東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 - 作:俄かさん。
「こらっ、ゆかりっ、なんとかしなさいっ!なんとかするのが管理人の仕事でしょ!?」
「うっさいわね、ゆうか!わたしだってやってるわよ!でも、これ以上無理かもぉ(へろへろーん)」
「えっ、ちょっ、まじで?」
迫り来る「世界の終焉」。その元凶たる「ばけもの」を前に追い詰められる新米の紫と幽香。
そこへぱたぱたと駆けてくるもう一人の娘、幽々子。
「おとうさま、おとうさま、いやあああっ!!」
「え、誰、この娘?」
「ああ、……『ちょうどいい』わね」
まだ「ひよっこ」の管理人はその娘を見るなり、「最後の手段」を取ることにする。
「倒すことも封じることもできないばけもの」を前に、それはまことに不本意ながらの「苦肉の策」であった。
「 ごめんなさい。でもこれもあなたのお父さんがいけないのよ。
こんなのは『顕界(ここ)』にのさばらせるわけにはいかない。だから
ほ ん と う に ご め ん ね ? 」
そう早口でまくし立てるや、その娘の襟首をまるで猫のように掴むや、ぽいっとそのばけものめがけ思いっきり投げ飛ばす。
「え、え?」
いくらトロくさいこの娘とはいえ、その娘がそれで何をしようとするのかは察することはできた。
投げ飛ばされる中で、その娘が最期に見たのは「憎むべきこの娘の顔」だった。
「 ……てめぇ。後で覚えてろよ。
化 け て 出 て や る か ら な ? 」
「冥界」へと誘う「次元のスキマ」が開く。
その「ばけもの」もろともこの娘はそのまま「この世」から「あの世」へと放り込まれるのだった。
基礎を残して「ほぼ」吹き飛んだとある館。
そこにいた者などそれこそ「ひとたまりもない」だろう。
そう思われた矢先のこと。
がんがんがんっ。
どごぉんっ!
「うあー、し、死ぬかと思いましたあ」
「ほんとほんと、こあが機転利かせて『地下食糧貯蔵庫』に誘導してくれなきゃ消し飛んでたもんねー」
食糧を溜め込む地下倉庫の扉を蹴破り、ひょっこり顔を出す「コウモリ女」と「金髪の吸血幼女」。
二人は外に顔を出すなり、「九死に一生を得た」ことにほっと安堵の息をつくのだ。
「……こらっ、二人とも、早く外に出なさいっ。後がつかえるじゃないの?」
「あ、ごめんごめん、おねえちゃん。ほら、こあ、さっさとどくっ!(げしっ)」
「はんぎゃー!?」
じゃまなおしりふたつをぐいぐいと両手で押すのは「青銀髪の吸血幼女」。
「姉」に急かされて、「妹」は隣の「命の恩人」を彼方へと蹴り飛ばしてからようやっと外に抜け出す。
「あーあ、ひどいなー、これはひどいなー」
「何がひどいの、フラン。……っ、ああ、確かにこれはね」
外に出るなりそう呟く妹の後を追うように遅ればせながら出てきた姉は、妹が眺める方を見ては小さく嘆息を漏らす。
二人の視界いっぱいに広がる、その「ひどい光景」。
住み慣れた「館」はもう「そこにはなかった」。
あの「魔導師」が館全体に拵えていた「防御壁(シールド)」もあのビームの前には歯が立たなかったらしい。
その代わりにあるのは、どこのものなのかもわからぬほどの瓦礫ばかり。
すっかり見通しが良くなったその一帯、普段なら館に隠れて見えない「妖怪の山」まで遠目に見えるほどだ。
「……ねえどうしよう、おねえちゃん。わたしたち、おうちなくなっちゃったよー」
「どうするって言われてもねぇ。……ん?」
「?どうしたのおねえちゃん?」
途方に暮れる二人であったが、何かを察した姉はゆらりと振り返る。それを怪訝そうに眺める妹。
『 Löschen Sie es (消し飛べ) 』
控えめにその威力を抑え込みながら「魔法」で背後の瓦礫を吹き飛ばす姉。
吹き飛んだ瓦礫のあったそこに、うつ伏せに倒れ込む「血まみれの赤髪の女」。
それまで圧し掛かっていた重みから解放されるや、その女はごろりと寝返りを打つかのように仰向けに転がる。
その女の下に居たのは。
「……おねえちゃん」
「ええ」
二人の姉妹はその仰向けに横たわる「小さな少女」をただじっと眺めるのだった。
(あーあ、なんであたしって、こんなに「不幸」なんだろう?って、なにあれ?)
