まさかこんなにも鏡の前で悩み抜くことになるとは、らんま自身も想像していなかった。
「一枚くらい買わねーと不自然だろ」と言い訳をしながら始まった試着は、気がつけば本気の自分探しに。
ポーズを変え、表情を変え、次々とブラジャーを試すうちに、らんまの中に芽生える“ちょっとした感情の変化”。
※1話完結の短編になります。
露出しているAIイラストの挿絵があるため、R18作品としました。
小説には性描写はありません。
「は〜、こーなったら一枚くらい買わねーと……不自然だよな、やっぱ……。」
ため息まじりに、らんまは試着室のカーテンを閉めた。 軽く腕を回しながら、手には新品のブラジャーが数着。
(チッ……下着売り場なんて、何が楽しいんだよ……)
そう思っていた。
本気で、そう思っていたのだ。さっきまでは。
だけど今――鏡の前で、水色のレースブラを身につけた自分の姿をじっと見つめている。
「……ふぅん。意外と、こういうのって……着け心地悪くねぇな……」
胸元を軽く指先で押さえ、形を整えてみる。
そうすると、不思議なくらいしっくりくる。
(……つーか、あれ? この角度から見ると、けっこう……)
腕を上げてみたり、腰に手を当ててみたり。 いつの間にかポーズを変えて、鏡の前でくるくると動いている。
本来なら、試着なんてさっさと終わらせて帰るつもりだった。 「女モードで下着選び」とか、自分の中で一番遠ざけたいイベントのはずだった。
でも──
「……どうせなら、オレのおっぱいに一番、似合うブラを選んでやるぜ」
そう呟く声に、もはや迷いはなかった。
試着室の壁には、ピンク、白、ラベンダー……色とりどりのブラが何枚もかかっている。
もう5着以上は試したはずだ。それなのに、まだ決められない。
「これもいいけど、さっきのやつのほうがフィットしてたか……? でも形はこっちのが……くそ、ややこしいな!」
鏡の前で眉をひそめ、真剣そのもの。
あれこれ悩むうちに、試着室の外から別のお客の話し声や、店員の「ご案内いたします〜」という声が何度か聞こえては消える。
(あの店員、さっきも聞こえた気がする……ってことは……オレ、まだここにいるのか……!?)
一瞬だけ焦るが、すぐにまた鏡に向き直る。
「くっ……ま、まだだ! まだベストが見つかってねぇ!」
開き直ったように声をひそめ、フックから次の一枚を取り上げる。
今度はラベンダー色のブラ。少し大人っぽくて、自分にはどうかと思っていたが──
「……う、うわ、なにこれ……けっこう、イケるじゃん……」
その色合いが、意外にも肌に映えて、鏡の前で自然と微笑みがこぼれる。
自分でも気づかないうちに、ポーズに動きが出て、まるでファッション雑誌のモデルのような仕草になっていた。
(……ああ、こんなんじゃ選べるわけねーよ……!)
らんまは鏡に額をこつんと押し当てて小さくうめいた。
「どうすんだよ……どれも悪くねーし、なんでこんなに悩まなきゃなんねぇんだよ、下着一枚で……」
その声は、最初の「しょうがねぇな」だったらんまとはまるで別人のもの。
目は本気、姿勢は前のめり、鏡の前のらんまは今、完全に“女らんま”だった。
それでも、手はまた次のブラを取っている。 フックから落ちそうになったブラを片手で支え、腰に手を当てて小さく息を吐く。
「……最後に、もう一着だけな……これで決める……たぶん……いや、もしかしたら……」
──そして、試着室の外では、店員が気まずそうに視線を交わしていた。
「まだ……選んでらっしゃるみたいですね……」 「ええ……本気のお客様、ですね……」
カーテンの向こう、鏡に向かうらんまは、まだ悩んでいる。
「乱子ちゃーん、どぉ〜〜?」
「う〜〜ん、もう、ちょっとー。」
-完-
あとがき
今回は、原作にもあったらんまが下着売り場で思わず本気になってしまうシーンを描いてみました。
「試着」や「鏡の前でポーズを取る」なんて行為は、らんまにとっては普段なら避けたいことのはずなのに……気づけば試着にのめり込んでいる。そんなギャップこそ、女らんまの魅力のひとつだと思っています。
きっかけはほんの小さな「しょうがねぇな」だったのに、最終的には「オレにいちばん似合うやつを選ぶ!」と全力になる──
こういうらんま、嫌いじゃないんです。むしろ、ちょっとだけ誇らしげな笑みすら浮かべてくれるような気がして。
今後も、こういった日常寄りのエピソードや、逆にとことん非日常な冒険話まで、いろいろ書いていけたらと思います。
物語にせよ、イラストにせよ、自分なりの“らんま”を、少しずつ形にしていければと思っています。
また公開した際には、よければぜひ読みに来てください。
それでは、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました