侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
66、67話は同時投稿されております。ご注意ください。
湯気の奥で、ルシアンが口を開いた。
「最初に言っておく。財閥は解体する」
その瞬間、湯の温度が変わったような気がした。
セリーヌは、自分の手がぴくりと動くのを感じた。
その手は、ジャンヌの腰に添えたまま──湯のなかで、しっかりと彼女の身体を支えている。
向かい側のソニアの周りに、湯の波がわずかに揺れた。反応は、言葉ではなかった。けれど、たしかに波紋が走った。
セリーヌは、ジャンヌの背中にも、わずかに入った力を感じ取っていた。
ぴたりと張り詰めた空気が、誰の皮膚にも伝わっていた。
そんな空気を、ルシアンの笑みがやわらげた。
「いずれはね……。もっとも、いまではない」
声の調子が変わった。まるで悪戯を明かすような無邪気さ。
セリーヌは、思わず息を呑んだ。あの冷徹な男が、まるで少年のように笑う。──それが、どこか嬉しかった。
「……本気で、そうするつもりだったけどね……」
ルシアンは湯の縁に腕を乗せたまま、視線をどこにも定めずに話し出した。
「皇太子の命は性急だった。要求は苛ついたし、混乱は避けられなかったと思う。……けれど、あの命が指し示した方向、そのものは間違っていない」
低く、乾いた声。その奥に、熱があった。
セリーヌは、じっとルシアンの横顔を見つめていた。
湯気に滲むその目は、遠くを見ていた。
「いまの財閥は強すぎる。ほとんどの流通も、融資も、研究機関さえも──僕が手を回さなければ動かない。これは、僕が倒れればすべてが止まるということだ。いや、倒れなくても、僕自身が腐敗するかもしれない。そんな状況は適切とはいえない」
セリーヌは小さく頷いた。
その意味は、ずっと前からわかっていた。
ルシアンひとりに、あまりに多くのものが集まりすぎている。
それは、奇跡のようでいて、脆くもあった。
「経済は、競争と挑戦によって育つものだ。独占は進歩を停める。金と権力が一箇所に集中すれば、腐敗が始まる。いまの貴族社会がその証拠だろう?」
ルシアンの目が細くなる。その視線が湯面をすべって、ふたりの女たち──ソニアとジャンヌに触れる。
けれど、セリーヌの位置からは、ジャンヌの背中しか見えなかった。
ソニアの横顔も、湯気の奥にぼんやりと霞んでいた。
彼女たちがどんな表情をしているのか、セリーヌには見えない。
だが、湯のなかに伝わる微かな震え──皮膚越しに伝わる温度──それだけで、ふたりの心の揺れが、わかる気がした。
「分けて競わせる。商会や都市ごとに独立させる。身分や家柄とは別の価値を育て、挑戦する者が報われる構造にしなければならない。……それが、この国を変える鍵だ。貴族院を通した正式の王国の施策となれば、財閥内も従わざるを得ない。僕はそうするつもりだった……」
セリーヌの胸に、熱が灯る。
──変える。
この人は、本気でそう言っている。
自分たちを、ただ弄ぶための存在ではない。
この国を、本気で作り変えようとしている。
「……じゃあ」
ソニアの声が聞こえた。低く、どこか喉の奥から搾り出すような声音だった。
「じゃあ……あたしたちのしたことは、無駄だったの?」
セリーヌは思わず、ジャンヌの腰に回した腕に力を込めた。
ジャンヌの身体がかすかに揺れたのは、同じ気持ちだったからかもしれない。
けれど──ルシアンは首を横に振った。
「無駄じゃない。むしろ、あれはあれで良かったと思っている」
静かな言葉だった。だが、その重さははっきりとした。
「君たちが、あのとき自分の意志で動いたこと。それが、皇太子にとっても大きな意味を持った。僕たちが完全に貴族院を動かせるという現実を見せつけられた」
セリーヌは胸の奥が詰まるような感覚を覚えた。
ルシアンの言葉には、どこか、感謝のような、優しさのようなものが混じっていた。
「君たちの行動があったからこそ、いま、皇太子との対話が成立した。そして、君たちが僕のために、そこまでしてくれたことを……僕は、嬉しく思っている」
