バーで知り合って恋に落ちたちんちんの手術済みFTMと特殊な体質でホルモン治療ができないFTMが初めてエッチする話 作:喋家月餅太
オリジナル:現代/恋愛
タグ:R-18 ボーイズラブ 性転換 FTM トランスジェンダー トランス男性 性転換 SRS セックス ちんちん 男性器 男同士 BL
晴翔と親しくなり約束して飲みに行くようになったある日、バーで晴翔の後にトイレに入った時に便座が上がっているのを見つける。恐る恐る身体のことを尋ねると嬉しそうに下半身も男性になった事を話す。
身体を変えないのかと晴翔に尋ねられた千尋は自分がアンドロゲン不能症で男性ホルモンの治療が出来ないため身体を変えることを断念したと事を話す。それと同時に身体を変えることへの憧れを語り親しくなって遠慮がなくなった事もあり手術で作ったちんちんがどんなのかを尋ねる。
晴翔はそんな千尋にちんちんを見せてあげるためラブホテルに行くことを提案する。
ラブホテルを休憩で利用して千尋は晴翔にちんちんを見せてもらう。パンツを脱いた晴翔のちんちんは想像と違って過去に千尋の交際した事のある男性のものとは違うもののそれなりに近い形だった。触らせてもらったり風呂場で立ちションを見せてもらったりした。
羨望の眼差しで晴翔を見つめる千尋。千尋はそんな中でお礼に女の身体である自分の裸を見せることを提案する。
完全に男性化した身体の元女性の晴翔は千尋の裸に興奮を覚える。自分のペニスが本物ならきっと勃起していただろうと思い興奮する。そして割れ目を開いて見せてもらった千尋の女性器も濡れている。それを見て晴翔は自分の興奮を打ち明ける。
晴翔は部屋にあるタブレット端末を操作して部屋の利用を休憩から宿泊に変更する。千尋は晴翔をベッドに誘い、セックスをすることにした。
そしてこの日から二人の関係は友人から彼氏と彼氏に変わることになった。
「会うのは初めてだっけ?」
繁華街にあるバーでいつも来ない時間帯に初めて来た千尋は友人の陽菜から一人の男性を紹介された。
「見かけた事はあるよ。話すのは初めてですよね?」
千尋は陽菜の方を見た後、その男性に向き直って言った。
「そうだね。あ、陽菜から聞いてるけど俺たち同い年だから敬語じゃなくていいよ」
「そうなんだ。じゃあタメ語で」
「よろしく、俺は晴翔」
「よろしく、僕は千尋だよ」
晴翔が手を差し出すと千尋も手を差し出して握手をした。
千尋は手の感触で「もしや」と思ったがこれはあってすぐ聞くのは不躾だと思ったので頭に浮かんだ疑問を飲み込んだ。
このバーは特に客層を限定しているわけではないがトランスジェンダーとそのパートナーがよく来る。
マスターがFTMなのもあり自然とそういう客が集まってきた感じだ。
千尋と友人の陽菜もFTMだ。
二人ともそれぞれの理由があり外科手術はもちろんホルモン治療を受けていないのでボーイッシュな女性に見える。
このバーでもレズビアンのカップルに間違われることもあるが、二人の間に恋愛関係はない。
千尋は半年前まで彼女がいたし、陽菜は彼女と同棲中だ。
「まず自己紹介した方がいいよね。俺は君の仲間だよ」
「やっぱりそうなんだ。手が華奢だったからもしかしてと思ったよ」
「ごめんね、千尋くんの事はハルから聞いててね。FTMの友達として話してもらってたから」
「気にしなくていいよ。ここはそういう場所でしょ。僕としても説明をするの面倒だし」
「そうだね。ただ、君がFTMってことしか知らないよ。ねえ、ハル?」
そう言って晴翔は陽菜の方を見た。
陽菜はここではハルと呼ばれている。明らかに女性の名前である陽菜という名前で呼ばれるのが好きじゃないので周りにニックネームで呼んでもらってるのだ。
ここはセクシャリティ以外の個人情報を知られたくない客も多く偽名やニックネームで通してる人が多い。
特にトランスジェンダーは性自認に合わない名前の人が多い。だから「本来の」性別でいられる空間では自分にとってしっくりくる名前を名乗る人もいるし、そちらの名前だけを知ってほしくて本名を知られたくない人も少なくないのだ。
「この間、FTMの友達がいて違う時間帯にここに来るって話をしただけだよ」
陽菜は焼酎を飲んでいた手を止めてそう言った。
「俺は今の時間帯に来ることが多いんだけど、この時間帯だと人も多くないしMTFとかゲイの人が多くてね。話が合わないこともあって、この間ハルと話していた時に千尋くんの話題が出て会ってみたいと思ってたんだ」
「なるほどね。僕が来る時間帯はFTMの人が結構いるけど、少ない時間ならあんまり突っ込んだ話はしづらいもんね。そこは事情違うし話していいか悩むから」
「そうなんだよ。特にMTFと話す時は言っていいのかどうかってことには悩むよね。胸と股間、お互いに欲しいものといらないものが付いてるとか付いてただから身体の話になると気を使うよね」
「MTFの友達もいるけど、身体の事を羨ましがられると複雑な気分だよ。僕は身体になにもしてないからそう言うこと言う人がいるけど、正直、リアクションに困る」
「そうだよね。こうして千尋くんに会えてよかったよ。この時間には普段来れないの?」
「いや、人の多い時間が楽しいからそっちに来てただけで、この時間にも来れるよ」
「そうか。時々、この時間に会って話さない?」
「いいね。ハルは?」
千尋は陽菜に話を振る。
「僕は日によるかな。この時間に来る事もあるし。千尋の言ってた時間に来ることもあるし」
「仕事?」
「仕事もあるし、彼女が普段通りの勤務の時と当直の時とで僕が家にいる時間も違うし」
「へぇ。羨ましいなぁ。同棲してるんだもんね」
「一緒に住んでると生活時間合わせないとね」
陽菜の言葉を聞いて千尋と晴翔は口元が緩んだ。
「俺は今フリーだから羨ましいよ」と晴翔。
「僕もフリーだし同棲とかした事ないから妬けるなぁ」と千尋。
「パートナー連れて来る人いるけど、ハルは彼女を連れてこないの?」
晴翔はなんとなくという感じで言った。
それに対して千尋は「まずい」という顔をする。
この店だけでなくセクシャルマイノリティの店でパートナーを連れてくる事が出来る所もあるし、ここもそうした客は多い。パートナーの方が常連になる例もある。
だが、人によってはこういう場所とパートナーの間には距離を持ちたい人やパートナーとの関係を内緒にしたい人もいる。
その辺の話を千尋は陽菜としたことがなかったからもしこういう話題が地雷だったらと心配になったのだ。
「うちの彼女は自分だけの場所を大切にして欲しいって言ってこういうところには来ないよ。別に嫌ってるわけじゃないけど、普通の居酒屋で彼女も交えて飲むとかならありだけど『そういう場』は一人になりたい時のために取っておこうって話になってるんだ。彼女も友達と女子会したりしてるしね」
「なるほどね。まぁ、彼女の事で悩んだら相談しづらいもね」
陽菜の言葉に晴翔は納得したような口調で言う。
同時に千尋は地雷ではなかったようで安心した。
「というわけで僕はそろそろ行くよ。今日は彼女、残業なんだけど先に帰って明かりをつけて待っててあげたいんだ」
ちょうど陽菜は焼酎を飲み終わったようだった。
そのまま立ち上がりマスターに「お会計お願いします」と声を掛けた。
格好いいなと思いながらその様子を千尋は見ていた。
陽菜はこういった時の身のこなしが本当にスマートだ。
「それじゃあ、またね。あ、この時間に飲む時は僕も呼んでね」
そう言うとパタパタと手を降って陽菜は店から出ていった。
「格好いいなぁ。胸も隠してないのに女っぽさを感じないよね」
ドアが閉まるのを見た後、千尋は羨望の眼差しを店の外に去っていった陽菜に向けた。
「確かにね。イケメンの仕草だよね、あれ」
晴翔も千尋の言葉に同意する。
「僕もハルも身体には何もしてないけど、あんな風に自身持って振る舞えないよ。やっぱり女として見られるのにどこかオドオドしながらになっちゃうからね」
「俺も胸を取るまではそんな感じだったな。ナベシャツを着てたけどそれでも猫背になる癖があったりしてね」
「僕もハルとは違うけど、身体を変えられない理由があってここの外では完全に女性として生活してるけど、ここでは自分を男だと思っていいって安心する反面、どこか自信を持てない部分があるんだよね」
「それはついて回る問題だよね。男だって言っても胸も膨らんでて股間にふくらみがなければそう見てもらえないし、いざ身体を変えたは変えたで不十分じゃないかって不安になるし」
「身体変えてもそうなんだ」
「そりゃあね。今は自信を持って俺は男だって言えるけど、それでも本物にはなれないって突きつけられる事があるから揺らぐことはあるよ」
「そっか。僕だけじゃないんだね」
「そうだよ。まぁ、身体と心で性別が違うとこういう所が辛いよね」
「そうだね。……ごめんね、初対面なのにこんな愚痴を言って」
「いいよ。そういうのを話せるのって同じ境遇の相手くらいだから。さっきハルも言ってたけど、俺等だけでもここで会ったりしようよ。俺は千尋くんと友達になりたいなって思うしさ」
「うれしいな。うん、僕からもよろしく。とりあえずもう一杯頼む?」
「そうだね」
そう言って二人はマスターにハイボールを注文し、改めて乾杯をしなおした。
この日は終電近くまで飲んでから解散した。
飲んでいる最中、二人は連絡先を交換して次に店で会う約束もした。
この日から千尋と晴翔の友人としての関係が始まった。
千尋と晴翔は少なくとも週に一度は一緒に飲みに行くようになった。
二人には陽菜や他の友だちもいるが、数少ない「同性」の友達でありその中でも特になんでも話せる親しい間柄になるには時間がかからなかった。
今日もいつものバーで飲むようになった。
二人はお互いにボトルを入れて交互にそのボトルを飲むのが習慣だ。
今日は前回入れたばかりの千尋のボトルで飲む日だ。
「そういえばさ、話したくないならこの話は終わりでいいんだけど、晴翔って身体はどこまで変えたの?」
「話してなかったけ?」
「今まで聞くに聞けなかった」
「そうだったか。気になってた?」
「まぁね。あと、この間、飲み直しに行った店で晴翔の後にトイレに入ったら便座が上がってたから」
「ああ、蓋閉め忘れてたか」
晴翔は普通の事のように言った。
一般的にほとんどのFTMは小用を足す時に便座を上げたりしない。
というよりも便座を上げて行う立っての小用は彼らにとって不可能だ。
性自認や見た目が男性でも身体は女性でありFTMの股間は女性器であり、そんなFTMが立って小用をしていたなら理由は二つのうちどちらかだ。
「補助器具使ってるの? それなら僕も使ってみたいなと思ってて」
千尋はまっさきに思い浮かんだ可能性ではない方を訪ねた。
なんとなく最初に浮かんだ可能性は聞きづらかったからだ。
「器具は使ってないよ」
「それじゃあ、もしかして」
「付いてるんだよ。というか手術で作った」
「作ったって……」
「ちんちんだよ」
「そうなの!?」
千尋は驚いて大きな声を出した。
「千尋くん、他にお客いないけどあんまり大きな声はやめてね」
マスターが軽く笑いながら千尋に言う。
「すいません……」
千尋は縮こまった様子で小さな声でい言う。
「本当に付いてる? その、ここに」
最初、晴翔の股間を指さそうとしたがさすがにそれは失礼かと思い、千尋は自分の股間に軽く手を添えて言う。
その仕草をしているが、目はしっかりと晴翔の股間を見ていた。
「そんなじっと見なくても」
