内容はタイトル通りです。

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幼馴染の男女が社会人になってから再会し、昔交わした賭けが引き分けに終わる話

「だるー……6月なのに真夏じゃねーか、梅雨どこ行ったんだよ」

 

 社会人になって2年目。

 電車から降りてすぐの空気のうだるような暑さに嫌気がさしていた。

 

 都心まで電車で1時間、ベッドタウンで借りた部屋から通勤する毎日にこの暑さで疲れ気味だ。

 学生時代から住み続けているが、もっと会社の近くで借りたいところだ。

 だが安月給では都内に住むなど不可能だし、引っ越し代だってバカにならない。

 

 特に最近は外国人の影響なのかやたら家賃が上がってきてる。

 

 田舎を出て東京の大学に進学し、そのまま成り行きで都内の会社に就職したが、別に何か夢や野望を抱いているわけでもない。

 

「はぁ……田舎で就職していた方が良かったかなぁ」

 

 就職してからは一度も帰ってないが、大学の頃はごくたまに田舎に帰って友人と会い、旧交を温めたりしてたが、あの中に埋もれるのもなぁ……と思ったりもする自分の中途半端さにため息が出る。

 

 電車のホームを歩き、階段を下りる。

 今日は週末、金曜日の夜だ。

 

 これだけ暑いのならビールはさぞ美味く感じるだろう。

 

 俺は駅の改札を抜け併設されてるスーパーマーケットに足を向けた。

 ここはベッドタウンで都心のような喧騒はないが、そのぶん生活はし易い。

 

 買い物カゴを片手にぼんやりと店内を歩く。

 特売の豚肉、カット野菜に食パンをカゴに放り込んでいく。

 

 そして今夜のビールにつまみだ。

 鶏の唐揚げにゲソ、茹でた枝豆、最後に酒のコーナーでビール6缶1パックを掴んだところで、ふと、見覚えのある女性が視界の隅を掠めたような気がした。

 

 んん!?

 

 慌ててそちらへ顔を向ける。

 棚の特売のパスタソースに手を伸ばしている女がいた。肩まで伸びた髪を邪魔にならないように後ろで一つに結んでいる。

 美人というほどではないが、見慣れた横顔。

 

 だがそんなはずはない。

 高校を卒業して以来もう5年は顔を見ていないがあいつは確か地元に就職したはずだ。

 

 他人の空似か?

 いやむしろ5年もたっているんだ、きっと容姿だって変わってる。

 

 女性を見つめたまま固まっていると、その女性がこちらを見た。

 女性の眼が真ん丸に見開かれた。

 

「みっちー!? 何してんの、こんなところで!」

 

「それは俺のセリフだっての! お前こそなんでこんなところにいるんだよ、実里」

 

 懐かしさのあまり、俺は幼馴染に駆け寄った。

 みっちーとは俺こと道之の名前を彼女が昔からそう呼んでいるあだ名だ。

 

 そして彼女は山下(やました)実里(みのり)。

 実家は道路を挟んで向かいの家で、幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒だった。

 

 俺の記憶の中の彼女は制服姿の頃で止まっている。

 陽に焼けて、褐色の肌でいつも快活に笑っていた。

 

 目の前の実里はあの頃より少し大人びて、だけど笑った時に少しだけ下がる目尻の感じが驚くほど変わっていなかった。

 

「こっちで再就職したの」

 

「はぁ!? いつ?」

 

「この春からだよ、まだ3ヶ月たってないかな。あんたは?」

 

「いや、俺は大学の時からずっとここだよ」

 

 矢継ぎ早に言葉を交わす。

 

 周囲の買い物客の視線も気にせず互いの顔をまじまじと見つめ合った。

 5年の空白が嘘みたいに一瞬で埋まっていく。実里の買い物カゴには惣菜のパックと缶ビールが数本。俺のカゴには、総菜とツマミとビール1パック。

 

 お互いの買い物カゴを覗きこみ、なんだかおかしくて笑いが込み上げてきた。

 

「うわ、マジかよ」 

「びっくりだね」

 

 どちらからともなく、ふはっと息が漏れた。

 気付けば二人の間には昔と少しも変わらない空気が流れていた。まるで、昨日もこうしてくだらない話をしていたかのように。

 

「なあ、実里。この後暇か?」 

「暇ッ!」

 

 俺の問いかけに実里は間髪入れずに答えた。

 食いつきが良すぎて笑ってしまいそうになる。

 

