※この作品はR-18です。

語り奴婢夜話──千一夜奇談   作:ドン・ドナシアン

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 扉の軋む音に、サラの心臓が跳ねた。
 もう慣れているはずの足音。それでも、その足音が絨毯を踏むたび、喉の奥が凍える。
 サラは寝台の脇に膝を揃え、顔を伏せたまま待っていた。
 いつものように、扉の前で女兵たちが下がる気配。
 やがて、ただひとり──エスクラウディオの影が室内に入る。

「顔を上げよ」

 静かに告げられた命令に従い、サラはゆっくりと顔を上げる。
 目の前には昨夜と同じ。皇帝の座す姿に、声も出ぬほどの威圧を感じる。

「昨夜は、かなり激しかったと思うが──。一度くらいでは、淫紋の疼きは収まるまい?」

 唇が皮肉に歪む。
 サラは、うなじに汗がにじむのを感じながら、深く頭を下げた。

「……昨夜は、お慈悲に感謝いたします……。今夜も……語らせていただけますのならば……」

 声はか細く、それでも確かだった。

「ならば、今宵も椅子へ──。語りのためではなく、嬲りのためにな」

 言葉に込められた嗜虐の色にサラの喉がひくりと震えた。
 女奴婢が昨夜に使われた嬲り殺の椅子をサラの前に置く。
 抗うすべはない。ゆっくりと、その恥辱の椅子へと進む。
 裂け目から素肌を晒しながら、腰を下ろすと、背筋を伸ばして正座のように脚を揃えた。

「……第十夜……サラは、語り奴婢として、語りを務めさせていただきます……」

 震える声が広間の闇に吸い込まれていく。





 10話 女漁師と鬼神(2)

「……ああ……あやぁ……ああっ」

 

 背中に浜辺の砂が張りつき、潮風が髪を撫でる。

 ライラは、イフリートに覆い被され、片脚を大きく抱えられて腰は宙に浮いている。イフリートの巨根はしっかりとライラの胎内に入りこみ、ゆっくりとした律動を続けていた。

 

「ふははは、お前の快感が大きくなっているのを感じるぞ、ライラ。それにだんだんとわかってきた。ここだな……。そして、ここも感じるだろう?」

 

 イフリートは律動の角度や勢いを巧みに変化させながら、的確にライラの感じる場所を責めてくる。

 足の指先が波に触れ、膣の奥を抉る熱が背に伝わった。

 イフリートの巨根がライラの女の穴を出入りするごとに、背骨が痺れるように熱を帯びる。

 

「んああ……ああ、いやああ……」

 

 イフリートがライラの乳房を荒く揉み、尖った先を舌が啜る。

 膣の奥が、熱い芯に擦られるたびに粘りが溢れていく。

 ライラは、歯を喰いしばり、込みあがる快感を制御しようともがく。

 

「ああ──だが、随分と締めつけおるわ。三百年ぶりの女体との交合がかくも甘美であったとは、忘れておったわ」

 

 イフリートがライラの上で腰を動かしながら、愉しそうに笑う。

 だが、このイフリートとの姓合で絶頂を喰われれば、そのときが最後なのだ。身体はイフリート肉物として喰われて殺される。殺されないためには、イフリートに先に極めさせるしかない。イフリートは女の絶頂を啜って腹に溜め込むが、反対に、自分が精を放てば、力を吐き出してしまうらしい。そのための、力を戻すために器──つまりは、瓶に戻る。

 ライラが死なないためには、なんとしても、先にイフリートに絶頂を出させるのだ──。

 

「ああ、ああっ、気持ちいい──」

 

 でも、イフリートの大きな男根に抉られると、それだけで気が遠くなるような快感があった。

 油断すれば、そのままこの甘美感に溺れそうだ。

 そして、溺れてしまいたいというライラがいる。

 でも、絶頂すれば、殺される。

 ライラは歯を喰いしばる。

 

「お前の芯は甘いのう──」

 

 イフリートの低い吐息が耳を撫でた。

 舌が首筋に触れ、潮の匂いと混ざる。

 

「うわあっ、か、簡単に……やられるものかよ──」

 

