東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 - 作:俄かさん。
この世とあの世の境界にて、この世に背を向け一人の少女が膝を抱えるようにして座りながら「泣いていた」。
そこにたまたま通りがかる一人の小さな巫女。
巫女はそんな少女を見かけるや、数度の瞬きの後にそっとその隣に寄り添うように腰を下ろす。
それはその巫女なりの「なぐさめ」。
そうして二人は互いに言葉を交わすことなくただそこにじっと座り続けるのだった。
「紅霧異変」終息から一週間後。
その異変の仔細には触れることなく「号外」によって大々的に告知された「大宴会」、その会場である館にはたくさんの参加者が集まっていた。しかしそれは妖怪がほとんどで、人間はほんの一握りしかいない。
なんにせよ祭と宴会好きの面々は一階の大広間を起点に、思い思いの場所で杯を片手に酒宴を楽しんでいた。そしてそんな面々のお接待に勤しむのは、一人の「小さな巫女」。
「……はあ、多すぎ」
こういった宴席においても、既知初見関係なく杯片手にあちこち挨拶まわりをするのも巫女の仕事。とはいえ、お愛想笑いのやり過ぎで顔の筋肉がいい加減麻痺してきそうだ。
(あれ、そういえば魔理沙どこ行ったんだろ。……って、いた)
しんどいだけの挨拶まわりも一区切りついた頃合いで霊夢は大広間には居なかった相方の姿を探し、そこを出てすぐの廊下脇のソファに座ってたのを目ざとく見つけるや、とてとてとそこへ歩いていこうとしたが、その隣に座る娘の姿を見た途端、すぐにその足を止めた。
「なあ師匠(アリス)、もしかして酔ってねぇ?」
「なあに?そんなことないわよ、平気平気っ、それよりももっと聞かせてくれる?あなたの武勇伝すごく興味があるわ」
「つってもあたし一人でやったわけじゃねーしなあ?」
「またまたそんな謙遜しちゃってぇ?」
どうやらこの娘、酒が入ると「絡み癖がひどくなる」らしい。
弟子である魔理沙にとっては実に迷惑この上ないが、嫌とも言えないのがなんとももどかしい。それに調子づいたのかこの娘、ここでとんでもない爆弾を落としにかかる。
「……ね、この後、一緒にお風呂どう?」
「はいっ?!」
一緒にお風呂どう?
い っ し ょ に お ふ ろ ど う ?
「!!!!」
その衝撃の現場を目の当たりにした霊夢は、いつの間にやら自分の隣でカメラを構えていた「射命丸文」という名の「ぱぱらっち」を二人の方に思いきり突き飛ばすや、一目散にその場から逃げ出すのだった。
「はわわわっ!!??」
「お、おう、なんだなんだ!?」
「ちょ、ちょっとあなた、何撮ってんのよぉおお!!????」
ばたばたと走り回ってるうち、そのうち迷子になった。
気づいたときには、帰り道さえ分からなくなった。
やがて辿り着いたその先で出会ったのは。
「……あら、どうしたの?」
不意に背後から聞こえるその声に、霊夢ははっとなる。
同時に首筋に感じる冷たい夜風。
「レミリア」
振り返ればそこには、バルコニーのフェンスに寄りかかるように立つこの館の主の姿があった。
その手に持つワイングラスに注がれたワインは不気味なほど「赤い」。
「ごめん、ここはあなたのお部屋だった?わたし、知らないうちにここに来ちゃった」
