「お前を見晴らせている下女どもの報告によると、眠れておらぬそうだな。食事も喉を通らぬと聞いた。淫紋の疼きに人の女が耐えられるわけがない。だが──そなたはもう十日以上も耐えておる。そんなに、妹が大切か?」
サラは答えなかった。
首を垂れ、膝の上で組んだ指先に力をこめる。
ただ、その声音の裏に、微かに揺らぐものがあった。それを、彼の声の調子で悟った。
「……思い出すな……。かつて、私にも、似たような夜があった」
語るべきではないことを語りはじめる皇帝の気配に胸がざわつく。サラは視線を伏せたまま、ただその声を聞いていた。
「……十一の年。まだ声も割れぬ頃だ。私は、隣国アヴェルノの宮廷に人質として送られていた……」
淡々と紡がれる言葉。
だがそこには、滲むような痛みがあった。
サラはその記憶の重さに触れてしまった気がして、息を詰める。
「……女の装束を着せられ、香を焚かれ、髪に金粉を振られ、毎夜、王子たちの部屋に呼ばれた。ある夜、男根に媚薬を塗られたことがあった。──触れてはならぬ。呻いても、歯を鳴らしてもならぬ。ただ、耐えよと。言い付けはそれだけだった」
杯の鳴る微かな音が静寂に混じる。その音がいっそう言葉の冷たさを際立たせた。
「……苦しかった。手足を縛られて放置された。王子たちが食事をするあいだ、その食事の並ぶ卓に縛りつけられたのだ。男根を露出させられてな……。疼きに焼かれながら、誰にも触れられず、嘲笑われた。ただ脈打つ熱に身を晒す。食事が終わってもそのまま。王子たちは茶を飲みながら、私が苦しむのを嗤い続けた……。私は耐えた。いや──耐えたつもりだった」
サラはその場から逃れたかった。
だが、香の煙に絡めとられたように、膝は震えなかった。
「だが、結局、数刻と経たぬうちに音をあげた。『どうか、触れてくれ』と、唇が勝手に震えた。王子たちは笑っていた。あれは──あれは、敗北だったな……。魂を折られるとは、ああいうことを言うのだろう。だが、その恥辱が私の牙になった。王になり、隣国を滅ぼしたとき、私は同じ目に……いや、それ以上の辱めを与えてやった……」
沈黙が、わずかに落ちる。
「……だからだ、サラ。私はそなたが、なぜか気になる……。巫女としての矜持か。妹への愛か知らぬが、なぜ耐えられるわけのないものを耐えられるのだ? 淫紋を焼かれ、嬲られながらも、なおも語り、悦びに堕ちることを拒む姿……。それが、目障りでならない。まるで、あのときの私を嗤っているかのようだ」
サラは思わず身を固くする。逃れられぬ眼差しが、自分を見据えていた。
「私は、見たいのだ。そなたが音をあげるところを。妹の命のためだと、己に言い聞かせながら、それでも、身体が理性を裏切って、呻く姿を。……なぜだと思う?」
問いかけられても、言葉など出るはずがなかった。
ただ、脈打つ心の音が胸の奥で響いていた。
「──おそらく、私はまだ、あの夜の自分に負けたままなのだ。だから、見たい。私の代わりに、誰かが堕ちてゆくところを。恥を晒し、快楽に抗えず、己を許すその瞬間を……」
銀の杯が、机の上にそっと置かれる音がした。
「ふっ、なぜかな。お前を見ていると、決して語らぬものを語りたくなる……。お前も語れ。サラ。お前の声で快楽を呼び、淫紋を熱くさせよ。──そして、哀願するがいい。かつての私がそうしたように」
「……今宵も、語りを……。第五夜にございます……」
サラは口を開いた。
下女がサラの隣に置かれている香炉の香に火を灯した。
“……あの夜のことは、いまでも、はっきり覚えています。
姉さまと妹さまが、四度目の律を破った、あの月のない夜のことでございました……。
いくらなんでも、あれは、やりすぎでした……。“
ネネと名乗った老女が語り始めた……。
神殿内の祭壇の灯りはすでに落とされ、香炉の残り火がほのかにくすぶっているだけだった。
祝香の間──巫女が神へ祈りを捧げる最奥の聖所。その天蓋の下でネネはそっと息を呑み、目を凝らしていた。
神像の前、大理石の祭壇にひざまずいているのは、セシリアとユリアの巫女姉妹の「姉」だった。姉といっても、実の姉ではない。神殿のそばで野垂れ死にしかけていたネネを、持参金を払ってまで神殿に引き取るように手配してくれて以来、「姉」と呼んで、世話をさせてもらっている。
