※この作品はR-18です。

母のスマホ   作:松田義和


オリジナル:現代/日常
タグ:R-18 R-15 母 写真 寝取られ NTR
ある日母さんがナンパされたという話を聞いて僕の平和な日常に変化が訪れる

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母寝取られ愛好者のみなさん。共にひりつきましょう


ナンパされた母さん

先週のことなんだけど、ちょっと驚くような話を聞いた。

 

母さんが、ナンパされたらしい。

 

笑いながら話してくれたけど、本人も少し戸惑ってたような、でもまんざらでもないような、そんな顔をしていた。

 

正直言って、驚きはなかった。

 

だって、最近のこの暑さじゃ、誰だって薄着になる。

母さんも例外じゃない。

キャミソールに薄手のカーディガン、風に揺れるロングスカート。

少し日焼けした腕も、まとめ上げた髪も、なんだかやけに目を引いた。

 

母さんはもう40代後半になるけれど、若いころから変わらない。

スタイルもいいし、何より美人だ。

だから正直――

「そりゃナンパされるよな」って、息子の僕でさえ思ってしまう。

 

もちろんそんなこと、面と向かって言えるわけないけど。

 

僕はただ、冷たい麦茶のグラスを持ったまま、

「へぇ、そうなんだ」って、つとめて平静を装った。

 

でも内心は、ちょっと複雑だった。

誰かが母さんを“女性”として見ることが、こんなにも引っかかるなんて――

自分でも、意外だった。

 

 

 

夕食のあと、母さんはキッチンでグラスを洗いながら、ふとした調子で言った。

 

「今日ね、ちょっと面白いことがあったの」

 

僕はテーブルの片付けをしながら「へぇ、なに?」と軽く聞き返した。

 

「ナンパ、されたの」

 

最初、何を言ってるのか分からなかった。

いや、分からなかったというより――思考が数秒、止まった。

 

「……ナンパ?」

 

「うん。駅前のカフェの前。買い物帰りだったんだけどね、男の人に声をかけられて」

 

母さんは少し照れくさそうに笑った。

 

僕は無言のまま、食器を重ねる手を止めて、そっと母さんの方を見た。

 

「どんな人?」

 

「スーツ着てたから、たぶん営業マンかな。年は……30代後半くらい? 礼儀正しかったけど、なんかね、言い方がちょっと笑っちゃう感じで」

 

「なんて言われたの」

 

「『きれいな方ですね、よかったらお茶でも』って。そんな感じ。思わず、『私、子どもいますけど』って言っちゃった」

 

母さんは楽しそうだった。

ちょっと得意げで、でもそれが嫌味じゃない。

“女の人”として見られることを、素直に受け止めている感じだった。

 

僕は黙って頷いた。

それ以上、何も言えなかった。

 

母さんが誰かに“見初められる”こと。

それを嬉しそうに語る姿。

たしかに綺麗な人だって、僕だって思ってる。

 

けれど、胸の奥に、妙なざわめきが広がっていくのを止められなかった。

 

誰だよ、その男。

母さんを、そうやって軽く誘えるなんて。

 

なにを期待してたんだよ。

なにを見てたんだよ。

 

言葉にはしなかったけど――

僕の中で、何かが静かにうずいた。

 

 

その夜、僕はなかなか眠れなかった。

 

夏の夜らしく蒸し暑くて、窓を開けても風は入ってこない。

けれど、眠れない理由は、気温のせいじゃないことは、自分でもわかっていた。

 

ナンパ。

 

その言葉が、頭の中で何度も反芻されていた。

 

母さんが、誰かの目に“綺麗な人”として映ったこと。

それを笑って話す母さんの表情。

 

それは、ほんの数時間前の出来事のはずなのに、

なぜかやけに遠くに感じた。

 

布団の中で身を返すと、軋む音がやけに響いた。

そのとき、廊下を誰かが歩く足音がした。

 

母さんだ。

 

トイレかな、と思ったが、水の流れる音はしなかった。

 

気になって、僕は立ち上がり、静かに襖を開けた。

 

廊下の先、洗面所の明かりがぼんやり漏れている。

そっと近づいて、足音を殺すように歩く。

 