晴翔は苦笑いをしながら言う。
「ごめん、付けた人って初めて会うから。いや、晴翔くんには何度も会ってるけど、その」
「慌ててるね。そうか、そんなビックリするか。あんまりいなからね」
FTMで男性器の形成を行う人は非常に少ない。
戸籍の変更要件で必須ではない事もあるし、リスクも大きいからだ。
MTFは元々身体についているものの形を作り変える事で女性器を作る手術をする。
だが、FTMの場合、女性には男性にあるものが付いてないという言い方をするように外性器の体積が男性よりもはるかに小さいので他の何かを使って形を作らなければならない。
腕の皮膚が多いが身体の他の部分をペニスの形にしてクリトリスを延長するのに使い、睾丸はシリコン製の人工物だ。
身体への負担は大きいし、作ってからも人工のペニスは血行の維持が大変で人によっては壊死してせっかく作ったペニスを失ってしまう事もある。
それもありちんちんのない男性であることを受け入れている人が大半だ。
それ以外では恋人の膣への挿入を諦めて、男性ホルモンで肥大化したクリトリスに尿道を通す手術をして立ちションだけは可能にする人もいる。
晴翔はそういった女性から男性への性別移行で一番大変な事を行ったというのだ。
千尋は訳あって女性の身体のままだが、FTMで身体をどう変えるかは色々と調べた。
眼の前にいる友人の行った身体を変える為の手術がどれだけ大変だったかは知識として知ってるので驚きを感じずにはいられなかった。
「すごいな。大変だったでしょ」
「そうだね。今も生活してて身体に気を使うし、手術する時は痛かったし大変だね。でも、してよかったと思ってるよ」
「やっぱり立っておしっこ出来るのは大きい?」
「そうだね。やっぱりそれが男だって事だって普段生活してて思うよ。あと、女と付き合ってて挿入できるのは大きい。股間と股間で繋がれるって幸せだよ」
「すごいな……」
千尋は羨ましいと思った。だが、その言葉を噛み殺して「すごい」にとどめた。
自分には身体を変えることが出来ない事情がある。だから、羨ましがっても悲しいだけなのだ。
「僕は女として生活してるから知識としてしかしらないけど、男子トイレで自分だけ個室に入るのとかどう見られるかって気になるだろうね」
「それは意外と大丈夫なんだよ。男もうんこで個室に入るし他の人の頻度なんて気にしないからね」
「でも、友達と連れションする時とか困らない?」
「仲のいい友達はみんな知ってるし、それ以外の人とは一緒にトイレに行かないから出来なかった事は気にしなかったよ」
「そういうもんなの?」
「人によると思う。俺は立ちションは出来るようになってから意識するようになった。ちんちんなかった頃からしたくてたまらなかったけど、いざ出来るようになると男であることの証明のように感じられて安心感を覚えるって感じ」
「なるほどね」
「あ、別にできなきゃ男じゃないって意味じゃないからね」
「それはわかってるよ。僕が男かっていうと微妙だからね。ここ以外では女だから」
晴翔は千尋を傷つけるような事じゃないかと不安になったが千尋は特に気にしていないようだった。
「でも、晴翔くんは完全に埋没してそうだよね。言われれば少し華奢だなって思うくらいで女だったって言われても分からないと思うよ」
手は小さいのとは感じたが、男性でも手の小さい人はいるのでそれを抜きにしても違和感を持たせない程度の男性としての外見はあると千尋は思った。
「そう言われると立ちションと同じくらい安心するな。でもね、腰と尻は大きい方だから履くズボンを選ばないとそこでバレるかもしれない」
「そう?」
千尋は晴翔の下半身をちらっと見た。
座っている事もあり特にそこには気づかないが、その代わりに前の方が気になった。
股間の部分が盛り上がっている。
このバーや他の場所で何人もFTMに会ってきているが、この部分に盛り上がりのある人はほとんどいない。それはそうだ。みんなまっ平らな女の股間なんだから。
同じFTMである自分が言うことではないと思うが、彼らに対して男なのに股間の膨らみがないのは不思議に思える。
それを見ると生まれながらの男性と同じ様に股間の膨らみがあることを見つけて男性であることを手に入れた人だと改めて意識した。
「どう?」
「あ、いや、そうだね、座ってると分かりづらいかな」
千尋は慌てて言う。まさかちんちんの膨らみを見ていたなんて言えない。
「でも、羨ましいな。彼女に挿入して気持ちよくなれるんでしょ?」
女性の身体を持ちながら性自認が男性である事で生まれてつきの男性との違いを痛感するのはセックスの時もそうだ。
指を彼女の膣に挿入しても気持ちよくなれない。相手に触ってもらえば気持ちいいが一緒にというのは違う。
「それはね。ただ、人工的に作ったものだから感度は弱くなったかな。それにできるセックスに制限はあるけどね」
「そうなんだね。まぁ、本物と同じようにはいかないか。でも、勃起ってしてみたいな。濡れるんだとパンツ汚すしね」
「勃起、しないんだ」
「そうなの?」
「俺のちんこ、皮膚を移植したものだからね。本物のちんこはスポンジ状の組織でそこに血液が入って膨張するんだけど、皮膚はそんな仕組みじゃないからね」
「そうなんだ。射精も勃起もないんだね」
「うん。ガマン汁は出るけどね」
「そうなんだ」
「それで十分だよ。立ちションが出来て挿入ができれば満足かな。手術しなきゃどっちも出来ないからね」
「それは羨ましいな」
千尋は晴翔の言葉を聞いて遠くを見た。
この会話の内容に思うところがあり、目が曇った。
「千尋くんはさ、身体を変えないって話をしてたじゃない。ハルみたいに何か身体を変えると出来ない事をやってるの?」
晴翔は千尋の様子を見て話題を変えたほうがいいかと思い別の話を振った。
千尋はその話題にドキっとした。
(これ、話してもいいのかな?)
あまり話さないようにしている話題だ。話すのが嫌な訳では無いが、FTMの中には千尋の境遇にいい印象を持たない人もいる。
晴翔がどういうタイプの人か。これまで他愛のない話しかしてこなかったのでそこは分からない。
千尋はちらっとマスターの方を見た。
マスターはこの会話を聞いていたようで、千尋の方を見て小さく頷く。
(晴翔くんも話してくれたし、こっちも話すのが筋だよなぁ)
「変えないじゃなくて変えられないんだよ」
「変えられない?」
「体質っていうか性別移行の治療が出来ない身体なんだ」
「何か病気とか? 身体が強くないとかそういうの?」
「健康だよ。大きな病気も怪我もしたことない。そうじゃなくてホルモン治療ができないんだ」
「どうしてか聞いていい?」
「僕、男性ホルモンに反応しない身体なんだ」
「体質的なもの?」
「そう。アンドロゲン不応症っていうんだ。更に言うと、染色体がXYで膣はあるけど子宮がない。卵巣のあるはずの場所に精巣がある」
「性分化疾患ってやつだね」
「知ってるの?」
「本で読んで知識としてはね。そう言う人に会うのは初めてだよ」
「僕みたいなのがFTMって名乗るのは抵抗ない?」
「ないっていうか、君みたいな身体の人は女性だって本では書いてあったからそういうものかと」
「よかった。XY染色体でキンタマがあるから『お前なんかFTMじゃない』って言われることあるからさ」
「キンタマって言ってもお腹の中でしょ?」
「そう」
「機能しないんだよね?」
「うん。男がキンタマが股間にぶら下がってるのは体温の熱でも駄目になるからだよね。僕のもとっくの昔に駄目になってるよ。それに何処にもつながってないから機能してても精子出しようがないだろうし」
「それ以外は女? あ、ごめん、こういう事、聞いてよかった?」
「友達には話してるんだ。大丈夫だよ」
「そうか。ありがとう」
「女だね。過去の彼女と個人差の範囲以外は股間も同じだよ。違うとすれば脳みそくらい」
千尋はダルそうな言い方をする。
晴翔は言っている内容を理解すると気まずそうな顔をする。
「そうか。それで性自認は男、なんだよね」
「そうだね。物心ついたころから女じゃないって確信してたよ。男性ホルモンに反応しないなら全部そうなら良かったのにね。脳みそはしっかり男になったせいで結構悩んだかな」
「だから身体を変えられないのか。ごめんね、俺、自分の身体の自慢みたいな事を言って」
「気にしないで。それは晴翔くんが最善の方法を取ったからでしょ。人それぞれ色んな生き方があるし、ちんちんを付けた人の話が聞けるのは貴重だよ。だから、これからも気を使わないで色んな話をしていいからね」
「わかった。ごめん、俺、どう言っていいか分からなくて」
「だよね。でも、性自認をカミングアウトした時の反応もそんな感じじゃない?」
「それもそうだね」
「あとね、この身体に生まれて良かったこともあってね」
「どんな事?」
「生理が来ない事。生理が来た時の絶望は色んな人から聞いてるけど、僕は来なくてほっとしたし、生殖機能を捨てる事の迷いを経験しなくても済む。生まれた時点で生殖機能が駄目になってるからね」
「確かにね。俺も生理が来た時にはこの世の終わりかと思ったし、誰とも口を聞きたくないくらいに落ち込んだ。ホルモン初めてからも時々、生理が来ちゃう事があってその時もしんどかった」
「それを経験せずにすんでるんだから。助かってるよ。一応、お腹の中に男性器はあるしね」
晴翔は笑いながら言う千尋に対して強い人だなと思った。
だが、それと同時に余計なお世話だと思いながら心配にもなった。
どの程度、性自認と身体のギャップに悩んでいるかは付き合いも短いし分からない。だが、女の身体に対する違和感が強い場合、それを変えられないのは相当辛いはずだ。
晴翔もホルモン治療開始以前の頃に散々辛く感じたし、それで救われたのは男になれる未来の事を考えることができたからだ。
だが、千尋はそれが出来ない。
辛いだろうなと思った。
「ところでさ」
千尋は話の重さに気まずさを感じてカウンターの向こうの酒の瓶が並ぶ棚を眺めていたが、晴翔の方に向き直って口を開いた。
「手術で作ったちんちんってどんな感じなの?」
「ああ、どんなかぁ」
話題を変えたかったのか単なる好奇心か千尋が投げかけた疑問は晴翔にとって難しいものだった。
形の違いの説明は難しいし、千尋がちんちんというものをどの程度見たことがあるのかにもよる。
FTMでまともにちんちんを見たことのない人というのも多い。
性的指向は一様ではないが、恋愛対象が女性のFTMの場合、自分にもパートナーにもちんちんがないから見る機会というのは限られる。
まったく見たことのない人というのもいる。宅飲みなどで見せたFTMの友人の中にも生まれた初めて見たちんちんが晴翔の人工ちんちんだという人もいた。
見たことのないものに対して天然のものと人工のものの説明をするのは難しい。
それに今は他の客はいないがここは飲食店だ。どこまで話していいものか。
「そうだな。見てみる?」
晴翔は物は試しでそう言った。
「いいの?」
「結構、聞かれること多くてね。FTM同士なら見せるのは抵抗ないよ」
千尋は突然の申し出に驚いた。まさか見るか聞かれるとは思わなかったからだ。
「ちょっといいかな?」
晴翔は落ち着いた様子で千尋は驚きで戸惑った様子を見せているところにマスターが割って入った。
「ここで見せるとか言わないよね?」
マスターは笑っているが目は笑っていなかった。
「いえ、場所を変えようと思ってます。ラブホとか」
「それなら結構。トイレでとか言うかと思った」