 ライラはイフリートの背中に腕を回し、両脚で腰を抱いて、必死に膣を絞った。これでも、浜の漁師を相手に、幾度も精を絞ってやった。膣の中の肉を締めつけ、イフリートの男根の根元部分から中央部分、そして、先端部分にと力の締め付けを順番に与えていく。

 

「くあっ、な、なんと、膣で鬼神を搾るのか──。面白え女だのう──」

 

「三段締めだよ──。しっかりと味わいな──」

 

 脚を絡め、奥を締める。とにかく、締める──。締めつける──。

 イフリートの腰がわずかに震え、粘つく音が波音に混じった。

 

「ふはははは──。それほどに締めつけるな──。ますます腹が膨れるではないか──」

 

「膨れた分は吐きな──。あたしの中でね──」

 

「鬼神に勝とうとは、千年早いわ──。安心して喰われるがよい」

 

 イフリートの男根の律動が速さを増す。

 そして、乳房を押しつぶす手が荒く動く。

 舌が先端を啜り、声が喉で揺れた。

 

「んはあああっ、き、気持ちいい──」

 

 ライラはイフリートにしがみつきながら全身を突っ張らせた。

 快感の槍が股間から脳天に向かって迸る。

 

「芯まで泣き声を寄越せ。全部、腹に収めてやる」

 

「……いやああ……いやああああ……あああああ」

 

 波が足を撫で、夜気が汗を冷やした。

 ライラはとにかく、脚を絡めて奥に貫かれている肉芯を必死に搾り上げた。

 膣の内側が収縮し、イフリートの昂ぶりを擦り立てる。

 

「くっ、くああっ、おおっ、おっ」

 

 イフリートの吐息が微かに変わった。

 いままで余裕を湛えていた鬼神の眼が、わずかに細められる。

 

 ……この化け物も、感じている……。

 

 鬼神の胴に爪を立て、腰の奥まで締めつける。

 腹の底から熱が逆流してくるのがわかる。

 

「……ふ……ふはは、人間の女風情が……」

 

 イフリートの喉奥が鳴った。

 律動はさらに荒くなる。

 だが、ライラは息を乱しながらも、わずかに笑みを浮かべた。

 

 波音が一際高く響いた。

 ライラは腰を起こし、さらに鬼神の背に絡みつく。

 女漁師として鍛えた脚で、鬼神の腰を絞めあげる。

 膣の奥をさらに搾り、吐き気を催すほどの快感を自分に叩き込む。

 意識が白く滲む寸前で、まだ吐かせる。

 

「……どうしたんだい……? イフリート……あたしの絶頂が欲しいんだろう──? もっと激しく動いてみな──」

 

 わざと挑発してやる。

 

「ほ、ほざくな」

 

 いつの間にか、イフリートから余裕のようなものがなくなっている。

 鬼神の巨根が僅かに震え、睾丸が奥を叩くたびに震動が伝わる。

 イフリートの唸り声が、もはや笑いではなくなっていた。

 

「……三百年……女など……啜らんでも……生きてこれたものを……」

 

 声の端が僅かに滲む。

 ライラは爪を立て、さらに締める。

 余裕はない。

 イフリートの巨根が子宮を抉り続ける。快感が連続で襲う……。

 

「……吐てえ──。……あ、あたしの中で……吐いてええ……」

 

「おっ、おおっ、──お、お前が先だ……お前が先にいい──」

 

 喉の奥に声が絡んだ。

 もう、イフリートの腰は無様に震えていた。

 膣の奥が芯を絞り、吐息と一緒に鬼神の熱が滲み出る。

 爪先が波に沈み、砂に足跡を残す。

 

「……あ、あたしの中でいってええ──」

 

 脚を解かず、ライラは自らの奥を鬼神の芯に合わせて締め上げた。

 熱が抉れ、睾丸が最後の一度を叩く。

 鬼神の吠え声が、夜気を裂く。

 どっちが先に達するか──。

 もう、お互いにぎりぎりのところにいる。

 ライラにはそれがわかった。

 

「いぐうううっ」

 