せっかくあの姉妹を助けたとはいえ、無下に足蹴にされて捨て置かれる「コウモリ女」。
「うきゅう」とひっくり返りながら、涙交じりに雪が舞い落ちる宵空を眺めていると、何かがこっちに向かってゆっくりと飛んでくるのが見えた。
それは「大きな大きなそらふね」。
ちかちかとそこかしこから灯りを明滅させながら、こあたちのいる方へと近付いてくるのだった。
かくて世界は救われた。
それは「一人の娘の犠牲」によって。
しかし、その娘は宣言通り「化けて出てきた」。
そんな娘を憐れに思い、「当代の閻魔大王」はこの娘に「とある条件」と引き換えに「屋敷」を与えた。
そして暇を見つけては手土産ひとつ片手にその屋敷を訪れては娘を慰め続けた。
その接し方はそれこそ「親そのもの」であった。
その優しさに癒されるうちに、いつしか少しずつではあるが、その憎しみも薄れていく。
やがて娘は「一人の男」と出会い、恋に落ちる。
しかしそれは決して「許されぬもの」。
それでも二人は互いの心を通い合わせ続けた。
だが、それも長くは続かなかった。
その男すら「奪った」のは。
深淵の闇の中、「その女」は凄んだ笑みを浮かべていた。
その周りには力尽きた「物言わぬ仲間たち」が累々と横たわっている。
その女は自分が「まだ生きている」ことに気付くや、ふわりと目の前へと舞い降りてくるなり、首を締め上げにかかる。
その力は凄まじく、小さな身体はいともあっさりと片腕一つで高々と持ち上げられていく。
(……ぐっ、ちくしょう、こんなところで)
必死に締め上げるその手を振りほどこうとあがくが、それも適わない。
次第に視界が掠れていく。
くた、と全身の力がそのうち抜けていった。
「っ!!!!」
魔理沙が目覚めるとそこは見慣れぬ建物の中だった。
板張りの堅い床。そこはかとなく香る線香の匂い。見上げる天井一面に描かれる「仏様降臨の図」。
それの意味するところは。
(……寺、か)
なんとなくここがどこなのかを察すると、「とりあえずまだ生きていること」にはあ、と安堵のため息を漏らす。
「おやお目覚めですか?よかったです(にっこり)」
そこににゅっと視界いっぱいに現れたのは「赤髪のミイラ女」。
そのありさまに思わずぶはぁっと魔理沙は吹き出すも、どうにか我を取り戻す。
「お、おう。……門番じゃねぇか、すげぇ格好だな、おい」
「ええ、自分でも大袈裟すぎると思ったんですがね、まあ、それはさておき」
包帯ぐるぐる巻きの「門番」は身を挺して護ったその娘が息を吹き返したのを見るや、心底嬉しそうな顔をしてのける。
それからすぐに真顔に戻るなり、「はあ」と小さくため息を漏らしては、ちらりととある方を眺めやる。
「ぱちぇさん、咲夜さん。起きて、起きてくださいよぅ」
啜り泣くその声に気付き、痛む身体を酷使するように動かして起き上がった魔理沙は、その声のした方を見ては小さく息を呑む。
二人の「犠牲者」の名を涙声で呼びかける「コウモリ女」。
その傍らに言葉を忘れたかのように座り込む「吸血姉妹」。
その三人のいる方へとふらつきながら歩み寄るや、その光景を前に魔理沙は双眸を大きく見開かせる。
「魔導師にメイドじゃねえか。誰にやられたんだ?」
「……あら、起きたのね」
その「金髪の娘」を見るなり姉は静かに目を細める。
それからまた改めて横たわる「二人の部下」へと目線を戻す。
「辻斬りにやられたらしいわ。派手に斬られたけれど、これでも『どうにか生きている』。……それも、『博麗の巫女のおかげ』でね?」
「は?」
「あっちにいるわ。あなた、『おともだち』なのでしょ?」
そう告げやる姉は「もうわたしたちに構うな」とばかりに「本堂」の奥を投げやりに指し示す。
それに気圧されるように魔理沙は「毘沙門天」の御本尊の据え置かれたそこへと歩いていく。