 即答ぶりが、あまりにも実里らしかった。

 

「じゃあ飲みに行かねえ?」

「行く! みっちーの奢りだよね!」

 

 実里が悪戯っぽく笑う。その笑顔は昔の記憶を鮮やかにフラッシュバックさせた。

 実里とレジに一緒に並びながら話が止まらない。話すことがいくらでもある。

 

 会計を済ませた買い物袋をそれぞれの片手に提げたまま、まるで高校の帰りにコンビニに寄るみたいに自然に駅前の居酒屋の、古びた引き戸に手をかけた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「とりあえず、生で!」

「あたしも生で!」

「はい、ご注文は生二丁!」

 

 威勢のいい店員の声が響く。賑やかな居酒屋の隅のテーブル席。

 

 俺と実里は買い物袋を足元に置くと、ほとんど同時にメニューも開かずビールを注文した。

 すぐに運ばれてきた中ジョッキを、ガツンと景気良くぶつけ合う。

 

「再会に、乾杯!」

「再会に、乾ぱぁい!!」

 

 声が微妙にハモって、実里と顔を見合わせて噴き出した。

 ジョッキを傾けると冷たいビールが喉を滑り落ちていく。仕事でどこか疲れていた神経が黄金色の液体にじわりと溶かされていく。

 

「ぷはーっ! うまっ!」

「ああ、めっちゃ美味い」

 

 ジョッキをテーブルに置いた実里が満足げに息を吐く。唇の周りにビールの泡が付いている。

 その仕草のあまりの自然さに、変わったようで変わっていない実里の姿に安心感を覚える。

 

「いやー、びっくりした。あんた、全然変わんないね」

「お前もな。雰囲気は大人っぽくなったけど、中身はまんまだろ」

 

 枝豆と唐揚げ、だし巻き卵。手近なメニューを適当に頼み、喋り続けた。

 話題は自然と共有している記憶へと遡っていく。

 

「そうだ、実里。あれ覚えてる? 小学校2年の時、給食の牛乳パック投げ合い事件」

 

「覚えてるよ。みっちー、巻き添え食って半ベソかいてたじゃん。手洗い場でみっちーの服脱がして洗ってあげたのあたしだし」

 

「あーあれ酷かったよな。とんだとばっちりだった。ってか泣いてねーよ」

 

「何いってんの、めちゃくちゃ泣いてたじゃん」

 

「あれ? そうだっけ? よく覚えてるなー」

 

「みっちーのこと忘れるわけないじゃーん」

 

 そう言って実里が笑う。

 そしてぐいっとジョッキを傾ける。

 

 いい飲みっぷりだ。

 だけど俺の泣いているところだけ覚えられてるのはシャクだ。

 

「じゃあ中学の時の体育祭はどうだよ? 二人三脚で派手にすっ転んだ時、実里泣いたじゃん」

 

「アレ転んだのはみっちーのせいじゃん。右、左、って言ってるのに、同じ足出すんだもん」

 

「違うだろ。アレは実里が俺の腰に手を回さなかったせいじゃないか。二人三脚なんかくっつかないとスピードでないだろ」

 

「早さと転んだ理由は別でしょー?」

 

「まぁ……確かに」

 

 ぐいっとジョッキを呷る。

 

「店員さーん、生、もういっちょ!」

 

「はーい、喜んで」

 

 いかん、形勢が悪い。

 幼馴染はこういう時タチが悪い。

 

「高校は……」

 

 と、言いかけて。

 

「あたし、看護学校に進学したからみっちーとは別でしょ?」

 

「……そうだったな」

 

 幼稚園からずっと一緒だったのに。

 

 あれ?

 俺、なんか忘れてるぞ?

 なんだっけ?

 

 アルコールで頭が鈍っている。

 

 ……ダメだ、思い出せん。

 

「……んで、なんでこっち来たんだよ。地元の市民病院で働いてるって聞いてたけど」

 

「んー、なんかセクハラが酷くって」

 

「セクハラ!?」

 

「あー、そんなたいしたことないんだけどね」

 

 ビールジョッキを傾けながら、実里はあっけらかんと言う。

 

「まー、あたしのことは良いじゃん。みっちーは? 地元に帰って来ないくらいこっちが楽しかったの?」

 

「楽しいかと言われると……まあ、普通かなぁ」

 

「なんで帰って来なかったの?」

 

