侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
「いやああああっ──」
突き上げられた瞬間、セリーヌの口から悲鳴のような声がこぼれた。
喉の奥で震えたその声は、予期しない恐怖による反応──だったはずだった。
だが、ほんの一瞬で、それが塗り替えられていく。
えっ、ルシアン様──?
すぐに、そうわかった。
意識より先に、身体が確信していた。
鼻をかすめる匂いがあった。
汗と皮膚が混じった乾いた金属と革のような匂い。それは、繰り返し胸に吸い込んできた男の匂いだった。
背後から抱きすくめられて、耳元に落ちた吐息が髪を揺らした。
喉の奥で深く、淡く鳴る、あの独特の呼吸音。口数の少ない彼が、いつも愛撫の合間に漏らす、ひとつぶんだけ重たい息も肌が記憶している。
そして──なによりも、膣の内側が、その形を知っていた。先端のわずかな反り、片側にある節のような張り出し。動くたびに膣壁の特定の部分が、的確に擦れていく。
突き抜けるはずだった恐怖が、静かに引いていく。
代わりに、どくり、と鼓動が打った。
竦んでいた身体が、すうっと熱を帯びていく。硬直していた背中の筋がほどけ、脚の付け根がじんわりと疼き出す。
膣が、ゆっくりと濡れていくのを感じた。
それは、拒絶ではなかった。防衛でもなかった。
快感だった……。
全身の皮膚が、ひとつずつ蘇るように、彼の動きに応え始めていた。
「ルシアン様……」
自分でも驚くほど自然に、その名が唇をついた。
ぴたり、と動きが止まった。
耳元に、ひと呼吸ぶんの静寂。
「……どうして、わかった?」
静かだったが、その声には確かな驚きが混じっていた。
セリーヌは、くすくすと笑った。
「それは、わかりますよ……」
拘束されていることも、背後から貫かれていることも変わらない。
けれど──それがルシアンだとわかるだけで、すべてが変わっていた。
快感が、全身へと膨れ上がっていく。
「えっ、そうなのか?」
ルシアンの動きは、止まったままだ。
セリーヌの背に添えた手が、わずかに力を緩める。
いまだに、後ろから組み伏せられ、後背位で挿入されたままだが、一旦、律動は中断さえている。
「……久しぶりだから、少しは趣向を凝らしてやろうと思ってたのにな」
そして、ぽつりと呟いた。
声音は穏やかだった。けれど、その言い回しには、どこか拗ねたような翳があった。
演出を壊されたことを残念がっている──?
でも、セリーヌは、胸の奥がぎゅっと縮むのを感じた──。それはないんじゃないかと思った。
しかし、それ以上に、少し当惑もしていた。
そういうことを言う人ではなかったはずだ。あのルシアンという人は。
感情を読ませない。常に見えない仮面で自分を隠している。セリーヌにも、そういう接し方だった。
でも、ほんのわずか、彼の声音に柔らかさが混じっていた気がする。
皮肉のようでいて、どこか無防備な響きがあった。
彼が、こんなふうに自分の感情を言葉にするなど──いままで一度もなかった。
もしも、ほんの少しでも、セリーヌに気を許してくれたのであれば……。それはそれで嬉しいのかもしれない。
けれど、ルシアンはすぐに黙り、なにもなかったように動きを戻した。
ルシアンの腰が、ゆっくりと動きを戻した。
ひとつ、深く──まるで探るように。
「あんっ」
セリーヌはびくんと身体を跳ねさせる。
「まあいい。仕切り直して、再開だ──。ここ、だろ……いちばん感じるのは」
淡々とした声だった。けれど、どこか愉しんでいる響きがあった。
セリーヌは、返事をする余裕もなかった。喉の奥から、声にならないあえぎが漏れた。