歩みを重ねるたび、何故か胸の鼓動が早くなった。
そしてそのうち、「見たくもないもの」が視界に入ってくる。
目の前にあったのは、「開かれた棺桶」。
そこで魔理沙は足を止め、その棺の中で眠る「死装束姿の娘」を見るなり、腰を抜かしたかのようにへたり込む。
「……おい、嘘だろ、なあ?なんで、なんでおまえがそんなところで寝てんだよ?」
その呼び掛けに「眠る巫女」は答えない。
ただ胸の前で両手を組んでその棺の中に収まっている。
「ばかやろう、起きろよ、起きろってば!」
そのまま魔理沙はその顔を思い切りくしゃけさせながら、世も末もなく大声で泣き喚くのだった。
それからそのお腹に「ひとつのいのち」を宿していることに気付くようになった。
それが月日が経つうちに大きくなるに連れ、娘は「母」としての自覚に目覚めていく。
そして産まれた娘には、その男の名から「一文字」取って名付けることにした。
しかしそれすらも本来ならば「許されぬ」。
何故ならば、自分とその男には「天地の開きほどの身分の差」があったから。
されどそれでも。
「たまに」帰ってくるその男。
そのたびにその娘に教えるのは「過酷な剣の道」。
それがたとえ自分を護るためとはいえ、そんなのは「母」として許せなかった。
だからこそ「夫」であり「父」であるこの男につい、過剰なほど厳しく当たってしまった。
そしてその男は、「ある日を境に」二度と帰っては来なかった。
そう「仕向けた」のも。
(……あーあ、すごい夢を見たわねぇ)
この郷の「どこか」にある「誰かさんの屋敷」。
その寝室でようやくお目覚めとなった「管理人」は、起き上がるなりげんなりとした顔をしていると。
「しゃんはーい♪」
その間抜け面めがけて何の前触れもなくぽーんっと「上海人形」が投げ込まれる。
それを慌ててキャッチするや、戸口に立っていた「七色の魔法使い」の姿に目を丸くする。
「あら、アリス?どうしてここに?」
「『お呼び出し』よ。わたしは『ある人』に頼まれてあなたを呼びにここに来た。頼んだのは誰だと思う?」
「え、えーっと、誰かしら?」
「……なによ、そこまで鈍いの?寝すぎて脳みそまで腐ってんの?」
ここに来て未だ寝ぼけた管理人の様子を見るなり、吐き捨てるようにけなすや、アリスはその依頼主の名を告げやる。
その名を聞いた途端、管理人の心の古傷はずきりと痛み出すのだった。
俄かに本堂の中が騒がしくなった。
「遅いっ!」
「ああっ、ごめんなさいね。着替えるのに手間取っちゃって?」
「はあ?それでもあなた、管理人としての自覚あるわけ?今がどんな状況か分かってるの?」
「……うう、面目ない」
「次元のスキマ経由」でやってきた「遅刻組」を怒鳴りつけるはこの寺の住職、「聖白蓮」。
怒鳴られてしゅんとなる管理人。そんなへっぽこをジト目で睨む七色の魔法使い。
「まあ、いいわ。とりあえず始めるわよ?」
そのひと声を合図に「会合」は始まった。
知り得る限りの情報を惜しみなく出し合い、今現在の状況とすべきことを再確認する。
この「春雪異変」は先に勃発した「ハッタリまがい」の「紅霧異変」とは訳が違う。
それは恐ろしいまでの殺意の込められた「計画的犯行」のひとことに尽きる。
主犯「冥界の桜守」こと「西行寺幽々子」。
共犯「白玉楼の庭師」こと「魂魄妖夢」。
その犯行目的は『西行妖』なるあやかしを用いて「この世界を滅ぼすこと」。
その犯行動機は。
憂いを帯びた顔で双眸を瞬かせながら管理人は「冥界の桜守」との浅からぬ因縁を打ち明けた。
同時に、夢の中で出てきた「新米の閻魔大王」のことについても触れ、この犯行が去年の暮れに極秘裏に行われた「閻魔大王の交代」を機に企てられたことも伝えた。
