※この作品はR-18です。

紬ぐ所以は見果てぬ愛を   作:ドットワリー

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下

 

「おやおや、これはこれは……いけませんね、そんなにも私に子供を産んでほしいだなんて……

こちらは何も強制などしていませんよ。はしたなく私に種付けをしてしまったのは、紛れもないあなたの責任ということになりますね?」

 

 何を言われても反抗するような気分になれない。このまま心地よい感触で、お互いの大事な部分同士で深く繋がっていたいだけだった。

 魔物の肉体で性感を絶頂に導かれると同時に発生する、魔素侵蝕に伴う心身の弛緩作用。それのせいかは分からないが──いや、自分の本心ですら霧に飲まれたかのように見通しがたい。初めて味わうこの現象が、こんなにもふわふわと浮つくような心地よい感覚で心を満たしてしまうものだったとは……

 

「しかし、やれやれ、こうなってしまえばそれこそ木偶(デク)人形。これはこれで面白みに欠けますね」

 

 少しでも二人の体を密着させたがっているのか、それとも体に力が入らないだけか。影紬の上に倒れ込むような形となった男は、被造物とはとても思えない人肌そのものの柔らかさと体温に身を任せていた。二つの小ぶりな胸が体に当たってむにゅりと潰れる感覚や髪の毛からふわりと香る女の子らしい匂いは、もはや男にとって幸せと愛しさの全てであるように感じられた。影紬の膣内に収まったままの男性器もそれらに敏感に反応し、ますます興奮を強めている。

 

 だが──そんな男の顔を持ち上げるように顎を掴んできた人形の少女はどこからともなく取り出した一(・)粒(・)の(・)錠(・)剤(・)を見せ、それを指ごと口の中に入れる事で飲み込ませてきた。

 

「もう少しくらいは舞台で踊ってもらいましょう──これで魔素侵蝕の作用をある程度抑えることが可能です。私以外のそれには殆ど効き目のない代物ですが、まあ特に関係ありませんね」

 

 次の瞬間。男は脳の芯から目が覚めるような、すっかり手放していた自分自身という存在を取り戻したような感覚に包まれた。

 それでも朝の寝起きの直後にすら劣るほど鈍くあるものの、体には僅かに力が戻り、動かせるようにまでなっていた。

 

「いいですか? これは私の身体を使ってあなたの身に起きた不(・)慮(・)の(・)事(・)故(・)に対する”医療行為”であり、危害を加えるような事になど成り得ない。自由になったその身で『こんな事はもうたくさんだ』と出ていきたいならそれも良し。つまりは──」

 

 ぐっ、と。

 男の顔を近くに引き寄せ、そして耳元に囁き声を流し込む。

 

「もっと優良なあなたの子種を選んで孕みたいがため、”お父さん”には頑張って腰を振ってほしいなどと。私が強制しているというわけではないのですよ……♪」

 

 男の下半身に、力が取り戻された。

 腰を浮かせ、すっかり膣に身を預けていた自分のモノを引き抜く動作。ただそれは、いやらしい笑みを隠そうともしない影紬が口だけで推奨してきた行いに沿うためなどでは断じてなく──

 

 たん、たん……

 

 二度、三度と。肉棒を膣壁に擦り合わせる快感を存分に味わうためのものだった。

 激しくはなく、しかし力を込めて。散々に煽り立てられた生殖器の苛つきをぶつけるかのような、血管の浮かび上がるような感情を込めた明確な抽送の動きなのだった。

 

「ふっ、ふふ。そうですか、そうですか……それがあなたのお気持ちですか……ええ、いいでしょう。精気は吸いません。心身に負担を掛けるような事もいたしません。

ですがここから先はあなたが望んだ、男女で行う共同作業。恋人同士のような甘い子作り交尾です。そういう事なんですよね……♪」

 

 聞いているのかいないのか。荒い息を吐きながら揺するように腰を動かす男の様子など構いはしなかった。

 いよいよ大義名分を得られた影紬はついに両(・)手(・)を(・)男(・)へ(・)伸(・)ば(・)し(・)、そ(・)の(・)両(・)脚(・)を(・)腰(・)に(・)絡(・)め(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)し(・)て(・)固(・)定(・)し(・)た(・)。これが初めてとなる”影紬の側(がわ)から”の明らかな行為。一滴たりとも新鮮な精子を流さないような貪欲とすら思える姿勢を露わにする。

 

 その密着感に、自分の種が求められているという事実に、ますます興奮を高めた男の限界まで勃起したペニスは更に熱を帯びていく。

 極上にして巧緻を極めた構造の心地よい膣内に磨き抜かれる度、未だに力の入り切らないはずの腰は徐々に速度を増していき。その快感が頂点にまで登り詰めた瞬間──……

 

 膣奥に叩きつけるかのように、勢いのある重たい精液が尿道を通り抜けて大量に流し込まれていく。

 

 正真正銘、遺伝子を繋げるという本来の目的のもと。男としての機能を行使する達成感に打ち震えながら満足のいくまで射精が続いていくのだ。たとえそれが、単なる無機物であるばかりか、極悪と言っていい影紬の性格を備えた因子に混ぜ合わせられる事になるのだとしても──今はただ、その背徳感すらも気持ちよさに変えられてしまうだけだった。

 

 柔らかな人形の体を全身で味わう。少しでも奥まで精子を届けようとその中に収まる陰茎と、膣の入り口前で震えながら収縮する金玉のひくひくとした脈動は、まさしく永遠に続くかと思われた。

 

「血の流れない人形の体にこんなにがっつくなんて、人間の……いえ、動物のオスとしてとっても恥ずかしいですね……?」

 

 人生で最高の射精感の余韻に身を浸している男に対して。

 その本能を撫であげるような声と言葉を。もっと、もっと、そんな部分を引き出そうとでもしているかのように。

 

「分かっていますか? 感じていますか? まさに今。そんなあなたの趣味嗜好や情欲までもが、子孫の中に私の形質と混ざり合いながら残されているんですよ。

あるいは教えて差し上げましょうか、私のお腹の中で進んでいるその過程を……♪」

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

人形の少女は、精液をその身に受け止めた瞬間から静かに作動を始めていた。

 

体内の奥深く、艶やかな陶肌の下、精子は粘り気のある沈黙の中に包まれる。そこには柔らかな粘膜も、あたたかな血も存在しない。ただ、滑らかに湾曲した内壁と、無音で動く極小の構造たちがあるだけだった。

 

わずかに震えるようにして精子を受け入れた空間が、その存在を、ひとつずつなぞるように認めていく。きめ細かく組まれた薄層が父の遺伝を丹念に拾い上げていく様は、まるで目に見えぬ指先がその本質を撫でるようだった。

 

肉体の卵子に溶け込むことができると思い込んで鞭毛を必死にくねらせているところの先端。精子の頭部が、溶けるようにばらばらと解(ほど)けていく。

そこに詰まった紐状の遺伝情報が一本一本の形を残して露呈し、無機の器に広がる底部一面の受容体にじわじわと染み込み、その形質を満足そうに読み込ませているのだ。

 

どこまでも無機的なはずのからだが、男の本質を受け取った瞬間に「創る」準備を始めている。

情報が読み取られるにつれて、少女の体内にはごくわずかな熱が帯びてゆく。

それは欲情の名残でも生理の高ぶりでもなく、機構としての興奮に過ぎないのだろうか。

 

解析を終えれば、いずれは人形の奥底に仕込まれた構成器官がゆっくりと子どもを組み上げていくのだろう。

素材は母体である人形と同じ──セラミックと結晶質の構造体。だが、そこに混じるのは、遺伝子から受け取った“父のかたち”だった。

 

骨格、瞳の傾き、指先の形状。

性格、善悪好悪、ほんの些細な癖までも。

 

その子供には、確かに二人の“かたち”が溶け合いながら宿っている。

二人をどうしようもなく繋ぐものとして、確かにこの世に「生まれる」のだった。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

「んっ、んふ……」

 

 舌が絡まる。雄々しい男の太く赤々とした筋肉の舌と、滑らかで艶やかで、果てしなく無機質な素材の塊である影紬の舌。その密着を粘つかせる湯気が立つほどに熱い液体の絡まり。

 

 この舌と唇のかたちも、自分のそれと混ざり合った特徴のものが生まれてくる。

 いや、作(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 自分が腰を振り、肉棒で膣内をかき混ぜ、奥に精子を塗りつける過程が、このねぶり立てる甘い唇を自分の作る子どものかたちとして混ぜ合わせている。

 

 鼻腔を抜ける、ほろ苦いコーヒーの香りとストロベリーの甘い味。

 これから何よりも甘美なものとなるであろう、幸せの記憶の味。

 

「ふ、う……この私の唇を、奪っていいとは言ってないんですがね」

 

 顔を背けて口を拭う影紬。それも男の欲望を煽るためだけの計算された挙動に過ぎないのだといい加減に理解はしていても、それでも思わず前のめりになって腰を振る勢いを速めてしまう。

 事実。こちらに向き直った顔は、全くいつも通りの憎たらしいほどに不適な笑みで──

 

「まあ、どうせいつかは──それも”経験”させてもらっていましたから、構いはしませんよ」

 

 ぎゅっと、腰に絡まる両脚の力を強めてもらいながら、そしてこちらも、人形の機構が覗く小さな腰をがっしりと掴んで逃がさないようにしながら。

 奥に届かせようと必死に反り返る男性器から、蕩けるように熱い精液を撒き散らした。

 

 

 

 

 


 

epilogue

 


 

 

 

 

 

 熱い、熱い湯気の立つ液体。

 

 つまり──なみなみとお湯の張られた浴槽を横目にする二人の男女は、金属製のノズルを通って降り注ぐシャワーを一緒になって浴びていた。

 軟らかい浴室マットにぺたんとお尻を付けている影紬のすぐ後ろで、プラスチック製の風呂椅子に座った男が、空間の狭さをごまかすように両脚の間へと居候の小さな体を収めている。

 

「…………ふう」

 

 あの後も溜まりきった欲望を吐き出そうと、あるいは倦怠感から立ち直るための時間を甘い快楽を貪るために先送りして、結局かなりの時間を交わり続けていた二人は落とさなければならない体の汚れも相当なものになっていた。

 そうしていい加減に立って歩くことぐらいはできるまでに回復した男がどうにか風呂を沸かせた次第だが、これとは対照的に影紬の方が何やら心ここにあらず、といった風なのが気になるところだった。

 

「ええ、私ですか? いやぁ……そこそこ骨の折れる準備を重ねて、前々からやろうとしてたことをようやく済ませたわけですから? そこは一息もつきたくなるというものではないでしょうか……」

 

 こんな無防備な──少なくとも外面はそう見える──様子を影紬が見せるなど初めてのことで、男もそれは意外に思った。

 

「私を何だと思ってるんです? そんな自立した思考のもと導き出した目的のために休みなく動き続ける機械人形か何かみたいに……」

 

 安物のボディソープで体を洗う家主を嫌そうに見ながら、”とにかく凄そうな気配がする”としか男には分からない専用の香油みたいなものを湯で流した髪に通す影紬は淡々とした調子でそう言った。

 愛を知る。

 実際に目にした一つの壮大な戯曲を理解し掌握するために、彼女はこれだけの事をやった。その相手として、彼女は自分のことをある意味で選んだ。

 

 しかし、だとすると男の胸中には新たな疑問が必然的に湧き上がってくる。

 

「……え? 大勇者ルカが私を選ばなかったのか?」

 

 そうだ。自分と彼のどちらを取るかとしたら、あらゆる面で選択の余地など存在しない。

 無限のグラデーションに延々と重なり続ける数多の並行世界の中にはそういう世界線もあったはずで。つまり、そういう違った未来に未練のようなものを感じてはいないのだろうかと。さらに正しく言語化するにはもう少し自分たちを取り巻く状況を勉強した上でしばらく頭をひねる必要がありそうだが、おおよそ男が言いたいのはこんな所だった。