「そう。ここは何人も迂闊には立ち入れぬ場所。けれど貴女はよほどの強運の持ち主のようね」
そこがこの館の主の部屋だと悟ると、申し訳なさそうに霊夢は謝るのを、主はそれを咎めることなくほんの少しばかりの驚きを込めたような物言いを返すのだ。それから、眼を細めてはまるで検分をするかのように改めてこの巫女をじいっと眺める。
「……なかなか難しい星の下に生まれてきたようね。ただそれでも今日まで生き永らえてきたのは、おそらくはその類稀なる強運によるもの。それも貴女の才能の一つ」
「そう?わたしはそれでしあわせだと思ったことは一度もないけどね」
「なら生きているだけでもしあわせと思いなさい 」
開け放たれた窓の外から吹き込んでくる夜風は、まだ冷たい。
そろそろこの長い長い冬も終わり、そこかしこで春の訪れを感じ取ってもよい時節ではあるが、未だその足音は聞こえない。
そんな冷たい風に前髪が煽られるのを感じながら、どこか説教じみたレミリアの言葉に、霊夢は小さく困ったような笑みを口元に浮かべる。その様子を目元のみで笑むと、レミリアはグラスを傾けては、またこう切り出していく。
「……ひとつ老婆心ながら忠告しておくわ」
「なあに?」
ここに来てのお説教に霊夢は霊夢で嫌そうな顔をしてのける。
それに構うことなくレミリアは続ける。
「 貴女は優しい心の持ち主。でもね。
その甘さがいつか必ず命取りになるわよ 」
それを告げ終わるころには、バルコニーに居たはずのその「吸血幼女」はその際に立つ「巫女」の目の前に立っていた。不意に詰められたその距離に、巫女はただ驚いたように双眸を見開くと同時に、この上ない虚脱感を感じていくのだった。
「次に」巫女が目覚めたのは、見慣れた「自分の部屋」だった。
(あ、あれ、なんで?よくわかんないんだけど。あ、め、めまいが(うきゅうっ))
そうしてそのまま、この巫女は寝込んでしまうのだった。
とある寺の住職はくだんの二人の娘をこう酷評せしめる。
かの巫女は「有名無実」にして「一暴十寒」。
かの従者は「傲岸不遜」にして「悪逆無道」。
とにもかくも、「えらい(ひどい)言われよう」である。
そんな二人は「波乱万丈」にして「前途多難」。
そして早くも訪れる「コンビ解散」の危機。
とある日の「博麗神社」にて。
「よう霊夢?調子はどうだ、この魔理沙さまが見舞いに来てやったぜ!(えらそう)」
「て、なにこのすごい食材?……どうやって仕入れたの?」
「お?そりゃ『いつものように』、だな」
「っ!!『また』盗みを働いたのね!!!!魔理沙なんか大っ嫌いっ!!!!」
魔理沙なんか大っ嫌い。
ま り さ な ん か だ い っ き ら い 。
「ああ?あたしはおまえのためを思ってだな?……そうか、『もういい』わ。じゃあな、医者も呼べねえ『貧乏』巫女っ!!」
「もうっ!!『わたしなんか』ほっといてよっ!!!!」
些細なことがきっかけで「喧嘩してしまう」二人。
そうして二人は離れ離れになってしまうのだった。
その翌日の「魔法の森」の「誰かさんの家」にて。
「え、なに、あの娘と『喧嘩別れ』したの?(めっちゃ嬉しそう)」
「ん、ああ、まあ(しどろもどろ)」
「なら、わたしと組まない?『師弟コンビ』の誕生よっ!(ぐっ)」
「お、おおっ!?」
(……うーん、『それもアリ』なのか、な?)
新たなコンビ誕生の日は近いかも、しれない?
そんなこんなで暦変わりて弥生より「皐月」。
暦の示す限りでは、紛れもなく「春」。
にも、関わらず。
今尚も凍てつくその真冬なみの寒さに心持ち首を竦めるようにして、緩やかに腕組みしやりながら宵っ張りの「人里界隈」の通りを歩くのは、「副長」ことパチュリー・ノーレッジ。
「三度笠」に「陣羽織」。腰元には「長ドス」。そんな出で立ちの副長は、情報収集がてら通い付けの屋台から住まいである館に戻る途中であった。
さてここ最近のこの里界隈においては、「皐月」になっても春は未だ訪れず、未だに空より雪が舞い降りるありさまで、降り積もるその雪すら一向に溶ける兆しすら見せない。
これではいつまで経っても田植えもできぬばかりか、せっかく育てた苗さえもだめになってしまうと農民どもはほとほと困り果てているという。
田植えができねば稲は育たぬ。
稲が育たねば米は取れぬ。
米が取れねば民草は飢え死にするしかない。
そんな世情不安もあってか、この「人里」においてはその治安も乱れに乱れ、「物盗り」「放火」はまだしも「辻斬り」まで出るという世紀末ぶりを醸し出している。
ただそれでも救いなのはこの人里の「頭領」の対応が迅速であるところか。
つい数刻前まで行われていた定期的な「炊き出し」。
夜な夜な「御用提灯」片手に巡回する「見廻御用組」。
されどそのどれもはあくまでも「応急処置」であって、根本的な解決には「程遠い」。
風の噂に聞く「仏の稗田」といえど「人の子」。
ここらが限界のようではある。
(これもこの『異変』の影響によるものか。だとしたら身につまされるものがあるな)
異変。その二文字を思い浮かべた途端、副長は殊更に渋面になる。
これは明らかなる「模倣犯の仕業」か。
そうだとしたら、余計に辛いものがある。
されどそれもあくまでも「推測の域」。
と、そこへ。
「お、わりぃわりぃ」
どんっとすれ違い様にぶつかる「金髪の娘」。
「何事!?」と狼狽える副長ではあったが。
(ぬ、さ、財布がっ!?)
懐に入れてあった財布がなくなっていることに気付くや、はっとした顔で振り向き様に彼方へと歩き去ろうとするその娘を見据える。
「おい、そこの娘っ!」
「あん?」
呼び止められた「三白眼の娘」は、軽く肩越しにその間抜けな女へと胡乱な眼差しを投げかける。
「さっき、盗ったろう?すぐに返せ」
「は、やだねっ」
「なんだと貴様っ!」
そこから始まる「仁義なき鬼ごっこ」。
「おいこら待てっ!待たんかいっ!待てと言うてんねんっ!」
「ばーかっ、誰が待つかよ、このガラガラ声のカラス女っ!」
「なんだとそこに直れっ、このチビ助っ!!!!」
しかしながら「地の利は向こうにあるようで」、角を二度三度右に左に曲がるころには、呆気なくその娘を見失ってしまう。
(くっ、なんとも情けない。……っと、は?こ、ここはどこや?)
どことも知らぬ「袋小路」に迷い込んだ末、その「どこか見覚えのあるツラをした」スリを取り逃がした副長は一人ただ呆然となるのだった。
「けっ、小銭だらけ。しけてんな」
とある民家の屋根の上。
くすねた戦利品である革財布の中身を見てはげんなりとした顔をする「通りすがりの魔法使い」。
たとえ魔法を使わずとも「スリ」ぐらいは朝飯前である。
この娘、病的なほどの「盗癖の持ち主」。欲しいものは何が何でも手に入れないと気が済まない。
しかしそんな娘でもってしても、手に入らぬものひとつ。
それは、「人の心」。
「あん?」
抜くだけ抜いてアシのつく財布を捨てようとした矢先、ひらりとそこから舞い落ちるそれを慌てて魔理沙ははしっと掴み取る。
(んだよこれ、写真か?って、おい、こいつは)
その一枚の写真に写る「六人」。
見覚えのある「館」を背景に、その六人はどいつもこいつも揃いに揃って幸せそうな笑みを浮かべていた。
(……あーあ。こんなもん見た日にゃ商売上がったりだっての)
ほんの少しばかり芽生える「良心」。
さてどうしたもんかと腕組みしがてら考えてると、不意に上の方から禍々しき気配を感じ取り、慌ててを天を仰ぎ見る。
(なんだありゃ?)
