侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
「お嬢様、ご準備はよろしいですか?」
扉の前でクロエの声が言った。
セリーヌは一瞬戸惑ったが、鎖を咥えたまま小さく頷く。
クロエが扉を叩き、すぐに若そうな女性の返事があった。
扉が内側から、ゆっくりと開かれる。
そこに立っていたのは、若い令嬢だった。
柔らかな薄桃色のドレスは、繊細なレースと刺繍があしらわれ、花弁のような襞が幾重にも重なって揺れていた。お茶会にふさわしい、可憐さと格式を両立させた装いだった。
けれど、その顔ははっきりと見えなかった。認識阻害具が装着されているのだ。
そして、彼女の首には、上級オプセリカの証──深紅のチョーカーが巻かれていた。だが、特定のペドに属するスレアの印は、そこにはなかった。
ただ、ひとつ──気になる点があった。
ドレスのスカート丈が、不自然なほど短かったのだ。
貴族令嬢の正式な正装とは到底思えない、まるで平民の舞踏服のような丈。膝上まで大胆に露出したその裾からは、滑らかな白い脚がまっすぐに伸びていた。
セリーヌは、四つん這いのまま、ただその脚と、揺れるスカートの裾だけを見つめていた。
「クロエさん、わたくし、お茶会って、お話しましてよ」
令嬢は不満げに口を尖らせる。
「問題ありません。お嬢様は、お茶会に参加するために連れて参りました」
クロエの声は、いつものように落ち着いていた。
セリーヌの頭の上で、彼女たちのやりとりだけが淡々と流れていく。自分がいま、どう扱われているのか──思考が追いつかない。
促されて、部屋の中へと進んでいく。
部屋の中は、セリーヌが使っている私室とよく似た構成だった。
広さも調度も申し分なく、美しく整えられた家具と、窓辺に揺れるカーテンが、いかにも上品な空間を演出している。
部屋の中心には、丸テーブルの上には、お茶と菓子が並べられ、三脚の椅子が均等に配置されていた。
まるで、普通の貴族の午後のひとときを模しているかのようだった。
その認識阻害具の少女が、テーブルの横に立つと、困ったようにセリーヌとクロエに視線を向けてきた。
「クロエさん、わたし、このために午後は予定を空けて、館にお頼みして、お菓子も取り寄せてもらってたのに……。ちゃんと説明したと思ってたんですけど」
令嬢の声は、軽く拗ねたような響きを含んでいた。
「ですから、問題ありません。お嬢様は、ちゃんと参加されています。ただ、調教中のため、床に座らせていただいています」
その一言に、セリーヌは胸の奥がちくりと痛んだ。
けれど、クロエが振り返って静かに言葉をかける。
「お嬢様、腰をお下ろしください」
許可の言葉に、セリーヌはほっと息をついた。なにしろ、午後中四つ足で歩かされ、疲労困憊だったのだ。
脱力して、その場に腰を落とす。
瞬間、尻尾がふわりと跳ね、床に触れる。
「ひんっ」
──その一撃が、鋭く奥深くに響いた。
身体に埋め込まれたアルフェとオルフェが、尻尾の振動で突き上げられたのだ。
「ひ、ああああっ……」
派手な声が漏れた。喉が痺れるほどの甘い熱が、口の奥から突き抜けていく。
セリーヌの背中が大きく反り返り、全身が突っ張った。白い肌に走る筋が緊張し、肩から腕、指先にかけて痙攣が走る。
ぶるぶると震える脚。開かれた膝の間から伝わる淫靡な熱。
いけない。尻尾のこと、忘れてた──。
意識が追いつくよりも早く、全身が熱に支配された。
甘く、痺れるような陶酔感が脳髄を貫き、頭の中が白く染まっていく。
目の前が霞み、世界の輪郭が溶ける。
胸が高鳴り、肌の内側で泡立つような快感が、深部から突き上げる。
全身がびくりと跳ね、背中が弓なりに反りかえった。喉から漏れた声が、室内の静けさに広がる。
