※この作品はR-18です。

勇者パーティの性事情   作:ケンタ〜

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勇者パーティの戦い方

 その時、馬車を襲っていたのは、ゴブリンの軍勢だった。

 総数は三十二。

 それは円陣を組んで、馬車を取りかこみながら、まっすぐそこへと襲い掛かっていた。

 

「なんでこんなに数が……ちょっと、多――――」

 

 その瞬間、ゴブリンの先陣が、馬車へとたどり着いた。

 そして彼らの一群が、その身を胎動だせる。

 つまり、大きく跳躍をして、馬車へと襲い掛かろうとしていた。

 

「――――全員、しゃがんで――――」

 

 そう言ったのはランジュの声。

 

 それを合図に、全員が身をかがめ、アンナがネライザを腕に床に伏した。

 

 その一瞬、ライゼンが動き出していた。

 右足を前に踏み込み、腕を体の前で交差させ。

 そして、体中に闘気を、立ち昇らせていた。

 彼の手が閃く。

 

 ――――同時に、十二発の連撃。

 

 木のひしゃげる音。

 彼の手から、闘気の塊が噴出する。

 

 馬車の外壁、その十二か所。

 貫き、吹き飛ばす。

 そこにとりつこうとしていた、十二体のゴブリンを。

 

 卑劣な叫び声をあげて、十と二つの肉塊が宙を舞う。

 

「――――ゴブリンの群れだ!」

 

 直後、ランジュが叫んだ。

 それと同時、勇者は剣を抜き武装する。

 また、それと同時、馬車が大きく揺れた。

 

「ヒヒィィイイーーーーーン」

 

 ガクン

 

「うわあーーーっ」

 

 その叫び声は、馬車の前方。

 馬車の運転手のものだった。

 

 馬二頭にゴブリンがとりついていた。

 馬の首に刃を立て付け、また別の部位にそのぎざぎざした歯を突き立てる。

 

 馬が暴れ、馬車は揺れ、その後ろ蹴りが車の木材をはじき飛ばす。

 

「ぐっ」

 

 それにはじかれ、運転手は腹を抑え馬車の中に倒れこんだ。

 

「運転手さん!」

 

 アンナが叫び声をあげる。

 彼女の腕の中にいるネライザは、訳も分からず縮こまり、目を白黒させていた。

 

 その頃には、メルアとランジュ、ライゼンは馬車から飛び出していた。

 

 三体――――一息でメルアの剣がゴブリンの頸を飛ばした。

 

「ふっ――――」

 

 短い息で、ライゼンの動く腕が小鬼の内臓を貫く。

 

 一方でランジュは馬車の前方へ飛び出し、空に三つの魔方陣を展開していた。

 

「――――第三、『凝集光』」

「ギャッ――――」

 

 馬にとりつく三体のゴブリンが、光の熱戦によって目を貫かれる。

 

 そのすぐあと、馬車全体を包み込むように、淡い光の球体が出現した。

 

 馬車の中で、手を組んだランジュが、その口元で祈りを詠唱し、魔力を立ち上らせる。

 

「こっ、これは――――」

 

 腹を抑えていた運転手。彼の腹に抱えていた痛みが和らぐ。

 馬車を揺らしていた馬もなりをひそめた。首に突き立てられた刃は抜け、そこにあった傷は見る間にふさがっていく。

 

 ――――〈回復の奇跡(セラフェフセ・タ・パーダ)〉――――

 

 勇者パーティの前衛、勇者メルアと戦士ライゼン。そして後衛の魔法使いランジュ。

 

 全員が、馬車の周りを護衛するように展開していた。

 

「――――なんだこの数は……多すぎる……」

 

 メルアがつぶやいた。

 森の真ん中を貫く小さな街道、その左右に広がる森の中に、数えきれないほどの、人の半分ほどの小鬼たちが、わらわらと展開していた。

 

「ゴブリンってこんなに集まるものなのか!?」

「たぶん棟梁がいるよ」

 

 ランジュが声を張り上げる。

 

「そうじゃなきゃ、ゴブリンはこんなに団結しない。人間と同じだ。ライゼンがいなかったら危なかったね。こいつらは魔力が少ないから私の魔力探知じゃ気づけなかった」

 

 ほんの数瞬、ゴブリンと勇者パーティたちがにらみ合う。

 そして、一匹のゴブリンが、高らかに声を上げる。

 

「ギィー―――――ッ!!」

 

 その瞬間、すべてのゴブリンが、何の躊躇もなく襲い掛かった。

 

「――――来るぞ!!」

 

 三十近い数のゴブリンたちが、一斉にとびかかってくる。

 ほぼすべてのゴブリンが、その手に武器を有していた。

 

(こいつら、まさか――――!)