「あっ、ん……あ、ああっ……っ」
全身が熱を帯びていく。膣の奥がとろけそうだった。
本格的な律動が始まる。
寸止め責めで沸騰しそうなくらいに熱かったセリーヌの身体は、あっという間に快感の臨界点を迎える。
「あんっ、ああっ、あっ、ル、ルシアン様……っ、わ、わたし……い、いま、いきそうで……っ。で……すっ」
それ以上が言えない。唇を噛みしめ、背をそらす。
「……ああ、許可が要るんだったな。どうするかな……」
意地悪く笑う声が、耳元を撫でた。
「あああっ、だめえっ、いくっ、いきそうっ、あああっ、きょ、許可を……。お、お許しを──、ああああっ」
「そういう契約だったっけ。勝手にいったら罰だったな」
ルシアンが後ろから律動しながら笑う。
熱い波は大きく跳ねあがり、セリーヌを追い詰める。
セリーヌは必死に下腹に力を入れて耐える。
でも、すでに臨界は越えている。懸命に耐えているだけ……。
「ああっ、あっ、ああっ……はっ、はい……っ、ですから、お願いいい……。んんんっ」
セリーヌは、背中で両手首を手枷で拘束されたまま、腰を突き出すようにして必死に懇願した。
ドレスの中の乳房が揺れ、全身から汗が滴る。全身ががくがくと震えていた。固く勃起している乳首がドレスの内側に幾度も擦れて、痛いくらいに感じる。
「んんんっ、い、いかせてください──っ、あ、あああっ、ああっ、ルシアン様……お、お願いいい──っ」
「駄目だ。まだだ」
ルシアンの動きが、いっそう深く、そして、緩やかになる。
波がかすかに引く。
寸止めされる感覚が、セリーヌの神経を削っていく。
「ああっ、あっ、んぁ……っ、も、もう……いやああっ、壊れちゃいます……っ……っ」
「なら、壊れてみろ。俺の中で」
「──っ、あ、あああっ……」
その一言で限界が崩れた。
「いっていい。許可する──。僕もいくっ」
「んふうううっ、あっはああっ」
その瞬間だった。セリーヌの全身が跳ねた。
背が弓なりに反り返り、脚がつっぱり、爪先が硬く床を蹴った。
膣の奥が強く、ぎゅっと収縮する。
まるで生き物のように、ルシアンのものを咥え込んで放さない。
「っあ──ああああっ……っ、いく、いきます……っ、いってるっ……あああっ……」
喉が震え、涙が溢れた。口が開き、舌がわずかに覗いたまま、喘ぎが止まらない。
膣が痙攣しながら、絶え間なく締めつける。その締まりに、ルシアンも低く息を吐いた。
「……くっ……。す、すごいな。まるで吸い込むみたいだ」
ルシアンの動きが止まる。深く沈めたまま、そこで、どくん、と彼の脈が跳ねた。
そのまま、精が注がれた。どろりとした熱が、膣の奥に押し込まれていくのをしっかりと感じた。
「あはああっ……。はあ、はあ、はあ……」
セリーヌの身体が、がくがくと震えた。
そして、脱力する。
腕も、脚も、もう力が入らない。
喉からは、震える息だけが漏れていた。
「……んっ……ありがとう、ございます……ルシアン様……」
すべてを受け入れ、全身で絶頂を迎えたセリーヌは、そのまま脱力して首を垂れた。
そのときだった。
「んんんっ、んんんぐううっ」
身体の下から吠えるような声が聞こえ、びくん、と背中が跳ねた。
セリーヌは、思わず耳を澄ます。身体の下から、どこかくぐもったけれど獣じみた呻きが上がっていて、それは、呻きというより──吠えるような音だった。
あっと思った。
忘れていた。彼女が、いた。
セリーヌは──その女性に、舌で奉仕していたのだ。四肢を大きく寝台の上で開かせられている彼女を、間近で匂いを感じながら舌を這わせていた。