雪舞い落ちる宵空にふわりと浮かぶ水色の死装束に身を包んだ「一人の女」。
その女は開いた扇子を口元に添えながら「人里」をひとしきり睥睨した後に、「とある方角」へと飛んでいく。
その方角の示す先にあるのは。
「…………」
何かを感じ取った魔理沙は無造作に写真を財布に押し込んで懐中にしまい込むと、箒を呼び寄せて飛び乗るなりその女の後を追いかけていくのだった。
死出の旅路へと誘う生温い夜風が「一枚の紙きれ」を途方に暮れる「迷子」の副長の元に運んできた。
それが顔元にまで飛んできたところで、はしっと副長はそれを受け止め、しげりと眺めるなり気色ばむ。
それは紛れもない「人相書き」。
それに描かれているのはまさしく「自分自身」。
それの意味するところは。
ふと顔を上げるとふらふらと覚束ない足取りで一人の男が「御用」提灯片手に歩み寄ってくるのが見えた。
(あれは御用組の。……っ!)
それをはっきりと視認した矢先、その男は「股下」から真っ二つに両断され、きれいに左右二つに分かれて臓腑を撒き散らしながら倒れていく。
そしてそこに現れ出でるは、舞い落ちる雪を背景に静かに佇む「半人半霊」の娘。
「瞑目」にして振り上げた右手に握るは「血染めの一振り」。
銀色のボブカット。そこから揺れる黒リボンのついたカチューシャ。
青緑の長袖の制服のような衣装。その色と同色のズボン。
(こいつがくだんの「辻斬り」か)
副長は即座にその娘の素性を見抜く。
娘は閉じていた双眸をゆっくりと開くなり、冷ややかにその「獲物」へと一瞥を投げかけゆく。
「ひとつお尋ねいたします。『紅魔組副長』とやらはあなた様のことでありましょうか?」
「……おまえは?」
「これから死ぬさだめの者に名乗る名などありません」
彼我の距離は目測にして「三間」あまり。
近からずも遠からずのその間合いをそれとなく把握しながら、副長は「無詠唱」で「身体強化」の魔法を発動させながら、左半身の構えで抜刀するのだった。
それを合図に 「 こ ろ し あ い 」 は 始 ま っ た 。
その「辻斬り」の動きは恐ろしいくらいに疾い。
その足音があっさりと「置いてけぼりにされる」。
瞬く間にその間合いを詰めるなり、その手前で跳躍しては「唐竹」を狙い大上段でその刃を振り下ろす。
「ぬっ!」
それを己の得物で受け止める副長。
同時に激しい火花が散り、耳障りな金属音が響き渡る。
(……重いっ)
その衝撃を両腕で受け止めるも、あまりの一撃の重さに腕はまだしも退る右膝頭までもがかくかくと笑って地につきそうになる。
「ほう、受け止めましたか。ならば」
「がはっ!」
副長が気付くころにはその腹に弧を描く「蹴足」をもろにくらい、そのまま吹っ飛ばされて背面の壁に勢いよく叩きつけられる。
その反動で宙を舞う「辻斬り」はまた軽やかに地に降り立つなり、半身を地を這うように屈めながらその懐に鋭く切り込むや逆袈裟に斬り上げにかかる、のを副長は口元に血を滲ませつつも「間一髪」で振り下ろす一撃の刃を叩きつけてこれを「相殺」する。
「おやなかなかしぶとい」
「お褒めに預かり光栄やわ。うちかてそうやすやすと斃されるものか」
「……そうですか」
肉迫する二人。
そのふたつの目線が交錯する。
そのぎりぎりの均衡を呆気なく崩したのは他ならぬ「辻斬り」。
その細腕ふたつからでは到底想像もつかぬほどの腕力で上から抑え込む長ドスを天高く弾き飛ばす。
「そろそろおやすみなさいませ」
「っ!!!!」
「無手」となった副長の胸に零距離の「刺突」が炸裂する。
その威力凄まじく、背面の壁に副長を串刺しにするだけでは飽き足らず、その壁さえも破壊してその身体を彼方へと吹き飛ばす。