そう言って、ルシアンは顔を伏せた。
「ありがとう」
──その横顔に、セリーヌは見たことのない影を見た気がした。
あの人も、やはり人なのだと──そう思った。
完璧でも、絶対でもない。
だからこそ、自分たちはここにいる。
この館は、牢ではなかった。
ここは、わたしたちの場所だった。
ルシアンのそばでなら、自分の痛みも過去も、意味のあるものになる気がした。
「……ありがとう……って。だったら……もう少し手加減してくれてもいいじゃないか」
ふいに、ジャンヌの言葉が聞こえた。
不貞腐れたような声だった。
すると、ルシアンがふっと笑った。
「それはそれ、これはこれだ、ジャンヌ。君が罰を受ける“口実”を作ったのは君たち自身だ。僕に愉しみの機会を準備してしまうのが悪い。それに──賭けてもいいが、あの懲罰で感じていたろう?」
ルシアンの言葉は揶揄うような響きがあった。
「うう……」
ルシアンの言葉に、湯面が跳ねた。
セリーヌは、ジャンヌの背中が、恥ずかしそうにぎこちなく震えているのがわかった。
「さっき、皇太子との話し合いが──成立したって言ったわよね?」
すると、ソニアが声をあげる。
ルシアンは頷きながら、大きく頷いた。
「うん。財閥は解体しない。かわりに、王室からの──恒久的な顧問団を受け入れる。顧問団といっても、ただの見張りではない。経営権の半分を王家に保持させることになった」
湯のなかで、誰かが小さく息を漏らした気がした。
セリーヌはジャンヌの肩越しに、ゆっくりと胸が膨らむのを感じた。
「王家に経営のかなりを委ねるということだ。これは僕の将来的な分割構想の最初の一歩になる。顧問団さえも、一つの経営体として組み込めば、独占のままではない形に向かえるんだ」
ソニアが目を細めて問う。
「もしかして、その代わりに、ベルモンド伯の──あの娼館と人身売買組織の処置を王家に約束させた?」
ルシアンは静かに頷く。
「うん、話し合い通り、王家が主体となって責任を持つ。皇太子が約束した。売り買いされた女性たちも、可能な限り保護されることになっている。今度こそ、皇太子は喜んで受け入れた。財閥の一部経営権の譲渡が見返りだしね。貴族院の議決で負けたと思っていたときに、こっち側の提案で王家に財閥の力を渡すんだ。レオは喜んでいたよ」
セリーヌは、胸が震えるのを感じた。
──ここまで考えていたのか。
──本当に、この国を変えるつもりなんだ。
湯気の向こうで、ルシアンが静かに含み笑いを浮かべた。
「王家との協力体制、それがなければ財閥の改革はできない。民衆の信頼を得られなければ、改革は反動に壊される。僕が支配しているといっても、分割には財閥内の抵抗は大きいだろう。だからこそ、王家との妥協という形にした。これが政治的にも経済的にも、安定と改革の両立点になるはずだ」
ルシアンが続けた。
「なるほど……それなら、財閥は解体されなくても、味方になると、王家は評価しそうね。それに、財閥内も従わざるを得ない」
ソニアが答える。
ルシアンは、わずかに笑って頷いた。
「そういうことだ。財閥の解体と改革は違う。壊すのではなく、組み替える──そういう構造的な競争と牽制を仕込む。それが僕の目指す“分割と自由競争”の初手だ。僕が真に目指すのは、財閥が社会を支配することじゃない。実力があれば階級を問わず報われる社会の構築だ」
セリーヌは、胸の奥で何かが砕けるような音を聞いた。
──崩壊ではなく、再構築の響き。
あの日からここまで、すべてが回収されるような瞬間だった。
湯気の向こうで、ルシアンが湯縁に身を預けるようにして、静かに言葉を継いだ。
「いずれにしても、最初に言ったとおり、財閥を解体するのは……いまではない。ずっと先だ」
低く、濡れた声だった。
「僕は、将来のために、少しずつ経営からは手を引いていくつもりだ。だが、それはすぐにはできない。いま、この国のあらゆる魔道晶石、魔道具の製造と流通、工場も、商家も、運送業も──すべての根幹が僕の掌のうちにある。僕が倒れれば、王国の経済そのものが崩れる」
