瞼の裏に光が差し込んだ気がした。
意識が浮上するにつれ頭痛が波のように押し寄せる。全身の筋肉が硬直したまま動かない。喉が干からびて声も出せない。
「……ぅ……」
かすれた呻きが唇から漏れた。ゆっくりと目を開けると最初に認識できたのは灰色の天井だった。湿った空気が肌にまとわりつき鼻腔を刺激する土の匂い。耳元でぽたりぽたりと水滴が落ちる音が反響している。
ここはどこだ?記憶が断片的に蘇る。リヴァイアモンとの戦い……メギドラモンが放ったメギドフレイム……そして巨大な爆発……そこから先が思い出せない。
「気づいた?」
突然かけられた声にビクリと全身が震えた。ゆっくりと視線を動かすと洞窟の入口付近に人影が立っていた。紫色の衣装を纏った華奢な女性――ムジナだ。彼女は壁にもたれたまま虚ろな瞳でこちらを見つめている。
「お……まえ……」
声を絞り出そうとするがうまくいかない。喉が焼け付くように痛む。ムジナは微動だにせずただそこに立っているだけだ。その表情からは何の感情も読み取れない。
「気絶してたみたいだね」
抑揚のない声で彼女が言った。まるで他人事のように。
「あの後……何が……」
「さぁ、私も吹き飛ばされたからね」
淡々とした口調で答えながらもムジナの視線は宙を彷徨っている。
「気がついたら君と一緒にここにいたの。変だよね」
そこで初めて彼女の表情に僅かな疑問符が浮かんだように見えた。しかし次の瞬間には元の無表情に戻ってしまう。
「それよりさ」
唐突に話題を変えるように彼女が切り出した。
「なんで私を助けたの?」
そうムジナが俺に問いかけたのは。
「なんでって言われてもな」
ムジナに対しての答えに俺は悩んだ。
彼女を助けようとしたのは、身体が勝手に動いた。
そう答えるしかなかった。俺は戸惑いながらも言葉を探す。喉の奥が焼けるようで言葉がうまく出てこない。
「……気がついたら体が動いてた」
ようやく絞り出した声は掠れていた。
「なんでそんなことになったんだろうな」
自分でもよく分からない。リヴァイアモンと戦っていた時は確かに生き残るために戦っていたはずなのに、あの瞬間なぜか彼女を守ることを選んでしまった。それこそが最大の謎だった。
「ふぅん」
ムジナは軽く首を傾げるだけだった。相変わらず何を考えているのか読めない表情だ。
「変なの」
一言だけ呟くと再び沈黙に戻る。その態度からは感謝も不審も感じられない。ただ事実として受け止めているだけのように思えた。
「それでどうするつもりなんだ?」
俺は咳き込みながら尋ねた。喉の痛みがぶり返してくる。
「ここから脱出するにはどうすれば――」
問いかけを終える前に洞窟の入口から風が吹き込んできた。冷たい風が頬を撫でる感覚に全身が粟立つ。
「ねぇ」
すると、ムジナはゆっくりとこちらを見る。
「・・・出る前に、ちょっと良い」