熱が喉を焦がし、脈打つ疼きが脚の奥を這いまわる。
サラは硬く結んだ膝の間に、絶え間なく滴り落ちる蜜を感じていた。
どれほど身を固くしても、淫紋の疼きが身体の奥から開いてくる。
熱は腸を炙り、背骨を伝って脳髄を舐め、頭の奥で赤く膨れた。
瞼を閉じれば、黒い闇の奥で白い火花が弾ける。
鼻の奥には、香炉の残り香に混じって、自分の熟れきった匂いが刺さった。
耳の奥で、湿った吐息と、粘つく蜜の音が響いている。
舌の裏には、噛み切った唇の血の味が滲んだ。
何度も呻きを堪えようとしたが、声は勝手に漏れた。
震える吐息が畳を濡らし、首筋を伝う汗が背をくすぐる。
「……お許しを……陛下……いまは……いまだけは……。どうか、ひとときのお情けを……」
言葉は自分の意思を離れ、熱に浮かされた口の奥から崩れ落ちた。
こんな声を晒すことが、どれほどの屈辱かは分かっている。
それでも、もうどうにもならない。
身体の奥で疼きが呼ぶたびに、喉が勝手に熱を吐き出してしまう。
「ほう、情けか?」
六夜目の語りのために、監禁されている後宮の部屋にやって来たエスクラウディアに気がつくと、サラは哀願をしていた。
「は、はい……。い、いまだけは……どうか……お戯れを……与えて……」
すると、エスクラウディオの瞳が蝋燭の火をうけて細く光るのがわかった。
「そうか、ついに音をあげたな……サラ」
低く、冷たく、喉をくぐる声が熱を鈍く切り裂いた。
「あ、あげました……。サラも女でございます……、耐えられません……」
サラは息も絶え絶えに言った。
「まあ、よくぞ耐えたものだ。報告によれば……ほとんど一睡もできず、寝入っても、淫紋の疼きに己の喘ぎで目を覚まし、そしてまた、苛酷な疼きに気を失うように意識を失う──それを、幾度も繰り返しているらしいな」
耳の奥で、言葉が杭のように突き刺さる。
サラは首を垂れ、肩を震わせた。
脚の奥が勝手に疼いて、蜜が温く脚を伝っていくのが分かる。
「わ、わかりません……。もう……」
「誰も聞いておらぬのに、語りだし──はっとしたように黙る。それを繰り返していると、報告にあった。狂いだしているのを自覚しているか?」
背筋を一筋の冷たい刃が撫でたようだった。
羞恥が熱と混じり、苦い吐息が歯の裏を焦がす。
「は、はい……」
「やめてもよいぞ。語り奴婢の義務を、いま放棄するのであればな」
はっとする。
言葉の意味を理解した瞬間、熱に焦がされた脳の奥に、氷の塊が沈んだ。
「……」
目の奥が熱いのか冷たいのか、わからない涙に滲む。
「だが、そのときは……そなたは語り奴婢であることをやめねばならん。──つまりは、ドニアの処刑だ」
サラは喉の奥を引き絞った。
処刑──。
誰よりも長く耐え続けたこの務めを、自ら捨てれば──。
なにも残らない。
妹の命を繋ぐ術も、なにも……。
脈打つ疼きが脚の奥を震わせるたび、目の前が白んで遠のく。
声を搾り出すように、サラは震える唇を開いた。
「……承ります……陛下……。語り……果たし……ます……。どうか……いまひととき……」
崩れかけた声とともに、脚の奥がびくりと跳ね、熱い雫が太腿を伝って畳を濡らした。
皇帝は残酷な愉悦の影をその顔に浮かべ、玉座の上からその姿を見下ろす。
「ふっ……そうか。語るか……。なら、語れ、サラ。その腐れかけた理性の残り火で──哀願の声を語りに変えてみせよ。それでこそ、語り奴婢よ。狂うのが先か、淫紋の疼きに耐えられずに、畜生となって、妹を捨てるのが先か……」
エスクラウディオの酷薄な声が彼の愉悦とともに響く。
床に敷いた布を濡らす蜜のぬるい感触がもう一度、羞恥を突き立てた。
震える喉が、また言葉を綴り始める。
「──第六夜を……お聞きくださいませ……」
サラは頭をさげた。
すると、部屋の隅に待機をしていた下女がサラの横に置かれている香炉の香に火を灯した。
息が詰まった。
獣の熱と臭いがリーナの顔に覆いかぶさり、喉の奥で酸い匂いが焦げついていく。
雌犬の爪が肩を抉り、ずしりとした体重が背を押し潰した。すでに、犬の顔で衣の裾が腹まで捲りあげられていて、犬の舌が下端から下着の縦皺を強い力で撫であげられていく。
「くわっ、な、なにするんだよ──あひいいっ」
振りほどこうとするが、二頭の犬がしっかりと脚で押さていて、完全に自由を封じられている。股間をまた責められる。
「くはっ──いい加減に──」
腰が跳ねあがる。
そして、文句の声を上げようとした唇を、別の雌犬の舌が荒く舐めた。