「んー……なんだっけ? 理由があったような、無かったような」

 

 そうだ。

 何か理由があったはずなんだ。

 

「なにそれ」

 

 ぷくっと頬を膨らませた実里の仕草に懐かしさを感じながら俺はジョッキに残ってたビールを一気に飲み干した。

 

「店員さん、生もういっちょ」

 

「みっちー、休みの日とか何してんの? どっか出掛けたりしてる?」

 

「んー、今日みたいに仕事して帰って来て……休みの日は掃除して選択してゴロゴロしたり買い物行くくらい」

 

 俺の答えに実里は「ふぅん」と相槌を打った。

 納得して無さそうだ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気づけば、空になったジョッキや結構な数の皿がテーブルに並んでいた。

 時刻はは22時を回っていた。

 

「あー、結構飲んだな。実里は明日大丈夫なのか?」

 

「明日休みだからいいのー」

 

 呂律が怪しくなってきた実里がへらへらと笑う。

 

「……うん、ダメっぽいな」

 

 これ以上飲ませたら家まで帰れるか大分怪しい。

 そういうわけでお開きにしようかと会計を済ませ、少しふらつく足取りで店の外に出る。

 ひんやりとした夜風が火照った顔に心地よかった。

 

「かなり飲んだけど、一人で大丈夫か?」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ」

 

「……大丈夫じゃなさそうだな。送っていくよ」

 

 この街治安が悪いとかはないが、実里のこの調子じゃ、道端で転がって眠ってしまいかねん。

 超ガサツだからなコイツ。

 

 正直もうちょっと語り合いたかったところだ。

 飲みながら連絡先は交換したので、これからいつでも会おうと思えば会えるし話せるんだろうけど。

 最寄り駅が一緒なら、同じ町内だしな。

 

「で、実里んちどっちよ?」

 

「こっちよー」

 

 居酒屋の前の道路を実里が西に向かって歩き出した。

 

「そっちか。俺んちもそっちだよ」

 

「へー」

 

 連れ立って歩き出す。

 懐かしい。

 実里に歩幅を合わせるのは久しぶりだ。

 

「ねー、おばさんに連絡取ってる?」

 

 実里の言うおばさんとはつまり俺の母親のことだ。

 

「……まあ偶にかなぁ」

 

「連絡が少ないって愚痴ってるよ?」

 

「あー、そうなん?」

 

 駅から西にまっすぐ進み、交差点で南に曲がる。

 実里の進む方向に合わせて足を進める。

 

 というか、俺のいつもの帰り道だ。

 実里もこっちに住んでるのか。

 

 そこから斜めに進む道に沿って歩くと4階建てのワンルームマンションが建っているのが見えた。

 俺が学生時代から住み続けてるマンションだ。

 

「わりぃ、実は俺んちココなんだ。実里は?」

 

「あたし、この道の向かいに建ってるレジエンス山辺ってアパートだよ?」

 

「へ? この白い建物(やつ)?」

 

「そう、この3階」

 

「マジかよ。すぐ傍じゃないか」

 

 なんだそりゃ。

 

「あっはっは! 本当になんだそりゃ!」

 

 抑えきれなくなって思わず笑い出した。

 地元でも向かいの家同士で、こっちでもそうなのか。

 

「ほんと奇遇ねー」

 

 実里も苦笑いしている。

 こんなに近いのなら遠慮いらないな。

 

 実里もそう思ったのだろう。

 

「ねえ、みっちー? まだ飲み足りなくない?」

 

「ああ、まだ飲めるぞ。ビールもツマミもあるしな」

 

「じゃあ、みっちーんちで飲も」

 

 実里がいたずらっぽく笑いながら言う。

 

「おし、寄ってけ。散らかってるけど文句言うなよ」

 

 実際他人を招けるような状態ではないが実里なら全然構わないだろう。

 階段を昇って二階に上がる。

 昇ってすぐの扉の鍵を開けて振り返った。

 

「本当に散らかってるからな?」

 

 念を押す。

 

「知ってる知ってる。みっちー昔からそうだもんね」

 

 まあ中学くらいまではお互いの部屋を行き来してたしな。

 日曜日にわざわざ俺の部屋の片づけとかしてたしそりゃそうか。

 

 玄関で靴を脱いだ実里が俺の部屋を覗いて「うわっ……」と固まる。

 

「おい、そこまで酷くないだろ!」

 

「まあ、お約束ってやつ?」

 

