侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
ルシアンの部屋には、時計の音ひとつなかった。
壁の向こうの空気が動いているのを感じるほど静かだった。
けれど、皮膚の下だけが、やけに騒がしかった。落ち着かなくて、熱くて、どこにも逃げ場がない。
セリーヌは、頭のない木馬台に、上半身を預けている。
硬い木肌が胸元を押し返し、肩から肘にかけて、かすかに痺れるような感覚が続いていた。
四肢はそれぞれ木馬の脚に向かってぴんと伸ばされ、動かすことはできない。肘も膝も張らされ、腰だけが不自然に浮かされていた。
制服の上半身はそのままに、下半身にはなにも纏っていなかった。スカートはもちろん、このところ学園に通うときには身につけせてもらっている“ペニティ”という小さな下着も容赦なく剥ぎ取られた。
双臀が突き出され、空気が滑りこむたびに、露わな肌が存在を主張していた。
すぐ隣には、ジャンヌがいる。
同じ姿勢。同じ木馬に、お尻を並げるようにして拘束されている。上半身には訓練用の胴衣。戦場で剣を振るう者が着るような、簡素でしっかりとした作りのもの。
だがその下には、なにもない。脚も尻も太腿も、すべてが隠されず、並べられている。
ふたり、肩を並べて、四肢を広げ、後ろを差し出しながら。
まるで、なにかの儀式に備えているかのようだった。
静けさのなかで、ジャンヌの声が落ちた。
「……だ、大丈夫か、セリーヌ?」
「……うん、ちょっと変な感じ……。さっきから、じんじんしてて……」
答える声は、震えていた。羞恥と、熱と、言葉にできないなにかで、喉の奥が乾いていた。
ジャンヌは、小さく息を吐いた。
「だったら……正しいんだろう……。こういうものは、楽じゃない方が筋が通っている……」
返された声にも、わずかな掠れがあった。
「お姉さまは……辛くないの……?」
「辛い……。感じてるし……。思ったよりもむず痒い……。疼くだけで痒みはないっていったくせに……あいつら……。でも、声には、なるべく出さないのが……私の流儀でね……。まあ、最近はその流儀も怪しいけど……」
会話は、それだけだった。
だけど、交わされたわずかな言葉で、ふたりの鼓動が、かすかに重なったような気がした。
「学園では──今日も、クロエは、意地悪だったか?」
背後の緊張が満ちていくなかで、ジャンヌが唐突にそう言った。
「……うん。今日は寸止めだけ……だったけど」
セリーヌは素直に応じる。羞恥が体温と一緒に押し上げてくる。
「……けど?」
「セグナのチョーカーをつけられて、どんなに達しようとしても止まるの……。でも、自慰はやめちゃいけなくて……。授業の合間のたびに、イルヴィア液を乳首とクリトリスに塗り足されるから我慢できないし……」
「イルヴィア液……あの強烈な掻痒液か……。相変わらず容赦ないな。いやなやつだろう、あの女」
「……ううん。わたしのこと、ちゃんと追い詰めてくれるの。ヴェールスのわたしが満足できるように……。優しいの」
「それは優しいのか?」
「うん。優しいの……。ところで、お姉さま。髪、似合ってるよ」
セリーヌは横に顔を向けてジャンヌの髪に視線を向けながら言った。もともと、ジャンヌの黒髪は、腰まで伸びるほどに長かったのだ。ジャンヌは前々から、動くのに邪魔だし、手入れも大変なので切りたいと言っていた。でも、貴族令嬢のあいだは、なかなかできなくて、やっとルシアンの許可を受けたらしい。
今日は、肩のところで切り添えられている。
活動的なジャンヌに相応しく、また、それでいて、女性らしさも失わず。ジャンヌらしい髪型だとセリーヌは心から思った。
ジャンヌは短く整えられた髪を揺らし、ふっと笑った。
「ああ。ルシアンに髪師を呼んでもらった。でも──その見返りに、少しな」
「なあに?」
「……新しい淫具の試作。試験台だ」
「どんな試作品……?」
