必ず起こる結果を認識した上で選択してしまうのってえっちだなと思ったので雛形だけ書きました
夏至も暮れ小暑にうつろう時節、仲間内で磯遊びに興じようと秀逸な提案がなされた。特に拒否する理由もなく、楽しそうに話す
水着の購入に誘ってもらったが現金の持ち合わせが無かったことと気恥ずかしさを理由に断ってしまった。
馴染みの管理人に声をかけ、試着する水着を選ぶ
「やはりお付き合いさせて頂くべきだったでしょうか」
無為なことだ。愚かな未練だ。すでに終わった過去を見たところで何の価値があると言うのだろうか。
溜息を無理やり飲み込み、振り切るように視線を泳がせていると一着の水着が目に留まった。
それは白のび、ビキニだ。フリルを施すことによって胸元を隠し、下部もスカートのように誂えている。しかしそれでもビキニであった。普段身につける服に比べて余りにも、余りにも、余りにも心許ない。おなかも出てしまっている。
──だが、私は水着を選んでいる。初めての家族以外との磯遊びに着用する水着を、である。
少し、ほんの少しだけ冒険しているが、折角のレジャーで変わり映えしない服装を身につけるという選択は──そう、先生が仰るところの「火力が低い」という奴だ。 或いは「DPSが出せていない」ということ。
それは、宜しくない。 私の理解が正しければDPSは出せる範囲で最高を目指すべきなのだ、たぶん。
先生はただのあだ名でしかないけれど、色々なことを知っている人だ。
瞑し、深呼吸と合わせて覚悟を決める。
私の能力──未来視で確認作業を行なった上で評判が悪くなければこれを選ぶのも悪くない。
私の未来視は一つの選択を変数として設定し、その結果を観測できる。 ある程度の柔軟性を伴って観測範囲を策定することも可能である。 数種の弱点を勘案した上で尚、最優の能力であると言えるだろう。
手を伸ばし、水着に手をかざす。 少しだけ楽ができること、必須の手順と思い込ませた時のメリットの大きさを勘案し、皆と相談の上で使用と結びつけた動作だ。
『やっ♡ やなのっ♡ およめさん♡ せんせぇのおよめさんがいいっ♡』
……?
なるほど。 やり取りを聞くところによると、どうやら私は生涯をかけて先生専用の何某か──おそらくお嫁さんと類似した概念なのだろう──としてご奉仕する未来を懸命に拒否しているようだ。
私がその、先生と、それも外で、というのもお嫁さんなんて口に出してしまっているのも、甘ったるい声が出てしまっているのも一旦、一旦おいておく。
……これ以上は視ていられない。 こんなのだめです。 わからないことは後で調べてしまえば済むのだからと、未来視を打ち切って現在に帰還する。
「ひゃん♡」
漏れ出た声と共に体が大きく震えて腕をハンガーにぶつけてしまい水着を地に落としてしまった。 カシャン。 大きな音。 少なくとも私の声よりは大きいはずの音。
……問題ない。驚いただけのただの生理的反応だ。 大丈夫、何の問題も存在しない。
力の抜けかけた足に喝を入れ、胸に手を当て深呼吸と共に熱を逃してやる。 視線を巡らせるが、他者の気配は一切感じられない。 当然のことだった。 落ち着け、落ち着け。 最後に一度息を吐いて水着を拾い上げることで、この問題を終結させる。
稚気に満ちた笑みを浮かべた先生の言によるところ、私の未来視は「使われたという事実が最初に決まっている」のだとか。即ち、私が見ることのできる未来は「未来視を使用したという前提の未来」でしかなくそれは全て確定している──未来視によって改変を行った後の未来であるということ。
或いは使用毎に過去の未来視の結果を置き換えている可能性もあるらしいが、観測できない以上はどちらの場合も私の主観に変わりはない。つまるところ、同じ選択の未来を何度観測したとしてもその内容に変化は生じ得ない。
だから、あれは
頬の熱を冷ましながら務めて忘れるように水着を観察していくとまた一つの選択肢を見出すことができた。
フリルがふんだんに取り付けられ、肌も大きく隠れる可愛らしいワンピースの水着。 私の好みに合った水着だ。 変わり映えはしないだろうが変わり映えなど何の価値もなく無駄な概念であると言えるだろう。 肌も隠れている。
これで決定しても良い。 けれど、ほんの少しだけ心に刺さった猜疑心が未来視を使うべきだと主張している。
だが、もしも。 もしもまたあのような……
かぶりを振る。 冷ましたはずの頰があつい。 数分ほどただ睨みつけていたことに気がついて決心を固めた。
「いちおう、いちおうです。 もんだいがあっても、いけませんから」
ワンピースに手を翳し、えいや。と弾みをつけて能力を起動する。
懸念と裏腹に問題は何一つ発生しなかった。
安堵の息。 笑みが溢れた。 今度こそワンピースの水着を手に取って掻き抱く。 そんなはずがないのに暖かいと感じた。
「こちらのワンピースにしましょうか」
一人ごちて試着室に足を進める最中、視線の端に先程の水着が引っかかってしまった。
一つ頷いて私はワンピースと水着を手に試着室へと歩みを進める。
早鐘のように響く音にはきっと気付かなかった。