 そう言って実里が笑う。

 

「まあ遠慮せず上がれよ」

 

 カバンを床に置く。

 普段ならここで服を着替えるんだが、今日はこのままだ。

 

 冷蔵庫から缶ビールを取り出しつつ冷凍室に買ってきたばかりのビールを放り込む。

 皿の上にこちらも買ってきたばかりの唐揚げや総菜を盛り付ける。

 

 小さなテーブルしかないが、まあなんとかなるだろ。

 テーブルに缶ビールとツマミ盛り合わせを置きながら、振り返ると実里が洗面台の下の扉を開けて何か探していた。

 

「実里、何探してんの?」

 

「あー、クレンジングオイルとかない? 化粧落としに使うやつ」

 

「そんな気の利いたもんが俺の部屋にあるわけないだろ?」

 

「そっかー、無いのかー。もう夜遅いし、落とさないと肌荒れちゃうんだよねー」

 

「ねーもんはねーから諦めろよ」

 

「んー」

 

 今度は洗面台に置きっぱなしのコップと歯ブラシを弄り始めた実里。

 

 何してんだコイツ、酔っ払いか?

 うん、酔っ払いだったな。

 

「それよりビールの準備できてるぞ」

 

「あ、飲むー」

 

 缶ビールを受け取った実里がプルタブを引き、プシュッと音を立てる。

 

「コップいるか?」

 

「いらなーい」

 

「だろうな」

 

 俺も缶ビールを開ける。

 

「お向かいさんに乾杯」

 

「お向かいさんに」

 

 笑顔で缶をぶつけ合い、実里がグビグビグビとビールを一気に開ける。

 

「おいおい、ペース速いな」

 

「へへー」

 

 会った時からご機嫌だったが、俺の部屋に来てから更に実里の機嫌が良くなってる。

 

 この感覚、ほんと懐かしいな。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……おい、大丈夫か?」

 

「んー」

 

 実里が床に寝そべったまま動かなくなった。

 買ってきたビールも全部飲んじまったからな。

 

 すげーハイペースだったから当然こうなるか。

 いや、俺も付き合ったせいで相当ヤバイが。

 

「どうせ向かいだし、肩貸してやるから送るぞ?」

 

「すー……」

 

 あ、寝ちまったぞ、こいつ。

 いや、俺も視界がグラグラ揺れるし、道路挟んで向かいと言っても外に出るのは危ないかもしれん。階段でひっくり返って大怪我とか洒落にならん。

 

 でもこのまま床で寝かせるわけにもいかんしなぁ。

 

 俺のベッドは堅めのマットにタオルケットだ。

 女性を寝かせるには向いてないと思うが仕方ない、後で文句言うなよ。

 

 その代わり俺は床で寝るんだから。

 

 念のため眠ってしまった実里のほっぺたを指先でトントンと叩く。

 

「おーい……やっぱダメか。反応が無い。完全に寝てやがるな」

 

 まったく、服が皺になっても知らねーぞ。

 

 実里を起こすのは諦めて、俺はベルトをカチャカチャ鳴らしながらズボンを脱ぐ。

 動きの怪しい指先でなんとかワイシャツも脱ぐ。ワイシャツを洗濯カゴに放り込み、ズボンはハンガーにかけたところでガタっと音が鳴ったので振り向いた。

 

「!?」

 

 姿勢の崩れた実里の両足がバカっと開いていた。

 スカートなのでパンツまで丸見えになってる。

 

「紫か……」

 

 スゲーの穿くようになったな、こいつ。

 いや、実里も24歳だしコレが普通か。

 

 ……まあ俺も24歳だが。

 

 むっちりとした太ももが完全に露わになり、その最奥で紫色の生地が食い込んで形が浮かび上がっていた。

 

「…………」

 

 そっと伸ばした手で実里の足首に触れると、ビクンと実里の身体が震えた。

 慌てて実里の顔を見ると、しっかり眠ったままだった。

 

 大量のアルコールで顔が赤く染まっている。

 多分、俺の顔も似たようなことになってるだろう。

 

「──よっ!!」

 

 膝の裏に手を差し入れ、もう片方の手で脇を持つ。

 

 酔っぱらいの馬鹿力で実里を抱えあげ、ベッドに乗せる。

 乗せた衝撃で実の里の顔が壁側を向いて表情が見えなくなった。

 

 まったく、人の気も知らないでこいつ。

 