「そんな事、言わないですよ」
「晴翔くんが常識的な人で良かったよ。前にここで見せたバカがいてね。出禁にしたことあるんだ」
マスターは「ここ」と言いながら下を指差した。つまりこのカウンターとテーブル席が僅かにあるこの飲食スペースのことだろう。
「大丈夫です。ねぇ?」
晴翔は思わず千尋に同意を求めた。
「はい。大丈夫です」
「まぁ、俺もちんこないから見たい気持ちも分かるし、付けたら見せたい気持ちもわかるけどね。とはいえ法律もあるから」
「そうですよね」
「ホテルならここ使いなよ。あまり混まないし、見せるだけなら休憩でしょ? この割引券使えば安く使えるから。終電逃して宿泊にしてもこの辺で一番安いし」
そう言ってマスターは近くのラブホテルの割引券を出した。
「まとめてもらったけど、下手にお客さんに上げてセクハラにならないか難しくてさ。君らみたいにセックス目的じゃない利用ならいいかなと思ってね」
「ありがとうございます」
晴翔はそう言って割引券を受け取った。
「晴翔くん、いいの? その、ラブホとか言って噂立ったりしない?」
「それは千尋くんも一緒でしょ? それに今俺はフリーだし、狙ってる相手もいないから。まぁ、わいせつ物を合法的に陳列出来る場所ってラブホくらいしかないからね」
「まぁ、そうか」
「ただ、作り物とはいえ、やっぱりデリケートなところだから見せるのは恥ずかしいしもうちょっと飲もうよ。その方が俺も助かる」
「わかった。じゃあ、次の一杯は僕に奢らせてよ」
「ありがとう。でもいいの?」
「男同士のこういう関係は『してあげたいからする』が基本でしょ?」
「そうだね」
晴翔は千尋が奢ってくれるという会話をどこか千尋を女性として見ている事に気がついた。
ホルモン治療前のFTMを女性扱いしてしまうのはやりがちなミスだが気をつけたほうがいい。
そこら辺に気づけたのは千尋の申し出のおかげだ。助かったと思った。
「じゃあ、好きなの選んでよ」
千尋はメニューを差し出す。
男性器を見せてくれることのお礼の面もあるんだろう。
いつもお互いの入れたボトルばかりだからたまにはカクテルもいいかもしれない。
晴翔は男になってから男らしくないと感じて避けてきた甘めのカクテルを注文した。
それから一時間ほど、二人はちんちんの話から話題を変えて酒を飲みつつ語らった。
ラブホテルはバーから徒歩で三分ほどの所にあった。
名前は知らなかったようだが千尋は以前、パートナーと来たことがあったそうだ。
部屋に入るとお互い気まずい雰囲気になりつつ千尋はテーブルの椅子に晴翔はベッドに腰掛けて向かい合った。
「三時間は長いね」
晴翔は笑いながら言ったがどこか落ち着かない様子だった。
「余った時間で映画でも観る? 休憩でもネカフェに比べたら安くないし」
「そうだね」
「まずズボン脱ごうか」
千尋は晴翔がそう言うと少し緊張した顔をした。
「あ、あのさ、その前にトイレ行っていいかな? さっきバーで飲みすぎた」
「いいよ。行ってきなよ」
晴翔は笑顔で言い、千尋は「じゃあ行ってくるね」と返してトイレに向かった。
ビジネスホテルと違い、ラブホテルは風呂とトイレが別の場所が多い。
カップルで一緒に入浴することを考えて風呂は広めに設計されていて三点式のユニットバスは採用されていないのだ。
千尋がトイレに入ると一般的な洋式便器が設置されたやや広めの造りだった。
ズボンとパンツを下ろして千尋は便座に腰掛ける。
いつもどおりにおしっこをする。だが今日は一つ一つの動作を確認しながらおしっこの体勢を取った。
晴翔もどのくらい前か分からないが手術をするまでは同じ様にしていたんだろう。だが、前に晴翔の後にトイレに入った時に便座が上がっていたのを見たように今は立ってしている。
千尋には叶わない付いていない男としての願いを叶えた人のその部分を見せてもらう。
生まれながらの男のちんちんはこれまで見たことあるが、そういう自分が得られないものではなくて、自分が仮に手術するなら手に入れることのできる形のちんちんを見せてもらう。
自然と緊張する。
どんな感情を晴翔のちんちんに持つのか想像がつかないからだ。
千尋はおしっこを出し終わって自分の性器をトイレットペーパーで拭くと立ち上がって水を流した。
同じFTMだが今触った自分のものと違う股間への好奇心と未知のものへの畏怖を抱えながら千尋はトイレから出た。
「おまたせ。待たせた?」
「いや、大丈夫。ルームサービスのメニューを見てたところだよ。見せ終わった後、映画見ながらつまむのによさそうなフードがあるよ」
「そうなんだ。じゃあ、後で何か頼もうか」
「賛成。さて、そろそろいいかな?」
「あ、うん。見せてくれるんだよね」
「そうしよう」
晴翔は立ち上がり、千尋はベッドの晴翔が座っていた隣あたりに腰掛けた。
ちょうど千尋の目の高さより下の位置に晴翔の股間がある。
チノパンを履いているが改めてチノパンの股間部分に膨らみがあるのが分かる。
千尋の履いている男物のスラックスの股間部分にはそういう膨らみはできない。股間が平らで晴翔に付いているものがないからだ。
「それじゃあ、一気に下ろすね」
「いや、ズボンとパンツは別々に脱いでくれるかな?」
「ああ、いいけど」
「その、ズボンの膨らみとパンツの膨らみも見比べたいし」
「なるほどね」
晴翔は今まで誰かに見せた時はズボンとパンツを一気に脱いできた。
こう言われるのは初めてだが、それだけ千尋はちんちんを付ける事に興味があるんだろうと思った。
男性ホルモンの治療は出来ないとは言っていたが手術は考えているのかもしれないと思った。
見たところ胸の膨らみはある。性別移行の為にメスを入れてはいないようだがせめてそれだけでも検討しているのかもしれない。
それなら参考になれば嬉しいと晴翔は思った。
まず晴翔はチノパンを下ろした。
「トランクス履いてるんだね。結構、大きい?」
「普通の男の通常時よりは大分大きいよ。トランクスの方が蒸れなくていいんだよ」
「そうなんだ。僕の股間も蒸れるけど、それとは違うんだろうね。僕はペッタンコだから」
「玉袋と太ももの間とかそういう所が蒸れるかな。じゃあ、この中を見せるね。
続けて晴翔はトランクスを下ろした。
「こんな感じ」
「でっかい……。勃起したくらいの大きさだね。もったいないな。これで勃起したら相当な巨根だよ」
千尋は晴翔の男性器の姿に驚いた。
確かに大きかった。人工ペニスは勃起しないというので通常時だがやや控えめな大きさの男性のフル勃起くらいの大きさだ。
だが、見た目はよく見ると不自然に感じた。色も白いしカリクビのあたりの太さの変化も小さい。
どこか魚肉ソーセージを連想させる見た目だった。
陰嚢は縮んでるようにも見えて小さめに見えた。皮のダブつきがないという印象だ。
だが、これも直ぐ目の前で見ているからで温泉などですれ違ったり、リードされる側に女性が徹したらそこまで気づくほど見ないだろう。
それに千尋自身も身体的、社会的に女性だから分かるが女性にはそれほど男性の股間を見るチャンスはない。
千尋はその機会が多いし、見ている時の意識も女性と大きく異なるから気づくだけでほとんどの女性は気づかないだろう。
「こんな感じだよ。千尋くんはちんちん、見たことあるんだね」
「うん。彼氏がいたこともあるからね。色んなプレイをしたから間近で見る機会も多かったよ」
晴翔は千尋がそう言うと納得したように頷いた。
FTM同士のこういう会話でこの表情をする人が多い。女性として生活していた頃や性自認に結論を出す前に男性と交際するFTMは少なくない。
「俺も彼氏はいたよ。まぁ、直近の恋人が彼氏だったんだけどね」
「晴翔くん、バイなの? それともゲイ?」
「バイだよ。女時代も男になってからもどっちとも付き合ってきた。ちんちんを付けてから付き合ったのは元彼だけだけどね」
「それってどのくらい前?」
「一ヶ月前。体の相性の不一致で別れたんだ」
晴翔は苦笑いをして言う。
千尋は思わず晴翔の股間を見る。
「せっかく男になったのに、そうなんだ。相手はゲイなの? あ、話していいならだけど」
「大丈夫。ゲイだよ。ゲイでネコだったんだ」
「それならせっかくちんちん作ったのに残念だね」
「作ったちんちんだから相性が悪かったんだ」
「それってどういう?」
千尋が尋ねると晴翔は自分のペニスをつまんで見せる。
「俺のちんちんじゃ尻の穴に挿れることが出来なくてね」
「そうなの?」
「これ、皮膚を丸めて作ったもので勃起の硬さを再現するのにシリコンの棒で補強してるんだけど、その硬さじゃ肛門括約筋に負けて入らないんだ。無理に入れようとして折れても大変だしね」
「…………そっか」
千尋はどう言葉をかけていいか分からなくてその一言だけを言った。
身体を変えられない千尋には想像もつかない絶望だろうと思った。
「せっかく男として恋人を愛せるようになったのに辛いね」
「そうだね」
「無理だって分かってからはどうしたの?」
「彼氏がタチをやったり、手や口でお互いをイカせたりしたよ。実際、男同士のカップルでアナルセックスをしなくてそうやってセックスする人は多いみたいだけどね」
「そうなんだ」
千尋は男性とセックスした事は何度もある。だが、子宮や卵巣がない意外には完全に身体が女性である千尋は男女のセックスしか経験がない。手や口で、というのはしていたがそれでも普段、膣への挿入をしていてたまに違うプレイをしたい程度でやったにすぎない。
挿入できないと分かった晴翔の気持ちは相当つらいとは思うが想像の枠を超えていた。
「それが相手を萎えさせたんだけどね」
「どういうこと?」
「俺のちんちんは付いてるだけで機能しないから」
「機能しない……?」
「勃起で興奮してるという実感もなく弄るのもそうだし、一番大きいのは射精がないことだね」「ああ、そうか」
「自分のした行為で恋人が射精する、っていうのが無いのが辛かったみたい」
晴翔は力なく笑って言った。
辛かったのは君の方だよね、と千尋は思った。
ただ、男性が性愛の対象でもある千尋にも晴翔の彼氏の気持ちはある程度分かった。イかせて射精がないのは寂しいかもしれない。
「生殖機能が無くて恋人が離れるのは辛いよね」
千尋はまっすぐ晴翔の目を見て言った。
「そうだね」
晴翔は千尋の言葉に驚いて目を見開いてすぐにその言葉の意味を理解した。
「僕もさ、過去付き合った男に子供の出来ない身体だからって理由で別れを言い渡された事があるよ」
「千尋くんも?」
「まぁ、その彼氏には散々中出ししておいて何言ってんだって話ではあるけどね」
逆にこの千尋の言葉は晴翔には理解の及ばない気持ちだった。
晴翔も女性として彼氏のペニスを膣で受け入れた事がある。千尋が元彼としたセックスと同じだろう。
だが、晴翔は妊娠する身体だったので避妊をしており、中出しの経験はない。それは男性ホルモンを投与してから男性として付き合った彼氏であっても同じだ。
「彼氏の子供になるはずの細胞を膣の中で散々吸収してきた僕も人の事は言えないんだけどね。子宮がないから膣の中で立ち往生させてるから僕もひどいとは思うよ」
冗談めかして千尋は言うがその目には寂しさが感じ取れた。
「それを言うなら、俺の元彼も生殖機能がないって理由で別れたけど、男同士でするのは生殖行為って言わないだろって話にはなるよ」
「それもそうだね。性行為だけど生殖行為じゃないね。晴翔くんも僕も」
そう言って千尋は笑った。晴翔もつられて笑う。