 

 ゴブリンに金属製の武器を作るだけの文明はない。少なくとも人間を襲うような奴らには。

 しかし手にしている武器は鉄製のものばかり。おそらく人間が手にしていたものを奪ったのだろう。

 武器を手にしているかしていないかで奴らの危険度は大きく変わる。人間がそうであるように。

 

「ふっ――――!」

 

 軽い吐息と共に、勇者メルアの剣が閃いた。

 

 一匹の首に剣が通り、鮮血が散る。

 瞬く間に二匹目の体に袈裟がけに、返す刀で三匹目の腕が跳ぶ。

 

「ギ――――――ッ」

 

 悲痛な叫びが森に舞う。

 

 戦士ライゼンに一匹のゴブリンが襲い掛かる。

 

「ふっ」

 

 ドンッ

 

 息とともに、踏み込み。

 ずしっ、と乾いた地面に小さな亀裂が走る。

 

 轟音。それと共に、ゴブリンの腹に小さな拳がめり込んだ。

 

 苦悶の声を発さぬうちに、その体は森の奥へと飛び消えていく。

 また一匹、彼の背後から。

 すでにその気配を拾っているライゼンは、身軽に片足を振り上げ、同時に腰を捻り。

 

 ゴキッ

 

 ゴブリンの頸を、百八十度回転させた。

 どさっ。

 悲惨な方法で絶命した小鬼が地に伏せる。

 

「ん」

 

 ライゼンが空を見上げた。

 そこには、ランジュの姿。

 

(あ、ぱんつ見えそう)

 

 そう思ったのもつかの間。

 彼女の周りに、十門の魔方陣が作り出された。

 ランジュが小さくつぶやいたそれを、ライゼンは耳にしていた。

 

「――――第六階層魔法『殲滅小線(トリーピセ)』」

 

 そこから放たれるのは、それぞれが魔方陣いっぱいの太さを持つ、極太の熱線。

 数千度の光の流れが、十匹のゴブリンを飲み込んだ。

 熱線に飲み込まれたゴブリンは、一瞬で炭の塊と化す。

 叫び声をあげる暇もなく、心臓が止まる暇もなく。

 形を残しながら、生物としての命を失った。

 

 魔方陣がランジュを中心に回転する。

 

 地を焼きながら、木々をなぎ倒しながら、それは森に潜む小鬼たちを無慈悲に追いかけて。

 そして触れたすべてを炭化しながら、この世から消していく。

 生命として最も珍しい炭化と言う死に方を経験しながら、小鬼たちは感慨を覚える間もなく、次々と姿を消していく。

 熱線が収縮して消え、ランジュはゆっくりと地に降り立った。

 

「ふう……そろそろ魔力切れか」

「え? ランジュ、今日は速くないか?」

「三日前さんざん使ったから。あのライゼンのせいでね。まだ回復しきってないんだよ。おなかまだ痛いし」

 

 そう言いながら、ランジュはライゼンへと目を向けた。

 まだゴブリンの数は残っている。

 それらのゴブリンを、ライゼンは難なく相手にしていた。

 

「なら僕も頑張らないと」

 

 メルアが再び、ゴブリンの軍勢に足を踏み入れた。

 ゴブリン――本来、人間よりはるかに劣る。力でも、腕力でも。

 しかしそれは数万年前、まだ人間がゴブリンやほかの動物と同じ、野生の生き物であった時の話。

 文明を作った人間は今や力は衰え、生身でゴブリンに対抗できる存在ではなくなった。

 しかし、野生で生きていた人間ならば、難なく勝てるだろう。

 

 ライゼンの踏み込みが、地を揺らす。

 まるで木を切り倒したかのような轟音の踏み込み。

 そしてこぶしを突き出せば、小鬼の腹を、内臓ごと吹き飛ばす。

 

 一匹のゴブリンが剣を振り下ろす――――

 

「ふっ」

 

 パキンッ

 

 側面から打ったライゼンの手の甲により、それは呆気なく真っ二つになった。

 ゴブリンが一瞬の動揺に硬直する。それがゴブリンの人生最後の感情となった。

 

「ふんっ」

 

 悲惨な音がした。轟音と共に内臓と骨が原型を失い、重要な臓器を貫いて行く音。

 また一匹のゴブリンが、森のあちら側に飲み込まれる。

 

 一方の勇者メルア。

 彼が剣を振ると同時に、ゴブリンの武器ははじかれる。

 それから返す刀で、鮮血が散る。

 

(この程度の相手なら、さすがに全く問題はないか――――ん?)