 ライラはイフリートの身体を力いっぱいに抱きしめ、腰をぶるぶると震わせて、全身を突っ張らせた。

 もっとも、これは演技だ。

 まだ、ほんの少しだけ余裕があったが、ライラはあえて、それを残したまま、自分が達した仕草をする。

 

「くはあっ、お、俺の勝ちだああ──」

 

 ライラが先に達したと思い込んだ、イフリートがライラの中で精を暴発させた。

 熱い脈打ちが膣の奥に溢れ、ライラの芯を僅かに灼く。

 

 勝った──。

 

 ライラは、まだ微かに意識が残っているうちに、頭の横に転がっていた瓶に手を伸ばす。

 イフリートが封じられていた、古い魔神の器──。

 

「こんなもの、砕けちまいな──」

 

 小さく息を吐き、腕を振り抜く。

 瓶は岩に叩きつけられ、鈍い音と共に砕け散った。

 潮風が髪を撫で、膣の奥から溢れた熱が波に流れた。

 ライラは砂に沈む背を支え、荒く笑った。

 

「うわあああ、まにをするかああ──。俺の器があああ」

 

 イフリートが絶叫して、ライラの上からどく。

 勢いよく、男根を抜かれ、ライラはそれだけで軽く達してしまった。

 

「た、足らん──。足らん──、ああ、消えてしまう。俺が消えてしまう──。うわあああっ」

 

 ライラは、まだ微かに痙攣している膣奥に、鬼神の残り火のような熱を感じながら、荒い息を吐いた。

 

 瓶は砕けた。

 魔神は吐いた。

 勝った。

 そう、思った……その瞬間だった。

 

「……あ……ああ……あああ……っ」

 

 イフリートの呻きが、砂を焼くような熱を含んで響いた。

 地響きのような音が夜の浜に這い、ライラはとっさに身を引こうとしたが、足に力が入らない。

 波打ち際に立ち尽くすイフリートの身体から、黒い霧がわずかずつ漏れ始めていた。

 

「器が……ない……俺の……器が──。なんという女だ──。なんという──。俺の器を毀してしまいおった──」

 

 そして、怒りに染まった赤い瞳がライラを射抜く。

 

「へっ、ざまあ、ないね。あたしを殺そうとした仕返しだよ」

 

 ライラはまだ脱力した身体のまま仰向けに寝そべり、イフリートに向かって鼻を鳴らす。

 

「貴様……貴様あああっ」

 

 巨体が震え、周囲の空気がびりびりと揺れた。

 イフリートの掌が、燃えかけの炭のように再び赤く脈動する。

 そして、その掌を殺意そのままに振り上げた。

 

「うわっ」

 

 さすがにライラは恐怖で身体が竦んだ。

 

「殺してやる……女めええっ」

 

「ま、待ちな──。話せばわかるよ──。ちょっと、お待ち──」

 

 ライラは思わず、目を閉じた。

 だが──その掌は、振り下ろされなかった。

 

「……いや……違う……違う……」

 

 低く唸るような声……。

 怒りと、混乱と、焦燥と……恐怖すら混じった気配だ。

 

「へっ?」

 

 ライラはおそるおそる眼を開ける、

 イフリートの顔には、明らかな恐怖の色が浮かんでいた。

 

「……違う、違う……。殺せば……淫気は……もう得られん……。このままでは……霧散する……力が……抜けていく……」

 

 イフリートががくりと膝をついた。

 その背を、夜風がかすめていく。

 

「ちくしょう……っ、少しは……喰ったというのに……」

 

 彼の足元から、力の象徴であった黒煙が、少しずつ砂に吸い込まれていく。

 夜空に拡がる星が、皮肉なほどに澄んでいた。

 

「……女よ……」

 

 イフリートは、改めてライラを見据えた。

 その眼には、もはや怒りだけでなく、なにか別の執念が宿っていた。

 

「殺してやるつもりだった。……だが、殺せば……終わる。霊気を得る術を、永久に失う……。ならば、お前に器になってもらう……」

 

 彼の巨体が、ぐらりと揺れた。

 次の言葉は、嗄れた声だった。

 

「器──? お前、なに、言ってんの?」

 