そう、こうしている間にもこの世界の終わりは刻一刻と迫っている。
もう立ち止まる訳にはいかなかった。
その目の前に「とても悲しいこと」があったとしても。
車座になって座る会合の参加者をひとしきり見渡した後に、住職は「討伐隊」に加える者の名と課せる役割を挙げていく。
前衛(突撃担当) : 封獣ぬえ
前衛(攻撃担当) : 雲居一輪
後衛(遊撃担当) : 霧雨魔理沙
後衛(支援担当) : アリス・マーガトロイド
そして指揮を執るのは。
「……みんな、準備はいいかしら?『開けるわよ』?」
順繰りに「眠れる巫女」に「お別れの挨拶」を済ませてから、道士服姿の管理人は「冥界直通の次元のスキマ」を展開する。
それを見るや、前衛二人は次々とそこに飛び込んでいく。
そうしていざ自分の番になったところで、魔理沙はちら、と棺の中で眠る「ともだちだった娘」へと一瞥を投げかける。
この世に生まれ出でてまだ「十六年」。
この世界のすべてを知るにはまだ若すぎる身空ではあるけれど。
それでもこの娘は「破滅の迫るこの世界を救う」という途方もなく壮大な「大仕事」を前に、自分なりの覚悟を決める。
それから、すっと愛用の三角帽子を目深に被り直す。
もう、そこに迷いなどなかった。
「……行くぜ、師匠」
「ええ、いいわよ」
師匠と弟子。
そのコンビは互いの顔を見合わせて頷き合ってから、「次元のスキマ」へと飛び込んでいく。
指揮を務める管理人はふんぞり返る住職の方へと一瞥をくれてから、「怒られる前に」自らも次元のスキマへと飛び込むのだった。
(これで「貸しひとつ」ね。あとでしっかりと返すのよ。あたしの部下二人も貸したんだから、ちゃんとやってよね?)
「神道」の「博麗神社」。
「仏道」の「命蓮寺」。
その成り立ちから向かう道は似ているようで異なるもので。
はるか昔からこの二つは「商売敵」として競り合ってきていた。
ただ今は、「共通の敵」を前に一時的であれ「同盟関係」を結んでこの決戦に臨む。
腕組みしがてらふんぞり返りつつ、白蓮はただじっと「閉じられゆく次元のスキマ」を見据えるのだった。
「冥界」、「是非曲直庁」。
そこはいわゆる「あの世における裁判所」。
その「審判の間」にて身の丈に合わぬ玉座の上に立ちながら、「浄玻璃の鏡」越しに一人の新米閻魔は「とある屋敷」を眺めていた。
「当代の閻魔大王」に就任してまだ五ヶ月。
その短い任期の間に、早くも立て続けに「二件の異変」が発生した。
ひとつは弥生に起きた「紅霧異変」。
もうひとつはあろうことか「身内の起こした」この異変。
口惜しくも当事者でありながら、それを止める術はなかった。
「顕界」から「冥界」に行く道は断たれ。
そして「冥界」より直接関与する術さえも封じられた。
引退した「御先代」は「主犯の屋敷」を隠居先に選び、そのまま図らずして「人質」となってしまった。
今ごろその主犯どもはさぞ高笑いをしていることだろう。
何かにつけて反目行為ばかり繰り返す「あの部下」のように。
それでも逃げるつもりはない。
この「新米上司」もまた、自分なりの覚悟を腹に決めてそこに立ち続けるのだった。
そしてその一方では。
「……いやあ、困った困った。ほんっとこいつはどう処理していいか分からんねぇ?」
「この世」と「あの世」を隔てる「三途の川」。
「この世」側の岸辺に「氷漬け」の状態で捨て置かれた娘を前に、「新米上司の部下」なる死神は困惑の表情ありありと浮かべる。
こういう場合、どう処理すればいいのだろうか。こんなのは前代未聞、「職務マニュアル」にも記載がない。
向こう岸に連れていくにしても、本人の同意がなくばそれも適わず、聞くにしてもこの状況ではそれもままならない。
(あーあ、これでまーた怒られっかねぇ?今度の説教は「何時間コース」だろ。ま、いいや?)