その瞬間、二人の間の悲しい空気が和らぎにこやかな空気に変わった。
「なんだろうね、この会話」
「でも、俺達みたいな人間の性の本質かも」
「そうだね」
「でも、変な会話だね」
晴翔が笑顔で言う。
千尋はそんな晴翔の様子を見ると、もう一度、晴翔の股間に目を落とした。
「ねえ、晴翔くん」
「何?」
「ちんちん、触ってもいいかな?」
「あ、うん。気になる?」
「見た目の違いは分かったけど、感触はどうなのかなって」
「いいよ。触ってみて」
そう言って晴翔は腰を軽く前に突き出す。
千尋は過去の彼氏のものを触った要領で陰茎の根本の側面からそっと撫でていく。
「結構、純男のと違う感触なんだね。表面が柔らかい。勃起したちんちん特有の弾力がないし、勃ってない時のとも違う。中に硬い感触があるね。これがシリコンかな?」
「なんか、そこまで詳しく言われると恥ずかしいね」
「ごめん、興味あったから」
「千尋くん、ちんちんに詳しいね」
「過去の彼氏のを触った時に観察したからね。特に男性ホルモンが効かないって知る前は自分の身体にもいずれ出来るものだって思いながら触ってたから」
「男のと違うでしょ?」
「そうだね。でも、羨ましい。勃起しなくても立ちションは出来るわけだしね」
「うん。彼氏と別れた時はショックだったけど立ちションできるのは本当に今でも嬉しい」
「男になるって事で性教育前から知ってた違いだしね」
しばらく触った後、千尋は晴翔のちんちんをじっと見た。
目を泳がせてしばらく何かを考えた後で晴翔の顔を再び見上げた。
「ねぇ、晴翔くんって女の身体にも興奮するって事で合ってる?」
「そうだよ」
「じゃあ、お礼に僕の股間を見せてあげるってのはありかな?」
「え?」
「いや、さすがに自惚れ過ぎだよね。晴翔くんも女だった頃に自分の身体を見てるし、こんなちんちくりんを見てもね。今の忘れて、自分でもキモすぎた」
千尋は両手を振りながら笑っていう。
顔が赤くなっていて自分の発言の恥ずかしさに千尋は後悔していた。
「いいの? いや、俺は見せてくれるなら見たい」
「えっ!?」
「も、もちろん、いいよ」
「股間が変わって一年半くらいか。元彼の前に付き合った彼女とは三年以上前だから、懐かしいし見たいな。今、ちんちんが付いてる自分が女の股間にどんな気持ちを持つのか知りたい」
晴翔は照れ気味に言った。
千尋はその口調と表情に晴翔の気持ちが分かった気がした。
今、晴翔のちんちんを見せてもらって、千尋はいつか自分の身体にも出来ると思っていたけど諦めざるを得なかった人工のちんちんをおそらく生まれつきの男女どちらとも違う視点から見ていた。
晴翔も似た心境で千尋の女性器を見たいのかもしれない。
「じゃあ、脱ぐよ。見せるのに脚開かないといけないから僕は全部脱がないといけないからちょっと待ってね」
そう言うと千尋はズボンを脱ぎベッドの上に畳み、それからスポーツタイプのショーツを脱いでズボンの上に置いた。
「千尋くん、パンツ、女物なんだ」
「男物は結構前に履いてたけど、履く意味が感じられなくて履き心地がいいから女物にしたんだ。収まる物体がないのに布が余るのが邪魔に思ったから」
「分かる気がする。布の余った感じ、結構気持ち悪いよね」
「晴翔くんもそう思った?」
「うん。だから俺は早くちんちんを付けたかったんだけど」
「そっか。ところで、どうかな? ぼくのまんこ」
千尋は立ち上がり先ほど晴翔がしたように腰を軽く突き出した。
晴翔はじっと千尋の股間を見る。
「毛、剃ってるの?」
「薄いんだよ。ホルモンが足りないかららしいよ。触ってみて」
「いいの?」
「僕は君のを触ったでしょ? どうぞ」
千尋がそう言うと晴翔は遠慮がちに手のひらを上に向けて持ち上げるように千尋の鼠径部を触った。
「あ、産毛があるんだね」
「そう。明るいところで見ると毛が分かりやすいよ」
「久しぶりだな。こんなもちもちした感触だったっけ?」
「大体の女はこうじゃないかな」
千尋は晴翔の言葉に少し戸惑った。
割れ目周辺の感触はあまり意識したことがなかった。
女性とセックスする時は割れ目を開く事ばかり考えて行為をしていたからだ。
割れ目の中の方に興味はあるが外側にあまり興味を持ってこなかった。
毛があるかを確かめさせる為に触らせてそこの感触に注目するのは今は違う股間であるが故だろうか。
「中も見る?」
「あ、うん。見たい」
晴翔は若干語気が強くなった言い方をする。
「じゃあ、こうした方が良いよね」
千尋はベッドの上に上がり、膝を曲げて脚を広げた体勢になる。
「晴翔くんもベッドに上がりなよ。これで覗き込めば見やすいでしょ?」
「いいの? なんか、かなり卑猥なポーズだけど」
「身体で一番、卑猥なものを見せあってるんだから今更だよ」
「それもそうか」
そう言って晴翔は遠慮がちにベッドの上に上がる。
千尋は恥ずかしくなって顔を赤くして晴翔から目を逸らした。
晴翔もベッドに上がってすぐ目の前に千尋の股間がある状況に恥ずかしくなる。
千尋はバーで知り合ったばかりの相手とベッドを共にした経験はあるが、ある程度仲良くなった友人という間柄で身体を見せるのは初めてだ。
晴翔は恋人以外とこんな状況になる経験をした事がない。
先ほど晴翔のちんちんを見たという状況はどちらにとってもトランス男性として情報交換のような物でエロい意図を少なくとも当初は感じていなかった。
晴翔も「同性」に身体の事を冷静に話す延長線上だったし、千尋も探求心や好奇心によるものという要素が大きい。
だが、眼の前にある千尋の女性器は晴翔にとって自分の身体と同じものではもうない。
異性の大事なところであり、その異性は恋愛や性欲の対象でもある。
「触ったり開いたりしてもいいからね。というか、外側だけ見ても面白くないでしょ?」
「いいの?」
「僕は君のちんちんをさっき触ったんだよ。お互い様」
「じゃあ、開くよ」
晴翔は左右の手で割れ目の両側、大陰唇を人差指と親指でつまんで千尋の女性器を広げた。
彼の女性器はぴったりと閉じていたが小陰唇ははみ出していた。
晴翔がこれまで見てきた中では二十代の女性としては平均的な女性器だ。
先ほど立った状態で触ったときも感じたが、改めて自分のものじゃなくなった視点で女性器の見た目や感触に触れてみると随分と自分に同じものが付いていたときから印象が変わった。
改めてこうして大陰唇を触ってみるととても柔らかくてどこか掴みどころのない感触だった。
左右に広げるとピンク色の貝の耳のような小陰唇も一緒に開く。
「あっ……」
晴翔は千尋の割れ目を開いて真っ先に千尋が今どんな気持ちで大事な所を見られているかに気がついた。
かつて自分に付いてた物への懐かしさも込み上げたが、今の千尋の状態の方が気にかかったのだ。
千尋の女性器は濡れていた。その意味する所は元女性でなくても男にも分かる事だ。
「どんな感じかな?」
千尋は特に何かを意識した様子もなく晴翔に尋ねる。
「あ、そうだね。自分に一昨年まで同じ物が付いてたってのが信じられないというか。懐かしいけど、なんか遠くに感じるって感じかな」
晴翔は千尋の股間の様子について指摘しようかと思ったが、悪い気がして必死に言葉を探して言った。
だが、それは本心だった。
晴翔はホルモン治療をしてしばらくしてからクリトリスの肥大化について話していてFTMの友人と股間を見せあった事がある。
その時は特に興奮するなどという気持ちは分からなかった。男女どちらも性欲の対象である晴翔だがFTMの女性器には性的な関心は持てなかった。
その時、同性であるっていう事の意味を理解したような気がしたのだ。
今見ている千尋の身体については同性として見れなかった。
千尋の股間はまぎれもなく異性のものだった。これは多分、手術をする前でも同じ様に思っていただろう。
つまり千尋の身体は女性としてしか見ることが出来なかった。
そう思った事は千尋に対して失礼だし、酷い認識なのではないかと思った。なので晴翔は一生懸命自分の千尋に対して持った認識を打ち消そうとした。
そこで気になった。千尋が濡れているというのはどういう事なのだろうかと。
だが、それを指摘するのはしていいのか迷う。
「ねぇ、晴翔くん」
「何?」
「気づいてるかな。多分、僕、濡れてるでしょ」
「えっ……?」
便宜的に身体で性別を定義して女性と言うが女性は自分で濡れているかどうかを認識できるかには個人差がある。
千尋は自覚できるタイプなのだろう。
晴翔は見て最初に気がついた事を悟られていいか迷い、わざとらしく千尋の股間を覗き込んだ。
「そうだね。濡れてる、ね」
その返答は気まずかった。
そして覗き込んだ時にもう一つ気がついた。膣口の中がヒクヒク動いている。
「ごめん。僕、君のちんちんを見て興奮しちゃって」
「千尋くんって」
「僕、パンセクシャルなんだ。その恋愛対象に性別は関係ないっていうか」
「エロくなるのも?」
「誰にでもじゃないけど男でも女でも、何なら性別分からない性器の性分化疾患の相手も興奮してた」
「そうなのか」
「そんなつもりはなかったんだけど、いざ君のちんちんを見たら興奮しちゃって。気持ち悪いよね。男同士なのに」
「それは、俺は男と付き合ってたし、千尋くんが俺みたいな身体でも興奮してたかも」
「晴翔くんはバイだったね」
「あと、俺もバラしちゃうと千尋くんのまんこに興奮してる。俺は勃起しないからパッと見、わからないだろうけど。俺のちんちん見てみて」
そう言うと、千尋と交代する際に履いたパンツを晴翔は再び下ろした。
「先っぽ、見てくれるかな」
晴翔がそう言うと、千尋は晴翔の亀頭の先端を見た。
「ガマン汁……?」
「そうだよ。俺のガマン汁は君の股間を濡らしてるものと同じものだよ」
「愛液なの?」
「そう。愛液の出る腺を尿道に繋いでるんだ。俺が興奮を身体で表す唯一の現象だよ」
「っていうことは晴翔くんも?」
「気持ち悪くないかい?」
「そんな風に思わないよ。それを言えば僕も君の身体に興奮してるから」
晴翔と千尋はお互いの股間をしばらく見た後、見つめ合った。
「あのさ、晴翔くん。お互い興奮してるならしてみない? 僕達」
「するって」
「セックスだよ。僕の膣なら入れやすいだろうし。僕はさっき言った通り子宮がないから妊娠する心配もないし」
「それを言うなら俺もキンタマはシリコン製のダミーだから俺の方も妊娠の心配はないよ。子宮と卵巣は俺ももう無いしね」
「それなら」
晴翔は千尋の申し出に驚いたが、その申し出に嫌という気持ちもなかった。
お互いの股間の状況を見るとそうなるのが自然とすら思えた。
「まさかここで童貞を捨てる事になるとはな」
「えっ? 今までセックスしてるんだよね」
「ビアンやFTMとしての童貞はずっと前に捨ててるけど、ちんちんを付けてからの童貞はまだだよ」
「元カレとはセックスしてたんでしょ?」
「非処女として受けの方でね。さっき言った通り、元彼の尻に入れられなかったから」
「そうか……」
「ごめん、抵抗ない? 童貞は重いっていうか」
「いや、最初に話したときから晴翔くんとはいい友達になれそうな気がしたんだ。だから、その友達の童貞なら喜んでもらいたいよ」
「うれしいな。それじゃあ……」
そう言って晴翔はベッドサイドテーブルに置いてあるコンドームを手に取った。
「僕ら子供が出来ないんだからいらないでしょ?」
「そうも行かないよ。元彼は彼氏が途切れたことがない奴でね。その元彼に生で入れられたり結構、避妊の必要がないセックスをしてきたんだから一応ね。俺も手術前に受けて以来、性病検査とかしてないし」