「……言いたくない」
「ふふ……ならいいわ」
セリーヌはくすりと笑った。
淫具の試験台……。それだけで、どれほど大変だったかは、想像に難くなかった。
ジャンヌは自尊心が強い人なので、多分、自分が惨めに泣き叫んだというようなことを思い出したくないのだと思う。
木馬の上で並ぶ肩が、わずかに震えた。笑いか、熱か、それとも羞恥か、わからなかった。
「……でも、その胴衣。もしかして、今日も午後は訓練?」
「ああ。ルシアンの護衛を任されることになって。腕が鈍ってるとまずいだろう?」
「稽古をしてないのに、変な感じって言ってたよね?」
「身体は軽い。むしろ、意識が……妙に研ぎ澄まされてる感じだ。全身が性感帯みたいに敏感になったのって、やっぱり──関係あるのかもな」
ふたりの会話は、断片的に続いたが、やがて、沈黙が再び落ちた。
セリーヌとジャンヌの呼吸だけが、薄い膜のように空間を震わせている。セリーヌもそうだが、ジャンヌの呼吸も荒い。アナルに塗られている媚薬はかなり強力なものらしく、本当は暴れたいような強い疼きが襲い続けているのだ。
そのとき、お尻の側の扉の蝶番が小さく軋んだ。
足音が、背後から近づいてくる。
硬い床を滑るような音。ふたり分……。
誰なのかはわかっている。
ルシアンとクロエ……。
でも、それ以上の情報はない。
セリーヌは木馬に拘束されたまま、振り返ることができなかったし、視線にはジャンヌの横顔と肩のほかには部屋の壁があるだけなのだ。
お尻を向けている側の気配だけが濃くなる。
なにかを手にしているのはわかった。革の匂いと、金属の乾いた響きが、空気を震わせていた。
「待ったか? ああ、十分にこなれてはいるな。汗もかいているし、股からの愛液で随分と木馬を濡らしているな。特にジャンヌは、尻の穴が開いたり閉じたりして、そこだけなにかの生物みたいだな」
ルシアンだ。
「煩い──。最近、下品だぞ、ルシアン──」
ジャンヌが後ろに向かって怒鳴り声をあげた。
横を見ると、ジャンヌの顔は真っ赤になっている。だが、これは、怒りではなく羞恥だ。
また、セリーヌには、ルシアンがわざとジャンヌを辱めようとして、そんな物言いをしていることもわかった。だって、ジャンヌはルシアンに揶揄われて、しっかりと欲情しているのだ。眼はちょっとだけ虚ろになってるし、急に息が速くなった。
こうやって、調教されて意地悪されるけど、きっとジャンヌはルシアンのことが好きだろう。
ジャンヌは、言葉には出さないが、態度には出やすい。
セリーヌには、それがわかる。
「ふふ、お嬢様もお辛そうですね。じゃあ、準備をしますね」
クロエの気配──。彼女が、すっとセリーヌの脇にしゃがみ込む。
太腿のあたりに、冷たいものが当たる感触──。革の帯だった。
それが巻かれた。
締められる。
血流を妨げるほどではないが、皮膚の内側にまで入り込んでくるような、妙に馴染む圧だった。そして、クロエはセリーヌの横のジャンヌの側にも向かうと、同じような動きをした。
多分、セリーヌと一緒のものをジャンヌの太腿にも巻いているのだろう。
「ルシアン様、おふたりへの《エルノーラ》の装着を完了いたしました」
クロエの声が静かに落ちた。対面のルシアンに向けられたものだ。
ルシアンは頷いた気配を見せると、姉妹の中間に立った。相変わらず、セリーヌたちの後ろ側であり、この状態では姿を視界にいれることはできない。
視界に入らないまま、落ち着いた声だけが部屋に響いた。
「本日の調教は、“共鳴と制御”の初期訓練だ」
その声は、感情を抑えているのに、なぜか熱を帯びていた。
「共鳴……と制御?」
ジャンヌは怪訝そうな口調だ。
セリーヌにも不安は拡がる。
一体、なにをさせられるのだろう。
「そうだ。お前たちには、それぞれにアナルに刺激を与える。だが、その反応は、両者に装着された《エルノーラ》に完全に解析される。ベルトは感度、緊張、疼き──すべてを魔核に送る。必要があれば補正もされる。魔核はベルトに埋め込んでいて、そこから脳に魔道信号を送り、ふたりの性感を完全に統御する」
