東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 - 作:俄かさん。
24:00
八雲紫、星蓮船よりスキマで社(守矢神社)に単独突入。
封獣ぬえ、雲居一輪、鈴仙・優曇華院・イナバ(星蓮船組)、星蓮船より降下。
レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット、十六夜咲夜(紅魔組)、紅魔館より突撃。
24:05
八雲紫、単独で「囮役」敢行。
紅魔館組、犬走椛ら守備隊と交戦。
星蓮船組、紅魔組が守備隊と交戦中に変電所を破壊。
24:10
人里の「五芒結界」消失を確認。
つわものこぞりて怒涛のごとく押し寄せる。
それはまるで煌めく雷のように「疾く」。
それはまるで吹き荒ぶ嵐のように「激しく」。
その「圧倒的暴力」の渦中に突然と巻き込まれ、孤軍奮闘するもあえなく敗北する一人(一匹?)の天狗娘。
(い、いったい、何が起きたんだろう?)
仰向けにひっくり返り、ただ呆然と犬走椛は天を仰ぐ。
守っていた変電所は「一瞬にして」破壊された。
あまりにも「あっけない」その結末を前に、未だ何が起きたのかを正確に把握するのは至難に等しく。
そして夜闇に乗じて奇襲をしかけた「つわものども」は、もう夜空の彼方へと飛び去っていた。
そこへ。
「あー。これはまた派手に壊されたもんだねぇい」
施設破壊の報告を受けてひょこひょこと現場にやってきた一人(一匹?)のツナギ姿の河童娘。
椛はその娘の顔を見るなり、なんとも情けない顔をしてのける。
「にとり。……ボク、敗けちゃったよ」
「うん、そうみたいだね。ご愁傷さまー」
河城にとりはちょこんと椛の傍らに屈み込みつつ、なむなむと合掌する。
まだ死んでもないのに拝まれ、「ふにゅん」と椛は両耳を垂れる。
「ねー、にとり」
「なーに?」
「ボク、神さまに怒られるかな?お仕置きされるかな?」
「あー、どうだろうね。だけど、大丈夫」
「大丈夫って?」
「壊されたものはまた直せばいいじゃん。そのためにここに来たわけだしぃ?」
「にとり」
「それよりきゅうり食べるぅ?美味しいよー(ぼりぼり)」
「……いらない(ぐすん)」
妖怪の山、上空。
高度三千を維持して待機していた「星蓮船」の甲板に次々と着地する面々。
「星蓮船組」、封獣ぬえ、雲居一輪、鈴仙・優曇華院・イナバ。
「紅魔組」、レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット、十六夜咲夜。
「みんな、ごくろう。よくやってくれた。これで当分は安泰よ」
任務を完了し無事帰還した面々を出迎える聖白蓮と八意永琳。
「……あら、紫は?」
永琳の問いかけに帰還した面々は互いの顔を見合わせ、そして俯く。
それで状況を把握した永琳は思わずその場に崩れかかる。
けれど。
「拾ってくるわ」
「……レミリア?」
「運命とは絶対ではない。変えるものよ」
「お嬢さま?」
「一人で行くわ。咲夜はここに残りなさい、いいわね?」
驚く永琳と咲夜に言葉少なげに告げやるや、レミリアは単身再び甲板から飛び降りるのだった。
自らの情報提供により発せられた「二正面作戦」。
その一連の流れを遥か高みより事細やかに記録していたブン屋、射命丸文。
いつもやりがちな主観交じりの誇張表現を徹底排除し、事実のみを記録するに留める。
それでも刻一刻と展開される現場の状況を前に、平静でいられるはずもなく。
震えるあまり、手元から滑り落ちそうになるペンを必死に握り締める。
(……ん、あれ?レミリアさん?)