「別にいいのに……」
「そこは自分を大事にしないとね。俺等、そういう所を雑にしてしまいがちだけど、少なくとも俺とするならちゃんとさせて。そうじゃなきゃ、この先、君と付き合う女の子に悪い」
「女とは限らないけどね」
「それはお互いそうだね」
千尋は自分を大事にしてくれてるんだと晴翔の言葉に思い感動を覚えた。
これまで子宮も卵巣もなく男性ホルモンに反応しない体質で身体を変えられないと知ってから性欲に正直すぎる生き方をしてきた。
恋人がいる間に浮気をすることはなかったが行きずりの相手とセックスする事はこれまで何度もあた。深刻なものにはならなかったが性病にかかったことも一度や二度ではない。
「じゃあ、コンドーム付けてあげようか」
「それは、自分でやらせて欲しいな。ちゃんと男としての段階を踏んで初めてを迎えたい」
「晴翔くんはロマンチックだね」
「そうかな」
「うん。じゃあ、僕の膣も晴翔くんのちんちんを大事に迎え入れないとね」
「そう言われると恥ずかしいな」
二人の間には自然と笑いが起きた。
「ところで、千尋くんはされたら嫌な事はある? 男としてしてほしくないこととか。胸は避けたほうがいいよね」
「いいよ。むしろ揉んで。小さいからつまらないかもしれないけど」
千尋は自分の乳房を持ち上げて寄せて見せた。
「ベッドでは行為に関しては僕の事を女扱いしていいからね」
「えっ? でも……」
「僕はね、男になれない以上、この身体で出来るセックスは貪欲に楽しむことにしてるんだ。女の身体である以上、女として気持ちいい事はしてほしい。晴翔くんはその辺、上手そうだし」
「抱かれる側は男相手も女相手も経験してるからね。気に入ってもらえると嬉しいかな」
そう言って晴翔はまずシャツを脱いで上半身裸になり、その後、ズボンとパンツそ脱いで全裸になった。
「あぁ……」
千尋はじっと晴翔の身体を見た。
こんな風にじっくり身体移行済みのFTMの身体をじっくり見るのは初めてだ。
上半身は完全に男性、生まれながらの男性とは形が違う面も大きいが股間にちんちんが付いている、だが腰回りの骨格は女性のそれだった。
筋肉や体毛などは男性なのに女性の腰なのは不思議に思えた。
上半身もよく見ると男性にしては華奢な骨格だ。しっかりと鍛えた筋肉と不釣り合いに見える。
染色体も性腺も男性なのに完全な女性の身体の自分とは対照的。晴翔の染色体は女性のXXだ。
同じFTMだがまぎれもなく異性の身体だった。
そして、その身体は自分もなれると思っていた身体でありとてもうらやましく思えた。
続けて晴翔は横になっている千尋のシャツのボタンを外していく。今度は千尋が裸になる番だ。
「脱がしてくれるんだ」
「嫌だったかい?」
「いや、この辺も女扱いでいいよ。言葉遣いはこのままでいさせて欲しいけど、女の子だと思っていいからね」
千尋は笑顔で言う。
晴翔はその千尋の表情にどんな反応をしていいか分からなかった。
「わかった。じゃあ、きちんとエスコートするよ」
笑顔を作り晴翔は優しげな口調で言う。
「ブラも付けてるんだ」
シャツを脱がされた千尋の上半身を見て晴翔は呟いた。
千尋はパンツと同じブランドのスポーツブラを付けている。
「ナベシャツを昔は付けたりしてたんだけどね。楽だし、胸の形もナベシャツじゃ崩れちゃうから」
「下着はどっちも女物だったんだね」
「上はスポーツブラとかスポーツタイプのブラトップだけどね。可愛い下着はこれでも男だから付けたくないし、これが妥協点かな」
「わかるよ。俺もホルモンをやる前は同じ様にしてた。ホルモン治療はじめてからはナベシャツを付けたけどね」
そう言うと晴翔は千尋に覆いかぶさった。
しばらく見つめ合ったあと、晴翔は若干の戸惑いを覚えた。
これまではセックスの前、時間をかけてキスをしていた。それは相手が男でも女でもだ。
だが、それは相手が恋人だからであり、千尋は友人だ。キスをする間柄じゃない。
晴翔はこれまで恋人という間柄の人としか身体を重ねた事がなかった。その点では行きずりの相手とも身体を重ねた千尋とは対象的だ。
「今、キスしようとしたでしょ?」
「ごめん、嫌だよね」
「そりゃあね、僕らは友達だから。どうしていいか分からないんだね」
「実は……」
「正直に言っていいからね。まず定番の胸を揉んでもらおうかな。僕の方からして欲しいこと言うから安心していいよ」
「ごめんね」
「気にしなくていいって。身体は女扱いして欲しいけど僕ら男同士だからね。そういうのははっきり言葉にしていこうよ」
「そう、だね」
千尋は晴翔が安心した顔になったのを見てなんとなくこれまでの晴翔の恋人がどんな感じだったのかを察した。
彼氏にも察して欲しい、千尋の感覚からすれば女の子みたいな人が多かったんだろうなと思った。
千尋は友人でも恋人でも望むことや自分の気持ちははっきり言うし、言って欲しい、いや、言うべきだと考えているタイプだ。
「小さくてつまらないと思うけど、楽しんでよ。あ、でも、晴翔くん、おっぱい好き?」
「好きだよ。胸はどっちも好きかな」
「男の胸も女の胸もって事?」
「そう」
「大きくなくて申し訳ないけど、久しぶりの女の胸を触るといいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って晴翔は千尋の胸を揉み始めた。
貧乳のため仰向けになると千尋の胸は真っ平らに近くなる。乳首の周辺に控えめな膨らみがある感じだ。
それを指のポジションに気をつけながら晴翔は揉んでいく。
「揉むのうまいね。晴翔くん貧乳好き?」
「そういうわけじゃないけど、揉まれる側だった頃は俺も貧乳だったからどうやって揉まれたら気持ちいいかは分かってる」
「女だった頃に胸を触らせてたんだ」
「身体を変える前は女として付き合った相手もいたからね」
「なるほどね。まぁ、身体が女のままのFTMは男として見てもらえないし、競争力の面でも弱いからね」
「あと、男になってからも胸を触るのも触られるのも好き。構造上揉むって形ではないけど」
「男の胸って触り心地いいよね。あの筋肉の質感とか。そっか、そっち側で触られるのも気持ちいいんだ」
千尋は上気した顔で言う。
目は晴翔の胸元に向けているが、それは旨を揉まれて感じているのか晴翔の男の胸を見て興奮しているのか晴翔は測りかねていた。
さらに気持ちよくさせようと指先で乳首も弄り始める。
「くぅ……」
千尋はかすかな喘ぎ声を上げる。
「誰かに乳首いじられるの久しぶりすぎてすごい感じる」
「よかった。じゃあほぐしていくね」
そう言って晴翔は上半身の性感帯を指で探りながら擦っていく。
千尋の息は上がってくる。脚も内股になる。
股間が十分に感じているのかと晴翔は気にかかった。
じっくり時間をかけて愛撫をしたい所だが部屋の使用時間は三時間だ。早く挿入をしたい。
「時間気にしてる?」
「あ、ああ」
「泊まりにする? 僕も晴翔くんにもっと触ってほしいし」
「いいの?」
「明日何もないし。晴翔くんは?」
「俺も何もない。じゃあ、一旦、電話かけてみる」
「わかった」
晴翔はフロントに電話をかけて宿泊に延長を頼んだ。どうやら延長分はチェックアウト時に払うらしい。
その事を千尋に伝えると晴翔はベッドの上に戻った。
「ふふっ……」
千尋は突然笑い出した。
「どうしたの?」
「いや、久しぶりにみたけどちんちんぶら下げて歩いてる姿って結構間抜けだなと思って」
「作り物だからね」
「本物でも一緒だよ。ただ、勃起した大きさなのに下向いてるのは結構面白いな。天然物なら上向くもんね」
「天然物って」
晴翔も笑った。
「気がそれたからちょっと愛液足りないかも。男なのに晴翔くん、愛撫上手だからもっとやってほしいな」
「それは君と同じ身体だったからだよ。でも、俺が女だったことが役に立つなら嬉しいな。それじゃあ、やっていくね」
「ごめん、女だった事を思い出させちゃうね」
「いいんだよ。俺が女だったことはちんちんをぶら下げてたって消えないんだから。女だった経験のある男である事は相手が認めてくれるなら利点だとも思って入るよ」
「状況は違えど、トランスであるって事は逃れられないからね。僕はそういう前向きなの好きだよ」
千尋は笑顔で言う。
晴翔はそれに対して一度驚いたあとに嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、再開するよ」
そう言って晴翔は千尋へ上半身のマッサージを再開した。
三時間という時間制限はなくなり明日の午前十時までやろうと思えばセックスを続けられるようになった。
晴翔はしっかりと愛撫して気持ちが盛り上がらないと感じづらい膣で精一杯気持ちよくなってもらおうと思った。
千尋は「女として気持ちいい事はしてほしい」と言った。それは本心からのようだったがホルモン治療が出来ず男の身体になる事が出来ないことと精一杯向き合った上での結論なのだろう。
自分が早く逃れたかった女の身体と生涯付き合わなければいけないFTMというのは辛い。それは身体を変えるという事を知る前に生理や胸の膨らみで絶望させられてきたからよく分かる。
だからこし晴翔は千尋の性感帯、特に女性特有の敏感さをしっかり刺激して気持ちの良いセックスをしたいと思った。
今この瞬間それが、二人の友情の形なのだと考えたからだ。
「やっぱり上手だね。普通の男と大違いだ。素人でこんな上手な男はいないよ」
「俺はホルモン打ってから性感帯が鈍感になったから女だった頃の事を必死に思い出しながらやってるけどね」
「でも、経験できない人がするのと違うよ。もうあそこがトロトロになってると思うけど、もっとしてほしい」
「もちろんだよ。そう言えば、素人って、風俗に行ったことあるの?」
「一時期、女性向け風俗を結構利用しててね。この身体を受け入れるために必死でセックスしてたんだ」
「俺は経験ないけど風俗のキャストっていうの? そういうのやってる男ってやっぱり上手なの?」
「プロだからね。その前に付き合った男よりずっと上手だった」
「へぇ。未知の世界だな」
「でもね、女とセックスすると上手い下手で言うとプロには叶わないけど、やっぱりズレみたいのがないんだよね。男は自分と身体が違うからどこか的外れなところはプロでもあってね」
「へぇ。それならプロの女としたら凄そうだね」
「実際すごいよ。下手な人はいるけどね」
「えっ……? その、女が行ってもいいもんなの?」
「レズ風俗だから。トランスOKのところもあるからね。僕はあくまで女として利用したけど」
「ああ、なるほど……」
「でも、晴翔くんはかなり上手な方だよ。まぁ、FTMはね、愛撫しか出来ないみたいな所はあるもんね」
「そうだね。手術前はホルモンしてからもする前も、こっちが相手を触ることがセックスだったからね。だから必死になってたし」
「分かる。それで鍛えた上手さが晴翔くんにはあるって感じる。だから気持ちいい。上半身だけなのにかなりあそこがムズムズしてる」
「じゃあ、もっと気持ちよくなってもらわないとね」
そう言うと晴翔は千尋の股間に手を伸ばし両手の指で大陰唇を摘んだ。
「僕、それ好きなんだ。あ、する方もだけどね」
「じゃあ、もっと気持ちよくなってくれるといいな」
晴翔は千尋の大陰唇を優しく揉み始めた。
そこは千尋にとって最も女性である場所だ。