ふと、鏡越しに母さんの姿が見えた。

 

肩までの髪をとかし、軽くクリームを塗っている。

いつものルーティンだ。

けれど、今夜はなぜか、その所作のひとつひとつが目に焼きついた。

 

ノースリーブの薄手の部屋着からのぞく二の腕。

寝る前だからとノーブラで、少しゆるくなった生地の胸元が――

 

僕は、慌てて視線を逸らした。

 

何を見てるんだ。

なんで、こんなふうに意識してしまうんだ。

 

だけど、たぶんもう気づいていた。

母さんが“誰か”にとって、ただの母親じゃなくなることが、

どうしようもなく怖かったんだ。

 

そしてそれは、

もしかしたら――

僕にとっても、そうだったのかもしれない。

 

 

朝、目を覚ましたとき、すでに母さんは台所にいた。

 

カーテン越しに差し込む光のなか、母さんは冷蔵庫を開けたり、湯を沸かしたりと忙しく動いていた。

いつも通り――のように見えた。

でも、何かが違う気がした。

 

「……おはよう」

 

僕が声をかけると、母さんは振り返ってにこりと笑った。

 

「おはよう。もうちょっとでごはんできるわよ」

 

その笑顔も、言葉も、まったく変わらない。

なのに、なぜか胸の奥がざわついた。

 

母さんは白いTシャツに、薄手のリネンのスカート。

いつもより少しだけ化粧をしているように見えた。

ほんのり頬に色がついていて、まつ毛の先にマスカラが光っていた。

 

「……化粧、してる?」

 

自分でも驚くほど素っ気なく言ってしまった。

 

母さんは少し目を見開いて、それから笑った。

 

「バレた? ちょっとだけね。最近顔色悪いなって思って。年かなぁ」

 

そう言って、笑う母さんの横顔を見ながら、僕は黙って水を飲んだ。

 

それだけのことなのに、心が揺れる。

ほんの少しの色、まつ毛の影、髪をまとめる角度――

すべてが、昨日の出来事と繋がって見えてしまう。

 

母さんはもう誰かに見られている。

ただの“お母さん”じゃなく、

“女の人”として。

 

それを意識して、鏡の前で指先を動かしている。

 

そのことが――

自分でも驚くほど、胸に刺さった。

 

 

 

朝食のあと、母さんはいつものように食器を洗っていた。

 

僕はダイニングの椅子に座ったまま、ぼんやりとスマホをいじっていた。

食器がカチャカチャと重なる音。

ケトルの湯気が立ちのぼる。

いつもの、変わらない朝――のはずだった。

 

そのときだった。

 

「ピロン」

 

乾いた電子音が部屋に響いた。

短く、軽い通知音。

聞き慣れたようで、どこか違う音だった。

 

母さんのスマホだ。

食卓の端に置かれた黒いスマホの画面が、短く光った。

 

ふと目をやると、そこには名前の表示。

 

――**「タカハシさん」**という文字が、一瞬だけ浮かび、消えた。

 

知らない名前だった。

親戚でもない。近所の人でもない。

第一、母さんのスマホに“さん”付けで表示される名前を、僕はほとんど見たことがない。

 

僕の手の中のスマホのスクリーンが急に重たく感じた。

 

「……母さん、その人、だれ?」

 

つい口に出しかけたが、声にはならなかった。

喉の奥に言葉が引っかかったまま、僕はただ目をそらした。

 

母さんは、何も気づかずに洗い物を続けている。

泡を流す指先が、きれいだった。

その指が、さっきの“誰か”に向けて文字を打つのかと思うと――

 

胸の奥がじわりと熱くなった。

 

なんで、こんなことで。

 

自分でも理由がわからない。

ただ、知らない男の名前が、母さんのスマホに現れたという事実だけが、

いつまでも頭から離れなかった。

 

 

その日からだった。

僕が母さんのちょっとした仕草に、過剰に反応するようになったのは。

 

ほんの小さな違いだ。

スマホを持ち歩く時間が長くなったとか、

LINEの通知音が聞こえるとすぐに席を立つとか。

 

そんなの、いくらでも理由はある。

けど――それが“誰か”と繋がってるせいだと思ってしまう自分がいた。

 

ある夜。

リビングでテレビを見ていた母さんが、何かに気づいたようにスマホを手に取った。

 

そしてすぐに立ち上がり、「ちょっとだけね」と言って廊下に出ていった。

ドアの向こうで、低い声がこもって聞こえる。

言葉までは聞き取れない。

でも、声の調子だけははっきりわかった。

 

柔らかくて、どこか弾んでいて。

……笑ってる?

