※この作品はR-18です。

東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 -   作:俄かさん。

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魔理沙が友と世界を救うため突貫し、妖夢が涙で決意を固める!


「 その十四話 」 魔理沙の選択

金色の胡蝶の舞によって、それまで籠っていた瘴気が浄化される中、魔理沙の目に映ったのは背筋が凍るほどの「信じがたい光景」だった。

 

突如、空間を裂くように現れた巨大な陰陽太極図。

 

「陰」を示す黒い半円には「守矢の風祝」が、「陽」を示す白い半円には「博麗の巫女」が閉じ込められ、二人とも生まれたままの姿で胎児のように身を丸めていた。

青白い肌が光と闇の中で不気味に浮かび上がり、その身体は無残にも切り刻まれ、滲み出る鮮血は黒と白の境界を侵し、まるで互いを浸食し合うかのように差し迫っていく。

 

それはさながら、「終末時計」の名の通り迫り来る世界の終焉を予告しているかのようだった。

 

「霊夢!風祝!なんでおまえらがこんなところにいるんだよっ!?なんでなんだよっ!」

 

魔理沙の慟哭交じりの叫びに、眠ったままの二人は答えない。

凄惨な凌辱の果てに魂さえも穢され、絶望と悲しみに染まった表情を浮かべたまま、二人は文字通り「西行妖」の動力として機能していた。

 

この二人は確かにあの怪談話の場で同席していた。

それから二人がどうなったのかは知るよしもないが、よもやこんなことになっていたとは。

 

『これが今の西行妖の中枢。わたしの制御を離れてこんな非道の極まりを成し得るのはもう、神さまぐらいなものよ』

「幽々子?」

 

不意に頭の中に響く幽々子の言葉に、はっと魔理沙は我に返る。

 

「神さま?神さまってなんだよっ!?って、まさか、守矢か?てか、それならなんで風祝がここにいるんだよ?」

『それは分からないわ。それよりも察せなくてごめんなさい。まさかこんなことになっていたなんて、わたしですら予想もつかなかったわ』

「ちくしょう、こんなのあんまりじゃねえか!なんとかなんねえのかよっ!!」

 

動揺する魔理沙とは裏腹に、続く幽々子の言葉はあまりにも冷淡だった。

 

『そうね。もうこうなれば取るべき手段はただひとつ。この二人の娘もろとも中枢を破壊するしか』

「おいおい、冗談だろ?」

『そうでもなければ西行妖を止められない。そして世界は終わるわ』

 

それは究極の選択。

 

「友」を取るか。

「幻想郷」を取るか。

 

友を取れば「幻想郷は滅びる」。

幻想郷を取れば「友を失う」。

 

(っ、くそっ、どうすりゃいいんだよ、どうすりゃ?!)

 

そのあまりにも残酷な選択を前に、魔理沙は魔力切れ寸前のミニ八卦炉を握り締めながらわなわなと震えるのだった。

 

 

「ご先代」の犠牲も虚しく、無情にも咲き続ける西行妖。

その開花は「三分咲き」から「五分咲き」へと移り変わりつつあった。

 

それを臨む居間の奥でいつも穏やかな笑みを湛えたまま座っていたご先代は「もういない」。

「がらんどう」の居間、畳の上で虫の息で横たわっていた幽々子を、妖夢は悲しみに濡れた面持ちでそっと抱き上げ包み込むように優しく抱きしめる。

その身体は両手のみならず全身までもが透けかけていた。

 

「幽々子さま、幽々子さま、しっかりしてくださいっ!」

「うふふ、妖夢ちゃんったら、どこまでも律儀なのね。こんなときくらい素直になってもいいのよ?」

 

力なく顔を上げ、はんなりと微笑む幽々子の笑顔は、それこそ実の娘に向けるそれであった。

その笑みを目の当たりにした途端、妖夢の心の中で何かが弾ける。

 

「おかあさま」

 

それはいまのいままで言えなかった呼びかけ。

普段の主従関係を重んずるあまり、封印していた「禁句」。

その心の壁を打ち破り、弾み出たその呼びかけを耳にし、幽々子は心底嬉しそうに目を細めやる。

 

「なあに妖夢ちゃん?」

「だめですっ、いなくならないでくださいっ」

 

その娘の必死の嘆願に答える代わり、愛し気に母は消えゆく指先で頬伝うその涙を拭い取ってやる。

 