バーで聞いた通り、生まれつき子宮も卵巣もない千尋が自分と同じ様に逃れたいと思いながらもがいて受け入れた女性という性の彼にとっての根幹だ。
だからこそ大事に触れていきたいと晴翔は思いながら触れていく。
シリコンの睾丸が邪魔になって同じように自分のを揉むことは難しいが、今の晴翔の身体でもここは同じように気持ちよくなれる場所だ。
実際、オナニーの最初の方でコツを掴んで睾丸越しにここを揉んでいる。
クリトリスが枝分かれして左右の大陰唇の下に存在している。
大陰唇を揉めばクリトリスの割れ目の中に飛び出てる部分よりもはるかに大きな体積の部分が刺激される。
神経が多い分こちらの刺激は緩やかだが気持ちいい。
「はぁ……」
千尋は呼吸を荒くする。
「上手だね。女の時、ここを刺激してた?」
「彼女に対してもするし、オナニーでもしてたよ」
「僕も時間がある時はクリを弄る前にここを揉んでるよ。上手だね。男はなかなかこれをやってくれないし、風俗の男もあまり上手じゃない」
「自分の身体にないと感覚は分からないからね。特にクリの根っこは見えるわけじゃないからちょうどいいポイントはわからないんじゃないかな」
「好きだなぁ。これ。大分、濡れてきたよ」
「ホントだ。大陰唇まで濡れてきてるから少し滑るな」
「このまま挿れていいよ。僕、晴翔くんのちんちんに結構興奮してるんだ」
「そうなの?」
「うん。正直言うと、僕の膣(なか)が欲しがってる」
晴翔は千尋の言葉に驚いた。
女みたいな事を言うと。
自分の身体を受け入れてるからなのだろう。自分は挿れられる側だと腹をくくっているからこその興奮の仕方。
身体を変えるという逃げ道がある自分には持てない覚悟のようなものを感じた。
「俺もちんちんがムズムズしてたまらない。勃起はしないけどまんこが感じてたムズムズした感じは手術で作った所全体でも感じるんだ」
そう言って晴翔は千尋の大陰唇を揉んでいた手を止めて身体を起こしペニスを千尋に見せた。
「ガマン汁すごいね。滴ってる」
顔を赤らめて千尋は言う。
「これが俺の唯一の目で見える性欲の証拠」
「僕の膣を濡らしてるのと同じものなんだよね。それがちんちんから出てるなんて不思議だな」
「そうだね」
晴翔は千尋の言葉に同意すると手元に寄せていたコンドームを手にとってパッケージを破いて中身を出した。
「晴翔くん、付けたことあるの?」
「元彼に挿入するの失敗したときにね。その前に何度か練習した」
「それなら付いてないぼくがどうこうするところじゃないね」
千尋は口元を緩めて言う。
晴翔はそれに笑い返すとまだ十分に慣れていない手つきでコンドームを自らのペニスに被せていく。
つい先程の会話の通り何度か付けてはいるが、手術をする前にやりたくてたまらなかった事だ。
股間が女性器だった頃はコンドームを付けることなんて出来ない。それが可能な構造をしていないから。
今はコンドームの想定するペニスが自分の身体にある。
ペニスに張り付くコンドームの感触にどこか喜びを覚えた。
「彼女が出来る前には性病検査を受けておいた方がいいだろうね」
千尋は起き上がり晴翔のペニスを間近に見ながら言う。
「コンドームがどのくらい感覚を弱めるのかは僕の股間じゃわからないけど、妊娠させる心配がないんだから生で出来ないと損だしね」
「そうだね」
「僕もきちんと付き合ってる相手がいてそれが男だった時はお互い検査して中出しさせてたからさ」
千尋は楽しそうに言うが晴翔はその言葉に戸惑った。
女の身体を持ちながら男として男が好き、というのは晴翔にも経験がある。
相手の男の証拠である精液を身体の中に出させる行為に千尋はどんな気持ちで挑んでいたのだろうと思った。
晴翔も過去の彼氏に膣に挿入された事はあるがその頃は妊娠する身体だったからコンドームを毎回付けてもらっていた。
中出しされるなんて考えたこともなかった。それよりも自分も挿入を出来るようになりたいと思いながらその時は抱かれていたからだ。
「これで準備完了だね」
千尋は微笑んで言った。
晴翔は緊張し始めていたがその表情になんだか心が和らいだ。
「行くよ」
「うん」
晴翔はペニスを掴み千尋の膣に狙いを定める。
千尋は予め自分でまんぐりがえしの体勢になり晴翔の挿入を待ち受けた。
挿入に経験がまだない晴翔が挿入することに注力できるようにとの気遣いだった。
挿入する側を指やアダルトトイでしかした事がない千尋にはその感覚は分からなかったが、せめてもの助けになればと思った。
晴翔はたどたどしい様子でペニスを挿入していく。
(あっ……)
自分の体内に硬い物が入っていく感覚が懐かしくて千尋は驚いた顔をした。
もう処女を捨てて何年にもなるので痛いとかはない。だが、久しぶりの感覚に戸惑った。
粘膜の感覚に注意深く意識を向けながら千尋は晴翔のペニスと今まで身体を重ねた男たちの本物のペニス、女たちの指との違いを探る。
「しっかりちんちんの感触だね。挿れられてる側としては本物との違いは無いかな」
「そ、そう……!」
晴翔はペニスを挿入した姿勢を維持する事に慣れずにそちらでいっぱいいっぱいになっていたので千尋の言葉に対して言葉が出なかった。
「戸惑ってる?」
千尋はなるべく優しい口調で言う。
晴翔は何も言わず焦った様子で頷く。
千尋にはからかいたい気持ちはあるが生まれつきの男の童貞をからかうのとは違う。自分もなれたかもしれない、女からようやく男になれた人だ。だから丁寧に接しないとと思った。
「これまで彼氏にしてもらった事を真似すればいいからね。童貞とした経験はあるから安心してやりたいようにやって」
「わ、わかった……」
晴翔はぎこちない動きで腰を前後に動かしていく。
膣と肛門の違いはあるがついこの間まで晴翔が元彼にしてもらった事を自分の視点から見た記憶を頼りに真似していく。
挿入したときもそうだが、膣への出し入れは想像よりずっとスムーズだ。
元彼の肛門には挿れることすら出来なかったので不安だったが晴翔は安堵した。
(あったかいな……。それになんだろうしっとりと柔らかい感じがする)
初めて感じる感覚に晴翔は感動を覚えた。
今、千尋の中に挿れているものはついこの間まで晴翔の身体には無かったものだ。身体に新しくできた部位故にその存在にもまだ完全に慣れていないが、そこで感じる膣の感覚はあまりにも新鮮だった。
晴翔は過去の彼女たち膣に指を挿れてよがらせてきたが、性感帯のない指とまだ不完全とは言え性感帯のあるペニスでは感覚が大きく違う。
腰をグラインドさせるのは経験のない動きで大変だが千尋の膣の感触を味わうために自然と一生懸命になっていく。
「どう、かな?」
晴翔は自信なさげに聞く。これが彼女相手だったらこんな事は情けなくて聞けない。男友達だからざっくばらんに聞ける。
「下手だなぁって思う」
「そっか……」
千尋は飾り気のない口調で言い、晴翔は一度腰の動きを止めつつ残念そうな顔をする。
「気にしなくていいよ。そういうものだから。晴翔くん、童貞とセックスしたことある?」
「ない。男も好きだって気付いたのそんなに前じゃないから」
「そうか。ぼくは恋人でも行きずりでも結構童貞をする事があってさ。あ、それは男だけじゃなくてビアンのタチも含むけど、童貞ってする事だけでいっぱいいっぱいで正直気持ちよくしてくれないんだよね」
「それは、ごめん」
「謝ることじゃないって。誰にだって初めてはあるんだから」
「そうか」
「でも、童貞の中ではうまい方だよ。挿れられる方を経験してるし、二度目の童貞だからかな?」
「そうかもね」
「だから今日は僕で練習してよ。次に付き合う女の子のために。僕もある程度は気持ちいいから」
「わかった」
千尋の言葉に安心したのか晴翔は前向きな顔になり腰の前後運動に励んだ。
出し入れのうち出す時はどのくらい出すのかとかまだ頭で考えなければ出来ない部分があるが、少しずつコツをつかんで動かす事の戸惑いは小さくなってきた。
千尋が自分の腰の動きにどう感じているかは分からないが、あまりその事に意識を向ける余裕が無かった。
ペニスの感覚がまだ十分に開発されていないのであまり気持ちよくない。いまいち感覚が弱い。
ただ、性感ではなく暖かさと柔らかさの心地よさはこれまで指で経験した通り気持ちがよかった。
ペニスの感じる膣は指で感じた感触に弱い性感を足したような感じだった。
長らく経験しなかった膣の感触は懐かしいし、元カノと付き合っていた頃には自分の身体に無かったペニスで感じる感触と腰の疲労感は新鮮だった。
初めて男としてのセックスを今こうして経験している。
小学校の頃にクラスの女子に覚えた性の目覚め以来ずっとしたかった男としてのセックスだ。
元彼と初めて夜を共にした時の挫折を乗り越えて相手は友達という間柄だがそれでもこうして童貞をもらってくれたのはありがたい。
股間が男になったとしても晴翔はFTMである事実を隠すつもりはない。
だから次に恋人が出来るのはいつか分からないし元彼が最後の恋人になるかもしれない。だから童貞を捨てるだけでも出来たのは嬉しかった。
晴翔は夢中で腰を動かし続ける。男になれた事の実感を一つ一つ噛み締めていく。
「あっ……! あっ!」
小さな声だが千尋は晴翔の腰の動きに連動してよがり声を上げる。
(千尋くん、感じてるのか?)
晴翔はその千尋の様子に驚いた。
同時にその声がとても可愛く感じた。女の子のようなよがりかたをしていなし大っぴらな感じ方をしないように我慢しているようだ。だが、その声は女の子の声そのものだ。
セックスでは女扱いしてもいいとは言ったがどんどん千尋が女の子に見えていく自分がいた。
生まれつき子宮も卵巣もなく腹の中とはいえ精巣を持つ。そして染色体はXY。千尋はずっと自分よりも男だ。
だが、やはり男性ホルモンの影響を受けていない身体、それに合わせて築き上げた性への態度、千尋の事情を知っているせいもあるが晴翔の目に映る彼は女の子だった。
男にも女にも興奮する晴翔だが本音を言うと女の子の方が好きだ。
だから自然と腰を動かすのに力が入る。
男として女をよがらせてる。なりたくてたまらなかった男になれてる証拠だ。
男だと自己を認識しながら男になれない千尋に対してこんな感情を持つのは悪いと思った。だが、同時にその罪悪感が興奮を拡張する。
「あっ! あんっ!」
千尋もよがる声が激しくなっていく。
顔が赤くなって快感を受け入れた表情だ。千尋自身も自分の表情や声が完全に女の子だってことはよく分かっていた。
実際、これまで千尋は相手の恋愛対象が女性だった場合に戦略的に女を見せてきた。
だが、今はギリギリまで男の子を保ったが感じる事に集中した結果、自然と出た情勢的要素だ。
(やばいなぁ。このまま受け入れていいのなぁ……)
千尋は膣からこみ上げる感覚に備えながらも何処か抵抗を持った。
身体が待ち受ける感覚と一緒にそこに生まれつつある感情に戸惑いながら受け入れる覚悟を決めていく。
「んんっ!」
千尋は身体をビクンと縦に震わせた。
膣から全身を強い感覚が突き抜けたのだ。つまり千尋はオーガズムを迎えた。
はっきりわかりやすく大きく身体を震わせたはずだが晴翔はピストン運動をやめなかった。
おそらく慣れないピストン運動で頭がいっぱいで千尋の様子に気づいていないのだろう。
(だめ、だめだめだめ、だめ……!)
頭の中に手を入れてかき混ぜられたように意識がかき乱されていく。
ここでやめてほしいが千尋はペニスで千尋の中を刺激し続ける。
(これ以上続けられると僕、おかしくなる!)
