが、わざと《アルフェ》の尾を弾いたのだ。
その振動が、肛門内の部分と膣の中の《オルフェ》へと連動して伝わり、アナルと膣奥を掻き混ぜるような感覚が襲ってくる。
「……あ、ああっ、ク、クロエ……」
セリーヌは、呻き声を必死に噛み殺す。唇を噛み、震える喉を押しとどめた。
その耳元に、クロエが囁く。
「お嬢様……、夫人は、自分のペドが誰かを、ご存じありません」
「え、そ、そうなの……」
セリーヌは、息を詰めた。
「知っているのは、セリル=ヴァルマンと……室内にいる、もうひとりのドミナだけです」
さらにクロエの声が続く。
「オプセリカとなった夫人も。そして、もうひとりのオプセリカも……誰に調教され、犯されているのか、気づいておりません。もうひとりのオプセリカが何者なのかも知りません」
「えっ、でも、どうして……?」
それ以上の言葉を、セリーヌは持たなかった。
犯す……。やっぱり男女の関係でもある……。
「さあ、とにかく、行きましょう、お嬢様」
セリーヌの前で、部屋の内部が開いた。
蝋燭の揺れる光のなか、部屋の中央に据えられた奇妙な台が音を立てて動いていた。
床と一体になった運動具のようだ。
《トレッド・ミル》のように床が動いて、一定以上の速度で足を前に進めなければ、その位置を保てない運動器具である。
でも、魔道で制御しているらしく、かなり速い速度で床部が後ろに動いていた。
そのトレッド・ミルの上に、ひとりの若い女が全裸で固定されている。後手に組まれた両腕は厳しく緊縛され、天井から垂れた細い縄が首輪を通して吊られていた。台の上から降りれば、首を吊られる構造になっている。
ミルはかなりの速度だ。
女性は、必死の様子で後手の態勢で走り続けている。
首輪は赤色。スエラの証の宝石付き。
おそらく、かなり長い時間を休むことなく走らされているのだろう。女は、細く、白い肢体を汗に濡らし、全身に大量の汗をかき、縄が上下に喰い込んだ乳房を上下させながら、呼吸も荒く、呻くような喘ぎ声を洩らしている。
その背を、今まさに一振りの鞭が打った。
乾いた音。肉を叩く鈍い響き。交互に聞こえる音と声は、さきほど扉の外から聞こえていたものの正体だった。
セリーヌの目が、そのオプセリカの仮面の奥を射抜いた。
──イレーユ=ブレイユ・ヴァルマン。
公爵令息セリルの、正妻。
そして、イレーユを鞭打つドミナの姿が視界に入った。
黒革の衣装に身を包んだ、端整な若者。確か、彼は……。
──リオネル=クラヴェール。
セリルの従者。夜会の場でも、常に傍に控えていた青年。
事実を理解した瞬間、セリーヌは、全身を血が逆流するような感覚に襲われた。
つまりは、セリル=ヴァルマンは、自分の妻を従士に鞭打たせ、自分はその妻に触れることなく──実の母親の公爵夫人・アンリエット=ヴァルマンをペドとして、相手にしているのだ。
一体、どういう関係なのか。
言葉にしようとすれば、吐き出す前に喉の奥で腐るような、倒錯。
だがそれは、仮面舞踏会のような表層ではない。制度の裏、貴族社会の深部に巣食う、本物の真実。
クロエの鎖が止まった。
セリーヌは、そのまま四肢を床につけた姿勢で、部屋の奥を見上げていた。
「おう、これは妖精ちゃんか。どうしたんだい、シー。珍しいゲストじゃないかい」
自分の主人の若妻の裸身を鞭打っていた従者のリオネルが陽気に言った。
しかし、その直後、その声が驚愕の吐息にすり替わる。
「えっ、ヴァランティーヌ家の……」
「おっと、それは詮索なしだよ、ディー。彼女は、ただのセリーヌだ。あのイヤリングを外すのは調教の一環らしい。でも、この館の主人の愛人で、俺たち男は絶対に触っちゃだめなんだそうだ。俺たちの“儀式”に興味があるらしく、オプセリカの奉仕をさせて欲しいそうだ」
そう言ったのは、セリル=ヴァルマンだった。けれど、いまこの場では彼は「シー」と名乗っている。
「ああ、そう言えば、マダム・ルーベニアから通達が出てたね。白銀に触れたら、地下行きってね……。彼女がそうなのか」
鞭を片手に持った青年が軽やかに返す。彼の名は、リオネル=クラヴェール。セリルは、彼を“ディ”と呼んでいた。
ふたりの声は、まるで夜会の雑談のように明るかった。また、本来は、公爵令息とその従者の関係のはずだが、この場では仲のいい友人のように見える。