云々唸りながら考えた末、死神はまずはその娘を閉じ込める「氷を溶かすこと」から始めるのだった。
かくて壮大なる「復讐劇」は始まった。
まずはこの顔に泥を塗った挙句、あろうことか盾突いた「紅魔組」なる組織の者に「死の制裁」を。
そしてそれが済んだ暁には、いよいよ本命である「あの憎むべき女」への「復讐」を。
すべての発端となったあの「あやかし」は既に己の「制御下」にある。
その花を咲かせるも散らすも、まさしく「思いのまま」だ。
こんな「便利な道具」を使わずして何になろうか。
しかし、ここにきて思い通りにならぬのは、「あの娘」。
いろいろとあの手この手で「洗脳」なり「調教」なり施しても、完全な「操り人形」にはなり得ない。
だからもう、その娘には見切りをつけて「捨て置くことにした」。
その娘が居なくても、「かねてよりの計画は万事滞りなく進み、そして成就するのだから」。
「……来たわね。ほんっと、待ちくたびれちゃったわあ」
己が根城である「白玉楼」。
その後ろにある「八分咲き」の巨大な「山桜」を背に浮遊する「ラスボス」はふんわりとした笑みを浮かべがてら、「次元のスキマ」経由で急行してきた「五人の空飛ぶ刺客」を諸手を上げて出迎える。
「なんだ、おまえひとりか?『従者』はどうした?」
「あらあ、あなたはあのときのネズミさんね。生きていたとは意外だわ。ふふ、これはハンデよハンデ。だって、わたし、『強い』んですもの」
いきり立つ「通りすがりの魔法使い」を前に、「冥界の桜守」は閉じた扇子を口元に添えがてら楽しげに目を細める。
それから一番奥に居た「もっとも憎むべき女」を見るなり、凄みのある笑みを満面に浮かべるのだ。
「 『中有の道』を寸断すれば『生者は冥界には来れない』。
ならば取るべき手段は『あなたの能力しかない』わよねえ?
ここをあなたたちの『墓場』にしてあげるわ 」
その「処刑宣告」を前にきゅっと管理人は唇を噛み締める。
「……行くわよ、みんな」
そしてその 「 絶 望 的 な 闘 い は 始 ま っ た 」 。
(始まってしまった)
決戦の火ぶたが切って下ろされた屋敷を、「持ち場を離れて」九十九折の石段の方から見上げる一人の娘。
始まってしまった以上は、もう誰も止められない。
「西行妖」なるあの山桜が満開になるとき、あれは「爆発四散」して「この星すら」吹き飛ばす。
そう、その山桜は紛れもなく「破滅をもたらす」存在。
それに纏わる母とあの幻想郷の管理人との浅からぬ因縁。
母は自分もろともこの世界もろとも「あの女」を葬り去るつもりなのだろうか。
そして、自分もまた「母の望むままに」それに「加担してしまった」。
そうしなければ、「愛されない」と思ったから。思い込んでしまったから。
護るために振るうべきこの一振りは、ただ殺めるためだけのものに成り果ててしまった。
剣を教えた父は、果たしてそれを望んでいただろうか。
(……わたしは、どうしたら)
穢れたその一振りを頑なに胸に抱きながら、「魂魄妖夢」なる娘は双眸に涙を滲ませながら小刻みに肩を震わせるのだった。
「 お逝きなさい
華霊 『 バタフライディルージョン 』 」
「っ!総員散開して!すぐっ!!」
先手を打たれ、後手に回ざるを得なくなった「五人 」。
即座に管理人は四人に指示を発する。
その数瞬の後に螺旋描く弾幕の嵐が吹き荒れていく。
それはあまりにも苛烈でそして「美しい」。
けれど、それに見とれたら「一巻の終わり」。
即反応した四人は各個散り散りになってこれを必死になって回避していく。
「っくそ、またあの技かよっ!!」
上へ下へ。右へ左へ。時にその視界は目が回りそうな勢いで天と地がせわしなく入れ替わる。
そのあまりにも急激な回避運動の余波で被っていた三角帽子が脱げ落ちるのにも構う余裕すらなく、魔理沙はその慈悲なき猛攻に舌打ちをする。
「大丈夫、魔理沙?」
「あ、ああ師匠、なんとか、けどこのままじゃジリ貧だ。一体どうすりゃ?」
そんな危なかっしい弟子の動きを見かねて、器用に弾幕の嵐を掻い潜りながら近寄る師匠の問いかけに、弟子は頷きながらも悔しそうに歯噛みする。
「後衛支援!前衛の突破口を開いて!いまっ!!」
その弾幕の嵐が弱まり始めた頃合いで矢継ぎ早に指揮官の指示が飛ぶ。
「魔理沙、とっておきを使って?援護するわよ?」
「分かった、師匠!」
師匠の声かけに即反応し、魔理沙はあの女めがけ左手に握るアイテムを突きつけていく。
師匠は師匠で場馴れしてる感がある。
そしてありかたいことに要所要所でフォローまで入れてくれる。
ただ、それもなんか正直複雑な気分だった。
なんだかんだで本当に組みたい相手は。
だけど今は「そうも言ってられない」。
「 舞いなさいあなたたち
操符 『 乙女文楽 』 」
「 ありがてぇ、師匠!いくぞ吹き飛べ!