「あああっ、あくううっ」
結局、あっという間に達してしまった。
そのまま、力が抜けて床に崩れ落ちる。
熱に焼かれたような快感の余韻が残る一方で、セリーヌは、さっき自分がどんな姿を晒していたのかを思い出し、顔を伏せた。
恥ずかしい──。
頭の中が白く染まり、意識が甘美な熱に呑まれる。
「お嬢様、派手なお挨拶でしたね。でも、許可もしていませんし、仮にもお茶会の席です」
クロエが冷たく呆れたように言った。
「ご、ごめんなさい……」
セリーヌは涙目になりながら、震える声で謝った。
「まあ……可愛い」
令嬢がぽつりと呟いた。
「ねえ、ご覧になってくださいな、セリーヌ様」
声をかけられて、顔を向ける。
彼女はそのまま手を伸ばし、ゆっくりと自らの認識阻害具を外した。
露わになった顔を見て、セリーヌは息をのんだ。
──アデライトだった。
学園のクラスメイトで、同じ侯爵令嬢──。
ヴァランティーヌ家は、旧王国時代からの血筋を誇る「純血派」だが、アデライトのモンテクリュ家は「中立派」とされていた。
「中立派」とはいうが、実際にはレヴァニア財閥の傘下にあることを堂々と口にする現実的な利害の中で立ち回る家柄群だ。
貴族院の中心である門閥貴族からは、裏切り者のように言われるが、レヴァニア財閥傘下で領地は栄えている。
だからこそ、派閥の違いにより、学園では接点こそあったものの、特別に親しくなることはなかった。
それはともかく、セリーヌは羞恥で顔が火照るのを感じた。
服を着たアデライトとクロエの前で、自分だけが裸同然で、しかもついさっき、尻もちをついて、あまつさえ達してしまったのだ──。
令嬢として、あり得ない。
頭を振りたくなるほどの羞恥の感情の渦。その中で、ふと、ひとつの思いが顔を出した。
──考えてみれば、どうして彼女がここに?
その場にいること自体が、不自然だと気づいた瞬間、思わず口をついて出ていた。
「どうして……ここにいるの?」
アデライトは少しだけ微笑み、視線を柔らかく落とす。
「ふふふ、ここには毎週末、ここに通わせていただいておりますの」
「え……?」
「わたくし、実は真性のヴェールスなんです」
さらりと言いながら、アデライトは軽く視線をそらし、クロエの方をちらと見た。
「それで……一度、セリーヌ様とお話してみたかったんですの。だから、クロエさんにお願いして……」
言葉の終わりに少しだけ含みをもたせていた。恨めしそうというほどではないが、わずかに困ったような響きがにじんでいる。
だが、クロエは相変わらず、涼しい顔で返す。
「問題ありませんよ。お嬢様はお茶会に参加なさっております。ただ、先程、申しあげたとおり、調教中という事情がございますので、席についていただくわけには参りません」
そのまま、ソーサーをセリーヌの前の床にそっと置き、さらに一口サイズの菓子をいくつか載せた皿をその隣に並べる。
「アデライト様。お茶を一杯、注いでくださいませんか」
「ええ、もちろん」
アデライトは即座に応じ、用意されたティーポットを手に取ると、香り高い茶をカップに注いだ。そして、クロエがそれを静かに手に取ると、その中身をセリーヌの菓子に──ゆっくりと、丁寧に、まるで意図的に──かけ始めた。
セリーヌの目の前で、菓子はじんわりと濡れてゆく。
クロエはその様子を見届けると、ぴたりとセリーヌを見下ろした。
「お食べください。命令です」
その言葉が耳に届いた瞬間、全身に電流のような熱が走った。
──命令。
ただそれだけの響きで、身体の芯が熱を帯びる。頭の奥で、なにかが蕩けていくような感覚。
惨めであるはずの状況だ。
裸同然の姿で、二人の令嬢の前に四つん這いになり、床に置かれた皿に顔を寄せる。
けれど、そんな自分に対する羞恥の裏で、もうひとつの感情が蠢いていた。
