「…………はっ」
…………起きた。
……覚え、てる。
昨日……いや、もう時間感覚がぐちゃぐちゃだけど。
ぼくは、また、アンナと…………。
隣に、感触がある。
僕の腕に触れる、アンナの……。
顔をそちらに向ける。
彼女の寝顔が、そこにはあった。
朝の陽ざしか、昼の陽ざしかも、わからないけど。
あたたかなおひさまの光に照らされて、とてもきれいな彼女の顔が、そこにはあった。
なぜだか、とても晴れやかな気分だった。
昨日とは、まるで違って。
アンナが、とても、綺麗に見えた。
「ん……」
アンナのかわいらしい声が、漏れた。
その寝顔を崩すのがとってももったいなく感じられて、ぼくはしばらく彼女を見つめていた。
淡い色の、つやりと張ったとてもきれいな肌。
きれいにそろった黒いまつげ。
桃色の、みずみずしく柔らかいくちびる。
薄く染まった、彼女の頬。
とても、いとおしく感じた。
なんでだろう。とても、愛らしかった。
……昨晩は、とても無様な様態をさらしたと思う。
欲望の化身みたいな動きをしていた。
ずっと、アンナにしがみついていた。
でも、アンナはずっと受け入れてくれていた。
思い出しても、なぜか後悔はなかった。
すう、すうと小さな寝息をたてるその姿は、とても、綺麗だった。
「んっ……」
びくり、と彼女の目元が動く。
僕は彼女が起きないように、ゆっくりと起きて、それから昨晩しめ忘れていたカーテンをしめた。
彼女を照らしていた陽光がなくなって。
アンナは、再び安堵したように、寝息をたてていた。
ベッドの横から、彼女の姿を眺めてみる。
服も脱いでいなかった。
僕がめちゃくちゃにした、あのやぶれた修道衣のまま。
やぶれた胸の部分から、アンナの大きな双峰が、なににも邪魔されることのなく、ベッドに放りでてしまっている。
そこだけじゃない。背中の部分も僕が破ったんだ。
そして、彼女の背中にしがみつきながら、ずっとその匂いを嗅いで、汗を舌に感じていた。
申し訳ないことをした。
それでも、アンナは受け入れてくれた。
不思議と焦燥はなかった。
罪悪感も、あったけど、深く心に刺さる気分はなかった。
ずっと、アンナは……嬉しそうに、僕の行為を、ただ、ただ、ずっと、受け入れてくれていたのだ。
アンナが起きたら、きっと、お礼を言おう。
そして、汚してしまったアンナの修道衣……あちこち染みだらけで、破れたままになっているそれを何とかしよう。
それから、また旅に出よう。
晴れやかな気持ちだった。
嘘のように、僕の心をきれいにしてくれたアンナ。
ずっと大切にしようと、自然に心に決めていた。
×
がちゃり、と扉が開いた。
「あれ、カギ閉めてないの?」
入ってきたのは、ランジュだった。
僕は、近くの机の椅子に腰かけて、ずっとアンナを待っていた。
一時間ほど待っても、アンナは起きなかった。それも仕方がない。僕がずっと、昼から朝まで、彼女に欲望をぶつけ続けていたのだから。
「ランジュ……おはよう」
「おはよう。また一晩、それで全部出し切ったみたいだね」
「うん……ありがとう」
ランジュには最初から分かっていたのかな……彼女は、ずっと悟ったような雰囲気があった。
ランジュは入って来て、僕の対面の椅子に腰かけた。
「んー、匂いがすごいね」
そう言いつつも、ランジュは顔をしかめるとかもしなかった。
「欲望と愛の匂いがする。ほとんど媚薬だね」
「ごめん、窓開けようか?」
「いや、いいよ。悪い匂いじゃないし」
言いながら、ランジュはぎしり、と椅子に背をもたれかからせた。
「あの、ランジュ」
「ん、なに?」
「結局、また一晩、泊まっちゃう形になったんだけど……」
「お金の話?」
ランジュは眉を吊り上げる。
「いや、そうじゃなくて……。昨日出発だったのに、って」
「いや、一晩じゃなくて二晩だね」