 

 その時、場を傍観していたぴくりとランジュの耳が動いた。

 人のそれより倍以上も大きな耳は、ライゼン以上に遠くの音を捉えられる。

 

「そろそろかな。おーい、ライゼン」

「ん? なに?」

 

 ゴブリンと相対したまま、ライゼンは返事をした。

 

「これ以上は不毛だ。そろそろ次の奴らが来る。追い払ってほしい」

 

 それを聞いて、ライゼンは眉をしかめた。

 

「ええー、みんな怖がらない?」

「私は大丈夫だから。まあメルアも二回目だし慣れてるでしょ。ね?」

 

 びくっ、とメルアは肩を揺らした。

 

「えっ……まあ。うん。大丈夫だと思う」

「少なくとも私は大丈夫だから。頼んだよ、ライゼン」

「えー、分かったけどさ」

 

 ランジュの耳は捉えていた。

 遠くからまだやってくる、幾十の足音。

 

(うーんさすがにおかしいな、これだけの数は。もう、五十近くを超えている。さすがに棟梁がいても……)

 

 全力まで、魔力探知を研ぎ澄ましてみる。

 しかし、引っかからない。

 これらのゴブリンを従えている存在、それらが持っているはずの膨大な魔力……。

 どこにもない。

 

(何が起きてるんだ?)

 

 ランジュがそう考えている間、ライゼンはゴブリンの一体の首を、彼方の方向へ吹き飛ばしていた。

 とんっ、と一歩、後ろへと下がる。

 それを見たランジュは、馬車の方へと声をかけた。

 

「アンナ、ラブリアの耳をふさいでおいて。運転手は今すぐ馬を馬車から離して!」

「ええっ!? 馬をですか!?」

 

 馬車の運転手が声を上げた。

 

「いいから早く!」

「はっ、はい!」

 

 ライゼンは、身をかがめていた。

 

 その姿を、メルアが見ている。

 その顔は緊張の面持ちだった。

 

 ライゼン全身から、闘気が沸き上がっている。

 ゆらゆらと、天へと立ち上っていくその闘気。

 それが、一気に数倍に膨れ上がった。

 

「はぁああ……」

 

 ライゼンの、喉の奥からあふれ出る声。

 それはいつもの子供のような高い声ではない。

 まるで獣のように、低く、震えた声だった。

 

 ゴブリンの動きが止まった。

 

 闘気は、さらに膨れ上がる。最初の五倍、さらに十倍に。

 

「っ……」

 

 それを見て、メルアは背筋をなぞる、冷たい汗を感じた。

 

「はああああああああ………!」

 

 立ち上る闘気――――

 メルアはそれを見て、身震いをした。

 それはまるで――――巨大な鬼の姿をかたどっているようだった。

 

 かがんでいたライゼンの背が、ゆっくりと、伸びていく。

 いつもの、かわいらしい雰囲気のあるライゼンではなかった。

 

 それは、獣の威嚇。

 奥歯を食いしばり、眉に渾身の力を寄せ、全身に殺意をみなぎらせる。

 その目が、一匹のゴブリンに向けられた。

 

「ギャッ――――」

 

 硬直していたその体が、途端に生気を取り戻したかのように。

 止まっていた間の時間を取り戻すかのように。

 背を向け、そして一目散に走りだした。

 

 鬼の顔が、ぐるり、とほかの場所を向く。

 闘気の矢印が、今度は森の方へと向けられた。

 森の中に潜んでいた小さな鬼たちが、甲高い悲鳴を上げる。

 がさがさっと音を立てて、それらは森の奥へと消えていった。

 

 ランジュの耳が捉えていた。

 近づくゴブリンたちの足音が止まっている。

 そして、背を向け、走りだしている。

 それだけではなかった。

 ゴブリンだけではない。

 鳥も、トカゲも、ウサギも、シカも。

 すべてがこの馬車を中心に、一目散に背を向け走り、もしくは空へと飛び出していた。

 そして、数瞬後には。

 あらゆる生物が、この近くから姿を消していた。

 

 もはや、木々のざわめく音しか聞こえない。

 決着は、それだけ静かにつけられた。

 

×

 

「っ――――はあっ、はあっ、はっ……」

 

 全身が汗だらけだ。

 さっきまで、まるで呼吸もできなかったかのように。

 息が、荒れていた。

 

 身動きが取れない。少しでも動き出せば、腰が抜けてしまいそうなほどに。

 声も、出せなかった。

 

「――――もう十分だよ、ライゼン」

 

 びくっ、と体が反応してしまった。

 振り返ると、ランジュの声だった。

 彼女は全く大丈夫そうだった。いつも通りに、いつものライゼンに接するかのように。

 