耳の奥で湿った咀嚼音が響き、背筋がかっと熱くなる。
「……あ……や……やめ……」
か細い声が自分の意思を裏切って洩れた。
甘噛みされた首筋がじくじくと疼き、そこを舐める獣の舌が、もっと奥の疼きまで抉るようだった。
「お姉さまがた、下着はお脱がせになった方がよろしいかと。お姉さまたちの唾液で汚れてしまいますし……」
ネネが横から口を出す。
なにを勝手なことを──。
怒鳴ろうとするが、そのときには、腰側を責めている黒犬が前脚だけで器用に、リーナの下着をずりおろしてしまっていた。そこを直接に舌で愛撫される。
「おあああっ」
リーナはまるで腰を犬の舌に密着させるかのように、またもや腰を突きあげてしまった。
そして、胴体をまたいでいた雌犬が、頭方向から腹を股間に擦りつけてくる。
交互に舌を股間に這わせられる。
「ふわあああっ、いやああっ」
熱と涎が背骨を伝い落ち、蜜と混じりあって太腿を濡らす。
雌犬の舌が腰に食い込むたび、背中から脚の奥まで、疼きが脈打って走った。
「いやあああっ」
必死に脱出しようとするが、どうしても、二匹の犬の下から逃げられない。
しかも、こいつら上手だ──。
畜生……。それにしても、どうして、こんなに感じるのか──。
いままで、逆だった。
あの夜までは──。
相手が男であろうと、リーナは舐めさせる側で、凌辱する側で、啼かせる側だった。
泣き声を味わい、溢れるものを嘲いながら、自分の底を満たしていた。
そして、十分な快感を得ていたのだ。
なのに──。
地母神に犯されたあの夜から、リーナは熱を吐き出せなくなった。
誰と、なにをしても、満足に快感を極められなくなってしまったのだ。
淫紋を刻まれ、快感はあるのに満足できない──。
それは、性の地獄であり、乾きに水を求めるような飢えだった。だから、リーナは早々に諦めたのだ。
獣化を解消しても、おそらく、あのときの快感は、あの地母神に再会しなければ得られないと思ったのだ。解呪で獣化を解くよりも、地母神のところに戻ることを選んだ。
ところが、いま、二匹の犬に否応なく、快感を強要され、リーナは同じように快感を覚えている。
相手は犬だが、自由を奪われ、圧倒的な力によって、ねじ伏せられることによって……。
「いやあ……いやああ……やめて……おくれ……」
声は、どこにも届かない。
雌犬の舌が口の端から顎の下までを舐め上げ、もう一匹が尻を鼻先で押し広げている。
涎混じりの熱い息が脚の奥に触れただけで、淫紋の疼きが弾けた。
爪が肩を抉り、首が小さく脈打つ。
喉の奥が熱く痺れ、息の端から獣の臭いと血の味が滲んだ。
一年前から、どれほどの男にリーナを抱かせても、どれほど自分を慰めても、なにひとつ埋まらなかった熱が獣の牙と舌と涎で溶かされていく。
もう、どうしていいかわからない。
「……やあああ……ああああ……ああああっ……」
喉を絞っても、脚の奥がひとりでに疼き、蜜が尻を伝って犬の鼻面を濡らす。
雌犬は低く喉を鳴らし、尻を鼻先で押し広げ、奥を舌で啜った。
熱が弾け、視界端が白く滲む。
雌としての理性が、ざらつく舌に削がれていく。
身体を覆う体温、汗と獣の臭い、舌の這う快感。
全部が雌としての証のように肌に染みつく。
いまは、リーナは嬲られる側──。
嬲られなければ、熱を吐き出せない──。
犬の舌に啼かされ、雌の奥を晒し、なにもかも剥がされていく。
もう一匹の舌が震える芯を抉ったとき、渇いていた理性の奥が、どろりと崩れた。
「ああああっ」
そして、ついにリーナは高らかな声とともに、全身を芳烈な喜悦に貫かれた。
手足の自由を奪われて、まるで陵辱されるかのような犬たちの愛撫で極めた快感は、リーナを倒錯的な大きな悦びに引きずりこんだ。
気がつくと、リーナが全身をがくがくと震わせて、女の極みに達してしまっていた。
「くはっ、はあ、はあ、はあ……」
喉の奥から絞り出した呻きが途切れた。
脳の奥に霞がかかったように、リーナは肩で息を吐いた。
全身の力が抜け、腰の奥から滲む熱が太腿を伝っていくのがわかった。
一方で、身体に覆いかぶさっていた獣の重みと臭いが、まだ鼻腔を満たしている。
そのはずなのに、どこかで違和感を覚えた。
がりがりと肩に食い込んでいた前脚の爪の感触が、いつのまにか、熱を帯びた指先のように変わっている。
背を覆っていた生臭い毛皮の重みが、柔らかくしなだれかかる肌の温度に変わっている。
なにかが変わった──?