ルシアンの声が、ふたりの頭上からゆっくりと降ってくる。
「互いの快楽への反応は、互いの責めの基準にもなる。どちらかが勝手に進ませれば、もう一方に容赦なく、罰として跳ね返る」
セリーヌは、ごく小さく息を呑んだ。
「つまり、今夜は、おふたりで並ぶという意味を、学んでもらうのだそうです」
クロエが横から言った。
その言葉には、どこかで優しさが滲んでいた。
だが、それはどこまでも冷静な調教師の優しさだった。
もっとも、ふたりが語った意味は、まだ少しも理解できなかった。
「いや、全くわからないけど?」
セリーヌの横で木馬に拘束されているジャンヌが声をあげる。
「……まあ、とりあえず、味わってもらった方がいいか」
ルシアンの声音には、余裕と確信が混じっていた。
それが、どこか厳かに響くのは、この部屋の空気のせいだろう。
「先に言っておく。いまから始まる苦悶から逃れるには、ただひとつ──完全な共鳴だ」
共鳴──。
意味は、わからなかった。
でも、“逃れる”という言葉だけが、セリーヌの胸の奥に重く沈んだ。
「なに、それ……。ルシアン、どういう──っ」
ジャンヌの声が、遮られた。
小さな金属音とともに、魔核が唸りを上げる。
「んああっ、ああっ──。あ、ああ、ルシアン──」
その直後──ジャンヌの肩が震えた。
はっとして、セリーヌは隣を見る。
ジャンヌの唇が引き結ばれている。眉が寄せられ、耐えるように目を伏せている。
「っ……くはっ……あ、ああ……っ」
震えながら、ジャンヌが喉の奥で押し殺すように声を漏らした。
それは呻きとも、喜びともつかない、ぎりぎりの音だった。
後ろでなにをされているのか──。
「やあ……まだ……っ、こんな……いきなり、来るなんて……っ」
ジャンヌの声は、いつになく素直だった。息の合間にかすれが混じっている。
それだけで、どんな刺激が背後から加えられているのか、セリーヌにも想像がついた。
「くはっ、だめええっ──」
次の瞬間、ジャンヌの身体がわずかに跳ねた。
隣のジャンヌが、わずかに震えた。
息を呑むような気配と、肩の揺れが伝わってくる。なにかが始まったのだと、セリーヌは感じた。けれど、それがなにかは、見えない。
そのときだった。
自分の腰のあたりが、じんと熱を帯びた。
皮膚の奥で、脈を打つような感覚。
まるで見えないなにかが、内側に忍び込んできたような──。
自分のものではない“疼き”が、這い上がってくる。
「……あれ……なに、これ……?」
戸惑いが言葉になった。
その震えは、じわじわと下腹を焦がしていく。
「ああっ、なに──? なにこれ、いやああっ、うああああっ」
セリーヌは木馬の拘束を引き千切らんばかりに暴れた。
もちろん、びくともしないが、突然に襲いかかってきたのは、あの絶頂寸前の極限の感覚だ。それが全身に迸り、しかも数瞬ではなく、ずっと続いている。
なにもされてない。
なんの刺激もないはず──。
それなのに、おかしな感覚だけが全身を席巻する──。
しかも、終わらない。
普通はすぐに終わるはずの、絶頂感覚の直前の状態がいつまでも継続される。
セリーヌは、わけもわからずに苦悶した。
膝が震え、腰が抜けそうになる。
けれど、次の瞬間──。
すうっと、それが引いていった。
始まったときのように突然……。
期待だけを残して、なにも起こらなかったかのように。
快感の“入口”で遮られたような、唐突な終わりだった。
とてつもない、快楽の苦悶だけを残して……。
「なんだ、これ……。いまのは……。突然に終わって……」
ジャンヌの声が聞こえた。
苛立ちとも、羞恥ともつかない、小さく押し殺した吐息。
「うわっ、また──。くあああっ」
でも、またジャンヌの嬌声──。
「あんっ、ふわああっ──。ああっ、またあ──」
