メガログラウモンの巨体が森の中で孤立していた。木々の隙間を縫うように跳躍するタオモンはまさに幽鬼のごとく。青白い霊力弾が次々と命中するたび鋼鉄の装甲が悲鳴を上げる。
「耐えろメガログラウモン……!」
俺の指示に応え巨体が唸る。しかし関節から漏れる蒸気が白く曇り視界を遮る。タオモンの九つの尾が木立の中で蠢き偽影を作り出す。どれが本体か判別不能だ。
突如として状況が動いた。
メガログラウモンが低い姿勢をとり両腕を持ち上げる。鋼鉄の巨腕に装着された大型ブレードが陽光を反射して輝いた。
「ガアァッ!!」
咆哮と共に両腕が振り下ろされた。刃が地面を斬り裂き土煙を巻き上げる。そのまま回転するように全身を使った薙ぎ払い—鋼鉄の刃が木々を次々と切断していく!
「何をしているの!?」
ムジナの困惑の声が森に響く。俺も理解した。これはただの防御行動ではない。メガログラウモンは自らの領域を作り出そうとしている。
刃の軌跡に沿って森が禿げていく。幹が切断され枝が折れ散る。切断面から滲む樹液が硝煙のように漂う。視界を妨げる障害物が徐々に消滅し開けた空間ができていく。
「ここだぁッ!」
俺は叫んだ。ようやくメガログラウモンの狙いを把握したからだ。幻術と分身戦術の要となっていた森林環境を物理的に破壊することでタオモンの戦略基盤を奪う算段だ。
タオモンが木陰から飛び出し反撃に出た。九尾から放たれる霊力弾が雨あられと降り注ぐ。メガログラウモンは両腕のブレードを交差させて盾代わりにするが衝撃で後退する。装甲表面に刻まれた亀裂が一層深くなる。
「グオォ……!」
呻き声を上げながらも巨体は動くのを止めない。残存する木々を片っ端から切断していく。バキバキと乾いた音と共に森の生態系が蹂躙される。タオモンが飛び移れる足場が減少していく。
最後の一本が倒れたとき森の一角は完全な廃墟と化した。剥き出しの地面に立つのは傷だらけのメガログラウモンと混乱するタオモンのみ。周囲に身を隠せるものは何も無い。
「仕方ないわね……」
ムジナの声には諦観が混じっていた。「来なさいタオモン」
しかしタオモンは既に臨戦態勢に入っていた。九尾を前方に突き出し霊力を集中させる。空中に九つの光輪が現れ回転し始める。
「こちらも全力で行くぞ!」
俺はメガログラウモンの背に乗り操縦桿を握りしめた。胸部装甲が展開し二門の砲身が露出する。内部機構から金属が擦れる音が響く中エネルギーゲインが急速に上昇する。
「標的ロックオン!」
タオモンの周囲に発生した九つの光輪が高速回転しつつ迫ってくる。接触すれば確実に抹消される威力だろう。だがメガログラウモンも黙っていない。背部スラスターノズルが轟音を上げ推力を発生させる。
「アトミックブラスターレディ!」
砲身内部で粒子が加速される音が体内に響く。装甲の隙間から光が漏れ周囲の温度が急上昇する。メガログラウモンの巨体が熱を帯び金属が赤熱化する。
「発射!」
叫んだ瞬間両胸から眩い光線が放たれた。青白い光が大地を這い進む。照射範囲内の全てを分子分解する極限の破壊力—その先端がタオモンに接触した刹那。
「キィィッ!!」
甲高い悲鳴と共にタオモンの体表が融解を始める。霊力の光輪が崩壊し九尾が縮れていく。肉片とデータ粒子が混ざった物体が飛び散る様は戦慄的だった。
しかし完全な消滅には至らなかった。
光線の中心点から外れた部位がまだ原型を留めている。そこを中心に金色の光が渦巻き始める。
「まさか……」
予想外の事態に息を飲む。タオモンの残骸から新たな形態が形成されていく。小型化した狐のような姿—レナモンの姿へと退化していく過程だ。
「耐えたのか……」
アトミックブラスターの放射は止まらない。しかし退化したことで被爆量が減少したのか消滅までには至らない。それでもダメージは甚大だろう。四肢が痙攣し尾がもげかけている。
光線が収束した時そこには瀕死のレナモンが横たわっていた。腹部を膨らませ荒い呼吸をしている。もう戦闘能力は残っていないはずだ。
「やった……」
安堵と共に全身の力が抜ける。しかしこれで終わりではないことをすぐに悟った。倒れたレナモンを見下ろすムジナの表情は。
「・・・まだ、終わってないね」
それと共に、ムジナの背後に何かが見える。