「神さまは残酷ねぇ。どうしてこんなひどいことをするのかしら。それにそこから救う手段も、ねぇ」

「おかあさま?」

「紫に会ったら伝えておいてくれるかしら?……先に『あっちで』待ってるって?」

「おかあさまっ、おかあさまっ!!」

 

娘の必死の呼びかけも虚しく、そのすべてを二人の娘に託した母は、尽き果て淡雪のように消えてなくなっていった。

 

(……おかあさま)

 

その別離の悲しみに沈む暇もなく、妖夢は空っぽの手を強く握り締めるや涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を拭い、力強く立ち上がるや魔理沙の元に向かうのだった。

 

 

是非曲直庁。

 

ただ事態の推移を「浄玻璃の鏡」越しで見守ることしか術がない映姫と小町。

二人して途方もない絶望感と無力感に打ちひしがれながらも、片時も鏡に映る光景から目を離すことはなかった。

 

「……ん」

「どうしました、映姫さま?」

「いえ。何か一瞬、境界が強まったような気が」

「え?それって、まさか?」

「ええ、こんな芸当をやってのけるのは、もう『あの人』しかいません」

 

その不確定極まりない推測を確かめるように、映姫は鏡の視点をそれまでおろそかにしていた「顕界」へと切り替えるのだった。

 

 

「星蓮船」という名の「そらふね」。

 

その甲板の手摺に背を預けながら、紫は一人静かに佇んでいた。

 

その左頬を伝うは「ひとしずくの涙」。

その涙は「友の死への悲しみ」と「自身の犯した罪への悔恨」のあらわれ。

 

ひとたび気を許せば声に出てしまいそうな嘆きを押し殺すように、閉じた扇子で口元を覆い隠す。

そこヘカツカツとパンプスのヒールの音色を軽やかに奏でながら、一人の女が歩み寄って来る。

その女の姿を見るなり、金色の双眸は小さな驚きを伴い僅かに瞬く。

 

「ああ、いたいた。ここにいたのね。まったく、探しちゃったわよ」

「……永琳。どうしたの?」

「どうしたもこうも。それにしても相変わらず顔色が悪いわね。さっきよりもひどくなってるわよ」

「そう、そう見える?それより、どうかした?」

 

不覚にも頬伝う涙をそのままに、紫は緩やかに小首を傾げやる。

そのぎごちない仕草を嘆息交じりに八意永琳は眺めるや、懐中から「あるモノ」を取り出し投げ寄こす。

放物線を描きながら飛んで来るそれを、わたわたとしながら紫は両手で受け止める。

 

「なにこれ?……お守り?すごい造りが雑ねえ」

「あら、『あんたまで』そんなことを言うのね。……それ、あの『貧乏巫女』が作ったものよ」

 

けらけらと笑いつつ、永琳は「裏を見てみて」と軽いジェスチャを交えながら催促する。

それに促されるまま紫はお守りを裏返し、そして小さく息を呑んだ。

 

「博麗神社。これを霊夢ちゃんが作ったというの?」

「そうよ。あんたはもう忘れてるかもしれないけど、先月のこと」

「あ、ああ」

「あのとき、あの貧乏巫女はハナなる娘を連れてうちのところに薬を所望しに来たわね」

「ええ、そうだったわね」

「そのお守りは危篤寸前のハナの母親を救うために貧乏巫女が作ったもの。『無病息災』の刺繍が何よりのその証拠」

「……ええ、確かにそうね」

「ま、いざ薬を渡す見返りに代金をいただくわけだけど、あの貧乏巫女は一銭も持ってなかったからそれを没収したわけ」

「そうだったの。おかげでいろいろ思い出したわ」

 

思えばあの巫女の苦しみはあのときから始まっていたかもしれぬ。

 

「飛ばず」に「歩いて」ただ一人「永遠亭」に向かったその後ろ姿を訝しむばかりで止めなかったことが今更ながらに悔やまれる。

もしあのとき是が非でも止めていれば、きっと少なからずその未来は変わっていたことだろう。

 

そして同時に思い起こす「十年前の記憶」もまた。

 

すべては自分のしでかした所業が招いた結果だ。

だからこそ、そのすべてを「清算するため」にここにいる。

 

ただひたすらに暗い決意を固めたところで、永琳の平手が紫の背を軽く打った。

その衝撃を受け、紫は思わず「うへっ」となる。

 