「うわっ、なんだい──」
瞼を開きかけた視界の端に、白い光が揺れていた。
リーナは思わず、驚きの声をあげた。
下半身側を抑えていた黒い猟犬の姿が、その光に包まれてかき消えていき、さらに、上半身側から股間を舐めていたもう一匹も、リーナの腹の下で同じように白い光に呑まれていた。
瞬きする間に、獣の熱が別の生き物の気配へと姿を変えていくのが、腰の奥に伝わる体温でわかる。
「……なに……?」
息の奥で掠れた声が漏れた。
光が収まる。
リーナの前後を押さえつけていたのは、もう二匹の黒犬ではなかった。
柔らかい胸が乳房に押しつけられ、腿の間に滑る指が、まるで女の爪のように生々しく動く。
視線を落とすと、脚の奥に潜り込むようにして這っていたのは、白い光に包まれた裸の女だった。
尻を押さえつけていた重みも、振り返れば、同じように艶のある黒髪を肩に垂らした裸の女が、息を荒くしてリーナの腰に覆いかぶさっている。
年の頃は、どちらも二十歳前後に見えた。さっきの話によれば、神殿を追い出されたのは、見込見習いだったネネがまだ十代の中頃の年齢のはずなので、おそらく、獣化以来、見た目の年齢は若いままなのだろう
「……犬……だった……お前たちかい……?」
リーナの喉がひくりと震えた。
絶頂の残滓がまだ脚の奥を熱くするのに、内腿を撫でる指が人のものであることに、ぞわりとした恐怖が遅れて這い上がってきた。
「ほう、これは面白い。女を絶頂に導くと、人の姿に戻るというわけか」
地母神だ。
なぜか、言葉に愉しそうな感情の響きがある。
「そうなのです。ほんの僅かなあいだなのですが、そのあいだだけ、お姉さま方は人の姿に戻るのです。若いときには、それでもお付き合いをしていたのですが、さすがにこの歳になると、快感を極めるというのは辛くて……」
ネネだ。
その悪びれない態度に、かっと頭に血が昇る。
「ふざけるんじゃないよ。けしかけやがって──」
リーナはネネに悪態をついた。
だが、脚の奥に這っていた裸女が、舌の端で蜜を啜るように撫でてくる。
もう一人の女も乳房に胸を押しつけ、髪の先を肩にかすらせながら笑った。
「へへへ……久しぶりのこの身体……」
「犬も悪くないけど、やっぱりこっちだよね……」
愕然とした。こいつら、まだ続けるつもりか──。
リーナは喉の奥を引き絞った。
「や……やめ……もう……」
力なく腰を捩ったが、二人の指先が息を合わせたように脚の奥を探り、弛緩していたはずの疼きがふたたびきりきりと熱を生む。
「あっ……いや……やめろ……」
「いい声。もっと啼かせてあげる……」
「お姉さま、わたしにも触らせて……」
指先が蜜に塗れて滑り込むたび、脳の奥に霞がまた滲む。
昇りつめたばかりの熱がまだ尾を引いているというのに、もう一度舐め上げられた疼きが喉から悲鳴を引きずり出した。
「いやああっ……や……やだあっ──」
息が詰まり、背を仰け反らせた瞬間──
ぴしん──。
びしっ──。
「いあああっ」
「いったああっ」
身体を覆っていた女たちの尻に、乾いた枝の音が重く響いた。
ネネだ──。
脚の奥を舐めていた女もびくりと肩を震わせた。
「痛いって……なんすんだよ、ネネ──?」
「そうよ……。人の姿のときには枝鞭は禁止って言ったでしょ──」
二人の声が低く唸るように重なった。
「お黙りなさい、お姉さまがた。言っても、聞かないから叩くのです。いいから、リーナさんから離れて」
ネネの声は微塵も揺れない。
そして、小枝を握ったネネが、躊躇なくもう一度尻を打擲する。
「わかった──わかったって──」
「離れる──離れるよ──」
