侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
鎖の感触を、唇の内側で感じながら、セリーヌは四つん這いのまま進んでいた。白銀のチョーカーに繋がれた鎖の先端を、自らの口で咥えている。廊下の石畳に灯りが淡く反射し、冷たさと規則正しい硬さだけが、足下から伝わってきた。
「次はこの部屋です」
ようやくクロエが立ち止まる。
セリーヌも、疲労で腰をおろしたいのを我慢し、その場で脚を揃えた。
首をあげて前を見る。
目の前の扉は、館のなかでも珍しく、艶やかだった。
明るい色調の木肌に、曲線的な意匠。花のモチーフが彫り込まれ、彩色された小窓からは、外の灯りを感じさせる光が柔らかく輝いている。重厚というより、華やか──。
まるで乙女の衣装箱のような扉だった。
クロエが、扉を軽くノックする。
「はーい」
弾けるような声が、内側から返ってきた。
クロエが扉を開け、セリーヌを振り返った。
「どうぞ、お嬢様」
クロエに促されるまま、セリーヌは四つん這いで部屋の中へと進んだ。
ふたりの少女が、椅子から跳ねるように立ち上がったかと思うと、真っ直ぐこちらに駆け寄ってきた。
「うわっ、すっごい。ねえ見て、この手……指も細い」
「脚までつるつるだよ。ほんとに貴族様のお姫様って、こんななの?」
「それに、これ……淫具だよね。お尻のとこ。うそ、着けっぱなしで来たの? すっご……」
「ねえ、この首輪、白銀じゃん。貴族様たちが言ってた“妖精ちゃん”だよ、これ」
ぽんぽんと浴びせかけられる声に、セリーヌは言葉を失った。ただでさえ鎖を咥えたままでは喋れない。けれど、たとえ自由だったとしても、なにも返せなかった気がする。
「ふたりとも。落ち着いきなさい」
クロエの声が背後から飛んだ。
それでも、少女たちは止まらなかった。目を輝かせ、セリーヌの髪や首元をのぞき込んだり、手脚の白さを比べるように見つめたり。好奇心と興奮とが、子犬のように全身から溢れ出ている。
セリーヌは、ただ圧倒されていた。
──自分よりも小柄だし、歳下なのかな? そうであるなら、まだ成人前……。十五……、いえ、十四……。いずれにしても、そんな幼い少女もここに……。
そんな感覚が、言葉よりも先に、心のどこかに浮かんでいた。
セリーヌは、そっと唇を開き、咥えていた鎖を床に下ろした。
石畳に触れた金属が、乾いた音を立てて広がっていく。
なにか言葉をかけなければと感じた。
彼女たちが平民であることは、すぐにわかった。だからこそ、貴族である自分が先に名乗るべきだと、ごく自然に思った。
「セリーヌよ。ただのセリーヌ。よろしくね」
ふたりがぱっと顔を輝かせた。
「あたしはミナ。クロエ様から“侯爵令嬢”って聞いてたけど……やっぱり、お貴族様たちが言ってた“妖精ちゃん”だよね」
「アヤだよ。手も脚も、白くて細くて……ほんとに、お姫様みたい。ねえ、“セリーヌ”って呼んでいいの?」
セリーヌは静かに微笑んだ。
「ええ。セリーヌでいいわ」
「やった。じゃあ、セリーヌ」
「セリーヌ、これって本当に淫具? ずっとつけたままだったの?」
すかさず、クロエの声が後ろから飛ぶ。
「ふたりとも、言葉を選びなさい。それに、お嬢様を呼び捨てにしないように」
ミナがはっとして口をつぐみ、アヤが戸惑い気味に言った。
「でも……セリーヌって、自分でそう呼んでいいって……」
「それよりも、あたし、本物のお姫様と話すの初めて──」
「わたしはお姫様じゃないわ。侯爵令嬢ってだけで」