「こーらっ、そんな思い詰めきった顔をしないっ!」

「うう、だからって思いきり叩かないでよ、もうっ」

「なによ。これでも加減してるつもりよ。ま、なんにせよ、『これからの闘い』、相手が神ならこっちも神を背負う覚悟で行きなさいな」

 

そう発破をかけるや、永琳は紫の正面に立つと改めて紫の手からお守りを奪うとそのまま首にかけてやる。

そしてそのお守りに施されている「無病息災」の刺繍を見るなり、眦を下げる。

 

「うーん、どうせなら『必勝祈願』の方が良かったかも?」

「あのねぇ?」

「冗談よ、冗談。ところで、ずっと気になってたことがあるんだけど」

「なによ?」

 

終始永琳のマイペースっぷりに翻弄されまくりの紫は、ここぞとばかり不愉快極まりなく眉根を寄せる。

その仏頂面を愉しげに眺めつつ、永琳はそっと紫に耳打ちをする。

そこから吹き込まれる疑問を耳にした途端、思わず跳ね上がる紫の片眉。

それから「うーん」っと仰々しく腕組みをしながら、紫は「ひとつの仮説」を告げやるのだった。

 

「高度三千。針路上に依然と障害なし。霊探にも反応なし」

「いいわ水蜜。そのまま維持して」

「畏まりました、白蓮さま」

 

艦橋内にて舵を取る村紗水蜜の傍らに立ち総大将としての威厳を保ちながら、聖白蓮は指示を出す。

その針路は「北西」、「妖怪の山」。

その目的地が近づくに連れ、艦橋内の空気はより一層ピリついたものへと変わっていく。

そのタイミングで艦橋のドアを開け、永琳は紫を連れて中へと入って来た。

 

「わー、もう見慣れてるはずだけど、ずいぶんと物騒な集まりね?」

 

艦橋内にたむろする面々を見るなり、永琳は茶化すように肩を竦める。

永琳の見渡す先には、封獣ぬえ、雲居一輪、そして強引に自ら連れて来た鈴仙(うどん)がいた。

その茶化しに反応するように、三人は揃いも揃って一斉に永琳へとガンを飛ばす。

それを見るなり、永琳は「きゃあ怖いっ」とぶりっ子ポーズをかましながら、三人の前に紫を押し出す。

 

「さ、紫。今回の主役はあなたよ。ちゃんと号令出しなさい」

「……永琳」

「そういうこと。元はあんたが蒔いた種だし、こういう時ぐらいシャキッと仕切りなさいな」

「白蓮」

 

二人の女に挟まれ、逃げるに逃げれなくなった紫。

それでも覚悟を決め、改めて一同を見渡す。

 

「まずはわたし個人の不始末でこのような事態を招いたことを今更ながらに謝らせてほしい」

 

それは懺悔と悔恨の籠った謝罪の言葉。

その言葉を紡ぐと同時に、紫の表情は悲壮極まりないものになるが、それはすぐに確固たる決意を秘めたものに変わった。

 

「これより五分後、『二四〇〇』に我々は妖怪の山に向けて『二正面作戦』を行う。射命丸文の情報提供に基づき、破壊対象は人里の『五芒結界』、その動力源、妖怪の山の中腹、『変電施設』」

 

そこまで告げたところで、紫はひとつ息を整え、そしてまた語気を強め言葉を続ける。

 

「いい?全員ここに戻って来なさい。でなければ、承知しないわよ?」

 

その号令に呼応するように、その場に居合わせた一同は高らかに右拳を振り上げるのだった。

 

 

妖怪の山の麓、「霧の湖」に佇む「紅魔館」。

館の中から出てくる三人を見るなり、門番である紅美鈴は不機嫌そうに唇をへの字に曲げやる。

 

「まーた、その面子で行くんですか、このわたしを置いてけぼりにして?」

「なによ、美鈴はお留守番!それ、じょーしきっ!」

「妹さま、それはないでしょうに?」

「あなたはあなたの仕事に集中しなさい。……いつものように居眠りしてたら承知しないわよ?」

「あーあ、咲夜さんまでそんなことを言う?なんか言ってやってくださいよ、おぜうさま?」

「誰がおぜうさまよ、おぜうさま?……まあ、いいわ」

 

話を振られ、レミリア・スカーレットはぷくすっと頬を膨らませながらも、主としての威厳を保つようにこほんと軽く咳払いする。

 

「美鈴。咲夜の言う通りここに残りなさい。あの二人(ぱちぇとこあ)だけじゃ流石に心許ないわ」

「う、うーむ、そりゃ、ごもっともですが、ですが」

「……時間がありません、お嬢さま。行きましょう」

「そう。じゃあ、行くわよ、みんな」

 