セリーヌは、ごくりと喉を鳴らした。
「王家とは和解した。最大の潜在的脅威は、もはや敵ではない。……貴族たちも、もともと敵ではなかった。そして、今後は表向きには敵対していた門閥貴族たちも、雪崩を打って、財閥の傘下に入っていく」
ルシアンの目元が笑った。
「たとえば、ヴァレンティーヌ侯爵家は──僕に敵対したが受け入れた。その結果、かつてない繁栄を手にすることになる。そうする。対照的に、最後まで敵対の姿勢を崩さなかったベルモント伯爵家は……二年と持たない。影も形もなくしてしまう。予言ではなく、僕の意思の問題だ。これを肌で見せられれば、門閥貴族たちは、意地を張ってはいられない。王家も僕に取り込まれるしね」
セリーヌの前で、ジャンヌが息を呑む気配が伝わった。
「──お前たちが貴族たちの醜聞を突きつけ、脅してくれたおかげでもある。あれは実に有効だった。もう彼らは、僕には逆らえないだろう」
からかうような調子で、ルシアンはソニアとジャンヌを見る。
そして、続ける。
「王家も同じだ。僕はゆっくりと、しかし確実に、皇太子の力を削いでいく。数年後には、皇太子が国王になったところで、王家が財閥の敵になることは、もはや不可能になる」
ルシアンの声音はどこまでも冷静だった。
「だから──僕が退くのは、まだ先だ。完全な解体は三十年後。……その頃には、レヴァニア財閥による金権支配が完成されているだろう。逆説的だけれど、そこまで強固にした上でなければ、綺麗に壊すことはできない」
そして、ふっと微笑んだ。
「──大きなものを壊すには力がいるんだ……。そのために、君たちには子を作ってもらう。まずは、責任をもって、ソニアとジャンヌだな」
ぴたりと、湯面の波が止まった。
「えっ、子?」
悲鳴のような声をあげたのは、ジャンヌだった。
顔は見えないが、明らかに動揺しているのが、セリーヌにはわかった。
「ソニアには今日から受胎薬を服用してもらう。ジャンヌは自然に任せる。避妊薬は与えない。……セリーヌ、まだ十六歳だし、君は少し先だ。でも、必ず産んでもらう。僕の子を。……もしかしたら、クロエにも頼むかもしれない」
「えっ、は、はい」
クロエがびっくりしたように応じた。
沈黙が、浴場に満ちる。
セリーヌは思考が止まりそうになるのを感じた。
けれど、心の奥にあったのは拒絶ではなかった。
ただ、圧倒されていた。
ルシアンの未来を語る声が、あまりにも自然に「自分たちの子」を含んでいる──その事実に。
「……そ、そんなこと、いきなり言われても……」
ソニアが呆れたように声を上げた。だが、どこか声が裏返っていた。拒絶ではなく、戸惑いに近い。
「わ、わたしは……いつでも……」
ジャンヌだ。珍しく、とても小さな声だった。
「ジャンヌ、あんた、すっごく身体が熱くなったわよ。心臓も痛いくらいに鼓動しはじめたし」
そのジャンヌに密着しているソニアが揶揄うように言った。
「う、うるさいっ。黙れ──。お前もだ、ソニア」
ジャンヌが声をあげた。
ルシアンは、そんなふたりを慈しむように見つめていた。
「──王家の要求という今回のことが流れた以上、僕の構想は、いまではなくなった。ならば、代替案として、子に継がせるという名目で分割を進める。納得も得られるし、移行も滑らかだ。なんといっても、ここまで巨大になったものを分割するには力がいる。もう王家は使えない。だから、次の案だ」
ルシアンは静かに、しかし決定的に告げた。
「諦めろ。君たちが今回、僕のために立ち上がったからこうなった。君たちの選んだ結果だ。だから、子を産め」
湯気の奥、誰もが黙った。
けれど──拒む者はいなかった。
セリーヌは、そっと胸元に手を置く。
自分の中に、誰かの命が宿る未来──それが、まったく怖くなかった。
──この人の子なら、きっと、大丈夫だ。
湯気の奥で、ルシアンが静かに微笑んだ。
「君たちには、十分に報いたいと思っているよ」
その声に、セリーヌの胸が高鳴った。
それは命令ではなかった。
けれど、どんな命令よりも、深く染み込んできた──そんな声だった。