──嬉しい、と思っている。命じられたことが、嬉しいと感じている。
そんな自分が、確かにここにいる。
どこか壊れかけているようで、それでもその感覚が心地よいとさえ思っている。
セリーヌは、静かに首を下げた。
テーブルの足元、床に並べられた皿の上──濡れた菓子がぐずぐずと形を崩し、紅茶の香りが熱を含んで漂っている。
もう、迷いはなかった。
セリーヌは顔を近づけ、唇でそれを掬いとるようにして舌を伸ばした。
犬のように。
貴族としての矜持も、品位も、いまはすべて置き去りにして。
舌先が菓子に触れたとたん、ひどく甘く、そして、なぜか切ない味がした。
彼女はそれを繰り返し舐め、口の中へ押し込んでいった。
見上げることはしなかったが視線の気配でわかった。アデライトが、その様子をじっと見ている。
「やっぱり、セリーヌ様は、真性なんですね」
どこか喜びを滲ませた声音が、まっすぐに届いた。
「……それに、徹底しているわねえ。クロエさんって、そういう性格だったの?」
アデライトが、声を弾ませながら問いかけた。
「わたしは、フェルネスとして……お嬢様の羞恥や欲望を実現させるために、心を揺さぶり、焦らし、追い詰めて悦ばせるという役割を果たしているだけです」
クロエはいつもの調子で応じる。
セリーヌは、少しだけ食べるのをやめて、ふたりを見上げる。
「それだけ?」
アデライトの問いに、クロエは少しだけ唇を結んだ。
そして、ほんの一拍の間を置いてから口を開く。
「も、もちろん……個人的な嗜好も、加わっているかもしれません。苦悶に顔を歪めるお嬢様は、本当に可愛いですから。思わず、意地悪したくなるほどで……」
その声が、かすかに震えていた。
頬には赤みがさしていて、どこか戸惑いと照れを隠しきれていない。
──意地悪したくなるほど、可愛い。
クロエのその言葉が、胸の奥に落ちた。
セリーヌは思わず、心のなかでその言葉を何度も繰り返していた。
顔を歪める自分を、可愛いと。
苦しむ自分を見て、意地悪したくなると。
惨めで、哀れで、誰の前にも見せたくなかった姿。
けれど、クロエにそう言われたとたん──どうしようもなく、嬉しくなってしまった。
胸が詰まり、喉が熱くなった。
そして、その熱はそのまま、下腹部にまで伝わっていた。
こんな自分がいるのだと、自分でも気づいてしまう。
そのとき、アデライトがくすりと笑うのが聞こえた。
「わかるわあ。セリーヌ様って、可愛いわよね。ちっとも知らなかったけど、今日みたいに素直で従順な姿を見せてもらえると……。ふふ、真性同士、もっと早く親しくなっていればよかったって思っちゃう」
羞恥が込みあげ、顔が熱を帯びていく。
けれど、それと同じくらい、心の底でくすぐったいような悦びが広がっていた。
でも、それ以上に、ちょっと気になっていることがあった。
「さっきから……その“真性”というのは、どういう意味なのですか?」
きょとんとした声が、自然と唇からこぼれていた。
「ご説明しますわ」
アデライトがわずかに身を乗り出した。まなざしは真剣そのもので、どこか誇らしげだった。
「真性のヴェールスというのは、生まれつき、あるいは幼少のころから、自らが従属されることに悦びを覚える性質のことですの」
セリーヌは息を詰めたまま聞いていた。どこか、自分の内側を言い当てられたような気がした。
その横で、クロエが淡々と続けた。
「教え込まれたわけではなく、命令されること、辱められることに、本能的な快楽を覚える資質を持つ者──それが真性と呼ばれます」
その語調には、わずかにセリーヌを肯定するような響きがあった。
「……そんなこと、本当にあるのね……」
囁くように言った自分の声が、ほとんど誰にも届かないほど小さく響いた。そもそも、真性というのが、セリーヌぴったりのように思ってしまったのだ。
