東方二次創作劇場「月と太陽」 - 太陽の章 - 作:俄かさん。
「わたし」は夢を見ていた。
それはまるでコマ送りの「活動写真」を鑑賞しているかのようななんとも不思議な夢だった。
お墓の前でその小さな少女は泣いていた。
黒のワンピース。緑色の長髪。そして特徴的な蛙の髪留め。
その胸に抱く遺影に映るのは彼女の両親。
優しかったお父さんとお母さんはもういない。
それは彼女にとって突然の別れだった。
彼女はひとりぼっちになってしまった。
そして彼女の親類はそんな彼女を誰ひとりとして引き取ろうとしなかった。
その誰しもが腫れ物を見るような眼差しで彼女を眺めては、逃げるように一人また一人と遠ざかっていった。
いつしか雨が降り始めていた。
自分から望んだわけじゃないのに天涯孤独となった彼女はその雨に濡れ、凍えるような寒さに震えながらお墓の前で泣き続けていた。
そこにそっと静かに歩み寄る足音ひとつ。際立つその出で立ち。
白の豪奢な傘。
白の頭巾に紫のタイトドレス。
揺れる金色の長髪。
その女性は。
その顔を見た途端、わたしはその女性が誰なのかをすぐに悟った。
(……紫)
紫は差していた傘の中へそっと彼女を招き入れながら、腰を屈めては優しく彼女を慰めていく。
それから彼女の背後におぼろげに見える誰かしらを見据える。
その眼差しはまるで最初からそれを察していたかのようだった。
そう。
彼女は「訳ありの少女」。
数少ない親類たちが彼女を心底気味悪がっていたのも、おそらくはそのせいだろう。
紫は彼女にまつわるすべてを受け入れたうえで彼女を救う決意を固めた。
そしてその決意の赴くままに「次元のスキマ」を展開していく。
それは「あの世界」から「この世界」への誘い。
かくてその少女は。
「……パイ。センパイ」
どこか遠くからわたしを呼ぶ声が聞こえた。
その呼びかけに促されるようにわたしはゆっくりと目を開けていく。
目の前の少女はいうまでもなく。
そこはいつもの光景。
閉ざされた小さなゆりかご。
二人だけの世界。
「よかった起きてくれて?もうこのまま二度と起きてくれないのかと思っちゃいましたよ」
いまにも泣きそうなその顔を見るなり、わたしはきまりわるそうに苦笑いを浮かべる。
お互いに何も着てないのも、もはや慣れっこになっていた。
「ああ、ごめんごめん。きっといろいろあって疲れてたんだね」
「そう?センパイのことだから、また自分以外の誰かのことで考えすぎてたりしてたとか?」
「ん?そうかもしれない、ね」
意識はしてなくても、あの夢で見た少女と目の前の彼女はどうしても重なってしまう。
そう、あの少女はまぎれもなく。
不意にあの夢について聞きたい衝動に駆られた。
けれど、それをすぐに諦める。と、いうより諦めざるを得なかった。
それもこれも、いまとなってはすっかりおなじみとなった症状のせいだ。
「ごめん、また眠くなってきた。……寝ていい?」
起きたばかりなのにまた込み上げる猛烈な眠気。
どうもここ最近は起きている時間よりも寝ている時間の方が長いような気がする。
こんな調子じゃ、あの日がな一日中寝てばかりのどこぞのぐうたらおばさんを笑う気にもなれない。
まだ起きていたいのに。
彼女と話したいことは山ほどあるのに。
それができないなんて。
「ねえ。また起こしてくれる?」
「もちろんです、センパイ」
「……ありがとうね」
そっと差し伸べた手を包み込むように両手で握りながら、満面の笑みで彼女は頷く。
その笑みに救われたようにわたしはゆっくりとまた瞼を閉じていく。
また、起きれるだろうか。
何故か今度ばかりはその自信がなかった。
そして、わたしは。