「えっ!?」
思わず声が漏れてしまった。
あわてて口をふさぐ。アンナが起きてしまったら大変だ。
「ど、どいういう……?」
「時系列を整理しようか。私たちが宿に入った日、あるよね?」
「う、うん。一昨日、じゃないの?」
「その次の日、初夜終わった日ね」
「昨日……」
「それとわたしにメルアが精液ぶっかけた日」
「それは本当にごめん」
あの時の僕は、ほんとうにどうかしていた。
「それで、その日のうちに、またアンナとおっぱじめたんでしょ?」
「う、うん…………」
「それも、朝まで」
「あの、なんで分かるんですか……?」
思わず敬語になってしまった。
さっきから、僕らの行動の把握が逐一的確だった。
ランジュと別れてからは、今まで結局一度も会っていないのに……。
それに、この宿屋の防音性能はものすごい。隣の部屋でドラゴンが鳴いたって、伝わらないだろう。
それとも、ランジュの大きな耳ならば、それが分かるのだろうか。
「魔力探知だよ。メルアはともかくアンナは魔力があるからね。どこにいるかは分かるよ。それに魔力の流れもね。いきなり隣の部屋で魔力流れがめっちゃめちゃに乱れ始めたから、『あー、おっぱじめたんだ』ってすぐにわかったよ。まさか一晩中……ていうか、昼から初めて翌日の朝まで続くとは思ってなかったけど」
「そ、そうなんだ……」
「ま、それはおいといて。ともかく、その『翌日の朝』の日が、今日だと思ってるんだよね」
「そうだけど」
「それが、昨日」
ランジュは両手を『それが、昨日』のリズムで上下に動かして見せた。
明らかに少しからかわれているみたいだった。
「そ、そうなの?」
「ていうかよく考えて。昼から朝までって、十何時間ぶっつづけでセックスしてたわけでしょ」
「せっ……うん、まあ」
直接的に言うなあ……。
「それからちょっと寝ただけで疲れとれるわけないでしょ。それからまたずっと寝てたよ。それで翌日。二十時間くらい寝てたかな、メルアは」
「そんなに………」
「十五時間セックスしてそれから二十時間睡眠か……。最高記録かな、今まで見てきた中で」
「……そうなんだ」
ちょっと、自分の行った行為に頭が痛くなってきた。
ほんとに、よくアンナは受け止めてくれたものだ。
ほんとうに、ありがとうを言わないと。
ていうか……。
「なんか……よく、生きてるなって……」
自分でも不思議に思えた。
セッ……性行為という、全身運動を十五時間ずっとやって、それから二十時間も眠る。
水分補給も食事もその間ずっと何も食べない。……まあ、僕はアンナの汗を補給してた、けども。
「うん。普通なら死んでるんじゃないかな」
「……そうだよね」
「アンナに感謝した方がいいよ。すごいよ、あの子は」
ランジュの視線が、ベッドの方に向く。
そこには、まだ寝息をたてるアンナの姿。
「ずっとメルアと自分に祝福かけて、回復できるように調整してたよ」
「えっ……」
「ずっとぶっ続けでセックスできたのおかしいと思わないの? まあずっと腰振ってたのは自前の性欲だけど、体力に関してはアンナのおかげだね。じゃないと途中で腹上死してたと思う」
そ、そうだったんだ。
アンナは、僕のために受け入れてくれただけじゃないくて。
ずっと、僕に気を使って、そこまで…………。
「魔力すっからかんだから長く寝てるみたいだね。まああと数時間くらいしたら起きるかな……ほんと、並みの僧侶じゃむりだよ、こんな芸当」
「アンナ…………」
僕なんて、ずっと余裕なかったのに。
そんな中で、ずっと……。
「おかげですっきりしたでしょ?」
ランジュは、眉をくいっと上げて、僕を見た。
「勇者様?」
「……うん。本当に、すっきりした気分。アンナのおかげだったんだ」
「私も同じ事やろうとして失敗したからね」
「えっ……?」
ランジュも……?