セリーヌが返すと、ふたりは互いに顔を見合わせて、声を揃えた。
「でも、侯爵って、王様の次くらいに偉いんじゃないの?」
「あれ? でも、よく考えたら、クロエ様は“様”なのに、セリーヌを呼び捨てにしてるの、変かも……」
「やっと、そこに気がつきましたか。では、お嬢様への言葉は改めなさい」
クロエがぴしゃりと叱る。
セリーヌはくすりと笑って、クロエに向けてやんわりと口を開いた。
「いいのよ、クロエ。わたしがそう言ったんだから。本当にただのセリーヌと呼んで」
「はあ……、わかりました。お嬢様がそう言われるのなら」
クロエが嘆息した。
その瞬間、ふたりの目がまた丸くなった。
「……クロエ様に、命令したの?」
「セリーヌって、クロエ様より偉いの……?」
小さな混乱と驚きが、ふたりの声ににじんでいた。
侯爵という爵位が貴族のなかでも上位であることは、彼女たちも知っているのだろう。けれど、そこにへりくだる様子はなく、セリーヌがクロエに指示したことに対して、あからさまに驚いている。
このふたりにとって、爵位も身分も、まだ実感のない遠い世界のものなのだ。
生まれてからずっと、そうしたものが身体に沁みついていた自分とは、根本から違っている──セリーヌは、そう理解した。
「ところで、このふわふわした身体の毛皮、なに、セリーヌ? すっごく、ふわふわ……」
声のすぐ後に、アヤの手が無造作に伸びた。
指先が触れたのは、セリーヌの上半身に装着された、毛皮の装飾が施されたチョッキ状の装具──《ミュゼット》。
「──あ……ぁ、ああっ……」
セリーヌの喉から、抑えきれない声が漏れた。
全身が跳ねるように震える。
ミュゼットの内部に仕込まれた感応装置が、アヤの無邪気な指の動きを拾い、何十倍にも増幅して快感として返してきたのだ。
甘く、鋭く、容赦のない感覚が、腹部から胸、背中、脇腹、肩へと広がり、一瞬にして神経を焼いた。
「ふわふわって……。あっ、ほんとだ」
すると、さらに追い打ちをかけるように、ミナの手が加わる。今度は指一本でなく、手のひら全体。セリーヌには上半身全体を無数の手が触ったような感覚に増幅される。
「や……ああ、やめてええ……っ」
そのまま崩れ落ちるように、セリーヌは床に突っ伏した。
腰が砕けたように力が抜け、首から肩へとかすかに痙攣が走る。
胸元に張りついた毛皮が、余計に敏感さを煽っていた。
すっかり気を許していた。
無垢なふたりに囲まれて、警戒心が解けていた。
だから、油断した。
「え……なに? これ、なに?」
「あたしたち、なにか……まずいことした?」
戸惑う声が重なり、セリーヌの頭の上で揺れていた。
「やめなさい」
クロエの冷静な声が背後から落ちてくる。
「すみません、クロエ様……」
息を整えながらふたりを見る。ミナとアヤは、肩をすくめて頭を下げていた。
「ふう……。まあいいでしょう。お嬢様の午後の調教は一応、これで終わりです。夜に向けて、身体を清めましょう。ふたりとも、お嬢様から淫具を外して、浴室で洗って差し上げて」
クロエが、床に伏したままのセリーヌを一瞥し、落ち着いた声で告げた。
「はい、クロエ様」
「はい、クロエ様」
ぴたりと揃った返事が返ってきた。
セリーヌは、まだ微かに震えながら、目だけを動かして壁に取りつけられた小さな時計を見た。
針はすでに、夜の入り口を示していた。
「では、お願いします」
クロエの指が、指輪の魔石をそっと撫でた。微かな魔力の揺らぎが空気に広がり、セリーヌの身体を包む淫具たちが、ひとつ、またひとつと、静かに反応しはじめた。