ただ、この姉たちは、実にとんでもない放蕩巫女なのだ。
しかも、今夜の悪ふざけは、度が過ぎている。
「……お姉さま方……、さすがに、それは……。おやめになった方が……」
このセシリアとユリアの姉妹が今夜はなにをしでかそうとしているか……。
その姿を見ただけで、ネネの背筋は凍る。
あのふたりは、すでに三度、神殿からの懲罰を受けている。
それでも追放されずにいるのは、彼女たちの実家がよほど裕福な家柄だからだ。噂では、神殿の上役にまで届くほどの寄進が、何度も贈られているという。
けれど──その実家は、もうあの姉妹を見限っているのだ。
持参金と姓だけは残して、家門からは切り離された。
もいまのふたりには、もはやどこからの庇護もされてない……。
「黙ってなさい。あんたは、しっかりと見張りをしていれば、それでいいの」
「そうよ。ふふ……見てよ。今日は、あの方の股間で拝むことにしたのよ。わたしたちの──“神の口”でね」
そう口にしたのは、妹のユリア、次いで、姉のセシリアだ。
ふたりは、衣をするりと脱ぎ、月の光すら射さぬ聖所の闇のなかで、その白い肌を惜しげもなくさらけ出す。
「セシリア姉さま、わたしも、こちらで……。あの方のもう一方の御足の間に──いいでしょう?」
妹のユリアだ。姉とほとんど同じ動作で、彼女もまた装束を脱ぎ捨て、まるで舞のように音もなく祭壇へとあがっていく。
姉妹が神像の御足のあいだ、すなわち神の聖所とされる空間に──互いに左右から向かい合うようにして膝をつき、ゆっくりと腰を沈めていく。
「ここの……いちばん奥で……。神の光を感じるところで……わたしたち、祈るの……。そうでしょう、姉さま……?」
「そうよ……。お前とふたりで、神さまの御心を……いちばん奥で、神様の愛を受け止めてあげましょうね」
くすくすと笑いながら、姉妹はそっと額を寄せあい、そのまま神像の股間に身を擦りつけはじめる。
まるで、自分たちの“秘所”を、神の意志に捧げる神聖な拝礼のように──。
それは、もはや祈りでも舞でもなかった。ただの倒錯、ただの背徳。それなのに、姉妹の声音には、うっとりとした敬虔すら滲んでいた。
「や、やっぱり、おやめくださいっ、そんな、そんな──。姉さまも、ユリアさまもっ……」
ネネはついに声を上げた。言ってはいけないことだとわかっていた。それでも、口をついて出てしまった。
「こら、声を出すんじゃないのよ──」
「そうよ、ちゃんと見張ってなさい」
セリシアとユリアが神像の前からネネを叱咤する。
「でも、神罰が……神罰が下ります……」
ネネの叫びに、セシリアはちらと視線を向けただけだった。
そして、口元をほころばせながら、祭壇の上でなお腰を揺らし続ける。
「ネネ。わたしたちは、神のために、悦びをもって捧げているのよ? 神は、悦びをお嫌いになるかしら」
「むしろ、お悦びになるのよ。ね、姉さま。だって、わたしたち、こんなにも──神さまを感じてる」
ユリアの手が、自らの股間を撫でる。
その指先が、胸元から臍へと、聖糸のような筋を描いて滑りおり──やがて、その指で隠された陰部へと触れる。
ぬめるような音が、小さく空気を震わせた。
──そして、こうした光景は、いまに始まったことではない。
姉妹で淫らに愛し合うくらいはよい方で、男であろうと、女であろうと部屋に連れ込み淫行に及ぶというのも、かなりの頻度で繰り返している。
当然に、ネネも巻き込まれていた。
それが見つかって咎められたのが三回ということであり、実際には、日常茶飯事に近い。
幾度、諌めたかわからない。
しかし、ネネの忠告を受け入れる姉妹ではないし、下手をされば、この姉妹からのとんでもない“躾”が待っている。
実際、ネネは何度も姉妹から“罰”を受けてきた。
言うことを聞かなければ……。
口答えをすれば……。
姉妹から逃げようとすれば……。
夜ごと姉妹に呼び出されて、部屋の寝台に括られ、媚薬を塗られ、放置され……。
ただそれだけでも辛いのに、筆の先で、祓布の端で、陰部を音が立つほどに撫でまわされ──。淫具で責められ……。ときには、神殿の奉仕のあいだにも、媚薬と淫具を使った恥ずかしい責めを受けることもある……。