手首と足首に枷を嵌められ、寝台の四隅から伸びる鎖で繋がれていて、身動きもろくに取れない彼女を必死に……。
幾度も、彼女の股間から溢れる濃い体液が舌に乗って、喉の奥に滴ったのを覚えている。
とても敏感な女性で、セリーヌの舌で幾度も達してくれたのだ。
その最中に、老人の姿をしたルシアンが、後ろから襲ってきたのだった。
だから──いま自分は、彼女の脚のあいだに膝をついたまま、後ろから貫かれて果てたのだと、改めて思い出した。
いまなど──彼女の全裸の身体の上に、自分の胸を重ね、完全に突っ伏すようにしてしまっていた。
セリーヌは慌てて身を起こそうとした。
けれど、すぐにはうまくいかない。
絶頂の波が強すぎて、まだ腰に力が入らなかった。両手は背中で封じされているし、なかなか起きあがれない、
もぞもぞと身をよじるようにしていると、すぐ背後から手が伸びてきた。
老人の姿をしたルシアンだった。
セリーヌの身体に腕を回し、そっと引きあげてくれた。
けれど、その手つきは、妙に優しかった。
「……あのう……、ごめんなさい……」
認識のできない女性に、セリーヌは俯いたまま謝った。
ヴィサリエの効果で、目の前の女性の顔も輪郭さえも識別できない。
ただ、怒っている──ような、気配だけが、なぜかはっきりと伝わってくる。
ルシアンが、軽くセリーヌの背をなでた。
「もう、これは脱ぐか」
そう言って、セリーヌのドレスの背に手をかけた。同時に背中で、金属音に似た魔道音がして、手首の枷が外れる。
セリーヌは、自分の姿を見下ろした。ドレスはもうしわくちゃで、しかも、あちこちに体液の染みが広がっていた。奉仕のときに幾度も、身体の下の女性に、“潮”というのをかけられたのだ。
布地は体液を吸って、湿って重くなり、色味まで鈍って見える。
「言う機会がなかったが、よく似合っていた。……でも、これはまた買ってやるな。金だけは腐るほどある」
冗談とも本気ともつかない、ルシアンの淡々とした声……。
セリーヌは、なにも言えなかった。ただ、ルシアンの手にされるがままに、背中の拘束を外され、前からもドレスを脱がされていく。
すぐに、身を包んでいた衣服が、すべて床に落ちた。完全に裸になった。濡れた太腿に冷たい空気がまとわりつく。
すると、ルシアンが、手元の黒い腕輪に指を当てた気配を感じた。
振り返ると、──その身体が、すうっと揺らぎ、まるで衣を脱ぐように、老人の姿が消えていく。現れたのは、全裸のルシアンだった。
その刹那だった。
部屋の隅の空間が、音を立てて割れたみたいに、まるで空気そのものが切り裂かれたかのように、ふたりの影が現れる。
ソニア。クロエ──。
ふたりとも、ちょうど首からネックレスを外したところだった。
金属的な淡い光を放つそのペンダント──セリーヌは、すぐに思い出した。
《シルヴァー=ノーテス》
あれは──以前、学園での羞恥責めのときに使われたもの……。視界と気配を遮断するための、露出調教用の魔具だ。
つまり──さっきまで、この部屋にすでにいた?
ずっと……?
「……呆れたわねえ、ルシアン。ちょっと、可哀想じゃないの、セリーヌが」
先に口を開いたのは、ソニアだった。肩をすくめるように、苦笑した。
「いまのは、断固として抗議いたします。明確な契約違反です」
次いでクロエだ。
その声音は、冷静でありながら、しっかりと怒っていた。
「なにが契約違反なんだ?」
ルシアンが、あからさまに難しい顔をした。
至極まっとうな問いかけだった。けれど、クロエはきっぱりと返す。
「セリーヌを、ルシアン様以外の男性に犯させない──。それが、最初の取り決めでした」