身体の力が抜けて動かすのも辛いが千尋は力を振り絞って晴翔の腕を掴んだ。
「晴翔くん!」
「あっ!」
晴翔は腕を掴まれたことにびっくりして腰を動かすのを止める。
「僕、イッたから。もう、そのくらいに。ごめん、もう、無理」
千尋は走った直後のように息切れしながら途切れ途切れに言う。
「ごめん!」
「あぁ!」
晴翔は慌ててペニスを千尋の膣から引き抜く。その仕草もぎこちなく途中、千尋の中でペニスが引っかかったらしくペニスが千尋の膣の内壁に当たりその強い刺激に千尋は悲鳴を上げる。
千尋に負けず劣らず晴翔も息が上がっていた。
「もぅ……」
晴翔をじっと見ながら千尋はぐったりと仰向けから身体を横に崩れるように倒した。
「ごめん、気づかなくて」
「いいよ。気持ちよかったから。晴翔くんは気持ちよかった?」
「正直言ってあんまり」
「そっか……」
「まだ神経が開発されてないから」
「へへっ! 僕はイッたよ。しかも生まれて初めての中イキ」
「ああ、中イキ」
「晴翔くんは経験ある?」
「ないよ。男とした時はまず相手がイッちゃうし、女とする時は挿れる専門だったからね」
「そうなんだね。僕も初めてなんだ。かなり気持ちいいね。癖になりそう」
「それはよかった」
「ごめんね、僕ばっかり」
「ちんちんが無かった時に慣れたよ。俺としてはイかせるは凄く嬉しく感じる。前は指でしてたけどそれがちんちんになっても同じ様に出来るのは嬉しい」
「そっかぁ……」
千尋は心の底から満足そうな顔をそた。
(かわいいな……)
晴翔は千尋のその表情に心臓が高鳴るのを覚えた。
セックスでは女扱いして欲しいと言われたが全てにおいて女扱いしている自分に嫌悪感を覚えた。
FTMとして女扱いされる事のストレスは晴翔自身が身を持って知っているからだ。
「泊まりで時間があるから何か飲もうか。ホテルの冷蔵庫のは高いけどね」
「いいね。俺も喉が乾いたよ」
千尋は裸のまま立ち上がり冷蔵庫に小走りで向かう。
華奢な可愛い身体のシルエットだ。晴翔はそれを見て自分のちんちんが勃起をするならこういう時にするんだろうな思った。
「ビールでいいかな?」
「うん。ありがとう」
体勢を変えてベッドに腰掛けていた晴翔に千尋は缶ビールを手渡す。
千尋も晴翔の隣に座り、お互いにそれぞれのタイミングで缶を開けた。
「今日はありがとうね。ちんちんを見せてくれて。身体を変えないのに無理行ったかな?」
「いや、身体を変える事は信用できる人には話したり見せたりしたいなと思ってるから何かの役に立てればいいなと思うよ」
「役立てられればいいけどね。僕の身体でちんちん付けても変なだけだし。ちんちんが欲しいのは本音だけどね」
「自分の性自認に気づくきっかけだったりするからね。ちんちんが自分に無いことの疑問って」
「僕は特殊な例だけど、大抵の人は実現できないままになっちゃうからね。それを成し遂げた晴翔くんはすごいよ」
「ありがとう」
晴翔がそう言ったあとしばらく無言の時間が続いた。
ビールを飲んだり真っ直ぐ前を見たりしてしばらくその無言を二人は味わった。
「ところでさ」
沈黙を破ったのは千尋の方だった。
「晴翔くん、僕ら、付き合わない?」
「えっ!?」
突然の千尋の言葉に晴翔は心の底から驚いた。
「別にそんなつもりでセックスしようって言ったわけじゃないんだけどさ。でも、晴翔くんに挿れられてて君ともっと仲良くなりたいって思ったんだよね」
「それって」
「友達よりもっと密にって事だよ。僕達、身体の相性もいいと思うし」
千尋は口元を緩めて笑顔を作って晴翔の顔を見たがその目は真剣だった。
「俺、身体も変えたばかりでセックスも下手だけど……」
「僕は身体だけの関係のつもりで言ってないよ。君と一番親しくなりたいって言ってるの」
「そうか……」
晴翔は千尋の申し出になんと言っていいのか戸惑った。
つい今、千尋に感じた感情を打ち明けていいのか。それはFTMである千尋にとってひどいことじゃないかとも思える。
かつての自分なら言われたら心のそこから落ち込む事だ。
「結論は急がないよ。もしそのつもりが無かったら忘れて」
「いや、付き合おう! 俺、千尋くんとしてその、気がついたらすごく魅力的に思えてて」
「かわいいって思ってくれた?」
「いや、あ…」
「思っただろ?」
「ごめん、そう」
「嬉しい」
「えっ?」
「見た目は完璧女の子だからね。セックスだけじゃなく恋愛全般でも女扱いされる前提でいるんだ。そもそもこんな見た目で男として見てくれなんて無理があるしね」
「そう……」
「気にしてるな? 僕はこの身体と向き合ってそれで喜びを見出したんだ。晴翔くんが気にすることじゃないよ」
千尋は軽い口調で言う。
だが、そこには性自認が男性でありながら身体を男性化できない体質に生涯付き合わなければならない事に対する覚悟のような物が見えた。
「うれしい。俺、正直、元彼が最後の恋人になるかもしれないと覚悟もしてたから。トランスって恋愛するのは不利だからね」
「それは僕も同じだよ。恋愛に関しては女でいるって事にしたのはそのための生存戦略だから。でも、ちんちんを付けてもそうなんだね」
「結婚できたとしても子供を作れないからね」
「なるほどね。僕もそれで昔彼氏に捨てられたからなぁ」
「言ってたね」
「ところでさ、晴翔くんは僕にどっちになって欲しいの?」
「どっちって?」
「彼氏と彼女。好きな方になるよ。セックスは見ての通りの身体だから女に徹しさせてもらうけどね」
「彼氏でいてよ。男なんだから」
「わかった。まぁ、このナリだから必要な時は彼女のフリはさせてね」
「ああ、そうか。うん、わかった」
晴翔は千尋の言葉の意味をすぐに察した。
男に見てない段階の頃に彼氏だと名乗れない事はあったし、仮に千尋が男に見える見た目でも同性愛者を理解してもらえるとは限らない。
セクシャルマイノリティである事を隠した方がスムーズな場所は日常に多い。
「そんな顔しないでよ。僕は女の子をするのも楽しんでるんだからね」
「それならいいけど」
千尋は本心で言ってるだろうなと晴翔は思った。
飲み友達をやっていて千尋にはFTMに見られる「男になりきれない感」がないのだ。
今のようなシチュエーションだと本心と違うことを言って後から覆したりした晴翔が異性としても同性としても苦手にしているところだ。
「と言うことでよろしくね」
千尋は身体をピタッとくっつけて晴翔の目をじっと見て言った。
腕を前に寄せて胸を寄せて強調して見せる。
千尋は貧乳なのでその姿勢になってもあまり胸が強調されない。
だが、晴翔にはそんなたった今彼氏になった人のセックスアピールが可愛く思えた。
「胸小さくてサマにならないと思ってるでしょ」
「いや、可愛いなって。あとその可愛さに興奮してきた」
「本当?」
「本当だよ。証拠は見せてあげられないけど」
晴翔はそう言って目を自分の股間に下ろした。
「千尋くん、女の要素をアピールするの抵抗ないんだね」
「嫌かな?」
「いや、俺は女としてみられるの辛かったから、どのくらいそうしていいのかとか分からなくて」
「僕も昔は女としてみられたり扱われたりするのは嫌だったよ」
「そうだったんだ」
「でも、女の身体でいなきゃいけないって分かってから女の身体は楽しむことを覚えたんだ」
「どんな風に?」
「女と付き合う時はネコをやるとか。ってよりタチの人とばかり付き合ったりね。男と付き合う時は相手によっては女として付き合うし、FTMとして付き合うにしても膣でするとかね」
「男とは俺としたみたいにか。ずっとネコだったの?」
「女として生きるって腹をくくってからだよ。それまでは彼氏としてタチをやってたし触らせなかった。でも、どうせ男になれないならって開き直って当時の彼女に触らせたら『こっちの方が好きかも』って思ってね」
「なるほどね」
「ビアンに混じってネコよりのリバとか完全にネコとかって言うことにして気持ちよくなれる事をずっと最優先してきたんだ」
そう言って千尋は自分の割れ目を人差し指でなぞる。
晴翔はその動作に思わずつばを飲み込んだ。
「晴翔くんはどうしてたの? 股間手術する前と胸を取る前とホルモン治療する前で違う?」
「俺は一緒かな。女相手はタチしかしなかったし、男相手は膣でしてた」
「男には膣に挿れさせたけど、女にそうしなかったのはどうして? 触りたがる女の子、結構多いでしょ」
「男相手でも膣を使いたくないのが本音だよ。そうしないのは尻でするのが面倒だからだし、膣があるなら膣でしたがるからね。ゲイでもそういう奴は結構いた。俺の方も使えるものは使うってスタンスかな」
「僕は自分がどっちも行けるって知ったのは身体のこと知ってヤケになった時に男としたのがきっかけだから尻っていう選択肢は無かったけど、そんな感じなんだね」
「だからかな、元彼に俺が挿入できないってなって尻に挿入された時はようやく本当に男になれたって思ったよ。膣って選択肢がないってのがね」
「そうかぁ。僕は尻でしたいとは思えないかな」
「俺と付き合うなら尻は俺の身体の都合で無理だから安心して」
「そっか」
「ところでさ、一つ聞いていい?」
晴翔は一度、千尋の股間に目を向けてから言った。
「千尋くん、ネコやってたけど中イキの経験なかったんだよね。男とするのでイけないのは男はすぐ射精しちゃうから分かるけど、女としてもなのはどうして?」
晴翔は千尋の性の遍歴を聞いて自然に湧いた疑問を投げかけた。
「すぐ射精しちゃうは言い過ぎじゃない? いや、女基準ならほとんどの男は早漏ってのは分かるけど」
千尋は笑いながら言った。
「晴翔くんはビアンとして女と付き合った経験ある?」
「ない。FTMである事は言ってた」
「それなら分からないか。挿入を嫌うビアンって結構多いんだよ。嫌わないまでもクリでイカせたがる子が多い」
「そうなの?」
「うん。男を嫌ってるビアンだと挿入という行為が男の模倣とか自分たちを男より下に置く行為として嫌うし、そういう空気のせいかクンニとかクリを指で刺激するのが多いね。あと、挿入に抵抗無くても僕も膣が開発されてなかったから感じさせるのは膣でイかせるのはクリって流れになることも多かったかな」
「そんなのがあるんだ」
「ゲイとは縁がないけど、結構ビアンのそういうところは僕の感覚からすると面倒だね」
「似たようなのはゲイでもあるみたいだよ」
「そうなんだね。まぁ、不完全とはいえ身体が女で心は男、セックスは女って立場からすると行為にそんなこだわりを持つのは分からないかな」
「俺も出来る事が限られるから選んでられないからそういうのは無いかな」
「って事だから、晴翔くんも僕にしたいことがあるなら遠慮なくやってね。あんまり特殊な事は事前に言ってほしいけど」
「わかった。そういう理由で今日始めて中イキだって分かった。俺は今のところ遅漏だから中イキが気に入ったら期待していいよ。勃起も射精もないからイケるようになっても千尋くんがイクまで続けるからね」
「多分、腰に力が入る無くなると思うよ」
「それもそうか」
千尋は何か言いたげな意味深な表情で晴翔の目を見た。
晴翔は千尋の胸や股間に気を取られていた所に視線を向けられて慌てて千尋の顔を見る。
「ところで、晴翔くん、ムラムラしてる?」
「えっ?」
「僕の身体をチラチラ見てるから。いや、僕が胸見せたり割れ目なぞって見せたりしてるせいだとは思うんだけど。それ狙ってたし」
「そう、だね」
晴翔は気まずそうに言った。
「晴翔くんも女だったんだから分かるでしょ。相手がイッて自分は気持ちよくなるだけなってるのにイけないのはムラムラするよね」
「俺は慣れてるから」
「晴翔くんのちんちん、まだあんまり感覚が発達してないんでしょ?」
「そうだね。俺のちんちん、大きさが変わらないのによくわかったね」
「顔を見てたら分かるし、イけない側の気持ちはよくわかるよ。晴翔くんって手ではイケるの?」
「え、ああ、オナニーはするからね」
「それなら、手コキさせてよ」
「え? いや、いいよ」
「嫌なの? ここは晴翔くんのちんちんは見た目に状態が現れないから正直に言ってほしいんだけど」
「嫌じゃない。でも恥ずかしい」
「人の大事な所に挿れておいて?」
「意地悪だなぁ。正直、さっきの挿入でずっとムラムラしっぱなし。千尋くんの裸がすぐ目の前にあるし」
「それならさせてよ。僕も今までこんなにちんちんを堪能できる事、今まで無かったし」
「うん。じゃあ、お願い」
「任せて。あ、でも手コキの仕方ってその、天然のちんちんと一緒でいいの?」
「いや、根本を刺激して欲しい。このあたり」
そう言って晴翔は自分のペニスの根本から少しだけ上の方を指で挟んだ。
「ここが一番感じるの?」
「俺のちんちんは男性ホルモンで大きくしたクリに腕の皮膚で作った筒をつなげて大きくしたものだからね。このあたりはクリだった場所だから上の方よりずっと敏感なんだ」
「なるほどね。力加減とかは適宜言ってね」
「わかった」
「彼氏としての初仕事だね。うれしい」
そう言って千尋は恍惚として表情を浮かべた。膣の中にオーガズムの感覚が強く残っているため興奮したままだったのだ。
