朝靄が立ち込める中で目を覚ました。身体の節々が痛むのは地面に直接寝たせいだろう。周囲を見回すと焚き火の跡がまだ燻っていた。そこでハッとした。昨夜の出来事がフラッシュバックする。
ティアーユは少し離れた場所で膝を抱えて座っていた。彼女の服装は昨日とほぼ同じだったがネクタイはゆるみ髪も乱れている。何より顔全体が林檎のように真っ赤だった。
「あの……」
声をかけると彼女はビクッと肩を震わせた。慌てて立ち上がろうとしてバランスを崩す。俺が咄嗟に支えると温かい体温が伝わってきた。
「すみません……私ったら何てことを……」
消え入りそうな声で謝罪する彼女の頬には涙の跡が残っていた。普段の堂々とした教授ぶりとは別人のような萎縮した姿に胸が痛む。
「いえ……むしろ俺の方が……」
言葉に詰まる。昨夜の痴態を思い出した瞬間下半身に熱が集まるのを感じた。幸いティアーユは地面を見つめたまま気づいていないようだ。
「あの時私は冷静ではなかったのです」
彼女が震える声で続ける。その指先はぎゅっとスカートの裾を握りしめていた。
「知的好奇心という名目で貴方を利用しようと……本当に浅ましい行いでした」
深々と頭を下げる動作すら申し訳なさでいっぱいになっている。額に浮かんだ汗粒が朝日に光るのを見てどう声をかけていいかわからなくなった。
「先生のせいじゃありませんよ」
本心からの言葉だったがティアーユはさらに深く項垂れた。彼女の長い睫毛が濡れていることに気づき言葉を飲み込む。
「けれど研究者として最低の行為です……理性を失い原始的な欲求に身を任せてしまった……」
嗚咽混じりの告白に何と返すべきかわからない。俺自身もあの時正気だったとは言い切れないのだ。
「それにしてもあの熱量は何だったのでしょう」
突然顔を上げた彼女の瞳には学者らしい輝きが戻っていた。しかしそれも一瞬のことですぐに自己嫌悪の色が浮かぶ。
「またやってしまった……今度こそきちんと心構えをしなければ」
自嘲気味に微笑む彼女の表情には複雑な感情が入り混じっていた。昨夜の行為で感じた高揚感と朝日の下での罪悪感がせめぎ合っているように見える。
「とりあえず……もう一度話し合いませんか」
提案するとティアーユはようやく小さく頷いた。その仕草があまりにも幼く見えて守ってあげたい衝動に駆られる。
彼女が咳払いをする音が朝の静寂を破った。
「ごめんなさい……こんなことになるなんて予想もしていなくて」
伏し目がちな視線には動揺が色濃く浮かんでいる。眼鏡の位置を直す仕草すらぎこちなかった。
幸い、氷室にはバレなかったのは、良かった。
「けれど、先程から感じていたんですか」
「なんでしょうか?」
「・・・これまでの事を考えると、そのやはりあなた達の近くにいるかもしれませんよ」
その言葉に、俺もまた理解して、ゆっくりと息を吸う。
「色欲の魔王が」