侯爵令嬢物語【完結】〜羞恥と快楽の果てに令嬢と女騎士の姉妹が選んだ甘美な隷従 作:ドン・ドナシアン
8 マダム・ルーベリア
──揺れる。
ただそれだけのことが、拷問のようだった。
馬車の車輪が石畳の継ぎ目を踏むたび、セリーヌの身体はぴくんと跳ね、声を殺すように唇を噛んだ。
まともな服は着せられていない。羽毛が仕込まれた外套の裏地が、肌を撫で回すようにくすぐり、甘い痺れが胸元から腹部、そして太腿へと波のように這い回っていく。
そこに、得体の知れぬアルフェという名のお尻の中の淫具の存在感が重くのしかかる。
──動かないのに、存在を忘れさせてくれない。
圧迫と疼き、そして奥底から湧き上がる痒みと、もうひとつ……絶えずこみあげてくる、どうしようもない重い快感……。
レコルによる振動も、もはやセリーヌを苦しめる拷問だ。
素肌をくすぐる外套の裏地の羽毛とともに、セリーヌに我慢できない悶えを与え続ける。
なによりも、激しい便意──。
苦しい……。
苦しいのに、酔うような快感も襲う……。
自分がどうなっているのか、もうなにがなんだか、セリーヌにもわからない。
セリーヌは脚を揃えたまま、必死に膝をすり合わせていた。
吐息が熱い。
視界の端でソニアとクロエ、正面にルシアンが何事もないように座っているのが恨めしい。
──お願い、早く、着いて……。
心の中でそう繰り返していたとき、馬車がぐっと減速した。
蹄の音が止み、ランタンの明かりがちらついたかと思うと、車体が緩やかに停止する。
「……館に着いたようだな」
ルシアンの落ち着いた声が響いた。
その瞬間、セリーヌの全身に戦慄が走る。到着──つまり、これから何かが始まる……。
「館……ですか……?」
思わず、言葉に出た。
一体全体、どこに連れてこられたのか……。
「ドミエンヌの館……。「
ルシアンが言葉を発した直後に、馬車の扉が外から開かれた。
セリーヌははっとして咄嗟に顔を伏せる。だが、外から扉を開いたのが誰なのかわからないが、とても静かな感じであり、人の気配はほとんどない。
また、夕方の薄暗い陽の光が馬車の中に差し込んだ。だが涼しさなど感じなかった。セリーヌの身体は熱と羞恥に焼かれていて、呼吸すらも恥ずかしい。
「さあ、行こうか、セリーヌ嬢。貴女の“調教”は、まだ始まったばかりだ。ここが、これからセリーヌ嬢が暮らす家になる。今夜はここで泊まり、明日からも学園にはここから通ってもらう」
まずは、ソニアが馬車を降りる。すると、ルシアンが座ったまま声を掛けてきた。
背中で金属音が鳴り、親指が外れたのがわかった。
咄嗟に、両手で外套の裾を握る。
そして、セリーヌは、外套の下で息を殺しながら首をあげた。
苦悶と羞恥に震える身体をどうにか支えながら、視線を窓の外へ移す。
──そこにそびえていたのは、白と黒の陰影に彩られた大理石の館。その玄関の前だ。門には黒鉄の装飾が施され、見たことのない紋章──黒い冠と白い首輪が掲げられていた。
しかし、脅迫の手紙にあったモントレフォール子爵家の紋章は異なっている。
そして、これまでに接したことのない紋章だ。
それはともかく、セリーヌはさっきのルシアンの言葉に戸惑いを覚えてしまった。
「ち、ちょっとお待ちください、ルシアン様……。わ、わたし、そんなつもりでは……。明日からはともかく、今日については一度侯爵家に帰らせてください。これからここで暮らすなど、こんな勝手に……」
「勝手、だと?」
セリーヌの言葉を遮ったルシアンの微笑みは、ひどく静かだった。
「あっ、いえ、約束はお守りします。十日間はお従いいしたします。でも、泊まりとなれば、お父様に許可を頂かなければなりません……」
「では、“お父上のご命令”をご確認いただこうか……。クロエ」
ルシアンが声をかけ、クロエが横に置いていたエスコート・ケースの鞄を開いて、一通の封筒を取り出した。
金の箔押しが施された封蝋。──まぎれもなく、ヴァランティーヌ侯爵家の印章だった。
「えっ?」
セリーヌは震える手でそれを受け取り、封を解く。
筆跡を見た瞬間、心臓がとまりかけた。
──父の筆跡だった。冷徹な命令文が、そこにはあった。
”セリーヌ=ド・ヴァランティーヌは、当面の間、ドミエンヌの館にて研修を受けるものとする。すべては家名のためであり、異議は認めぬ”
サインもある。確かに、それは──父の“決裁”だった。
「う、うそ……です。なぜ……。なぜ、お父様が……」
指が震える。文字が滲む。呼吸が乱れて、言葉にならない。
なぜ、疑いもなく……。
どうして、このような“得体の知れない施設”に?