星符 『 マスター・スパーク 』 !!!! 」
舞い踊る十二体の「上海人形」から放たれるレーザーの援護を受け、魔理沙はここぞとばかりの「とっておき」をぶちかましていく。
「……切り込むよ、一輪」
「うぬ、承知したっ」
その援護を受ける前衛二人。
ぬえは己の得物である「トライデント」で。
一輪は片割れである「大入道の拳」で。
果敢にもその「この異変の元凶」へと突撃していく。
だが。
「あらあらとっても勇ましいのね?でも、それも無意味よ」
突然とどこからともなく立ち込める暗雲。
それにあっという間に包み込まれるや、あっさりとその標的を見失う。
「っ!あいつどこに!!ぐわっ!!?」
「ぬ、ぬえ殿!……がはっ!!」
倒すべき相手を見失ない、狼狽える二人を紫に輝く交差するふたつの「巨大な円刃」が無慈悲に切り刻んでいく。
「 華々しくも惨たらしく散りなさい
反魂蝶 『 八分咲 』 」
それまで背にしていた「西行妖」なる山桜と一時的に同化した「ラスボス」は、そこから展開する「回避不能」の奥義を繰り出しては、残りの三人すら息をする暇さえも与えることなく屠っていくのだった。
(……ああ、墜ちる。墜ちていく。やられたのか、あたしは)
乗っていた箒から弾き飛ばされ、重力の導くままに落下する「通りすがりの魔法使い」。それを助けようと必死に手を差し伸ばす「七色の魔法使い」。
(ばか、師匠も師匠でぼろぼろじゃねえか、なにもそこまでしなくても)
そうして「二人の師弟」は、手を繋ぎながら仲良く墜落するのだった。
(ああ、わりぃ、霊夢。……あたし、ここまでみたいだ)
(静かになった。もう、終わってしまったのね)
さっきまで吹き乱れていた交錯する弾幕の嵐は、突然と止んでしまった。
それが何を意味するのかを察した娘は悲しげに目を伏せる。
そんな矢先のことだった。
「あーあ、ここに居たのね。まったく、『また』探しちゃったじゃない?」
「え、え?」
ただただ悲嘆に暮れるその娘の背後の壁から唐突に「にゅっとわいてきた」のは、「一人のユーレイ娘」。
その手には娘が胸に抱く一振りと比べて短めの一振りが握られている。
「ほら、あなたのおうちの方から『くすねて来た』わよ。これがいるのでしょ、今のあなたには?」
「……は、はい?」
「ユーレイって便利ねぇ。擦り抜け放題、コソ泥し放題。どっかの誰かさんがこれを聞いたらきっとうらやましがるだろうけど?」
「え、ちょ、ちょっと待って、あなた、今の今までっ!?」
「そんなのどうでもいいじゃない。ってなわけで、はいっ」
屋敷からくすねて来た「もう一振り」を狼狽える「半人半霊娘」に投げ寄こしながら、「ユーレイ巫女」は満面の笑みを浮かべるのだった。
(……ああ。もうこれで終わり、なのか)
G A M E O V E R 。
そんな不吉な横文字が魔理沙の脳裏を掠めてゆく。
もう、指一本もまともに動かない。
ただ勢いよく地面に叩きつけられたカエルのようにぐったりと四肢を投げ出すように仰向けに転がっているだけで、辛うじて顔をわずかに動かすのがやっとだ。
視点を変えれば、そこには累々と横たわる「物言わぬ仲間たち」の姿が見えた。
それはあたかもあのとき見た「悪夢」をそのまま再現しているかのようだった。
あの「ぬえ」も。
あの「ぶっぽうそう」も。
あの「ししょう」も。
みんなただぐったりと地に倒れて「微動だにしない」。
そして天を仰げば、「ラスボス」に首を絞められる「風前の灯の女」が遠目に見えた。
そう、これで終わりだ。
途方もない絶望感と虚脱感に抱かれるうちに、なんだかとても「眠たくなった」。
これがきっと「死ぬ」ということなのだろう。
ここが「あの世」ならそれこそ「ちょうどいい」かもしれない。
そうくだらぬことを思いながら双眸を閉じかけたそのとき。
ぱ ん っ 。
どこからともなく打ち鳴らされる「柏手(かしわで)」。
