ケモノガミの村は山間の盆地にひっそりと佇んでいた。石造りの家々が苔に覆われた木々の間に点在し、中央の広場には古い石像が鎮座している。夕暮れ時であたりは薄暗いが、各家からは暖かな灯りが漏れていた。
「あの石像が気になるわ」
ティアーユが眼鏡をかけ直しながら呟く。
「何かの儀式に使われるのかしら」
「まずは、皆と合流しようか」
氷室が冷静に言い放ちながら、村に辿り着いた。
「みんな!」
俺が声をかけると、全員が一斉に振り向いた。その表情には安堵と疲労が入り混じっている。
「良かった!無事だったのね!」
八奈見が駆け寄ってきて抱きついた。彼女の体温が懐かしい。氷室は少し離れた場所で壁にもたれかかり、いつもの無表情で成り行きを見守っている。
「みんなこそ……どんな状況だった?」
俺が尋ねると、六花が前に出てきた。彼女の顔には深刻な影が落ちている。
「大変だったんだ。途中で遭遇したケモノガミが……なんかおかしかった」
彼女は言葉を選ぶように慎重に語り、情報交換を始めた。八奈見が最初に口を開く。
「私たちのルートは比較的安全だったわ。でも森の中に妙な痕跡がいくつもあって……」
「妙な痕跡?」
それと共に、彼女達が話した森の状況。
それは確かに奇妙な感じだった。
ケモノガミ達の痕跡は確かにあり、周囲には確かにその気配はあった。
けれど、六花達を襲う事はなく、ただ何かに怯えているように。
「えー……とにかく次の目的地について考えましょう」
「・・・だとしたら、未だに迫る怠惰を司るムジナを探すことになるわね」
彼女の言葉に皆が黙り込む。これから待ち受ける試練への不安が重い沈黙を作る。
「これからの探索において、明らかな敵対行動を行っている彼女を、このまま放置する訳にはいかない。放置をしておけば、被害者が必ず出て来るのだから」
「確かに。でも……本当に大丈夫かな」
「最善を尽くすしかないでしょうね」
ティアーユが冷静に結論づけた。
村の入り口で解散することになり、それぞれ明日に備えて休息を取ることとなった。
そんな俺達が、休んでいる時。
僅かに遠く離れている場所。
その場所において、ムジナがゆっくりと語りかけていた。
「・・・生け贄は、あと少し必要」
そうしながら、ムジナはその向こう側にいる何かに話しかける。
見つめた先には、巨大な山。
その山の巨大な穴から生暖かい空気が流れる。
「・・・復活まで、あと少し。ならば」
それと共に、ムジナが見つめた先。
「あと僅か」