「……ならば──生かして喰らい続けるしかない……。お前の女の芯に……封じられ生きながら飼われるしか……。仕方がない。お前に封じられてやろう。いま、ここにあるのは、お前の壺だけだ。お前、俺の新しい壺になれ──」

 

「……え……? 壺って、お前、なに、とち狂ったようなことを……」

 

 ライラは息を呑んだ。

 何かが、自分の腹の奥を冷たく這った気がした。

 

「そうだ……いまの、お前の胎内……そこならば……しばらくは保てる……。淫気を喰えば……霊気の渦の底で……留まっていられる……」

 

 イフリートの身体が崩れ、灰のように融けかけながら、膝をついて近づいてくる。

 

「はああ──。嫌だ──。ちょっと、お待ちよ──」

 

 声を上げたときには、もう遅かった。

 イフリートの掌が、ライラの下腹をぴたりと押さえる。

 

「待てるかあ──。ここで器に入らなければ、俺は死んでしまう」

 

「うわあああああ」

 

 ライラは叫んだ。

 イフリートが煙になり、ライラの女陰の中に入り込んでいったのだ。

 そのまま、黒煙がライラの下腹に吸い込まれていく。

 焼けるような熱と痺れが子宮の奥を駆け抜けて意識が遠のいていく。

 断末魔のような、だが悦びにも似たイフリートの笑いが、胎内から響いた。

 

「貴様の胎が……俺の封印……淫器となったのだ……。いや、これはこれで、なかなか居心地がよい。仲良くしようぞ」

 

 下腹部の中からイフリートの声と高笑いが響いた。

 膣の奥で、何かが脈打っていた。

 ライラは、身を捩って叫びたかった。

 だが、声は喉に張りつき、指一本動かせなかった。

 

 ただ──確かにわかった。

 

 自分の中に、鬼神が棲みついた。

 それは、逃れられぬ呪いだった。

 

 冗談じゃない──。冗談じゃない──。

 なんで、こんなことに──。

 

 浜に風が戻ってきた。

 ライラの胎内で、霊気の封が閉ざされた音は、誰にも聞こえなかった。







 香が尽き、語りは終わった。
 室内には潮騒の幻聴が残るような静寂が満ちていた。
 エスクラウディオは肘掛けに身を預け、しばし黙していたが、やがて口を開く。

「……なるほど、女漁師が鬼神を孕むとはな──。奇妙で、そして愉しい話だ」

 サラは、汗ばむ髪を頬に貼りつかせながら、膝を揃える。
 けれども、疼きは止まらず、椅子の構造がそれを露わにする。

「……しかしながら、この物語には続きがございます」

 息をつくような声だった。

「ほう、続きか……」

「はい……。その後に起こりましたことは、もっと不思議な物語でございました」

「なるほどな。それは是非、訊かせてもらねばな」

「ありがとうございます」

「ふむ……」

 だが、エスクラウディオの眼差しは、語りよりも、その姿のままのサラに注がれていた。

「サラ。お前はなぜ、毎夜の語りに、あれほど心を込める?」

「……それは、わたしが……語り奴婢であるからです……」

 淡く、それだけを告げる。
 だが、皇帝は立ちあがり、ゆっくりと歩み寄った。サラの前で立ち止まると、ふいに指先でサラの顎をすくい、顔を上げさせる。

「ならば、語りの褒美をやろう。いま夜は嬲りではなく……お前に快楽を与えるとしよう。選べ、舌か、股か──」

 サラの喉がつまる。
 その問いの意味は、すでに何度も思い知らされていた。

「……お望みのままに……」

 唇から、ひとすじの喘ぎが洩れる。

「その言葉は、好かんな……。まるで、私だけがお前に執着をしているようだ」

 エスクラウディオが不機嫌そうに言った。そして、部屋の隅に経つ女奴婢に合図をする。

「この語り奴婢の股に媚薬を塗ったうえに、革帯で封印せよ。明日の夜には、望みなどないなどとくだらぬことが言えぬようにな」

 エスクラウディオが奴婢たちに伝える。
 サラは、皇帝の怒りを感じるとともに、自分が答えを間違えたということを悟った。
 奴婢たちがサラに集まる。
 語り奴婢の夜は、まだ終わらない。
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