声は低かったが、怒りの色がはっきりと乗っていた。口調も表情も、まったく崩れていないのに、静かな憤慨が全身からにじみ出ていた。
ルシアンは、面倒くさそうに肩を竦める。
「いまのは、老人に扮した僕だ。明白だろう」
「けれど、お嬢様は、最初、まったくそうとは思っていらっしゃいませんでした」
クロエの声が、わずかに強くなった。
「正体を明かすどころか、逆に偽っておられました。その結果──お嬢様は、心の底から怯えられていました。あれは、明らかに“他人に犯される”という認識下での行為です。精神的には、十分、契約違反に該当します。いまさら、ばらしてしまえば関係ないなどというのは、詭弁です」
そこまで言って、クロエの頬がかすかに紅潮した。
ルシアンは、目を細めた。が──すぐに、ふっと鼻で笑った。
「いや、ばらすもなにも。僕が後ろから挿れた瞬間にばれてた。あれは、完璧に気づいてたぞ」
くぐもった嘆息がクロエの口から漏れた。納得のいかない顔だった。
セリーヌは、たまらず口を開いた。
「クロエ……お願い。もう、いいのよ。わたしは……あの、わかってたから。本当に……」
そう言って笑ってみせたが、どこか引きつっていた。羞恥と驚きで、まだ体温が上がったままだったのだ。
ソニアが、その場を和ませようとしたのか、少しだけからかうように口を挟んだ。
「ルシアンが、こんなお茶目をするなんて珍しいじゃない。セリーヌに甘えてるってことよ。ね、許してあげてもいいんじゃない?」
「お茶目、ですか……?」
クロエの声音には、いまだ釈然としない響きがあった。
そのときだった。
寝台の上の女性が、ふたたび声を上げた。
「んんんっ、ぐるるっ……っ、んんああっ」
明らかに怒っていた。ギャグ越しにも、剣幕が肌に伝わってくる。唾液がはみ出すほど叫んでいる。
セリーヌは、ぴくりと肩を震わせた。
全身が緊張する。完全に怒っている。それも、ただの抗議ではない──誇り高い者の怒り。自分がそんな相手の上で、無様に達してしまったのかと思うと、身体の芯まで冷える気がした。
「このお嬢様は……お怒りのようね」
ソニアが、肩をすくめるようにして言った。口調は半ば呆れていたが、その目は冷静だった。
ルシアンは、淡々とした声で続ける。
「まあ、どうせ恥部を見せ合うんだ。早いほうがいいだろう」
そのまま寝台の上にあぐらをかき、拘束された女性の頭側に身を寄せた。そして、彼女の耳元に手を伸ばす。左耳にかかっていた銀細工のイヤリングに触れると、小さな魔道錠がカチリと音を立てて外れた。
──その瞬間だった。
認識阻害具《ヴィサリエ》が解け、女性の顔が露わになる。
「ええええええ──っ」
セリーヌの絶叫が、室内を切り裂いた。
目の前に広がる光景を、理解するのに時間がかかった。否、理解したくなかったのかもしれない。汗に濡れ、裸で拘束された姿。それが──
「ジャンヌ……お姉さま……?」
声が震えた。信じられない。けれど、どこからどう見ても、それは──
そのとき、ソニアがジャンヌの口元に手を伸ばし、ボールギャグを外した。口枷が唾液の糸を引いて外される。くぐもった息があふれた。
「はあ……っ、はあ、はあ……ル、ルシアン──」
息を整える間もなく、ジャンヌは怒りの込もった目でルシアンを睨みつけた。その声音に、容赦はなかった。
「ふざけるな……よりによって、セリーヌに……私みたいなものの奉仕をさせるなんて……なにを考えてるんだ──」
「……お姉……さま……?」
セリーヌは戸惑った。姉の怒りは、自分に向けられているのではなかった。もしかして、最初からずっと、ルシアンだけに?