「罰は終わった。これからは、ご褒美の時間だ」
その一言に、湯のなかの空気がまた変わった。
熱が、ふいに質を変える。
燃えるような熱さではない。けれど、じわりと肌の奥へ染みてくる、熱。
セリーヌの胸の奥が、きゅっと鳴った。
ソニアが、かすかに肩を震わせた。
背中越しに感じ取るその動きに、セリーヌはすぐに察した。
ルシアンの声が、彼女の耳元に届く。
「セリーヌとクロエ……。君たちの手で、ふたりをほぐしてやれ」
セリーヌは、一瞬だけ息を詰めた。
──クロエと、ふたりで。
湯のなか、そっとジャンヌの背から手を離すと、セリーヌはゆっくりと身体を起こした。
湯気の向こう、ルシアンの視線がこちらを見ていた。
いつもの冷ややかさではない。静かに、けれど深く──すべてを見通すような眼差し。
セリーヌは頷き、湯をかき分けて、ジャンヌの背後へまわった。
すぐそば、クロエが控えている。肩まで湯に沈めたまま、じっとこちらを見つめていた。
その目に、迷いがあった。
「じゃあ、クロエ。一緒に……」
けれど──セリーヌは囁くように言った。
クロエの瞳が、わずかに揺れた。
それでも、黙って頷いた。
「んっ……」
まずセリーヌが、ジャンヌの背中にそっと両手を添えた。拘束された肩甲骨のあいだに、指先を滑らせる。
ほんのわずかな力で──けれど、確かに熱が伝わるように。
クロエはソニアの後ろへまわり、密着して距離をなくす。
迷いながらも、その手がソニアの腰へと伸びる。
「あっ……」
ソニアの口からも甘い声がこぼれた。
そして、セリーヌの指が、ゆっくりとジャンヌの股間に滑り落ちていった。
肩甲骨から脊髄のくぼみを伝い、濡れた肌の温度を感じながら、乳房の下まで触れていく。
ジャンヌの身体が、ぴくりと反応した。
ソニアの身体とジャンヌの身体は繋がっている。
セリーヌがジャンヌを愛撫すれば、それはソニアにも流れ、クロエの刺激は、ジャンヌにも伝わる。
同じところを触れているので、セリーヌとクロエの指も触れる。
四人の呼吸がだんだんとひとつになり、深くなる。
「……っ、あ……」
その吐息は、抑えきれずに漏れたものだった。
拘束された腕がわずかに痙攣する。
セリーヌは、その反応に胸がざわつくのを感じながら、ふくらみの内側を円を描くようになぞった。
ジャンヌとソニア、ふたりの乳房を同時に愛撫する。
クロエは、ソニアの腰に触れている。
冷ややかな指先は、どこか迷いを含んでいたが──それでも、確かに熱を帯び始めている。
「くっ」
ソニアの背中が小さく反った。
「ああっ」
ソニアが反応すると、当然にジャンヌも身体を震わせる。乳首とクリトリスの三点でふたりは括られており、刺激は同時に伝わる。
ふたりが反応するたびに、湯が揺れ、胸の双丘が水面にわずかにのぞく。
「ん、あっ……」
「あああっ」
ふたりの喉奥から濡れた声がもれた。
それは、明らかに快感に抗おうとする声だった。
セリーヌは、指を滑らせながら、ジャンヌとソニアの乳首をそっと挟み込んだ。
ふくらみのなかで硬さを帯びた突起が、かすかに震えていた。
横に回って、唇を寄せて息を吹きかける。
その瞬間──。
「……く、う……っ……」
「はううっ」
ジャンヌの身体が、びくんと大きく跳ねた。ソニアも同時に。
両腕が背後に拘束されたまま、逃げ場のないまま快感に晒される。
また、クロエの指は、ソニアの脚のあいだへと伸びていっている。
柔らかな腿の付け根をなぞると、ソニアの腰が勝手に動いた。
「だめっ、だって……っ、そこは……」
「う、動くな、ソニア──。あああっ」
ソニアの震え声──。間髪入れずにジャンヌの悲鳴のような喘ぎ声──。
けれど、ふたりとも拒絶ではなかった。
身体の奥に熱が集まり、声にならない声が唇を濡らしていく。
セリーヌは、ジャンヌとソニアの乳首に唇を寄せ、そっと啄ばむように吸い上げた。
「いやあっ、……ん、ぐっ……んんっ」
「はあっ──」
舌先でなぞり、また吸い、離し──そのたびに、ふたりの身体が跳ねる。
ふたりの抑えきれない喘ぎが、浴場にこぼれる。