気付けばすぐ目の前を放たれた矢のような勢いで降下する紅魔館の主の姿が見えた。
中立的な立ち位置のため、彼女に声をかけることは適わなかった。
されど、それで同時に察した。
「まだ終わっていない」ことに。
高度二千。
そこからさらに降下すれば、妖怪の山の頂きに辿り着く。
そのはずであったが、やむなくレミリアは緊急停止する。
なぜならば。
「そのまま退散すれば見逃してもやったのに。また舞い戻るとは愚か」
「……おまえは?」
「神奈子。八坂神奈子。この守矢の主神ぞ」
「そう、つまりあなたが今回の黒幕というわけね。……わたしはレミリア。紅魔を統べる者」
対峙する二人。
にわかに張りつめる、その空気。
「ひとつ聞かせてもらえるかしら?」
「なにをだ」
「この世界の終末を目論む、その動機とやらを」
「……」
その問いかけに神奈子は僅かばかり黙り込む。
それから、どこか謳うように語り始める。
「この世の不幸は病めることです。死ぬことです。そして最大の不幸は忘れられることです」
「……へえ、意外とおセンチなのね。神さまのくせに?」
「故に、我が存在を貴様の心に深く刻ませてくれよう。圧倒的恐怖でな」
「面白い。やってみせなさいなっ!」
そこから夜闇を打ち払わんばかりの激しい弾幕合戦が始まった。
「 神技 『 天の八衢風 』 」
神奈子は右手を挙げ、大気を切り裂きながら無数の風の刃を繰り出す。
それはレミリアの周囲を取り囲み、瞬く間に退路を塞ぐ。
けれどレミリアも黙ってはいない。
「 天罰 『 スターオブダビデ 』 」
両手拡げ発動せしめるは緋色の六芒星の煌めき。
その各頂点から発せられる紅の弾丸が不規則な軌道を伴って迫る風刃の間隙を縫うように打ち出される。
それは抗い。
神の下す絶対的な運命を変えんとする誇り高き意志の現われ。
広範囲に及ぶ弾幕とそれを一点突破せんとする弾幕の応酬。
瞬く間に妖怪の山上空は荒れ狂う弾幕の嵐に呑み込まれゆく。
その余波を受け、山そのものが震える。
拮抗するが故に、その彼我の距離詰められず。
そのためにどちらも次の一手を出しあぐねる。
「どうした。その程度か?」
「いちいちうるさいわねっ」
「だが、どのみち無駄だ」
あ の 女 は 死 ん だ 。
「っ!」
軽やかな挑発とともに神奈子より突きつけられる事実。
それに刹那とはいえ、動揺するレミリア。
「 神籬 『 御柱の舞 』 」
そしてその一瞬の隙を突かれ、石柱が炸裂する。
「ぐはっ!?」
そしてレミリアは墜ちていく。
そのまま地面に叩きつけられる、その寸前。
紅い長髪なびかせ、一人の女がそれを受け止める。
「すいません、言いつけ破って出て来ちゃいました。お説教は改めて後程承りますよ」
「……美鈴。あなたは館に残れと命じたはずよ」
「ええ、ですので。お説教は後でお願いします」
今はそのときじゃないですよね、と糸目を細めて笑う門番。
その笑みを前に、「まったく」とレミリアはさながら子供のように不貞腐れる。
「とはいえ、いまいち状況は把握しかねますが」
「説明するのもややこしいわ。空気読んで察してくれる?」
「そんなおぜうさま、ご無体な」
「誰がおぜうさまよ、おぜうさま。せめて組長とお呼びなさい」
「はい、では組長」
ぽ い っ 。
「ちょ、ちょっと?!」
間一髪受け止められたところで、高度一メートルから放り投げられるレミリア。
「空気を察したので、『アレ』を狩りに行って来ますね」
見上げれば、主を傷つけた「倒すべき敵」がいた。
これまでの状況などまるで分かりもしないが、その存在だけで今やるべきことを見つけ出す。
柔らかな叢に「軟着陸」した主を見届けた後に、美鈴は軽い跳躍の後に「紅の弾丸」となって飛んで行く。
ど っ か ん 。
「うきゃう!?」
その途中で文を弾き飛ばしたが、それもご愛敬。
いかなる局面においても「事故はつきもの」である。
それはさておき。
「どうも、こんばんは。そしてよろしく」
「……なんだ貴様は?」
「通りすがりのしがない門番ですよ。時給三百円の薄給奴隷とも言いますがねえ」
「なんだそれは」
高度二千で対峙する二人。
新手の登場にさしもの守矢の主神も色めきだつ。
「ま、そんなことはどうでもいいですよね。一応衣食住は保証されてますし、ああいやいや、それはともかく」
軽快な語りで目の前の敵を翻弄しつつ、すぃっと美鈴は糸目をさらに細めやる。
「うちの雇い主を傷つけた落とし前、きっちり払わせていただきますよ。お金ではなく、その身体でね?」
「なるほど、あの吸血娘の雇われか。雇われ風情のくせに我に適うとでも?」
「ああ。……ひとつ言い忘れてました(指ひとつ立て)」
わ た し 、 誰 よ り も 強 い で す よ ?