その澄んだ音色が辺り一面に響き渡ると同時に「奇跡は起きた」。
八分咲きから九分咲き、そしていよいよ「満開」に差し掛かろうかという頃合いで、その巨木を彩る桜の花は「一斉に散った」。
「……なっ!?」
それと同時に急激に「ラスボス」の力が抜け落ちていき、その手から「憎むべき女」が滑り落ちていく。
そのまま真っ逆さまに落ちていくのを、はしっと両腕で抱き留めたのは。
「……れっ」
「情けないわね、あんた。何そんなとこでくたばってんの?」
そのまま地に降り立つなり、「喧嘩別れした相方」に背を向けて吐き捨てるように「少女」は告げやる。
それから腕の中の「たいせつなははおや」へと目線を向けていく。
「霊夢ちゃん」
「大丈夫、『おばさん』?」
「……そこはおかあさんと呼んでくれていいのよ」
「うん、じゃあ、おかあさん。大丈夫だった?」
「ええ、なんとか。でも、霊夢ちゃんの方が」
「さいあいのむすめ」に抱かれるままに、そのありさまを双眸を震わせながら母は眺める。
「あらあら、どんな理屈でここに来れたかは分からないけど、『透けかけてる』わよ、あなた?」
「……それがどうしたというの?それよりもあのときはよくも『弄んでくれた』わね?」
力を失いつつも、ゆらりと降り立つ「ラスボス」は嘲るようにその少女へと冷ややかな眼差しを投げかける。
その嘲笑めいた物言いにも動じる素振りを見せることなく、霊夢は憤怒の表情ありありと浮かべ睨み据える。
「魔理沙」
「おう」
「立ちなさいよ。あんたは『この世界を救う英雄』になるんでしょ?」
「ああ。……そうだった、な」
自分の身を省みず発破をかける「元相棒」の言葉に頷き、魔理沙は持てる力を振り絞って「立ち上がる」。
そんな二人を蔑むように「ラスボス」は嗤う。
「愚か。実に愚か。そのまま大人しくしていればよいものをわざわざ早死を選ぶか?ならばいっそ……」
されど、その言葉は最後まで続かなかった。
どんっ、という鈍い衝撃とともにその胸が背後から深々と貫かれたからだ。
「……もうおやめください。もうじゅうぶんなはずです。 『 お か あ さ ま 』 」
「白桜剣」という銘の「脇差」から繰り出されるその一突きをその胸めがけ放ったのは。
「よ、うむちゃん。そう。……あなたに倒されるのなら、『ほんもう』、かも、ね」
その背に「さいあいのむすめ」の温もりを感じながら、「ラスボスだった女」はゆっくりと前のめりに倒れ伏していくのだった。
何が正しくて何が間違っているのか。
そんなのはやってみなければわからない。
たとえ、それが「過ち」だったとしても。
「答え合わせ」は他の誰かに任せればよいだけのこと。
「やってくれましたねえ、あなた?やったからには相応の覚悟はできてるんでしょうね?」
「はいはい、そりゃもう、分かっててやりましたからねぇ?どんな罰でもお受けしますよ、『映姫』さま?」
「是非曲直庁」の「審判の間」にてそんなやり取りを交わす「新米上司」と「部下」。
部下のどこか吹っ切れたような開き直ったようなその態度を前に、上司は軽く眉根を寄せつつも小さく微笑むのだった。
かくて「春雪異変」なる「復讐劇」は終わった。
それはなんとも後味の悪いものとはなったが。
「顕界」においては「季節外れの雪」から「時期遅れの桜」が咲き乱れるようになった。
これで田植えができると農民どもは大いに喜んだ。
「事後処理に追われる」あの世の裁判所にて。
「あのぅ、こういうのもなんですけど。『三か月の謹慎処分』なんて温すぎやしませんか?」
「……そうは言ってもですね、『小町』。あのあやかしは『まだ生きている』のですよ。また同じようなことが起きた暁には、誰が真っ先に対応するのです?」
「ああ、そういわれると。ちょっと、というか、だいぶ考えちゃいますよねえ」
「それに、あの二人は『御先代』がいつも見守ってくださってますよ。それも『一番近い場所』でね?」