「まず……この尻尾、取ってもいいの」
ミナの問いに、クロエがはっきりと答えた。
「ええ。取っていいです。ゆっくりと抜いてあげてください」
ミナの手が、セリーヌの尻へと添えられる。差し込まれた尻尾をゆっくりと引き抜こうとした瞬間──。
「あっ、あ、あぁ……っ」
鋭い快感が腹の奥を突き上げ、セリーヌは反射的に腰を浮かせた。感電のような刺激が脊椎を走り、膝が砕けたように崩れ落ちる。
「これ……奥のほうまで入ってたんだ。動かすだけで、すごく反応してる」
ミナは慎重に引き抜いていく。繊細な《アルフェ》の内部刺激が、わずかにでも動かされるたびに再伝導し、セリーヌは声を上げながら、快感に震えた。脚の間には、濡れた痕が淡く広がっていく。
「次は……こっち?」
アヤの手が腰の奥へ伸び、《オルフェ》の表面を探る。ちょうどそのとき、クロエの指輪が再び魔力を放った。
奥に挿入されていた《オルフェ》が、解除信号に応じてゆっくりと頭を覗かせる。
「んっ……あ、ん、んん……っ」
セリーヌは歯を食いしばった。もう伝導はないはずだ。それでも、奥から這い出る異物感があまりにも濃密で、身体が自動的に拒絶しそうになる。
「これも、いいの?」
そう言いながら、アヤが《レコル》に手を触れた瞬間だった。
「ああっ……っ」
セリーヌの全身が仰け反り、腰が抜けそうになる。抜けかけた《オルフェ》と《レコル》がなぜか、まだ連動していたようだ。そのため、膣とクリトリスの両方に極端な刺激が跳ね返った。
「そこには、触れなくていいです」
クロエの声が抑えた調子で響いた。
「えっ、でも……」
「《レコル》はまだ必要です。今は、そこに繋がっている鎖だけを外してください」
アヤが慎重に鎖に触れると、クロエの指輪が再び反応した。連動するロックが静かに外れ、鎖が《レコル》から滑り落ちた。
そのわずかな動きだけでも、セリーヌは胸の奥で呼吸が詰まるのを感じ、細く長い吐息を漏らした。
「次は、《ミュゼット》と、手首と足首の《パニエ・ミニュン》を外してあげてください」
「このチョッキみたいなやつ……けっこう重いね」
ミナがセリーヌの背中に回り、《ミュゼット》をそっと剥がしていった。
布が肌から離れるたびに、セリーヌの肩がびくびくと揺れた。毛皮の内側に仕込まれていた魔導接点が、最後の最後まで、性感を増幅させていたのだ。剥がし終える頃には、首元から腰にかけて、全体がうっすらと濡れていた。
「こっちは……グローブみたいなやつ?」
アヤが、手首を包む《パニエ・ミニュン》を解いていく。外されたあとの手首は、赤く染まり、接触部からは透明な体液が滲んでいた。続いて足首も同じように解き放たれ、接点からじんわりと汗とも体液ともつかない粘性が浮かび上がっていた。
すべてが外された。だが、《レコル》だけは、まだセリーヌの中心に嵌まったままだった。
セリーヌは、その場に沈み込み、静かに息をついた。全身から、魔的な緊張が、ようやく抜けていくのを感じていた──。
クロエは、ぐったりと倒れているセリーヌのそばに歩み寄り、静かに告げた。
「お嬢様、両手の親指を、頭の後ろでチョーカーに密着させてください」
セリーヌは言われるまま、ゆっくりと身体を起こし、後ろ手に両親指をチョーカーへと当てた。すぐに、クロエの指輪が再び微かな光を放ち、親指の根元の指輪とチョーカーが魔力によって密着し、離れなくなった。
「今日はふたりに頼んでいますので、身体はふたりに洗ってもらってください。お嬢様は、なにもしなくていいです」