「どういうことなの?」
「ライゼンの相手。結局昨日もずっと相手してたよ……はあ」
「あっ」
よく見ると。
ライゼンの目元には、深い隈ができていた。
そして深いため息だった。
「はあ……。やっと満足してくれたけど……。おなかの中ひりひりする……。子宮つぶれるかと思った……」
ランジュが自らのおなかをさすさすしてみせる。
「一体どういう……」
「一昨日、ライゼンの相手してたって言ってたでしょ。実はあの時も、アンナと同じ感じで、魔法かけて一晩でできるだけ出させようとしたんだけどね……気絶して失敗したんだ」
「気絶……」
「まあ向こうも途中で体力切れて気絶するかと思ってさ。そのままほっといてわたし普通に気絶したんだけど、起きたらライゼンまだ腰振ってたんだよ。自前の性欲と体力で。しかもまだ満足してなくて。魔法で眠らせてようやく何とかしたんだけどね」
「ええ…………?」
耳を疑うほかない。
ずっと止まらず腰を振ってて何だけど、結構きつい行為だったのも覚えてる。途中で何回も意識跳びそうになったことも覚えてる。
それを自前の体力で……。
自分が一回体験しただけに、ものすごくライゼンのやったことがすさまじく感じる。
「まあ、そのあとライゼンが目覚ました後、結局また相手することになって……」
しかも、また続けて相手をしたのか。
「ランジュ、なんでそこまで?」
昨日……じゃないや、一昨日か。
あの時、『聞かないで』とまで言うくらいに嫌だったはずなのに。
すると、ランジュはため息をついて、言ってくれる。
「ほっとくとろくなことにならないからね、ああいう手前は。魔法かけなくても自前で腰振っててくれたからまだましだったかな……はあ……」
ランジュはまたうなだれる。
「アンナすごいよ、ほんと……。気絶どころかずっと楽しんでるみたいだったし」
そういうということは、ランジュは別に楽しくもないのにずっとライゼンの相手をしていたということになる。
そっちの胆力の方がずっとすごく聞こえる。
そもそも嫌なのに体を差し出すって、一体どれだけ疲れるのか見当もつかない。
「もう一人くらい、ライゼンの性処理要員雇った方がいいと思うよ。じゃないと魔王討伐までに私のおなかが擦り切れる」
はあっ、と最後に言って。
ランジュは机に突っ伏した。
「ら、ランジュ、大丈夫?」
「大丈夫に見える? ちょっと寝かして……」
「え、部屋は……」
「ライゼンが寝てるの……。また起きたら犯されるかわかんないから……」
それもそうか。ふつうに考えて嫌だよな、ずっと怖いぐらいに自分を犯し続けてた人と一緒の部屋で寝るの。
「お休み………」
そのままランジュは腕に顔をうずめて、寝息をたてはじめた。
本当にすぐに寝た。もうだいぶ限界だったのだろう。
さすがにこのまま寝かせるのは忍びない。
なので、ランジュを抱っこして、アンナの隣に寝かせた。
……本番に次ぐ本番でぐずぐずになったベッドだけど、仲間のためにずっと頑張った彼女をあんな硬い机で寝させるよりかはマシ、だろう。たぶん。
それにしてもライゼン……。一体、どれだけすごかったんだろうか。
すごくいい仲間だと思っていたんだけど……。
まあ、でも僕も同じか。それまで普通に居たのに、目覚めた途端、ああなってしまった。
ライゼンもきっと、同じ感じなのだろう。
それにしても、あのランジュが……。
たぶん、僕たちの中では、一番の熟練の『冒険者』。
技とか魔法とかもそうだけど、一番冒険者としての技量があるのがランジュだ。
旅の中でもいろんなアドバイスをくれたし、なんなら今回この慰安宿に来たのもそのおかげだ。
そのランジュが、こんなにこっぴどく疲れてしまうなんて。
いくらか、衝撃的だった。彼女のつぶれている姿は見たことがなかっただけに。
ライゼン、今は眠ってるらしいけど……。
起きた時、話をしてみなくちゃ。
✕
「ふぁああああ〜〜〜〜………………」
んっ……んん〜〜〜………………。
よく、ねたぁ………………!
うん、調子がいい。
とてもいい。
なんかすごいスッキリしたような気がする。
なんだったっけ……俺、何したんだっけ。
「ランジュ」
あ、そうだ。
勝手に口に出てた。
そう、確か、ランジュと……。
そう、ランジュがまたさせてくれてたんだ。
「ふふ……」
嬉しいな。大好きなランジュと、一緒になれたのか。
でも、なんかうまく思い出せないな。
たくさんたくさんパンパンしたのは覚えてるんだけどな……。あんまりよく分かんないな。ずっとあたまがぼーっとしてたような……。
ランジュ、どこいったんだろう。
……そうだ。ランジュ、ちょっとイヤイヤだった気もする。
もしかして、傷つけちゃったかな……。
うん、変な気分。
あんまり考えたくないな、ランジュに嫌われるの。
どこいったんだろう、ランジュ。
探そうか。
とりあえず、ベッドから降りよう。
「うわっ」
あれ、脚……力入らない。
抜けちゃった。
うっ……。
がくがくする……筋肉痛かな。
久しぶりだなこんな感覚。どれくらいパンパンしてたんだろう……。
俺がこんなになるなら、ランジュは大丈夫だったのかな。
「ん………」
立てないくらいじゃない。気をつければ、大丈夫か。