そもそも、この手紙をいつ準備したのか?
どうやって、侯爵であるセリーヌの父親に、これを書かせたのか……。
そう言えば、侯爵であり、王宮内の貴族院の議席を持つ父親はとても忙しく、この数日は屋敷には戻ってもいなかったのを思い出した。
「お父上に快く応じてもらえる説得力のある知人に頼んだ。お忙しいようなので、王宮で書いてもらったものだ。もっとも、お父上は、ここがなんの研修施設なのかは、ご存じはないがね。さあ、降りるぞ」
ルシアンのエスコートで、馬車をおろされていく。
しかし、その動きでレコルとお尻の中のアルフェの淫具がセリーヌに悩ましい悶えを引き起こさせる。
そして、なによりも、幾度も波を作っては拡大していく便意……。
いまは、淫具が栓の機能となり、馬車の中で汚物を噴出する恐怖は消してくれていたが、それがなければ、とうの昔にセリーヌは、馬車の中で最悪の結果を作っていたに違いない。
便意の切迫感に耐えながら、セリーヌはやっと地上に足をつけた。すぐにルシアンから手を離して、外套の裾を必死に握りしめる。
馬車の横で待っていたのは、ひとりの年配の夫人だ。
彼女がルシアンに対する一礼のあと、セリーヌに視線を向けたとき、ほんの一瞬、冷気が時間を止めたような錯覚に襲われた。
白い石畳の中庭の中央に立つひとりのその老女は、痩せた体躯に、深紅のケープ。そして、結い上げられた銀髪をしていて、顔に刻まれた皺は威圧的な観察者の色を帯びていた。
「セ、セリーヌ=ド・ヴァランティーヌと申します……」
気落とされるものを感じながら、セリーヌは彼女に小さくカテーシーをした。
「くっ」
だが、その瞬間、レコルがクリトリスを刺激し、セリーヌに変な声を出させてしまう。
慌てて口をつぐむ。
「彼女は、マダム・ルーベリア……。この館の家宰──つまり、ここで君を“導く者”だ」
ルシアンが背後から軽く笑みを浮かべて告げた。
その名を聞いた瞬間、セリーヌの隣にいたクロエがわずかに肩を震わせたことに気付いた。
「クロエ?」
……そのわずかな仕草を、セリーヌは見逃さなかった。
明らかにクロエは怯えている。
あの店や馬車の中で、セリーヌに性的な悪戯をした彼女の傍若無人な態度の面影は消失している。
「お元気のようね、クロエ。なによりです」
ルーベリアの毅然とした声がした。
さらに、クロエがびくんと身体を一瞬震わせた。
「クロエ? 彼女を知っているの?」
小声で呼びかけると、クロエは一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐに微笑を貼りつける。
「……お、お嬢様。マダム・ルーベリアは、このドミエンヌの館においては……特別なお方です。わたしも……“最初の十日”は、この方に“躾け”られましたから」
最後の一言に、わずかに声が震えていた。
“最初の十日”──
“躾け”──
その言葉の意味を、セリーヌは理解しきれなかった。
ただ、クロエの瞳に一瞬だけ過った怯えと羞恥──それが、冷たく胸に残った。
「ルーベリア、彼女に館の掟をひと通り教えておいてくれ。夕食は僕と一緒にとる。それまでに“準備”を頼む。クロエは彼女のペドだ」
「かしこまりました、閣下」
マダム・ルーベリアは微動だにせず一礼した。
しかし、膝を折ることはなかった。
──この館において、彼女が最上位の“裁定者”であることを、無言で示している。
ルシアンが背を向けて歩き出す。ソニアがついていく。
この場にはセリーヌとクロエ、そして、マダム・ルーベリアが残る。
「では、セリーヌ様。あなたがこの館で“生き残る”ための最初の教えを、これより申し上げます」
マダム・ルーベリアの声は、老いた声帯とは思えないほど、澄んで鋭かった。
空気は一変していた。
冷たく、張り詰めている。
だが、それ以上にセリーヌの意識を占めていたのは……。
──身体の奥で、どうしようもなく高まっていく「波」だった。
羞恥に汗ばむ額。締め付けるレコル。
お尻に埋められた“アルフェ”と呼ばれた異物の存在。
そして、それを通じて流し込まれた“薬液”が今や、容赦なく下腹部を刺激し続けていた。
「く……っ」
片膝をかすかに震わせながら、セリーヌはどうにか体勢を保つ。
声を上げることは、許されないという雰囲気は感じていた。
だが、限界はすぐそこなのだ。
もう我慢は無理だ……。
「……あ、あの……。その前に、ご不浄を……」
震える声を、どうにか整える。
視線を逸らしながらも、マダム・ルーベリアの前に一歩進み出た。
「なんですか?」