 

僕は音を立てないように立ち上がり、廊下に足を踏み出した。

薄暗い中、洗面所の奥から母さんの声がかすかに漏れていた。

 

「うん、そうだね。……でも、それはちょっと困るかな」

 

間。

そして、小さな笑い声。

 

「えー、ほんとに? ……ふふ、じゃあ、またね」

 

その直後、足音がして母さんが戻ってきた。

僕は慌ててソファに戻り、テレビに目を向けたふりをする。

 

「……誰から?」

 

咄嗟に出た声は、思ったより冷たく響いてしまった。

 

母さんは一瞬だけ動きを止め、それから柔らかく笑った。

 

「え? ああ、ちょっとした友達。久しぶりにね」

 

“友達”。

それ以上のことは言わなかった。

聞き返そうと思えばできた。

でも僕は黙って頷いた。

 

母さんはソファに戻り、テレビに視線を戻した。

でも、明らかにさっきまでとは表情が違っていた。

なにかを――確かに、隠している。

 

そして僕は、その“なにか”が、知らない男の名前と結びついている気がして仕方なかった。

 

 

その日は土曜日だった。

昼過ぎ、家には僕と母さんのふたりだけ。

母さんは庭の植木の剪定をしていて、汗をぬぐいながら「冷たいお茶でも入れといて」と笑って言った。

 

僕は台所に向かい、冷蔵庫から麦茶を取り出した。

グラスを用意していると、背後のテーブルの上に母さんのスマホが置かれているのが目に入った。

 

またロック画面に通知が浮かんでいた。

「タカハシさん:今日はありがとう。また会えて嬉しかった」

 

鼓動が一気に早くなった。

 

“また”――?

会った? いつ? どこで?

 

その瞬間だった。

スマホが、軽く“ピッ”と音を立ててロック解除された。

 

驚いて覗き込むと、画面がそのまま開いていた。

 

母さんは、スマホのロックを解除したままにしていたらしい。

ポケットに入れてた状態から自動解除されたのかもしれない。

 

指が、勝手に動いていた。

LINEのトーク画面をタップする。

タカハシさんとの会話が、そこにあった。

 

⸻

 

タカハシさん(昨日 22:34)

「無事に帰れましたか? あのあと、少し名残惜しかったです」

 

母(22:40)

「無事に。ありがとう。私も……ちょっとだけ、そんな気持ちになってしまいました」

 

タカハシさん(22:42)

「“ちょっとだけ”ですか?笑

本当は、もう少し一緒にいたかったでしょう?」

 

母(22:44)

「ふふ、そうね。もしあの子がいなかったら、もう少し歩いたかも」

 

⸻

 

僕の指先が震えた。

 

“あの子”。

それは、きっと――僕のことだ。

 

言葉が、目の奥に突き刺さった。

 

笑ってる絵文字、語尾に付いた「ふふ」という言葉、

少しだけ崩れた母さんの言葉遣い。

 

こんなの、僕は知らない。

母さんは、僕の前ではこんなふうに誰かと話さない。

 

僕は、見てはいけないものを見てしまった。

いや、もっと正確に言えば――

知ってしまったかったくせに、知ってしまったことを悔やんでいた。

 

スマホをテーブルに戻すと、手のひらがじっとり汗ばんでいた。

 

玄関の戸が開く音がした。

庭から戻ってきた母さんの足音が、こちらに向かってくる。

 

僕は振り返ることができなかった。

背中に母さんの気配を感じながら、冷たい麦茶をグラスに注いだ。

 

「ごめん、お待たせ。暑かった~」

 

母さんは、変わらず笑っていた。

 