(……ぁあ)
逆さまの視界の中で、被っていた三度笠が宙に舞い上がるのをただ虚ろに副長は眺めるのだった。
とある「館」の門前にて。
突然と現れた「ラスボス」を前ににこやかに応対する「門番」。
「ああ、すみませんねぇ?ここから先は『関係者以外立入禁止』なんですよぅ、ですので『部外者』のあなた様におかれましては、このまま回れ右をしてお帰り願えませんかね?」
「あらそうなの?でもそんなの関係ないわよねぇ?」
「……おや、そうですか。なら、仕方ありません、ね!」
そうしてここもまた「血みどろの戦場」となるのだった。
「不吉な胸騒ぎ」を感じ取って居ても立っても居られなくなった「病み上がり」の巫女は、赤いリボンを揺らしながら幣片手に夜の街を駆けていた。
どこに行けばいいのかなんてわからない。
けれど、本能的な勘の導くままにただただひた走るのだが。
「止まりなさい」
その巫女を止める女の声。
同時に巫女の喉笛にナイフの切っ先が添えられる。
「……咲夜」
「あなたはここに居てはいけない。あなたは生きなければならない」
ただ淡々とそれだけを告げるや、首に巻いていたマフラーを翻すなり「メイド」は血臭漂う「裏辻」へと駆け行く。
そこから聞こえる「数度の剣劇」。しかしそれも、すぐにぴたりとやんでしまう。
それの意味するところは。
(咲夜)
霊夢はそのメイドの消えた方角を前に、大きく見開いた双眸を震わせながら、ただその場に凍り付いたように立ち尽くすのだった。
「護るべきものを背にして」闘わざるを得ない者。
「何も護るものもなく」闘う者。
その場合、「分が悪い」のは果たしてどちらか。
にも関わらず、「予想外にも善戦する」一人の「赤髪の女」。
「っ、少しぐらいは遠慮してくださってもいいんじゃないですかねぇ?」
「あら、そうは言ってもね、『素手で弾幕を弾くような輩』相手に遠慮なんてできるわけないでしょう?」
当たれば「即死レベル」の弾幕のことごとくを気を纏いし両拳で捌き続ける「門番」を心底呆れ返ったような顔で見下ろす「怨霊女」。
この女にとって「唯一の誤算」は他ならぬこの「門番」の存在。
あのときには居なかったこの「鉄壁の動く砦」を前に辟易を隠せない。
「 ほんとしぶといわねぇ。こっちとしては手早く済ませたいのだけど?
まあいいわ。ほんの少しだけ本気を出してあげる。
華霊 『 バタフライディルージョン 』 」
それは見る者を幻惑させそのまま死へと導くこの「怨霊女」の「とっておき」。
「いえ、それって絶対に『全力かまして』ませんか、ねっ!?」
「おいっ、なにぼーっとしてんだっ!」
「は、はい?」
ついぞ先程までとはまったく毛色の異なる無慈悲なる弾幕の猛攻に「門番」は顔を引きつらせると、その前に躍り出るは「通りすがりの魔法使い」。
その「小さな救世主」は颯爽と登場するなりアイテムを迫り来る弾幕めがけ突き出しては、「とっておき」をぶちかます。
『 Blow away ” MASTER SPARK " !! 』
「お、おお?何が何だか分かりませんが、これはすごい。……って、冗談ですよね?」
「へ?おい、嘘だろっ!?」
景気よく放たれる「超高出力ビィイイム」を「片手ひとつ」で受け止める亡霊女。
それの意味するところは。
「ほら、もたもたしてたら、『余計なネズミ』が出てきたじゃない。だから嫌なの。それとこれ、お返しするわね。もちろん、『倍返し』でね?」
受け止める左手にそっと右手を添えて己の妖力を注ぎ込むや、「三倍程度」の威力に変えて打ち返す。
「やーれやれ。そんなのは承っておりませんのに。……しょうがないですねえ?(にっこり)」
