東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 - 作:俄かさん。
梅雨只中のよく雨の降る時節。
早朝より八雲紫は自分の屋敷の客間にてとある複数の客人を招き入れていた。
その客人、三人。まだ年端のいかぬ幼女一人。そして保護者と思しき女が二人。
いずれも外の世界にて己が居場所を失くした者ばかり。
道士服姿の紫は検分するようにその三人をしげりと眺めた後、さて、と緩やかに小首を傾げやる。
この三人に共通するのは「いろいろと訳あり」ということ。
そんな彼らをわざわざ外の世界より保護してきたのも、その裏事情によるところが大きい。
「向こうではいろいろと苦労していたみたいね。でも安心しなさい。この郷を管理する者としてわたしはあなたたちを歓迎するわ。でもまずはあなたたちのおうちをどこにするのか決めないとね。という訳で藍?」
「はい、紫様」
目の前の三人に向けてそこまで発した後、紫は傍らに座している九尾の式に地図を拡げさせる。
その地図をもとに彼らの住居をどこにするのか決めていく訳ではあるが。
「人里、はよした方が良さそうね。いろいろと問題が起こりそう。そうなるとそこ以外になるわけだけど。この郷ってけっこう広いようで狭いのよねえ。迷いの竹林はわたしの知らないうちにどっかの誰かが勝手に居座ってるし、霧の湖のほとりも魔法の森もねえ、ちゃっかりもう埋まってるのよね。そうなると残ってるのはここしかないか」
「妖怪の山、ですか」
「ええ、そうね、もうそこしかないわ。……ただわたし、あそこには『行ったことないし、行けない』のよね。藍、あそこっていまはどうなっているのかしら?」
閉じた扇子の先で妖怪の山を差しつつ、ここのくだりで紫はこれみよがしに声量を一段階上げていく。
わざとらしいまでのその声量の変化とそのくだりに九尾の式は不審げな面持ちをするがそれを敢えて受け流す。
「あの山ですか?過去には鬼どもが巣食っていたようですが、締め出しをくらっていまや天狗と河童の天下だとか。閉鎖的な連中ばかりですが、人に対しての友好度は高く、事情説明すれば彼らも理解はしてくれるでしょう」
「そう、ならばここにしましょう」
妖怪の山。
人里から見て北西に聳える一際高き山。
扇子の先は麓の霧の湖から大蝦蟇の池を辿りて中腹を飛ばし山頂辺りを小突き当てる。
そしてここでようやく床に広げた地図から目線を外して顔を上げては改めて渦中の三人と向き合う。
「妖怪の山の頂き。そこがあなたたちのおうち。そこに住まいなさい。天狗や河童どもにはわたしからも言っておくわ。山頂という手前、暮らす分には何かと不自由があるとは思うけど、困ったときは彼らを頼りなさい」
かくて彼らの住居は決まった。
その結びに紫はさらに薄い微笑を浮かべたままもう一言付け加えていく。
「わたしがあなたたちに期待することはひとつ。この郷がよりよくなるような新しき風を。新しき変化を」
それは管理人として彼らに期待すること。
しかしそれでも釘を差すことは忘れない。
「でもね、くれぐれもわたしを怒らせない程度にね?」
不意に真顔になりて告げやるのはひとつの警告。
この警告をどう捉えるかは当人次第。
いずれにせよ、賽は投げられた。
それが吉と出るか凶と出るかはいまは分からない。
されど、それもいつかは自ずと知れることとなるだろう。
それから十年の歳月が流れていった。