すると、またしても、ジャンヌが悲鳴──。
セリーヌには、それが寸止め責め特有の悲鳴だとわかった。
でも、ただの寸止めではない気がする。
そして、次の瞬間、セリーヌの下腹が、またもや、ぐんと収縮した。
「ああっ、いやあっ」
こらえていた熱が、またもや、まったく別の“疼き”に姿を変えた。
やはり、なにも触られてない。
だけど、衝撃だけがセリーヌを貫く。
さっきと同じ。絶頂寸前のあのもどかしい感覚だけが延々と長く身体を襲い留まり続ける──。
「……っ、く……や、やめてええ……っ、そんなの……」
押し寄せてくる感覚は、快感ではなかった。
けれど、身体は抗えない。
なにもしていないはずなのに、責められている──そうとしか思えない。
「こんなの……いやああ……っ」
熱いものが滲んでくる。
見えないなにかに、意識の奥をかき回されているようで……息が詰まりそうだった。
そして、またしても、突然に中断され、熱が引いていく。
「ふふ、じゃあ、今度はお嬢様の番ですね。《アルヴェリア》を挿入します。お嬢様のお尻の中の敏感な場所を探して、同時に最適の感覚で刺激するそうです。快感を逃がすのは難しいですよ」
クロエだ。セリーヌの背後に差し出された気配があった。
金属の細い軋み。革と油の匂い。
それはまだ、触れられてすらいないのに、身体の奥が勝手に身構えていた。
クロエが静かにしゃがみこむ感覚があった。
「あっ、こ、怖いわ、クロエ……」
その気配に、背中がこわばる。
だが、拘束された四肢はびくとも動かない。
《アルヴェリア》──? それはなに──?
「大丈夫です。気持ちいいだけです。力を抜いて……そう、深く息を吸ってから、今度は吐いてください」
「う、うん……」
言われた通りに、大きく息を吸って吐く。
けれど、それはすぐ、喉の奥で止まった。
冷たいものが、臀の隙間をなぞったのだ。
指ではない。もっと細くて硬いもの。
棒──のような感触だった。
そして……差し込まれた。
「ひんっ」
熱が、ひたひたと上がっていた。
抑えきれないなにかが、奥からせり上がってくる。
腰の奥で振動する異物が、まるで生き物のように動いていた。
ただ震えているだけではなかった。
内壁の、触れてほしい場所ばかりを探し当て、そこにわずかに、しかし確実に刺激を加えてくる。
「あ、ああっ、ああああっ、だめっ、クロエ、だめええ──。あああああっ」
自分では辿りつけない場所。
普通では与えられない数と種類の快楽。
それが、内側から、静かに、でも確実に形を持ち始めていた。
汗が、首筋を伝う。
喉が渇いて、呼吸が詰まる。
なにかを言おうとしたが、声が出なかった。
「あんっ」
けれど、それは唐突に、途切れた。
熱は、止まった。
振動も、消えた。
余韻すら残さず、ぴたりと切られた。
その空白に、なにが起きたのかもわからなかった。
「うあああっ、な、なんだこれええ──。うああああっ」
ただ、隣から──ジャンヌの悲鳴が轟いた。
身体をきしませる音。
吐息が震え、押し殺された声。
はっとした。
さっきのセリーヌに起こった苦悶──。
おそらく、同じものがジャンヌに発生している。
「……っ、うあああああ……ああ……っ」
叫びではなかった。
むしろ、こらえようとする意志のにじむ、低い唸り。
やっとわかった。
おそらく、いま仕掛けられているのは、苦悶の伝達──。
自分に与えられていたはずの快楽が消滅し、そのままの形で……いや、意地悪く増幅して、もうひとりに襲う。
絶頂寸前のぎりぎりの感覚を長く味合わせた挙げ句に突如として中断する苦悶として……。
そうやって、セリーヌの絶頂感覚が、隣の姉の中へ性の苦しみとして流れていったのだ。
見えない鎖で、つながっている。
そんな感覚が、皮膚の下で疼いた。
しばらく、隣の呻きがやまなかった。
ジャンヌは唇を噛み、押し殺そうとしていた。けれど、その苦悶は深く、激しく、内側から噴き出すものだった。