拘束された手足が震え、水面に波紋が走った。
手をふたりの股間に伸ばす。
そこには、クロエの指があり、重ねるようにしてふたりで、ソニアとジャンヌの秘所に触れる。
その瞬間──。
「ひっ……ああ……っ……」
「ふああっ──」
ふたりの声がはね上がる。
快感に突き上げられるように、ふたりが抱き合ったまま全身を突っ張らせる。
ふたりの女の身体は、熱に溺れ、甘く濡れた声を湯の奥に響かせている。
そのとき、湯気の向こうで、ルシアンが右手を持ち上げたのが見えた。
指輪が、ひときわ強く輝いた。
「──十分だ」
その一言で、魔道の封印が解けた。
金属の束縛が、音もなく外れた。乳首とクリトリスを密着させていた糸も解けている。ふたりが崩れるように分かれる。
やっと、ソニアとジャンヌの手足が自由を取り戻した──。けれど、ふたりの震えは止まってなかった。
湯気の奥で、ルシアンが静かに立ち上がった。
その身体が湯のなかで波紋を広げ、ぬるりとした熱が再び全身を包んでいく。
彼の視線が、まずはソニアに向けられる。
その瞳には、いつもの冷たさはなかった。熱でもない。ただ、確かな決意だけがあった。
「まずは──ソニアからだな」
その声は、優しく、深く──抗いがたい響きを孕んでいた。
セリーヌは、まだ抱き合ったままのふたりの肩をそっと押し広げた。
ソニアが小さく瞬きをして、ゆっくりとルシアンの方へ向き直る。
湯のなかで、白い肌が水面を揺らした。
「ソニア姉ちゃん……、僕の子を産んでくれ。一番最初に」
「わ、わかった……ルシアン……。産むわ……。任せて……」
ソニアは、ゆっくりと頷いた。
恐れも迷いもなかった。ただ、静かに──その胸に手を置いた。
ルシアンは対面の体勢でソニアを迎え入れていく。
「……ん」
小さなソニアの喘ぎ声が洩れる。
水音は静かだった。
それでも、セリーヌには確かに聞こえた。
湯が優しく撫でる音、肌と肌が重なる気配、そして──ふたりの吐息。
「くっ」
ソニアの背が伸びた。肩が震え、喉の奥でかすかな声が漏れる。
ルシアンがソニアを抱き締めている。
揺れながら、ソニアの指先が、水中でルシアンの背に回る。
湯のなか、ふたりの身体が絡み合い──そして、ひとつになっているのがわかった。
水面が揺れた。
律動は始まっている。
細かな波紋が浴槽の端まで広がり、反射してまた戻ってくる。
ソニアが小さく呻いた。
けれど、その声には、痛みも戸惑いもなかった。
それは、ただ、求め合う者たちだけが持つ、深い満足の息。
「……っ、く……ん……」
抱きしめられたまま、ソニアは何度も小さく呻いた。
指先が震え、脚が微かに絡まる。
ルシアンの唇が、彼女の肩に触れた。
そして──静かに言った。
「次は……お前だ、ジャンヌ……。次はクロエ。最後はセリーヌ……」
湯の奥で、ジャンヌの肩がぴくりと跳ねた。
セリーヌには、その背中の緊張が、呼吸の乱れが、はっきりと伝わってくる。
自分の順番は、最後らしい。
でも、悪くない。
最後ということは、終焉をともにするということ。
「はい……。お望みなら……わたしは、いつでも」
また、クロエは頷いたが、肩の奥には僅かに力が入っていた。
「ああ、望んでいる。あのう……いずれ、僕の子を産むことも……」
「……承知しました……」
クロエがしっかりと頷く。
まるで、自分の役割を確かめるように──それでも、視線の先にはルシアンの姿があった。
「んっ……あっ、はっ、ああ……」
ソニアへの律動が静かに続いている。
彼女を愛しながら、ルシアンの視線が、湯の向こうからセリーヌ、ジャンヌ、クロエに向けられた。
その瞳は、どこまでも静かだった。
けれど、そこには、確かな熱と、深い約束が込められていた。
セリーヌは頷いた。
胸に灯った熱は、恐れではなく、ただただ幸福の予感だった。
──この人の腕のなかで終わるのなら。
どんな夜も、悪くはない。
セリーヌの瞳が、わずかに潤んだ。
熱でも羞恥でもない──それは、深く感じた幸福の予感だった。
ルシアンとソニアが愛し合うことで揺れる湯の音だけが、静かに響いていた。