地面が砕け散り木々が根こそぎ倒れていく。
新たな姿へと変わったメガログラウモンが放った拳がリヴァイアモンの鱗を砕く音が轟音となって森全体を揺るがす。
「メガログラウモンっいやっメギドラモン!」
俺の呼びかけに応えてメギドラモンが吠える。
その姿はもはや鋼鉄の竜兵ではなく深紅の魔獣と化していた。
腕が唸りを上げながら敵を引き裂く準備をしている。
「素晴らしい」
リヴァイアモンの目が初めて本気の光を帯びる。
「共鳴した魔王の数は、かなりいるようだな」
しかし今の俺に余裕はない。進化したメギドラモンのパワーをコントロールするのが精一杯だった。胸の内で暴れる憎悪と憐憫が交錯し冷静さを奪っていく。
「落ち着けメギドラモンっ冷静にっ」
自分の声すら遠く感じる。目の前の巨竜は今まで出会ったどの敵よりも圧倒的だった。かつて感じたことのない死の予感が背筋を這い上がる。
その瞬間メギドラモンが咆哮と共に飛び出した。爪が同時に襲いかかるがリヴァイアモンは呆気なく回避する。
地面に大きな穴が開き水柱が上がった。一瞬遅れて体当たりしてきたリヴァイアモンが突き刺さる。衝撃で吹き飛ばされながらも必死に体勢を立て直す。
泥濘に足を取られた刹那、腹部に灼熱が走る。リヴァイアモンの尾が鞭のようにしなり、装甲の隙間を正確に穿った。鮮血が噴き出す感覚と共に視界が赤く染まっていく。
「がっ……」
喉から漏れたのは嗚咽か悲鳴か自分でもわからない。内臓が焼けるような激痛が全身を貫く。だが肉体は意思とは裏腹に戦闘行動を続けようとする。メギドラモンの本能が勝ったのか。
反撃のため左腕を持ち上げた時だった。視界の隅で巨大な牙列が迫る。喰われる――理解するより速く防御姿勢を取ろうとしたが遅すぎた。右半身が強烈な力で圧搾され骨が砕ける音が体内で反響する。肉が裂け皮膚が剥がれ落ちる感触と共に脳髄へ突き刺さる痛み。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」
絶叫が喉を裂く。肺が潰れ酸素を取り込めないまま失血死寸前の感覚に襲われる。だが死への恐怖よりも強いものが胸を占めていた。憎悪だ。なぜこんな目に遭わなければならないのかという理不尽への怒り。その感情が燃料となりメギドラモンの闘争本能を滾らせる。
爪が月光を映して閃いた。苦し紛れの一撃がリヴァイアモンの腹膜を引き裂く。腐敗臭に似た体液が雨のように降り注ぐ中で互いの咆哮が交錯する。どちらも満身創痍でありながら決して倒れようとしない執念がぶつかり合う。
また一撃。今度は牙ではなく爪だ。鋭利な鉤爪が鎧のような鱗を突き破り肉に食い込む。粘つく感触と共に滴る血液の温度を感じる。相手も痛みを堪えているのか動きが鈍い。その隙を突いて両腕で抱え込み体重を乗せて押し倒す。
泥濘に倒れ込む二匹の大怪獣。互いの血肉が混ざり合い泥土と化していく光景は地獄絵図そのものだ。もう理性などどこにもない。ただ破壊衝動だけが支配する世界で俺たちは獣に戻っていた。
しかし優位は長く続かなかった。リヴァイアモンの巨体が捩れるように動き拘束を振りほどくと同時に胴体へ強烈な頭突きを食らわせる。衝撃で意識が飛びそうになる中でも必死に意識を繋ぎ止めようとするが視界が明滅し平衡感覚が崩壊していく。
そして決定的な一撃が来た。
顎門が大きく開かれた瞬間――そこに広がる深淵のような口腔を目にしてようやく理解した。食われるのではない。消化されるのだ。胃液すら超えた溶解作用を持つ液体に包まれたならば如何なる存在も形を保てまい。
それが恐ろしくてたまらないはずなのに身体は動かない。恐怖すら麻痺するほどの疲弊と絶望が神経を凍らせていた。ただ終わりを待つばかりとなったその時――。
刹那、視界が白熱した。
メギドラモンの口腔から迸る紅蓮の業火
「メギドフレイム」
全てを灰燼に帰すの炎だ。対してリヴァイアモンの開いた口蓋から放たれるのは深淵そのもの。黒き螺旋を描く死の息吹
「アニマ」
二つの超絶技が激突した瞬間、世界が割れた。
閃光。鼓膜が破れるほどの轟音と共に視界がホワイトアウトする。次いで襲ってきたのは物理法則を超越した爆風だった。地面が波打ち木々が根こそぎ吹き飛ぶ。空気が焼け焦げて金属のような味が口内に広がる。
そして訪れる静寂。
煙塵が晴れていく中でまず認識できたのは巨大なクレーターだった。直径数百メートルに及ぶ窪地の中心で二体の巨竜が向き合っている。どちらも全身に深刻な損傷を負っているが
勝者は明らかだった。
リヴァイアモンの胸部に巨大な穿孔が空いていた。装甲板のような鱗が融解し内部構造が露出している。そこから溢れ出る体液は紫色に変色しており生命活動の停止を示していた。
一方のメギドラモンも無傷ではない。右半身が炭化し左腕は肘から先が消失している。だが依然として屹立する姿勢からは生命力の漲りが伺えた。
「これほどとはな」