「ありますわよ──」
アデライトが頬に柔らかな赤みを浮かべたまま、満面の笑みを浮かべた。
「わたくし、自覚したのは十歳のころです」
アデライトの語り口は、なにか遠い記憶をなぞるような響きだ。
セリーヌは真っ直ぐにアデライトを見上げる。
「兄と従兄弟たちと、勇者ごっこをしていたんです。わたくしは、さらわれた姫君の役で──」
そこでアデライトは、ひとつ呼吸を置いた。
「縄で縛られて、猿轡もされて、領地の古い物置に閉じ込められました。そこが魔王の城のつもりだったんです」
セリーヌの背筋がかすかに震えた。どこかで、その情景を想像してしまっていた。
「しばらくして、兄と従兄弟がひとりずつ入ってきて……。ひとりが突然、わたくしのスカートの上から、股間をぎゅっと押したんです」
アデライトのまなざしが少し遠のく。セリーヌは呼吸を浅くした。
「そのまま逃げていきました。もうひとりも、同じようにして……それだけです」
その瞬間のことを思い出すように、彼女は小さく震えた息を吐いた。
「でも、頭が真っ白になって、しばらく身体が動かなくなって……」
セリーヌは、喉の奥にかすかな熱を覚えた。
「縄を解いて、下着を見たら……ねっとりと濡れていて。ああ、わたくしは、そういう存在なのだと──そのときに、気づいたのですわ」
そして、アデライトが大きく息を吐く。
「……それが、わたくしの始まりでした」
アデライトは、ほんの少しだけ肩をすくめた。語ることに、どこかしら悦びの気配すら宿していた。
「そして、少し前に──婚約を破棄されましたの」
「婚約破棄ですか?」
セリーヌはわずかに目を見開いた。アデライトほどの家柄の令嬢が婚約破棄。
でも、よく考えれば、セリーヌもまた、婚約破棄から人生の急変が始まったのだと思い直す。
「理由は明言されませんでしたけれど、まあ、明らかですわね。モンテクリュ家は中立派。相手は門閥派の貴族でしたから」
声には怒りも恨みもなかった。ただ、諦めと、どこか清々しささえあった。
「でも、それをきっかけに、この館のことを知ったんです。クロエさんに案内していただいて──。はじめは怖かった。でも、いまでは、ここがわたくしの本当の居場所のように感じています」
「えっ? それは、いつ頃?」
クロエを見る。
「三箇月くらい前ですね」
クロエが静かに頷く。
「ただ……ひとつだけ、条件をつけさせていただいていますの。処女だけは守るということ。婚姻の可能性は、まだ消えたわけではありませんから。でも、それ以外は、毎週──思う存分、していただいています」
セリーヌは、ふと疑問が浮かんだ。
「……処女を守るって、そんな条件、許されるものなの?」
アデライトは小さく首をかしげた。
「許されましたわ。契約ですもの。逆に……セリーヌ様は、無条件で?」
視線が自然とクロエへと向かう。
クロエは、わずかに背筋を伸ばし、答えた。
「お嬢様は、そういう契約ではありません。一生の契約です」
「……誰と?」
「ルシアン様。この館の主であり、すべての頂点に立つお方です」
「まあ」
アデライトが、少女のような小さな叫び声をあげた。
「なんて素敵──。セリーヌ様が、そのルシアン様の……。まあまあまあ……。それはともかく、わたくし、愉しみにしていたのです。なにしろ、こんなに近くに真性の同志がいたなんて。これまで語り合える方がいなかったんですもの」
「そ、そうなんですね……」
アデライトの勢いのよさに、セリーヌは、ちょっとたじろいでしまった。
でも、こんなに元気な令嬢だというのも知らなかった。
「そういえば、学園でのあの出来事……やはり、なにか儀式のようなことがあったのではなくて? 半月ほど前ですわ。セリーヌ様が初めて、短い丈のスカートをお召になって来られた日ですわ」