また、セリーヌは、クロエに導かれて、部屋の中に入っていた。四つん這いのまま、部屋の中央を少し過ぎたところで、立ち止まる。息を整えようとするよりも早く、背後から“それ”が起きた。
ぱしん──と、小気味よい音が響く。
「ふぐっ……あっ、クロエ……っ」
尾の飾り部分を、クロエが手で勢いよく弾いたのだ。肛門に挿れられた《アルフェ》が震え、その刺激が連動して膣内の《オルフェ》を掻き混ぜた。前後の淫具が共鳴し、セリーヌの内側から蕩けるような波が押し寄せる。
「セリーヌ、ご挨拶を」
冷静で、どこか楽しげな声が、耳元に落ちてきた。
セリーヌは、震える喉を押しとどめながら、必死に言葉を紡いだ。
「わ、わたしは……セリーヌ=ド・ヴァレンティーヌ……この場に、ご挨拶を、申し上げます……。この場は、ただのセリーヌです……」
言葉を終えるころには、淫具の刺激がさらに深くまで届いていた。腰がふるえ、汗がこめかみに滲む。目の奥が熱く、床の光が揺れて見えた。
「おやおや、妖精ちゃんは可愛いねえ。じゃあ、この館では身分なしということで。それで、こっちも、紹介をしようか」
ディーこと、従者のリオネルが笑った。
「僕は“ディー”──。この部屋をあてがわれている、そのオプセリカのペドだよ」
そして──鞭は、走り続ける女性の尻へと振り下ろした。
「ひいいっ」
空気を裂く音に続けて、肉を打つ乾いた音と、うめくような喘ぎ声が響いた。
「彼女は“レイ”だよ。ああ、いまは挨拶どころじゃないけどね」
“レイ”──セリーヌの脳裏に、その名が刻まれる。
イレーユ=ブレイユ・ヴァルマン。セリルの正妻。けれど、いま目の前にいるのは、ただの“レイ”。縄に縛られ、走らされ、鞭打たれ、そして──。
セリーヌの視線は、台の下へと落ちていった。
トレッド・ミルの床に、透明な飛沫がぽたりぼたりと落ちている。
──愛液だ。
彼女は、鞭で責められながら、息も絶え絶えに、快楽に堕ちているのだと悟った。
「じゃあ、そろそろ交代だね。次は、アン。君の番だよ」
セリルが声をかけると、アンリエット=ヴァルマンは前手の縄を解かれ、背中で腕を組むようにして後手に縛られた。
きつく絞められた縄が肌に食い込み、緊縛が完了する。
そのままトレッド・ミルの上に立たされ、天井から垂れた縄が首輪に繋がれる。引かれる力はわずかだが、姿勢を崩せば首が締まる仕掛けになっている。
「ふふ……また、走らされるのね。ああ、ひどいわ」
アンリエットはため息交じりに言いながら、目元に微笑を残していた。
一方、イレーユはトレッド・ミルから下ろされた。縄はそのまま、背後に腕を縛られたまま、床にしゃがみ込む。
乱れた髪から汗が滴り、背中は大きく上下している。しばらくの間、何も言えずにうずくまっていたが、やがて、かすれた声が漏れた。
「はあ、はあ、はあ……よ、妖精ちゃん……」
ようやく呼吸が少しだけ整ったのか、イレーユがかすれた声で言った。顔を上げると、セリーヌの姿を見つけて、わずかに微笑んだ。
「素敵な……飾りね。その、尻尾……とても似合ってる」
セリーヌは、返す言葉を見つけられなかった。ただ、ほんのわずかに視線を落とし、イレーユと同じく、自分もここで調教を受ける者であることを、ひとつ、認めるような気持ちで頷いた。
──そのときだった。
悲鳴が響いた。トレッド・ミルの方向からだ。
ふたりの視線が、自然とその方角へ向く。
アンリエット=ヴァルマン夫人が、緊縛をされた状態で顔を引きつらせていた。後手に縄を掛けられ、すでに首輪を天井からの縄で引かれた格好なのだが、彼女の股間にセリルが手を伸ばしている。よく見ると、淫具──おそらく、オルフェだ。
「さて、でもレイと同じ条件じゃ、物足りないだろう。オプセリカとしては、半年先輩なんだから──追加の装備だよ」
「ちょ、ちょっと待って……それは……っ」
だが、セリルは微笑みを絶やしたまま、《オルフェ》を夫人の膣口にあてがい、ぐっと挿入した。そのまま、準備していた縄で股縄をしてしまい、淫具を強く固定してしまう。慣れた手つきであり、あっという間だった。
「あっ、ああ、ちょ、ちょっと、これは……」
夫人の頬からは、色が消えていた。