尚も言いすがる美鈴を突き放すように、十六夜咲夜は懐中時計を示しながらレミリアを促す。

それに呼応するようにレミリアが二人を連れて歩き出そうとしたその瞬間。

 

「到最后、我成了一个被抛弃的人?(結局、わたしは除け者なんですね?)」

 

門を潜り抜けて出ていく三人の背中に向けて美鈴は母国語で嫌味を放つ。

それは紅魔組の中でも「新参者である」裏事情を踏まえての「やっかみ」でもあった。

 

そう、いつもいつもそうだった。

何かにつけて自分はこの門の前に立って番をするばかり。

それが仕事だと分かってはいても、こんな世界を揺るがす重大な局面においてもそれに関わることはどうして許されないのか。

 

されどその嫌味にも三人は振り返ることはない。

そしてそのまま妖怪の山を目指して向かおうとしたところで。

 

「把你的王牌留到最后(切り札は最後まで取っておくものよ)」

 

振り返ることなく投げかけられたレミリアの返しを受け、美鈴は思わず双眸を見開き、そしてこの上ない満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 

「顕界でも動きがあったみたいですね、映姫さま」

「ええ、そのようですね。それでもまだこれから、のようですが」

 

鏡越しに映る「顕界」の一部始終を見届けた後で、どこか感慨深げに呟く小町。

その呟きに小さく頷きつつ、映姫は改めて「冥界」へと視点を切り替える。

 

「主亡き」白玉楼は「もぬけの殻」だった。

ただあちこちに残る「激闘」の爪痕がこれまでの推移をただ静かに物語る。

 

そこから注視するくだんの山桜。

それは不思議なことに「五分咲き」の状態で「完全に止まっていた」。

それは境界そのものを操り、外部からの干渉を寸断させることのできる紫だからこそ成し得たものだ。

 

自分たちはただ「無力な傍観者」でしかない。

しかしそれでも、映姫はそのすべてを最後まで見届ける覚悟を決めるのだった。

 

 

「……ここにいたんですね、魔理沙さん」

 

西行妖の深部、その中枢を前にしてただ棒立ちするだけの魔理沙の背に向けて、静かに妖夢は声をかける。

その声は喪失の悲しみに沈み、時折しゃくり上げるような嗚咽が交っていた。

 

「ああ、そうなのぜ。それよか、なんかあったのか?」

「なんでもないです。なんでも」

「そうか。……なあ、それよりひとつ聞かせてくれよ」

「なんですか?」

 

互いに互いの顔を見ることなく、交わされる二人の会話。

問いかけを投げかける前に、魔理沙はそっと目の前の光景を指し示す。

 

「っ、これは!?霊夢さん!それに早苗さんっ!どうしてこんなことに!?」

「……わかんねえ。ただ言えるのは二人は『どこぞの神さま』によってこの『終末時計』の動力源にされちまったってことだ」

「そ、そんなっ」

「幽々子は言った。こいつを止めるには二人もろともこの中枢を破壊するしかないと。……なあ、おまえならどうする?」

「そ、そんな、そんなこと急に言われても!?」

 

唐突に突き付けられたその「問いかけ」を前に、妖夢はただ狼狽えるしかない。

その自然な反応に、魔理沙は「だよな」と小さく笑った。

そしてすぐにその顔を引き締める。

 

「『友か世界か』なんて、重たすぎる選択だよな。……けどな、あたしの腹は完全に決まったのぜ」

「……魔理沙さん?」

「霊夢はあたしのツレだ。だから救う。風祝はムカつくが、まあこの際ついでに救ってやる。でもその為にゃ、世界も救わなきゃ意味がねえ」

「??……それってつまり?」

「ああ、つまり、こういうことさっ!!」

 

そう声高らかに叫ぶや否や、それまで手にしていたミニ八卦炉を放り捨てると同時に、魔理沙は二人の巫女が囚われている太極図に頭から突っ込んでいく。

 

「魔理沙さん、魔理沙さん!?」

 

一人取り残された妖夢は、ただ呆然と太極図の中へと飛び込んでいった無謀なる少女の名を叫び続ける。

 

究極の選択を前に下した魔理沙の決断は紛れもなく。

そしてその突貫は奇しくも、顕界で示し合わされていた作戦の決行の時刻とほぼ同じタイミングであったのだった。

 

 

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