その一言に、セリーヌの身体がびくりと震えた。
あの学園初日のことに間違いない。
するとクロエが静かに口を開いた。
「ふふ、お嬢様、どうぞご説明を」
セリーヌは、うつむいたまま、唇をかみしめた。
いまさら言い逃れなどできないことは、本人にもわかっていた。
「……あれは、痒みの魔道具によるものでした」
「痒み?」
「はい。授業中、クロエがわたしに命じて……。いえ、自分で選んだんですけど……、痒みの薬の滲むアルフェを挿入して……。クロエが我慢できないなら、自分で動かしなさいと言われて、操作具を渡されて……。言った通りに……自分で動かして。それで……そのまま……止まらなくなっていて……」
顔が真っ赤に染まっていく。
「まあまあ、あのとき、そんなことが? それから、どうなりましたの?」
「アルフェだけでなく、オルフェもしていて、レコルという淫具も……。順番に動いて、何度も絶頂を何度も繰り返して……。でも、止まらなくて……。最後は……気絶しました。そのとき、失禁も……」
アデライトは目を大きく見開き、それから頬に手を当て、うっとりとした声をもらした。
「まあ……羨ましい──」
「羨ましい……ですか……?」
セリーヌは思わず声を上げたが、アデライトは小さく笑って首をすくめた。
「もちろんですわ。ああごめんなさい、でも、本当に──想像しただけで、ぞくぞくします」
「お嬢様、恥ずかしがることはありませんよ。アデライト様は間違いなく、お嬢様と同じヴェールスなのです」
クロエはどこか満足げに小さく頷いた。
セリーヌは、自分の恥を語ったことで、逆にこの場の空気がどこか和らいだことに気づき、奇妙な安堵を感じていた。
アデライトがティーカップを唇に運びながら、小さく息を吐いた。
「ねえ、セリーヌ様……こうしてお話できて、わたくし本当に嬉しいんです」
「わたしも……少しずつ、嬉しいって思えてきたところ」
セリーヌは戸惑いながらも頷いた。
「ふふ。わたくし、昔から、ある種の無力感に憧れがありましたの。気高くて誇り高い自分が、為す術なく蹂躙される……そんな光景を夢想してしまうのです」
「うん……わかる、気がする。わたしも……強い人に命令されると、なぜか心の奥が熱くなる」
「それって素敵なことですわ。……あっ、そういえば、縄って好きですか? わたくし、見るだけでどきどきしてしまうんです。特に赤いやつ」
「赤い縄? ……あ、わたしも一度、使われたことあるかも。クロエが……」
「まあ、やっぱり。血の色に近いあの感じ……恥ずかしさが際立つんですのよね。鞭はどうです? セリーヌ様は、鞭はもうお体験に?」
「いえ、鞭は……本格的なのは、まだ……。でも、電撃なら……」
「電撃?」
アデライトが身を乗り出す。
「うん。クロエにされるの。ルシアン様にもされる。びくってなって……。それが続くと、頭の奥がしびれてきて、全部、どうでもよくなるの」
「ああ、わたくし、鞭はありますけど、電撃はないですわ。まるで魂が蕩けていくみたい……。わたくしも、一度試してみたいですわ」
「お嬢様は、学園では、常に下着はつけておられません。お気づきになってましたか?」
クロエが揶揄うような口調で口を挟む。
「もしかしたらと思ってました。だって、ブラウスに乳首の形が見えるときがありましたもの」
アデライトがクスクスと笑う。
「えっ、うそっ」
セリーヌは自分が真っ赤になるのがわかった。
「本当です。あっ、でも、わたくしだから、気がついたのですわ。多分ですけど」
「で、でも、アデライト様は……違うの? そのう……下着は身につけてるの……?」
「もしかして、館の掟のことですか? でも、外のことですし……。もしかして、セリーヌ様は外でもあれを忠実に?」
「もちろんです。お嬢様は真性のヴェールスですから」