「降ろすのは、二度、達してから。多分、すぐにいけるよ。このオルフェは腰を揺さぶって動かせば、クリトリスも刺激してくれるからね。さあ、ノルマが終わるまでは、何時間でも、走ってもらうからね。覚悟してよ」
セリルが立ち上がり、トレッド・ミルの起動レバーに手をかける。
「ひいいっ、い、いきなりは──っ、やめ──」
言い終わらぬうちに、器具が唸りを上げて動き出す。しかも、その速度は、先ほどイレーユに与えられていたものより速い。夫人は、バランスを取りながら走りはじめるが、すぐに悲鳴を上げた。
「あああっ、だめっ、だめっ、無理、こんな──こんな速さじゃあっ……」
夫人はすでに全力疾走だ。脚を懸命に動かし、乳房を上下左右に動かしながら、後手のまま走る。あっという間に全身が赤く染まり、汗が噴き出してきた。
その姿を見ながら、クロエがひとりごとのように呟いた。
「セリルは、ペドとしてかなりの熟練です。ああ見えて、耐えられるぎりぎりのところをついてきます。ああやって、オプセリカは調教されていくのです。夫人は幾度もあんな仕打ちを受けながらも、必ずこの館に戻ってきます」
セリーヌはわずかに息を呑んだが、それ以上は動けず、ただ目前の夫人の姿を見ていた。
そのとき、ディー──リオネル=クラヴェールが口を開いた。
「よければ、僕のオプセリカに奉仕をしてもらっていいかな?」
言葉はクロエに向けられたものだが、その視線は、しっかりとセリーヌとイレーユに向けられていた。
クロエは軽く頷くと、セリーヌに向かって静かに告げた。
「セリーヌ。レイに奉仕なさい」
その言葉に、イレーユがわずかに肩を震わせた。顔を向けると、乱れた髪の間から、かすかに笑みを浮かべた唇が動いた。
「妖精ちゃん……やさしくして、ね」
イレーユが仰向けになり、膝を曲げて、脚を広げる。クロエがそっとセリーヌの背を押す。
セリーヌは、四つん這いのまま、イレーユの股間に顔を近づけた──。
「……失礼します──」
そう告げて、セリーヌは顔を近づけた。
だが、その瞬間──。
「五分以内に達したら、もう一度、トレッド・ミルに戻ってもらうよ」
リオネルの冷淡な声が告げられる。
「えっ?」
イレーユの瞳から光が消えたようだった。頬からさっと血の気が引き、眉がわずかに引きつる。その変化を、セリーヌは確かに見た。余裕が──一瞬で消えたのだ。
すかさず、クロエが返す。
「では、セリーヌが失敗した場合は、セリーヌにトレッド・ミルで運動してもらいましょう」
セリーヌの背筋に走る冷気。張りつめた静けさが空間を包んだ。
──そして、対決が始まった。
セリーヌが舌を這わせると、イレーユの腰が震えた。わずかに唇を噛んでいた彼女が、堪えきれずに吐息をもらす。
「あ……ぁっ……だ、だめ、いきなり……っ」
舌先を濡れた襞の奥に滑り込ませる。イレーユの脚が反射的に震えた。縄で縛られた裸身にぎゅっと力を入れている。
「んあ……っ、あぁっ……や、やだ……っ、すご……いの、くる……っ」
声が次第に熱を帯び、艶を含み始める。セリーヌはその変化に気づいた。快感に耐えようとしながらも、イレーユの身体はあきらかに悦びに支配されつつあった。
舌を動かすたび、イレーユの身体が跳ねる。腿が強張り、腰が震え、乳房がわずかに弾む。
「あっ、あぁ、や、やめ……でも、だめ、気持ちいいの、止まらない……っ」
嬌声が室内に溶けていく。
セリーヌは全身を使って、イレーユの奥へと触れていく。鼻先が肌に触れ、吐息が熱を伝える。そのすべてが、イレーユの反応として返ってくる。
「ひぁっ、ああっ、そんなとこ、だめぇ……っ、また……来る……っ」
イレーユはもはや、耐えてなどいなかった。必死に受け止め、必死に声を洩らし、必死に堕ちるまいとしていた。
その姿に、セリーヌは一瞬だけ、感情の名を失った。ただ──責めなければ、という意志だけを残して、動きを止めることなく、さらに深く、追い詰めていった。
三分が経過した頃だった。セリーヌが必死の奉仕を続ける中、ディーがゆっくりと立ち上がり、イレーユに近づいた。
「頑張っているじゃないか。偉いよ。これは、ご褒美だ」
その言葉とともに、イレーユの乳房に顔を寄せ、舌先でふるふると乳首を舐め始めた。すでに硬くなっていた突起は、ぴくりと跳ね、イレーユの身体に新たな震えを呼び込む。