でも僕は、その笑顔の裏にある“誰か”との繋がりを、

知ってしまった。

 

 

日曜の朝、母さんは早起きしていた。

 

「ちょっと出かけてくるね」

そう言ったのは、9時前。

 

「どこ行くの?」と訊いた僕に、母さんは一瞬だけ間を置いて、

「うーん、ちょっと買い物と、用事もあって」と答えた。

 

嘘ではないのかもしれない。

でも、なにか“はぐらかされた”ような感覚が残った。

 

それより――

昨夜、母さんのスマホに届いていた**「13時に、いつもの駅の改札前で」**というメッセージが、頭から離れなかった。

 

“いつもの”という言葉がひどく生々しくて、

それが僕の中で、何かを決定的にしてしまった。

 

⸻

 

午後12時45分、僕は駅の向かいにあるコンビニの前に立っていた。

 

帽子を目深にかぶり、マスクもつけた。

母さんが気づくはずがない。

そう信じようとしながらも、心臓の鼓動は耳の奥で鳴り響いていた。

 

12時57分。

母さんが現れた。

 

白いブラウスにベージュのスカート、少しだけヒールのある靴。

メイクも、僕の知っている“ふだんの母さん”より丁寧で、

髪も軽く巻いてあった。

 

駅へ向かう人の中にいても、どこか浮いて見えた。

大人っぽくて、綺麗で――でも、遠かった。

 

13時ちょうど。

改札の前に、ひとりの男が現れた。

 

濃いグレーのジャケット、細身のジーンズ。

髪は短く整えてあって、身なりは清潔。

母さんより少し年下に見える。

 

彼が軽く手を挙げる。

母さんが小さく会釈して、自然にその隣に立った。

 

二人はそのまま、言葉を交わしながら並んで歩き出した。

まるで――何度もそうしてきたかのように。

 

僕は無意識に足を動かしていた。

少し距離を取りながら、彼らの後を追った。

 

手はつながない。

けれど、足取りは軽く、どこか楽しげだった。

 

歩きながら、母さんが笑った。

その横顔を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

 

あんな顔、僕の前では――見たことがない。

 

 

二人は駅前の広場を抜け、少し奥まった通りへ入っていった。

 

このあたりは、雑誌で見かけるような小さなカフェや雑貨屋が並んでいる。

母さんがよく来る場所だとは、知らなかった。

 

やがて二人は、ビルの一階にあるガラス張りのカフェに入っていった。

外観は落ち着いたグレーと木目調で、観葉植物が入り口を飾っている。

店名は英語。

僕には読めなかった。

 

僕は角を一つ曲がり、反対側の歩道から店の窓越しに中を覗いた。

外の木陰に立ち、柱の影からそっと中を見る。

 

――いた。

 

窓際の席、向かい合って座る母さんと男。

距離は近すぎず、でも他人には見えなかった。

 

男がメニューを指しながら何か話すと、母さんがうなずいて笑った。

その笑顔に、思わず息が止まった。

 

こんな顔、いつぶりだろう。

母さんが“誰か”と一緒にいて、こんなふうに表情を緩めてるのを、

僕は知らなかった。

 

注文を終えると、母さんはカップに口をつけながら、ゆっくりと話し始めた。

男の顔を見るその目は、やわらかくて、どこか照れているようだった。

 

僕は、立ちすくんでいた。

冷房の効いたカフェの中と、むしむしと暑い外気の温度差。

それが妙に現実と心の距離を際立たせていた。

 

店のガラス越しに、二人の世界があった。

 

僕の知らない母さんが、そこにいた。

 

笑って、頷いて、ときおり伏し目がちに視線を落とす。

女の人だった。

 

僕の母ではなく、

“誰かの気を引いている女の人”。

 

喉の奥が焼けるように熱くなって、

僕はその場から目を逸らした。

 

 

カフェの窓越しに見た二人の姿は、僕の胸の奥をかき乱したままだった。

 

やがて、二人は立ち上がり、外へと出ていった。

 

夕暮れが近づく街角に、二人の影が長く伸びる。

 

