ケモノガミ――この世界における新たな脅威について調査するため我々は動き出した。未だその生態は謎に包まれているが確かな事も多い。
元の世界に戻る手掛かりが彼らにある為に、他の友好的なケモノガミに接触するのは必須課題だと判断されていた。その目的に最も適した人物として選ばれたのが俺と氷室だった。
彼は冷静沈着で状況判断能力が高い。特に感情に流されない安定性から今回の探索任務を託されることになったのだ。
対して俺は体力面で補佐役を担当することとなった。
早朝から荷物をまとめ出発した我々は深い森へ向かった。木々は異常に巨大で枝葉が密集しており陽光さえ遮られるほどだ。地面には枯葉が積もり苔むした岩肌が露出している箇所も散見された。
「静かだな」
ぽつりと呟いた氷室。確かに普段ならば鳥のさえずりや昆虫の羽音ぐらい聞こえるはずなのに不自然なくらい静寂が支配している。
その理由はすぐに判明した──足元に散らばる異形の痕跡たちだ。鋭い牙で引き裂かれたと思われるケモノガミの遺骸。地面に刻まれた謎の模様。これらを見る限りこの森が安全地帯ではないことを証明している。
「注意して進め」
氷室が短く指示を飛ばすと周囲を見回しながら歩を進める。
森の中を進む静寂を破ったのは意外な問いだった。
「あのさ……」
氷室が足を止め、前方を警戒しながら口を開く。鋭い目つきは周囲へ向けられたままだったが確かに俺へ向けられた言葉だった。
「最近、やけに女性陣と親密になってない?」
唐突すぎる発言に胸が跳ねる。平静を装いながら何気なく答える。
「どういう意味だよ」
「別に。ただ気になっただけだ」
短く返された言葉には抑揚がない。しかし背筋に冷たいものが走った。
「俺のこと……ヤリチンとか思ってるのか?」
意を決して尋ねると氷室はこちらを見ることなく静かに答えた。
「わからない。でも君の態度は変わったと思う」
その一言に息が詰まった。異世界へ来てからの変貌ぶりは確かに自覚していたがまさか第三者に指摘されるとは思わなかった。
「違う! 俺はそんな軽い奴じゃねぇ!」
自分でも驚くほどの大声で否定すると氷室の肩が微かに揺れた。慌てて口を塞いで周囲を見渡す。幸い森の静けさは崩れていなかったが胸中には動揺が渦巻いていた。
「本当か? この世界に来てから毎晩いろんな女の子と過ごしてるじゃないか」
淡々とした口調ながらも追及の手を緩めない彼に苛立ちを覚えつつも冷静に対処しようとした。
「元の世界では女の子と付き合ったこともない。キスどころかデートすらしたことなかったんだ」
懺悔にも近い告白に氷室は一瞬眉根を寄せたようだったが何も言わず再び歩き始めた。
その後もしばらく無言の時間が続いた後、再び口を開いたのは彼の方だった。
「それでも君は今、彼女達とそういう関係になったんだろう? なぜだ?」
その問いには答えられなかった。正直自分でも不思議だった。なぜ今まで縁遠かったことに今は臆することなく飛び込めるのか。
「・・・というよりも、見ていたのか」
「まぁね、僕はそういうのには敏感なんだよ」
氷室は苦笑混じりにそう言った後、「でも君だけじゃない」と付け加えた。
「みんなそれぞれ変化してる。この環境がそうさせるんだろう」
その言葉にはどこか諦観にも似た響きがあった。それでも氷室は前進を止めず先導し続ける。
俺もまた彼の背中を見つめながら歩いていくしかないのだろうか。
「これも色欲の力か、だが、それならば何が目的だ、彼女は」
「氷室?」
「なんでもない、とにかく、今は」
そうしていると、氷室は、周囲を見る。
「・・・見られている」
「あぁ、ギルモンっ」
それと共に、俺達は互いに背中を合わせるようにする。
同時に、こちらを見ていた奴に向かって、ギルモンはすぐにファイヤーボールを放つ準備をした時。
「いっ命だけは勘弁してくだせぇ!」
「「「「・・・」」」」
俺達の前に現れたのは、テレビが頭にある謎のケモノガミだった。