「……これ、まさか……」
やがて、木馬の上で脱力したような感じのジャンヌが低く、呟いた。
声にわずかな震えが混じっている。だが、それでも、理性を取り戻し始めていた。
「お前、いま……達しかけてたな……セリーヌ……?」
セリーヌは答えられなかった。羞恥と、罪悪感が入り混じって、喉がふさがっていた。
だが、返事はなくても、それで十分だったらしい。
ジャンヌは、かすかに呻きながら、言葉を絞り出した。
「……それがこっちに……来たのか……。絶頂の直前の……感覚だけを……。もしかして、その前は私の絶頂の感覚のときには、セリーヌに……」
「そういうことだ」
そのとき、頭上からルシアンの声が降ってきた。
変わらず淡々とした口調。だが、その内容は冷酷だった。
「ようやく理解したようだな、ジャンヌ。共鳴の失敗は、痛みや不快には転化しない。だが── 一番脆い瞬間の感覚を意図的に増幅して、相手のなかに生む」
静かな足音が、ふたりの背後を巡る。
ルシアンは続けた。
「……お前たちは、それぞれの感覚を媒介として、相手の内面に触れようとしている。だが、うまく届かなければ、その過程で発生する快感は行き場を失って、暴れまくる……。相手の苦悶として……」
「セリーヌが……達しそうになるたび、私が……こうなって、私が達しようとすると……」
ジャンヌの声が低く重くなった。
「逆も同じだ」
ルシアンは言った。そして、続ける。
「絶頂の“許可”は、共鳴の合致にしかない。どちらかが恥じ、どちらかが拒めば、扉は開かない。だが、失敗の代償だけは、確実に相手に残される」
その言葉に、セリーヌの胸の奥でなにかがざらついた。
自分のせいで、ジャンヌが苦しんでいる……。
逆に、自分が背ければ、ジャンヌが達したときに、自分が地獄を見るのだろうか。
冷たい汗が、背筋を伝って落ちた。
「では──続けようか。じゃあ、クロエ、いくぞ」
ルシアンが、再びジャンヌの後ろの屈むような音がした。
「では、お嬢様もいきましょう」
クロエの言葉──。すぐにお尻の穴に、さっきの棒状の淫具が差し込まれた。
「あんっ」
「うわっ」
しばらくのあいだ、セリーヌとジャンヌの苦悶は続いた。
深く、静かに──そして、執拗に。
ふたりの身体に仕掛けられた魔道具は、クロエとルシアンによって容赦なく動いている。
腰の奥から、わずかに脈打つ感触。
それは、自分の意思とは無関係に、身体の内部を撫で上げ、じわじわと感覚を膨らませていく。
いつのまにか、鼓動と呼吸がずれていた。
どこまでが自分のもので、どこからが仕組まれたものなのかも、もうわからなかった。
「……っ、や……っ……だめ……っ」
隣から、ジャンヌのかすかな声。
また達しそうになっているのがわかる。
熱が、伝わってくるようだった。
彼女の声は抑えられ、それでも息の端に震えが混じっていた。
「……すまない……セリーヌ……また……っ……」
その言葉が終わるよりも早く、セリーヌの全身が、内側から跳ね上がった。
「ああああっ、いやあああっ」
耐えられないほどの熱が、腰の内側を一気に焼くように走る。
さっきの自分が得かけた感覚──それが、今度は暴力的な形で押し込まれた。
膝が震え、声が出る。
けれど、頑張った。
ジャンヌを責めたくはなかった。
でも、それは、また繰り返された。
「また……ごめん……っ……。すまない……」
ジャンヌの声が震えた。罪悪感がにじんでいるのがわかる。
セリーヌの背中は、汗で濡れていた。
呼吸は浅く、喉の奥が焼けるほど乾いている。
なによりも、心が……揺れていた。
ふたりで共鳴しなければ、この罰は終わらない。快楽の地獄──。
それなのに、心が合わされば合わされるほど、痛みを伴う。
「お姉さま……大丈夫……よ……」
やっとの思いで、セリーヌは声を出した。
自分でも驚くほどに、震えていた。
「……わたし……平気だから……ちゃんと……ふたりで、できるように……頑張るから……」