「って、おい『門番』、おまえ何のつもり……!?」
その巨大な奔流は目障りなこの二匹のネズミもろとも残りの三匹の潜む館さえも道連れに呑み込んでいった。
「あーあ、長居しちゃった。疲れたからかーえろっ」
はふ、と小さく嘆息するや怨霊女はその後の顛末を確認することなく、ふよーんっと彼方へと飛び去っていくのだった。
二人連なるように倒れ伏す血まみれの「副長」と「メイド」。
その二人の傍らにしゃがみ込んで、その小さな両手を翳しながら霊夢は「愉魂」の処置を行っていた。
それは明らかなる「禁術」。しかし、そうしなくてはこの二人は「救えない」。
その「身銭を切り捨てての癒し」を冷ややかに眺める「辻斬り」。
「まったく理解に苦しみますね。すぐに潰えるそのいのちを死にゆく者に分け与えるなどと」
「……あなた、『泣いてる』わよ」
その小さな背中めがけゆらりと刃を振り上げたその手が、不意に飛んできたその巫女の言葉に反応してビクっと止まる。
「このわたしが泣いてるなどと」
この殺される間際にして振り向きもしない巫女を前に「辻斬り」は緩やかにただ被りを振る。
「……そのようなたわごとなどどうでもいいので、さっさとくたばりなさいませ」
打ち鳴らす『鍔口』と「鯉口」。
それとともに舞い上がる「血飛沫」。
やがて二人を庇うようにその巫女もまた倒れていく。
「 とわにおやすみなさい。
そしてさようなら 博 麗 霊 夢 」
潰える巫女へ「お別れの挨拶」を投げかけ、みっつに増えた「つまらぬもの」へと背を向けるや、「辻斬り」は一陣の風とともに何処へと消えていくのだった。
(……うん?あれ、いま、何月?)
とある「誰かさんの屋敷」。
長き冬眠から目覚めた「ねぼすけ」さんは、ほけーっとした顔で天井を見上げる。
(どうしよう、まだ寝ててもいいのかしら?)
感覚的にはまだ「真冬」。
さてさて、どうしたものやら。
(……もうちょっと、もうちょっとだけ寝ててもいいかな)
そしてそのまま、すやあっと「二度寝を決め込む」のであった。
春はまだ遠し。
その春もいつになったら訪れるのやら。
そこはどこなのか分からない、白一色の世界。
ただ聞こえるのは川のせせらぎひとつ。
そんな世界をとてとてと歩くのは一人の巫女。
(あー、どこに居るのかな。って、あ、いた)
流れる川の岸辺で見かけたのは一人の少女。
膝を抱えてそこに顔を埋めるように座り込んでは、小さく肩を震わせているのが見て取れる。
(まったく、しょうがないなあ?)
その少女が「やっぱり泣いていた」のを確認するや、巫女は困ったような笑みを浮かべてはそっとその傍らに寄り添うように腰を下ろす。
「……どうして」
「うん?」
「どうしてそんなに『優しい』の?」
「えー、だって、『放っておけない』じゃない?」
その少女の問いかけににべもなく答える巫女。
その二人の少女の心が通い合いそうになるその手前で。
「あらあ、『うちの娘』に余計なことをしないでくれる?」
かの女はその二人の前にふわりと降り立つや、緩やかに小首を傾げてのける。
「……幽々子さま」
その突然の主の登場に狼狽える従者。
その少女へと一瞥を投げかけた後に、主の目線は従者の傍らに座る巫女へと向けられていく。
「あなたが『今回の黒幕』ってことでいいのかしら?」
「ふふ、だとしたらどうするつもり?」
怯むことなく問いかける巫女を前に愉しげに主は微笑むなり、そっとその細顎をしゃくり上げていく。
「っ、なにを」
「可愛い顔をしてるのね。その魂まで穢すのは惜しいからこうしてあげる」
そこから重なる「ふたつのくちびる」。
「……ぁあ」
従者の目の前で巫女の魂はそのまま「冷たく凍り付いてしまう」のだった…………。