男は軽く母さんの腕に触れ、母さんは驚いたように一瞬息を呑んだ。

その後、微かに笑みを浮かべて、手を引くでもなく、ただ柔らかく腕を絡めた。

 

僕は足音を押し殺しながら、距離を保って後を追った。

 

二人の会話は聞こえないけれど、表情でわかる。

 

笑顔。たまに見せる真剣な眼差し。

時折、男が優しく母さんの髪を撫でる仕草もあった。

 

「こんな顔、僕は見たくなかったのかもしれない」

 

心のどこかで呟いたその言葉に、驚いた。

 

でも本当だ。

どんなに母さんが幸せそうでも、僕にはそれが苦しくて仕方なかった。

 

通りの角を曲がり、二人は少し静かな路地へ入っていった。

 

男はそっと母さんの手を握った。

 

母さんは恥ずかしそうに顔を伏せ、そっと笑った。

 

僕はその瞬間、背中に冷たいものが流れた気がした。

 

それでも、僕はその場を離れられなかった。

真実を知りたい。

理由もわからず、ただ知りたかった。

 

路地の灯りが二人を照らし、

僕は影の中で息を殺していた。

 

 

二人が路地を抜けると、街の喧騒は少しずつ遠ざかっていった。

灯りもまばらになり、通りには人影もほとんどなくなっていた。

 

母さんの手を握った男は、軽やかな足取りで歩く。

母さんも少し疲れたのか、少し歩幅を合わせていた。

 

僕はできるだけ距離を取りながら、その後ろ姿を追った。

心臓が高鳴るのを抑えきれず、呼吸を整えるのに必死だった。

 

やがて、二人がたどり着いたのは、古いマンションの一室だった。

 

入り口には小さな表札もなく、

ドアには簡素な鍵穴だけがぽつんと開いている。

 

男は鍵を取り出し、スムーズにドアを開けた。

母さんは一瞬ためらったように見えたが、すぐに男の後について中へ入った。

 

僕は少し離れたベンチの影に身を隠し、

その部屋の前でしばらく立ち止まった。

 

何も知らずに暮らしてきた自分が、

突然、この知られざる空間の存在を知ってしまったことが、

信じられない気持ちでいっぱいだった。

 

中からは、かすかに笑い声が聞こえた。

それは、ただの母と友人の笑い声ではなかった。

もっと親密で、甘い響きを含んでいた。

 

僕は、見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。

でも、目を背けることもできなかった。

 

 

その古びたマンションの前で、僕はしばらく立ち尽くしていた。

冷たい夜風が肌を刺し、背筋をぞくりとさせる。

 

中からはまだ、母さんと男の声が聞こえている。

笑い声も、話し声も、遠くて近い。

 

僕は知らず知らずのうちに、足を動かしていた。

扉のすぐ横にある小さな窓が、薄く光を漏らしているのが見えたからだ。

 

息を殺し、ゆっくりとその窓に近づく。

ガラスは少し汚れていて、曇っている。

だが、目を凝らせば、中の様子がぼんやりと見える。

 

小さなリビングには、落ち着いた色合いのソファが置かれている。

テーブルの上には、二つのグラスと、空になったワインボトル。

 

母さんはソファに腰掛けていた。

膝を揃え、男の方を見上げている。

 

男は少し身を乗り出し、母さんの手に触れようとしていた。

母さんはそれを受け入れるように、そっと手を差し出した。

 

僕はその光景を見て、胸が締め付けられるのを感じた。

でも、まだ知りたい。

なぜ母さんはこんな場所に来て、こんなことをしているのか。

 

遠くで車の音が聞こえ、僕は慌てて身を隠した。

背中が冷たくなり、手のひらに汗がにじむ。

 

このまま見ていていいのか。

でも、知らなければ何も始まらない。

 

僕はもう一度、そっと窓の向こうを覗き込んだ。

 

 

男がそっと母さんの手を握る。

母さんはその手を握り返し、目を閉じた。

 

僕の胸は張り裂けそうだった。

だけど、もっと知りたい気持ちが消えなかった。

 

彼らの秘密は、僕にとって許されざるものだったけれど、

それでも僕は、その真実の一端に触れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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