クロエがきっぱりと言う。
ちょっと恥ずかしい。
でも、そんな自由でいいのかと、ちょっと戸惑う。
「でも、下着なしで制服で授業を受けるのはどんな気持ちですの?」
「自分だけ裸みたいで……とても恥ずかしくて……でも、身体が熱くなって……」
セリーヌは正直に答えた。
「それって……すごい羞恥ですわね」
「うん……」
「セリーヌ様、知ってますか? 羞恥って、快楽を深くしてくれるのですわ」
「……そうかも……。見られてるときも、変になっちゃうことあるし」
「視線って、すごく効きますわよね。わたくし、誰かが見てると思うと、わざと乱れた吐息とか演出しちゃうんです」
「わたしには……そんな余裕ない」
「ところで、誰かに仕えるっていうのも興奮します? クロエさんって、もともと、侍女ですわよね」
「うん。クロエの足元にいると……居場所があるって感じる」
「うーん、わたくしも、そろそろ、特定のお方にベドをと、考えているのですが、なかなか、心の底から信頼できる方には巡り会えなくて」
アデライトがちたことでょっと考えるように黙り込む。
それから、他愛のない話をしばらくかわす。
また、時折、クロエに促されて、床の上のものを犬喰いで口に入れたりもした。
やがて、会話がひと段落し、紅茶の温もりが腹の奥に広がっていくころ、セリーヌはふいに下腹部に圧迫感を覚えた。
えっ……?
膀胱が張っている。
明確な尿意だった。
あまりにも唐突に訪れた感覚に、彼女は思わず太腿を閉じた。
だが、こみ上げる生理的な衝動は、簡単に抑えられるものではない。
「どうしましたか、お嬢様?」
クロエが柔らかな声で問いかけてきた。
一瞬迷ったが、後に伸ばすことは無理そうだし、この後させてもらえる状況になるのかもわからない。
アデライトがいるので、いたたまれないが、勇気を出して口を開く。
「……あ、あの……おしっこがしたいの、クロエ……」
「そうでしょうね。前の部屋で、利尿剤入りの水をたくさんお飲みになってましたから」
あっさりと返された一言に、セリーヌは絶句した。
そして、はっとする。
前の部屋で、あの女性官吏に奉仕をさせられた直後、クロエに渡された水筒のことを思い出した。
あれだ──。
だが、そうだと気づいても、いまさらどうにもできない。自覚してしまった尿意は、理性ではどうにも抑えられなかった。
「クロエ……お願い。おしっこを、させて」
涙目で懇願すると、クロエは静かに頷いた。
「わかりました」
クロエが自分の前の紅茶のカップを空にし、そっと床に置く。
「零さないように、お気を付けてお出しください」
その言葉に、セリーヌの顔色がさっと変わる。羞恥に喉が詰まり、心臓の鼓動が耳に響いた。
「本当に徹底しているわねえ」
アデライトが、どこか愉しげに言った。
「これも調教です。さあ、お嬢様」
クロエはいつの間にか、いつもの冷徹なペドに戻っていた。
「でもぞくぞくするわ。やっぱり、信頼できるペドがいれば、専属もいいわねえ」
「ね、ねえ……ここでは……許して」
セリーヌは懇願の声を上げる。
さすがに、たったいままで使っていた紅茶のカップなんて……。
「命令です」
クロエがにっこりと笑った。
「ああ……」
尿意は限界まで膨らんでいた。セリーヌは内腿を擦り合わせ、身じろぎしながら、どうにか衝動を堪えようとするが、もう無理だった。膀胱は痛みすら伴い、身体全体が緊張に包まれていた。
「セリーヌ様は、お可愛いわね」
アデライトは陶然と呟き、自分のカップも空にした。
「……でも、一個じゃ足りないわよねえ」
アデライトがクロエが置いたカップの隣に、たったいま空にしたカップを並べる。
「ああ……」