とりあえず、外に…………。
がちゃり。
「んっ…………」
匂い……そうだった。慰安宿だった。
みんなパンパンしてる場所だった。いろんな匂いが混じり合ってるな。
たくさん音も聞こえる。みんなやってる……。
ランジュ、どこだろう。
匂い……こんな中じゃわからないか。音…………もわからないか。
人が多すぎて、何もわからない。
うう……。
ランジュ、どこだろう。
はやく会いたい…………凄くさみしい。
メルア、アンナも……。
そういえば、メルアとアンナは隣の部屋にいるんだっけ。
コンコンッ
「メルア、いる?」
ガチャリ
「あ、メルア。おはよう」
「ライゼン? おはよう」
メルアがにこっと笑ってくれる。
「なんか随分とひさしぶりな感じがするね、ライゼン」
「うん……なんかずっとランジュとパンパンしてたからかも。どれくらい寝てたか分かんないくらい」
「ああ……ランジュもそういってたよ。大変だったみたいだね」
メルアが笑う。
でも、何かごまかすみたいな笑い方だった。
ランジュ…………。
「ねえメルア、ランジュどこにいるかわからない?」
「あっ……それは」
やっぱり、何か隠してる。
「ランジュ、中にいるんでしょ?」
「あ、いや……そう、だけど」
……そういうことか。
メルアの身体でここからは部屋の中は見えないけど、大体わかった。ランジュがそこにいるのは感じる。
「ランジュ、寝てるんだね?」
「そ、そう、だね」
「そっか。疲れて寝てるんだ。ずっと僕の相手してくれてたから……」
う……。
心がちょっと変になる。
やっぱり傷つけちゃったんだ。
ずっとパンパンしてたときのことをあんまり覚えてない。ていうことは、ランジュが嫌だって言ってたことも忘れてたのかも。
俺の部屋で寝てなかったってことは、ランジュは俺を避けて寝てるってことなんだ。
「あの、ライゼン、ランジュは」
メルアが何か言おうとしてくれてる。
メルアは優しいから、たぶん慰めようとしてくれてるんだろう。
でも今はなぜか慰めないで欲しい気分だった。
「ねえメルア、俺、どうすればいいかな」
「えっ……?」
「ランジュのことなにもかんがえないでパンパンしちゃってたかもしれない。ランジュのこと好きだったのに、ランジュのことなんにも考えなくって」
「それは……」
もう分かった。メルアが言いよどむってことは、そういうことなんだ。
「俺、ランジュのこと、傷つけちゃった」
「ライゼン、そんなことは……。いや、傷つけちゃったのかもしれないけど、それでもランジュはずっとライゼンのこと考えてたんだよ。大変だったとは言ってたけど……」
「俺、嫌われてないかな?」
「うん……嫌われてはないと思うよ。たぶん……でも、今は休ませてあげたほうがいいと思うよ」
「そっか……」
……メルアは大丈夫といってくれているけれど、なんか変な感じがする。
ランジュが相手をしてくれて、とてもうれしいはずなのに。
なんか、心のそこらへんがもやもやする。
あれだけ楽しかったはずなのに、どうしてだろう。
楽しいことでも、忘れるくらいに気持ちいいことでも、こんな気分になることがあるのか。
「……どうしたらいいかな、俺。ランジュに怒られちゃうかな」
それだけは一番いやだった。
楽しかった俺でもこんな気分になるのなら、ランジュはもしかしたらもっと嫌な気分になっているかもしれない。
「いや、そんなことはないと思うよ」
メルアの両手が、僕の肩をつかんだ。
「大丈夫だ、ライゼン。ランジュはとてもやさしいから」
「うん………」
そういわれても、なんだかあんまり心がはっきりしないけど、やっぱりメルアは優しい。
僕もこんなふうに優しくなれれば、ランジュにももっと……。
「そんなに気にしすぎなくてもいい。僕も似たようなことになっちゃったから……」
「似たような……?」
「ああ……ちょっと恥ずかしいけどね……。アンナとその、したあとに……」
「パンパン?」
「まあ、それだけど……。僕も我慢できなくなっちゃってさ。それでアンナに迷惑かけちゃったんだ」
「メルアも?」
優しいメルアが、そんなことを?
「うん。でも、アンナが頑張って受け止めてくれたんだ。そのおかげで、とてもすっきりできた。だから、ランジュも一緒だと思うよ。ライゼンのためにやってくれたんだから……。まあ、今はふたりとも寝てるけど。起きたらお礼を言わないと」
「お礼……」
「そう。まあ、恥ずかしいし、ほんとはお礼いうようなことじゃないかもしれないんだけどね……」
メルアがまたちょっとごまかすみたいに笑った。
「でも、僕のためにずっと頑張ってくれてたんだから、って思って」
確かに何かありがとうっていうのは変な感じがする。
でも、気持ちよかったし、すっきりしたし、俺のために頑張ってくれてたんだし、確かに、嫌な気分にさせてごめんなさい、っていうよりも、ありがとうの方がいいのかもしれない。
それにメルアがそういうなら、それが正しいんだろう。
「わかった。じゃあ俺もそうする」
すると、メルアは笑顔でうなずいてくれた。
「うん。じゃあ、ちょっと着替えたら町に出て何か食べようか。ライゼン、いま君、素っ裸だし」
「うん、分かった」
身長順 メルア≧アンナ>ランジュ>ライゼン