マダム・ルーベリアが厳しい視線を向ける。
思わずたじろぐものを感じながら、セリーヌはそれでも続けて口を開く。
「ご案内いただけませんでしょうか……。“御用足しのお部屋”へ──」
マダム・ルーベリアは一瞬だけ、セリーヌの顔を見た。
その表情は動かない。だが、ほんのわずか、目の奥になにかが光った。
「……それは、排泄の“許可”を求める言葉と解釈してよろしいですか、セリーヌ様?」
老女の言葉は、礼を崩さぬまま、決して優しくはなかった。
セリーヌは息を呑み、ひとつ頷いた。
「ええ……どうか……。お願い申し上げます」
声が震えていた。
「……クロエ、彼女には、すでに“アルフェ”と“セリュース”を?」
マダム・ルーベリアが静かに問うた。
クロエがかすかに身をすくめながら頷くのがわかった。
「……はい、マダム。車中にて、ルシアン閣下の命に従い、手順通り施しました」
老女はわずかに顎を引いた。それだけで、屋敷の玄関前の空気が鋭く張りつめる。
そして、セリーヌの前に歩み寄り、冷然と視線を落とした。
「ならば、貴女の“矜持”がどれほどのものか、いま、ここで拝見しましょう──」
セリーヌは思わず後ずさった。
だがクロエが背後から肩を押さえ、囁いてきた。
「……大丈夫です。すぐに終わります、お嬢様……」
次の瞬間、セリーヌの身体の奥で、ぞくりとする違和感が走った。
すると、ルーベリアが老女とは思えない素早さでセリーヌの外套の中に手を入れる。
同時に魔道音が響き、肛門の中のアルフェが外に飛び出したのがわかった。
「あっ、いや」
セリーヌは悲鳴をあげて、手でアルフェを押さえようとした。
お尻にずっと挿入されていたアルフェはセリーヌを苦しめる淫具でもあったが、排泄を防いでくれる防波堤でもあったのだ。
しかし、すでにアルフェの飛び出している部分を掴まれていて、一気に全部が抜き取られてしまった。
「おほおおあっ」
アルフェの球体部分が、連続で激しくセリーヌのお尻に途轍もない刺激を加える。この場で漏らさなかったのが奇跡のようなものだ。
必死にお尻の筋肉を締める。
「あっ、ああ、そんな──」
アルフェが抜かれたとき、セリーヌの脚から力が抜け、堪えきれずその場に膝をついてしまった。
熱と圧迫から一気に解放された下腹が震え、呼吸が乱れる。
「はっ……くっ……」
恥と、屈辱と、恐れが混じった吐息。
貴族の娘として、決して晒してはならぬ声が、思わず洩れてしまう。
必死に肛門を締めつける。
だが、いまにも限界を越えている便意が破裂しそうだ。
「……“刻限”までは、そのままお待ちいただきます。貴族令嬢の矜持を保ちたければ、犬猫のように鳴き出す前に、まず沈黙を覚えることです」
マダム・ルーベリアの声は、まるで冷たい刃のようだった。
セリーヌは目を見開き、思わず抗議の声を上げる。
「な、なぜ……。わたしは、侯爵家の令嬢です──。こんな……」
老女は一歩も退かず、細い乗馬鞭をスカートの切れ目から抜いてを手に取った。
「ええ、存じております。だからこそ、“人として扱われる訓練”から始めることが必要なのです。この館の“研修”は、貴女の称号ではなく、“意志”だけを拠りどころに進められるものなのです」
ルーベリアの鞭が、音もなく宙を裂いた。
次の瞬間──。
「くっ」
セリーヌの外套の上から、鋭い一撃が尻に走った。
痛みは鋭くはない。けれど、その音、その衝撃、その恥辱は、雷のように心を打ち砕いた。
「立ちなさい、セリーヌ様。ここは誇りを守る場ではなく、誇りの正体を見極める場所。それを忘れないことです。もう一度伝えます。貴方が求めた排泄の許可はまだです。令嬢ならその矜持でそれまで耐えなさい。さもなければ、貴方は犬猫同然に扱います。その辺で糞便を垂れ流すのは“人間”ではありませんから」
「そ、そんな……。きょ、許可とは……いつまで……?」
「まずは立ちなさい」
マダム・ルーベリアが再び、乗馬鞭でセリーヌの脇腹を打つ。
「くっ」
セリーヌは痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
震える脚と、疼く尻と、誇りと恐れの間で、いま、自分がどちらに傾いているのかさえわからないまま……。
「あっ、ああっ」
そして、レコルが揺れたことで激しい甘美感の槍が全身を貫く。
その瞬間、ぞっとするほどの強い排泄感がセリーヌに襲いかかってきた。
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