たしかに、その状態ではなにもできない。セリーヌはただ目を伏せ、ふたりに抱えられるように立たされた。
そのとき、クロエがふたりを呼び寄せ、小さな声でなにかを囁いた。内容は聞こえなかったが、ミナとアヤが大きく目を見開き、顔を輝かせたのは見えた。
「やっと、弟たちにも仕送りできる……」
「これで、性戯の手管の訓練の成果、見せられるんだね」
セリーヌは不安になりながらも、視線をふたりに向ける。
「覚悟してね、セリーヌ。あたしたち、ここで性戯、手管を教わってるの」
「余計なことを喋ると、いまの話、なかったことにしますよ」
クロエの冷ややかな声に、ふたりはぴたりと口をつぐんだ。
そして、クロエは部屋に残り、セリーヌはふたりと部屋に備え付けの浴室に向かった。
脱衣所に着く。セリーヌにあてがわれている部屋と同じように、脱衣所と浴槽側の仕切りはない。浴槽側はこちら側の方が小ぢんまりしている感じだ。
ミナとアヤは、セリーヌをその場に待たせ、自分たちの服を脱ぎながら、湯気に目を細めた。
「こんな浴場、この館で初めて入るんだよね。入り放題なんて、夢みたい。ああ、弟たちにも入らせてあげたいなあ……」
「というより、浴場そのものが初めてだけどね」
「じゃあ……どうやって身体を洗ってたの?」
セリーヌは思わず訊ねた。
「週に一回、川で水浴びだよ。寒くても関係ない。夏は気持ちいいけど、冬は……つらいよ。でも、とてもじゃないけと、全員の身体を洗うほどの水を運べないしね」
「でも最近は、レヴァニア財団の偉い方が寄付してくれた魔道具のおかげで、孤児院の中でも水が出るようになったんだ。おかげで、冬でもなんとか週一くらいは身体が洗えるようになってさ」
「それまでは、冬はよっぽど汚れたときしか洗えなかったから……小さい弟や妹たちにとっては、本当に助かってる。財団って、ほんとに神様みたいだよ」
その言葉を聞きながら、セリーヌの胸に、静かに温かなものが灯った。
ルシアンがしていることが、現実に人々の暮らしを変えている。
ほんの少しだけ、誇らしいような気持ちが湧いた。
すると、ふと、ミナが笑いながら声を上げた。
「ねえ、セリーヌって──陰毛、ないんだね」
唐突なその言葉に、セリーヌは一瞬、息を詰めた。
言われて、あらためて自分の姿に思いが及ぶ。羞恥がじわじわと胸の奥を焼く。
オプセリカだから当然の処置なのだと頭では思っていたが、そうではないのかもしれないという不安が広がる。
ミナとアヤは、楽しそうに続けた。
「ほんとだ、つるつるだね。あたしたち、薄いけど……ちゃんとあるよ」
脱ぎかけた衣の下に、たしかに淡い影があった。
セリーヌは戸惑いながら口を開いた。
「……オプセリカは、みんな剃ってるんじゃないの?」
「ううん、ミナたちは違うよ。まだ候補生だし」
「オプセリカの修行もしつつ、ドミナの研修もしてる。あと、高級娼婦になるための勉強もね」
「娼婦になりたいの?」
思わず口にしたあとで、セリーヌは少しだけ不躾だったかと感じた。
「孤児って、普通の職には就けないんだよ。だから娼婦って、すごい仕事なの。ちゃんとした収入があって、仕送りできるんだよ」
「この館で勉強して、高級娼婦になれれば、お金を稼げるの。そうしたら、弟や妹たちに服とか、食べ物とか、送ってあげられるんだ」
その明るい声に、セリーヌの胸が締めつけられる。
彼女たちにとって、それは誇りであり、願いなのだ。
自分は、なんて浅はかだったのだろう。
「さっきから、弟たちって言ってるけど……本当の兄弟?」