 ふっ、と。途端に、全身を圧迫していたような感覚が消え。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 一気に身軽になった。

 ライゼンの方を向くと、彼の体中に立ち上る闘気が凪いでいた。

 ライゼンがこちらを振り向く。

 

「んー……」

 

 いつものライゼン。

 ただ、不機嫌そうに喉を鳴らしていた。

 

「よくやった、ライゼン。もう全員追い払えたよ」

「ねえ、怖がってない? メルアとか……」

「あっ……」

 

 びくり、と体が震えてしまう。

 わかってはいるけど。優しいライゼンのその威嚇が……その『殺意』が、僕らに向いていたわけではない、と言うことは、分かってはいるけど。

 しかし、どうしても……。

 

「いや、ぼくは、その……」

「まあ、ともかく、よくやったよ、ライゼン」

 

 そう言って、ランジュは彼の頭をぽんぽんと撫でた。

 

「えへへ、ありがとう。ランジュ好きー」

 

 不機嫌だった顔が嘘かのように。ライゼンは、にかっと笑顔を見せた。

 そして、ランジュの胸にがしっと抱き着いた。

 

「うっ! だから、折れるッ、折れる……!」

 

 ああ……いつもの風景だ。よかった。本当に怖かった……。

 

 安心感で、体中の力が抜けた。

 危うくへなへなと倒れてしまいそうだった。

 

 そうだ、馬車の中は。

 

「アンナ、無事?」

 

 馬車の中をのぞく。

 最初にライゼンが繰り出した連撃のせいで、中の壁は穴ぼこになってしまっていた。

 その中に、運転手さんとアンナとネライザさんがいる。

 

「ひっ……」

「あ、アンナ……?」

 

 震えている?

 確かにそれも無理は……。

 え。

 泣いてる……?

 

 アンナがカタカタと震えている。そして、頬に涙を垂らしていた。

 そして、その胸の中にいるネライザさん。

 ぎゅっ、とアンナの服を掴んで、おびえる視線を僕へ向けていた。

 

「ふ、二人とも……?」

 

 びくり、と震える。

 

 アンナの顔がはっとなった。

 

「ゆ、ゆしゃっ、さまっ」

「アンナ? 大丈夫か?」

 

 僕は馬車に乗り込んで、アンナに駆け寄った。

 

「すっ、すみませっ、その」

「まさか、これだけ……」

 

 想像以上に、アンナはおびえていた。

 

「アンナ、大丈夫だ。僕も似たようになったから」

「あれっ、ライゼンさっ、ですよね?」

 

 ろれつが、あまり回っていない。

 

「そうだよ。前回はアンナ、経験してなかったか……」

 

 ライゼンの威嚇。

 前回使ったのは一カ月以上前だ。その時は確か僕とランジュとライゼンだけでダンジョンに潜ってた時。その時の一回きり以降、使ったのは二度目。

 あの時も、今回みたいな魔物の群れを追い払うのに使った。

 

「すみ、ませ、腰、ぬけちゃっ……て……」

「大丈夫だ。ゆっくり深呼吸をして。あ、ネライザさんも、大丈夫ですから」

「――、―――――……」

 

 アンナよりひどいのはネライザさんだった。

 そもそも彼女はライゼンが何をするのか全く知らなかったのだから。

 まるで小動物みたいにアンナに抱き着いて、ふるふると震えている。

 

 あとでランジュが説明してくれればいいけど……。

 

「すみません勇者どの、私も……」

「あ、運転手さん……」

 

 運転手さんもそこで横になって動けない様子だった。

 仰向けになった状態でこちらにしゃべりかけてくるという、かなりだらしのない恰好になっていた。

 

「馬は……にげちゃいましたか。すみません」

「いえ、命を助けられていますから……」

 

 運転手さんはゆっくり首を横に振った。

 

「利口な子たちですから、すぐに見つけられるでしょう。というか、その、体を起こすのを手伝ってもらえますかな。この状態だと、その、尊厳がないというか」

「あ、はい。お手伝いします」

 

 体を起こして、馬車の壁にもたれかからせる。

 運転手さんは体中の力こそ抜けちゃってるものの、理性の方は働いているようだ。

 僕も二度目じゃなかったら同じようになっていた自信がある。

 

「それにしても、勇者パーティの前衛とは、すさまじいですな。あれほどのゴブリンの群れが……」

「まったくです」

 

 がたりと音がした。

 見ると、ランジュが乗り込んでくるところだった。

 

「よし、あとはこの馬車を何とかしないとね。メルア、ライゼン、この馬車を道の端によせといて。私は空から馬をさがしてくるから」

「うん、わかった。今行くよ」

 

 とりあえず、今はいろいろと後始末をしなければ。

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