「ああっ、そ、そんな、そこは──っ」
甘い叫びが漏れたその瞬間、クロエがセリーヌの背後へ回り、ぴん、と尻尾の根元を弾いた。瞬間、前後の淫具が共鳴し、セリーヌの腰が跳ねる。
「ひんっ」
刺激を受けて、セリーヌは一瞬、顔をあげて悲鳴をあげてしまう。
「セリーヌ。あなたも、もっと頑張りなさい」
脳裏に走る電撃のような快感に、セリーヌは喉を詰まらせながらも、歯を食いしばって責めを続けた。
そして、イレーユは唇を噛んで耐えていたが、すでに膣は潤んでおり、わずかに震えている。セリーヌは思った。彼女もまた、苦痛を快楽に変える《ヴェールス》なのだと──。
静かに、そして激しく。ふたりの攻防は続いた。が、ついに、イレーユの瞳が潤み、肩が跳ねる。
「く、うあっ、や、やだ……ああああっ──。ああ、いっちゃううう──」
絶頂の波がイレーユを襲った。ふくらはぎが震え、膣奥から迸る震えが身体全体を突き上げたのがわかった。
セリーヌの勝利だ。
──その直後だった。
別の方向から、甲高い嬌声が響いた。視線を向けると、トレッド・ミルの上で、アンリエットが縄を引かれたまま、突き上げるように背を反らせていた。顔は陶然とゆがみ、絶頂の余波に身を震わせていた。
「ふふ。ちゃんと、命令通りに達したようだね。さすがだよ。あの速度で果てられるなんて」
セリルが器具を操作してトレッド・ミルを静止させた。
セリーヌは、ちょっと驚いた。オルフェを挿入したまま、あんな速度で走れるだけじゃなく、本当に二度の絶頂ができたのだ。
首の縄が外れる。
全身に汗をかいている夫人がその場に力尽きてしゃがみ込んだ。
すると、セリルがトレッド・ミルの上にあがる。
そして、アンリエット夫人の背後から、そのまま腰を寄せて、母親の尻肉を掴み上げる。慣れた手つきで股縄と淫具を外す。
「頑張ったご褒美だよ。さあ、トレッド・ミルの上で、もうひとつの調教を始めようか」
そのまま、アンリエットの身体を押し倒し、トレッド・ミルの傾斜面にうつ伏せで寝かせた。
器具はすでに完全に静止している。
その上で、セリルは膝をつき、母の腰を押さえてゆっくりと貫き始めた。脚のあいだから、ぐちゅりぐちゅりと淫靡な音が立ちのぼる。
一方、ミルはひとつしかなかった。ディーは肩をすくめて言った。
「残念だな。いまは空いていないみたいだ。……だから、君の罰は、この場で受けてもらおう」
そう言って、イレーユを床に組み伏せると、自らの衣を乱し、主人の妻の秘所に肉茎をあてがう。
「ひっ、や、いやっ……あ、ああっ、ディー、だめ、今は……んっ、ああああっ」
トレッド・ミルの上では、息子が母を貫き、その傍らでは、母を貫いている男の妻を、彼の従者が床に組み伏せてむさぼっている。
──それは、背徳と倒錯の宴だった。
理性の壁が崩れ落ち、禁忌の境界が跡形もなく溶け去っていく。愛の形をした欲望の奔流が、あらゆる倫理を押し流していく。
セリーヌはその光景に思わず目を背けた。否応なく胸中に湧き上がる感情。なにかが壊れていくような、そんな感覚だった。
そのとき、クロエが声を掛けた。
「ふふふ、愉しい時間でしたね。それでは──」
セリーヌの鎖をそっと引き、四つん這いの彼女を伴って部屋の外へ導く。
扉が閉まる瞬間、背後から聞こえる嬌声と打ちつける音が遠ざかる。
四人は倒錯の淫愛に溺れきり、誰ひとり振り向こうとはしなかった。
廊下に出てから、クロエは低く囁いた。
「これも館の、もうひとつの側面です、お嬢様……。認識阻害具があるので、ここに集う者たちは羽目を外しやすい。でも──その映像は、すべて記録されています」
「そ、そうなの……?」
セリーヌはクロエを見た。
「ええ……。ちなみに、さっきの部屋の四人ですが、いつもパターンは同じです。最初はさっきの組み合わせ。終わると、オプセリカを交換します。その後は、オプセリカ同士を愛し合わせ、ドミナのふたりで抱き合います」
「えっ、だって、ドミナ同士って、男……同士……で?」
セリーヌは戸惑った。
すると、クロエが微笑む。
「そういう世界もあるのです。でも、そんな魔道映像が世間に出る可能性があれば、彼らも言いなりになるしかないでしょう。そうやって、上級貴族の“弱み”を集めるのも、この館の大事な仕事のひとつです……。では、次の部屋に参りましょう」