うっとりした様子で千尋は晴翔のペニスの根本を握り上下に動かしていく。
「どう?」
「感じるよ。男性ホルモンを打ってから性感帯は女の頃より鈍ってるから強めに刺激してくれると嬉しい」
「その辺は男とセックスをしてるからその基準でいいのかな?」
「そうだね」
千尋は晴翔を見つめながら時々股間を見て手もとの位置や姿勢を調節しながらしごいていく。
「あぁ。気持ちいい」
「本当?」
「うん」
「元彼とどっちが手コキ上手?」
「元彼は尻に挿れるばっかりで手コキしてくれなかったから」
「そうなんだ。じゃあ、今彼は楽しんでするから安心してね」
千尋は笑顔で言う。
晴翔は静かによがりながら千尋を見つめていた。
さっきまで自分のペニスでよがって初めての膣でのオーガズムを経験してくれた付き合いたての新しい彼氏だ。
その彼氏は全裸で自分のペニスをしごいてくれている。これまで経験した手コキとは晴翔の人工ペニスでは事情が違うのでやりづらさを感じているだろう。
でも、楽しそうに千尋はしごいてくれる。
そして、その千尋は今、全裸で自分の横にいる。彼氏ではあるが身体的には女性。胸や腰回りは控えめだがそれ故に可愛らしい印象を受ける。
晴翔は千尋の女体に興奮を覚えていた。千尋はセックスでは女扱いして欲しいと言ったがFTMである千尋にこんな形の性的な眼差しを向けていいのかは躊躇がある。
だが、そんな千尋の身体にエッチな気分になるのは事実だ。
そして、今、男の性癖で分からなかったものが理解出来た。
男の中には「女にちんちんがないという事実」に興奮する人がいるという話は聞く。
人工的に作ったものでその正体がクリトリスと腕の皮膚だとしてもちんちんをいじられている状態で千尋のちんちんの無い股間を見ると懐かしさと同時に興奮が増していった。
つい一年と少し前には自分にもちんちんが無かった。
今こうしてちんちんを持って女の身体を見ると興奮する。手術前とは違う視点で女の身体を見ている。
ちんちんの根本に感じる感覚が強くなる。
いつもオナニーで経験している合図だ。感覚の質は変わってもこれは子供の頃にオナニーを初めた頃と変わらない。
「くっ……!」
晴翔は息を飲んだ。
千尋はその様子に気がつくと目を見開いた。
「イッた?」
「うん……」
千尋は晴翔のペニスから手を離した。
「はぁ……はぁ……」
晴翔は走った後のように呼吸を荒くする。
千尋はそんな晴翔の様子をじっと見ていた。
晴翔のペニスの先端からは同じペースでガマン汁が少しずつ出ていたがそれ以外に弄り始めてからオーガズムを迎えた今まで何かしらの変化があったわけではない。
話には聞いていたが、陰茎形成術を受けるかどうかに関わらず性別適合手術を受けたFTMは性的興奮やオーガズムで身体に起こる現象は何もなくなると聞く。
晴翔は愛液の出る腺を尿道に繋いだから愛液がガマン汁としてペニスから出るのでその点は違う。
だが、膣がなくなり他のFTMは股間が濡れなくなる。晴翔もそうだろうが膣の痙攣がその部分がなくなるのだから起こらなくなったのだろう。
そして、千尋がこれまで交際した男性のペニスで起きたことが晴翔のペニスでは起こらなかった。
射精もそうだが射精の直前にペニスがドクドクと脈打つ感覚も無かっった。それは精子をペニスが外に送り出すための動作だから当たり前なのだが。
自分の側に相手がイッた実感が無いのは少し寂しいなとも思った。
そして、愛液を出す仕組みを温存する術式を選んだ晴翔の判断は千尋にとっても有り難かった。彼氏が気持ちよくなっている事をこちらが知ることが出来るからだ。
「誰かにイかせてもらうなんて初めてだよ」
「お互い初めてイッた日になったね。僕の場合はあくまで中イキに限るけど」
「なんか満たされた気持ちだな。千尋くんにイかせてもらえて」
「僕の事、好きになれそう?」
「もう好きになってたかも」
「えっ?」
「セックスの初めで千尋くんがすごく可愛く見えたんだ。あの時、好きになってたと思う。あ、でも、可愛いって言われるのはどうかな?」
「嬉しいよ。僕が恋愛で相手に見てもらうの上で目指すのは可愛いだと思うから。その辺はやっぱり女なんだよね」
「そうか」
「変だよね。僕らFTMなのに、晴翔くんはXX染色体で生理も経験してるけど今はちんちんがある。これからセックスでするのは男の役割」
「そうだね」
「でも、僕は女の役割だけど、お腹の中にはキンタマがあって、染色体はXY。でもちんちんはない。まぁ、子宮もないんだけど」
「確かに不思議かもしれない」
「これからお互い色々試行錯誤していこうね。今日は手コキでイッてもらったけどいずれは僕の膣でイッて欲しいから晴翔くんとうまくセックスできるようになりたいからね」
「俺も千尋くんと一緒に気持ちよくなれるようにしていきたい」
晴翔は千尋の笑顔がやはり可愛く思えて照れていた。
「恋人だからしていいからね」
そう言って千尋は晴翔に抱きつきやさしくキスをした。
そんな千尋の一連の振る舞いがとても格好良く見えた。身体の見た目のせいで女の子として見てしまっていたがその動作は格好いい男のそれだった。
「疲れたね」
千尋は少々眠たそうな顔をして言う。
「お互いがイクまでしたからね」
「そろそろ寝ようか? 裸で抱き合う?」
「パンツだけは履かせて欲しい。一応、性に奔放な男と別れたばかりの身だから。俺も近々検査受けるからそれまでは無防備になるのは控えたい」
「分かった」
そう言って晴翔はちんちんを最初に見せた時に脱いだトランクスを履いた。
「僕はこのままでいいかな。寝てる時にまんこ触りたくなったら触っていいからね」
「多分、そんな気持ちは収まったよ」
「晴翔くん、賢者タイムあるの?」
「ならないな。射精しないとか前立腺ないとかが関係あるのかな。でも、体力使ったから」
「疲れてると収まるよね」
「そう」
「でも僕はイッてから君にもっと触れれたい。その辺は女だから今日はいいけど、うまくやれるようにしていこうね」
「わかったよ」
それからは千尋のエスコートで晴翔はベッドに横になり、千尋は晴翔に抱きつく形で眠るまで他愛のない話をした。
これからどんな関係性を築いていくのかは見えないが、晴翔は新しい恋人が男性と女性、どちらの振る舞いをしていくのか、それにどう接していくのかは楽しみに思えた。
「最近、一緒に来るようになったけど、他にも面白い店でも見つけたの?」
まだ他の客が来ていない空いた店の中でこのところずっとそうなのと同じように一緒に来店した晴翔と千尋にマスターは訪ねた。
以前はこの店を待ち合わせ場所にしたり、偶然会ったりしていたが最近は一緒に来るようになったのだ。
マスターとしては二軒目以降での利用も歓迎だが、どこかいい店があるならアンテナを張っておきたいから聞いておこうと思ったのだ。
「一軒目ですよ。駅で待ち合わせてが多いですかね。今日は晴翔の家から来たところです」
千尋は「ねぇ?」と晴翔に同意を求めつつ言った。
その言葉にマスターは二人の様子が以前とは違う事に気がついた。
以前はお互いにくん付けで呼んでいたが、今、千尋は晴翔を呼び捨てで呼んでいる。
一緒の趣味でも見つけるなりして相当に親しくなったのだろうと思った。
「千尋くん、晴翔くんを呼び捨てになったんだね」
「晴翔もですよ」
「そうなの? ふーん。気が合ったようで何より。境遇の似てる友達って距離を詰めるの大変だしね」
そう言ってマスターは二人の注文した酒を出す。
「それなんですけど、先々週から俺達、付き合ってるんですよ」
「えっ!?」
「昨日、千尋がうちに泊まったんで今日は一緒に家から来たんですよね」
「君等が? それは意外だな。えっと、お互いに彼氏って事でいいのかい?」
「そうですね。基本的には」
「そうか。いや、FTM同士のカップルって俺の知ってる範囲ではいないからびっくりしたよ。ごめん、失礼だよね」
マスターは相当に驚いた様子だった。
「いえ、僕らも聞きませんし。いるんでしょうけど」
「俺も噂で聞いたくらいで実際に会ったことはないですね」
マスターは晴翔と千尋を交互に見た。
「そうか。じゃあ、二人はよく来てくれるし、今日は一杯ずつ奢らせてもらおうかな」
「やった!」
「ありがとうございます」
二人の交際報告が一段落した頃、ドアが開く音がした。
「いらっしゃい」
「こんばんはー」
入ってきたのは二人の友人の陽菜だった。
「隣いいかな?」
「どうぞ」
そう言って陽菜は千尋の隣に座る。
「ハル、久しぶりだね」
「最近、仕事が続いてたし、彼女と旅行に行ってたからね」
「旅行? 海外?」
「国内だよ。温泉」
陽菜の言葉に晴翔と千尋は目を見合わせた。
「温泉って……」
「ああ。女風呂に入ったよ。せっかく行くんだから大きい風呂に入りたいし、彼氏が彼女と一緒に入れるのは僕みたいな人間の特権だからね」
陽菜がそう言うと千尋は納得したような顔をし、晴翔は驚いた顔をした。
千尋も陽菜も女性の身体である事を受け入れ女として生活しているFTMだが、高校の修学旅行が苦痛でたまらなくてつい最近、元彼と行くまで公衆浴場に足を踏み入れなかった晴翔からすれば想像外の事だったからだ。
そして自分の彼氏である千尋もそれを理解している事にも。
「まぁ、女の子の身体を好きなだけ見れるの目の保養だったしね」
陽菜は冗談めかして言う。
「ハル、冗談でも人前でそう言うのは言うな」
マスターは陽菜の発言を咎めた。
FTMには偏見もまだまだ多い。陽菜の発言はその偏見を助長する恐れがあるからだ。
マスター自身も女性時代に公衆浴場や更衣室で周囲の女性に興奮した覚えはあるので一定の共感はしているがだからこそ咎める必要があると感じたし、店という場を守るためでもある。
「ねぇ、ハル。僕達、報告する事があるんだ」
「え、僕達? 千尋と晴翔?」
「そう」
「何? なんかいい事?」
陽菜は身を乗り出して言う。
「僕達、付き合ってるんだ。ちょうど二週間前から」
「えっ!?」
陽菜は千尋の言葉に目を見開いた。
「おめでとう! へぇ。FTM同士は珍しい。君たちで二組目かな。でも、びっくりしたよ」
マスターは陽菜の言葉に驚いてその内情が気になったが流石に人のプライバシーを詮索するべきではないので無反応を貫いた。
陽菜はマスターに酒を二人のために注文し奢りだと宣言をして乾杯をした。
和やかに会話が進んだ。
「ところでさ、あっちの方はどうしてるの?」
「あっちって?」
陽菜は二人の顔を覗きこんで言い、千尋は大っぴらに言葉にするわけも行かずそれに返答する質問を自分の股間に視線を送り手を置くことで示した。
「それ」
「俺は付いてるし、千尋は女のままだから想像通りだよ」
「そうなんだ! 僕の知ってるFTMカップルは女同士のやり方をしてるそうだよ」
「ハル!」
はしゃぎ気味に言う陽菜を若干強めの口調でマスターは咎める。
「マスター、俺等は大丈夫ですから」
「ならいい。でも、ここにいない人の話はやめておけ」
「ごめんなさい……」
陽菜は縮こまった。
「まぁ、とにかくよかったね。改めて二人の幸せに乾杯」
そう言って陽菜はグラスを二人に向け、晴翔と千尋は乾杯に応じる。そしてそこにマスターも加わる。
「そのうち、うちの彼女も誘ってダブルデートとかしたいね」
「それいいね」
「彼女さん、いいの?」
「個人的に会うなら大丈夫だよ。ここに来ないのは僕が彼女意外と過ごす場所を奪いたくないからだそうだし」
「ハルの彼女さんいい人だから仲良くなれると思うよ」
「千尋、会ったことあるの?」
「うん。それこそハルの家の近くの居酒屋で飲んだりした事が何度かある」
「へぇ」
「でも四人で会ったらすごいね。彼氏彼女のカップルと彼氏彼氏のカップルなのに全員身体は女なんだからね」
「確かにめったにない状態だね」
「あ、でも、僕はXYでキンタマあるから」
「そういえば。まぁ、でも身体の機能と見た目は完全に女でしょ? ねぇ、晴翔?」
「え? あ、ああ。まぁ、そうだな」
晴翔は気まずそうに同意する。陽菜の言葉が「セックスで見てるでしょ」という意味だと理解したからだ。
「でも、僕だけ生理を経験してないし」
「そこは羨ましいな」
「良くないことも色々あるから」
「そっか」
陽菜は二人をまじまじと見て満足そうな顔をしている。
「二人ともお似合いだね。よかったね、晴翔」
「えっ?」
「千尋は恋人を大事にする人だから大丈夫だよ」
「ハル……」
晴翔と千尋はそれぞれ照れた顔をする。
「自分で言うのもあれだけど、安心していいからね、晴翔」
千尋は晴翔の手をこっそり握りながら言った。
「うん」
晴翔は嬉しそうに顔を赤らめた。
「偶然とは言え、キューピットになれてよかったよ」
陽菜は笑顔で言う。
こうして友人に言われると照れくさいが晴翔と千尋はお互いの事を愛おしく思えた。
そして、晴翔はペニスの根本がムズムズして、千尋は小陰唇の内側が生暖かく濡れるのを感じた。
この店の次にどこのラブホテルに行くかをお互いに考えながら友人と馴染みの店の祝福を今は楽しむ事にした。