「しかも……あんなに汚いものを、かけさせて……あの子の口の中にまで……あんなにおめかししていたのに。ほんとうに……ひどいぞ、ルシアン……」
「え……?」
セリーヌは目を見開いた。怒っていたのは、自分が辱められたことではない。セリーヌに“そんな酷いこと”をさせた──その事実に、ジャンヌは心底、怒っているのだと、ようやく気づいた。
──ああ、わたし……。
奉仕の最中、無我夢中で舌を這わせていたこと。幾度も達していたジャンヌの身体。口の奥にまで溢れてきた体液のこと──全部、思い出していく。
セリーヌは、震える指で床に手をつき、深く頭を下げた。
「ごめんなさい……ジャンヌお姉さま……。わたし、知らなかったとはいえ……」
喉の奥が詰まり、声がうまく出ない。涙が落ちる。羞恥でも怒りでもない。ただ、心の底から、姉への申し訳なさがこみ上げていた。
──けれど。
「……い、いや、謝らなくていいんだ。謝りたいのは私の方だから……。ごめん、セリーヌ。どうしても……我慢できなかった。せっかく綺麗にしてたのに、汚してしまったね……」
ジャンヌはしゅんと肩を落としていた。怒りのあとの脱力。そして、なによりも、弱々しい声音。
いつも凛としていた姉の姿しか知らなかったセリーヌは、かえって狼狽した。
「そ、そんな……お姉さま、あたしのほうこそ……」
「でも、元気そうで……よかったよ」
その言葉に、セリーヌは堰を切ったように泣いた。
「お姉さまこそ……。ずっと、心配していました……」
涙を拭おうともせず、顔をあげる。目の前にいるのは、鎖に繋がれた全裸の姉だった。けれど、目だけは昔と同じ。深くて、優しくて、強かった。
「十日近く前に……お姉さまが行方不明になったと聞いて。騎士団の駐屯地にいるって……拷問を受けてるかもしれないって聞かされて……」
「一応な」
ルシアンが短く口を挟んだ。
「その日のうちに、ルシアン様とソニア様が助けに行って……ずっと、無事を信じていました。でも、本当に、こうして……会えて……」
言葉の途中で、喉がつまった。もう、声にならなかった。
ジャンヌは黙って見つめていた。顔は赤く、まだ混乱もある。けれど、その目だけは──ただ、セリーヌを見ていた。
すると、ルシアンが自分の膝を打った。
「……というわけだ。あのとき宣言したとおり、ジャンヌは報復として、僕の性奴隷であり、愛人として、今日からここで暮らす」
セリーヌはルシアンに視線を向けた。
「ルシアン様……。お姉さまを助けてくださって、ありがとうございます。でも──いったい、どういうことになったのですか?」
ルシアンは、セリーヌの視線を静かに受け止めた。
「とにかく、無事に救出した。もちろん、正規の手続きじゃない。とても、表には出せない方法を使った」
低く、いつもの調子だった。
「……第一騎士隊が襲撃されたっていうのは、新聞で読みました。騎士隊が関係していた違法な人身売買が背景にあったって……。でも、それきり続報がなくて……」
「第二報以降は、全部止められた。検閲だ。裏を言えば、箝口令だ。関係者の口も封じられたようだ。王家が絡んだ。なにせ、王軍の失態と不祥事ということになるしな」
「そんな……」
セリーヌが息を呑むと、ルシアンはジャンヌの方に目を向けて、肩をすくめた。
「まあ、見てわかるとおり、見た目は元気だ。狂ってもない。頭はね」
「なにもかも、元気だ──」
そう言ったのは、ジャンヌだった。まだ拘束されたままだが、声には確かに力があった。
ソニアが小さく笑う。
「日数がかかったのはね──こっちも隠れていたからよ。騎士隊を相手に、十三人も殺したんだから。万が一にも追跡がかかってないのを確認するためにね。それと、少しは回復してからじゃないと、この人がセリーヌには会いたくないって駄々をこねたのよ」
「この人とは、なんだ。言い方に気をつけろ」
ジャンヌがわずかに顔をしかめて反論したが、その口調には本気の怒りというより、少し照れたような響きが混じっていた。
「でも、この仕打ちは、酷いぞ、ルシアン……」
「……それが、性奴隷だろう」
ルシアンがそう言うなり、彼の指先がすっと伸び、ジャンヌの胸元を軽く弾いた。
「ひいいいっ」
小さな悲鳴とともに、ジャンヌの身体がぴくりと跳ね、大きく背を反らせる。セリーヌは目を丸くした。まるで電流でも走ったような反応だった。
痛みではない。
明らかに、欲情した反応だ。
あのジャンヌお姉さまが──?