ついにセリーヌは、小さな紅茶カップに、四つん這いの体勢で跨がった。グローブに包まれた手を床につき膝を置き、なんとか、小さなカップ目掛けて排泄の体勢をとる。羞恥で頬が焼けるように熱い。喉が渇き、吐息が震えた。
「こんな、こと……」
囁くように呟きやがら、股間の力を緩める。
しゅっと音がして、排泄がはじまった。
最初は奇跡的にカップの中に収まった。
小さくない水音を立てて、黄金色の液体が溜まっていくのがわかった。
だが、勢いは強すぎる。
それに、途中で止められない。
カップはすぐに満杯になる感じで、急いで次のカップにと思うのだが、動けないのだ。
そのときだった。
「ひいいっ……」
突然、クリトリスの奥から、びりっと電気のような刺激が走った。
「ひいいっ……な、なにっ……」
レコルが振動している。
クロエが、作動させたのだと理解するより先に、セリーヌの身体は震え、震源に快感が波のように広がった。
「だ、め……こんなときに……いやっ、いやああ……っ」
快感と羞恥とが絡まり合い、涙が滲む。ふたつ目のカップに向かう余裕もなく、飛沫が太腿から床に飛び散っていく。
「はっ、くっ、止まらない……っ」
レコルの振動に合わせ、身体がぴくぴくと跳ねる。
ようやくレコルが止まり、セリーヌは肩で息をしながら、ぐったりと脱力した。
放尿も終わったがカップに入るどころか、辺り一面がセリーヌのおしっこでびしゃびしゃだ。
「もう少し丁寧にできるはずです、お嬢様」
クロエが少しだけ声音を厳しくした。
「ああ、ごめんなさい……」
セリーヌは、涙目で謝罪した。
「凄いわ。そこまで追い詰めるのね」
アデライトは感心したように呟く。ちょっと、笑いながら。
一方で、セリーヌはなにも考えられない。羞恥の熱と快感の余韻が去った後に残ったのは、どうしようもない惨めさだった。
「汚したところは、舌で舐め取ってください。ここはアデライト様の部屋です」
「はい……」
クロエの命令に従って床に這いつくばり、自らの放った液体を舌で舐め取る。
塩味と金属臭が鼻腔に満ちる。
でも、セリーヌは顔を紅潮させながらも、命令に逆らうことはしなかった。
舌の先が、温かい液体に触れるたび、羞恥と屈辱が肌の内側からじんじんと滲み出してきた。
自分で零した媚びたおしっこを、命じられるままに舌で掃除する。ひと舐めごとに心が沈んでいくのがわかる。恥辱に震える身体は、しかし、どこかで悦びも覚えていた。
なにも言わず、ただ見つめるクロエの優しい視線を感じる。
「やっぱり、ヴェールスは奥が深いわね……」
すると、アデライトが囁いた。
セリーヌは声も出せず、羞恥に身体を固くする。
──床を、ようやく舐め終えた。
息をひとつ整えたとき、ふたたび、あの柔らかな声が響いた。
「それでは、お嬢様。次の部屋に参りましょうか……。アデライト様、多少、染みが残っておりますがお許しを」
クロエが立ち上がる。
セリーヌは慌てて起きあがる。
相変わらず、四つん這いだが……。
「構わないわ。夕方には今日のドミナが来るから、どうせ、もっと汚れるし」
アデライトが爽やかに笑う。
「ご、ごきげんよう……、アデライト様……。また」
セリーヌはなんとか声を絞り出した。
アデライトも立ち上がり、見送りの態勢をとる。
「ええ、セリーヌ様、是非とも。次は夜会でもお声をおかけしますわ。わたくし、今日のようなドレスを着て参ります。ヴェールスとして堂々と」
その短いスカート丈のドレスのことを言っているのだと思った。確かに可愛いし、似合ってる。
セリーヌは笑みを浮かべた。
「もちろんです。わたしから、お声をお掛けします」
「ええ、ありがとうございます、セリーヌ様」
アデライトは嬉しそうに笑った。
「では、お嬢様、次の部屋です」
クロエの言葉に、ひやりとした緊張が背筋に走る。
セリーヌは、床にある鎖を咥えて、ゆっくりと顔を上げた。