だったら、見捨てるかすればいいのたが、恩もあるし、それもできない。
結局、いまのように、あまりにも度がすぎるのを、注意するくらいだ。
「うるさいわねえ、また、折檻するわよ──」
「この前みたいに、ベッドに拘束して、媚薬塗って朝まで放置がいい?」
「ううん、筆責めがいいんじゃない? 姉さま、この前、二刻、寸止めで続けたら……この子、失禁して気絶したじゃない。かわいかったなあ」
「じゃあ今度は、倍ね? 四刻。祈りの時間、ずっと泣かせてあげましょうよ」
嘲るような優しさで、唇を舐められ、乳を弄ばれ、指で溶かされる。
叫んでも誰も来ない。香のたかれた寝室は甘くて重い匂いで満ち、思考も言葉もすぐに奪われた。
思い出すと、胸が痛くなり、股間が反射的に疼いてしまう。
そんな風にされてしまったのだ。
「それとも……お前も、聖所で、また“神さま”の前に立たせてあげようか。あの“紅の珠”をつけたまま祈る? 一度、やったじゃないのよ。お前も共犯よ、ネネ」
「そ、そんな……あれは、お姉さま方が無理矢理……」
ネネの喉が勝手に詰まる。あの夜の記憶。
神像の前で、腰を震わせながら拝礼の姿勢を保たされたまま──。
媚薬を塗って、拘束されて……。
泣いても、許されなかった。
だから──。
セリシアとユリアが冗談で言っているわけじゃないことはわかる……。
逃げても罰。叫んでも懲罰──。
ふと気づけば──もう、祭壇の上ではセシリアたちの淫らな悪戯が始まっていた。
祭壇の上で交わるように擦りつけられる姉妹の腰と腰。そのあいだに挟まれる神像の聖なる御身。
ぬるり、ぬるりと音が立ち、石像の肌が、淫靡な輝きで濡れていく。
ネネは、ただ震えながら、その光景を見張りつづけるしかなかった。
ふたりの巫女が神と交わるごとく、絡み合いながら悦びに没していく、その姿を──。
神像の御足のあいだ、姉妹の腰はゆっくりと、しかし執拗に上下していた。
ぬめるような音が、ひそやかに──だが確かに、石の間に鳴り響く。
「んっ……ああ……神さま……そこ、もっと……もっと奥まで……触れて……」
セシリアの声が震える。まるで恋人に縋るような、媚びた囁きだった。
ユリアは目を閉じたまま、うっとりと神像の腹へ額を預け、頬を染めている。
「お願い……神さまの御力で……わたしたちのここを……裂いて……中まで、浄めて……」
「この“神の口”で……もっと……もっと……」
ふたりは完全に陶酔していた。
石像の股間へ、己の秘所を擦りつける巫女など、どこの国にもいない。
けれど彼女たちは、その神への冒涜を“祈り”と信じていた。
その恍惚のなかで──。
「あっ……あああ……っ……」
「いま……いま、神さまが……中に……」
セシリアとユリアが、同時に高く、悲鳴のような喘ぎをあげた。
ふたりの白い体がびくびくと跳ね、その腰が、最後のように何度も何度も石像へと打ちつけられる。
その声も、言葉も、ひどく淫らで、ひどく哀願に満ちていた。
「お願い、もっと……もっと淫らにして……わたし、神さまの犬にでも……雌になっても……いいから……」
「わたしの奥まで……奥まで……神さまの“もの”を、入れてください──」
直後だった──。
──轟、と音が鳴った。
祭壇の奥から、まばゆい白い閃光が閃く。
光が奔ったと同時に、床が揺れ、壁が鳴った。
神殿が、まるで地鳴りに抱かれたようにぐらりと傾く。
香炉が倒れ、火がこぼれ、供物の器が砕ける音がした。
「な、なんだ……いまのは──?」
「地震か……? ちがう、これは……」
外の方から叫び声が近づく。
神官たちの足音が、慌ただしく聖所へわらわらと集まってくる。
ネネは、もはや絶望した。
こうなったら、もう隠しようもない。
また、セリシアとユリアのふたりは、神像から弾き飛ばされたらしく、あられもない格好で祭壇に全裸のまま倒れている。
なにをしていたかなど、もう言い訳のしようもないだろう。
「祝香の間だ──? 光が……なにか、光が──」
神官たちが駆け込んできたが、誰もその中心へは近づけなかった。
セシリアとユリアのふたりの身体は、いま──神像から迸る白い光の繭のようなものに包まれている。
「おい……近づけないぞ──」
神官のひとりが手を伸ばしかけたが、そこから逆巻く光と熱気に阻まれ、あとずさった。
ネネもまた、動けずにいた。いや──身体が拒絶していた。
そのとき、確かに──誰のものでもない、けれど全身を貫くほどの力強い“声”が響いた。
「淫獣のような連中め……その心根に相応しい姿になれ──」
言葉の意味を理解するよりも早く、光が爆ぜた。
ふたりの身体が激しく痙攣し、白光のなかで──なにかが──剥がれ、砕け、崩れ──変わっていく。
光が引いたとき、そこにあったのは──
黒い獣だった。
艶めいた毛並み、引き締まった四肢、唸るような低い息──。
それは、セシリアとユリアが堕ちた姿──二匹の、猟犬──。
「ば、馬鹿な……変身……? 神の罰、か……?」
「いや、これは……これは……っ」
誰もが言葉を失った。
ただ、ネネだけが、硬く手を握りしめたまま、その光景から目を逸らせずにいた。
「も、もしかして、お姉さまたちですか──?」
ネネは、目の前でセリシアたちが黒犬に変わるのを目撃しながら、その二匹の犬がふたりであることが信じられないでいた。
──あまりにも、とんでもない話だった。
神像にまたがって絶頂し、雷鳴とともに黒い犬になった放蕩姉妹と、それを見届けた小間使いの少女。その少女がいま、リーナの目の前で、皺深い老女になって胡坐をかいているというのだから。
「……それで、どうなったんだい?」
しばらく呆然としていたリーナは、茶をすすってからようやくそう訊ねた。
ネネと名乗った老女は、手を膝に重ねたまま、静かに目を伏せる。
「あたしも──お姉さま方も、神殿を追い出されることになりました」
「まあ、そうだろうね」
思わず口をついて出た。呆れとも納得ともつかぬ言葉だった。
「ははは、本来、神の前での性愛は供物でもあるんだけど、その神は余程に機嫌が悪かったんだろうね」
地母神が声をあげて笑う。
「でも、不思議なものですね。あれから……なんとか、暮らしてこられました」
ネネは、責められた様子もなく、かすかに微笑んだ。
「暮らすって、あんたたち……」
「はい。お姉さま方──猟犬としては、とても優秀だったんです」
さらりとした口調でそう言われて、リーナは思わず噴き出しかけた。
「なにそれ。……猟犬として“優秀”?」
「ええ。嗅覚も、動きも鋭くて。最初に拾っていただいた村で、獲物を追っては運んできてくれるようになりまして」
「……」
「その獲物を干して売ったり、分け合ったり。あたしも薬草を煎じたり、焼いたり、道具の修繕をしたりして──」
ネネの語りは淡々としていて、どこか誇らしげだった。
まるで、それが当たり前の姉妹の生活だったかのように。
「なんというか……妙に逞しいね、あんた」
「はしたない話ばかりで、お耳汚しでしたでしょう。でも、食べるものに困らなかったのは、本当にあのお姉さまたちのおかげなんです……。でも、あたしも何分、もう歳で……」
リーナは、火にくべた小枝がぱちりと音を立てるのを聞きながら、肩をすくめた。
「……まあ。確かに、その恩だけは、否定できないかもね」
まさか、淫蕩の罰を受けた巫女ふたりが、猟犬となって獲物を獲り、元見習い巫女の老女がそれを売って生活するとは──。
世の中、いろんな形の家族があるものだと、リーナは思った。
老女の声は、焚き火のはぜる音に紛れて、ふっと低く落ち着いた。
「もっとも、お姉さま方も、まったく犬のままというわけではないのです」
リーナは、眉をひそめた。
「……どういう意味さ」
「ある条件が整えば、ほんの少しだけ人の姿に近づくことができるのです。ですが、あたしももう歳で、少々きつくなってまいりまして……」
ちら、とこちらを見る目線。でも、言いたいことはわからない。
リーナは、小さく肩をすくめた。
「ほう、面白いな。見せてみよ。獣が人に戻るなんて妙な話だけど、嘘か本当かな。本当なら願いを叶えよう。つまりは、完全に人に戻れるようになりたいのだな?」
すると、地母神が言った。
「ありがとうございます。でも、それには、リーナさまのご協力が……」
また、ネネがちらりとリーナを見る。
協力──?