 一人用のベッドに二人分の重みがかかり、ギシっと音が鳴る。

 

 実里の胸が上下に動いている。

 記憶の中の10代の頃の実里より意外なほど今は大きくなってる。

 

 シャツが食い込み、膨らみで引き伸ばされたボタンが弾けそうになってる。

 

「…………」

「…………」

 

 実里の顔は壁に向いたままだ。

 寝ているのが分かっていても緊張するな。

 

 俺はそっと手を伸ばして、指先で実里の胸に触れた。

 

 そしてボタンを一つ外す。

 

 窮屈そうにしていた膨らみが少しだけ解放される。

 気のせいか実里の胸が上下する速さが上がった気がする。

 

 シャツの隙間から紫のブラが少し見える。

 昔は白しか付けてなかったのにな。

 

「……ふぅ」

 

 まあ、これで実里もゆっくりと眠れるだろう。

 

 フローリングの床に予備のタオルケットを敷き、俺もゴロンと横になった。

 

 固いな。

 

 だけど大量のアルコールのお陰で、横になった瞬間に俺は意識を手放した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ん……」

 

 目を瞑ったまま意識が覚醒していく。

 いつのまにかうつ伏せになっていたようだ。

 

 なんだが体が動かしにくい。

 

 あれ?

 俺何してたっけ?

 

 えーっと?

 

 ……記憶が戻ってきた。

 

 そうだ、そうだ。

 酒を飲んだんだった。

 

 めっちゃくちゃ飲んだ。

 一晩で飲んだ量としては最高記録だ。

 

 飲み過ぎたか。

 

 起きたばかりなのに身体も疲れているようだ。

 

 ベッドに手を付いて顔を起こす。

 手が沈み込んだ。

 

 あれ?

 

 俺のベッド、こんなに柔らかかったっけな?

 

「ん?」

 

 俺、床で寝てたんじゃなかったっけ?

 

 目を開けると実里の顔があった。

 

「おはよ」

 

「うお! 実里!?」

 

 昨夜の記憶が一気に蘇った。

 

 そうだった、実里に偶然出会って俺の部屋で潰れるまで飲んだんだ。

 

 至近距離すぎる実里から離れようと慌てて体を起こそうとして、手を床に……実里の胸を掴んでいた。

 

「おおおお!?」

 

「もう、なに驚いてるの?」

 

 実里が裸の胸を俺に掴まれてるのに焦っても驚いてもいない。

 

「ちょっと待って、ちょっと待って! なんでお前裸なんだよ!」

 

「みっちーも裸だけど?」

 

 見ると俺も服を着ていなかった。

 上半身だけじゃない。

 下半身も人肌に触れている感触がある。

 

「ウソ!?」

 

 飛び跳ねるように起きようとして、腰が実里に密着して離れないことに気づいた。

 実里の足が俺の腰を挟み込んでいるのだ。

 

 カニばさみだ。

 

 それどころか、ガチガチに堅くなった自分のモノがやたら熱くてぬるぬるしてるものに包み込まれている。

 

「おわ! おわわ!? おわーーっ!!!!」

 

「みっちー……朝からそんなに叫んだら近所迷惑だよ?」

 

「おま! おまえこそ! どうしてそんなに落ち着いてるんだ!?」

 

 両足で締め付けられて、腰が実里とより深く密着する。

 生まれて初めて感じる感触に腰から力が抜ける。

 

「くっ! こ、こんな……」

 

 ペニスの先端が柔らかいものに包まれたまま、根本がぎゅっと締め付けられる。

 根元から先端まで密着してくる粘膜の感触が信じられないくらい気持ちがいい。

 

 目の前で実里が少し顔を顰めつつどこか嬉しそうにしている。

 

「みっちー、やっぱり初めてなんだね」

 

 実里のその言葉で一気に思い出した。

 下半身に目を向けるとタオルケットに血がついていた。

 

「あ……」

 

「うん、賭けは引き分けだね」

 

 実里はそう言いつつも勝ち誇った表情だ。

 

「ばっか、おまえ…………あーもう!」

 

 

 

 俺が頭を抱えていると、実里は満足げに笑いながら、裸のままぐっと背伸びをした。

 

「とりあえず、お腹すかない? みっちーの家の冷蔵庫、何が入ってたっけ」

 

 そのあまりに日常的な、昨日までの延長線上にあるような言葉に俺はすべての思考を放棄してただ天を仰いだ。

 


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