やっと、姉妹がリーナの上から離れた。
リーナはとりあえず、ほっとした。
「はははは、これはまた、面白い連中だねえ」
地母神は、肩を震わせるようにして大きく笑った。
「いえ、お恥ずかしいことで……」
「しかも、なんとも面妖だよ。でも、どの神に神罰を受けたかは知らぬが、動物のままでないのは、せめてもの慈悲なのだろう。よかろう。供物は確かに受け取った。呪術は解こう──。これからは人間の姿のままでいられるようにしてやるよ」
地母神が大きく頷く。
「ありがとうございます──。まあ、よかったですね、お姉さま方」
背後で姉妹を押さえていたネネが、小さく手を合わせるように頷いた。
「ああ、そうだね。犬でも悪くないけど、やっぱり、人の姿の方が愛撫をしやすいし。」
「うん、すぐに犬に戻っちゃうし、手がないと淫具も使えないしね」
前後でリーナの腰を押さえていた姉妹が、互いに目を見合わせて笑う。
一方で、地母神は姉妹の頭に軽く手を翳し、術をかける順を取った。
だが、その指がふと止まる。
「ん? ああ、言っておくが、淫乱の神罰で獣化の呪術をかけられたのだ。呪術を解くというのは、お前たちの淫乱さも同時に消滅するぞ。もはや、淫乱がお前たちの獣化の呪術と完全に同化しているからな。一緒に剥がすしかない」
その瞬間、セシリアとユイナの肩がびくりと揺れた。
「ええっ、冗談じゃない。つまりは、二度といやらしいことはできないってこと?」
「遊べなくなるってこと? だったらいいよ。犬でいいし──」
ふたりの声がいきなり低くなる。
リーナは背後でネネが眉をひそめる気配を感じた。
「お姉さま方、なんてことを言うんです──。お姉さま方のご病気が治るなら、万々歳じゃないですか。一緒に治してもらいましょうよ──」
ネネが姉妹に大声をあげた。
「これは病気じゃない──」
「そうだよ。魂の叫びなんだ」
セシリアとユイナが同時に吐き捨てるように言った。
「そもそも、本当はお姉さまたちは、あたしと同じで、もう、いい年なんです。いい加減に卒業なさってください」
ネネが怒気を滲ませるが、姉妹はもう耳を貸さなかった。
「いやだ」
「そういうわけだから、さいならね」
「うん、またね」
ふたりはネネの手をすり抜けるようにして、するりとその場を駆け出していった。
しかも、ちょっと描けだしたところで、またしても、白い光に包まれて、人間の裸女の姿から、黒い犬の姿に戻ってしまった。
凄まじい速度で、あっという間に遠くに行ってしまう。
「もう……。お姉さまがたは──」
ネネが枝を握りしめたまま、怒ったように息を吐く。
しかし、すぐに目を伏せて小さく肩を落とした。
「……はあ、仕方ありません……。地母神さま、せっかくの思し召しでしたが、こうなってしまいました。申し訳ありませんでした。仕方がないので、あたしが死ぬまでは、お姉さまたちに付き合うことにいたします……」
小さく頭を下げ、ネネは地母神に、そしてリーナにもお辞儀をする。
「お姉さま方──お待ちなさい──」
そして、ネネも姿も夜闇に消えてしまう。
しばらく、その消えた方向に視線をやっていたが、やっと我に返る。
「なんだったんだい、あれ……」
リーナは呆然と言った。
「愉快な連中だったな。お前が連れてきた者たちは、実に興味深いよ」
すると、地母神がまた大笑いした。
「あたしが連れ来たんじゃない──」
リーナは声をあげた。
地母神の大きな笑い声が収まったとき、
その視線が、泉の外れに留められていた騾馬と、その側に控えていた小柄な男へと向けられた。
……あれは……連れてきていた老人か?