 

「そうですね。しかし──いや、まずはハッキリさせておくべきですね。現に今この場所にいる、この私が通ってきた道にはそういった話はありませんでした。でしたら後は充分なのではありませんか? 巡り合わせが単に違った、それだけの話です」

 

 事もなげに言う彼女の様子から、男が考えているより話はもっと単純な物なのかもしれなかった。なんとなくでもそんな風に解釈しつつ、流れ出るシャワーのお湯を不可思議な術法か何かで形を歪めて遊び出した影紬にため息を溢しながらレバーを閉める。

 

「それに、決して全体からしても多いものでもなく、また大抵の場合尋常なる理由で選ばれる世界線でもないでしょう。

うふふ、思ったよりも客観視ができているなと驚きました? まあ、今にしてあの頃の状況を思い返せば……見たい反応が見れたとすれば、程なく折り畳まれてあっさりお仕舞い。大多数のパターンではこんな所でしょうか。

現にそういう心当たりも、あなたには無いでもないのでは?」

 

 痛いところを突かれて唸る。実際、こんな体験をしてしまう前までは特に気兼ねなく考えていた節のある流れだったわけだが。

 

「まあまあ、何にせよ今の私にはあまり関係のない事です。ですがここまで関わってしまったからには──あなたも、これからの事を考えなくてはいけませんよ」

 

 軽く後ろに髪を縛って、こちらを流し見る人形の少女。露骨な繋ぎ目の見えるお腹の中には今頃、二人の子供が宿っているのだろう──……

 

「無理なことは無理なこと。私まで、とは言いません。私はそれを見ているだけでも充分すぎるほどに目的を達することができる筈ですから。だから──

──どうかこの子を愛して、抱きしめてあげてくださいね」

 

 そんな彼(・)女(・)た(・)ち(・)に対する責任を、一人の父親になってしまった者としてどう取るべきなのか。影紬には分かっていない様子なのが不思議なくらい、その答えはどこまでも人間である男にとって明確なように思われた。

 

「おっと、これは……」

 

 ほんの少しだけ前に出て。

 男は、影紬の小さな体を抱きしめた。

 

「……少し、予想外ですね」

 

 柔らかく、温かな、それでも決して血の通わない人形のからだ。そこに宿ったものの存在も含めて、きちんと包み込むことができるように。

 湯気にあたって濡れた顔を虚空に向けて、影紬は安らかに目を閉じる。

 

 

「生は遠く、心は冷たく……

情の糸はまだ結ばれず、風のように冷たい私。

 情絲未系、冷如風,

けれど、あなたは笑みを浮かべ、影となっていつも寄り添うという。

 偏汝長隨笑影中。

月の下、二つの影が言葉なく並んで座る。

 月下雙形無語坐,

そのときこそ、我が心の中に微かな情熱が生まれるのかも知れない。

 心知緩緩、起微紅……♪」

 

 

 それはさながら、転がる鈴の音の声色で。

 誦じ、吟じるように言葉が奏でられた。

 

 

「以上、新作の暗黒輪舞です。

 

 …………

 

 ……ふふ、本気にしました?」

 

 

 特に何か起こった様子もない。影紬が出鱈目なことを言って自分を困らせるのはいつものことなので今さら気にする話でもなかった。

 そうではなく、男にとってはもっと差し迫る重要な問題というものが首をもたげ始めていた。普段から常用している香油にも何か妙な成分が混ぜてあるのか、こんな風に裸で抱きついたままでは、これは──……

 

「あらあら、節操がないのをよそのせいにしてはいけませんね。堪え性のないお(・)父(・)さ(・)ん(・)です……」

 

 にちっ、と半身になりながら後ろ手に男の激情を撫でるように握り込む影紬。

 人差し指と中指の間でカリ首の溝を挟んで揉み洗う刺激を緩めるつもりはないようで、情けなく蕩ける相手の顔付きを見逃さぬように向き直るのだった──……

 

「湯船に浸かる前にもう少しだけ頑張りましょうか。人形を愛してしまった、変態さん……♪」

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