セリーヌは、目を丸くした。
「知らなかっただろう? 貴方のお姉さんは、かくのごとく、とっても敏感な身体をしている。本人は隠したがってたけど、どうせ一緒にここで暮らすんだ。早いうちに暴露しておいた方がいいと思ってね」
ルシアンは、まるで悪びれる様子もなかった。
「ル、ルシアン──。こ、この鬼畜……っ」
顔を真っ赤にしながら、ジャンヌは小さく唸った。けれど、その怒気の裏に、どこか複雑な照れと恥じらいが滲んでいた。
セリーヌは戸惑いながらも、心のどこかで安堵している自分に気づいていた。
──ジャンヌもまた、わたしと同じ。いや、わたしたちは……。
そのときだった。セリーヌの脳裏に、ルシアンの言葉がよみがえる。
──これからは一緒にここで調教を受けて暮らす。
ルシアンの口から確かにそう聞いた。ふたりで、と。
「……ルシアン様。いまの……どういう意味ですか?」
セリーヌは、視線を彼に向けた。問い詰めるような口調ではない。けれど、確かに確かめたかった。
「当然だろう。そもそもジャンヌは報復の対象だ。本人が望んで館に落ちたとしても、それはそれ、結果は変わらない。ジャンヌはここで、僕の性奴隷として暮らすことになる」
言い切ったその声は、どこまでも淡々としていた。
「セリーヌ。君は先に館に入った。つまり先輩だ。……そういうつもりで、接してくれ」
セリーヌは返す言葉を失っていた。けれど、胸のどこかで、不思議な感情がじわりと膨らんでいくのを感じていた──。
ルシアンは、淡々とした口調で言った。
「──とにかく、今回は命がけの仕事だった。だが、やり遂げた」
その言葉には誇張も驕りもなく、ただ事実としての重みだけがあった。
「今夜は特別だ。全員、裸になれ。クロエもだぞ。裸の宴だ」
「わ、わたしもですか……?」
クロエが目を瞬かせて立ち尽くす。目元が泳ぎ、頬にはさっと赤みが走る。
「いつもセリーヌを苛める役ばかりだ。たまには役目を変えてもいいだろう。明日からは日常が戻る。だが今夜だけは特別だ。だから、いいから、全員──裸になれ」
有無を言わせぬ口調だった。
その横で、ソニアがくすりと笑った。
「……珍しく、上機嫌ね」
妖艶な仕草で、服の裾に手をかける。するりと外套を脱ぐと、肩が覗いた。指先が滑らかに肌を撫で、やがて下着一枚の姿になる。
初めて見るソニアの身体……。
とても妖艶で美しい。
そして、その長い首には、セリーヌよりも細くて目立たないが、色は同じ白銀のチョーカーがある。
「まあいいわ。親友を責めるというのも、案外、興味あるから──」
ソニアはそのまま、寝台にあがり、ジャンヌの脚のあいだに屈み込む。
「な、なにが親友だ……ふざけるな。わ、わたしの拘束を解け──。ひああああっ」
ジャンヌが怒気を帯びた声で叫ぶ。だが、誰も応えない。ルシアンも、ただ知らぬ顔で横を向いたままだ。
一方で、そのジャンヌが声をあげて、拘束を引き千切らんばかりに大きく悶えた。ソニアがくすくすと笑いながら、ジャンヌの内腿に舌を這わせたのだ。
一方で、クロエは動かずにいる。指先が服の端に触れている。だが、脱ぐには至らず、そのまま硬直していた。
セリーヌは、寝台の上から、静かにクロエを見つめていた。
不意に、伸ばした。
迷っているクロエへ向けて。
ためらいはなかった……。
「クロエ……」
小さく、名を呼ぶ。
「あっ、はい、お嬢様──」
その声に、クロエは顔を上げた。
セリーヌはくすくすと笑う。
視線が絡み合い──そして、セリーヌは、やさしく微笑みかけた。
「……わたし、あなたを誘ってるの。来て……」
その言葉は、ただそれだけだった。
クロエの頬が、ふっと熱を帯びる。
「は、はい、お嬢様……」
セリーヌの指が、クロエの手に触れる。
クロエが握り返す。
しかし、すぐに手を離し、クロエは身につけているものをその場で脱ぎ始めた。