セリーヌの問いに、ミナとアヤは顔を見合わせてから、微笑んだ。
「違うよ。あたしたち、孤児院の仲間なの。血は繋がってないけど、一緒に育った、本当の家族みたいなもの」
その言葉に、セリーヌは少し驚いた。
孤児院で育った子どもたち──その現実を、セリーヌはよく知らなかった。
セリーヌは、心のどこかで自分が恥ずかしくなった。
この幼さを残した身体に、どれほどの覚悟が詰まっているのか。
自分の方がずっと子どもに思えてくる。
「じゃあ、セリーヌもそろそろ、入ろうか」
ふたりが寄ってきて、自然な動作で両側から身体を支える。
両手を頭の後ろで固定されているが、自力では動けないわけではない。でも、午後だけで何度果てたのかもわからず、もう足腰に力が入らない。
支えてくれるのはありがたかった。
ふたりの手に導かれて、湯気の立ちこめる湯船の縁までたどり着く。
「脚、気をつけて。すべりやすいから」
「はい、腰おろして──ゆっくりでいいよ」
背中と脇腹にそっと添えられた手の感触がやさしい。
けれど、そこには不思議な緊張感もあった。
湯の縁の
最初は肩口から、やさしく流れるように。
「熱くない? もっとぬるくしようか?」
「ううん……だいじょうぶ……」
セリーヌがうなずくと、ふたりはにこりと微笑み、今度は胸元へと湯をかけてきた。
その角度は、わざとらしいほど低かった。
「んっ」
乳房を滑る湯の流れが、敏感な箇所に触れ、セリーヌの呼吸が浅くなる。
「レコルって、ずっと感じ続けるって本当?」
アヤが首を傾けて訊いた。
返答を待つ間にも、ミナの指が、そっと肩から鎖骨をなぞる。
「……っ、そんなところ……」
言葉に詰まったセリーヌの胸元に、また湯がかけられる。
ちょうど乳首の先端に沿うような軌道。
「くっ」
おかしな声が出そうになり、慌てて唇に力を入れる。
「セリーヌ、いま、勃ってるよ。ほら、乳首」
ミナが囁くように言う。
アヤの視線が下腹部に落ちる。
「こっちも、ちょっと動いてない?」
羞恥で顔が火照った。
「セリーヌって、すごく素直。感じてるの、伝わってくる」
ミナがそう囁くと、アヤが小さく笑って湯をすくった。
その手元から伝わる気配が、肌の上を撫でていく。
湯が、ゆっくりと胸の谷間を伝い、敏感な場所を掠める。
指先ではなく、湯だけ。けれど、それがかえってこたえた。
それどころか、さりげなく近づいては、髪に息を吹きかけ、耳元で囁くように笑い、あからさまにセリーヌの乳首や下腹部を見つめている。
アヤが背中にまわり、首筋にそっと唇を寄せた。
触れてはいない。けれど、吐息がくすぐる。
肌の上を伝う湯と、さりげない視線や言葉が絡み合い、セリーヌの中の熱が、ゆっくりと高まっていく。
けれど、そのすべては、どれも中途半端で終わる。
乳首に湯がかかればすぐに止まり、指が太腿をなぞればすぐに引いていく。
セリーヌは、ただ息を殺して、彼女たちの手の中に身を任せていた。
自分が敏感すぎるだけなのだと、何度も言い聞かせながら。
湯の熱さも、湯気も、心のざわめきも──すべてが霞んで見える。
「そろそろ、お湯に入ろっか」
ふたりが声をそろえて言った。
セリーヌはかすかに頷いた。
ふたりが左右からセリーヌの腕をそっと支える。
両手は頭の後ろに添えられたまま、動かせない。
親指の根元の指輪が、チョーカーの裏側に吸いつくように固定されているからだ。
「あっ」
慎重に身体を起こされ、湯縁に足を下ろした瞬間、熱がふとももを撫でて、思わず息が漏れた。