それは、言い聞かせるような言葉だった。
けれど、隣から、息を殺すような気配が返ってくる。
ジャンヌは、泣いていたのかもしれない。
それでも、前を向こうとしていた。
──どれだけ繰り返しただろう。
ジャンヌの絶頂未遂が、セリーヌに襲いかかる。
セリーヌが堪えきれずに熱を溜めれば、次はジャンヌが悶え苦しむ。
終わりのない往復。
それが罰だとわかっていても、どちらも止められなかった。
「……くっ……セリーヌ……また……来そう……。も、もう、私は……」
「……ああ、わかんない……でも、もうすぐ、だからっ──」
息も絶え絶えだった。
身体の奥は焼けつき、触れられていなくても疼いているような錯覚に包まれていた。
「もう少し……あと少しだけ──待って、もうちょっと」
セリーヌの声は震えていたが、心は定まっていた。
「ごめん、また来る……っ」
ジャンヌの叫びが先にあがる。
セリーヌは、来る、とわかっていた。
だから──心を合わせた。
どこかで、姉と繋がる自分を、心の奥で受け容れた。
そのときだった。セリーヌにも絶頂感覚がきた。
「……っ、……いまっ、いまでいいっ、合わせて……」
セリーヌは絶叫した。
「あ、ああ……ああああっ……一緒に……一緒に、セリーヌ──」
次の瞬間、熱が走った。
でも、それは、もう刃ではなかった。
ふたりの身体の奥で、別々にあったものが重なる。
疼きが重なり、振動が共鳴する。
どこかで溶け合い、どちらのものかも曖昧になる。
──そして。
「んはああああっ」
「あああ、ああああっ」
声が、重なった。
喘ぎでも、悲鳴でもない。
ただ、ふたりがようやく辿り着いた、ひとつの音だった。
痺れるような大きな快美感の津波が襲い、貫き、暴れて、しばらく留まってから……ゆっくりと鎮まった。
木馬の上で、ふたりはしがみつくように震えていた。
なにも言葉が出ない。
繰り返した寸止めのすえの巨大な絶頂感と──。
そして、そのあとの虚脱感と幸福感と──。
隣では、ジャンヌもまた、セリーヌと同じ至福に包まれている表情をしていた。
「……ありがとう……セリーヌ……。あと……ごめん……」
「……ううん……ジャンヌお姉さまこそ……ありがとう……」
互いに見えなかった顔が、微かに笑っていたように思えた。
──ようやく、終わった。
熱はひとつの線となって昇り、そして、ふたりの間に拡がったまま、穏やかに引いていった。
振動も、圧も、全てが収まり、ただ呼吸だけが残った。
セリーヌは、頭を上げられなかった。
けれど、すぐ横にいるジャンヌの息遣いが、同じように乱れているのがわかった。
ふたりの身体の奥が、まるで呼応するように、静かに脈打っていた。
──繋がったんだ。ほんとうに。
すると、背後から音がした。
歩く音ではなかった。ただ、革靴がわずかに床を擦ったような、静かな気配。
「……よくやったな」
低く、けれど、どこか温度を帯びた声が落ちた。
ルシアンの声だった。
いつもは冷たい仮面のような声が、そのときは、少しだけ柔らかかった。
「最初は、すべてがずれていた。だが、終わりには──その身体の奥で、心を合わせた。すばらしい成果だ。おかげで天国に行けたろう?」
足音が横から近づく。
セリーヌの腰の真後ろで止まる気配があった。
「じゃあ、淫具は外してやろう。これはご褒美だ。まずは、正妻様からだな。セリーヌ。次にジャンヌだ」
一転したルシアンのお道化た声──。
次いで、セリーヌの後ろで衣擦れの音がした。
怒張の先端が肛門に当てられる感触──。
「ああっ、あっ」
じわりじわりと入ってくる。
ルシアンの怒張に間違いなかった。
これまで淫具は多く受け入れたが、ルシアンのものを受けるのは初めてだ。
だが、痛みはない。
それよりも、圧倒的なほどの快感がお尻から全身に広がる。
「あっ、ああっ、き、気持ちいいです──」
セリーヌは心から叫んでいた。