男は騾馬の首綱を握りしめたまま、ぎこちなく近寄ってきた。
しかし、距離が縮まるにつれ、リーナはふと息を飲んだ。
鼻の奥に残る獣の臭いと混じって、その男の肌の奥にまだ若い血の匂いがした。
陽に焼けた頬に刻まれた無数の皺、腰の曲がった影──。
だが、目の奥の色や声の震えは、老人と呼ぶにはあまりに若かった。
地母神も同じことを思ったのか、鼻先でくつりと笑った。
「うむ。老人かと思っていたが、そう見えるだけで若いな。何歳だ?」
男は大きく目を瞬かせ、がたがたと肩を揺らした。
「よ、四十……五でございます、地母神さま……」
声は低く掠れていたが、土に埋もれた根のような熱がにじんでいた。
「ほう。で、その老人のように見えるのは、なにかの呪術ということか?」
「い、いえ……これは……生まれつきでして……」
男はすぐに首を振った。
リーナはじっと男の手元に目を落とした。
騾馬の首筋を撫でている指の形は、痩せて節だらけだが、どこか人の温もりを失っていなかった。
「そ、そのう……あっしは──」
男は視線を地母神とリーナに交互に泳がせ、息を整えると小さく頭を下げた。
「そ、そのう……あっしはサルマンと申します。お願いしたいのは、この騾馬の姿になっておられるお方を、人に戻していただきたくて……」
「騾馬……つまりは、こいつも、もともとは人間ということかい?」
リーナは腰の奥の熱がまだ抜けきらないまま、かすれた声で問い返した。
「はい……。お偉い方の奥様なんですが……、あっしにとっては、女神のようなお人なんです。でも、あっしと……この醜いあっしと不義をしたと、お疑われて、この姿に……」
「……どういうことだ? まあ、とりあえず、事情を話せ」
地母神は面白がるように喉を鳴らす。
「わかりました……」
サルマンと名乗った男の声が、途切れ途切れに夜気に溶けていった。
サラは頭をさげた。
「……六夜の終わりでございます……」
香炉の香はすでに尽きていた。
語りを終えたサラは、喉の奥で焦げつくような息を繰り返し吐いていた。
脚の奥を満たす疼きは、今もなお収まらない。
声を張って語ったはずの口の端が、まだ熱で滲んでいる。
「うむ、終わりか……。相変わらず、面白い話であった。なるほど、これは続きを聞かねばならんな。妹はまた一日、生き延びたぞ」
エスクラウディオが笑う。
だが、サラはも限界だった。
震える唇をさらに開く。
「……陛下……お願いでございます……」
途切れがちに洩れた声は、己のものとは思えないほど掠れていた。
サラは床に額を近づけ、手を伸ばした。
「んっ、願いか?」
「どうか……いまひととき……お情けを……」
玉座の上のエスクラウディオは、燭台の灯りに目を細めた。
唇の端をわずかに吊りあげ、肩を揺らすように笑う。
「ふ、はは……慈悲か……。その淫紋の疼きのことか……。なるほど、ならばよい。自慰を赦してやろう」
鋭く低い声が、疼きに苛まれたサラの耳を裂いた。
「……自慰……を……」
息の奥で反芻した言葉に、喉の奥が苦く詰まる。
羞恥が背を伝い、熱を帯びたまま脚の奥に沈んだ。
「ただし……」
エスクラウディオの声が、冷たい水のように落ちる。
「……達してはならん。一度でも達したならば、ドニアの陵辱と処刑を、すぐに執行する」
サラの手が膝の上で震えた。
指先が、じりじりと脚の奥へ近づいては止まり、また近づいては止まる。
疼きはすぐそこにある。
指を当てただけで、喉の奥から声が漏れるとわかっていた。
けれど、達さずに耐えるなど、不可能だ。
膝の奥で、震える指先が一度だけ縋るように揺れたが、結局、脚の間には届かなかった。
「……くっ……」
喉の奥にかすれた呻きがにじむ。
エスクラウディオは楽しげに笑った。
「なんだ、せぬのか。最後まで達しなければ、触れてもいいのだぞ」
玉座の影の奥から向けられる瞳がサラの羞恥と苦悶を楽しむ色に濡れていた。
脚の奥で疼きが呼び水のように脈打つたび、喉が熱を吐き、瞼の裏が赤く滲んだ。
それでも──。
達してはならぬ、と刻まれた言葉が脳を冷やす。
一度始めれば、間違いなく、サラは理性を失う。そうならないためには、最初から始めないことだ。
それしかない……。
サラは荒く息を吐き、首を垂れた。
脚の奥を握りつぶすような疼きをただ耐えるほかなかった。
「……明日の夜、また会おう」
ゆるやかに立ちあがる衣擦れの音が、広間の奥に溶けていった。
玉座の影が遠のく音を微かに聞きながら、サラは荒い呼吸の下で、潤んだ瞳を閉じた。