「白玉楼」の庭先に生える「山桜」を臨む縁側の先の「大広間」に鎮座する「大仏さま」。
いつも慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、優しくも穏やかにあの二人を見守り続ける。
それこそが、「先代閻魔大王」その人である。
その目線の向ける先に。
「……幽々子。あなたにはものすごく申し訳ないことをしたわね。いまさらだけどここではっきりと謝らせてちょうだい?」
「紫、もう、いいのよ。わたし、もう『疲れちゃった』から、しばらくゆっくりするわ」
「そう。分かったわ」
大仏さまに見守られながら、床に臥す「桜守」とその枕元に座る「管理人」。
ここに来て、ようやく二人は「初めて分かり合えた」ような気がした。
「互いに過ちを犯した過去」は「もう変えることはできない」。
けれど、それでも二人は「数千年ぶりの和解」に向けて確実なる一歩を踏み出すのだった。
「ねえ、どうして傍に行ってあげないの?」
「だって、わたし、言いつけに背いた挙句、刃を向けてしまったから。だから、もうおかあさまはわたしを愛してくれない。だから、傍に居る資格なんて」
「……バカね。自分の娘を愛さない親なんている訳ないじゃない?」
庭に立って今は何も咲かぬ「不毛の山桜」を見上げながら語り合う「庭師」と「巫女」。
ともに「難しい過去」を抱える親を持つ、という点においては「似た者同士」と言えるだろう。
この期に及んで尻込みをする庭師を巫女は優しく諭してやる。そしてそっとその背を押してやるのだ。
それに促されるように庭師は母の元へと駆け出す。
(……そろそろ「時間」かもね)
それを見送った頃合いで庭師の背を押した自分の右手が「完全に透けている」のをしげりと巫女は眺めるのだった。
「霊夢。おまえ、『このまま消えちまう』のか?」
「そうね、……そうみたいね」
「冥界」での任務を終えていざ「顕界」に帰還する頃合いで明らかになる衝撃の事実を前に、魔理沙のみならずその場にいた一同は大いに動揺する。
その「巫女」は後ろの風景が見えるほどに「透けていた」。
それの意味するところは。
今にも泣きそうな面々を前に、巫女は困ったような笑みを浮かべやる。
「何もみんなしてそんな顔しなくてもいいじゃない。これ『大したことじゃない』のよ」
「って、あなた、居なくなるのよ?それ、分かってて言ってるの?」
「うん、アリス?そうだけどさ、仕方ないじゃん。そういう約束したからね、『死神さん』と」
「死神と知り合いっておまえ、どんだけ交友範囲広いんだ」
「あはは、それも成り行きよ成り行き。っと。……そろそろかもね。一輪、ぬえ、アリス、魔理沙、『おかあさん』。みんな、『じゃあね』?」
「な、待ってくれ、待ってくれよ!最後にひとつ聞かせてくれ」
「なあに、魔理沙?」
「あたしら、ずっと『ともだち』だよな?」
その問いかけに答える代わりに、巫女は満面の笑みを浮かべてみせる。
その笑顏を最後に、巫女は「完全に冥界より消えていった」。
……だいたいの事情はわかった。
けどこの世に留まることを選んだ以上は、あの世に長居することは許さないぞ。それがルールだ。ルールは絶対だ。
だから「制限時間を設ける」から、それまでにさっさとやるべきことを済ませるんだな。
それをしてもしなくても、時間が来れば「この世」へ「強制送還」だ。
それをゆめゆめ忘れんなよ?
氷の棺から解放されし折に、命の恩人である「小野塚小町」なる「死神」の物言いにこくりと頷く巫女なのだった。
それはつまりは、「そういうこと」で。
「わー、生き返ったー!?」
「えっ、ちょっ、うそ、マジで!!? 」
「ばかやろう、そういうことかよ、このクソ巫女!あたしの涙を返せっ!」
「なによ、もう、みんなして『早合点するのが悪いんじゃない』?……って、まあ、わたしも言い方悪かったかもかなあ」
「それじゃ、 『 た だ い ま 』 」