慣れたように支えるふたりに導かれ、ゆっくりと湯に沈んでいく。
ミナの手は、セリーヌの腰のやや下──ちょうどレコルのすぐ近くに添えられた。
アヤの手は、臀部のやや奥、尾てい骨のすぐ下にある。
ふたりの手が、わずかに触れているだけなのに、そこからじんわりと熱が広がっていく。
胸の奥がざわつく。
気にしすぎなのか、それとも違うのか。
でも、なにかを口にする余裕はなかった。
湯気が揺らぐ湯の中へ、ふたりに支えられて沈んでいく。
腰まで湯に沈むと、ふたりがそのまま膝をついて背中と肩に手を添えた。
「じゃあ、身体、ほぐしていくね」
「全部、任せてね」
耳元でそう囁かれる。
肩から腕、そして背中へ──やさしい圧とともに手のひらが滑っていく。
湯の中で、ゆるやかに円を描きながら、ふたりの手がセリーヌの肌を撫でていく。
首の後ろ、脇の下、胸の谷間、太腿の内側──。
どこもかしこも、わずかに触れているだけなのに、肌の奥で痺れるような熱が生まれる。
「んっ……」
脇の下のやわらかな肉を指先が押し広げるように撫でたとき、セリーヌは喉を震わせ、腰を引きそうになる。
肌がじんと震え、全身がふるりと震えた。
「んんっ……」
胸の下をくるりと撫でて、そのまま乳房の付け根を指先がなぞったとき。吐息が漏れ、肩が跳ね、背筋がぴんと伸びる。
もうひとつの手は、太腿の内側。湯の中で滑る指が、肌の敏感な筋を掠めた瞬間、セリーヌの足が小さく痙攣する。
「んぅ……っ」
抑えた声が鼻にかかって響き、全身が震えた。
腰骨のあたりから下腹部へと向かう、微妙な曲線を指先が這ったとき。お腹の底に熱が宿り、脚がぴんと張って突っ張る。
そして、レコルの嵌っているクリトリスと乳首の三箇所付近を同時に激しく揺すられる。
「ああっ、ちょっと──」
流石に抵抗しようとするが、ふたりにがっしりと押さえつけられる。
「こら、動かないで、セリーヌ」
「随分と凝ってるよ。もっとほぐさなきゃ」
ふたりに両脇を挟まれて密着されて動けないようにされる。
それだけじゃなく、彼女たちの脚がお湯の中で左右から伸び、セリーヌの両脚の内側に入れられた。
大きく股を広げた状態から動けなくなる。
セリーヌの脚の付け根と乳房を解しているふたりの手の動きがさらに速くなった。
「ああっ、だめええ」
大きな波がこみあがり、快感で頭が真っ白になりかける。セリーヌは歯を食い縛りお腹に力を入れて我慢しようとした。
でも、できない。
「んんんんっ」
全身を突っ張らせた。
でも、ふたりの手が計ったように、ぎりぎりで離れる。
「あはあっ──。くっ……ああ……はあ、はあ……」
達しはしなった。
でも、出口のなくなった身体の大きな疼きの波が全身をうごめく。
セリーヌは脱力した。
「ふふふ、セリーヌって、感じやすいんだね。愛撫してるわけじゃないのに」
「そ、そうなの……。だから、手加減を……」
やっぱり愛撫ではないのだとわかる。
そうであれは、恥ずかしいのはセリーヌの身体だ。
恥ずかしいけど、敏感なセリーヌの身体のことを白状するしかない。
「大丈夫だよ。マッサージで感じる人は多いから。ここには、あたしたちしかいないし、思い切り声を出しちゃえばいいの」
アヤが、すっと手を乳房に添えてくる。
「んっ」
一気に熱がさらわれた場所だけでなく、下腹にも貫き、それ以上は言葉にならなかった。
その手が鎖骨の下に滑り、乳首を避けるようにして周囲をなぞる。
ふいに、湯を吹きかけられた。
びくんと背筋が反り返り、セリーヌは「んっ……あっ……」と鼻声を洩らした。肩が小刻みに震える。