「……戯言を」
その宣言と同時に第二ラウンドが始まるのだった。
その一方で。
いつしか天より「落涙の雨」が降り始めていた。
派閥を越えた郷の住人たちの連携が生んだ「作戦」の結実、その代償、「計り知れなく」。
「紫、ゆかりっ、死なねずら! 死んじゃならんずら!」
守矢の湖の岸辺にて物言わぬ女の傍らで涙交じりに叫ぶのは、敵であったはずの少女。
その女、冷たき湖の底から引き上げたときには「すでに遅く」。
いくら二神の片割れとはいえ、この女を再び目覚めさせること適わず。
「こんなの、こんなのあんまりずら!どうして誰も彼もが犠牲にならなきゃいかんずら?あんまりずら」
その嗚咽交じりの呼びかけがただただ虚しく山中に木霊する。
その「亡骸」、きつく抱きしめて。
愛の意味を改めて教えてくれたその女のために涙を流し続ける。
「なぁ、紫。やっぱりわたしら、間違ってただよぉ。許してくれずら。謝らせてくれずら。お願いだよぉ、起きてくれ、起きてくれずら……!」
無駄だと知りながら。
無意味だと分かりながら。
それでも諏訪子は語りかけるのをやめない。
そのとき。
「……ほえ?」
諏訪子は冷たくなっていたその身体がほんのりと温もりを取り戻していくことに気付く。
(あったかい。……なぜに?)
それとともにほのかに煌めく胸元の輝き。
それは「お守り」。
(あ、これ、なんずら?……博麗神社?)
それはまさしく。
『ねぇ、紫?』
『……なによ、永琳?』
『前々から気になってたんだけど、あんたのところの神社に祀られてる神さまって何?』
『あー、うーん?』
「うわっ!?」
不意に迸る閃光。
その強すぎる輝きに思わず諏訪子は両腕で顔を隠す。
そしてそれが消える頃合いで。
「紫。……ゆかり?消えた?どこ行った?」
光消え、眩しさのあまり頑なに閉ざしていた目を開けるころには、その姿はもうどこにもなかった。
一人取り残された諏訪子は、ただぽかんと腰を抜かしたかのようにへたり込むのだった。
『なによ、あんたでも分からないわけ?』
『さあ、ただひとつだけ仮説を立てるなら?』
『立てるなら?』
『天を照らす神さま、……だったら面白いわね』
「未だ」冥界に留まり続ける「五分咲き」の終末時計、その「中枢」にて。
「っ、くそ、もう一度だっ!(どーん!)」
「だめです、魔理沙さん。これ以上はやめてくださいっ!いくら魔理沙さんが魂魄だけの存在とはいえ、削られて消えちゃいますっ!」
「うるせえ、妖夢!ここにあいつらがいるんだぞ!それを目の前にしておいて、いまさら引き下がれっか!!」
「だからって体当たりでどうにかなるわけでも」
「馬鹿野郎、じゃあ、どうすんだってんだよ?マスパぶっ放せってか?んなことしたらあいつらまで消し飛ぶぞ!?」
「で、ですけど!?」
ぶつかれどぶつかれど突破できぬその「障壁」。
それがゴール目前にして立ちはばかる「最大の難関」。
すぐ目の前には「陰陽太極図」に囚われた二人の巫女がいた。
「陰」の巫女、東風谷早苗。
「陽」の巫女、博麗霊夢。
二人は「守矢の陰謀」に巻き込まれた「最大の犠牲者」だ。
「友」か「世界」か。
その究極の選択を突き付けられ、「両方救う」と決断し突貫しておきながら、「何もできない」。
途方に暮れる二人。
その二人に降り注ぐ「天からの声」。
『そう、そこにいたのね、二人とも』
「お、いきなりなんだ!?……って、紫!!」
「紫さん!」
二人が見上げれば、金色の燐光に包まれた「死んだはず」の紫がいた。
されどその姿、ぼやけ。そしておぼろげ。
そんなありさまで、紫ははんなりと笑みを浮かべる。
『壁を壊すわ。……後はあなたたちでなんとかしなさい』
言うや紫はためらうことなく両手を障壁に添え、扉を開くように左右へと抉じ開ける。
それは境界を操る能力を持つ紫だからこそ成せるわざ。
だが。
「だめです、紫さん。あなたまで消えてしまいますっ!」
「っ、紫、まさかおまえ!?」
その文字通りの「捨て身」の行動に驚き慌てる二人。
されどその制止の声も、紫には届かない。
『さあ、行きなさい。そして切り開くのよ。あなたたちの未来を』
その慈愛に満ちた声に導かれ、障壁を越えた「彼方」へと飛び込む二人。
振り返ることなんてできなかった。
振り返れば、必ず立ち止まってしまうから。
(……これでよかったのよね。ねぇ、幽々子?)
その二人の後ろ姿を見届け、先に逝った友に呼びかけた紫は「満足そうに」障壁とともに消えていった。
そしてその役目を終えた「お守り」は、ひらひらと舞いながらまたいずこへと吹き流れていくのだった。