「まあ、いいけど……。それで、なにをするのさ?」
リーナは、応じた。
すると、ネネが満面の笑みを浮かべ、ぱちりと目を輝かせた。
「許可が出ました。お姉様方──。やっておしまいなさい──」
ネネの声色は、がらりと変わっていた。
焚き火が揺れ、空気が不自然にしんとした。
老女の背後から黒い影が飛び込んでくる。
「なっ、うわっ」
リーナが声を上げかけたその瞬間には、すでに遅かった。
重みとともに地面に押し倒され、リーナの背が土に打たれていた。
あの黒い猟犬二匹に、身体を地面に押し倒さらていた。
猟犬が二匹、ひとつは両脚の付け根を前足で押さえ込み、もうひとつは胸元へ鼻を近づけている。
息がかかる。温かく湿った舌が、首筋をなぞり、鎖骨を伝いながら服の隙間へと滑り込む。
「……な、なにを……。ひっ、ひいっ、な、舐めるんじゃない──。うわっ、なにするんだよ──」
リーナは悲鳴をあげた。
息が詰まる。理屈が追いつかない。
抵抗しようとした腕も、もう片方の犬に押さえられて動かない。爪を立てるわけでもなく、しかし、しっかりと拘束されている。
太腿に鼻先が押し当てられ、ぬるりと濡れた感触が布ごと擦れていく。
スカートに頭を突っ込まれて、下着の上から秘部を舐められる。
もう一頭は、リーナの胸を顔で押し揉んできた。
「うわっ、なんだい──?」
リーナは、目を見開いたまま、ネネを見た。
老女は手を合わせ、深く頭を垂れていた。
「お姉さまがたは、こうやって、誰かと愛し合い、相手を極めさせると、なぜか、束の間だけ人に戻るのです。若いときには、相手をしていたのですが、まあ、何分、あたしも歳で……」
「ふざけるなよ。やめておくれ──。ひいいっ」
リーナは、全身を悶えさせた。
二匹の犬の愛撫が…本格的なものになったのだ。
「申し訳ありません、リーナさま。これも、神の御意志にございますゆえ」
その声音は、ひどく丁寧で、礼儀正しく、それゆえにぞっとするほど冷ややかだった。
香が尽きたところで、サラは語りを終える。
「なんだ、終わりか? それで続きは明日か?」
エスクラウディオの声は、どこか名残惜しげでもあり、戯れのようでもあった。
「はい……明日でございます」
サラは静かに応じ、開いていた股を閉じて正座になると、ゆるやかに頭を垂れた。
「なるほど。ならば、愉しみにしてよう」
皇帝はそれ以上、なにも言わなかった。
ただ、その瞳は語りの余韻に濡れていた。
香炉の煙は細くなり、天井へ向かってまっすぐに昇ってゆく。
広間を包んでいた甘やかな匂いも、少しずつ薄れていた。
「……だが、根比べだな」
ふいに、皇帝がぽつりと呟いた。
「根比べとは?」
サラは顔をあげた。
「お前が、身体の疼きで音をあげるか。あるいは──私が、飽きて諦めるか」
サラは答えなかった。
ただ、ひざまずいたまま。
だが、沈黙の奥で、香に焼かれた肉体が、ひそかに震えていた。
疼きは、もう皮膚の奥に染みついていた。
脚のあいだに走る熱は、語りを終えてなお、静かに脈打ちつづけている。
だがサラは、唇を結び、耐えることを選んだ。
──言葉ではなく、沈黙で返す。
それが、この夜の終わりにふさわしい、語り奴婢としての誇りだった。
香の煙は、とうに絶えた。
それでも、香の記憶は空気に残っていた。
広間には、もはや音もない。
ただ、ふたりの気配だけが、熱の名残を抱いて、静かに対峙していた。