「こっちもね」
ミナの手が、太腿のつけ根に沿って滑ってくる。思わず身を跳ねさせたが、ふたりの脚が左右から絡み、閉じようにも閉じられなかった。
そのまま、内腿の内側が幾度も撫でられる。
胸のマッサージも続いている。
「んはああっ」
頭の奥が痺れるような感覚に包まれ、腰が浮くほど跳ねた。
湯の中で、セリーヌの腰がわずかに浮きかける。
抑えきれない衝動が、下から突き上げてくる。
「んっ……んぅ……っ……」
だが、ぎりぎりで止まった。ふたりがマッサージを中断したのだ。
ほっとする。その一方で、身体の疼きが全身を灼いていた。
「大丈夫だよ、セリーヌ」
「うん、あたしたちに任せてね」
すぐにマッサージは再開された。
湯の中に、肌と肌が触れ合う音だけが響く。
抑えきれない声が、微かに漏れ始める。
胸の奥まで、のぼせるような熱が満ちていく。
また、くる──。
「んはあああっ」
喉から声を発し、全身を震わせながら達しかけた。
だが、またもや寸前で止められる。
そして、また優しく再開される。
ふたりの手は、意図的に敏感な場所を避けながら、すれすれを撫で続けた。
何度も頂きの直前で止められ、セリーヌの身体は焦らし尽くされていく。
湯に浸かっているだけなのに、全身が粟立つ。思考が曇り、言葉にならない。
セリーヌは、ただ湯に沈みながら、目を伏せて声を堪えていた。
「じゃあ、そろそろ、身体を洗おうか」
その声に、セリーヌははっとして目を開けた。
湯の熱に包まれた身体を、ふたりがそっと抱えるようにして立たせる。
「あんっ」
だが、脚に力が入らない。
ふらりと揺れた瞬間、支える手が緩んだ。
「あれ、立てない?」
ミナがいたずらっぽく囁いた。
「じゃあ、ちょっとだけ──ごめんね」
アヤが、そう言って、セリーヌの臀部を支える。
「あっ、いやっ──」
悲鳴が漏れた。
アヤの指が、滑るようにアナルの中へと入ってきた。
同時に、ミナが乳房をわしづかみにしてくる。揉まれながら、震える。
「ねえ、セリーヌ、あたしたちの練習相手になってよ」
「うんうん、もう何度もいきそうになったよね? あたしたちの性戯、どうだった?」
ふたりが、両耳に同時に息を吹きかけてきた。
「ひやっ」
全身に雷のようなくすぐったさが走る。
両手は使えず、身体をあちこち愛撫されて、逃げることができない。
そのまま、耳への息遣いとともに、手の触れる場所が移ろっていく。
だが、アヤの指だけは、なおもアナルの奥で動き続けた。
「いやあっ、だめっ」
一気に快感が貫き、全身が跳ねる。
しかし、またぎりぎりで止められる。
「あんっ」
セリーヌは膝を崩した。
だが、ふたりは許さない。
アヤの指はまだ中にある。
再び、ふたりの手が這い始めた。
「も、もうやめてっ」
悲鳴のような声が出た。
「だったら、練習台になってよ」
「身体を洗いながらでいいから、ちょっとだけ」
「うんうん、セリーヌが“して”って言わなきゃ、最後まではやらないから」
「さもないと、ずっと続けるよ?」
今度は三個のレコルを、ゆっくりと揺すられる。
「ひあっ、ああっ、わかった。わかったから──」
セリーヌは、わけもわからず承諾してしまった。
「あはは、よかった」
「やったね」
お尻の中の指が抜かれ、レコルからも手が離れる。
「くっ」
セリーヌは前のめりに崩れかけた。
それを、アヤとミナが笑いながら支えた。
湯気の向こうに、ふたりの笑い声が溶けていく。
そのときになって、ようやく──セリーヌは、すべてがふたりの仕掛けだったことに気づいた。